控えめに開いたドアから、シンジとレイ、そして見知らぬ少年が立っていた。

病室に緊張感が漂う。誰一人として口を利かない。

そんな空気に耐えかねたようにゲンドウがゆっくりと口を開く。

「シンジ…お前に聞きたいことがある…」





2nd Time(Ver.G)  Vol.9

「なぜここに呼んだかわかるか?」

「さあ、わからないよ…」

お互い腹の探り合いのような会話から始まる。

「ふん、まあよい。いくつか質問に答えてもらおうか、

 お前は誰だ?なぜレイが怪我も無くそしてお前と一緒にいる?そこの小僧は誰だ?

 そして乗っていた機体はなんだ?どうやって入った?」

次々と説明を求めるゲンドウ。

「ちょっと待ってよ父さん、そんなにいっぺんに聞かれてもわからないよ。」

困惑した顔で答えるシンジ。

「シンジ君、碇氏は突然の出来事に混乱しているようだね、

 ここはシンジ君が誠意を持って一つずつ答えてあげたらどうだい?」

涼しい顔で言い放つカヲル。

「貴様には聞いていない。」

相変わらず高飛車なことを言い放つゲンドウに対し

「父さん、彼への侮辱は僕への侮辱と取るよ、」

「まあまあシンジ君…」

カヲルに対してのゲンドウの言動に憤るシンジをいさめるカヲル。

「カヲル君がそう言うのであれば…まず僕が何者かって?

 碇シンジ14歳2001年6月6日生まれ、碇ゲンドウ、ユイの息子として生まれる。

 そう、あなたの一人息子に間違いありませんよ。」

「納得できんな…」

「何を持って証拠とするの?疑うのならDNA鑑定でもなんでもやったらいいじゃないか?

 それとも父さんは息子のことが信じられない?」

ゲンドウの疑問に正論をもって答えるシンジ。

「解った…お前は間違いなく私の息子ということにしておこう、シンジ…

 次の質問の答えを聞かせてもらおうか」

「それは私から…」

「レイ、答える必要は無いよ。」

レイの言葉を遮りゲンドウの目を見据える。

「その他の質問には、今答える必要が無いと思うけど…

 僕がどうしてレイと一緒にいるのか、そしてカヲル君と一緒にいるのか、

 それは僕のプライベートの事であって父さんが関知する事ではないでしょ?」

「ふざけるな!!レイはともかく、そこの小僧はネルフとは何の関係も無い人間のはずだ!!

 そんな人間がなぜこんな所にいるのかと聞いているんだ!!」

「小僧とはひどいねえ…ちゃんとした名前があるのにねえ…嗚呼そうか!!自己紹介がまだでしたね。

 はじめまして碇総司令、僕の名前はカヲル、渚カヲル、以後お見知りおきを…」

ゲンドウの怒りもさらりと受け流して恭しく頭を下げるカヲル。

「よかろう…渚カヲルといったな、なぜここにいる?そしてお前は誰だ?」

「心外だねえ…襲ってきた化け物、使徒って言ったけねえ、それを撃退したのは僕ですよ、

 シンジ君との熱い愛情…もとい友情に応えるべく苦労したというのに…

 それに僕が誰かって?貴方がよく知っている人物に僕と同じ名を冠した人はいなかったですか?」

いなかったか?と過去形で語るカヲル。過去形で問われた事に気づかないゲンドウ。

「渚…まさか貴様!!」

心当たりがあるのかさらに問い詰めようとするゲンドウ。

「おしゃべりはここまでだよ父さん。フェアじゃないね、父さんたちだって僕に隠してる事は沢山あるでしょ?

 僕達の情報だけを教えるって言うのは虫が良すぎないんじゃない?

 少なくとも最低限の事は教えてもらわないと…」

「お前が知る必要は無い」

「それじゃあ僕達の事も父さんたちは知る必要が無いね。」

二人の間に得も知れぬ緊張感が立ち上る。

先に気を抜いたのはシンジだ。カヲルへ向き直り、

「カヲル君も…あまりおしゃべりが過ぎる様だと今日の夕飯は抜きにしちゃうよ?」

「シンジ君!!それだけは勘弁してくれ!!」

「全く…」

シンジがため息をつく。レイは隣で二人の様子を見てくすくすと笑っている。

「さあ、もういいでしょ父さん。疲れたから帰らせてもらうよ。」

「今日の所は帰れ、また日を改めて正式に査問する。」

「その時は僕達も反問させてもらうよ。」

そういってきびすを返すシンジ。カヲルとレイがそれに続く。

病室のドアが開いて3人が出ようとする時ゲンドウが声をかけた。

「待てシンジ、これだけは答えろ。あの機体はなんだ?」

シンジは振り返る。

「自分の都合を優先するのは悪い癖だよ父さん、情報にはそれなりの見返りが無くちゃ、

 まあ、久しぶりに親子対面できたからサービスしてあげる。」

ドアの開閉スイッチに手をかけながらゲンドウに向き直る。

「どっかで何かが建造されているよね?邪魔しようと画策しているみたいだけど…

 尤も僕がそんなことはさせないけどね、その技術は何を基にしてると思う?」

言い終わるか否や扉は閉められた。

「…」

シンジ達が出て行くのと入れ替わりのように冬月が病室を訪れた。

ベッド脇の椅子によっこらしょ、と腰を下ろしゲンドウに語りかける。

「本部は混乱の極みだ、脆いものだな、所詮は実戦を経験していないアマチュアの集団にしか過ぎんか…」

「冬月…シンジ達との会話は聞いていたな?」

「ああ…」

「どう思う?」

「どう思うと言われても私には解らんよ、シンジ君のことにしてもレイのことにしても

 渚カヲルと名乗った少年の事についても…絶対的の情報量が不足している。」

冬月は一息にしゃべるとため息をついた。

「調査が必要だな、手配しておこうか?まだお前はしばらく動けまい。」

「ああ、頼む。」

「それにしても未だ零号機は起動せず、初号機は大破、いや消滅、緒戦でこの状況とは頭が痛い。

 それに初号機の消滅によりお前の補完計画は挫折…ショックではないのか?」

冬月は一番聞きたかったことを尋ねる。

「確かにショックではある。今まで色々と動いていたのも再びユイに会うためだったからな…

 だがまだ可能性は無いわけではない。まだまだあきらめんよ。

 それよりシナリオを変更しなくてはならない点が多々ある。予備のレイの作製、

 弐号機の召還も早めなくてはなるまい。その手配は私がやろう。」

その言葉を聞いてまだまだこいつは冷静さを失っていないなと安堵する冬月。

「安静も必要だが早いとこ復帰してくれ、私だけでは手に負えん。」

心底困ったという顔をして冬月が言う。

「お手数を掛けます、後2時間ほどしたら顔を出しますのでそれまでお願いします。冬月先生…」

申し訳なさそうにゲンドウが冬月に言ったのだが

「お前は都合のいいときに私を先生扱いするんだな…」

椅子から立ち上がりながら苦笑で答える冬月。

冬月が病室から出て行くのを確認すると

「さて何時までも臥している訳にはいかんな…」

そうつぶやくとゲンドウはまた目を閉じた。










「あの人の動き方が妙だって?」

奇跡的に無事だったネルフ内の展望食堂でカヲルの報告を受けたシンジはそう答えた。

「うん、彼の監視役からの報告を読むとね不可解な行動が多いんだ。」

そういってカヲルはどこから取り出したのか前時代的な紙の報告書をひらひらと振ってみせる。

「まあ…ある程度は予測していた事なんだけど…ちょっと腹立たしいねやっぱり、

 事実は確かに全部伝えてある、それでもあの人は自分の誘惑に抗えないんだろうね、

 今後僕がどうしたいか、というのを本当に解ってくれてるのはカヲル君と綾波だけだ。

 多分あの人には理解できない事だと思う、だからいずれはこうなるんじゃないかとは思っていた。

 あの女(ヒト)の事もあるしね…」

シンジはそういうとため息をついた。

「シンジ君、どうする?このままにしておくのはあまり好ましくない事だと思うのだけど…」

「特に今のところはどうこうする気は無いよ、いくら僕と一緒に行動してきたからといって

 彼が行使できる権限って言うのは知っての通り実際余り無いんだよ、

 だから泳がしておいても実害は無い。どうしようもなくなったときの手は考えてあるから、

 僕がそう判断するまでは動かないでくれるかな、カヲル君?」

「シンジ君がそう考えているなら異存は無いよ。レイもそれでいいね?」

「私は碇君の望みをかなえる為にこっちに戻ってきたんだもの、あるはずが無いわ。」

レイが優しげな目をシンジに向ける。カヲルは怪しげに流し目を送っている。

相変わらず…と苦笑しながらもシンジは2人を見据える。

「カヲル君、綾波、有難う。僕のわがままに付き合ってもらって…

 僕がやろうとしてることは本当に独りよがりで思い上がったものかもしれない。

 でも、二度とあんな悲しい出来事を起こしたくないだけなんだ、

 皆が皆自分の都合と、興味の為だけに傷つけあう。他人の思いは全く無視してね、

 自分達の価値観を押し付ける。気に入らなかったら殴って言う事を聞かせる。

 そんなことが許せないだけなんだよ僕は、だから皆に気づいて欲しい、それだけなんだよ。」

「シンジ君・・・」

「碇君・・・」

何度も聞かされたであろうシンジの思い、他人が聞いたら何を甘い事を…と言われるかもしれない。

それでもその甘いといわれる事を真剣に何とかしようとするシンジに心底感動した2人だからこそ

支えてあげたいという気持ちになるのだろう。無論その中にあるシンジのいたずら心なども十分理解して…

基本的にシンジは優しい少年そのままである。いたずらに他人を傷つける事を良しとしない。

ただ、為すべき事を為さぬ人間、理不尽な要求を突きつける人間、他人を貶めようとする人間に対しては容赦が無い。

人間の心は不完全である。不完全であるからこそ他人とかかわって生きていかなくてはならない。

そういった面で見ればゼーレが画策していた補完計画も手段に間違いはあったが目的は間違いではない。

誰かに強制された補完ではなく、一人一人が気づく事が出来ることが本当の補完である。

そう考えるシンジだからこそ、他人のことを露ほどと思っていない人間に対しては厳しいのだ。

因果応報、必ず手痛いしっぺ返しが来る。また、自分にその覚悟が無ければ他人を傷つけてはいけないのだ。

ちょっとだけ他人のことを思いやれる人間になる。たった、たったそれだけの事を

シンジはやりたいだけなのである。その手法が後世批判を受ける事になったとしても…



窓の外を眺め少し遠い目をしていたシンジだが同じように暖かいまなざしで見つめる二人に気がつき

少し照れながらこう2人に告げた。

「さあ、今日は疲れたから帰ろうか?久しぶりに綾波とも食事が出来るし、カヲル君案内してくれる?」

「もちろん」

とびっきりの笑顔で答えたカヲルであった。

to be continue…


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ども、GOです。ちょっと説明的な文が多かったですかねえ?

まあ何はともあれこれからシンジ君がどんないたずらをしていくかを考えるのが楽しみで楽しみで…

急展開の予感にもうドキドキ(意味不明)

またVol.10でお会いしましょう!!

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          おまけ

ネルフ本部から程近いマンションの一室の前に3人が立っている。ここに来る事を考え、

シンジがカヲルに手配を頼んだ部屋。昨日今日のうちに、必要なものはすべて運び込まれている。

「あれ?おかしいな、どこにいったんだろう?」

「どうしたのカヲル君?」

「いい事を聞いてくれたねえシンジ君、実はここに入る為の鍵がどこを探しても見つからないんだよ、

 困った事になってしまったねえ・・・」

「そんなカヲル君!!カヲル君が任せてくれ!!っていうからここの手配を任せていたのに…

 ここに入れなかったら泊まるところが無いじゃないか!!今更ネルフへなんて戻れないし…」

「おなかすいた…」

「そんなに嘆く事は無いよシンジ君、僕達の愛があればどこで寝ようが暖かいものさ、

 さあ、お互いのぬくもりを確かめ合おうじゃないか!!」

「真顔で碇君に迫らないで!!それに私はいや!!ちゃんとした所で休みたいわ、

 碇君、私とひとつになれるところでお泊りしましょう?

 それはとても気持ちのいいこと…」

「レイこそ変な言いがかりをつけて二人の邪魔をしないで欲しいね…

 シンジ君、僕と一緒に出かけよう!!」

「だめ、碇君とは私とひとつになるの、ね?碇君」

「いや・・・二人とも・・・僕にどうしろっていうんだよ、

 それに話の本質から外れてるよ、今はここにどうやって入るか…わぁぁ!!二人ともやめてよ!!」

「シンジ君・・・」

「碇君・・・」

シンジに迫る二人と、二人から脱兎のように逃げるシンジ。

小一時間追いかけっこをした挙句、結局鍵はカヲルのポケットから出てきたそうな…

「ひどいや二人とも…僕をおもちゃにして…」

その一時間の間に何があったかは謎であるが、シンジがぽつりとつぶやいた言葉に

推して測るべきであろう・・・

          おしまい


マナ:なんか親子の対面が、殺伐とした雰囲気になっちゃったわね。

アスカ:碇司令があの態度を崩さない限り・・・どうしようもないんじゃないかな。

マナ:渚くんに綾波さんがシンジ側についてるから、シンジが有利に見えるけど。

アスカ:決め手は、シンジにあるって感じね。

マナ:でも・・・できたら、仲良くなって欲しいわ。

アスカ:親子なんだしねぇ。

マナ:シンジから譲歩できたらいいんだけど。

アスカ:それも、なんだか難しくなってきたわねぇ・・・。うーん。
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