エヴァンゲリオン−MPD−

 CASE:12 院長


先ほどまで、赤木リツコは親友の訳の分からない電話を対処していた。大声で一生懸命自分の

意見を正当化しようとしている彼女はハッキリ言って、面白かった。

赤木 リツコは綾波 レイの病室を逐一観察していた。理由は、至極単純。

 アマミヤ カズヒコの正体を暴く事だ。彼女にとって、カズヒコという存在は、最高の研究材料で

あると同時に、畏怖の対象でもあった。
 
 後輩である、伊吹 マヤの情報によれば、碇 シンジがMPDであることはほぼ間違いない。

 だが、たとえ確信があったとしても、データが欲しかった。

 日本では滅多にない多重人格者。俗世間から見れば、ただのサイコ野郎だろう。というか、多重

人格であること自体を信じては貰えず、話はそこで永久に止まってしまうだろう。

 だが、赤木 リツコは違った。

 人一倍好奇心が強く、故にこのような職業に就いた。人一倍、非常識に敏感であるから、カズヒ

コに惹かれた。

 彼女は恐らく、カズヒコに対して憎悪を抱くと同時に、好意を抱いていたのだろうか。

 対なす感情が彼女の中で渦巻いていた。

 科学者としてのリツコ・・・。女としてのリツコ・・・。

 まるで・・・、

 (そう・・・。まるで母さんのようね・・・)

 彼女が自嘲気味に胸中で呟いたのとほぼ同時に、モニターの中でゲンドウの肩が派手に破裂し

た。




 綾波 レイは、目の前で人が血だらけになったのを現実として、捉えることが出来なかった。

 傍から見れば、何が起こったのか分からなかった。

 だが、半分だけ使徒である、彼女には微かに見えたものがあった。

 (あれは・・・、ATフィールド・・・・?!?)

 ゲンドウが、シンジ(カズヒコ)を掴んだと同時に、一瞬だけ、ゲンドウの肩周辺にオレンジ色の光

が見えた。

 (だけど、あんな微量なATフィールドであそこまで人体を破壊できるの・・・??)

 そもそも、彼女にとってATフィールドとは、自分を包む心の絶対領域・・・、最強の盾であって、武

器として使うなど、考えも及ばない事であった。

 故に目の前で起こった出来事よりも、重要視すべき事を完全に見逃していた。



 何故、シンジがATフィールドを展開出来るのか・・・・・




 赤木 リツコは保安部に連絡をして、自身も、病室へ向った。

 半ば駆け足になりながら病室へ向った。

 そもそも病室と、監視カメラの管理室は、とても近い位置に存在している。

 チルドレン専用の病室から50mも離れていない位置にその部屋はある。

 これは、もしも有事が起こった時のために、極力近くにその部屋を置きたかったからである。
 
 故に、リツコが、部屋に到着した時には、未だに保安部は到着していなかった。

 リツコは、恐らく保安部が来るであろう方向の廊下と、レイが入院している病室のドアとを交互に

見比べた。

 (ああ!!もう!!!遅いったらありゃしない!!!)

 彼女は胸中で思いっきり保安部の悪態をついて、病室のドアを勢いよく開けた。

 案の定そこには、血の海が広がっていて、その海の中心には見慣れた男が倒れていた。
 
 近くに立っている少年は、一人で大声をだしている。

 傍からみたら、気が触れているとしか思えない光景だ。

 白いベッドは、返り血を浴び、真っ赤に染まっている。そのベッドの上には、よく見知った女の子

が座っており、虚ろな目で、虚空を見上げている。

 次の瞬間、保安部が到着した。全身を黒いスーツで統一し、サングラスをかけた奴が四人。

案の定、彼らは一瞬、部屋の惨状を見て、サングラスに隠れた目元を寄せている。

 だが、次の瞬間の彼らの行動はまさに迅速だった。

 まず、第一に、一人がナースコールをした。

 さらにもう一人が、ゲンドウを介抱しようと、彼に駆け寄る。外傷の肩を手早く応急処置する。

 残った二人は、 加害者と思わしき、シンジを、両側から挟むように、拘束した。

 リツコは、そんな彼らを呆然となりながら、見ていたが、次の瞬間我に帰り、急いでレイの元へと

駆け寄る。

 そして、レイを優しく抱きしめた。

 「大丈夫よ・・・・、怖くないわ・・・・・・。」

 レイは、リツコの腕の中で小刻みに震えていた。時折、口から漏れる小さな悲鳴が痛々しい。

 「もう大丈夫よ・・・・。怖くない・・・・。」

 リツコは、レイを抱きしめる腕にさらに力を込めた。

 「どうして・・・・・・」

 レイは腕の中で小さく呟いた。

 「え・・?」

 「どうして、シンジくんは、アレを使えるの・・・・・・?」

 「アレ・・・・・?」

 「アレを使うことが出来るのは・・・・・私のような・・・・・・・・」

 次の瞬間、レイは気を失った。糸人形の糸が切れたように唐突に気を失った。

 「赤木博士・・・・・」

 シンジを拘束している保安部の二名の内、一人が声を上げた。

 「何・・・・?」

 リツコは、レイを抱きしめながら、酷く簡略的な回答を返した。

 「碇指令は、先程、早急に別室へ移動し、現在治療を開始した所です。」

 「そう・・・・」

 「サードチルドレンは如何致しましょう。」

 「・・・・・・」

 「赤木博士・・・・・・?」

 暫く沈黙した後、リツコは呟くように、保安部へ命令した。

 「サードチルドレンは、現時刻より、禁固三日を命じます。連れて行きなさい・・・・。」

 「わかりました。」

 保安部は、感情の篭らない声で答え、シンジを連れて行った。

 シュッ

 ドアが開き

 シュッ

 そして、閉まった。

 部屋にはレイとリツコが残されていた。

 時を少しばかり遡る。

 「私は作戦部長でしょおおおおおお!!!!?」

 彼女は未だに咆哮を続けていた。

 『五月蝿いわね!!何度も言うように守秘義務だって言ってるじゃない!!!』

 ミサトは、未だにカズヒコ達に廊下に追い出された事に気づいてない。

 そんなんで大丈夫か作戦部長!!(笑)

 「それとこれとは話が違うでしょお!!!」

 『これ以上無いってくらい関連性有りでしょうが!!!』

 「だけどぉおお!!!・・・・あっ・・・・」

 『??どうしたの?』

 「あの人・・・・・・」

 ミサトは耳元から携帯電話を話し、ある方向を凝視していた。

 どこまでも続くかと勘違いしてしまいそうな白い廊下。その先に一人の男が蜃気楼のように立っ

ていた。

 少々汚れた灰色のスーツ姿。係長という役柄が似合いそうな、間の抜けた顔。烏賊にも自分は

インテリだと主張するかのような眼鏡。

 一見したところで、何処にでもいる普通の会社員のように見える。

 だが、彼女が彼を見た瞬間、思い出したくない記憶が彼女の頭の中でフラッシュバックした。

 

几帳面に正方形に縁取られた部屋。乱雑に散らばった玩具。その中央に椅子が備え付けられ

ており、それに腰掛ける少女の顔は生気が枯渇していた。

 セカンドインパクト直後の彼女である。

 余りに凄惨な光景を見てしまったが為に一時的に自分を失ったミサトだ。

 そんな彼女に歩み寄る一人の男がいた。

 白い白衣に身を包み、係長という役柄が似合いそうな間の抜けた顔。如何にも自分をインテリで

すと主張するかのような眼鏡。

 何処にでもいる中年の男だった。

 『葛城・・・・・ミサトくんか・・・・・・?』

 男は、最初から回答を期待しないかのような口調で彼女に言った。

 『俺はこの、長野精神病院の院長を勤めている笹山ってもんだ。よろしく。』

 案の定、彼女はなんの反応も示さない。

 『君が、本当の自分を取り戻せるように俺達は全力を尽くす。だから君も頑張ってくれ。』

 男は一通り言い終えると、部屋を退出しようと、備え付けの白いドアのノブに手を伸ばした。

 『ああ・・、そうだ・・・・。』

 男は何かを思い出したように、振り返らずに言葉を続けた。

 『これは、独り言だから気にしないでくれ。一月前にあった、あのセカンドインパクトな・・・。

 ひょっとしたら裏で手を引いていた奴らがいるって噂だ・・・・。』

 その言葉に一瞬、ミサトは反応をしめした。

 眼に、微量の光が戻り、ゆっくりとした動作で、笹山の背中へ眼をやる。

 『あくまで噂だ・・・・。ほいっ、独り言終わりっ!』

 そう言うと笹山はとっとと部屋を退出した。

 残されたミサトは、ドアをじっと見詰めたまま、固まっていた。


 


 「笹山・・・・・院長・・・・・・??」

 ミサトは、廊下の先にいる男の名前を呼んだ。

 男は、そのか細い声が聞こえたのか、微笑みながら頷いた。

 そして、男はこう続けた。

 「真実は見付かったかい?」

 多少、おちゃらけた声で彼は言った。

 真面目ではあるが、堅物ではない。

 彼女は、あの後から、笹山に懐いた。そんな、暖かい部分に惹かれたのだろう。

 「院・・・・長・・!!」

 彼女は彼に駆け寄った。手に持っていた携帯を、地面に落としたが、気にならない。

 大好きな院長が目の前にいる。それだけで嬉しかった。

 だが、院長は、彼女がそこに到達する前に、廊下の窓を開け、そこから飛び降りた。

 「!!!!」

 彼女は声にならない悲鳴をあげ、急いで窓の外を見た。そして絶句した。

 院長は地面に悠然と立ち、こちらに手を振っている。

 「そんな・・・・、ここは三階なのよ・・・・!!」

 彼女は、絶句しながらも、階段を急いで駆け下りて、彼のもとへ向った。

 何かがおかしい。

 そう、胸中で思いながら、大好きな、父親代わりだった院長のもとへ向った。

 

                                         つづく




あとがき(パソコンが壊れた(笑)


MPDをお送りいたしましたぁ〜〜〜〜♪
さって、十二話目ですねぇ、驚いた(ナニ
現在、こうやってMPDを書いているわけですが・・・
ふと思うのです・・・・・。

カズヒコの人柄最悪やん(今更)

これではいかんと思いまして、次回は、シンジくんと、カズヒコの二人っきりの対話がメインです。
相変わらず、ストーリーが進行しないなぁ・・・・。
まだ、シンジくんが、第三に来てから一日くらいしか経過してないですよ・・・。
まぁ、エヴァ2も発売しますし、ユイさん、良いでしょ??
「良い訳ないでしょうが」
ええ〜〜〜、予想だにしなかった回答ですねぇ〜〜〜〜
「まぁ、そこは自覚の問題だから置いといて・・・・・・」
ダンデ@坂野みたいに、置いといて・・・・
「私、あの人好きなのよねぇ〜〜」
え``・・・・
「だって、ゲッツ!よ、ゲッツ!!」(両手の人差し指と親指を立てて、羊を指差す)
なんか、見てて痛いですよ、色んな意味で・・・・・
「失礼ねぇ・・・・、彼も頑張ってるんだから・・・」
いえ、痛いのはユイさ(どがすっ)←殴られたらしい
「何か言ったかしら?」(微笑みながら、日本刀をスラリ・・・・)
最近イチロー、調子悪いですね〜〜(_ _;;)
「そうねぇ、どうしたのかしら?」(日本刀を納める)
ダン@ィの真似をするY女史を見たからですかね?
「(居合い抜き)ていっ」
ふぎゃあ(上下に割れる)
                     BY:羊をめぐる冒険


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