エヴァンゲリオン−MPD−

 CASE:10  三人目


 「いや、だからミサトさん、違いますって」

 シンジは必死になって先程のレイとの行為を弁明する。顔を真っ赤に上気させ、目を潤ませ、さ

ながら子犬を連想させる。

 「どうだかぁ〜〜。ねぇねぇ、シンジくんて前の学校の時からプレイボーイだったの?」

 ミサトはシンジの弁明を完全に無視。というよりも、楽しんでいる。

 言っちゃなんだが、趣味が悪い。

 「違いますよ!僕、まともに女の子と話したの、これが初めてです!」

 「嘘ばっかり言っちゃって・・・。可愛い顔してやる事はしっかりやってるのねぇ・・・・」

 「だぁ〜〜かぁ〜〜らぁ〜〜〜〜」

 延々と、この会話が続くのかと錯覚してしまいそうだ。シンジは胸中で呟いた。

 そもそも、何故、こんな事になったのか・・・。

 自分は、ファーストチルドレン、綾波 レイのお見舞いに来た筈では?

 その筈なのだが、予想以上に、彼女が美少女だった為、舞い上がり、更にはレイからの猛アプロ

ーチ。健全な中学生ならこれに舞い上がらないわけがない。あがらなければ、それはそれで問題

ありである。

 それに悪ノリ(?)して、彼は危うく彼女のピンク色の柔らかそうな唇を奪ってしまうところだった。
 
 ふと、シンジは気付いた。

そう言えば、彼女は入院している筈である。

 だが、一見したところで、 怪我等の類は見られない。では病気なのだろうか?

 それにしては顔の血色も良く、とても病気には見えない。

 「そ、そう言えば、ミサトさん・・。どうして綾波さんは入院してるんですか?」

 「えっ?」

 ミサトは目が点になった。その質問が、まるで其処に有ってはならないのか、もしくは、その質問

が有り得ないのか、そう言った表情だった。

 「ミサトさん?」

 シンジはミサトの顔を覗き込みながら言った。

 「知らない」

 「はぁ?」

 「何にも聞かされて無い・・・。どういう事よ!!」

 ミサトはそう叫ぶと同時に、ジャケットのポケットから携帯電話を取り出し、短縮プッシュで、電話

をかける。

 相手先は直ぐに出た。そして、相手がもしもしと言うのよりも速くミサトは叫ぶ。

 「リツコ!!何で私にはレイが入院している理由を教えないのよ!!!仮にも私は作戦部長

よ!!?知らなくちゃなんないでしょ!!?なのに、あなたは私になんの相談もなく・・・・・えっ?

気付かないアナタが悪い?そうは言うけど、普通、そう言うことはあなたから言うもんじゃな

い!!?人を頼るな?頼りたくなるわよ!!!私、此処に来たばっかりだしぃ!!理由になってな

い?うるさぁ〜〜〜〜〜〜い!!!」

 「み、ミサトさん、此処は病院ですよ・・!!静かにしてください・・・!!!」

 シンジは小声で叫ぶ。

 ミサトは、その声を、これまたスルー。シンジは諦め、レイの方へ向き直る。

 レイは、その紅い双眸でこちらを見詰めつづけていた。半分トリップしたような表情でこちらを見

詰めている。

 「あのぉ〜〜〜〜、綾波さん?」

 「なぁに?シンジくぅん?」

 頬を更に上気させ、夢見心地のような声でレイは言った。

 「どうして、綾波さんは入院しているの?」

 「しらなぁ〜〜い。碇指令の命令だから・・・・・。碇指令・・・・?碇・・・・シンジくん・・・・?」

 途中からレイは思案し始めた。夢見心地の瞳のままブツブツ呟いている。

 「あのぉ〜〜、綾波さん?」

 「えっ?碇指令と同じ苗字・・?」

 「今ごろ気付いたの!!?」

 シンジは思わず叫んだ。

 「えっ?えっ?隠し子?」

 「法的にも完全に父さんの息子です!!」

 「えっ?なんで?」

 「なんでと言われても・・・・」

 「シンジくん、騙されてるわよ、あの指令に・・・・」

 「そんな事ないよ・・・・。」

 「でもでも・・・・、貴方みたいな素敵な人の親が・・・・・に、似てない・・・・・!!」

 「僕きっとお母さんに似たんだよきっと・・・・」

 「九死に一生を得たわね・・・・」

 「言い過ぎじゃない・・・?」

 「そんな事ないわよ」

 「だぁかぁら!!どうしてレイは入院してるの!!?何!!?守秘義務!!!?なんでんなもん

があんのよ!!?指令の命令!!?しるかぁ!!!」

 ミサトの叫びは、無機質な病院の廊下にいつまでも、いつまでも木霊した。

 
 
 がちゃっ


 
 唐突に、病室のドアが開いた。

 僕はドアに視線を向けた。

 綾波さんは、恐らくまだ僕を見ているのだろう。僕の顔に何か着いてるのかな?

 ミサトさんは、まだ電話先(恐らくリツコさんだろう)に文句を(大声で)言っている。いい加減耳が

痛くなってきた。

 ドアを開けて入ってきたのは、意外にも父さんだった。

 昨日と同じ、NERVの指令専用の制服に身を包み、愛用の色眼鏡をかけて来た。

 到底、見舞いにくる格好とは思えない。

 しかも、土産もなにも持たずに手ぶらで。

 まぁ、それを言うと、僕達も人のこと言えないので、そこはあえてスルー。

 父さんは、僕がいることに多少驚き、同時に大声で叫ぶミサトさんに多少(てか、かなり)驚いた。

 「シンジ、来ていたのか・・・・。」

 父さんは、僕達の所に歩み寄りながら言った。

 「うん・・・、ファーストチルドレンに会ってみたくなって・・・・・」

 僕は綾波さんの方に向き直りながら言った。当の彼女はいまだにトリップ進行中。おそらく父さん

が入ってきたことにすら気付いていないだろう。

 「おぉ〜〜〜〜い、綾波さぁ〜〜〜〜ん、戻って来てぇ〜〜〜〜〜〜」

 「うふぅ〜〜〜〜〜ん、シンジくぅ〜〜〜〜〜〜〜ん」

 駄目だこりゃ。埒が開かない。

 「とまぁ、当の彼女はこんな状態になっちゃったけどね」

 「も、問題ない・・・・」

 多少、父さんが意味不明な言葉を言う。が、まぁ、あまり気にならない。

 「それより、父さん。綾波さんのお見舞い?」

 「むぅ・・・、まぁそんな所だ・・・・。」

 父さんは多少照れたのか、頬を微かに上気させていた。それが妙に面白くて、僕はおもわずクス

リと笑ってしまった。

 「笑うな・・・!」

 「ぷくく・・・ごめん・・くくく・・・・あはははは!」

 「だから、シンジ!笑うなと・・・!!」

 「でも父さんげらげらげら・・・・。案外、可愛い所がクスクスクス・・・あるんだねぇアハハハハ!」

 「し、シンジくん!?そんな事間違っても言っては駄目!碇指令が可愛いなんて!!」

 レイが唐突に大声をあげる。どうやら、僕の声にだけは反応するようだ。

 「むっ。レイ。どう言う意味だ・・・?」
 
 父さんも、何やら、眉間に皺を寄せている。

 「と、父さん・・、きっと綾波さんだって深い意味考えないで言ってるんじゃ・・・・」

 「な、なら良いのだが・・・・・」

 父さんは、病室に備え付けてある椅子に腰掛け僕と綾波さんを交互に見た。

 そして・・

 「フッ・・・」

 と笑った。嘲笑とかそう言ったモノではなく、微笑んでいる。優しい笑みだった。

 「気持ち悪い」

 何故かそこで最悪の一言を呟く綾波さん(爆)

 「あ、綾波さん〜〜〜!!?」

 多少声が裏返った。もう情けない。恐る恐る父さんの方を向く。案の定、そこには眉間に皺を寄

せた父がいた(泣)

 「ととと父さん、綾波さんだって、悪気があったわけじゃないよ・・・・。多分・・・・」

 「気にするな」

 父さんは眉間の皺を更に寄せて呟いた。こ、怖い・・・・・・

 僕はこの一触即発(笑)の空気を和らげるため話題を変えた。

 「そ、そう言えば、父さん。なんで綾波さんは入院しているの?」

 その言葉を聞いた瞬間、父さんの表情に明らかなる亀裂が入った。

 (話題の選別ミスったかぁーーーー!!!!!?)

 僕は胸中で叫ぶ。
 
 もう手遅れだろう。

 「えぇっと、言えない事なら別に・・・・うん!単なる興味本位だからさ!!!言わなくても良い

よ!!!!」

 僕は既にこの空気を中和するために、一生懸命になって繕った。ともかく、この異様な空気をど

うにかしたかった。

 「数日前・・・・。EVA零号機の起動実験が行われた・・・・。」

 (話しださないでぇええええ!!!!!)

 これ以上空気を重くされても困る!!!だが、父さんはそんな僕の胸中を無視して語り出した。

 「実験は順調に進んでいた。だれもが、零号機が起動に成功するだろうと安堵したその時・・・・






 
















 事故は起こった・・・・・・・・・・」








 『パルス逆流!!!』

 『第三ステージに異常発生!!!』

 『中枢神経素子にも拒絶が始まっています!!!』

 『コンタクト停止!六番までの回路を開いて!!』

 『信号が届きません!!!』

 零号機は拘束具を引き千切り、頭を抱え悶えはじめた。

 『零号機、制御不能!!!』

 『実験中止!零号機の電源を落とせ!!!』

 接続されていたコンセントが外され、予備電源のみになってもまだ動き続ける零号機。

 零号機は、最後の力を振り絞るかの如く、コントロール・ルームの壁を殴りつける。

 コントロール・ルームのガラスが爆砕する。ゲンドウは微動だにしない。

 零号機の背中のパーツが破壊された。続いて、射出されるエントリープラグ。

 『オートイジェクション、作動します!!!』

 『いかん!!!』

 ゲンドウの鉄仮面にこの時、初めて亀裂が入った。

 エントリープラグは天井に激突した後、床に転がった。

 『レイ!!!!』

 ゲンドウは叫ぶと、ほぼ同時に、コントロール・ルームから出て、エントリープラグが転がっている

場所へ駆けて行く。

 特殊ベークライトが実験場の壁から噴射され、零号機を固定する。零号機は次第に活動を停止

させていく。

 ゲンドウはエントリープラグに駆け寄る。

 エントリープラグの開閉ハッチのハンドルに手をかけるゲンドウ。だが、そのあまりの熱さに、思

わず仰け反ってしまう。眼鏡が地面に落ち、レンズは粉砕する。

 だが、怯まず渾身の力で、ハンドルを回す。掌の肉が焼ける。

 ハッチが開く。そして、ゲンドウはプラグ内を覗き込んだ。

 「レイ!無事か!!レイ!!!」

 呼びかける。だが、プラグ内の少女はその呼びかけには答えなかった。

 「レイ・・・・・」

 少女は額から大量の血を流し、ぐったりとして、プラグ内の椅子に倒れこんでいた。

 二人目の綾波 レイはこの時、死んだ。

 同時に、三人目の綾波 レイが産まれた。























 「レイは・・・・、第二使徒リリスと、お前の母親の遺伝子を混合させた、クローン人間なのだ・・・。」

 父の口から発せられた事実は、僕には理解出来なかった。リリスとは・・・・、母の遺伝子を混合

させたクローン人間・・・・・?

 全てが僕の理解できる範囲から逸脱していて、とても理解出来ない。

 でも・・・・、一つだけ理解出来た・・・。

 綾波さんは・・・・・


 

 一度・・・・死んでいる・・・・・・・・・・・・・・・
 
                      つづく




あとがき(久し振りに編)


暗い・・・・・
せっかく、前半頑張って明るくしようと努めたのに、後半はシリアスシリアス(笑)
しかも、途中からミサトさんの存在は時の彼方へ忘れ去られ・・・・
彼女は未だに電話をかけているのでしょうか(再笑)
未だに赤木女史と過激なトークバトルを繰り広げているのでしょうか?
それよりも、すいません。レイちゃん死んでました(爆)
すでに三人目でした。
えらいこっちゃえらいこっちゃ!
ではさような「待てぇえええええええぇぇぇぇええ!!!!!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!!
「殺すなぁああ!!!!」
つい勢いでぇええええ!!!!
「勢いで重要なキーパーソンを殺すなあああああ!!!!!!」
業務上過失致死ってやつですねぇええええ!!!!!!
「黙れぇぇぇええええ!!!」
   ----騒がしいので、強制終了(泣)次のあとがきでお会いしましょう。では・・・


 ps;感想をお待ちしております・・・・


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