エヴァンゲリオン-MPD−

 CASE:03  兄妹





 


シンジが気を失い、カズヒコが叫んだ次の瞬間EVAの右腕から閃光が放たれた。その閃光は使徒

のそれと、非情に酷似しており、その閃光はまっすぐと目標へと向かい、使徒の胸部、球、コアを貫

いた。

 「・・・・・・・!!!!」

 使徒は声に成らない悲鳴を上げた。

 「!!!!!!」

 そして使徒はEVAに絡みつくように抱きつき声に成らない咆哮をあげた。

 『!!シンジくん!!!』

 スピーカーからミサトの声が聞こえる。

 (叫んだところで何に成る?)

 カズヒコは胸中で呟く。

 (所詮、自分の復讐の為に俺たちを手駒に使うような奴だ・・・・・。)

 (本当のところ心配なんかしてないんだ・・・・・。)

 (・・・・・・・・・・・・大嫌いだ・・・・・・。)

 使徒の体が発光し、次の瞬間第三新東京市に爆音が響いた。

 爆音は大地を揺るがし、ビルを一部倒壊させ、爆風はEVAを覆い尽くした。

 



  相田 ケンスケはシェルターの天井を見上げる。案の定、見上げた先には質素だが、頑丈そうな天

井と、それから吊るされた蛍光灯が有るだけであった。自分が望んだ光景だけを透視して見れるわけ

がないのだが、ケンスケはせずにはいられなかった。何故なら彼は生粋のミリタリーマニアであり、好

奇心旺盛の中学生だからである。

 今、直上何が起こっているのか彼は非常に気になっている。何故なら滅多に発令されない緊急警報

が発令され、更に、滅多に使用しないシェルターに強制的に避難させられたのだ。何かあったとしか思

えない。

 ケンスケは天井から目を離し、傍らに置いてあるノートパソコンを取り上げた。手順通りにパソコンを

起動させ、携帯電話とパソコンを端末で接続させる。ケンスケは父親のパソコンへの侵入を試みた。

 しかし、画面には・・・



 NOT FOUND



 の一文のみがある。

 何度試しても同じであった。

 ケンスケはパソコンを一旦閉じ、傍らへ少し乱暴に置いた。

 がちゃっ

 と少し大きめの音がした。その音にピクリと反応して、先程までケンスケの右隣に寝転んでいた黒い

物体がのそりと起き始めた。

 物体は数秒を要して起き上がると、さらにゆっくりと辺りを一望する。

 「ああ〜〜〜」

 物体は間の抜けた声を上げ、未だ眠そうな目を擦りながらケンスケの方を向く。

 ケンスケはその黒い物体、黒の上下のジャージに身を包んだ、鈴原 トウジと目が合った。

 「おはよう。よく寝れたかい?」

 ケンスケは極、普通の口調で話し掛けた。実際のところ、情報規制、父親のパソコンへの侵入の失敗

が重なって、内心かなり苛立っていたのだが、それをトウジにぶちまけるのは、どうも情けない。いや、

トウジの言葉を借りるとすれば、「男らしゅうない!!」だ。

 「ああ〜〜〜」

 トウジは未だに未覚醒状態の為、眼が虚ろだ。

 「おぉ〜〜い。トージーーー。起きろォーーー。」

 「おお・・・・・・・おお・・!?」

 トウジはやっと眼の焦点が合ってきた。そして、改めてケンスケの顔をまじまじと見つめる。

 「な・・・、なんだよ・・?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「ト、トウジ・・・?」

 ケンスケは少々心配になってきた。トウジの事もだが、自分の事もである。

 (まさか、委員長と間違えて俺を襲うつもりじゃないだろうな(汗))

 「おっ?ケンスケ?おはようさん。ふはぁ〜〜〜〜。よう寝たな〜〜〜〜」

 ケンスケの無意味な心配は即効で打ち消された。

 多少ずっこけながらケンスケはパソコンの隣に置いてあった、自前のビデオカメラを取った。

 「びっくりさせるなよ・・・。自分の貞操の危険を感じた僕が馬鹿みたいじゃないか・・・・。」

 「んあ?何を言うとるんじゃ、ケンスケ。ケッタイな奴やなぁ・・・・。」

 「気にしないでくれ・・・。」

 ケンスケは手中のビデオカメラを弄りながら溜息混じりに言った。

 そもそも、委員長と間違えて襲うという考え自体が間違っていた。トウジは決してそんな事をする男で

はない。決して曲がった事をする男ではない。

 まぁ、それ以前に、そんな事を出来るだけの度胸があればとっくに委員長とトウジはゴールインしてい

る筈だが・・・。

 「ふわぁ〜〜〜眠い・・・・・。」

 トウジは眼を擦りながら再度呟く。

「眠いのは分かったよ。んな事より、これを見てくれよ・・・。」

 ケンスケは弄っていたビデオカメラの画面をトウジに見せた。

 「んん?」

 トウジは身を乗り出し、見え易い位置へと顔を移動させる。

 画面には次の文章が記されていた。


 本日正午に、東海地方を中心とした関東・中部地方の全域に特別非常事態宣言が発令されました。

 詳しい情報は入り次第、お伝えします。


 「なんじゃこりゃ?」

 「事実の隠蔽だよ、こりゃ。」

 ケンスケは愚痴る。自分の中に流れる軍人の血が(勝手な思い込み)騒いでいるのが実感できる。

 その血の騒ぎが、正義感なのか、単なる好奇心かは自分でも判別出来ない。しかし、見なければなら

ないという、奇妙な使命感が彼には有った。

 「なぁ、トウジ・・・。」

 「なんや?ふわァ・・・」

 「外に出てみようぜ・・・」

 「ふわぁ・・・・・あぁ!!?」

 トウジが素っ頓狂な声をあげる。

 「何を言うとるんじゃお前は!!外になんか出・・もがもがが・・・・」

 トウジの叫びの最後の方は、ケンスケに口を抑えられ発する事はついに叶わなかった。

 「ば、馬鹿!!大きな声で言うんじゃない!!皆が変に思うだろ!!」

 「もががもががが!!(離せケンスケ!!)」

 「大声を出さないって約束すれば手を離してやる。」

 「もがもが(こくりこくり)」

 ケンスケはトウジの口から手を離した。

 「ケンスケ、何を言うとるんじゃ・・!外が危ない事はお前が一番わかっとるはずやぞ・・!!」

 「ああ、分かってるよ・・・。でもさ・・・、僕は・・」

 「ちょっと二人とも、大声で騒がないでよ。私達だけでココ(シェルター)を使ってるわけじゃないんだか

ら・・・。もうちょっと自嘲してよ・・・」

 二人の密談は背後からの第三者の発する、多少、怒気の篭った声に中断させられた。

 二人はまったくの同時に後ろに振り返る。そこには一人の少女が立っていた。

 多少そばかすの残ったお下げ髪の少女だ。

 『あっ、委員長・・・』

 二人は全く同時に、全く同じ言葉を発した。

 委員長というのは、愛称(と、言ってもこちらが一方的に呼んでいる)で、本名は洞木 ノゾミ。学級委

員ではないのだが、何かと世話好きで、皆の纏め役を買って出る人物なので、愛称が委員長なのであ

る。

 「特に鈴原!!ここにはあなたの妹も一緒にいるんでしょ!?恥ずかしくないの!!?」

 委員長はもの凄い剣幕でトウジに迫る。ケンスケはその光景を苦笑しながら眺めていた。トウジの何

かに気づいたような表情を見るまでは・・・

 「そうや・・・・、ナツミは・・・?」

 トウジは呟きながらすくっと立ち上がった。

 「いつもやったら、世話好きの・・・、委員長に良く似たあいつは・・・・・・、」

 「と、トウジ・・?」

 ケンスケはトウジの何かに取り付かれたような表情に驚きながら彼に声をかける。

 「ワイの所に来る筈や・・!世話好きで、心配性なナツミは・・!!ワイの所に来る筈や!!」

 トウジはそう言うや否や、もの凄いスピードで駆け出していた。

 「ちょっ、トウジ!!待てよ!!」

 ケンスケも慌てて立ち上がり彼の後を追う。

 委員長はというと、ただ呆然とそこに立ち竦むだけであった。

 「洞木さん?どうしました?」 

 「ひゅあ!!」

 背後から聞こえた枯葉のような声に委員長は飛び上がらんばかりに驚いた。

 振り返るとそこには彼女達のクラスの担任である老教師、吉川教授が立っていた。

 「あの二人はどうしたのです?もの凄いスピードでしたね?」

 「えっと、あの・・、二人はその・・・・・トイレです!」

 「トイレ?」

 「そ、そうです!!トイレです!!ま、まったく、我慢出来なくなる前に、ちゃ、ちゃんとトイレに行くべき

ですよねェ・・?」

 委員長は何故自分が二人を庇ったのか今ひとつ自分でも納得出来なかった。しかし、彼女には二人

を庇う必要性があるように感じていた。それは使命感で、ほかのどの要因よりも優先される事項なの

だ。

 「トイレですか・・・」

 「ええ・・、トイレです・・・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「分かりました・・・。あの二人はトイレですね?分かりました。あなたは指定された待機位置で、この

宣言が解除されるまで待っていなさい。くれぐれも一般の方に迷惑をかけないように・・・。良いです

ね?」

 「は、はい!!分かりました!!失礼します!!」

 委員長は吉川の言葉を聞くや否や、もの凄い勢いで元居た場所に戻っていった。

 

 「トウジ!!どうしたんだよ!!おい、トウジ!!!」

 ケンスケは自分の前方を疾走する黒いジャージに叫びかける。

 「確信があるんや!!」

 「だから何が!!」

 「ナツミは!!アイツは絶対ワイの所に来るんや!!ワイが馬鹿やらかさんように!!」

 「だからそれが何だって言うんだよ!!」

 「ナツミは、シェルターにおらんのや!!」

 「何ィーー!!?」

 ケンスケはトウジの発言に飛び上がらんばかりに驚いた。

 「シェルターにおらんとしたら外や!!あいつはまだ外におるんや!!」

 ケンスケは走りながら舌を巻いた。 トウジは決して頭が良い方ではない。どちらかと言えば悪い部類

だ。

 しかし、彼は妹の事となると、瞬時に頭を働かせ、更にはそれに伴う行動を起こす。

 素晴らしい兄弟愛などという安い言葉では決して表し得ない程の愛がこの兄妹の間には存在する。

 ケンスケはそれが羨ましく感じた。一人っ子で有るが故に感じる孤独。

 ケンスケはトウジの愚痴をよく聞く。それは専ら妹の事だ。妹と喧嘩しただの、妹と買い物に行ったが

自分を荷物もちにするだの、脱いだ服をそのままにするなだの・・・、そのような愚痴をよく聞くのだ。

 しかし、ケンスケには分かっていた。トウジの妹に対する深い愛情。そして、そのトウジが妹にも愛さ

れている事。

 ケンスケはそれが羨ましかった。喧嘩の出来る弟か妹が欲しいと彼は小さい頃からずっと抱いてい

た。

 よく、弟がウザイだの、妹がウザイだの、愚痴を聞くが、それは贅沢だと彼は思う。一人っ子には喧嘩

出来る兄弟が存在しない。

 トウジにはその存在がある。喧嘩しようと、どうしようと、彼らは深い所で繋がっている。

 そう言う繋がりがケンスケの求める物だ。

 しかし、彼は一生涯かけてもそれを手にする事はないだろうと、自分自身で思っていた。結婚して、義

兄弟が出来ようとも、彼らとは、本当の兄弟関係は築けないだろうと思っていた。それ以前に自分が結

婚出来る訳がないと諦めていた。自分の容姿が人並みか、もしくはそれ以下だと彼は思っていた。性

格だって、特に優しいとは思っていなかった。趣味だって決して万人ウケする物ではない。

 だが、彼はそれで良いと思っていた。

 彼は自分自身を偽るつもりは毛頭なかった。何故なら彼は自分自身が好きだからだ。

 それだけは自分自身で誇る事の出来る事であった。




 爆炎の中、ひとつの巨大な人影があった。

 EVAである。紫色に照り輝く装甲、鬼のような眼光、一直線に天に伸びる角、まさに巨人。

 天使に鉄槌を下す神の代行者。EVA。

 俺はその中にいる。自分自身が天使でありながら・・・・。

 (天使が天使に判決を下す・・・。一体何の権限が有って・・?)

 (同じ天使の分際で・・・・・)

 『シンジくん!!聞こえる!!?聞こえたら返事をして!!』

 EVAの内部スピーカーからミサトさんの声が聞こえる。声だけでわかるくらい焦っていた。

 「ええ、聞こえます。聞こえてますよ。」

 俺は、多少投げ槍に応えた。

 『そう、良かった・・・。今、帰還ルートを指示するから、もう少し待っててね』

 「分かりました・・・・。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
プラグ内を沈黙が包む。

瞳を閉じれば完全なる無の世界だ。

あの紅い世界よりも大分マシな無の世界・・・

 そして眼を開ければ・・・、

 EVAを通して視界に入る第三東京市・・・。使徒を迎撃する為だけに存在する街。

 それ以外に存在意義のない街・・・。

 昔は友という欠け替えの無い物が俺にもあった。しかし俺はあの時以来、

 全てがひとつになってしまって以来、俺は孤独だ・・・。

 何故なら俺は一つになる事を拒絶したから・・・。

 皆を拒絶したから・・・・。

 俺は孤独だ・・・。

 しかし、決して寂しくはない。決して苦しくはない。

 何故なら目的があるからだ。ゲンドウを殺す事・・・。

 そして・・・、アスカを・・・・、アスカを幸せにする事・・・・。

 


 ・・い!!この・・・足・・・けろや!!・・・そ!こんの・・・・・・がぁ!!



 沈黙だけだった世界に突如何者かの喚き声が乱入してくる。

 そして俺はその声に聞き覚えがあったように思える。

 声は足元から聞こえてきた。俺はEVAの視界を足元へと移動させた。

 するとそこには黒のジャージを着込んだ少年が必死になってEVAの足を何かからどかそうとしてい

る。

 その何かは・・・、

 年端もいかぬ少女・・・・。
 
 俺は・・・・、少女を踏みつけていた・・・・。

 次の瞬間、俺の心の中にもの凄い痛みが走った。

 俺は孤独な筈なのに・・・、

 俺は他人を求めなかったのに・・・・、

 なのにどうして・・・、俺は後悔する・・・・。

 分かっていた事だ・・・・。

 回避しようと思えば回避出来た・・・。

 なのに俺はしなかった・・・・・。

 



最低だ・・・・俺って・・・・・・・・・




自重気味に胸中で呟く事しか出来なかった。





 あとがき(羊からのお願い)


MPD以外に書いてる小説があるのですが、その小説、都市伝説をモデルにした作品なんです。
んで、皆さんにお願いがあります。
この拙い小説を読んでくれた皆様にお願いです。
面白そうな都市伝説がありましたら、羊までメールしてください。お願いします。ではでは・・・・


マナ:鈴原くんの妹が大変なことになってるよー。(@@)

アスカ:これは・・・鈴原のヤツ、怒るわね。

マナ:急いで、病院に運ばなきゃ。

アスカ:無事だったらいいけど。

マナ:ネルフの技術を使えば、なんとかならないかな?

アスカ:うーん・・・MADに治療させるのは、もっと危険かも。(ーー;
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yukorika@hotmail.com

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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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