碇キョウジが、最後にケンカをしたのは中学校一年の二学期だった。 原因は、キョウジに対する嫉妬と単なる言いがかり。 並の男子よりは抜群に良い容姿と、それなりに良い成績、そして運動全般万能。 そんな人間が、女子にもてないはずはない。 校内で数度告白は受けたし、恋文だって何通かはもらったこともある。 しかし、その女子達にはかわいそうだが、キョウジはそれらすべてを丁重に断ったのだ。 そもそも、女子なんぞにはまったく全然興味の欠片ほどもなかったし、持つこともできなかったの だから致し方あるまい。 ただ、興味がなかったのは事実だが、『興味を持たざるを得ない』少女が、例外として一人いたが。 とにかく、女子にもてるというのにすました面で毎日を送っているムカツクヤローに制裁を加えよう。 そんな実に単純かつ子供的理由だった。 結果は、キョウジの余裕とまではいかないが、それなりの勝利。 今の祖父と『兄』に総合格闘技を習っていたこともあってか、一人対十数人という不利な状況をバンソウコウとシップだけの 治療ですむ結果で勝利を飾ったのである。 だからというわけではないが、今の碇キョウジには、やや自信があった。 ―――俺だって、やればできないことはないんだ! 一種の暗示に近いものだが、何もせずに戦場に向かうような馬鹿な真似はしたくないという、一つのプライドでもあった。 そして、激しく脈を打つ心臓の音を体の内側から聞いているキョウジの耳に、ミサトの戦闘開始の命令が響く。 『エヴァンゲリオン初号機!リフト・オフ!!』 NEON GENESIS EVANGERION 〜 Unfathomable Hero Progresses The New Stories 〜 <不測の主人公は、新たな語りを紡ぐ> 第弐話 Part A 見知らぬ、天井。 Presented By Iblis 稜線が薄く明るい夜空にそびえる、墓石のようなビルのシルエットに小さく明滅する赤いライトが映える。 まるで、SF映画に出てくるようなハイテクビル街の中に、二体の巨人が対峙していた。 一体は濃緑な全身に、肩にはまるでラグビー選手のプロテクターのようなものがあり、頭はなく、変わりに胸元に 顔と思しき仮面が二つある。そして、ちょうど人間でいう鳩尾には、肋骨のようなものに囲まれ赤く、明るく光る光玉があった。 一見するだけでもそれは異形のものであり、またこの世に存在してもいいのかどうかさえわれわれ人類から見れば信じられないような、 それこそ空想の中に生きる『怪獣』である。 それに対峙するのは、一本の角を生やした紫色の巨人。 こちらは人間の形を完全に模しており、五体すべてある。 ただ、普通の人間よりも巨大で、とてもスマートな体躯だが。 腰のあたりには、人間がナイフをいれておくようなポーチのようなものを巻いていて、その至る所に短剣でも数々の種類のナイフが収まっていて その柄が存在感を誇示するかのようにそびえている。ネルフ内では、通称『K型装備』と故障される、ナイフを重点的に装備したタイプだ。 なまじ大きさが常識はずれな分、それはそれでなかなかの威圧感をかもし出していた。 そして、この巨人、『汎用人型決戦兵器 エヴァンゲリオン初号機』に碇キョウジが搭乗している。 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・んぐ・・・はぁ・・・」 『キョウジ君? 心拍数が上がっているわ。もっと落ち着いて』 「は、はい!」 緊張とリニアレールの急激なGの負荷により、息が荒くなったキョウジはただひたすらに酸素をむさぼる。 いつもなら深呼吸することにより多少の緊張は和らげるのだが、今は完全に気が動転していて、そこまで気が回らずにいた。 そもそも、今はL.C.Lの中にいるので『呼吸』という表現が正しいとは思えないが。 『キョウジ君、とりあえず歩くことを考えて!』 「あるく・・ですか?」 『意識を集中して、歩くことだけを考えて! さっきリツコに説明を受けたでしょ?』 「はい・・やってみます」 目を閉じて、自分が歩く様を想像する。 イメージトレーニングのようにすればいいと、リツコから初号機に乗る前に説明を受けたことを思い出し、とりあえず その通りにしてみることにした。 「(歩く・・・歩く・・・歩け・・・歩いてくれ・・・)」 目をつぶって、必死に自分の歩く姿を想像するキョウジ。 そして、それからすぐに初号機は反応を示した。 直立の態勢から、左足のかかとが徐々に浮き上がり、そのまま大きく一歩を踏み出し、大きな振動と共に足をおろす。 足を下ろしたとき、道路の下に設置されていたアブソーバーが働き、コンクリートがグンッと沈み込んだ。 『おお!!』 『歩いた・・・・』 『ふぅ・・・とりあえず、動くようね』 「(・・・動くかどうかもわかんねぇモンに乗ってるのか、俺は・・・)」 発令所から聞こえるリツコの声に、内心舌打ちと不安を抱きながらも、今度は目を開いて『もう一歩』を思い描く。 そして、初号機は右足を重々しく持ち上げると、もう一歩を踏み出した。 「よし・・・これなら・・・」 自分の思い通りに動く初号機に満足したのか、ちょっと笑みを浮かべるキョウジ。 「ミサトさん! なにか、武器はありますか?」 『両肩のウェポン・ラックと腰周りのナイフ・ホルスターにある【プログレッシブ・ナイフ】、つまり、高振動ナイフしかないの。 大きさ、種類は微妙に違ってるけど、急遽にまにあわせて装備させたものだから我慢して頂戴。 装備の仕方は、インダクション・レバーの上のほうにスイッチがあるでしょ?それがラックの開閉ボタンよ。ホルスターのものは 何とか手動で装備してね』 『あと、ニードル発射機構というのもあるけど、右肩のウェポン・ラックで三度までしか使えないから、くれぐれも使用回数には 気をつけて頂戴」 やや、無責任に説明するミサトとリツコ。 かなり無茶苦茶な要求かつ今の状況では仕方がないということはわかっていたが、キョウジは顔をしかめた。 「ちょ、ちょっと!! いくらなんでも、あの化け物にナイフだけで勝てなんて、無理に決まってますよ!! ・・・しかたないな・・・ミサトさん、悪いけど、俺の好きにやらせてもらいます!」 『ちょ、ちょっと!? 好きにって・・・無茶よ!!』 「これって、思うとおりに動くんでしょ? なら、俺なりのやりかたでやってみます」 そう一方的に答えると同時に、頭の中では左半身の構えを取り、右手にはナイフを逆手に持った自分を想像していた。 それに呼応するかのように、初号機は右腰のホルスターからナイフを抜き取り、キョウジの思い描いたとおりの格好をとる。 もちろん、こんなのは付け焼刃だが、一応祖父からは短剣の裁き方や構え、さらにはその有用な活用法までの簡単な手ほどきは 受けている。わがままを言えば、日本刀のような長物のほうが自分のスタイルにあっているのだが、こんなときにそんなことなど 言っていられるような余裕はなさそうだ。 「・・・ふぅ・・・・・・・・いくぞ・・・」 次の瞬間、初号機は腰を沈めた体制になると、瞬時に地面を蹴り飛ばして『使徒』へ向かって走り出した。若干、行動に移るまでの タイムラグが気になりはしたが、なんとか許容範囲には入っている。初めて武道をやったころを思い出せば、まだましなほうだ。 今まで初号機を見ていただけだった『使徒』は、突然走ってくる初号機に危険を感じたのか、左腕を持ち上げパイルを 初号機めがけて打ち出そうとする。 ――――・・・・・! 一瞬、誰かの言葉が聞こえた。 「・・甘い!!」 だが、その動きがあまりにも遅すぎ――キョウジは『使徒』が左手を持ち上げようとしている時点で気付いていた――、 上半身をひねり、打ち出されたパイルを打ち出された方向に体を捻るようにして避けると、ひねった勢いでそのまま右手に持っていた プログナイフを使途の胸に突き立てる。しかし、『使徒』もそれだけでは終わらない。 射出したパイルを高速回収、そのままほとんど溜めの動作も無しに初号機に向かって真横からもう一度パイルを放ってきた。 ――・・だ・・!! 「うわっ!!」 そう叫びながらも、頭の中で地面にしゃがみこむようにしてパイルを避ける自分をイメージする。 やや遅れて初号機がそれに反応し、突き刺したナイフをそのまま手放して、急速な動きで両手を地面につけておもいきりしゃがみこんだ。 パシュゥウッ!! しゃがむと同時に、先ほど初号機の胸があった場所に、正確には人間で言う心臓の位置をパイルが通り過ぎていく。 液体の中にいるというのに、体中から冷や汗が吹き出るのを感じる。 あと数瞬遅れていたら、焼き鳥のごとくその光り輝く『串』で突き刺されていたに違いない。 ――・・・む!? 「・・あ・・あぶなかった・・・」 『大丈夫、キョウジ君!!? 無闇に突っ込んじゃダメよ! 今援護するから、いったん『使徒』から離れて!!』 「は、はい・・・!!? って、あ、ちょ、やっぱりダメです!! ミサトさん、ストップ!!」 『え?』 突然目を丸くして叫ぶキョウジを、モニター越しながらも発令所にいたネルフ職員全員がピックリした顔で見つめる。 だが、依然としてキョウジの顔は真剣そのものであり、驚愕の顔であった。 「女の子が・・・!! これの足元の近くに、えっと、ビルの近くに女の子がいるんです!!」 『な、ぬぁんですってぇ〜〜!!!?』 『モニター、急いで!!』 途端に発令所が騒がしくなり、キョウジの写っているモニタ―のすぐ隣に小さく新たにウィンドウが現れた。 はたして、そこには尻餅をついて初号機を見上げる、まだ幼い感のある少女がいた。 右のひざ小僧から出血していて、どうやらその怪我のために立ち上がれないらしい。ただ地面にへたり込んだまま遠くからでも はっきりわかるほど震えており、こちらにも少女の歯がガチガチと鳴っているのが聞こえてきそうなくらいだ。 『う、嘘でしょ・・・っ!保安部に至急保護するように伝えて!! キョウジ君、聞いた!?今保安部を向かわせたわ! あと5分でいいから、なんとか頑張って!!』 「5分・・・ですか・・・ちょっと、きついですね・・・でも、何とかやってみます!」 「今この町の市民はそこにいる少女を除けばほぼすべてシェルターにいてゴーストタウン化しているわ。 だから、町への損害は考えないで! そんなこと考えて負けたりなんかしたら、お笑いだけじゃすまないわ!!』 「りょうっ・・・かい!!!!」 こぶしを握りながら指示を出してくるミサトの要求に、ニヤリと笑いながらも初号機を動かす。 即座に右肩からニードルを発射して牽制を狙ったが、しかしニードルは使徒の顔面とも言うべき部分に到達する寸前、 何か甲高い音とともに虚空にはじかれてしまう。 しかしキョウジはその間にも初号機を立ち上がらせ、ニードルを阻んで硬直したままだった『使徒』の両腕を掴み、そのまま腹部を 力の限り蹴り飛ばすイメージをする。やはり、一瞬遅れてからキョウジの想像通りの行動をとる初号機。 蹴り飛ばす瞬間、両腕を離しトラースキックをお見舞いした。 ドゴォッ!!! ズズゥンン・・・・ ――ぬぉっ!! 蹴り飛ばされた『使徒』は、そのまま後方数百メートルにあった高層ビルにぶつかり、そのまま崩れ落ちた。 『ナイスキック!! マヤちゃん、保安部は!?』 『現在、リニアで現場まで急行中!!到着まで残り二六三秒です!!』 『だそうよ!!その調子で何とか後四分、頑張って頂戴!!』 「わかりました」 簡潔にそう答え、キョウジは初号機を『使徒』のほうへと歩かせる。 走ってもいいのだが、もし突然不意打ちを受けたら避けられないので臨戦体勢は崩さずに歩くことにした。 しかも、足元にはまだ少女がいる。うかつに動いてつぶしてしまったら本末転倒だ。 崩れたままぴくりともしない『使徒』に、内心不信感を募らせるキョウジ。 注意深く『使徒』の全身を見てみると、腹部にあった光玉に小さくヒビがはいっている。 「(?ヒビ? さっき蹴り飛ばしたときにあたったのか?・・・まて・・もしかして・・・)」 少女に影響がないように、ゆっくりと使徒へとむかって歩きながら、自分の考えていることが正しいか確かめようとする。 先ほどまで考えていた『不意打ち』のことなどは、すでに頭の中から消し飛んでいる。 自分の好奇心には、案外と弱い彼だった。 しかし、あと距離が五百メートルといったところで、突然『使徒』が右腕をついて立ち上がりだした。 「ちっ! もうちょっと寝てろよ!!」 舌打ちをしながら、ついには走り出すことを想像するキョウジ。 瞬間的にその意思は初号機に伝わり、若干のタイムラグの後に完全に走り出す。 だが・・・。 ――かかったな!! 「何!?」 パキョウッッ!!!!! ズドォオオンン!!!! 「!?・・グァアアッッアアアァアアァァアアアアッッ!!!!!!!!」 先ほど第三新東京市を直撃した光線が、初号機の胸部をえぐる。 起き上がった『使徒』が、仮面の目の部分から光線を発したのだった。 一瞬の後に伝わってくる、想像を絶するような痛みに絶叫するキョウジ。 胸に、焼かれ抉り取られるような激痛が生じ、思わず胸を抑える。 『キョウジ君!!落ち着いて!!その痛みはあなたのものじゃないのよ!!』 『葛城一尉! 少女の回収、完了しました!! 保安部、既にリニアに搭乗し本部に向かっています!』 「ああああ・・・ああっああ・・・!!!」 ――なかなかいい機転だった。だが、詰めが甘い・・・ 未だに激痛のショックから立ち直れていないキョウジには、耳に聞こえるそれらの声は頭には届いているが 理解することはできなかった。 まるで、テレビをつけっぱなしにして眠っているような、そんな感じしかしない。 放心状態のまま、なんとか未だに伝わってくる激痛を耐える。 しかし、打たれた衝撃で仰向けに転倒している初号機に向かって『使徒』はゆっくりと近づいてきていた。 それこそ、『楽しみはこれからだ』というような雰囲気を纏わせ、悠然たる様で・・・。 『キョウジ君!! しっかりして!! 『使徒』が近づいてるのよ!!早く起きて!!』 「っぐぅ・・あ・・がぁ・・・っくしょぉっ・・・ちくしょぉ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」 ――急がなければ・・・会わなければならない・・・ 「っ・・!?誰・・だ!? 誰が話してる・・!!」 急に(実は戦闘開始から聞こえていたのだが)、頭の中に響くように聞こえ始めた異様な声に、キョウジはかすれる声で問い始めた。 勿論、発令所には聞こえないほど、いや、声にすらなっていないような声だ。 しかし、今はそんなことを考えている暇はないと思い、先ほどよりは随分和らいできた痛みに、顔をしかめながら起き上がることを想像する。 ところが、ことはそう上手く運ばずに、あまりにもうれしくないことに、初号機が起き上がるより早く、『使徒』が初号機にたどり着いてしまった。 相変わらず『それ』は威圧的なオーラを纏いながら、ゆっくり左腕を伸ばしてくる。 そんなゆっくりとした『それ』の動作は、今のキョウジの恐怖心を煽るには最高のものだった。 そもそも、一介の中学生にこのような状況で平常心を保っていろということのほうが、どだい無理な話なのである。 先ほどからキョウジがかなり冷静だったのは、彼が少し特別だっただけで、何かしらの訓練を受けているわけでもないのだ。 だから、『使徒』が初号機の頭を鷲づかみにし、宙吊りにした時、キョウジは小さい声で悲鳴をあげたのだった。 ――これ以上、ジャマするのならば・・・容赦はしない 「ちくしょ!!はなせ!!はなせよ!!動け!!逃げるんだよ!!おい!!動いてくれよ!!!動け!!動いてくれ!!」 『キョウジ君!!』 インダクション・レバーをやたらめったらにガチャガチャと動かし、目を大きく見開きながらキョウジは叫ぶ。 だが、その悲痛の思いは初号機に伝わることはなく、まるで糸が切れたマリオネットのように宙吊りにされたままで、 動く気配はない。 キョウジが無茶苦茶にレバーを動かす間にも、『使徒』は残っている右腕を伸ばし、初号機の左腕を掴んだ。 次の瞬間、キョウジの左腕にまるで握りつぶされるかのような激痛が走る。 腕の血管や筋が浮かび上がり、痛みがどんどん増していく。 「がぁっ!!・・・!!!! ギャァアアアアアァアアァアア!!!!!」 『キョウジ君!! 落ち着いてちょうだい!! つかまれたのは、あなたの腕じゃないのよ!!』 「ああぁ・・・あぅ・・っぐ・・・っ・・しょぉ・・・」 『左腕損傷!回路断線!』 初号機の左腕が握りつぶされる。 握りつぶされた左腕から、紫色の液体が飛び散り、周囲のビルにふりかかる。 同時に、キョウジの腕に、握りつぶされる激痛が走った。 見た目――体――の状態はなんともないのに、痛みがある。 そんな、非現実的な光景が目の前で起こっていると考えれば、自分が今、非現実的な目にあっていることにも随分と あっさり納得することができた。 『何とかしてよっリツコ!こんなんじゃ、まともに戦えないじゃない!!』 『こんなの、ありえないわ・・・まさか!?シンクロ度数が変動しているとでも言うのっ!?マヤ、神経回路のフィードバック側の レギュレーター・レベルをひとケタさげられる!?』 『はいっ!!やってみます!』 発令所で繰り広げられるその会話を聞きながらも、キョウジはどこか夢見ごこちでそれを聞いている。 だが、『使徒』は、キョウジにそんな悠長なことは考えさせる余裕を与えるつもりはないらしい。 握っていた腕を放すと、今度は初号機の頭を持ち上げた。 ――さらばだ・・・ 『ま、まさか・・・!?いけないっ!キョウジ君!!避けて!!!!』 「!!」 モニターに写る『使徒』の手のひらの穴のような部分に光が灯っていくのと同時に、キョウジの右目に、異様に明るい光が 飛び込んでくる。 ヴヴヴ・・・ヴァシュゥウッッ!!!! ヴァシュゥッ!!! 一度、二度、そして・・・ ヴァシュゥウッッッ!!!!! バギィインン!!!! 「・・!?・・ぎゃぁあああああああああっっ!!!!!!!!!!!!」 キョウジの右目に、形容できない激痛が走った。 『『『『『!!!!!』』』』』 パイルは、初号機の右目を貫くと、そのまま伸びて初号機の背後にあった高層ビルに突き刺さり、初号機を串刺しにした。 発令所に、キョウジの絶叫が木霊する。 その悲痛な叫びに、発令所にいた二人を除く全職員が、体を凍りつかせた。 串刺しにされて数秒。いや、数分だったかもしれない。 その場にいた全職員が永遠に近い時を感じ、ようやくそれから解放されたときだった。 パイルが初号機の目から、ゆっくりと引き抜かれてゆく。 パイルの先端が完全に目から抜けると同時に、その目から、勢いよく赤い液体が前と後ろから噴出した。 まさに、血の噴水の如く、真赤な、真紅の液体を蛇口を壊したように吹き出している。 『と、頭部破損!損害不明!』 『制御神経断線!シンクログラフ反転!!』 『パルスが・・・逆流していきます!!』 『!?回路遮断!! せき止めて!』 『ダメです! 信号拒絶! 受信しません!!』 『キョウジ君は!?』 『モニター、反応しません! 生死不明!!』 『初号機、完全に沈黙!』 『!!っ・・作戦中止!! パイロット保護を最優先!! プラグを強制射出して!!』 『・・!?ダメです! 完全に制御不能です!!』 『な、なんてこと・・・・!』 発令所に響く、ミサトの悲鳴。 その瞬間、その場にいた誰もが――ある二人を除く――、『希望は、潰えた』と思った。 ・・・モニターには、まるで眠っているかのように俯き、微動だにしない初号機が写っていた。 ―――ネルフ付属病院、その一室。 開け放たれた窓から、夏の涼風がサッと吹きぬけ、淡い緑色のカーテンをゆらゆらと水面に漂う様に揺らす。 窓の外から聞こえる蝉の声は、案外鬱陶しいものがあった。 部屋は特に熱くもなければ寒くもなく、心地よい室温が保たれ、涼しさがある。 その部屋の真中に近い位置に、一つのベッドがあり、そこに一人の少年が眠っている。 東洋人と、西洋人の美男子を足して2でわったような、そんな端整な顔立ち。そして、どことなく中性的な面立ち。 その隣の小さい机の上には、彼が見に付けていたであろう十字架のペンダントが置いてあった。 ――――碇キョウジ。 彼である。 しばらく、布団の中でもぞもぞと動き、顔に苦しそうな表情を浮かべる。 その額には、幾粒もの大汗の玉が乗っていて、彼の頬をそのうちの一粒が流れ落ちる。 枕に落ちたその汗は、すぅっとカバーに染み込んで、小さく黒い斑点を作った。 「・・う、うぅ」 先ほどより苦しそうな表情を浮かべ、今度はうめき声を上げる。 それを数分間繰り返すと、とうとう彼は起き上がった。 「うわぁ!!」 『飛び起きる』という形だったが。 「!?はぁ・・はぁ・・」 飛び起きた姿勢のまま、キョロキョロとあたりを忙しなく見回すキョウジは、何かに怯えるような、恐怖しているような感があった。 「夢・・だったのか?」 ホッと、安堵の息に近いものを肺から吐き出し、そのままゆっくりとベッドに横たわる。 力なく枕に頭を投げ込み、視線を上にある天井に否応なく向けざるを得なくなった。 白い、無機質かつ簡素な天井。 カバーに包まれた蛍光灯に光は灯ってはいず、窓から射し込む光が、まだ日が昇っていることを告げていた。 「知らない、天井だ」 ……To Be Continued. あとがきなるもの イブ「さぁさぁ・・・ようやっと戦闘だよ!」 キョ「ボロクソに負けてるね、オレ・・・」 イブ「でも、なんか声が聞こえただろ?」 キョ「関係ないじゃん、ソレ」 イブ「まぁまぁ。私のちょっとしたお茶目な心さ」 キョ「・・・」 イブ「さ、さぁて、次回のエヴァは! 戦いが終わり、病室で目覚めたキョウジ。 世界は、まるで何事もなかったかのように動き、キョウジは不安にとらわれる。 そして、レイとの対面。 ゲンドウとの取引。 ミサトとの同居。 かつてとは、全く違う環境に驚きながら、キョウジは第三新東京市に住むことを決意する。 次回、新世紀エヴァンゲリオン〜不測の主人公は、新たな語りを紡ぐ〜第弐話Bパート 『オレハナク』・・・ 今、キョウジの生活が始まる」 キョ「微妙〜に、前回と違うんだけど?」 イブ「き、気にしなーい♪気にしな〜い♪」
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