エヴァンゲリオン-MPD-

CASE:02 Murtiple Personality Disorder

 今私の目の前で起きている事は現実から大きく逸脱していた。

 少年は実の父に対して恨みの言葉を発した。

 そこまではまだ普通と言えた。

 父に対する暴言なら今日びの学生なら発して当たり前と言えよう・・・。

 だが、しかし彼は普通ではなかった。

 それが起こった瞬間私は彼が何をしたのか理解できなかった。

 その状況を形容するとすれば彼は跳んだとしか言えない。

 それ以外に表し様が無い。

 跳んだ。

 彼の跳躍力は半端ではなかった。

 気付いた時には彼はEVAの角の先端部分まで跳んでいた。

 「あ・・・・。」

 自分の口から出たとは思えないほど間の抜けた声を私は出していた。

 そのくらいそれは唐突で、それくらい異常な光景だ。

 「え・・・?」

 隣にいるリツコも私と同じくらい情けない声を出している。

 「な・・?!」

 指令はその光景に対して普段は見せない内面的な表情を見せている。



 ガッシャアアーーーン!!

 

 指令と私たちとの間に有った強化ガラスはシンジくんの腕から発せられた閃
光によって粉砕された。

 「くぅっ!!」

 指令は短い悲鳴を上げて床に倒れた。

 指令は私たちより高い位置に居たので、倒れたお陰で指令の姿は見えなくな
ってしまった。

 そこまでしか私たちは知らない。





 「くっ・・・。」

 目の前にはゲンドウが倒れていた。

 そして俺はその近くに悠然と着地した。

 (この位置からだとミサトさんたちからは見えないな) 

 俺は後ろを振り向きミサトさんたちから、こちらが見えないか確認した。

 見えないことを確認すると俺は再度ゲンドウを見据えた。

 「無様だな・・、ゲンドウ・・・・。」

 俺は吐き捨てるように言ってやった。

 「お、お前は・・・、シンジか・・・?!」

 ゲンドウは倒れたままの体勢で言った。

 その姿がとても滑稽に見えた。

 以前は威厳という衣を身にまとい、冷酷な司令官として俺を操っていた男が、
今無様にも怯えている。俺の心にふつふつと優越感が沸いてきた。

 「不正解。でも正解。」

 俺は心底楽しかった。恐らく今の俺の顔はおもいっきりにやついているだろ
う。自覚出来るくらい顔の筋肉は緩んでいるのが分かった。

 以前の俺はもういない。俺は完全にアマミヤ カズヒコという非情な少年に
なったのをこの時自覚した。

 「ど、どういう…?」

 ゲンドウはこの状況が理解出来ていなかった。

 当然と言えよう。むしろ理解出来るほうが異常だ。

 そして、今、この状況を作り出している俺はもっと異常だ。

 「ふはっ!お前の今の状況、ミサトさんたちにも見せてやりたいぜ!なっさ
けねェ体勢で地面に這いつくばっている冷酷な司令官の姿をなァ!?」

 「き、貴様ァ・・!!」



 ズギュン!



 「ぐあっ?!」

 ゲンドウは俺が発した閃光を右腿に喰らって、顔を歪めた。

 「口の訊き方に気を付けるんだなァ・・・。今、お前の命は俺の掌の上でこ
ろころ転がされているんだぞ・・?」

 俺はゲンドウに言ってやった。

 「なん・・・だ・・、その光は・・ぐぅっ・・・!」

 ゲンドウは如何にも苦しそうな声を上げた。

 (もうやめてくれ!!カズヒコ!!一体どういうつもりだ!!?)

 頭の中でシンジが喚いた。

 「うるせェなァ!シンジィ〜〜。お前だってこいつの事嫌いなんだろォ〜
〜?」

 俺は挑発するように声に出してシンジに言った。

 (確かに好きじゃない・・・。でも・・!嫌いになりたくないんだ!)  

 「あん?結局は好きでも嫌いでもないんだなァ?」

 (そうだよ!でも、これから好きになっていきたくて僕はここに来たん
だ!!)

 「ははっ!それは無駄だぞシンジ!何故ならこいつはお前の事を道具としか
みていない!現に今日だってお前をEVAにのせる為に呼んだんだぞ!!」

 「お前・・!どうしてそれを・・!?」

 ゲンドウが不審に思ったのか声を掛けてきた。

 「うるせェ・・・。」



 ズギュン! 



 「ぐああっ!!」

 今度は左腿を貫いてやった。

 「もうやめてくれ!!」

 俺は勝手に喋っていた。

 (シンジ!貴様ァ!!)

 「僕の体を勝手に使うな!!」

 シンジはこれまで以上に大きな声を上げた。俺はその姿に少々引いてしまい、
一瞬言葉を詰まらせた。

 (ふ、ふん!まぁ良いだろう・・。今回は殺さないでおいてやるよ・・・。
お前に免じてナ・・・。だがな!!俺は絶対にこいつを殺してやる!!)

 「お前の・・・、好きにはさせない・・・。」

 (ふっ・・、精々頑張るがいいさ・・・。)

 俺は一時的に深層部位に退却した。


 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、」

 カズヒコはどうやら退却したらしい。

 直感的に感じた。

 「シ、シンジ・・・、お前は、一体・・・?」

 父さんが目の前で倒れている。

 その光景は奇妙だった。

 何故なら父さんは足を抑えている。

 先程、カズヒコに打ち抜かれた両足を弱々しくも抑えている。

 血が出ているどころか、服さえ破れていない両足を・・・・。

 「父さん、自分の足を、見てごらん・・・。」
 
 「・・?」

 父さんは恐る恐る僕の言葉に従い自分の足を、先程貫かれた足を見た。

 そして絶句した。

 「ば、馬鹿な!この足はさっきお前が・・!」

 「確かに貫いたのは僕だ。でも、僕じゃない・・・・。」

 「ふ、ふざけるな!現にお前の腕から発せられた光は、俺の足を・・」

 「聞いて!!父さん!!」

 父さんは僕が急に大声を出した事に少々驚いたようだった。

 そして、僕は父さんが反論する気がないのを確認すると、淡々と語りだした。

 「確かに僕だ・・・。でも、打ったのはカズヒコなんだ・・・・。」

 「何ィ・・?」

 「信じて貰えないかも知れないけど、僕の中にカズヒコっていう名の僕がい
るんだ・・・・。あいつは言ったんだ。お前は俺、俺はお前だって・・・。最
初は分かんなかったけど、今のを見て、合点できる・・・・。
僕は・・・・・MPDになってしまっている・・・・」
「え、MPD・・?」
「Murtiple Personality Disorder・・・。多様化する人格・・・・。多重
人格だよ・・・・。」
「お、お前がか・・・!?」
父さんは驚きの声をあげた。
「それは・・・、本当なのか・・・・?」
父さんは、訝りながら言う。当然だ。突然の事で、信じてもらえる筈がない。
「こればかりは言葉で説明するしかない・・・・。でも、本当なんだ・・・。
アマミヤ カズヒコ・・・。それが、アイツの名前だ・・・・・。」

 父さんは普段は見せない同情するような、もしくは哀れむような瞳で僕を見ていた。

 「シンジくん!!」

 名前を呼ばれ、僕は父さんが倒れている通路の更に奥のほうに目を向けた。

 ミサトさんとリツコさんがこちらに走って来る。正確にはミサトさんがもの凄い速度でこちらに駆けて来

て、リツコさんが、その速度に必死になって着いて来ているという状況である。

 「ハァ、ハァ、指令!ハァ、ハァ、だ、大丈夫ですか!?」

 リツコさんが父さんの横に膝を付き心配そうに介護する。その前に自分の事をどうにかしろと言いたくな

るが、あえて言わない。

 「心配ない・・。」

 父さんは僕のほうを見ながら感情のこもらない声でリツコさんに応答した。

 「し、しかし・・」

 「くどい。何でもない。」

 父さんはリツコさんを静かに一喝する。

 「シンジくん・・・」

 「はい・・・・・。」

 ミサトさんが心配そうな声で声をかけてくる。

 「一体、何があったの?」

 「葛城一尉!何でも無いと言っているだろう!」

 「は、はい!!」

 父さんがイキナリ声を荒げたのでミサトさんは弾かれた様に飛び跳ねた。

 「父さん・・・・。」

 「何だ・・・・。」

 僕は父さんに対してひとつ確かめておきたい事があった。

 「僕を・・、EVAに乗せる為に呼んだってのは本当・・・?」

 「シンジくん!どうしてその事を!?」

 「ちょっ!リツコ!シンジくんを乗せるつもりだったの!!?」

 ミサトさんとリツコさんがそれぞれ叫ぶ。

 「本当だ。」

 『指令!!』

 父さんの言葉に見事ユニゾンして応える二人。

 「そう・・・・。分かった・・。乗るよ・・・。」

 「シンジくん!どうして!?」

 ミサトさんが心配そうに声を上げる。

 「・・・・・乗らなきゃ・・・・・、僕は負けてしまうんです・・・・。」

 「だ、誰に・・・?」

 「僕がこれに乗らなければそれこそアイツに付け入る隙を与えるようなもの
です・・・。

だから、僕が乗ります・・・。」

 「シンジくん・・・、何を・・?」

 「負ける訳にはいかないんです。大事な人を護る為に・・・。」

 僕の言葉に一瞬だが、先程まで無表情だった父さんの顔に内面的な表情が浮
かび上がった。

 それが何かは分からないが・・・・。

 「だから・・・・、乗るんです・・・・・。」

 僕の決意は揺るがない。

 大事な人を護る為に・・・・。




 『エントリープラグ、挿入開始!』

 オペレーターの人が叫ぶと同時に僕が入っているエントリープラグがEVAの
脊髄のあたりに挿入される。

 挿入が完了すると、軽い振動がエントリープラグ内を襲った。

 『LCL−リンク・コネクト・リクウイッド-注入開始!』

 オペレーターの人の声とほぼ同時に足元から、黄色の液体が入ってきた。

 「水!?ミサトさん!水が!!」

 『安心して。それはLCLと言って、同調接続用液体よ。肺の中がこれで満た
されれば、肺が直接酸素を取り込んでくれるわ』

 ミサトさんに替わってリツコさんの声が聞こえてきた。

 「でぼぉ・・、ぎもぢばぶいでぶびょ・・・(でも・・、気持ち悪いですよ・・・)」

 『我慢しなさい!日本男子でしょ!!大和魂よ!!』

 『ミサト、今の時代その言葉はナンセンスよ・・。』

 『う、うるさいわねぇ!』

 『え、A10神経接続開始!』

 オペレーターの人がミサトさん達の事を無視して作業を続ける。

 『思想形態は日本語を基礎に固定!』

 『双方向回線、開きます!』

 『作業プロセス、全て順調!』

 『シンクロ開始!』

 『シンクロ率、41,3%!』


 「シンクロ率、41,3%!」

 伊吹 マヤの声が発令所に響いた。

 「いけるわ・・・。」

 ミサトは呟いた。

 その顔は、先程までシンジに同情するような顔ではなく、完全に葛城作戦部
長の顔だった。

 「初めてでこの数値・・、素晴らしいわね・・・。」

 隣にいるリツコも感嘆の声を上げる。

 発令所にも期待が沸いてくる。

 (シンジくん・・・、死なないで・・・。)

 顔では作戦部長でも、頭の中ではシンジの身の安全のみを考えていた。



 (替わってやろうか・・?)

 「うるさい、黙れ・・・。」

 (酷い奴だ・・・。せっかくお前の苦痛を肩代わりしてやろうと思ったのに・・・)

 「そんな事、頼んだ覚えが無い・・・・」

 (自信・・、有るのか・・?)

 「無い・・・」

 (ははっ、こりゃまた随分ハッキリ言ったもんだ。)

 「でも、やらなきゃ皆死んじゃう・・・」

 (そうだ。皆が、世界が滅亡する・・・)

 「そう・・・。そんなの耐えられない・・・。」

 (世界が滅亡するより性質が悪い現実って何だろうな?)

 「え・・・?」

 (世界が滅亡すると、当然自分も死ぬだろ?)

 「そりゃあね・・・。」

 (俺は思うんだ・・・。世界が自分だけになるんだ・・・。皆紅い海になり、
自分だけしか生命活動をしていない・・・)

 「?何を言っているんだ・・?」

 (そして、何より、自分の好きな娘をこの手で殺してしまった後の世界・・・)

 「??」

 (有るのは・・・、自分だけの世界・・・・)

 「君は・・、どこから来たんだ?」

 (既に終わった世界・・・。罪と罰に縛られた世界・・・。全てが始まり、終りを告げる世界・・・。そこから来たのさ・・・)

 「ふざけているのか・・?」

 (そしてその世界は、お前たちが生活している、この世界とも繋がってい
る・・・。)

 「!!」

 (すべては、可能性になった・・・。俺がここに居るというイレギュラーが
発生した為、それは可能性になった。)

 (しかし、未だに可能性だ。歴史から・・・、抹消された訳ではない・・・。)

 (そして、イレギュラーは俺だけじゃない・・・・)

 「・・・・」

 (お前だ・・・。お前の意志が既にイレギュラーなんだ・・・。俺に反抗し
ている時点で、俺の計画にはイレギュラーが発生した!)

 「何が言いたい・・・」

 (俺に従え!そうすればお前は苦痛を受けなくて済むし、皆救われる。)

 「でも、父さんを救うつもりは・・・」

 (無い・・・。奴は抹消すべき人物だ・・・。俺にとって、災厄の種でしか
ない・・・。)

 「じゃあ、ダメだ・・・。君はそこから出さない・・・」

 (好きにするが良い・・・。だが、俺はこの後すぐにお前から、この体の制御権を移される事になる・・・)

 「どういう事だ・・・?」

 (お前じゃァ・・・、使徒には勝てない・・・・)

 「根拠は・・・?」

 (それは決まっている事だからだ・・・)

 「君が来た歴史だろ・・?」

 (そうだ・・・・)

 「・・・・それは君の歴史だ・・・。僕には関係無い・・・」

 (ふっ・・・、精々頑張れよ・・・)

 カズヒコは深層意識に退却した。

 (あいつは・・・)

 (未来からきたのか・・?)

 僕の中に生まれた疑惑は行き場を失い、僕の中をぷかぷか浮いていた。


                                           つづく






小説を書き始めてから約、三ヶ月が経過してます。羊ですか?(聞くな)
一言いっておきますが、これは断罪物ではございません。れっきとしたLASになる予定!!!ですが、僕の頭の中では、少々勝手が違いまして・・・・・・・純粋なLASには成り得ない作品なんです。まぁ、そこらへんは、追々分かってきます。
 これからも宜しくお願いします。
   今回はユイさんとのキャラコメは無し。理由は・・・・・(ニヤリ


マナ:戦闘は、強い人に任しちゃったらいいのに。

アスカ:自分の体を他人に使われるのが嫌なのよ。

マナ:でも、世界を守るのが最優先じゃない?

アスカ:気の済むまで自分でやって、どうしようもなくなってからでいいんじゃないかな。

マナ:お任せしたら、シンクロ率とかって変わるのかな?

アスカ:うーん。同じシンジだからねぇ。どうなんだろうねぇ。
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yukorika@hotmail.com

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