お前は何だ?

 お前はヒトか?
 
 お前は使徒か?

 お前は神か?

 お前はどうして・・・、

 どうしてお前はそう自分の人生を客観的に見る事が出来るんだ?

 どうしてお前は自分の人生を他人事として捕らえられるんだ?

 極意とか有るのか?

 有るとか言ってみろ。お前人生舐めきってるよ。

 でも、お前は何だ?
 
 お前はヒトか?

 お前は使徒か?

 お前は神か?

 お前はどうして・・・、

 お前は、自分が可哀相だと思わないのか?

 俺はヒトだ。
 
 俺は使徒だ。

 俺は神だ。

 どうしてお前はそうやって他人の事を詮索したがるんだ?

 どうしてお前は他人の人生を自分の事みたいに捕らえることが出来るんだ?

 極意とか有るのか?

 有るとか言ってみろ。お前のそれは単なる自己満足だ。

 俺はヒトだ。

 俺は使徒だ。

 俺は神だ。

 俺はどうして・・・、

 俺は、何であいつの死を望んでいるのだろう・・・・

 






 決まっているだろう?

 奴を恨む事で今の俺は存在する。

 じゃあ、奴を殺した後は・・・・?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・そこまでは考えていなかった・・・・。


 エヴァンゲリオン-MPD−

 CASE:03  危険因子







 『エヴァンゲリオン初号機、発進準備!』

 『第一ロックボルト解除!』

 『解除確認!アンビリカルブリッジ移動!』

 『第一、第二拘束具除去!』

 『一番から十五番までの安全装置解除!』

 『内部電源充電完了!』

 『外部電源コンセント異常無し!』

 『エヴァ初号機射出口へ!』


 オペレーター達の指示は素人であるシンジには理解の範囲を超えていた。

 しかし、シンジにとって初めて聞いた筈の言葉を、シンジは何処かで聞いたことがあるような気がして

ならない。奇妙な感覚だった。

 (初めて見るロボットのはずなのに・・・、どうしてこんなに懐かしいんだ・・・。)

 自分の中に生まれ出でた感情が理解し難く、シンジは少しばかり混乱していた。

 オペレーターの人たちとは直接会ったわけではないが、先程まで繋がっていた回線から覗かれてい

た顔にシンジは見覚えがなかった。無論、ミサトたちは除いてだが・・・

 (見覚えが無い・・・、知らない筈なのに、何処か懐かしい・・・。そして、彼等に対して、何故申し訳ない

と思うのだろう・・・)

 シンジが物思いに耽っている間も作業は続いていく・・・・




 「碇・・、あそこで何があった?」

 冬月はゲンドウに先程の事で聞きたいことがあった。

 「・・・・何の事だ?」

 ゲンドウはしらを切る。しかし冬月は食い下がった。

 「とぼけるな。あそこで有った事は私だけだが見ていた。だが、映像はMAGIに残る。」

 「映像は全てMAGIから抹消・・・。これ以上語る事はない・・・」

 「抹消自体は決して難しくは無い・・・。しかし碇、シンジくんは・・・・」

 「あれはシンジではない・・・。」

 ゲンドウの言葉に冬月は困惑していた。何故だか分からないが、この男は息子を庇っている。数年前に捨て、先程までその彼の事を道具としか思っていなかった男が、息子を庇っている。その行為は過去

の行為に対するこの男なりの償い方なのだろうか。それともまだ何かを企んでいるのか。

 出来れば冬月は前者であって欲しいと思っていた。それは純粋に人としての楽観的希望ではあった

が・・・。

 「あの話を信じるのか・・・?それ以前に、シンジくんのあの能力。あれはまるで――」

 「まるで使徒だな・・・・」

 「そうだ!お前だって勘付いているのだろう!あの話を信じる云々、あの能力をどうして彼は手に入れ

てしまったんだ!?」

 冬月は小声で怒鳴った。冬月は心配なのだ。昔から自分を表現する事を得手としていなかったこの

男が、息子を庇う。それ自体は本音なのだろうが、この男がすんなりとその様な行動に出るものか、理

解しがたいのだ。

 そして、冬月は、彼が発するかもしれない言葉に恐怖を抱いていた。

 「能力自体は大した問題ではない。しかし・・・・、シンジが使徒ならば――――殲滅するまでだ・・・。」

 恐怖は具現化し、冬月を襲った。冬月は絶句した。よもや、この男がここまで非情な男だったとは思っ

ていなかった。そして、恐怖と同時にふつふつと憤怒の感情が沸き起こってくるのを実感した。

 「碇・・、お前は自分の言っている事を理解しているのか・・・?」

 冬月は語尾が少々震えているのを実感していた。

 「理解している・・・・。しかし、もう一人のシンジには、親と子の常識的感情だけでは対抗出来ないの

かもしれん・・・・・。」

 実の所ゲンドウも、内心かなり動揺していた。

 ゲンドウはシンジの事が嫌いではなかった。むしろ愛していた。自分の愛した女性との間に出来た息

子だ。その女性と同じくらい愛していた。

しかし、ゲンドウは愛していたが故にシンジを親類の者へ預けた。自分と一緒にいると、シンジは決して

幸せにはなれないと思っていたからだ。

シンジを幸せに出来るという自信がなかった。ゲンドウは、それがただの逃避だということを理解してい

た。そして、シンジがその事を信じてくれないということを理解していた。

 (所詮、今となっては言い訳にすぎない・・・・)

ゲンドウは胸中で自嘲気味に呟く。

 「指令!よろしいですね!!」

 唐突にミサトの声がした。どうやら二人が話している間に発進準備は整ったらしい。

 「あ、ああ・・・。構わん・・・・。使徒を倒さぬ限り我々に明日は無い・・・・・」

 ゲンドウが必死に冷徹な司令官を演じ、ミサトはその言葉にただ頷くだけだった。

 「発進!!」

 ミサトは発進の指示を出す。その声に迷いは一切ないようにみえた。

 「シンジ・・・・お前は一体・・・・・・。」

 ゲンドウは誰にも聞こえない声でポツリと呟いた。




 「ぐぅううぅっぅぅぅううぅ!!!」

 体全体にGがかかる。先程ミサトが発進の命令を出してすぐになんの先刻もなしに体に力が作用した。

 Gは凄いものの、乗っている機体に横に揺れる振動は皆無だ。おそらくはリニアモートで動かしてい

るのだろう・・・・。

 (アイツはお前をEVAに乗せる為に呼んだんだぞ!!)

 カズヒコが言った言葉が頭の中に残っていた。

 (父さんにとって、僕は道具なのか・・・・!)

 (父さんにとって、所詮僕なんてその程度の価値しかないのか・・・・!)

 (父さんにとって、僕はやっぱり邪魔なのか・・・・!)

 (僕は・・・・僕は・・・・・・!)

 「なのになんで僕は父さんを護る為にコイツに乗ってるんだ・・・!」

 シンジは自分の中で渦巻く矛盾する感情に混乱していた。



 
 『エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!!』

 ミサトの声が内部スピーカーを通して聞こえてきた。

 目の前には使徒と呼ばれる怪獣がいる。

 そいつは何をするでもなくただこちらを眺めていた(目が有る様には見えないが・・・)

 ドクン・・・・

 胸の鼓動が妙に大きく聞こえる。緊張しているのだろう。

 自分の事を他人事の様に感じていた。

 しかし、不思議と恐怖感はなかった。

 (僕は・・・、知ってるんだ・・・・・。)

 (戦場の―――空気を・・・・・。)

 『シンジくん、取り合えず歩いてみて。』

 ミサトの声が聞こえてきた。

 「歩くってどうすれば良いんですか?」

 シンジは自分でも驚くほど冷静だった。それが発令所にも伝わったのだろう、ミサトが驚いたように言

った。

 『シンジくん・・・、随分落ち着いているのね・・・?』

 「そうですね・・・・。自分でも驚いてるんです・・・・。」

 『二人とも、今はそんな事を話している時ではないわ。目の前には使徒がいるのよ。』

 リツコの苛ついた声がEVAの内部スピーカーから聞こえてきた。

 その通りだ。目の前には人類の驚異(らしい)使徒がいるのだ。

 (取り合えず、どうやって倒そうか・・・・)

 「ミサトさん、使徒には弱点とか無いんですか?」

 『えっ?』

 ミサトは間の抜けた声をあげた。

 そして、シンジには聞こえ辛いが、スピーカーの向こう側では、

 『リツコ!どうなのよ!』

 『一応、あの使徒の胸の辺りにある光球じゃないかしら?』

 『確証は?』

 『ないわよ。』

 『そんな!無責任よ!』

 『無責任って、私は使徒とは関係無いわよ!!』

 『あんたの言う光球を破壊すると爆発とかしたら大変じゃないの!?』

 『爆発したとしてもここは大丈夫よ。』

 『私たちはともかく、シンジくんは!?』

 『シンジくんはEVAの中にいる限り安全よ。ATフィールドがあるもの・・・。』

 『シンジくんがATフィールドを展開出来るとは限らないじゃない!』

 『理論上大丈夫よ!!』

 『あんたねぇ・・・、ド素人の彼がすぐにそんな事出来る訳・・・』

 「ミサトさん!!来ます!!」

 シンジは叫んだ。先程まで沈黙を保っていた使徒がもの凄い駆け足でこちらに向かってくる。

 「くぅ!!」

 シンジは短く叫び、横に飛び退くイメージを想った。

 するとEVAはそれをトレースするように同じ動きをした。

 それにシンジは少なからず感動した。

 (思い通りに動く・・・・)

 そして希望が湧いてきた。

 (これなら、アイツの力を借りずに済む!!)

 僕(EVA)は再度使徒の方に向き直り、戦闘態勢をとった。

 右半身を前に突き出し、両手に力を入れず、ぶらりとさせる。

 人間を相手にする場合はボクシングのファイティングポーズの様な態勢をとるべきなのだが、相手が

未知の生命体であるため、それに対応する為にこの様なポーズをとることにしたのだ。

 ケンカの経験の無い筈の僕が何故この様な態勢をとるのか解らないが、頭の隅っこあたりで知ってい

た事を自然とEVAがそれをトレースする。

 使徒はこちらを見据え、再度沈黙する。

 「ミサトさん、弱点は・・?」

 『えぇ?えっと・・・・、赤木博士が言うには、胸のあたりの光球らしいわ。そこを狙って攻撃してみてちょ

うだい・・・。』





 「リツコ、どういうこと?最初はEVAが歩く事さえ心配だったのに、彼は横跳びした挙げ句、EVAを自

分の体の様に動かしているわよ!」

 ミサトは困惑を隠せなかった。資料で見たところ、シンジはケンカもしたこともない、どちらかと言えば

いじめられッ子なのだが、

彼の動きは、使徒の動きを予測していた?)

 運動神経も大して良い方ではなく、精神的にも彼は自虐的で、自分の殻に篭りがちであるため、初め

ての戦闘でEVAをまともに動かせるとは実際のところ期待していなかった。

 「解らないわ、彼は一体・・・・?彼には謎が多すぎる・・・・」

 「ケイジでの事も含めて?」

 「えぇ・・・。彼の跳躍力は常人的には決して有り得ないわ・・・・。」

 「だとしたら彼は「葛城一尉!!」

 発令所にゲンドウの声が響く。

 「は、はい!!」

 ミサトはかなりびびっていた。

 「作戦中は私語を慎みたまえ・・・・。」

 「はい・・・・失礼致しました・・・・。」

 ゲンドウに一喝され、ミサトはシュンとなった・・・。

 「先輩!!初号機のシンクロ率が上昇しています!!」

 「何ですって!!?」

 オペレーターである伊吹 マヤの叫びに似た報告にリツコは弾かれた様にディスプレイに向う。

 「50・・・、60・・・、70・・・・、80%を突破!!まだまだ上昇しています!!」

 「ちょ、リツコ!どーいう事!?」

 ミサトも気になったらしく、リツコ達のもとに駆け寄る。

 「シンクロ率、95%付近で上昇が収まりました!!」

 「凄い・・・」

 リツコは素直な感想を述べた。
 
 初めてのシンクロで、初めての戦闘で、ましてや初めて見るEVAで、よもやここまでの好成績を彼が

弾き出すとはリツコは予想出来なかった。いや、出来る筈がなかった。

 ドイツにいるセカンドチルドレンでさえ、天才と称されながらシンクロ率が80%を超えるのには数ヶ月

を要している。しかしどうだろう、この少年は彼女の努力を軽く跨いで行ってしまった。



 使徒が間合いを徐々に詰めてくる。シンジはその度に少しずつ後退し、常にその間合いを保ってい

た。

 体の芯が熱い。燃え上がる様な熱気を帯びているようだ。その熱気のお陰か、EVAと僕の間にあった

壁のような物は次第に薄れていく。まるで僕がEVA自身になるようだ。

 (弱点が胸の光球か・・・・。あれを狙うにはどうすれば・・・・)
 
 (接近戦に持ち込めば楽かもしれないけど、アイツの放つ閃光がうざったいな・・・・)

 (遠距離攻撃しようにも飛び道具もない・・・・)

 (飛び道具・・・・)

 (そうだ!!)

 シンジ(EVA)は隣に建つビルをイキナリ壊し始めた。がらがらと轟音を立てて崩れ落ち折るビル。

 『ちょっ、シンジくん!?何をしているの!!?』

 ミサトが悲痛な声をあげる。

 「いやね・・、飛び道具がないもんで、なんなら原始的に行こうかと・・・・」

 シンジ(EVA)は壊れたビルの破片を掴み使徒を再度見据えた。

 そしてバックステップで、使徒との距離を開かせる。

 そして、ある程度までさがり、そして、立ち止まる。

 『一体何をするつもりなの・・・?』

 「こうするんですぅ・・・よっ!!」

 ヒュゴゥという風切り音がしたかと思うと、シンジ(EVA)はその破片を持った腕を振りかぶり、思いっき

り使徒に向けて投げつけた。

 ゴガッ!!

 ビルの破片が使徒の腹部に直撃し、使徒は背後にふっとんだ。

 シンジ(EVA)はすぐさまダッシュし、使徒との間合いを詰める。

 使徒はダメージがあるのか、起き上がるのに手間取っている。

 シンジ(EVA)は使徒の立ち上がる前に、使徒付近まで到達し、思いっきり使徒の胸部を蹴飛ばした。

 使徒は再度吹っ飛び、とうとう他のビルに到達し、ビルを倒壊させた。

 ガラガラと音をたてビルは倒壊し、使徒の上に覆い被さるように崩れる。

 再度シンジ(EVA)は攻撃をするために使徒に近づく、そしてあと100m程の所で使徒は半身を起こし、
そして、次の瞬間使徒の目の前に正八角形の、オレンジ色の光が出現し、シンジ(EVA)の進行を妨げ

た。

 「小癪な!!」

 シンジはEVA内で吠えた。そして、バックステップで使徒との距離を広げた。

 「ミサトさん!!今のは何です!?空間に当然出現しました!!」

 シンジの質問に答えたのはミサトではなく、リツコだった。

 『ATフィールドよ!!それがある限り使徒には決して近づけないわ!!』

 「じゃあ、どうしろと!!?」

 『あなたもATフィールドを展開するのよ!!』

 「どうすれば良いんですか!!?」

 『理論上ATフィールドを展開出来るわ!!』

 「出来るかどうかを聞いてるんじゃありません!!どうするのかと聞いてるんです!!」

 『念じてみて!!』

 「・・・・・・・・・はぁ・・・?」

 『出て来てーーって念じるのよ!!』

 「もう良いですよ!!」

 シンジはリツコのあまりにも無責任な発言に腹が立っていた。

 『シンジくん!!あなたなら出来るのよ!!絶対に!!』

 「どうしてそんな事言えるんですか!!」

 『現にあなたは、さっき、ATフィールドを展開しているのよ!!』

 「えっ・・!?」

 『さっき、あなた、ビルの破片を使徒に投げつけたでしょ!!その時ATフィールドの発生を確認してい

るわ!!発生を確認しただけで、どのように使用したかは分からないけど・・・・』

 「僕がですか!!?」

 『えぇ、微弱だけどね・・・・。』

 「・・・・・・」

 (微弱だが、僕はATフィールド発生させた・・・。)

 (そもそもATフィールドってなんだ?)

 するとシンジの頭の中に自分と同じ声の別人が声を掛けてきた。

 (教えて欲しいか・・・・?)

 「!!出て来るなァ!!」

 『えっ!?シンジくん、どうしたの!?』

 リツコさんは、びっくりしたのか語尾が少々揺れていた。

 「えあ・・、いや、なんで・・もないです・・・・・。」

 (おいおい、気を付けろよ。事情を知らない奴が聞いたら、お前の事変に思うぞ?)

 (誰のせいだと思ってるんだ!?)

 (んな事どぉ〜でもいぃんだよ。それよか、お前、ATフィールドの展開方法知らねェんだろォ?)

 (だからなんだ?)

 (俺がお前と交代して、俺が使徒を倒してやる・・・・。)

 (断わる!!体を乗っ取られたら、その後お前は父さんを殺すつもりだろう!!?)

 (おいおい、俺ってそんなに信用無いか?んな事しねェよ・・。)

 (黙れ!!お前なんか信用出来るか!!お前なんかに頼らなくても僕は――)

 (来るぞ!!)

 (!!)

 使徒がシンジ(EVA)に向かって猛ダッシュしてくる。そして右腕を突き出し、閃光を放つ予備動作に

はいった。

 「こんのぉ!!」

 シンジ(EVA)はバックステップで使徒との距離を広げた。すると使徒は体勢を崩し、ふらふらしてい

る。

 「チャンス!!」

 シンジ(EVA)は使徒に向けて渾身の蹴りを放った。

 蹴りは使徒の胸部に命中し、ベコッと音を立て胸部は凹んだ。

 使徒は派手に吹っ飛んで、倒壊したビルに再度突っ込む。

 (気付いたか?)

 「何がだ!?」

 (奴は今ATフィールドを展開していなかった。)

 「だからなん・・・・・そうか!!」

 (そうだ。奴は自ら攻撃する前後はATフィールドを展開出来ないんだ。)

 「つまり・・・・・」

 (打ち終わりを狙え!)

 「おおおおっしゃああああ!!!!」

 使徒は再び閃光を放つため、右腕を振り上げた。

 シンジ(EVA)は使徒が閃光を放つまで、使徒の腕から目を離さなかった。

 (集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、)

 シンジは使徒の腕に全神経を集中した。

 (まだ来ない・・・・・、まだ来ない・・・・・、)

 しかし、使徒はいつまで経っても閃光を放たない。

 (まだか・・・?まだか・・・?)

 時間がスローに感じる。

 (シンジ!!足だ!!)

 カズヒコが叫ぶ。シンジは彼の言葉に従い、使徒の足を見る。しかしその時には使徒の膝がEVAの

顔面にめり込んでおり、まともにその足を見ることは出来なかった。

 ドコォッ!!

 「ぐはっ!?」

 シンジは困惑していた。
 
 (何が起きたんだ!?一体何が起こったと言うのだ!!?)

 (膝だ!!使徒はお前に膝蹴りを喰らわしたんだ!!あの貧弱そうな足で!!)

 (違う!!何で僕が痛いんだ!!?)

 (EVAとシンクロしているお前に、EVAのダメージがそのままフェードバックされたからだ!!)

 なんて非人道的な兵器なのだろう。シンジは胸中で愚痴った。

 ドギュッ!!

 使徒はシンジ(EVA)がよろめいたのを見ると、お得意の閃光を放った。

 そしてそれがEVAの右目の部分を貫いた。

 「があああああああああああ!!?」 

 シンジはプラグ内で右目を抑え、蹲った。

 (何をしている!!?前を見ろ!!使徒がくるぞ!!!)

 「痛い・・、痛いィ・・・・!」

 (だああ!!仕様がない!!!シンジ、交代だ!!俺が出る!!!)





 「シンジくん!!」

 ミサトは使徒の放った閃光をモロに顔面に喰らったEVAを見て悲鳴をあげた。

 (やはり、彼には無理だったのよ!!)

 「シンジくん!!逃げて!!一旦後退するのよ!!」

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 ミサトの声に。スピーカーの向こう側は反応しない。

 「シンジくん!!気絶してるの!!?起きて!!後退するのよ!!!」

 ミサトは何度も問い掛ける。しかし無情にもスピーカーの向こう側からの反応はない。

 その隙に使徒はEVAに近づき、EVAの頭を鷲掴みした。

 「ああ!!シンジくん!!お願い!!目を覚まして!!!」

 EVAの頭を鷲掴みしている使徒の腕が膨らみ、腕が光る。閃光を放つ予備動作だ。

 「シンジくん!!!」
 
 『うるさいなぁ・・・・・ミサトさん・・・・。そんなに大声出さなくても聞こえてますよ・・・。』

 スピーカーからシンジの声が聞こえてきた。しかしその声はどうにもその場には馴染み辛い、冷静す

ぎる声だった。




 (やめろ!!お前は出て来るな!!)

 頭の中でシンジが騒いでいる。昔の俺・・・。弱い俺・・・。

 弱いくせに俺の言う事成す事に一々反抗しやがる・・・・。

 「だまれ・・・。お前は何も出来なかった・・・。そこでおとなしく俺の戦いを見ていろ・・・・。」

 (やめろ!お前は何もするな!!僕の体だぞ!!)

 「悪いが無視させてもらう・・・。使徒を倒さんねばならんのでな・・・。」

 EVAの頭を掴んでいる使徒の腕が閃光を放つ予備動作に入っている。

 「避けにゃいかんな・・・・・」

 カズヒコ(EVA)は頭を掴んでいる使徒の手首を左手で掴み、右手で使徒の肘を掴んだ。そして左手

を右方向に、右手を左方向にクロスさせた。

 ごきゃっ!!

 使徒の腕が有り得ない方向に捻じ曲がった。そして頭を掴んでいた手の力を一瞬、緩めた。

 その隙をカズヒコは見逃さなかった。

 使徒の腕を振り払い、そして左手を使徒の胸部、光球にあてた。

 するとEVAの腕に目映い光が集り、目の錯覚か、EVAの腕が少しだけ大きくなったようにみえた。

 「喰らうが良い!!サキエル!!お前自身の能力で、朽ち果てろ!!!」

 カズヒコは吠えた。

 以前、自分を屠った使徒に対する恨みに似た感情が、今、カズヒコの中で渦巻いている。

 EVAの腕に集約した光は、先程まで使徒が放ち続けていた閃光に、酷似・・・、いや、まったく同じも

のだった。

 (何だ!?何が起こっているんだ!!?)

 シンジが喚く。頭の中で、陸に上げられた魚のように悪あがきをしている。

 「俺のやる事成す事に一々ギャ―ギャ―喚くな・・・・。」

 (この光はなんだ!!?)

 「これか・・・・?これはお前がコピーした能力だよ・・・・。」

 (な・・、なにィ・・・?)

 「お前の能力でコピーした能力・・・・・。本来は俺の能力だったんだが、先程、お前の中に入り込んだ

際に能力をお前に移した。」

 (な、何故・・!?)

 「サキエル倒してから教えてやるよ。それまでおねんねしてな」

 ふいに、カズヒコの視界を通して意識内で見ていた景色が歪曲し、ついには見えなくなった。

 そして僕は気を失った。








 あとがき・・・・・・?
 
夢とは儚いものかもしれない・・・・。
幻想かもしれない、虚無かもしれない・・・・。
だが、結局人は夢をみる。それが希望か、もしくは絶望か・・・・。
第三者はそこへ立ち入る事は許されない。
何故なら夢こそが、人それぞれの、本当の自分が隠れている場所なのだから・・・。
そここそが、人の回帰すべき聖域であるから・・・・。
「何、後ろ向きな事かいてんのよこのシャバ憎が!」
いつもと微妙にテンションが違いますね、ユイさん。
「誰のせいなのかしら!!?」
U.Tでしょうね
「なんで!!?」
あの微妙なCGがユイさんの精神を汚染したのですね!!許せん!!成敗してくれる!!!
「やめれ」廻し蹴り→後頭部に突き刺さる
どげすっ
ぎゃっ
い、イキナリ酷いですよ、ユイさん。
「御免なさい、今度から蹴るって言ってから蹴るわね」
いや、それはそれで十分嫌ですけどね・・・・
「じゃあ、どうすれば良いの?私のこのやり所ない怒りはどうすれば良いの?」
あっ、それでしたら空手をお勧めしますよ。僕もやってますし。
「あ、あんたが武道を・・!!?」まじまじと羊を見る
「似合わない」
あぁ、それ言わないでぇ・・・
「それにしても、なんで空手?」
ストレス解消に最適!さらに脚もスラッとなりますよ、内腿鍛えますから。
「私の足が太いって言うの!!!?」
えっ、いや、そんな他意はまったく無いけど、ひょっとしたらあるかもなんて・・・・
「蹴るわよ!!!」右足刀を蹴り上げる
んぎゃっ  足刀が顎にヒットする。
                      では、さよならです。羊でした・・・・


マナ:やっぱり最後はお任せになったわね。

アスカ:シンジも意地はらなきゃいいのに。

マナ:どうしても、自分の体を使われるのが嫌だったのよ。

アスカ:まぁねぇ。アタシの体をアンタが使うと思ったら・・・。ぞぞぞぞぞ。

マナ:なんで、寒気よっ!

アスカ:後遺症で、胸が選択板になったらどーすんのよっ!

マナ:コロス!(ーー#
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