エヴァンゲリオン−MPD−

 CASE:14 二人は共に



 「体の方は大丈夫かね碇くん・・・・」
 
ゲンドウの執務室だった。だが、窓は完全に締め切っており、その部屋に存在するのは、怪しげ

な色を放ちながら発光する五人の老人とゲンドウだった。

 ゲンドウは、誰を見るともなく、ただじっと眼前を見つめ続け、他の五人の視線は常時ゲンドウに

注がれていた。

 「報告では初号機ケイジにおいての事故と聞いている。」

 部屋の一番奥に鎮座する老人、キール・ローレンツだった。

 特注品のバイザーで目元を隠し、偉そうにふんぞり返ってゲンドウに言う。

 「だが我々はその様な戯言に付き合っているほど時間の猶予がない・・・」

 「左様・・・。我々は事の事実を求めている・・・。」

 キールではなく、彼の左側に鎮座するロシア人が声を出した。

 「仰る意味が理解しかねます。報告した情報は全て事実です。」

 「だとしたら何故サードチルドレンの情報を隠す?」

 ロシア人の向かい側に座るフランス人の男が言葉を続ける。

 「サードチルドレンの情報は隠すに値しません。全て資料に記載済みですが・・・」

 「異常なまでのシンクロ率。これについての説明が載っていない資料ではないか・・・。

 不完全だな・・・・」

 「それは現在調査中です。原因解明次第、お知らせしますよ・・・・」

 ゲンドウは淡々と、まったく淀みがなく、発言を続ける。

 「A・Tフィールドの多面的使用法を実践で行った事についてもだ。」

 「現在、赤木博士が事実の究明中です。今しばらくお待ちください・・・」

 一番奥のキールが溜息をついた。 呆れたといった、多少投槍な溜息だった。

 むしろ、前向きな溜息があれば聞いてみたいものではあるが・・・・

 「まぁ、良い・・・。サードチルドレンに関しては今は不問にしておこう・・・・。」

 キールは静かに話し始めた。

 「碇くん・・・。肝心の補完計画が遅れているようだな・・・」

 「計画は最優先事項として実行しております。遅延の事実はありません。」

 「初号機が壊したビル、そして使徒の進行、自爆によって壊滅した都市・・・。これだけの被害を

出しておきながら良くそんな事を言えたな・・・・・!」

 キールではない、イギリス人の男が犬歯を覗かせながら言った。明確な敵意をゲンドウに対して

見せていた。

 「それらの被害の殆どはUNのn2爆弾が引き起こしたモノです。私の管轄ではありません。」

 ゲンドウはイギリス人の方を一切見ようとせず、ただ事務処理の様に語った。

 それがイギリス人の男には不快だったのか、彼は先程覗かせた犬歯をさらに覗かせ、

 「貴様!人に物を申す時は相手の目を見て話せ!!!」

 叫びながら、私用のデスクから立ち上がった。

 「落ち着きたまえ、アドルブ・・・。カッカするのは君の悪い癖だ・・・」

 キールがアドルブと呼んだ男を嗜めた。

 アドルブは釈然としない様子だったが、渋々デスクに乱暴に腰掛けた。

 「とにかく、使徒襲来による計画の遅延は認められない。分かっているな?計画の遅延が我々

の最も嫌悪するものだぞ・・・。碇・・・・・・」

 キールはそこで言葉を一旦区切ると、ずいと、デスクに身を乗り出した。

 「碇・・・・。もし、お前の息子が計画にイレギュラーであれば、即刻処理するんだ・・・。良いな・・・」

 「分かっております・・・。」

 ゲンドウは、そう短く言うと、再度黙り込んだ。

 「では、本題に入ろうか・・・・」

 彼らのデスク上に一台のノートパソコンが唐突に現れた。

 そこには一文、こう記されていた。

 

 人類補完計画 第十七次中間報告



 





 シンジと、カズヒコは対話していた。

 否、カズヒコがシンジに一方的に語っているのだ。

 カズヒコが知る、己の運命と、その経緯を・・・・

 そして、シンジはそれを聞き逃すまいと、食い入るようにその話を聞く。

 (・・・・・・・・・・そして、全ては紅い海になった・・・・・)

 カズヒコの話が終わった。カズヒコは話しつかれたのか、大きく溜息をつくと、どかっと、ベッドの

上に身を投げ出した。

 「成る程・・・・。つまり、君自身も何が起こっているのかは断片的にしか分からなかったわけで、

今も完全に理解しているわけではないんだね・・・・・?」

 (そうだ・・・・・。だからこそ、協力してほしいんだ・・・・・)

 「僕に・・・・?」

 (ああ・・・・、真相を掴み、あんな未来にしない為にも・・・、皆を・・・・!アスカを救うために・・!!

協力してくれ!!シンジ!!)

 カズヒコの叫びにも似た懇願は、僕の心に深く杭を突き刺した。彼は純粋なのだ。皆を守るため、
アスカという少女を守るため、必死なのだ。

だから彼は冷酷なのだ。
 
故意に自分を追い込み、そして父を追い込み、背水の陣で物事に取り組んでいる。

 そして、彼は、自分自身の過去の罪を償う為に、戻ってきた。

 二度と過ちを繰り返さない為に、二度と皆を死なせないために、彼は必死なのだ。

 シンジは、そんな彼を慈しんだ。

 そこまで追い詰められた自分自身を慈しんだ。

 そして、カズヒコを救う言葉を静かに己の口から紡ぎ出した。

 「僕は――――――」







 「サードチルドレンは、三日間の禁固刑か・・・・・」

 会議を終えたばかりのゲンドウは、報告書に目を通し、静かに呟いた。

 そして、目の前に立っている女性を一睨みし、こう言った。

 「赤木博士。君は確かに科学者としては優秀だ。EVAのサポートには欠かせない人物であるし、

全ての事柄に対して冷静に、客観的に捉える眼を持っている。

 故に私は君を信頼している・・・。だが―――」

 ゲンドウは一度、言葉を区切り嘆息し、こう続けた。

 「今回の件は明らかに越権行為だ。君には誰かを拘束し、ましてや禁固にさせるなどと、出来る

権限はない。

 自粛したまえ」

 「申し訳ありませんでした。」

 リツコは静かに頭を垂らしながら言った。

 「今回の件は私の越権行為でした。謹んで処罰をお受け致します・・・・。」

 静かに、静かに彼女は言った。だが、彼女は自分のした行動を誤った行動とは見なしていなかっ

た。

 確かに、彼女自身、自分の行動が越権行為だと言う事を自覚し、シンジを禁固三日という処分を

言い渡した。保安部も、彼女の行為が越権行為だと言う事を理解していたが、それでも従った。

 それは、指令の事を最優先とした心情が引き起こした行動だった。

 故に、その指令に危害を加えたと思わしきサードチルドレンにはそれ相応の処罰が必要だとリツ

コと、保安部は互いに思い、その行為に至ったのだ。

 「赤木リツコ博士は、現段階をもって、一時的にその権限を剥奪。三日間の自宅謹慎とする。」

 ゲンドウは淀みなくその事実を伝えた。そして、リツコも淀みのない声で

 「はい」

 と、一言呟き、その事実を受け入れた。

 「以上だ。下がりたまえ・・・・」

 「はい。失礼しました・・・・」

 リツコはすぐさま後ろを向き、半ば駆け足になりながらゲンドウの執務室を後にした。

 

 「少し厳しすぎやしないかね・・・・?」

 冬月はゲンドウを見据えながら言った。

 「彼女の行為はお前を思っての行動なのだぞ?保安部も然りだ・・・・」

 「越権行為に変わりはない。彼女が何を思い、行動したのかなど、私には関係がない。」

 「そうか・・・・」

 冬月は、反論するでもなく、ましてやその意見を肯定するでもなく、どっち付かずの言葉を紡い

だ。

 「サード・・・・・シンジくんの処分はどうする?」

 「サードチルドレンは、現段階を持って、その処罰を解除。すぐにでも隔離室から出し、鈴原の所

へ向かわせる。」

 「一緒に住みたいのだろう?」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 冬月の言葉に、沈黙するゲンドウ。その意思を感じさせない瞳に一瞬だけ、憂いが浮き出た。

 「お前だって人の子だ。息子を可愛くないなどと思うわけがなかろう・・・・・」

 「私とシンジとの間には壁がある。大きな大きな壁がな・・・・」

 「だが、その壁もすでに崩れかけているぞ?」

 「壁の向こう側にもう一枚壁があった。」




 「とてつもなく・・・・・・大きく、硬い壁が・・・・・・・・・・」

 




 

 「サードチルドレン。出ろ。」

 短く、簡略的に、男は言った。保安部の男だろうか。全身を黒いスーツで包み、漆黒のサングラ

スを装着している。MIBみたいだと、シンジは思った。

 「まだ三日は経っていませんよ?」

 シンジに代わり、カズヒコが言った。

 「命令が解除された。故にお前はこれより、保護者兼世話役の人物の元へ行くことになる。速や

かに服を着替え、荷物を持って、区画A−13にて葛城一尉を待て。」

 男は感情の篭らない声で、口早に告げた。そして、入り口を少し退き、シンジが通れるだけの隙

間をつくった。

 「分かりました・・・・。僕の荷物は何処に?」

 「ここを出てすぐ目の前の部屋のロッカーに入れてある。さあ。時間が無い。速やかに行動しろ」

 「ふん・・・・。ゲンドウの犬め・・・・・・」

 「何ィ・・・・・!?」

 男は初めて感情を露にした。口元を歪ませ、サングラスの向こう側の瞳にふつふつと怒りが現れ

始めた。

 (カズヒコ・・・・。君が父さんを許しきれないのはわかる・・・・。だけど、問題はあまり起こさないで

くれ・・・・・・)

 「分かってるよシンジ・・・・。さって・・・・、とっとと着替えて新たなる住居へ参りますかっ!」

 カズヒコは立ち上がり、大きく伸びをすると足早に部屋を出た。

 残された男は歪んだ口元をさらに歪ませ、低い声で呟いた。

 「糞餓鬼が・・・・・!!」

 面倒事は更に増えそうだ・・・・・


                     つづく



あとがき(


羊は福岡に住んでいるのですが、この前かなり大きめの台風がやってきました。
ラッキーな事に、それの影響で僕が通っている学校は三時間で放課。
が
肝心の台風は案外大した事なく、被害らしい被害はありませんでした。
まぁ、沖縄に住んでいる知り合いの情報によれば、沖縄はドエライ状況だったらしい。
車は飛ぶわ、ショーウィンドウは割れるわ・・・・・。
ハッキリ言って、沖縄ってかなり不利な気候帯だなぁと思ったそんだけ・・・・。
「その知り合いってひょっとして得乃苦さんの事?」
知らない人がもしかしたらいるかもしれないので、あまり名前は出さないでください。
「はいはい。でも、台風って怖いわよね〜〜」
そうですよね。台風が住んでる所に直撃でもしたら、ホント洒落じゃ済みませんからね
「その影響で、家が停電して、PCを壊されたんだもんね、アンタは・・・・」
言わないで下さい軽くトラウマですもうやめてください。
「かなりショック受けてたもんねぇ〜〜〜」
軽く言わないで下さいメッチャ凹みましたよもう二度と台風時にソリティアなんてしませんよ。
「そういや、前回のあとがきで、ゲンちゃんが出てきたみたいだけど、アレってどうなったの?」
ゲンちゃんをギャグキャラで書く自信がないので、やめました。
「無責任ねぇ・・・・」
他のサイトに投稿した短編はギャグキャラでしたけど。
「アンタがギャグねぇ・・・・・。」(羊をまじまじと見る)
「なんてぇか・・・・・、一人でやってなさいって感じ・・・・・」
ユイさん、キャラがおかしいですよ・・・?
「知らないって・・・・・」
(今回のあとがき、微妙にテンション低いなぁ・・・・・)  by:羊をめぐる冒険


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