Vol.8

「やあ、サキエル」

そうつぶやいた少年は目の前に対峙する使徒に対して自分の乗機、

全長約20メートル、トリコロールカラーに塗り分けられた2つの目を持つそれ、

の右手に握られている銃型の武器の先端を向けると、

躊躇することなく引き金を絞った。

ギュワン!!

金属がこすれあうような重厚な音がしたかと思うと、銃口から重金属の粒子、

所謂メガ粒子と呼ばれるものが飛び出し、まっすぐ使徒を貫いた。

使徒を貫いたそれは、勢いを大気に減少されながらジオフロントの隔壁を何重にも

突き破り地上2キロの地点で消滅した。

一点、すなわちコアと呼ばれる部分、を貫かれた使徒はゆっくりと前に倒れ

活動を停止した。

「さて、ここまでは台本通り、後はシンジ君の演技と周りの役者次第だねえ」

使徒と共に、ジオフロントに余計な破壊をもたらした少年は嬉しそうだった。







「し…使徒、活動停止・・・」

その光景は発令所に残る人間に衝撃を与えた。

「信じられない…」

リツコがつぶやく。

「理論的に考えられないわ…あの小さな機体にどれだけの出力があるというの?」

リツコの独り言に皆耳を傾けようとしていたが一人いち早く事態を把握した冬月が

「何をしている!!使徒殲滅の報告と、被害状況の確認、避難命令の撤回

 国連に攻撃回避の伝達!!やる事は沢山ある!!」

この声で発令所の一同が忙しくなる。

それぞれ自分の座席で呆けていたオペレーターたちがいっせいに動き出す。

ミサトとリツコは思い出したように体の痛みに耐えられなくなりその場にうずくまる。

「担架を急いで!!」

オペレーターの一人がその様子に気づき医務室に担架を要請する。

担架に乗せられた二人は、そのまま運び出される。副指令たる冬月も彼女らに付き添い発令所を後にする。

「副指令!!どちらまで?」

めがねをかけた若いオペレーターが問いかける。

「碇の様子を見にな…」

その答えを聞き、ようやく指令がこの場にいないことを気づくオペレーターたち。

そこまでの神経が回っていないほど、彼らには余裕がなかった。





避難命令が撤回された事により、ネルフ一般職員も自分の持ち場に戻りつつあった。

だがしかし、彼らの目は一様に死んでいた。非常時とはいえ醜い姿をさらしあったのが

お互いに解っていたからだ。本部施設の崩壊による負傷者も確かにいたが、

脱出時の混乱において負傷した職員の方がはるかに多かったのである。

無論、負傷者のすべてを収容するだけの施設はなく、先に運ばれた碇指令や、ミサト、リツコといった

幹部職員は優先的に処置されているが、処置が間に合わない一般職員達がロビーや廊下に溢れていたのである。

「ひどいものだな…」

図らずしもこの状況を目のあたりにした冬月はつぶやいた。

「しかしなぜこんな事になる?彼を迎え入れるタイミングが悪すぎた?それとも碇の説得が悪かった?

 …いかんな…こんな事を考えていては…まずは目先の事から片付けなければ・・・」





その頃指令たるゲンドウは医務室のベッドの上で目が覚めた。

そこで、先ほど起こった事を思い出す。どう考えても不可解であり、また信じられない。

まして、目の前で自らが尤も望むものがなす術もなく破壊されたとは…

普通の精神の持ち主であれば間違いなく壊れていただろう。

しかし、自分の望みのままに他人を蹴落としてきた彼にとって、確かにショックではあったが

現実感をなくすほどのやわな神経ではこれまでやって来れなかったことを思うと、

不思議と冷静でいられ、そして現実を直視する事が出来た。すなわち、

「碇ユイは本当に死んでしまった。」

という事を…認識した現実に対して対応していくのが自分の役割である。

確かに周りから外道と陰口を叩かれる事の多いゲンドウだが、ネルフ指令という立場を拝命できる

能力は持ち合わせているのである。少なくとも義理や人情だけで務まる物ではないのだ。

その点においてゲンドウは優秀な指揮官といえよう。そしてその優秀な指揮官の出した結論は

「サードチルドレン…すなわち碇シンジへの査問」

というものであった。

ゲンドウがそんな事を考えながら眠りについて3時間ほどが経つ。

あわただしかった発令所もようやく少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。

そんな折、ふとオペレーターの一人が気がついた。

「レイと、シンジ君、もうひとつあの謎のロボット、彼らはどこにいったんだい?」

誰一人としてその事に頭が回っていなかった。







そんな噂が発令所内を駆け回っている頃、噂の張本人たちは、ゲンドウに病室の前に立っていた。

  コンコン

控えめにノックされた音でゲンドウが目を覚ます。

「誰だ?」

「シンジだよ、父さん…」

「入れ…」

控えめに開いたドアから、シンジとレイ、そして見知らぬ少年が立っていた。

病室に緊張感が漂う。誰一人として口を利かない。

そんな空気に耐えかねたようにゲンドウがゆっくりと口を開く。

「シンジ…お前に聞きたいことがある…」


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ご無沙汰ぶりのGOです。更新遅れました事をお詫び申し上げます。

何とかここまで話が進みました。次回はシンジ君の行動理由の一端が語られるお話です。

彼の行動理由ってこの話を書き始めるときに大前提として、決めていた事なんですが、

そこに持っていく展開が難しくて…

次回もうちょっと早く更新できたらと思います。


マナ:碇司令、なにを査問するのかしら?

アスカ:下道だから、またやっかいなこと言い出すんじゃない?

マナ:シンジが困るようなこと、言い出さなきゃいいけど。

アスカ:そういう気遣いがないのよねぇ。

マナ:シンジぃ、頑張れぇぇ!

アスカ:ま、シンジならきっと大丈夫だって。(^^v
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