Vol.7


一瞬の静寂が訪れた。

その場にいるすべての人間が恐怖におののき言葉を失っていた。

否、正確には二人を除いて…





「何をしている!!」

「どうなっているの!!」

再び時が動き出した。

様々な怒号が飛び交う中使徒はゆっくりと動き始めた。

だんだんと晴れていく視界の中で使徒は初号機に近づく。

「いかん!!」

ゲンドウはそう叫ぶと発令所に対して指示を送る。

「初号機緊急射出!!」

だが発令所からの返事はない。この混乱である無理もない。

そんな中使徒は獲物を手に入れた野獣のように初号機を捕まえる。

拘束具を簡単に引きちぎると動かない初号機を持ち上げる。



「だめ!!逃げて!!」

もはや何を叫んでいるかわからないミサトは同じく何をしているか解らないリツコの手をとって

ケージの外に逃げようとする。使途に対して人はあまりにも非力なのだ。

「レイ!!シンジ君は?」

リツコを引きずりながら二人を探すミサト。だが降り注ぐ瓦礫と立ち込める煙の為

二人の姿はどこにも見当たらない。




動かない初号機をしばらく眺めた使徒は何か意を決したように力任せに初号機を引き裂こうとする。

まず両腕が付け根からもげた。次に顔を握りつぶす。初号機の体液がケージ内に雨のように

降り注く。続いて足首をつかみ逆さにすると正中線から真っ二つに引き裂く。

四つになった初号機の残骸を観て使徒は満足したような顔(?)をする。

引き裂かれた初号機の中心に赤く光る玉を抉り出す。

ひとしきりそれを眺めた使徒はまるで卵をつぶすようにぐしゃりと握りつぶした。

「あ・ああ・・・」

リツコが放心状態でつぶやく。

「ユ・ユイーーーー!!!」

ゲンドウは階上から届くはずもないつぶされたコアに手を伸ばし叫ぶ。

もはや初号機のゲージ内は瓦礫と初号機の残骸、初号機の体液、砕かれたコアで

見るも無残な状況に陥っている。

「もう終わりなのね…」

ミサトが埃にまみれたままつぶやく。




シンジはそんなゲージ内の惨状に心奪われることもなく、淡々とジオフロント内を

ストレッチャーに乗せられたレイを押して歩いていた。

「綾波、もういいんじゃないかな?」

ストレッチャーに横たわっているレイに声をかける。

「うーん…」

一伸びしたレイは体を起こし軽やかにストレッチャーから飛び降りる。

「演技するのも中々大変ね、」

本気とも嘘ともつかない口調でシンジに語りかける。

「あんまりほかっておくと中の3人死んじゃうんじゃない?あの3人に死なれたら

 貴方の計画も来るってくるわよ、」

口調の割には心配していない様子で尋ねる。

「大丈夫だよ、ドグマの前にそろそろ彼がスタンバってるところだからね。」

「だから心配なんだけれど…」

「そういわれてもねえ…」

レイの言葉に苦笑を持って答えるしかないシンジであった。





「指令!!お下がり下さい!!」

警備兵に体をゆすぶられるゲンドウ。

「ユイが、私のユイが、私の補完が・・・」

ぶつぶつとつぶやくゲンドウは警備兵の言葉にも気づかない。

「指令!!指令!!」

何度も体を揺さぶるが一向に反応しないゲンドウに業を煮やした警備兵は

部下数人に命じて、ゲンドウを担ぎ上げ発令所に連れて行くように命じる。

担ぎ上げられたゲンドウがゲージから連れ出されるのを見届けた指揮官は

未だ階下で破壊を続ける使途を見下ろしながら、いよいよここまでかな?と覚悟を決めた。



同じく階下では瓦礫に行く手を阻まれながらミサトとリツコがようやく警備兵に助けられ

ゲージから脱出する事が出来た。

「赤木博士!!葛城一尉!!お怪我はありませんか?」

そう尋ねた警備兵は自分の質問のおろかさに気づいた。

ミサトは頭から血を流し、顔の半分を血に染めている。

リツコは左手の袖口から間断なく血が滴り落ちている。そしてリツコ自身の右手で添えられた

左手はあらぬ方向に向いているのだ。間違いなく折れている。

よく見るとミサトの肩も外れているようだ。

「すぐに処置室へお連れしろ!!」

そう叫んだ警備兵だったが、ミサトの言葉にさえぎられた。

「いいえ!!このまま発令所へ!!リツコ!!呆けている場合じゃないでしょ!!しっかりしなさい!!」

ミサトに往復ビンタを食らいリツコの虚ろな目にようやく光が戻ってきた。

「いけない!!使途をドグマに近づけては!!ミサト!!急いで発令所に向かうわ!!」

叫んだリツコは痛みを思い出したかのように体をよじる。

「とにかく応急処置と痛み止めを!!」

二人に話しかけた警備兵は部下の持って来たモルヒネを取り出そうとした。

「痛み止めはやめて!!頭が鈍るから、とりあえず止血と腕の固定だけ急いで頂戴」

流石に軍人らしくミサトが警備兵に告げる。常人では気絶しそうな痛みではあるが

訓練されている体のため、苦痛に耐えうるすべを知っている。

一方リツコといえば痛みに耐え切れず苦しげに息をしている。

「リツコ、いえ、赤木博士には少量の痛み止めを!!」

ミサトが指示を出す。ネルフという組織に在籍していてもリツコはあくまで

現場の人間ではない。その為にミサトのように肉体的訓練が為されていないのだ。

てきぱきと処置を受けた二人は警備兵に担がれて発令所に急ぐ。

痛みのため先ほどまで青かったリツコの顔も痛み止めが効いてきたのか血色を取り戻している。

その分目がまたしてもうつろになっているのは否めない。

(とにかく急がなくては…)

リツコはリツコで、ミサトはミサトでそれぞれにそう思っていた。

無論、ミサトのそれとリツコのそれとでは少なからず違いがあるのだが…






ミサトとリツコが発令所に担ぎ込まれたときそこはまた違う意味で修羅場だった。

「だめです!!もうドグマまで隔壁12枚分しかありません!!」

「ジオフロント内防衛設備効果ありません!!ATフィールドによるものと思われます!!」

「MAGIが自爆決議を採択しました!!」

「地上では火災が広がっています!!」

「国連軍から入電!!今から15分後にN2により本部施設を攻撃するとの事です!!」

次々に入ってくる報告をオペレーター達が報告する。

ミサトとリツコが発令所の上を見上げると、そこにいるべき人物が一人見当たらない。

「指令はどこに行ったの!!」

ミサトがオペレーターの一人に尋ねる。

「指令は負傷されまして救護班が処置室へお連れしています!!」

「こんな時に…」

インタホンを耳に当てていた冬月コウゾウが何かしらつぶやくと、全員に指示を出した。

「残念ながら諸君、本部を放棄する事となった。以後指令本部は松代に移される。

 全員脱出せよ、あと10分後にここにN2が落とされる。可能な限り遠くへ逃げろ!!」

そう告げた冬月に青葉シゲルが返事をする。

「あと10分ももちません!!MAGIの計算ですとあと8分後には使徒はドグマ内に侵入します!」

「だからだよ!!私でも3分ぐらいは使途の侵攻を遅らせる事が出来るだろう。

 その間に諸君らはN2の影響が出ない所まで逃げ切れるはずだ!!だから今のうちに早く逃げるんだ!!」

「副指令は残られるんです…」

「くどい!!こうしている時間も惜しい!!早く・・・・・・・・・」

そう叫んだコウゾウの声にかぶさって、一際大きな音が響いてきた。

「し…使途…ドグマの前に辿り着きました…」

「ば…馬鹿な…」

「隔壁がドグマ側から破られたようです。原因は不明…いえ!!ドグマ前の扉にATフィールド反応!!

 人間サイズです!!」

「それこそ馬鹿な!!リリスが出てきたとでも言うのか!!」

ありえない報告にコウゾウは感情を高ぶらせる。

「確認取れました、全長20mほどの人型の人工物を確認、内部に生命反応あり。

 どうやらロボットのようです。」

「エヴァではないのね?」

リツコが確認するように尋ねる。

「サイズが違いすぎます。使途やエヴァに比べても小さすぎます。」

「それにしてもどうやって入ったの?」

つぶやきながらリツコは冬月を見上げる。もしかしたら自分の知らない秘密かもしれない。

だがコウゾウはそんなリツコの目線に対して首を振るだけだった。

もはや目の前の異常事態の推移に目を奪われ、発令所内の誰も脱出しようとはしない。



だが発令所外では一般職員達が我先にと大型の輸送ヘリに向かって走っている。

そこには男も女もなく老いも若いもない。唯自分が生き残るために必死である。

我先にとヘリに乗り込み、群がる人を掻き分けて前に進もうとする。

発進したヘリにしがみつく女性職員を男性職員が蹴落とす。

足をとられ転んだ若い男性職員の上を何人もの人が踏みつけていく。

そんな様子をシンジとレイはそれを苦々しい顔で見つめている。

「碇君?」

レイに顔を覗き込まれたシンジは少しドキッとしながらも返事をした。

「結局人類を守るとか、えらそうな事を言っても自分が一番大事なんだね」

「でも貴方はそんな人たちと一緒に暮らして行ける場所を望んだわ」

「そうだね、人類という種は個体としては脆弱だけれども群れを作ることによって

 色々なものを共有できる。だから僕は独りで生きるんじゃなくて皆で生きたいと思った。

 でも、自分以外の人に優しさを与える事が出来るのは自分にゆとりがある人だけなんだと

 今痛切に感じたよ。」

「だから碇君がそのゆとりを持つお手伝いをすればいいのよ。皆がちょっとづつ

 他人に優しさを分け与える事が出来るようなゆとりをね。」

「そうだね、綾波の言う通りだね、僕の力はタカが知れているけど…」

「そのための組織と人材じゃなかったのかしら?」

「それを言われるとつらいなあ…」

「碇君の能力を疑ってるわけじゃないわ」

「ハハハ…有難う。でもそのゆとりを持つためにもここは何とかしないとね、

 カヲル君、期待しているよ」




使徒は戸惑っていた。自分が目指していたものは確かにこの壁の向こうに感じる。

だが目の前に立っている小ぶりな物体の中心からは自分と同じ感じがするのだ。

同類か?それともこれこそが自分の目指していたものだったのか?

判断に迷っている使徒に対し目の前の物体、およそ人間をそのまま10倍したような

大きさである。白を基調としたトリコロールカラー。直線と曲線が上手く調和したデザイン。

二つの目が特徴的だ。その目が赤く輝いた。



その物体の中心部、おおよそ人間で言えば臍の辺りになるだろうか?

頑丈な三重装甲とショックアブソーバーに守られた球体の中、

その球体は内側から360度の視界が確保されている。機体各所に取り付けられたカメラが

コンピューターの補正によりその中心に座るものの目線として投影される。

そこに座る少年、銀色のザンバラな髪型、搭乗する機体同様の赤い目が印象的だ。

彼は球体モニターに移る使徒を見上げると、こう呟いた。

「やあ、サキエル、」



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はい、7話目をお届けいたします。相変わらず話が進むのが遅いです。

執筆のペースも遅くならないようにがんばります。


マナ:早くも渚くんの登場・・・びっくり。

アスカ:やっかいなのが出てきたわ。アイツがいたら、戦力にはなるだろうけど。

マナ:渚くんって、相変わらず緊迫感がないっていうか。「やぁ」って・・・。

アスカ:アイツらしいって言や、アイツらしいけどさ。

マナ:どっちにしても、サキエル戦は余裕で勝ちそうね。

アスカ:サキエルに同情しちゃうわ。なんだか・・・。
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