僕らの町は危険地帯!


「ついに完成したわ」
薄暗い部屋で女は怪しい笑みを浮かべた。
どう妖しい笑みかというと…某特務機関の女マッドサイエンティストと同じ物だと言えば、ご理解いただけると思う。
女は拳を硬く握り締めるとプルプルと振るわせた。
「苦節、十四年、いろいろ苦労があったわ」
彼女は涙を白衣の袖でふき取るとその紫色の装甲を優しく撫でた。
「とっても美しい…、私の…フフフ」
とにかく何かいけない事をしようとしている事だけはたしからしい。
女は何か生き物でも触る手つきでそれを撫でると顔面の筋肉を崩して笑った。
残念ながらここには誰も目撃者などいなかったが…
見ている人がいたらこう言うだろう。
キ○ガイだと。
「可愛い、可愛いわ、ウフウフ…」
コツ…ン
白衣のポケットからボールペンが落ちた。
地面を転がり女の靴に当たる。
ボキッ
彼女に踏まれボールペンが砕けた。
直液式のボールペンなので液が漏れ床が黒く染まる。
「あは…あははははは」
女はそんな事には気にもとめなかった。
彼女の哄笑が少しずつ増していく。
そして…
「あーはははははははは!これこそ科学による人類の粛清よ!これでこれで私の長年の夢が実現するわ!」
そう笑うと彼女は白衣を脱ぎすてた。
彼女は腕につけていたブランド物の腕時計を見る。
そしてにんまりと笑った。
「現時刻、七時、今を持って発動した事を意味する…フフ、待っていなさい、シンジ!」
AM7:00、その時から第三東京市にかってない一日が始まろうとしていた。

「ZZ…」
少年は寝ていた。
ただひたすら夢を見ていた。
そして待っていた。
いつも元気に起こしに来てくれる少女…
そうもうすぐ可愛い幼馴染が起こしにきてくれるのだ。
幼馴染が起こしに来るという時点で平凡な日常から離れている様な気がするが…
とにかく少年にはそれが日常だった。
「むにゃむにゃ、アスカ…」
少年は夢の中で少女の名を呼んだ。

「ねえ、シンジ〜」
アスカはいたずらっぽい笑みを浮かべながら上目遣いで男の子を見ました。
とっても金髪のとっても可愛い女の子です。
並の精神の男ならコロリンです。
「なに?」
男の子の心もコロリンです。
あたり一面はお花畑でした。
デイジーやらパンジーやら訳のわからない草やら…まあ、とにかくたくさんのお花が咲いています。
その女の子はそんな花の中でも一番綺麗な花でした。
「ねえ、シンジ、シンジはあたしのこと好き?」
「え…?な…な…」
男の子は石のようにカチンコチンになりました。
「どうなの?」
「そ…それは」
「グスッ…嫌いなの?」
「そんな事ないよ!!」
「ほんと?」
「当たり前さ!世界で、いや宇宙で一番、アスカを愛してるよ!」
男の子はいつもでは考えられないくらい強い口用で言いました。
「ホント?ずっとずっとあたしを大切にしてくれる?」
女の子は心配そうな顔で尋ねます。
「ああ!一生大切にするよ!」
この子にしては珍しい男らしい口調で男の子は頷きました。
女の子の顔がお日様の様に微笑みます
「うれしいよォ!」
女の子はそう叫ぶとまるで子犬のように男の子の胸へと駆け出します。
男の子は腕を広げて女の子を迎えます。
「大好き!シンジ!」
「あ…アスカ?」
少年は目を丸くしました。
腕の中の女の子は一糸まとわぬ裸になっていました。
さっきまで着ていたワンピースはどこかに消えています。
「アスカ、服どうしたの?」
女の子は頬を赤らめます。
「無理やり脱がしたくせにィ(ポッ)」
「は?」
もちろん脱がした覚えは少年にはありませんでした。
だけど…
押しつけられる柔らかいアスカの胸の感触に
そんな細かい事なんてもうどうでもいいかな思えてきたのです。
「とにかく脱がせたからには男として責任とらなきゃ駄目よ!馬鹿シンジ」
「は…はい、わかってるさ!」
男の子は肩をすくめると愛しい人の頬にほお擦りをしました。
じょりじょり…
なんだこの感触…
大根卸しみたいな…
ざらざらとした感触は…
知らなかったけどアスカってサメ肌なのかな?
何か得体の知れない違和感を胸に男の子は女の子の顔を覗き込みました。
腕の中の人物を見て少年は固ってしまいました。
さっきの硬直など比べ物にならない。
コンクリートでガチガチに固めたような硬さだった。
「な…なんで、なんで…」
目の前の人物はもはや少女ではありませんでした。
黒い髭。
赤いサングラス。
一糸まとわぬ保証付きの男の肉体。
「さあ、責任とれ」
親父は頬を赤らめました。
「うわああああああ!!父さあああああああん!!」
男の子は親父を突き飛ばすとたまらずそこから逃げ出しました。


「はっ!?」
ベッドの中で少年は目を覚ました。
パジャマは汗でぐっしょりだ。
はあはあと息を切らせながら肩を上下させた。
「はあ、はあ、怖い夢を見たよ」
「ほう、どんな」
「はあはあ、お花畑で裸の髭親父が僕を襲ったんだ」
「うむ、恐ろしい夢だったな」
隣で横になっていた赤いサングラスの男は三回ほど頷いた。
「うん、生きた心地が…ってなんで父さんが僕のベッドにいるんだよ!」
少年、シンジは隣で何故か寝そべっている髭親父から慌てて身を話した。
親父は何事もなかったように立ちあがると大きく伸びをする。
顔はてかてかと輝いていた。
「うーん、いい朝だ」
「ごまかすな!なんで僕のベッドの中にいるんだよ」
「それは…(ぽっ)」
父、ゲンドウは頬を赤らめた。
彼は花も恥らう親父四十八歳なのだ。
「なぜ頬を赤らめる」
ゲンドウはやれやれと首を振った。
「だって、一人で寝るのは寂しいだろう?」
「はっ?」
「それにたまには息子との体のふれあいをとるのも大切だからな」
「気色悪い言い方をするなー!」
「ふふ親子だ、問題ない」
はあ
もうついていけない。
少年は溜息をついた。
十四歳は悩み多きお年頃なのだ。
「じゃあさ、昨日母さんは帰ってこなかったの」
「ああ、寂しさに耐えられず私は何度枕を涙で濡らしたことか」
グスン…
親父は鼻を鳴らした。
はっきり言ってあまり可愛くなかった。
「じゃあ、母さんは何処に?」
シンジは心配そうに言った。
これまで母がシンジ達に黙って姿を消すなんてことはなかったのだ。
今更、この親父に愛想尽かしてどこかに消えるとは思えないしなあ…
う〜ん、男?母さん美人だしなァ。
誘拐?家は金ないぞ。
じゃあ一体?
その時扉が開かれた。
「オハヨー、シンちゃん」
入ってきた人物こそいま話題に出ていた人物、碇ユイである。
「母さん、どこにいってたの」
「ふふ、ちょっとね」
「ユイ〜」
「あら、あなた、今日はシンジと寝てたの?嫉妬しちゃうわ」
クスクスと笑うとシンジの方に向き直った。
「シンジ」
ゾク…
シンジの背筋がゾクっと来た。
母の目が既にイッちゃってたからだ。
いつもの母さんじゃない。
シンジは直感的にそう感じた。
「ちょっと、話しがあるの、着替えたらこっちに来てくれる?」
母は妖しい笑みを口元に浮かべた。
シンジは直感的に感じた。
断れば死…あるのみだ。

シンジは周りを見まわした。
そこは日の光さえ届かぬところ。
ここは地下1000メートルのところにある碇家の秘密地下研究所。
蛍光灯の光に照らされながら一体の
紫色の巨人がそこにたたずんでいた。
巨人の直径は約40メートルくらい、額から角が伸び光が宿っていないその瞳は少年を見つめていた。
「こ…これは一体?」
「エヴァンゲリオン、人造人間よ」
「そうじゃなくて!」
シンジは叫んだ。
「なんでこんなものが家の地下室にあるんだよ!」
「ふふ、あなたが生まれた頃から密かに制作していたものなのよ」
「なんのために?」
「私が答えよう」
親父だ。
何故か納豆をこねていた。
「私は、アム○さんに憧れていた」
「は?」
「若い頃、私もガン○ムパイロットなりたかった、もちろんニュー○イプになるための修行もした、しかし!!」
ゲンドウはクワッと目を見開いた。
「肝心のモビ○スーツがなかった、しかし今のお前にはEVAがある、お前は幸せだ」
納豆をこねながら熱く語るゲンドウにシンジは冷めた様子で耳をかいた。
「つまり僕にこの物体に乗れって言ってるの?」
「その通りだ、さあ乗れ、やれ乗れ、早く乗れ」
「乗れま千円、何が人造人間だ馬鹿馬鹿しい」
大きな欠伸をするとエレベーターの方に向かって歩いた。
「ふぁ〜あ、全く無駄なもの作って、さてと鬼武者通でもしようかな」
「待ちなさい!!」
振りかえればユイが鬼のような形相で仁王立ちしていた。
「あなた…EVAに乗らないつもり」
「いや…だって、さあ」
「お父さんとお母さんはね、あんたにパイロットになって欲しくて日夜研究に励みEVAを完成させたのよ?それを乗らないだなんて…そんな子を産んだつもりはないわ」
そう言うとと突然母がが泣き出した。
そして泣きじゃくるユイをゲンドウが抱きかかえた。
「あの子は鬼よ…」
「仕方ない、これも神が我々にくだした罰なのだ、耐えろユイ、息子が鬼畜三昧でも我々のせいではない」
「全くあのへたれは誰に似たのかしら」
「うむ、死んだ爺さんかもしれんな」
「おい!?」
シンジは叫んだ。
「なんかむちゃくちゃってないか?」
「あら?聞こえてた?」
「聞こえる様に話してた癖に、大体さあ、こんなロボット乗ってても戦う敵がいなきゃ意味ないじゃないか」
ガガーーーーン!
二人の頭の上に金だらいが追ってきた。
「盲点だったわ」
「確かにガンダ○にはシャ○様がいなければお話しにならん、そんなガンダ○、まがいもんだ」
「やっぱり敵のメカも作るべきね」
「ああ、週に一回この町を襲う敵メカを作らねばな」
「こらこら、世界を敵にまわす気か!」
ちゃくちゃくと世にも恐ろしい計画を企てている両親をシンジは慌てて止めた。
「とにかくもうこんなこと止めてくれよ、世の中平和なんだしさあ」
「つまんな〜い」
年甲斐もなく夫婦は頬を膨らませた。
ゲンドウはまるでマンボウの様だった。
会社では鬼上司とウワサされているが
家ではこの通りの立派なブキミ君である。
「気を取り直してテレビでも見よっと」
シンジはそばにあったテレビのチャンネルをつけた。

テレビをつけた瞬間、テレビの画面には見知らぬ老人の顔が映っていた。
年齢は六十何だろうか?
軍服を着た白髪のご老人が頬杖をしながらこっちを睨んでいた。
『こんにちは、第三東京市の愚かな諸君、私の名前はドクター・フユヅキ』
「なんだよ、このじいさんは、今日は特別番組か?」
シンジはかめんらいだーを見るためにチャンネルを変えようとリモコンを動かした。
しかしテレビの画面は
このジジイを映しつづけている。
「全チャンネルこれよ」
と渋い顔で言うユイ
「電波ジャックか」
これまた怖い顔(いつもと同じ顔)で頷くゲンドウ。
いつもと同じとぼけた顔で少年は一人一人首をかしげた。
「この人誰?」
『単刀直入に言おう、これから第三東京市の侵略する』
「何言ってるんだ?このじさま」
「頭ボケてんじゃないの?」
「まあ待て、相手の話をよく聞こう」
いち早く碇家はフユヅキとかゆう老体をボケ老人と判断した。
だがテレビの中のフユヅキはそんなことを気にかけもせずに続けた。
『ふふ、くれぐれも抵抗など考えるな、私に抵抗した場合、もしくは二十四時間以内に第三東京市を明け渡さなかった場合、おっと、カメラアングル上げてくりー』
カメラアングルがあがり黒い巨人が姿をあらわした。
「あれはEVA?」
ユイは驚きをかみ締めながら口元に手をやった。
『やれ!ケンスケ=アイーダ』
フユヅキは指をぱちんと鳴らす。
別個のカメラのおかげでコクピット内のパイロットの顔が映った
プラグスーツに身を包んだやらしそうな眼鏡をかけた少年である。
シンジにはこの少年の顔に見覚えがあった。
この顔は学校であう時以外、出来る限り思い出したくはないし、こんなのと親友とは言いたくなかった。
しかし少年はその名を叫ばずにはいられなかったのである。
「ケンスケ!!」
ドゴオオオオン
巨人の一蹴りで倉庫が百キロ先へと蹴り飛ばされた。
『ククク、このケンスケ=アイーダという男は大変な忠義者でね、立ちション、万引き、裸踊り…、ふふ
私の言う事ならなんだって聞くんだ、無論、この街を火の海にしてしまう事さえ、EVA参号機とこの男なら容易いということだ、ではいい返事を待っているよ、諸君、フハハハハハハハ』

プツン…
ユイがスイッチを切った。
ユイの肩が静かにゆれている。
「か…母さん、泣いてるの?」
「笑ってるのよ、あーははははははははは」
母はいきなり笑い出した。
シンジそしてゲンドウは危険を感じて母から半径二百メートルほど離れた。
「世話無いわ、向こうから敵がノコノコおいでなすったんだから」
「えっ、もしかして母さん?」」
「そ(はあと)、あのクソ(黒)のEVAと眼鏡変態とボケジイ、三匹まとめて駆逐しなさい!、
この<親子の証>EVA初号機を使って地獄の底まで強制送還するのよ」
「え〜」
シンジはイヤそうに叫んだ。
「やだよ、戦いなんて、死んだら終わりなんだよ?」
「大丈夫」
母が胸を叩いた。
「骨はちゃんと拾ってあげるから」
「何が大丈夫なんだよ一体!?とにかく僕は乗らないからな!」
「逃げるなシーンジ!」
涙を流しながら親父が飛びかかってきた。
シンジはあっさりそれをかわすとユイに向かってこう言った。
「逃げるが勝ちさ、ど〜せ、あんなボケジイが何しようが僕にはカンケー無いもん」
「んまあっ!そ〜ゆ〜こという訳?」
「父さんが許さんぞ!EVAこそがこの町の、いや人類の最後の望みなのだ!」
熱く語るゲンドウシンジは頭痛を覚えた。
なんで僕がやらにゃあかんの?
「だったら父さんが乗ればいいだろ?原作から思ってたんだけどさ、ホントはEVAって誰でも乗れんだろ?」
シ〜ン…
馬鹿達の沈黙。
「そうなのか?ユイ」
「駄目に決まってんでしょ、よく聞いてシンジ、EVAはね、ピュアな心を持つ少年少女しか乗れないのよ」
「ケンスケが乗ってるじゃないか」
馬鹿達の沈黙2
「ケンスケは、クラスの女子生徒全員にストーキングをかけてるんだ、その他にも女の子のショーツを盗むし、隠し撮りするし、それをネタにして脅すし、こないだなんて体育倉庫で霧島さんを襲おうとしてたんだよ、アスカが助けてあげたから未遂で済んだけど…もしあの時アスカが通りかからなかったら…汚されてたよ、桐嶋さん」
「純粋な子よ!」
ユイは声を上げた。
声は自信に満ち溢れていた。
顔は引きつっていたが。
「だって異性を求める事は全然おかしい事じゃないのよ?あなたは子孫繁栄するのが汚らわしいって言うの?きっとその…霧島さんだっけ、ただ純粋にその子に赤ちゃん産んで欲しかったんだと思うわ…ダメ?」
「……母さん、そう言う事を言ったら全ての性犯罪が合法的になっちゃうよ」
「ハイ…」
ユイはうつむくとそのまま奥に引っ込んだ。
シンジはフッと笑うと大きく伸びをした。
「うう〜ん!今日は一日のんびりしてたいなあ、それとも、せっかくの日曜だしアスカを誘って映画館でもいこうかな、アスカが好きそうな映画もやってるしね」
シンジは急に赤くなった。
今日の夢を思い出したのである。
驚いたなあ、アスカが裸で抱きついて来るんだもん、
なんでこんな夢見たんだろう?
多分、夏場になってアスカの服の露出が多くなって来たのが原因だろうな。
あんな水着みたいなワンピース着ちゃって…
胸の谷間が眩しいよォ〜、うれしいけど他の男が見てるから止めてほしいんだけどなあ。
でも、僕とデートの時に限って着飾ってたり露出が多かったりするんだよなあ。
もしかして誘ってるのかな。
そ〜ゆ〜玉じゃないか、ハハ…
ど〜せ
『このスケベ、変態、馬鹿、マヌケ、強姦魔!あんたなんかがあたしとつりあうとおもってんの!?』
とか言われて蹴り入れられるんだろうな。
だってアスカ素敵過ぎるもん。
僕なんかじゃ釣り合うはずないしな…
悪い考えは悪い考えを生む。
マイナスな思考のみがシンジの頭にまとわりついた。
僕なんか……、何も無いよ。

「大変よ!」
さっきまで沈んでいたユイが叫んだ。
「やばいわ、激やばよ」
ユイは頭をかきむしった。
「何が?」
「見てみなさいよ!アレを」
黒い巨人と薙刀を持った赤い巨人が戦っていた。
赤い巨人がなんなのかは知らない。
だが一つ確実に言える事がこの二体は敵対しているということだけだった。
「何あの赤いの」
「このアホち〜ん!」
「がは!!」
シンジは顔面に横綱も真っ青な張り手を食らった。
「あんたがグズグズしてるからキョウコに先を越されたじゃないのよ」
「えっ、じゃああの赤いのは」
シンジはごくりと固唾を飲んだ。
「ええ、中に入ってるのは恐らくアスカちゃんよ」
「なんで!?」
シンジは思わず腰を抜かした。
何故ならあの赤い可愛げもない、無駄に目だけが四つもある機体に幼馴染のアスカが乗っているのだ。
「ふふ、あの惣流のモーロクババアが、いつもいつも天才科学者の私に身のほど知らずにも突っかかってきゃがって」
そうだった、ユイとキョウコは大学時代からの宿命のライバルにして、隣同士に住むほどの仲良しさんだった。
「このダボが!奴に先を越された!!」
ズガシャ!!
コンクリートで出来ているはずの壁がユイの拳によって大きくめり込んだ。
普段は仲の良い碇家と惣流家だが、ユイとキョウコという二大党首が、なにか凄く細かな事で対立する時にはその関係が大きく揺れる。
そしてその時見せる興奮したユイの顔はまるで…
「シンジイ!!」
EVA初号機……みたい
「行くの、行かないの?」
「えっ…えーとお」
バキボキ…!!
ユイは指を鳴らした。
シンジは知っていた。
この跡の答え方次第で彼女は鬼になることを。
「行くのよね〜、シ〜ンちゃ〜ん」
「アスカを助けに行ってきます」
鬼武者になったユイを夢でも見たくないシンジは素直に彼女に従った。

「そこまでよ!相田」
突如、徒歩でやってきた赤い弐号機はビシッとポーズを取った。
「ちが〜う!」
参号機は地団を踏んだ。
もちろん下にあった青いルノーが煎餅の様に踏み潰された。
足元ではその持ち主だったらしき長い髪の女性が、拳を握り締めて参号機に殴りかかろうとしているところをたれ目のおっさんに止められていた。
参号機は力いっぱいに叫んだ。
「俺は相田ではない、ケンスケ=アイーダだ」
「一緒じゃないの」
「違う、アイーダだ、アイーダ、ふん、そんなこともわからんとは、まあ、これが小娘とこの最強最後の眼鏡戦士ケンスケ=アイーダとの差か」
「はあ?あたしよりおつむ悪いくせに言ってくれるじゃないのよ」
「私を昨日までの私と思うな、私は生まれ変わったのだよ」
二人のにらみ合いが続く。
チャキン
弐号機がソニック・グレイブの刃を黒い機体に突き付けた。
「あんた、こないだマナを襲った一件で悪党だとは思ってたけどね、今度はモーロクジジイの手先に成り下がったわけ、いいわよ、女の敵はあたしの敵、あんたはここでこのアスカが粛清してあげるわ」
「オケケケケ、ただし負けたら、俺の女になれよ、本妻(予定)であるマナ共々可愛がってやるぜ、俺のやり方でな」
「…上等よ」
「OK、早くギブアップしろよ、小生は淑女を傷物にしたくないでありますから、オケ、オケケェ!(笑い声)
「だまれ!!」
アスカの薙刀が弧を絵描いた。
「えっ?」
だが、紙一重で参号機は薙刀をかわす。
あの運動オンチの相田がアスカの渾身の一撃をかわしたのだ。
いくらEVAが強力でもパイロットと神経を繋いでいるわけだから運動神経だけはどうにもならない
ハズなのだが…
「何をしたのでありますか?ミス惣流」
「こ…コンノオオオオオオ!!」
銀色の光が再び一閃する。
だがことごとく黒い機体に見きられ、
かわされ、叩き落とされていく。
「だああああああああ!」
「無駄さ、君に勝てるわけがない、私は未来王フユヅキ様に選ばれた最強の戦士なのだから!」

「フフ、アイーダのやつめ、見事に洗脳されておるわ」
羊羹をよう噛んで食べているお爺さんは、二人の闘い
を見ながら満足げに頷いた。
「今の相田は自分がモビルスーツのパイロットだと思っている、人とは恐ろしいものだな、思い込み次第でどれだけでも強くなれる、それはEVAという精神がモノをいう兵器ならなおさらのこと」
三日前、レンタルビデオ屋でさらってきた相田を監禁し、38時間においてガンダ○シリーズの全作ビデオを見せ続けたのだ。
その結果
「は〜ははは!国民よ奮い立て!」
「舐めんじゃないわよ!!」
「足ならボクに舐めさせてよ!」
「地面を舐めろ!コノ変態!」

前にもまして凄くイカレた奴になってしまったのである。
「単純な奴でよかった」
ジジイはコンビニで買ってきたお茶をすすった。

ガキ〜ン
ソニック・グレイブが弾き飛んだ。
「あっ」
「フフ、勝負あったみたいだな」
アイ―ダは下卑た笑みを浮かべた
参号機が一歩、一歩、歩み寄っていく。
「さあ、惣流、いや、アスカ、約束どうり、君は僕のものだ」
ドゴッ!
弐号機のパンチが参号機に決まった。
「いやよ!なれなれしく呼ばないで!」
「この宇宙一イケメンな俺を、俺を拒むなんて…ははあ〜、他にオトコでもいるんだろ」
「な…いないわよ!!」
アスカは顔を赤くする。
「じゃあ、片思い中か…、まあいいや、
それだったらそれだったで、へへ」
「な…何をする気よ」
「…シてやるよ、好きな男の前で…」
「…このケダモノ!!」
アスカは涙をためながらキッとモニターの中でやらしく笑うアイーダを睨みつけた。
「そういうなよ…照れるじゃねえか」
そういうと懐から取り出した割り箸を折った。
おはしはお手元である。
「好きな男の前でこの割り箸を鼻に突っ込んでやるよ」
「えええええ!!」
さすがのアスカも悲鳴を上げた。
「へへ、見たいなアスカが鼻から割り箸を生やして
鼻血を出しながら好きな男に振られるところを」
相田ケンスケ
類いまれなる変態であった。
「さあ、アスカ(はあと)
鼻から割り箸突っ込んで俺を喜ばしてよ」
ゆっくりとゆっくりと歩み寄ってくる変態野郎
にアスカは心のそこから嫌悪感を覚えた。
「助けて!!シンジーー!!」

ズガン!!

銃声が走った。
「な…なんだと?」
参号機の肩から煙が上がる。
参号機はそいつを睨みつけた。
紫色の鬼神。
その言葉が似合うあいつが煙を上げるパレット・ガンを構えていた。
「迎えに来たよ、アスカ」
ちょっとビビリ声。
しかしその声の持ち主にアスカは心当たりが合った。
「シンジ!!こわか…いや、遅いじゃないの!
今からあたしがとどめをさすところだったのよ!」
「…まあ、無事でよかった」
「ハハハハハ!!」
アイーダは哄笑した。
「なんだ、何かと思えばヒョーロクダマのシンジ君じゃないか、何しに来たんだ?まさかお前を倒すなんて下らんジョークを言いに来たのではあるまいな?」
「フッ」
「あーっ、鼻で笑いやがった!!ムカツクー」
「立てるかい?アスカ」
初号機は腰を抜かしている弐号機に手を差し伸べた。
「うん」
初号機の手を強く握った。
シンジ…なんだかカッコイイ…かな?
アスカはいつもよりカッコよく見えるシンジに
少し胸をときめかしていた。
「そうか」
初号機はキッと変態大王の乗る参号機を睨みつけた。
「なんだ、シンジ、俺とやるってのかよ?」
「それでは失礼しました」
ペコリと頭を下げると弐号機と共に駆け出した。

「ちょっと、にげんの?」
「当然」
「戦わないの!?」
「怖いこというなよ、アスカが勝てないものを僕に勝てる訳ないだろ?」
はあ〜あ
アスカは溜息をついた。
「あんたを少しでもカッコイイと思ったあたしが馬鹿だったわ」
「ん、なんか言った」
「なんでもないわよ!」
「逃すかああ!!」
ガシッ!!
参号機の手が弐号機の足を掴んだ。
「腕が伸びてる」
シンジは何故かあるインド人を思い出した。
口から火を吹いたり、瞬間移動したりする奴である。
シンジはこないだゲーセンでそいつに十六回も惨敗してしまったという悲しい過去があった。
「アスカは俺のもんだあああああああ」
ケンスケは大声でほざいた。
「誰があんたの女なのよ!!」
ケンスケのそのセリフにアスカは虫唾が走った。
だがそれ以上にシンジは何故か大切なアスカを汚されたような気がした
シンジは頭に血管を浮かべながらパレット・ガンを構えた。
珍しくヤル気である。
「死ね!」
ガガガガがガガガガ!!
「ががががががががががっ!!」
臆病者のシンジがまさか攻撃してくるとは思わず参号機は弱ウラン弾を全身に浴び苦悶した。
「シンジ〜!トウジを含め
俺達は第壱中の黒い○連星じゃなかったのか!?」
「知るか!」
パレット・ガンの引き金を引く。
だが弾すべて参号機にたどり着く前にATフィールドが拡散した。
「ほう、なら仕方ない」
「何が仕方ないんだよ」
「…ケーブルは抜かしてもらった」
「えっ?」
シンジは後ろを見た。
なんと参号機の左手が電気のコードを抜いていた。
EVA、電気エネルギーで動くとってもエコな乗り物、
だからコンセントが抜けると…
「活動停止だ!」
シンジは叫んだ。
「母さん、内部電源はどうしたの?」
「いれ忘れちゃった、テヘ」
ユイの手には単三電池(六本)が握られていた。
初号機の動きが止まった。
「フン、電気の力で動きとは貧弱な、俺のこの参号機は驚異の眼鏡パワーで動いている、だから無限、だから清潔」
「あんたなんて汚れまくってるわよ」
「そんなにほめんなよォ〜アスカ〜」
「きゃあああああああ!!肩に手をかけないでよ」
「はあはあ、何恥ずかしがってるんだよ、見せつけてやろうぜ、碇のアホに」
「アホはあんたよ」
「俺はちょっと他の奴とは違うだけだ、アホじゃないさ」
「きゃあああああああ、背筋を指でなぞらないで〜」
アスカ様の絶叫が第三東京市に響いた。

「緊急自体よ!パイロットの生命反応に異常がきたしたわ」
赤木博士が険しいを見せた。
「シンクロ率を全て下げなさい」
「全て?ですか」
マヤは首をかしげる。
全て下げたら止まっちゃうじゃん。
「そうよ」
「何か策でも」
赤木博士は静かに尋ねた。
「策じゃないわ、応急処置よ」
「処置といいますと?」
「娘を…痴漢の手から守るためよ」
キョウコは静かに言った。

ケンスケはある異常に気づいた。
さっきまで叫びまくってたアスカがうんともすんとも
言わないのである。
「ん?どうした、やけに大人しいじゃないか?」
ケンスケはつまらなさそうに言った。
さっきからアスカが静かだ。
何も感じてないようで耳に息を吹きかけても喘ぎ声一つ上げなかった。
「どう言う事だ」
何をしても無反応な弐号機にケンスケは首をかしげた。

「クソォ!!アスカが!」
シンジは唇をかみ締めた。
大切な人が変態野郎に肩を抱かれたり、背中をなぞられたり、耳に息を吹きかけられたり、芋虫を背中につけられたりしているのに自分はただここで見ているだけなのだ。
「母さん、なんとかならないのか!」
返事は返ってこない。
電源が切れている以上通信機能も働かないのだ。
ガン!!
シンジはエントリープラグの壁を殴った。
シンジ程度の力ではびくともしない。
むしろシンジの手の方が痛んでしまった。
「イテテ…、突き指しちゃったっていたがってる場合じゃないや」
シンジはレバーを握った。
考えただけで動くEVAに何故こんなレバーがついているのかは少年にはわからなかったが少年は必死にレバーをガチャガチャさせた。
「動け!動けよ!今動かなかきゃアスカがケンスケにに!!」
EVAはピクリとも動こうとしない。
「役立たず!!アスカが鼻に割り箸突っ込まれて土壌踊りさせられたらおまえのせいだからな!」

昔、僕はいじめられっ子だった。
君が、君がいつも助けてくれたんだよね。
「コラ〜!あんた達、何やってんのよ!!」
「うわあ!」
「金髪女だ」
「逃げろ!」
前にアスカに痛い目にあった事のあるお子様達はちりじりに逃げ出した。
「ったく、男の癖に情けないの、あんたもよ、シンジ」
「うう…」
鼻血と涙を出しながらいじめられていた小さな男の子は頷いた
「あたちはね、いぢめるやつも嫌いだけどいぢめられっぱなしの奴も嫌いなの、あんたもすこちはてーこーしたらどーなの?」
女の子はこしに手を当てながらまだ泣いている男の子に諭す様に言った。
男の子はグジュグジュ鼻をすすった。
「でも、ボクはあしゅかちゃんみたいに強くない、ケンカしたら負けちゃうよ」
「別にあたちはあんたにケンカに勝てるなんて言ってないわ、あたちはいじめられっこは嫌いだっていってるの」
「ええ〜!?」
男の子は涙をためながら自分より少し背が高い女の子を見上げた。
女の子はプイッとそっぽを向いている。
男の子は鼻水混じりの声でこう呟いた。
「イヤだあ…」
「え?」
「あしゅかに嫌われるなんてイヤだあ〜、うわああああん」
「ちょっと、泣いちゃダメだってばあ」
突然大声で泣き出した男の子に女の子はおろおろした。
だが男の子は泣きつづけた。
「いぢめられないから、大きくなったらウルトラ○ンより強くなるから、あしゅかをずっと守ってあげるから…、ボクを嫌いになんないで…んん!?」
男の子の唇が女の子の唇で塞がれた。
男の子は唖然とし女の子の頬がピンク色に染まった。
「約束よ、これはあたちとシンジとの、だからいざって時はあたちを守ってね」
女の子は男の子の頬にキスをした。
「しないよ、嫌いになったりなんて」

「…そうだよ」
シンジは呟いた。
「僕は何があってもアスカを守らなきゃいけないんだよ…」
ガシッ!!
シンジは自分の頬を殴った。
「こんなところで…うずくまってちゃ駄目なんだ」
少年は瞳を見開いた。
レバーを持つ手に力がこもる。
「アスカ!!約束は守るからな!!」
その時、エントリープラグが光で包まれた。
眩しいくらいの光に少年は目を塞いだ。
「力が…欲しいの?」
どこかから声が聞こえてきた。
優しい優しい声である。
シンジは何故かその声に安心するものを感じた。
「はい、大切な人を守る力が欲しいんです」
「甘ったれてはだめ」
……
少年は沈黙した。
気を取り直して再度お願いする。
「守ってやるって約束したんです、でも、EVAが動かないんです」
「心を開かなければEVAは動かないわ」
「そ〜ゆ〜もんなんですか」
「さあ、言ってみただけだから」
ふあ〜あ
可愛らしい欠伸が聞こえた。
「眠いわ、眠いから早く寝たいの、用件は早く言って」
かなりやる気がなさそうだ。
「そんな!」
シンジは慌てた。
このままでは最後望みさえ失う事になってしまう。
シンジは叫んだ。
「世界で一番一番、大切な人を守りたいんです!
いつもいつも僕のそばにいてくれて僕を守ってくれた人…アスカを!!」
三十秒ほど沈黙が続いた。
シンジの顔は真っ赤になっていた。
見ず知らずの人(?)の前でアスカの前でも言っていないその言葉を言ったのだ。
その恥ずかしさにほとんど放心状態である。
「そう、ならば力を貸すわ」
エコーが入るその済んだ声がエントリープラグ内で響き渡り光の奔流がシンジの膝の上に収束していく。
「万能のリリスの力を」
彼女はシンジの膝の上で微笑んだ。

「ゲへへへへへへへへへへ!」
ケンスケは笑った。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
ケンスケはまだ笑う。
「オーーーーケケケケケケケケ!」
ケンスケの奇声が迷惑にも第三東京に中に響き渡る。
ケンスケの乗るEVA参号機が青いルノーをおもいっきりビルに叩きつけた。
彼の担任教師はその光景をテレビ中継で見ながら
血の涙を流していることだろう。
「もうすぐだ、もうすぐこの町はフユヅキ様の手におちる、そして俺は、ムフフ」
ケンスケの頭の中にはピンク色の妄想が広がった。
「マナをはじめとしてアスカやミサト先生やヒカリ、そしてその他の美女達は俺のもんだ!、おっと委員長は別にいらねえや、俺って面食いだからな(ニヤリ)」
「何が面食いよ、あんたなんか高望みするだけ無駄なんだから!大体なんでヒカリを外すのよ」
「あんまり別嬪じゃねーだろ、おれは美女しか相手にしないんだよ…だから」
ガシッ!!
参号機が弐号機の頭を抱えた。
「な…なにすんのよ!!」
「俺に選ばれたお前は光栄だぜ、多少…いやかなり気が強いのが傷だが美女の中の美女だよ、お前は」
「あんたなんかに誉められてもうれしくないわ、話しなさいよ!」
「…なら、シンジに誉められたいのか?」
「な…なにいってんのよ」
「ククク」
ケンスケは笑った。
「なるほどな、シンジが好きなのか、なるほど、あいつも果報物だなあ…ククク」
「ち…違う、違うわよ!!」
必死に否定するアスカ、だが動揺は隠せない。
ケンスケはそんなアスカを面白そうに笑った。
「…そうか、こんなに美しくて気位が高いお前が、
あの馬鹿で運動神経も悪い、ダサダサのあのモヤシ野郎をねえ」
シンジを馬鹿にされてアスカはカチンと来た。
「ちょっとシンジを馬鹿にしないでよ!」
全シンクロ率がカットになっているから動けないことにアスカは唇をかみ締めた。
こんな奴、動けたらすぐにぶっ飛ばしてやるのに!
「おっと、コワイ、コワイ、愛しのシンちゃんを馬鹿にされてアスカちゃん、カンカンだあ、クク、アスカ」
参号機は弐号機の頭を引き寄せた。
「最後のチャンスだ、シンジなんか忘れて俺の女になれよ」
「くっ!外道、あたしに何かしたらただじゃおかないわよ!」
アスカは本心とは裏腹に強がって見せた。
だがケンスケは動じない。
「そう言われるとモノにしたくなるんだよ、アスカ、俺のモノにな」
急激に力をもったものは己が力を過信し自己を見失いやすい。
今の彼は半分狂っていた。
いや、もともとからおかしかったから、完全に狂気に陥っていたのだ。
今まで散々、変態としてまわりの女性達から非難されてきた反動だろう。
彼の今の行動概念はいかにEVAを使って女をモノにできるか…
それだけだった。

スッ…
参号機、いやケンスケの顔が弐号機…アスカの顔に接近する。
何をするのか三才のお子様でも分かる。
自称天才少女のアスカにも当然それはわかった。
このままじゃ、このままじゃ…
相田と…
変態メガネと…
…きす、キス、KISS、いやあああああ!!
アスカは心のそこで絶叫した。
もう、参号機の顔はもうそこまで来ている。
「シンジ…ゴメン」
アスカは目をつぶった。
いかに本当のキスじゃなくても、いかに神経が繋がれてなくても、アスカはイヤだった。
シンジ以外に唇を許す事を。
ふと、8年前のファーストキスの光景が浮かんできた。
あの後、再びシンジと唇を交わすことはなかった。
シンジとだって未だになんの進展もしていない。
アスカの頬に何か冷たいものが伝った。
涙である。
「あたし、泣いてんだ、シンジのためになかないって決めたのに…」
涙をこらえようとしたが涙はどんどんあふれてきた。
「どうしよう、泣いてたらシンジに嫌われちゃうよ、未だにシンジとなんでもないのだってあたしが弱くて意地っ張りだから…あいつに嫌われてるせいなのに…」
ファーストキスはあたしが奪った。
すぐにセカンドキスもあいつが奪ってくれると思った。
あたしを好きだといってくれると思った。
でも実際は、あいつは好きだとは言ってくれないし
セカンドキスは…
よりにもよって相田…だし

…サイテー…

ズガシャン!!
弐号機の唇にあと30センチといったところで参号機の顔にパンチがめり込んだ。
「グフ!!」
ケンスケはそのまま吹っ飛んでビルに叩きつけられる。
こんな強烈なパンチを繰り出せる奴はそうはいない。
偉大なボクサー、アリでも無理である。
「あっ…」
アスカは呟いた。
紫色のボディに意味のなさそうな角。
EVA初号機の登場である。
「シンジか!?何故!」
ケンスケは目を疑った。
ケーブルがないのにEVAが動いているのだ。
「時としてヒーローは全ての法則を覆すのさ」
シンジはそうクールつぶやくとケンスケに指を突き付けた。
「ケンスケ=アイーダ、アスカを汚そうとしたお前を僕は絶対許さない!!」
「それはこっちのセリフだぜ」
ケンスケはボリボリと頭を掻いた。
顔は余裕の笑みが浮かんでる。
「お前らしくとっとと尻尾巻いてベッドの中へでも逃げてりゃいいのに、お前は愚かにもこの俺を怒らせて…グハッ!?」
参号機の肩に蹴りがもろに叩き込まれる。
ケンスケはシンジ相手だと油断をし蹴りをかわす事が出来なかった。
「き…貴様…俺を誰だと思って…」
バキッ!
腹に拳が叩き込まれ続けざまに足払いをかけられた。
これによって参号機はその巨体を地に倒した。
「お…俺は、泣く子も黙るメガネの彗星、ジオン軍最強の戦士…アイーダ…がっ!!」
シンクロ率が大きいほどダメージは大きくなる。
ケンスケはもろに股間にパレット・ガンを叩きつけられたもんだからその衝撃はもう、泣く子も黙った。
「終りだ…!」
チャキ…!
シンジはパレット・ガンの銃口をケンスケに向けた。
さっきからなにか強力な力で、ATフィールドが完全に中和されている。
ケンスケにはもう弱ウラン弾を防ぐ手段はなかった。
「し…シンジ」
ケンスケは血を吐くような声で手を上げた。
降伏である。
「お…俺が悪かった、俺は悪の組織に操られてたんだ、今までの事は謝る、許してくれよ、な、頼むよ、俺達親友だろ?」
「……もう、こんな事はしないって誓える?」
シンジは優しく諭す様に言った。
「ああ、誓えるよ」
ケンスケは肩を潜めながらそう言った。
そして、戦闘によってひび割れたメガネをかけ直すとシンジにぺこりと頭を下げた。
「じゃあアスカにも謝って」
「あのアスカ」
「なれなれしく呼ばないで」
「……惣流さん、すいませんでした」
「……シンジ、あとで三千発ぐらい殴っときなさい、あたしは一万発ぐらい殴るから」
「ひい〜」
ケンスケはそれを聞いただけで背筋にゾクゾクするものを感じた。
やっぱりこの女は俺の手におえそうにないぜ。
シンジの奴、可愛そうにな。
ケンスケは恐らく彼女と一生を共にする事になるだろうシンジに少し同情した。
「さてと、これでめでたしめでたしかな」
『まだよ、シンジ!!』
その時、突然、母から通信が入った。
モニターに映る母の後ろで何故か父がVサインをしていた。
「まだ闘いは終わってないわ」
「終わったじゃないか」
「相田君よ、彼はまだ洗脳されているわ、このままじゃ…彼はあなた達をきっと殺そうとするわ」
「そうなの?」
シンジはケンスケを睨んだ。
ケンスケはブンブン首を振る。
「めっそうもないッスよ」
『いえ、ウソよ、私にはわかる、悪役の大抵はそう言うのよ』
「じゃあ、どうすればいいんだよ!!」
『悲しいけど…相田君を人に戻してやる方法は一つしかない』
母は悲しそうに目頭を押さえた。
重苦しい空気が辺りを包む。
『ケンスケ=アイーダを倒しなさい』
「そんな!!」
『わかってシンジ!!それしか方法はないの』
「出来ない僕には出来ない」
シンジは今にも泣き出しそうな声でそう言った。
ケンスケは青い顔をしながら手を振る。
「あの〜、もしもし?」
「僕には出来ないよ!!友達を殺すくらいなら死んだほうがマシだ!!」
シンジは泣き叫んだ。
「いくらケンスケが変態でやらしくて女の敵でも僕にとっては大切な大切な友達なんだよ。」
「シンジ…」
ケンスケはめがねを取って涙をふいた。
俺が馬鹿だったよ、お前は最高の友達だ。
だがその感動もそこまでだった。
彼の最後はもう目前まで迫ってきていたのである。
『シンジ!!泣いてやるのがあなたの優しさなの!!』
母が叫んだ。
母の目にも涙がたまっていた。
「へ?」
『相田君を、相田君をとめてやる事も優しさなのよ!!』
シンジの中でなにかが変わった。
それは吹っ切れなのかもしれない。
だが、敵に操られている哀れな親友をこの手で救ってやろうというのが一番の理由だった。
「母さん!分かったよ!!」
シンジは引き金を引いた。
「ちょ…ちょっと待て…ガガガガガガガガガァ!!?」
銃が火を吹き、参号機の体に無数の自家製(?)弱ウラン弾が参号機のボディに叩き込まれた。
「さよなら、さよなら、ケンスケ、お前がくれた数々の思いで、僕の中で明日までは生きてるからな!!」
「し…シンジの」
チュイイ〜ン!!
参号機の体が発光した。
「お馬鹿やろおおおおおううう!!」
その叫び声と共に参号機は爆発、大破した。

二つのエントリープラグが碇家の裏庭に到着した。
「「ただいま」」
二人の声が見事にハモリエントリープラグから三人が降りてきた。
「ただいま、母さん」
「ああ!!」
ユイとゲンドウはシンジを素通りすると、同じエントリープラグから出てきた彼女の方に向かってかけていった。
彼女は青い髪とショートカットで赤い目をし、白いローブに身を包んでいた。
「見て!あなたこの子、私に似て可愛いわ」
ユイは7歳ぐらいの女の子を抱きしめながら言った。
少女の顔を見ながらゲンドウも頷く。
「うむ、可愛いな、お前のおさない頃によく似ている」
「ねえ、養女にしましょうよ」
「そうだな、名前は…ア○ロ=レイからとって、レイって言うのはどうだ」
「いいわね、あは、レイちゃん、今日からここがあなたのうちよ」
「…おうち、ここが私のおうちなの?」
EVAから生まれた奇跡の源はなんだか知らないうちに碇家に加わり、なんだか知らないうちに碇レイと名づけられた。

ピュ〜!
春なのに北風が吹いた。
シンジは両親に無視されてしまい涙が出てきた。
「とーさん、かーさん、僕は要らん子なの?」
ポン
軽く頭を叩かれる。
顔を向けなくても相手は誰か分かっている。
セクシーな赤いプラグスーツに身を包んだアスカだ。
「はあい、なにうじうじしてるのよ、そんなんじゃあキライになっちゃうぞ」
「何がキライだよ、僕は別にうじうじなんてしてないよ」
「ん、あんたもいうようになったじゃない、昔はあしゅかちゃん僕をキライにならないで〜とか言って、あたしのあとを腰ぎんちゃくのようについてきたくせに」
「な…!なんの事だよ!?」
シンジの顔が弐号機のように真っ赤になった。
アスカは追い討ちをかけるかのように続けた。
「覚えてないんだったら続けてやるわよ、あんたってね、子供の頃から、なっさけなくて、泣き虫で、みんなから苛められてたのよ」
「あ…あ」
「あんたってば、苛められるとすぐにね、あしゅか〜、苛められたよお〜とか、あたしに言ってきたのよ、あたしはドラ○もんじゃないつ〜の」
「いいじゃないか、そんな昔の話!!」
シンジは顔を真っ赤にしながら叫んだ。
情けなかった昔の話を好きな子に言われるなんて、やっぱり恥ずかしい。
ま…どちらも当事者同士だから隠したって意味ないけど…
「ふふ、やっぱり、あんたからかうと面白いわね♪」
イジワルっぽく笑うアスカ。
シンジは思った。
もしかしてずっとアスカに苛められてたんじゃないだろうか?
「アスカ〜」
「まっ、約束を果たしたんだし、今日はこの位で勘弁したげようかな?」
ドキン!
シンジの胸が高鳴った。
「や…約束?」
「そ…、覚えてない?」
「覚えてるけど」
シンジは胸を押さえた。
心臓が破裂しそうだ。
アスカが、あの時の事を覚えてくれたなんて。
今までだってアスカ、一言もその事に触れた事無いから忘れてると思ってた。
いや…僕の夢物語かと思ってたよ、実際。
「あのさあ」
アスカは視線を反らしながらシンジに尋ねた。
「あんたって、さ、あの時あたしの事一体どうおもってたの?」
「え?」
「あの時、あんたはただ単純にあたしの事をいじめっ子から守ってくれる、ガードマンってカンジで見てたじゃない」
「……」
そうかもしれない。
あの時アスカに嫌われたくなかったのは、単純に見方がいなくなってしまう事を恐れたからかもしれない。
彼女に恋愛感情を抱いた事のは、あのキスからの事だ。
「あたしさ、いつも気にしてた」
アスカの目は涙で潤んでいた。
「あたしが強くなきゃ、あんたを守らなきゃ、あんたが仲良くしてくれないんじゃないかって」
「……!!」
そうだったのか。
僕のために、いつも無理して。
それじゃあ、アスカに嫌われたくなかった、僕と同じじゃないか。
…ゴメン、でも僕はあの時から君の事が…
例え弱くても、僕はアスカの事が好きだから。
「アスカ」
「あんた、今のあたしの事どう思ってるの?なにも言ってくれないから、時々、不安だよ…!」
泣いている。
アスカが泣いている。
でも、泣いているアスカだってずっと素敵だよ。
「アスカ、ずっと、いわなきゃいけないと思ってたんだ、だから今、言うよ」
「シンジ…!!」
「僕はアスカの事が…」
「シンジ、そんなところでなにやってるんだ、お前もこっちに来てレイちゃんを祝いなさい」
邪魔モノの…
ゲンドウさんがのそりと現れた。
それがスイッチとなり…
シンジの思考回路が告白モードから逃避モードに切り替わった。
「アスカ、最近太ったね!(あせあせ)」
プチン…!
アスカの頭の中でなにかが弾けた。
「くォの…!馬鹿シンジいいいいいいい!!」
ズガ!!ドゴ!!ボコ!!ガキ!!ズゴ!!ベキ!!
(ばいおれんす・し〜ん)
「……」
ゲンドウさんは目を丸くした。
「あっ、おじ様、行きます、ほらシンちゃんもこっち来んのよ」
ニコニコとしながらズタボロの雑巾のようになったシンジを引きずるアスカ様。
まったくなんてことで誤魔化すのよ。
やっぱり、小細工は駄目ね、やっぱりシンジから正々堂々告白してくれなきゃ駄目ね。
アスカは手の中で目薬を転がした。
「うう…、あしゅか〜」
シンジは泣きながら地面を引きずられていった。
地面の味は汗の味だった。

「ふははははははは」
潰れたエントリープラグの中でケンスケは笑った。
彼はその類いまれなる生命力でなんとか命を取り留めたのだった。
「ははははははははは、碇シンジ、私を殺したと思っているようだが…甘いわ」
ケンスケはエントリープラグ内を抜け出すと体操をした。
「だが、私も傷をおった、ふっ、しばらくはまともに動けそうに無いな」
そう言いながらヒンズースクワットをしている。
むちゃくちゃ元気そうである。
このままでは再びケンスケ=アイーダの驚異がこの町を襲うのか!?
「あ!!変態野郎」
「その声はマナちゃん」
うれしそうに後ろを振り返るメガネ野郎。
そこには元気そうなショートカットの女の子が立っていた。
ミリタリー少女、霧島マナである。
「あんた、なんかまた馬鹿やらかしたらしいわね」
「馬鹿?フッ、な〜んのことですか、ミーはいつも完璧ざんす」
「しゃべんな、このブオトコ!」
ケンスケに石を投げつける少女。
ケンスケの額が割れる。
「きゃん!!」
ピュ〜!
血が吹きだした。
しかし、ケンスケはカタカタと笑っている。
「ヒッ!!ゾンビ」
「マナはいつも元気だなあ、どうだい、これからお茶でも…」
のそのそとまるでゾンビの様にマナに近づいていく。
マナはキッとケンスケを睨んだ。
コンマ0・5秒の速さで彼女はパンダさんの形をした鞄に手を伸ばす。
そして取り出した…彼女の獲物を。
「きゃー!きゃー!」
パンパン!!
叫びながらも追いかけてくるケンスケを空気銃で撃ちまくった。
「痛い、痛いでゴンス!!」
「食らえー、メガネ軍曹!!」
ゾンビを撃ちまくるミリタリー少女マナ。
共に一ミリタリー野郎を自称する、いつもの二人の光景である。
嗚呼…!今日も平和だな〜。



「シンジ」
「ん?」
「そう言えば言ってなかったわね」
「何を」
「お礼をあげるわ」
「別に気にしないでよ、それよりゴメン、さっきは…ん!」
赤い黄昏をバックに二人の影が重なった。
黄昏…
赤い色…
情熱の色…
弐号機の色…
ニンジンの色…
赤い二人の頬の色…
永遠と感じられた黄昏の時間の中、顔の赤い二人がお互いの顔を見比べた。
「なに赤くなってんのよ、あっ、勘違いしないでよね
、これはお礼なんだから」
「アスカだって赤くなってるじゃんか」
「これは、夕日のせいよ、夕日の!!」
「ウソだ〜!」
「いいのよ!ホントのキスは未来の旦那様にしてもらうんだから」
「ちょっと、アスカ〜!!」
「なによ、とにかくセカンドキスはあんたにあげたんだから!!だから…」
サードキスはあんたから奪ってね。
それ以上は言葉にならなかった。
だって、恥ずかしすぎるわよ!!いくらなんでも!!
「えっ?」
「し〜らない」
べ〜!
少女は小悪魔的な表情でアッカンべーをした。
シンジはその姿にドキッとする。
そしてこの可憐な少女をいつまでも守っていきたいと再び思った。
セカンドキスは黄昏の色。
赤い赤い情熱の色。
そして二人の関係は…
「あ〜、今あたしに見とれてたでしょ」
「えっ、違うよ!!」
「見とれてた」
「見とれてない」
「見とれてた」
「見とれてないってば!!」
またつまらない言い争い。
この二人がお互い素直になれない限りは近づきそうに無い。
「はは」
「フフフフフ」
でも、割とその日は近そうである。


赤い時間の中二人はいつまでも笑いあった。

〜おまけ〜

惣流家
「アスカの帰りが遅い」
「あなた、シンジ君と一緒だから心配無いわよ。」
「お前は心配じゃないのか、アスカはあんなに可愛いんだぞ、いつあの碇の小坊主が手を出すか…ああ、アスカちゃ〜ん!!」
「はいはい、さてと、レイちゃんのお祝いでも持っていきましょうかね」

リツコとマヤ
「出番少なかったわね」
「私なんてほぼ一言程度ですよ…、」
「いたのかどうかさえわかんなかった人もいそうね」
「…シクシク」
ぴゅ〜!!

碇家
「レイちゃん、可愛い」
「ユイ、私にも抱かせろ」
「あなた、髭が刺さるから駄目よ、ねえ、レイちゃ〜ん」
「う〜、お母さん、くるしい〜」
「ゴメンゴメン、苦しかった?」
「うう…、ユイ〜、ずるいぞ〜」





こうして第三東京市は長い一日を終えていくのだった。



ボケ老人
「あの〜皆さん、ワシが一応悪の親玉なんッスけどはっきり言って忘れられてるんじゃ〜、あの〜もしもし?」


後書き

どうも、はじめまして幻都です。
大手LASサイトのタームさんの所に投稿するなら
ベタベタなLASじゃなきゃならないと思って書いてたんですが…
どうもラブラブモノは苦手でして、最初なかなか書けずにいて、終いに暴走したユイさんってどんなんやろ?って理由で書いてたらこうなりました。

何故、碇家の地下に地下研究所があるのかとか細かい設定(?)はまるで考えていません。
作者がこうなので悩まないでくださいね。(爆)
お馬鹿小説なので。

最後の部分でワザとシンジとアスカをくっつけなかったの分かります?
私はベタベタより微妙なのが好きな方なのであえてくっつけなかったのと、もしかしたら、
調子に乗って続編を書くことになるかもしれないので一応、二人をあえて恋人にはしませんでした。(ダメ?)
最後に一言、言っておきたい事があります。
「ケンスケファン、いらっしゃったらゴメンナサイ!」
べつにケンスケにうらみはないっスよ。
けど、オリキャラ無しで悪役を作るとしたらなあ…
加持でも使うか…(ボソ)
じゃ、そう言う事で!


マナ:幻都さん、投稿ありがとー。\(^O^)/

アスカ:シンジがアタシを助けてくれたのよ。

マナ:相田くん、おもいっきり悪役だったわね。

アスカ:まぁ、相田には悪いけど、おかげでシンジとの仲が一歩前進・・・したのかなぁ?

マナ:素直じゃないアスカに、それはありえないわ。(ニヤリ)

アスカ:シンジまで素直じゃないし・・・。

マナ:ここはマナちゃんの出番ねっ!

アスカ:アンタが出ると余計おかしくなるじゃないのよっ!
作者"幻都"様へのメール/小説の感想はこちら。
gentoimagin@hotmail.com

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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