解放


キモチワルイ・・・
それが最後に聞いた彼女の言葉だった。

最後の戦いの後サードインパクトは起こったが、結局人類は現状を望み、普段通りの生活を送っている。
Nervは特務機関から、研究機関に変わり歩みだした。
あれから3ヶ月、Nervの病院には彼女が眠っている。
その彼女は戦いに傷つき精神を病んで、そして心を閉ざした。
現在も病院のベットで覚める事のない眠りについている。
頬は痩け、枯れ木のような手足をした彼女を、ともに戦った少年碇シンジが悲しげな顔をして見つめていた。

「アスカ・・・、目を覚ましてよ、僕に笑顔を見せてよ、元気な姿を見せてよ、そして僕を見てよ、アスカ・・・寂しいよ・・・」
シンジは毎日、病室に来てはアスカが目を覚ますのを信じて、彼女に語りかけていた。
だが、彼女が目を覚ますことはなかった。
「アスカ・・・、目を覚ましてくれないんだね。
やっぱり、僕じゃだめなんだね・・・、
アスカが僕を嫌いなことも、憎んでいることも知っている。
僕がここにいない方がアスカの為にもいいと判っている。だけど・・・」
そこで、言葉を切ってシンジはアスカを愛おしそうに見つめた。

シンジはアスカの手をまるで壊れ物でも触るように優しく持った。
「僕はアスカに元気になって欲しいんだ。輝いていたあの頃のアスカを取り戻して欲しいんだ、
その為なら僕は何でもするよ・・・、
アスカが2度と僕に会いたくないのなら・・・、存在を否定するのなら・・・
それが、アスカの為になるのなら、僕は喜んで消えるよ・・・、2度とアスカの前には姿を現さないよ、
だからお願いだから、目を覚ましてよ・・・」
シンジは静かに眠っている彼女に淡々と語りかけていたが、結局、面会時間が終わっても彼女が目を覚ますことはなかった。
シンジは寂しそうな、悲しそうな目をして、
「アスカ、今日限り君の前から僕は消えるよ、だからお願いだ、目を覚まして
元気なアスカになってほしい。勝手かも知れないけど、僕の最後のお願いだ。
さよなら・・・、アスカ、君を愛してるよ。」
そう言うと、シンジは病室を出て行った。

シンジは病院を出た後、とあるビルの屋上に上がり、第三東京市の町並みを眺めていた。
「アスカ、君を解放してあげるよ、僕がいなくなれば、君は、僕への憎しみから、憎悪から解放される。悲しみから解放される。そして、孤独から解放される。
僕みたいな屑が君のそばに居たから、傷つけてしまった。僕はこの世に居てはいけない人間なんだ・・・、
そんな、屑の僕が、君を好きになるなんて、あってはならないことだと判っている。
でも、アスカ、君を愛している。いつの間にか、僕の心は君の事でいっぱいになってしまった。
アスカ、輝きを取り戻してほしい。僕の大好きな、あの笑顔を取り戻してほしい。
アスカ、これで、終わりにするよ。今まで、ありがとう、そして、ごめん」
少年は屋上の人目につかない場所に移動すると、ポケットから、カッターナイフを取り出して、その刃を眺めていた。
「弐号機のプログレッシブナイフみたいだな、」
そう呟くと、手首を切り裂いた。
何度も、何度も、失敗しないように、生き残らないように、自分の存在の全て否定するように、
シンジは、手首からとめどなく溢れる赤い血を眺めていた。
「僕の血も赤いんだ、こんなに、汚く、醜い僕なのに・・・、
アスカ、君に出会えて嬉しいかった、今まで何もなかった僕の心に、暖かい光を灯して
くれた。元気になってね。愛してるよ・・・、
僕はこれで、この世界から解放される、これで、人を傷つけなくてすむ、
君はまた逃げてって怒るかな?・・・でも、僕はもう疲れたんだ・・・、」
シンジは薄れ行く意識の中で、最後まで彼女のことを思っていた。
『アスカ・・・』
シンジの目には最後の涙が光っていた。

シンジの命の火が消えていく、ちょうどその時、病院では彼女のそばに、彼女と少年の同居人の葛城ミサトが彼女の様子を見つめていた。彼女も、毎日アスカの見舞いに来ていた。
「アスカ、早く目を覚まして、そしてまた、シンジ君と一緒に暮らしましょ、
あなたの人生は、まだこれからじゃない、こんな所で寝ててどうするのよ。」
ミサトは目に涙をためながら、彼女を見つめていた。
「シ、シ・・ン・・ジ・・・」
今まで、目を覚ますことがなかった彼女が目を覚ました。
ミサトは驚きの顔をして、アスカを見つめた。
「ア、アスカ、気が付いたのね、」
「ミ・・サト?」
「そうよ、私よ、ミサトよ、アスカ、大丈夫??」
アスカが気が付いたのを確認して医者を呼ぼうとしたその時、
プシュッと音とともに扉が開き、彼女の同僚のリツコが入ってきた。
普段冷静な彼女とは違い、かなりあわてていた。
「ミ、ミサト、ち、ちょっと話があるの」
それに、対してアスカが目を覚ましたこともあり、嬉しそうに応じた。
「リツコどうしたのあわてて?それより、アスカが目を覚ましたの、医者を呼んでくれる。」
「わ、わかったわ、それより、ちょっと話があるから来てくれる。」
「ここで、できないの??しょうがないわね、アスカちょっとリツコと話してくるわ、
すぐに戻るから。」
そして、リツコはミサトを連れて部屋を出て行った。

ミサトはリツコの部屋で話をしていた。
「リツコ、話って何?アスカが目を覚まして気分がいいから、少しくらいならなに言われても平気よ!!」
「シンジ君のことなの、」
「シンジ君が、どうしたの。そうそう、シンジ君にもアスカが目を覚ましたことを教えてあげないと、シンジ君すごく喜ぶと思うわ」
「そうね・・・、ミサト、落ち着いて聞いてね、先ほどシンジ君が、ビルの屋上で手首を切って自殺したわ、諜報部が発見した時にはすでに亡くなっていたわ」
「リ、リツコ、冗談よね、シンジ君が自殺だなんて、なんで?嘘を言わないでよ、」
「嘘じゃないわ、現場には遺書は無かったわ、」
「なんで?、せっかくアスカが目を覚ましたのに、」
「私に聞かないでよ、家族のミサトが知らないのに、私が知ってるわけないでしょ」
リツコは「家族」のところを強調して言った。
「こんな、時に嫌味言わないで、それより、詳細を教えて、」
「シンジ君は、ビルの屋上で自殺を図ったわ、死因は手首の傷からの出血多量」
「そう、確かに、最近落ち込んでいたみたいだったけど、アスカが目を覚ませば、元に戻ると思っていた。
全てがあの頃に戻ると思ってた。また、シンジ君とアスカと3人で暮らせると思っていたのに・・・、
シンジ君がそんなに悩んでいたなんて気づきもしなかった。
何が、家族よ、結局、私はシンジ君と、家族にはなれなかったのね・・、」
ミサトは座り込み、涙を流しながら、悔しそうに床を何度も、何度もたたき続けた。

しばらくして、ミサトが落ち着いたのを確認して、リツコが話しかけた。
「ミサト、アスカにはどう説明するの?」
「アスカには私が、説明するわ、時期を見てちゃんと、私が、説明する。」
ミサトは自分に言い聞かせるように言った。

あれから3年、シンジを失った悲しみを乗り越え、アスカも高校生になった。
結局ミサトとは同居を続けていて、家事全般をアスカがしていた。
「ただいま〜、アスカ〜、今日の晩御飯は何かな〜!!」
「ミサト、ちょっと、話があるの」
アスカの返事を疑問に思いながら、部屋に入ると、黒い髪の赤ちゃんを抱いたアスカが居た。
「あ、アスカ、その赤ちゃんは?どうしたの?ま、まさかアスカの子供なわけないわよね?」
目が点になっているミサトを無視して、アスカは赤ちゃんを見せるように近づいた。
「この子のことで話があるの。見て見て、髪の毛は父親ゆづりだけど、目は私と同じ色なの」
嬉しそうに話すアスカにミサトは、唖然とした顔をしながら、何とか、聞きたいことを言葉にしようと努力していた。
「あ、あ、アスカ、お、お、お願いだから、わ、わ、わかるように説明してくれないかな?そ、それとビールもらえる。」
「本当にビールが好きね〜」
ミサトはビールを受け取りながら、心の中で呟いていた。
『こんな状況でしらふで居られるわけないじゃない。下手をすれば監督不行き届きで、
何言われるか、下手したら首よ、まったく』
ビールで一息つき冷静さを取り戻したミサトがアスカに質問した。
「で、その子はアスカの何なの?」
「何なのって、わたしの子に決まってるじゃない。何寝ぼけたこと言ってるの?
それとも、アルコールで脳が溶けたんじゃないの。」
「アスカ、あ、相手は、アスカが妊娠してたなんて、」
「相手はシンジに決まってるじゃない、」
「シンジってどの?」
ミサトは混乱しきっていた。それもそのはず、碇シンジは3年前に死んでいる。
一方赤ちゃんはどう見ても、生まれて間もないので計算が合わない。
ミサトはアスカの精神が崩壊したのではと、真剣に心配したくらいだ。
混乱しているミサトをよそに、アスカは話を進めた。
「シンジって、碇シンジ以外誰が居るのよ、本当に大丈夫?
あ、ちなみにこの子もシンジだから、よろしく!
あと、詳しいことはリツコに聞いて、今は、この子と、これからのことで話があるから」
「なるほど、リツコがらみか、納得(たく、リツコのやつ、私に内緒で)
で、この子と、これからどうするの?あなた、まだ高校生でしょ、学校はどうするの、
学校を行きながら子育てなんてできないわよ、私もNervがあるから、面倒は見れないし」
「学校は辞めるわ、リツコのとこで働く、学校にはまだだけど、リツコには話をして
るから大丈夫、ちゃんと子育てしながらでも大丈夫。間違ってもミサトに面倒見てなんて恐ろしいことは言わないわ」
ミサトの青筋を立てながら、
「言ってくれるわね、私だってやろうと思えば、子育てだって、なんだってできるんだから・・・」
アスカは、疑わしそうな目をしていた。
そんな、アスカと赤ちゃんを見たミサトはやれやれと、いった顔して、
「まったく、しょうがないわね。アスカのやりたいようにやってみなさい。
言い出したら何を言っても聞かないんだから、その代わり、困ったことが
あったら、遠慮せずに私を頼ってね、私たちは家族なんだから、
これで、話は終わりかな?お腹がすいたから、ご飯にしましょ」
「うん」と一言返事して、夕食の用意をしだしたアスカの目には涙が光っていた。

アスカが、学校を辞めた次の日ヒカリが、心配して家に来た。
「アスカ、どうしたの急に学校辞めて??何かあったの??」
アスカは、学校を休んで訪ねてきたヒカリにびっくりしながら、
「ヒカリ、学校はどうしたの??」
「アスカが急に学校辞めるから、心配で学校どころじゃないわよ、
で、どうして、急に学校辞めたの??最近学校にもあまり来てなかったし、Nervが忙しいの??」
「ヒカリ、心配してくれてありがとう、
ヒカリには、ちゃんと言うね、実は・・・」
と、ちょうどその時、奥の部屋で赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきた。
「ヒカリ、ちょっと待ってて」と言って奥の部屋から、赤ちゃんを抱いてきた。
「シンジ〜、ごめんね〜、よし、よし」
「あ、あ、アスカ、こ、この子は??」
パニックになっているヒカリに、アスカはあっさりと答えた。
「わたしの子よ、かわいいでしょう、この子が生まれたから、最近学校に行けなかったのよ。
ま、学校を辞めた理由もこの子のためなんだけど、って、ヒカリ、大丈夫??」
放心状態のヒカリを心配そうにアスカが声をかけた。
「え、アスカ、だ、だ、大丈夫。」
「シンジ、ヒカリお姉ちゃんに挨拶しましょうね、」
シンジをヒカリに見せるように抱きながら、ヒカリに話かけた。
「え、シンジって、この子シンジっていうの??」
部屋から抱いてきたときも名前を呼んでいたが、どうやら、ヒカリはパニックになって聞いていなかったようだ。
「そうなのよ、父親と同じ名前を付けるのは変だと思ったけど、どうしても、この名前付けたかったの、」
「え、父親って碇君なの??でも碇君って・・・」
「ま、詳しくはNerv絡みだから、言えないけど」
「アスカはそれでいいの??」
「いいのよ、今はまだ、つらいけど、今はこの子が居てくれるから・・・、
あの頃は、ヒカリには世話になったわね、落ち込んでた私を慰めてくれて本当に嬉しかった。」
「気にしないで、大事な親友のためなんですもの、でも、これから大変ね、
わたしで出来ることなら何でも言ってね」
「ありがとヒカリ、わたしが、望んだことだから、大丈夫・・・、
ヒカリ、親子ともども、これからもよろしくね!!」
「うん、こちらこそ、よろしく、アスカそれと、シンジ君」
『わたしはシンジから、過去から、まだ解放されていない。
でも、わたしは、シンジとの思い出と、この子と一緒に生きていこうと思う。
それがわたしの望み、だから、わたしは頑張っていける』
アスカは曇りのない晴れ晴れした顔をしていた。

そして、アスカ親子の人生は始まった。


あとがき

こんばんは、はじめまして、はぶ乃介です。
この度は私の初の作品をよんで頂きありがとうございました。m(__)m
これからも、がんばっていきますので、よろしくお願いいたします。

これからもシンジとアスカに頑張ってもらいますのでよろしくお願いいたします。


マナ:はぶ乃介さん投稿ありがとーっ!\(^O^)/

アスカ:まさか、シンジが死んじゃうなんて・・・。

マナ:少しだけ歯車が噛み合わなかっただけで、未来は大きく変わってしまうのね。

アスカ:でもせめて・・・最愛の子供とアタシは暮らしていくわ。

マナ:なにも、シンジって名前にしなくても。

アスカ:誰より、愛したくなる名前でしょ。

マナ:はぁぁ。なんだか、親ばかになりそう・・・。(^^;
作者"はぶ乃介"様へのメール/小説の感想はこちら。
habunosuke@infoseek.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system