エヴァンゲリオン-MPD−

 CASE:07  親子


 意識が次第にハッキリしていく。視界が次第にクッキリしていく。
 
 自分が今何処にいて、何をしていたのか、それだけが、未だにハッキリしないが、意識だけが鋭

敏になる。

 都合の悪い記憶を自分の中に押さえ込んでいるようだ。
 
 辛い現実を直視したくないという想いが強いのだろうか。

 思い出さなくてはならない・・・。でも思い出したくない・・・・・。

 「シンジに・・・・代わったのか・・・・・?」

 シンジ・・・・・

 それが自分の名前だという事を理解するのには当然のことながら一瞬にして察した。しかし解せ

ないのが、『シンジに代わったのか?』という父の発言だった。

 

 父?


 
 父親?

 僕を親類に預けた父親。僕は父に呼ばれて此処に来た。

 何処に?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 NERV・・・・・・

 幾つもの単語が僕の中で螺旋を綴り、そして次第にそれが記憶として成り立つ。

 僕は・・・・・父親を殺しかけた・・・・・・

 次の瞬間、その記憶がフラッシュバックする。

 頭の中を光が点滅を繰り返し、次第に湧き上がってくる不快感。

 血が逆流するかのような錯覚を覚える。

 頭が痛む。

 割れそうだ。

 「と、父さん・・・・・・」

 僕はやっとの事で口から擦れた声を出す事に成功した。頭痛で掠れる視界に、父と思しき人物

がいる。その人物に声をかける。

 「どうしたのだシンジ・・・?」

 父が僕に不安気な声で声をかける。

 その声が今の僕にはとても頼り甲斐のある声に聞こえた。

 「頭が痛むのか?シンジ・・!?大丈夫か!?」

 父がデスクから立ち上がり、僕の方へ駆け寄ってくる。

 「ち、近づかないで、父さん・・!!!!」

 僕は精一杯声を張り上げ、父を静止する。声を発するのにかなりの労力を用いた為、一瞬意識

が飛びかけた。それ程、僕の頭の中に響く痛みは酷かった。

 「近づかないで・・・、いつアイツが出てくるか分からない・・・・、だから・・・・・」

 「シンジ・・・・」

 「だから・・、僕に近づかないで・・・・・・・」

 それが僕の父に対する精一杯の気遣いだった。

 


 『精々、息子には優しくしてやれよ』

 カズヒコの言葉はゲンドウの心を強く揺さぶった。

 それはゲンドウの心の箍を外すのに十分な程の衝撃を備えた言葉であった。

 息子に対する愛。

 それが人一倍強いとゲンドウは自負していた。そして最も父親らしからぬ父親だとも思っていた。

 自分は不器用だ。だがそれを理由に息子を避けていた自分は非常に弱い人間だ。

 息子から逃げていた自分は非常に情けない人間だ。

 だが、ゲンドウはもう逃げようなどと思わなかった。

 今更手遅れかもしれない。恐らく自分はカズヒコに殺されるだろう。

 それ程、カズヒコの憎悪は強大であるのはすぐに知れた。

 だが、殺されるまでの間、せめてその間だけ、償いをしたい。

 シンジを愛する事を行動で表したかった。

 せめて、殺されるまでの間だけ・・・・・、父親になりたかった・・・・。

 本当の・・・・・、父親に・・・・・・・・



 伊吹 マヤ

 赤木 リツコの直属の部下で、先輩と後輩の間柄。
 
 彼女は先輩、赤木 リツコを尊敬していた。技術者として、科学者として、そして、

 女として尊敬していた。

 優秀という言葉は先輩の為にある言葉だと彼女は信じて疑わなかった。

 天才という言葉は先輩の為にある言葉だと彼女は信じて疑わなかった。

 それが絶対だと彼女は信じて疑わなかった。

 自分が心を寄せる人物であった。

 愛する人物であった。

 先輩以上に自分が心惹かれる人物など居ないだろうと彼女は信じて疑わなかった。

 だが、その考えがこの日、使徒再来の日に徹底的に覆された。

 碇 シンジ。そして彼の中に存在するカズヒコという存在に彼女は惹かれていた。

 何故、彼女がカズヒコの存在を知っているのか。

 知っている筈の人物は、当事者である碇 シンジ、そして彼の父親の碇 ゲンドウ。そして先程

から司令室で一部始終を見ている冬月 コウゾウの三名だけの筈なのだ。

 しかし、彼女は知っているのだ。

 彼女は、カズヒコが始めて姿を表した現場をMAGIを経由して見ていた。
 
 その時の本来の予定は、ケイジにいるリツコの様子が見たかった為、MAGIの記録に残らない方

法で、ケイジを盗み見ていたわけだ。

 愛しい先輩は何をしているのだろうと内心ワクワクしながらケイジのチャンネルを開いたのだ。

 そして、シンジが強化ガラスを打ち破り、ゲンドウを蹂躙する様子を見ていた。

 カズヒコとゲンドウの遣り取りを一部始終見ていたのだ。

 無論、音声も拾えたので、会話も半ば、盗聴気味に聞いていた。

 そして、彼女はカズヒコという人格を恐怖すると同時に強く惹かれた。

 間違いなく彼はMPDなのだ。少なくとも彼の中には二人以上の人格が存在している。

 心理テストさえ受けていないシンジを、何故か彼女は信じていた。彼は間違いなくMPD、多重人

格者なのだと信じて疑わなかった。

 「先輩・・・・」

 マヤは、デスクに向ったまま背後にいるであろうリツコに声をかけた。

 「何?」

 返ってきた返事は彼女らしく酷く簡略であった。

 それに完璧に慣れているマヤは大して気にせず言葉を続けた。

 「シンジくんって・・・・、おかしいですよね・・・・・」

 「どういう意味?」

 「・・・・・・初めての戦闘でシンクロ率が最高90%以上を弾き出して、戦闘訓練さえ受けていない

のに、使徒を殲滅した・・・・・・。常識では、考えられません・・・・・・・」

 「ここで常識って言葉を使わない方が良いわよ・・・・。」

 「えっ?」

 「俗世間から見れば私達は非常識な世界にいるのよ」

 「そうですけど・・・・、でも・・」

 マヤは振り返った。そして唖然とした。

 今まで見たことも無いくらい悔しそうな顔をしたリツコがそこにいたのだ。

 「せ、先輩・・・・?」

 「シンジくんは・・・・、非常識な私達にとっても非常識な存在なのよ・・・・。何かがある筈・・・・・」

 リツコはぶつぶつと、それこそ消え入りそうな声で呟いていた。

 「きっと、何かがある・・・・・・。見てなさい・・・、絶対に尻尾を掴んでやる・・・!」

 赤木 リツコの酷く殺伐とした言葉が、マヤの耳にこびり付き、離れなかった。

 そして初めて彼女はリツコに対して恐怖を感じた。

 


 「と、父さん・・・、カズヒコと・・・、何があったの・・・?」

 シンジは呟いた。痛みは引く事を知らないのか、さらにその勢力を拡大していく。

 その過酷な状況下で、シンジは意識を保っていた。

 「カズヒコは・・・・・」

 ゲンドウはそこで言葉を区切った。カズヒコなら兎も角、シンジに委員会やらサルベージの話をし

た所で、彼は理解出来ない筈だからだ。

 「カズヒコは・・・・・・・、私にチャンスを与えてくれた・・・・・」

 「チャンス・・・?」

 「カズヒコは・・・・、私に・・・・・、償いの機会を与えてくれたのかもしれん・・・・・・」

 「償い・・・・・?」

 「シンジ・・・・、お前に対する償いだ・・・・・。」

 シンジはゲンドウの言葉が信じられなかった。

 今父さんは何と言った?

 償う?

 僕に対して償うと父さんは言ったのか?

 「今更言ったところで信じてもらえるかわからん・・・・・。だが、シンジ・・・・」

 ゲンドウは目頭が熱くなってきた。頬に涙が伝う。

 「私は・・・・、お前を愛している・・・・・・」

 涙が止め処なく流れる。

カタルシスの涙

そんな単語がゲンドウの頭の中を過ぎる。今まで言えなかった言葉がとうとう言えた。

 「と、父さん・・・」

 シンジはゲンドウの言葉を聞き、そして同時に涙を流した。

 そしてそれもシンジにとってカタルシスの涙だったのかもしれない。

 親子は互いを見詰めあい、そして涙する。

 シンジは、ふらふらと頼りなさ気に、ゲンドウに近づいてく。

 そして同時にゲンドウもシンジの方に向ってゆっくり歩み寄る。

 そして、ゲンドウは、シンジを優しく抱きしめた。自分のした所行をこの時悔いた。

 そして、シンジに対して、今まで出来なかった分の愛を奉げようと思った。

 「父さん・・・!父さん・・・!!」

 シンジもゲンドウにしがみ付く。

 この時、碇 シンジと碇 ゲンドウは心の奥深くから和解した。

 同時にゲンドウは思った。

 (人は、補完などしなくとも生きていける・・・・・・)

 (私は今、幸せだ・・・・・)

 (人類補完計画を・・・・・・破棄する・・・!!)

 (カズヒコ・・・・。お前は何処か正しいよ・・・・・)

 愛するシンジの中にいるもう一人のシンジの言葉を噛み締めるゲンドウ・・・・。

 (償いの期間は短い・・・・、だが私は精一杯償う・・!!)

 (すまなかったな・・・、シンジそして・・・・・、)




 (カズヒコ・・・・・・・・)



 
 ドクンっ・・・・・・

 心臓の音が大きく聞こえる。

 ドクンっ・・ドクンっ・・・

 次第にテンポが速くなる。

 新たなる人格が脈動を開始する。

 新たなる人格というと多少語弊がある。

 その人格は最初から存在していた。

 そして、常々傍観していた。

 彼の、彼らの行いを傍観していた。

 そして彼は活動を開始する。

 狂い始めた歯車を正す為に・・・・、

 サードインパクトは起こらねばならない・・・・・。

 我はα也 Ω也・・・・・
 
 この世界の異分子である存在を抹消し、再びこの世を正さねばならない・・・・

 既に、準備を行い始めている。

 準備に時間はかかるだろうが、肝心のサードインパクトまでには間に合うだろう・・・・・

 この世は・・・・、原初に回帰せねばならない・・・・・・・

 彼は信じて疑わなかった。

 自分こそが絶対であると・・・・、信じて疑わなかった。

 

                                    つづく



 あとがき(ごめんなさい

 何故かゲンドウが優しい(笑)
 自分でもびっくりするくらい優しい・・・・・・・
 ある意味、これも冒険ですよね??
 何故、優しいゲンドウを書くに至ったか・・・・・
 それは、作者にとっても永遠の謎です(マテ
 
 MPDの加筆をやってて思ったのですが・・・・・

 『普通に書くよりめんどくさい!!!』

 という、作者業を完全に舐めきった感想を抱いてしまいました・・・・・。ごめんなさい・・・。
 「全国のEVA二次創作作家に土下座して謝りなさい!!!!」ぐりぐり
 痛い、痛い!ユイさん!僕の頭をアイスクリームを救って丸めるやつで抉らないで!!!
 「煩い!!まだEVA二次創作作家になって二ヶ月くらいしかやってない奴が何てこと言うのよ!!!!!!!!」
 だって、普通に書くのは楽しいんですけど、加筆って、その時の事思い出しながら書くから、とっても大変で、羊、困っちゃう(はぁと)
 「気持ち悪い!!」どすっどすっ
 傘の先っぽで突かないで!!!痛い!!!!!
 「もうやだぁぁ!!!こんな奴とあとがきなんてもうしたくないよぉ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 あとがきをしろ。でなければ帰れ!!
 「何様よあんたぁーーー!!!!!」
           あとがき再強制終了(爆)


アスカ:マズイ! 碇司令にシンジを取られるぅっ!(ーー)

マナ:は? 何が取られるのよ?

アスカ:愛してるって・・・求愛してるじゃない。うーん、ダークホースね。

マナ:そういう意味じゃないってば。(ーー)

アスカ:シンジはファザコンっぽいとこあるから、強敵出現だわ。(ーー#

マナ:だから・・・。
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