―――コンフォート17マンション、エントランス前駐車場


市郊外のやや高台に位置するコンフォート17マンションは、かなりの高級マンションだ。
高台に位置するということと、さらに周りの環境もいい。
ベランダに出れば、第三新東京市のほぼ全景を見渡すことができ、
また駐車場のほうにでてみれば目の前に緑が青々と茂った山が広がっている。
そして、その山の傘下にある広大な駐車場にスピンターンで華麗な駐車を決めた蒼い車から、ミサトとキョウジが今日の
夕飯――全てレトルト及びインスタントだが―の材料を手に持ってでてきた。

「あ、キョウちゃん、これ持って」
「うん」

二つのビニール袋のうち、一つをキョウジに手渡すと、ポケットからキーを取り出して、鍵を閉める。
そのままエントランスホールからエレベータに乗り、11階のミサトの部屋まで来た。

「さ、ついたわ。ここよ。キョウちゃんの荷物はもう届いていると思うわ」

そう言いながら、カードをスリットに通す。
ピッと言う音とともに、がちゃんというありきたりな音でドアが開いた。
音はありきたりだが、意外とハイテクである。

「へぇ〜、鍵はカード式なんだ」
「第三の家屋は大抵がカード式よ。ま、実は、私もつい最近ここに来たばっかりなんだけどね。
ちょっち散らかってるけど、気にしないで♪」
「はぁ・・・・・お邪魔します」
「きょ・う・ちゃ〜ん?」

入ろうと足を持ち上げたキョウジを、ミサトはニッコリと妖しい笑みを浮かべて引き止めた。

「ここは、『アナタ』の家なのよ?お邪魔します、はないんじゃなぁい?」
「あ、えっと・・・・・・た、ただいま」
「おかえりなさい。よくできました♪」
「・・・・・・からかってるでしょ、オレのこと」
「きのせーよん♪」

嘆息しながら、しかし嬉しそうに顔を緩めながらキョウジは敷居をまたいで、『今日』まで『葛城ミサト』が住んでいた
部屋へと足を進めた。
 
・・・・・して、キョウジがそこに見たものは・・・・・。

「ふ、腐海の森だ・・・・・」

 絶句しながら、その単語を口にしたのだった。
 その部屋の荒れようといったらすさまじく、女性だというのにこんな暮らしができるものなのかと、以前
女の子の部屋――マナの部屋だ――をのぞいたことのあるキョウジの頭を、激しいカルチャーショックが襲った。
 テーブルの上には、大量のビールの空き缶とビン。
 レトルト食品のパック。食器、ゴミ、みかんの皮。
 さらにその下にはもう筆舌にはあらわしがたいほどにゴミが散らかっている。
 まさに腐海の森とは、実にうまくこの部屋の惨状を表現しているといえる。

 ミサトは、器用にそれらを足で四方にどけると、空いたスペースにどんと荷物を置いた。

「(こ、これがちょっと?! どこをどう見たらちょっとなんだろう・・・・・)」
「まっててね。今、食事の用意するから」

 ミサトの感性に驚愕を覚えつつ、無意識にミサトの言葉を聞きながら冷蔵庫へと向かう。

「ミサト姉、これ、この冷蔵庫に入れていい?」
「ええ、適当に入れといて♪」
「わかった」

 軽く返事を返して、さっさと荷物を冷蔵庫にしまおうという腹持ちのキョウジ。
 だがしかし。
 この腐海の森の中、そんな簡単に物事が運ぶわけがない。

「・・・・・・・ミサト姉って・・・・・・・もしかして、食事はビールだけ・・・・・・?」
「ん〜〜? なんかいったぁ〜〜?」
「いや、なにも・・・」

 冷蔵庫を開けると、そこはビールで『埋め尽くされて』いた。
 そう、文字通りに、他のものを置く隙間もないほどに。あるのはビール、ビール、ビール。そしてビール。
 仕方がないので、一度冷蔵庫を閉じると、視線をめぐらせて何かほかに入れる場所はないかと探す。
 すると、そのすぐ隣にかなり大型の冷蔵庫を発見した。

 キョウジが、この時からこの家では安心できるようなことはないと悟ったことは、本人しか知らない秘密。

「あれ?こっちの冷蔵庫は?」
「ああ、そっちはいいのよ。まだ寝てると思うし」
「寝てる?」

 バタン。

「へ?」

突然目の前の冷蔵庫が開き、その中から生き物が出てくる。
とてとて。

「な・・・・・!」

その生き物はペンギンだった。
羽根にような手と、頭のトサカが何よりの証拠だ。
少し、イワトビペンギンに似ている。やはり可愛い。

「じゃなくて!!」

 一瞬頭を掠めた動物愛護精神を振り払って、キョウジはその意外なる生物を追った。
ペンギンは、まっさきに風呂場に向かうと、

――――がちゃ・・・・・ざばーん!

 当然の如く風呂に入った。ものすごく様になっている格好で。
 どのくらい様になっているかというと、仕事帰りの父親が、タオルを頭の上に乗っけて『ふはぁ〜』と、いかにも
至福そうな顔でゆったりと入るくらい様になっている。
 呆気にとられたキョウジは、持っていた荷物をその場にドサリと落としてしまった。
 こころなしか、その顔がピクピクと引きつっている。 
 
「な、ななななに!!? アレは!!」
「かあいいでしょ〜♪ 彼、新種の温泉ペンギンなの。名前はペンペン。よろしくしてあげてねン♪」
「クワァ!」
「お、おう」

ミサトの声に反応したのかどうかは知らないが、風呂に入ったまま、片手を上げてペンペンはキョウジに挨拶した。
 そして、ソレに答えるように片手を上げて返答をするキョウジ。
何故か、一瞬で打ち解けているのだから、世の中不思議である。
いや、そもそもエヴァ等の超ハイテク技術がある時点で不思議満載の摩訶不思議な世の中なのだが。 

それから、荷物を片付け部屋をある程度掃除した後、ミサトの作ったレトルト及びインスタント食品による夕食が始まった。

 しばらくの間、無言のままに夕食は滞りなく進む。
 ミサトは、冷蔵庫から大量に持ち出してきたビール――目分量でだいたい15〜20はある――を勢い良くあおっている。
 その姿、まさに親父の如し。
 キョウジは、呆然としながらその光景を眺めていた。

「んぐ・・・んぐ・・・んぐ・・・・・ぷはぁ!! そろそろ、くる頃かしらね。できれば、夕御飯は一緒に食べたかったけど、仕方ないかな」
「誰か来るの?」

フォークに刺さっているジャガイモをぱくりと口に含みながら、キョウジは訪ねた。
 ミサトは、某司令張りの妖しい笑みで、キョウジに顔を近づけ、そのビールくさい息を吹きかける。
 アルコールたっぷりのその匂いに、思わず顔をしかめながらも、キョウジは懸命に我慢をする。 

「んふっふっ・・・・知りたい?」
「そ、そりゃあ。勿論」

 妖艶な笑みを浮かべてニヤニヤ笑うミサトに軽い恐怖を覚えながら、キョウジはこっくりと頷いた。

「それはねぇ・・・・・・」
「それは・・・・・??」
「んふっふっ・・・・・」

じらしながら、相変わらず妖しい笑みを浮かべるミサト。
真の意味で気味が悪い。

「喜べ、少年! 来るのはなんと、君の初恋の人、綾波レイちゃん!! しかも今日からそのまま同居開始よん!!」
「え、ええぇええええぇぇぇっっっっl!!??!!?!」

コンフォート17の半径3キロメートルに、いろんな意味で問題的な発言をしたミサトに対し、キョウジの絶叫が長々と響いた。




NEON GENESIS EVANGERION 
〜 Unfathomable Hero Progresses The New Stories 〜     
                        <不測の主人公は、新たな語りを紡ぐ>

                   EPISODE U  
Part C    THE BEAST
                
Presented  By  Iblis




―――同、ミサトの部屋前

『・・・・・ぇえぇぇぇええっっっ!!??!!?!』
「!?な、なに?」
  
 部屋の扉のまん前で、チャイムを押そうとしたまさにその時、そのなかから
誰かの絶叫が耳を劈くようにして聞こえた。
 当然、左手で耳を抑えながら、彼女は顔をしかめる。
 右手は、ギプスが付けられていて、抑えることができないからだ。
 ちなみに、右目には眼帯をしている。
 その足元には、一つのスポーツバッグがあった。

「・・・・ミサトさん、またなにかやったのかしら?」

 しばらくして、その絶叫が収まった後、改めてボタンに手を伸ばしながら、彼女は呟いた。

ぴんぽ〜ん♪

 なんとも間の抜けたチャイムの音が響いた。

―――同、ミサトの部屋、リビング

「いったいどういうこと!? なんでいきなりそんな話に!!!!」
「まぁまぁ落ちついて」
「いられるわけないだろぉっっ!!!

ちょうどキョウジが絶叫を終え、肩でぜいぜいと激しく呼吸をしながらミサトに詰寄ったとき、
玄関のチャイムが間の抜けたような音を鳴らした。

「あら? どうやら来たみたいね。彼女」
「・・・・・!!!!」

 あまりの状況に、絶句するしかないキョウジ。
 ミサトはそんな彼は放っといて、スキップでもしそうなくらい楽しそうに玄関へと向かった。
 玄関に消えたと思ったその瞬間、ミサトのあまりにも陽気な声が玄関から聞こえた。

「あらぁ♪ いらっしゃい、レイ。ちょうどよかったわ。今夕飯食べ始めた頃なの。一緒に食べる?」
「いえ・・・・・もう食事は済ませてきました」
「そっか。ちょっち残念〜。ま、いいわ。さ、上がって頂戴。もう、あなたの家なんだから」
「はい、ミサトさん」

 その、玄関前で繰り広げられている会話を聞きながら、もう一度キョウジは絶句した。

「(な、なんでそんなにスムーズに会話が進むんだよ・・・・・)

 病院で会ったときとは考えられない反応に、キョウジはまたしても激しいカルチャーショック(?)に見舞われた。

「あら、どしたの?キョウちゃん。そんなに口を大きく開けて」
「ミサト姉のせいでしょうが!!」
「?私がなにしたってのよ?」
「この女を、この家に、連れ込んだ!!」

ちなみに、同居の原因となったのはキョウジのせいである。
かわいそうだが、彼は鈍感なためその事実に気付くことができなかった。

「あら、レディに対してこの女は酷いんじゃなぁい?これからは一緒に住むんだから、もっと親近感を込めて
『レイ(はぁと)』って呼んであげなきゃ♪」
「ミサトさん・・・・・?」
「絶対に、い・や・だ!! マナにばれたら、速攻でドラム缶にコンクリ詰にされて芦ノ湖に沈められる!!」

 全身をジェスチャーに総動員して、どれほどまでに他人の女性の名を呼ぶことがイヤかを表現する。
 さりげなく当の本人に対して歌劇かつ非常に失礼な表現が含まれていた。
 しかし、レイとミサトは、その様子をだから何? といった感じで眺めている。
 それも、とびっきり白けた目で。

「なんでよ?私のことは『ミサト姉』って呼んでくれてるじゃない」
「それはミサト姉がオレのこめかみに銃押し付けてにこやかにいうからじゃないか!」
「・・・・ミサトさん、そんなことをしたのですか?」
「あはは。ちょっとした冗談のつもりだったんだけど・・・・・そんな怖かった?」
「当たり前でしょうが!! いきなりこめかみに銃突きつけられて『他人行儀はやめようね♪』なんて笑顔で言われたら、
誰だって怖いに決まってるでしょ!!」
「なぁによぉ。日本男児でしょぉ? 意気地がないわねぇ。大和魂みせなさい」
「それと・これとは、ずうぇんずうぇんっ、かんっけいがっ、ぬわあぁあああい!!!!!!!」

 この夜、コンフォート17マンション、半径5キロメートルに、異常超音波が発生したそうな。


―――同、キョウジの部屋

「ったく・・・いったいなんなのさ。オレをからかうことにストレスのはけ口見つけたのか?」

 先ほどの珍騒動から、約二時間後。
 本日二度目の絶叫を終え、またもや肩で激しく呼吸をするキョウジは、ミサトから風呂に入ってくるよう勧められ、
思いっきり憤慨しながらも、仲良くペンペンと一緒にミサト家の風呂を満喫してきたところ。
 中々いい風呂だったためか、入る前ほどキョウジは憤慨していなかった。
 所詮は中学生。大人の策略に勝てるはずも無い。それがなんであろうと、作戦指揮官であるならば尚更である。
 風呂から上がったキョウジは、それにはまたもや気付かず、軽く部屋を整理整頓し、
只今ベッドの上で大の字に寝転がっている。

「なにが『ヤなことはお風呂にでも入ってパーッと流しなさい』だよ! そのヤなことの原因はミサト姉だろうが!」

 天井を眺めながら、そんな悪態をつく。

「まぁ、『風呂は命の洗濯』ってことは、認めるけど・・・・・」

 もぞもぞと、頭の脇に置いてあるポータブルCDプレイヤーからコードをとり、イヤホンを耳につける。
 一度、リモコンのボタンを押すと、そのまま両手を後ろに組んでゴロンと仰向けに寝転がった。

「悪い人じゃ、ないんだよな」

 周りには、先ほど片付けたにもかかわらず、いまだ片付けられていない
ダンボールが数個転がっている。
 明日か明後日、もしくは学校に通い始めて、時間を見つけた日に整理するつもりだ。

「けど、何かを隠してる」

 あの、えらくはしゃぐ態度や、おちゃらけた笑み。
 どれもが本当のようで、偽物のよう。・・・・・・判断が、難しい。

「綾波、レイか。 不思議な子だ」

 正確に言えば、初めてあったのは昨日だが、実際対面といえるのは今日だ。
 なにか、ふわふわしていて、とらえどころがない。
 しかし、それでいて何か安心できるような、懐かしいような・・・・・・そんな暖かい気持ちにさせられる。

「まるで、マナみたいだな・・・・・・いや、雰囲気の意味だが」

 細かく見れば全然違うことにあとから気付き、訂正を加える。
 自分の幼馴染を思い浮かべる。
 やや茶髪のショートカットで、社交的かつ快活な、白いワンピースが良く似合う少女。
 祖父に引き取られてすぐ、キョウジが初めて知り合った親友といえる少女。
 いつも口うるさく、世話好きで面倒見が良く、けれども心優しい少女。ただ、ちょっぴり嫉妬深い。
 戸籍は一応祖父の養女ということになっている。つまり、戸籍の上ではイトコ同士なわけだ。

「明日、電話するかな」

 ついでに祖父にも電話しておこう。
 そう心に決めて、キョウジはゆっくりと瞼を閉じた。


―――同、レイの部屋

 レイは、特に慌てるでもなく、さりげない自然な動作で動作で窓に近づくと、その陶磁器のように真っ白な肌を持つ左手で、
左右に一気に開け放った。
 眼帯と右腕のギプスが痛々しいが、こればかりはどうしようもない。 もう少し『こちら』にくるのが早ければ、こんな
怪我はしなくてもすんだものだが、今更過ぎ去ったことを嘆いても仕方がない。今はとりあえず、栄養を取って少しでも早く
体を治すことだ。
 外から、涼しい風が吹き抜ける。
 揺れる蒼銀の髪を左手で抑えながら、彼女は、今夜のやや蒼い月を眺めた。


「あれが、この世界でのもう一人の碇君、か。ふふ・・・・・意外と、似てるわね」


 一人、くすくすと小さく笑いながら月を見上げる少女が一人。


「でも、『彼』はいないのかしら・・・・・まぁ、仕方のないことだけど」


 その構図は、まるで一人の月の使いが、月の神になにかを報告するよう。
 そして、月の使いは、一人の美しくも儚い、夢幻のような天使。
 白い翼が生えているような錯覚を、覚えずにいられない。


「お猿さんがみたら、なんていうかしらね?」


 抑えていた手を離すと、そのまま肘を突いて、その手の平の上に顎を乗せる。
 女の子らしい、可愛い仕草だ。


「ま、おいおいわかるでしょうから、それまで待つことにするわ。だから、早く来なさい。赤いお猿さん♪」


 最後は、クスっと、実に小悪魔的な笑みを浮かべて、楽しそうに言うと、鼻歌を歌いながら残った荷物の整理を
再開した。
 その夜遅くまで、その部屋の中では月の歌が流れていた・・・・・。


―――同、浴室

 一体いつまで入っているのだろうかと思うくらい、えらく長い時間風呂につかっているペンペンに
視線を走らせながら、ミサトは誰かと電話で話していた。


『なんで連絡してくれなかったの? 私だって一応チルドレンの一人なんだけど?』
「わ、わかってるわよ。だって、昨日の今日よ? そんな急に紹介しろって言われたって、いろいろ手続きとかもあってね」
『言い訳は聞きたくない。それで、いつになったら私は彼と会えるの?』
「あ〜、えっと、だから、もうちょっち待って。ね?」

それから約一分ほどの沈黙。

『わかった。約束は守ってよね』
「当然。それに、そんなたいしたことじゃないしね。明日あたりにでも書類は送るわ。楽しみに待ってナサイ♪」
『・・・・お休み』

 相手は、そう吐き捨てるように静かに言い捨てると、ぷつっと電源を切ってしまったらしい。
 すぐにプープーとコール音に変わってしまう。

「やれやれ・・・・・アスカにも、困ったもんだわ」

 今ごろは、まだドイツにいるであろう電話の相手。
 今のところ、世界でたった三人しかいないチルドレンのうちの一人、セカンド・チルドレン。
 名は惣流・アスカ・ラングレー。
 若干十四歳にして大学を卒業。そして、現在のチルドレンの中ではトップの成績を持つ。
 金と赤の中間ぐらいの色で、腰まで届くサラサラと流れる髪に、とても14歳とは思えないプロポーション。
 日本語は、会話は堪能の癖して文法がだめという、ちょっとお茶目な少女。
 ただ、性格が高飛車かつ威圧的なのが玉にキズだ。

「でも、ほんと、どうしたのかしら・・・・いつものアスカじゃないような・・・・」

 本来、アスカという少女は、プライドというものがすさまじく高い。ソレこそまさに、世界最高峰の山、チョモランマに匹敵するくらい。
 負けることを徹底的に嫌い、いつでもどこでもナンバーワンを異常なまでに求む。
 そして、その自分を負かした相手には、完膚なきまでに叩きのめして自分の勝利を見せつけるような復讐をする。いわゆる
『プライド十倍返し』というやつだ。
 ところがどうだ。今日の電話では、まったく持ってそれは正反対。むしろ、リツコに近い雰囲気だ。
 電話越しだというのに、ミサトにはその電話の相手―――――アスカの目の様子がありありと思い浮かぶ。
 やや空ろで、冷め切った冷たい目。ドイツを去る前に見た、自信に満ち溢れ、生き生きとした彼女特有の様子はまったくもって感じられなかった。
まぁ、それはいいとしよう。向こうで何か遭ったのかもしれない。
とにかく、今のところはアスカの要求している昨日の戦闘データ―――つまり、今回初陣となった初号機の戦いのデータをなるべく早くドイツ支部に
発想することだ。まだ不確定な部分が多いが、それでも暫定的な資料としてすでに10時間も前に司令部へと提出してある。明日にでも各国の支部に
届けられるだろう。

「でも、やっぱ、自分を負かした相手が気になるのかしら?」
 
 お風呂でもビールをあおりながら、ミサトは呟く。
 訓練ナシの初のエントリーで、シンクロ率44,7パーセントを記録するなど、前代未聞だ。
 まぁ、それまでの前例がたった二人しかいないのは置いておくが。
 しかも、それだけではなく、初の実践で見事使徒を殲滅。
 これで興味を持たないほうがどうかしている。
 実際、リツコなどは舌なめずりをしているくらいに喜んでいた。
 ―――あの光景を見た後だというのに。

ぷるる・・・・・ぷるる・・・・・・
「あら? もしもし? ああ、リツコ」

突然のコール音に疑問を抱きながら電話の相手に気付くと、頭の中で『噂をすればなんとやら、か』などと思っていた。

『どう?彼の様子は』
「か〜なり荒れてるわよぉ。レイが来た途端、大爆発」
『まったく。いきなり同居しろといわれたら当然でしょうに』
「こっちはしばらくの間、耳がき〜んと鳴り止まなかったわ」
『ご苦労様。レイはどう?』
「問題ナシよ」
『問題ナシ?』
「そ。全く問題が無いの」
『ありえないわ・・・・・』

 急に、真剣な表情でミサトはリツコに語りかける。

「ほんとにね。ありえないはずなのに、何故かいつの間にか、極自然に打ち解けてるの。
口調もかなり柔らかいし、口数も多いし。今まであんなレイ見たこと無いわ」
『・・・・・・それは確かにおかしいわね。彼女にはありえないわ』
「あんた、一応元保護者でしょ? そこまでありえないって否定するのは酷いんじゃなぁい?
原因は貴方にあるかもしれないのよ」
『・・・・教育は苦手なのよ』
「あんたねぇ・・・・」
『まぁいいわ。とりあえず、問題はそのことだけ?』
「・・・・・ええ。他には大してないわ・・・・・と、そうだ。アスカから、キョウジ君の戦闘データをさっさと送れって苦情があったわ。
随分気になってるらしいわよ?」
『アスカが? ドイツ支部ね・・・・わかったわ。後で優先して送っておくよう言っておくわね』
「頼むわよ。それじゃ」
『ビールはほどほどにしておきなさい』
「余計なお世話よ! Pi・・・・・でも、おもしろくなってきたじゃない♪」

 うぷぷと、かなり悪趣味な笑みを浮かべて、ミサトは一人笑っていた。
 それをペンペンは不思議そうに首をかしげて見つめていたことに、ミサトは気付いていない。 


―――同、キョウジの部屋


 キョウジは、夢を見ていた。

 体が、ふわふわする。
 なにかに浮いているようで、心地よい。
 なんだろう?
 確か、何かと戦っていたような気がする・・・・・。

――邪魔者は、これで排除した

 誰だ?
 誰が話している?
 オレは、何をしているんだ?

『チカラがほしい?』

 誰だ?
 さっきとは、違う声。
 けど、暖かい・・・・・。

『なんのチカラがほしいの?』

 ?
 何を言っているんだ?
 何のことかわからない。

『守るチカラがほしいの?』

 誰を?

『知らない。あなたが知ってる。知らない』

 オレが?
 オレは、何をしていた?

『闘っていたわ。彼と』

 彼?

 瞬間、キョウジの視界が開け、一つの異形が現れる。

 こ、コイツは・・・・・・!!

『あなたが戦っていた彼。チカラがほしいの?』

 そうだ・・・・・。
 オレは闘っていた。
 あの化け物と。
 あの『使徒』と。
 マナを、爺ちゃんを、あの蒼銀の髪の女の子を!!
 そして、僕の愛した―――を!!!
 あの時、誰よりもそばにいて欲しいと望んだ―――を、守るために!!

『何の、チカラがほしいの?』

 守りたい!!
 大切なヒトを!!
 勝ちたい!!
 あの『使徒』に!! 

『そうチカラ。守る力がほしいのね。なら、あげる』

 ありがとう。

『わたしは、いつでもいっしょ』

 君は、だれなんだ?

『わたしは、わたし』

 誰?
 君は、一体ダレ?

『くすくす。がんばって』

 待ってくれ! 君は、いったいダレなんだ!!

『・・・・いってらっしゃい』


 その言葉を最後に、キョウジの意識は途絶えた。
 

 

―――ネルフ、第一発令所

高層ビルに、血まみれとなった初号機がたたずんでからしばらくたったとき、突然、その目に光が宿った。

『グォオオオオオオオオ!!!!!!』

 バキンと、顎部拘束具を引きちぎり、けたたましい咆哮をあげる。
 まるで、狼のような、野獣の如く。
 モニター越しからでも、その威圧感が十二分に伝わる。
 その場にいた全員が、冷たい汗を背中につたわせた。

「しょ、初号機、再起動!! 自ら顎部拘束具を引きちぎりました!!」
「そんなバカな!! シンクログラフはマイナスのままなのよ!? それなのに・・・・・まさか!!」
「「暴走!?」」
「・・・・・勝ったな」
 
 発令所の上のほうでは、無表情のままモニターを見つめるゲンドウに、コウゾウが意味深な言葉を放った。
 だが、ゲンドウは何の反応も見せずに、モニターを見ている。
 コウゾウも、そのまま何も言わなかった。
 
突然その場から初号機は跳躍すると、一気に使徒との差を縮め、その光玉にダブルキックを放つ。
 ピキッと、新たにヒビが入った。
 使徒は応戦するように右手でパイルを放ったが、それは初号機の人間で言えば左頬のあたりをかするだけ。そして、初号機は
交わすと同時に腰に収められていたナイフを観測できないスピードで抜き去り放つ。
 それら四本のナイフは、狙っていたのか正確に両肩、両肘につきささり、使徒の腕に見てわかる通り相当なダメージを与える。
 そして、ナイフが使徒に刺さると同時に、初号機は全体重を乗せたドロップキックで、使徒を後方数百メートルまで蹴り飛ばす。
 初号機は、その蹴り飛ばした反動で空中で後方宙返りを行い、華麗に着地する。
 そして、休むまもなく残った腰に装備されている一本のナイフを抜き逆手に持つと、倒れこんだ使徒に向かって走り出した。
 その、背筋を凍らせるような咆哮をともなって。

「きょ、キョウジ君が闘っているの?」
「不可能よ!! そんなはずないわ!!」

 走りから跳躍へ。
 そして、倒れこんでいる使徒に、ダブル・ニードロップキックを浴びせる初号機。
 使徒の仮面が、半分剥げ落ちた。
 後退する初号機、まるで、先ほどの目から発せられる光線を警戒したからかのようだ。

「こんな、戦い方・・・・彼にできるはずないわ・・・・彼は、何の訓練もうけていないのよ?」

 どうやら、撃ってこないとわかったのか、初号機は再び駆け出す。
 今度は無音だった。
 そして、大きく右手を振りかぶる。 

 だが、あと数十メートルというところで、初号機のナイフは阻まれた。
 そのナイフの切っ先には、ややオレンジ色の、八角形の壁が立ちふさがっていた。

「「!!?」」
「やはり、使徒も持っていたのね・・・・」
「く・・・・・モニターからでも確認できるほどの位相空間・・・・なんて強力なの」

 初号機はそれでも無理矢理に右手をねじ込むようにして壁を突き破ろうとする。
 そのうち、片手だけでは無理だと判断したのか、握りつぶされ折られていた左手を持ち上げると、瞬時に回復させた。
 もう、すでに現実を超越している。

「な、左腕復元!!」
「い、一瞬にして!? 何が起きてるのよ!」
「初号機もA・T・フィールドを展開!! 位相空間を中和しています!!」

 今度はナイフを捨て去り、空いた右手を合わせて両手でこじ開けるようにその壁を開こうとする初号機。
 そして、すぐにそのフィールドは『こじ開け』られた。

「す、すごい・・・・・! 使徒のA・T・フィールドをこじ開けた!!」
「いえ・・・・これは中和なんていう生易しいものではないわ・・・・・・これは、侵食よ」

 ぐるるると、狼の唸り声のような声を出しながら、バチィッとその壁を破り捨てる。
 まさにその時だった。
使徒は、そのタイミングを待っていたかのように目から光線を発射する。
このまま直撃すれば、いくらなんでも、初号機とて無事ですむはずはない。
そして、その光線が直撃しようとしたとき。

その数メートル手前で、先ほどと同じようにオレンジ色の八角形があらわれ、その光線をさえぎった。
光線は拡散させられ、周囲のビルに命中、爆発する。
使徒は、その爆発の反動で後方へと大きく弾き飛ばされた。
またしても、地面に倒れこむ使徒。
爆発の余波が、周囲のビルを襲った。
初号機は、その場から遥か高く跳躍すると、もう一度使徒の光玉へむかって落下していく。
月をバックに、自由落下をするエヴァ初号機。

―――目標は、焔より生まれ、行く先に嵐を起こすモノ。

両膝を立てて、先ほどのダブル・ニードロップキックの構えで、自由落下を続け・・・・・。

そして、激突。
使徒の光玉が、バキィッと鈍い音を立てて割れ砕ける。
しかし、使徒はまだ活動を停止してはいなかった。

それに気付いた初号機が、右腕を思いっきり振り上げ、その光玉に叩きつける。
こんどは、岩が砕けるような音とともに、光玉が割れた。
そして、もう一度。

瞬間、使徒の目がカッと輝き、体をまるで軟体動物のように変形させながら初号機の右腕を中心にからみついた。
ちょうど、その光玉が初号機の顔にくるようにして。

「ま、まさか!!」
「自爆する気なの!!!?」

 ミサトがそう言い終わらないうちに、モニターから大爆発の音とともに、画面一杯がホワイトアウトした。
 外では、緑色の綺麗な十字架の爆発が起こっている。その爆発の威力は、N2とまではいかないが、
それでも充分町一つを消し飛ばしかねないほど、激烈なものだった。
 その、轟音と揺れが、ここ第一発令所まで伝わってくる。
 この調子では、市内は殆ど無事には終わらないかもしれない。
 
 そして、それからしばらく。
 徐々に画面の白さが色を取り戻していき、だんだん朱色に染まっていく。
 スピーカーから、何か重々しい足取りが聞こえてきた。
 ゆっくりと、なにかを踏みしめるような足取り。

「あ・・・・・しょ、初号機、パイロット共に確認! 救助班出動!! ただちに医療班はケイジへ向かってください!!」
 
 画面に写っていたのは、低く、唸るような咆哮を上げる、エヴァンゲリオン初号機。
 その背後には、驚いたことに予想していたものより、殆どといっていいほど損壊していないビル群に、メラメラと
一点を中心にして紅く燃え上がる紅蓮の十字火柱が在る。

それは戦いによって傷を負った、紫色の鬼神だった。


―――コンフォート17マンション、キョウジの部屋


「はっ!!?」

目を覚ますと同時に、キョウジの目の前に、見知らぬ天井が飛び込んできた。
 シャツが、うっすらと濡れている。
 汗をかいたようだ。

「夢・・・・・? いや、昨日のこと・・・・・?」

 額の汗を、右手で拭う。
 ねっとりと、嫌な汗だった。

「・・・・めんどくさいからいいや」

 そういってもう一度ゴロンと横になる。
 やや、不健康だぞ。少年。

 しかし、一度起きたらそう簡単に眠れるものではない。
 しばらく、先ほどと同じようにウォークマンを聞きながら目を閉じていたが、一向に眠れなかった。

「眠れない・・・・・・」

 ばさっと、布団を跳ね除けて天井を見つめる。

「見知らぬ、天井・・・・・・か。当たり前だけど」

 白い、無機質な天井を、彼は呆然として見つめる。
 
 その時だった。

かたっ・・・・・。

「を?」
「あら、まだ起きてたの」

 ふすまの向こうに、リビングの蛍光灯の光をバックにして、ミサトが立っていた。
 肩にタオルをかけていることから、風呂上りだとわかる。
やや青少年に有害な、キャミソールにホットパンツという女性にしてはラフな格好だが。

「眠れないのかしら?」
「いや、暑い」
「ぷ・・・・・っ。なにそれ。クスクス。どぉ?お話でもしましょうか」
「・・・・・ん〜そう、だね。ん。そうしよう」
「んじゃま、びーるびーる♪」
「・・・・・少しは自粛してよ」

 ムダだぞ。少年。
 葛城ミサトに対し、ビールを自粛するなどということは、たとえ転地激震、天破狂乱、たとえサードインパクトが
起きようともありえないだろう。
 そう。未来永劫、彼女の命が燃え尽きるまで。いや、燃え尽きてもありえないことかもしれない。

 のそっと、キョウジはベッドから起き上がると、ばりばりと頭をかきながらリビングへと向かう。
 灰色のノースリーブシャツに、半ズボンの出で立ちだが、それでも暑そうだ。
 顔がしかめっ面である。

「あらまぁ。随分不景気そうな顔ねぇ」
「部屋、蒸し暑い・・・・・」
「窓、開けてる?」
「・・・・後で」
「そりゃ暑いわよ」
「・・・・・で?話題はなに?」
「(逃げたわね。)ま、なんでもいいけど」
 
 クスリと、ミサトは小さく笑ってから、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
 すでに、野次馬親父根性発現中である。

「とりあえず。レイのこと、どう思う?」
「いけすかねぇやつ」
「・・・・(汗)」
「・・・・」

 身もふたもない、とはこのことを言うに違いない。
 据わった目で、じっとミサトを見つめながら言うキョウジは、とても不満そうであった。

「ほ、他にないわけ?」
「全然。いけすかない以外、全然見当たらない」
「やれやれ・・・・せっかく絶世ともいえる美少女と同居できるんだから、もっと喜んだらどお?」
「いや。女は苦手だから」
「あら? それじゃ、私もそうなのかしらん?」
「まさか。それは絶対にありえない。ミサト姉は例外。特異中の特異。オレの中でのイレギュラー」
「・・・・・言ってくれるわね」
「おうとも。いってやるさ」
「この青二才め・・・・・こうしてやる♪」
「うわ!ちょ、ミサト姉!や、やめ!あは!あははははっ!!」

 リビングで互いに向かい合って座っていたため、悪戯心に火がついたミサトに軽々とわき腹を掴まれるキョウジ。
 勿論、その次はくすぐり地獄だ。
 やや、低レベルな気もするが、スキンシップとしては、ちょうどいい。

「あはははは!!や、やめはは!!やめて!あははっ!」
「だったらっ、前言撤回しなさい♪」
「い、あはははは!わ、わかった!!あはは!前言、てっかいっ、しますっ!!あはは!!・・・・・はぁ」
「よろしい。コレに懲りたら、もう調子に乗らないことね」
「はぁ・・・・はぁ・・・・一方的な逆ギレじゃないか・・・・」
「何かいったかしらぁ?」
「いえ。何も」

 びしっと正座をして敬礼するキョウジと、あぐらをかいてぶすっとキョウジを見つめるミサト。
 そして、二人は何となしに、穏やかに笑い出した。
 
「ははは」
「ふふ♪ レイには悪いかしら。もう寝ちゃってるけど」
「平気でしょ。怪我してるんだし、早く寝るのが一番いいって」

 レイの眠る部屋を見つめる二人。
 その奥ではきっと、蒼銀の髪をした一人の少女がぐっすりと心地よさ層に寝ているに違いない。

 開け放たれたベランダの窓から、涼しい風が吹いた。
 ふわりとカーテンが部屋を舞う。

「ねぇ、キョウちゃん?」
「ん?」

 それまで、優しげな瞳で部屋を見つめていたミサトは、突然顔を引き締めるとキョウジを呼んだ。

「キョウちゃんは、なんでエヴァに乗ってくれるの?」
「なんでって・・・・・・」

 隣に置いてあるビールを片手に持ち、ミサトは尋ねる。
 何かに怯えるように。
 何かを隠すように。
 今は、まだ何も知らせず。

「・・・・たぶん・・・・・みんなを、守りたいから」
「守る? みんなを?」
「そう。守るんだ」

 レイの部屋へ向けていた視線をミサトに戻し、キョウジは力強く頷いた。

「なんでかわからないけど、守らないと。守りたいと。そう思ったから」
「・・・・・そう」
「ミサト姉は? なんでネルフにいるの?」
「え?」

 互いに見つめあいながら、二人は視線を絡める。
 何かを掴もうとするのか。
 何かを見つけようとするのか。
 それはわからないが、二人は何故か視線をそらしたくなかった。

「・・・・・・そうね。なんで、私はネルフにいるのかしら」
「オレと同じじゃないの?」

 何気なく発したキョウジの言葉に、ビールを口につけたままミサトは固まった。
 いくら頭でわかっていても、いざ言われてみるとやはり何かとショックはある。
 それが答えにくいものなら、なおさらだ。
 
「・・・・・」
「あ、いや、無理にってわけじゃないんだ。その、ゴメン。オレ、そいういうのって、ほんと無頓着だから・・・・・」
「あら? 何変に気にしてるのよ。だ〜いじょぶじょぶ。ちょっち考えてただけ。私のネルフにいる理由をね」
「でもさ」
「キョウちゃん? 遠慮やヘンな気遣いは止めるって、車の中で約束したでしょう」
「う・・・・・ゴメン」
「わかればよろしい♪」

 そいういって、ミサトは薄く微笑んだ。
 相変わらず女性らしからぬ格好でビール片手だが。だがその笑みは、優しさと、『何か』に満ちていた。
 それが酷く儚くて。悲しくて。綺麗で。
 キョウジは思わず、言ってしまう。

「・・・・・・・・ぅ〜〜ダメだ!!やっぱダメ!!絶対っダメ!!」
「な、何が?」
「決定!! 今度俺が第二に行くとき、一緒に行こう!! そして、爺ちゃんに話をきくんだ!!」

 いきなり立ち上がって訳のわからないことを豪語するキョウジを、ミサトは唖然として見つめる。
 いわゆる、『鳩が豆鉄砲〜』の顔だ。
 つい、持っていたビールを落としそうになって慌ててキャッチする。

「ちょ、ちょっとキョウちゃん!?」
「絶対にそれでオッケ!! 全然問題なし! 爺ちゃんなら、ミサト姉の悩みも解決してくれる!! 
そういう人なんだ、爺ちゃんは! 人の悩みなんて簡単に解決しちゃうんだ!」

両手の拳をググッと上に押し出しながら、キョウジはミサトに詰寄る。
 その瞳は爛々と輝いていて、ミサトには、とてもまぶしくてしかたなかった。

――ああ・・・・この子は、なんで私にこんな顔をしてくれるのだろう・・・・・。

 胸が、罪悪感できりきりと痛んだ。
 涙が、溢れそうだった。

「・・・・そうなんだ。そっかぁ・・・・・それじゃ、近いうち案内してもらおうかしら? キョウちゃんの祖父殿に。
 つ・い・で・に、ガールフレンドもね♪」
「な!?が、がーるふれんど・・・・って、マナはそんなヤツじゃないって!ただの幼馴染だ!」
「あらぁ?じゃぁ、なんでそこまでムキになるのかしらん?私は誰の名前も挙げてないんだけどなぁ?」
「ムキになんかなってないっ!!」
「照れない照れない♪青春ねぇ♪」
「だから違うってのに!!」

 楽しそうに笑うミサトと、真赤な顔で全力で否定しているキョウジ。
 そのやりとりは、結局。
 煩すぎることに文句をいいに起きたレイによって止められるまで続いていたという。
 元気なことだ。

だがしかし、歯車は着実に合わさり始めている。
あとは、かみ合いながら回転するのを待つのみ。

――その痛みを我慢して。
  その涙を我慢して。
  今はとにかく生きよう。
  今はとにかく勝とう。
 
ミサトはこの時は、そう思った。

 そして、キョウジは聞く。
 自分の心の中にある、『ダレ』かの声に。

―――――がんばれ、シンジ。

 それは、とても聞き覚えのある、懐かしい男の声だった・・・・・・


……To Be Continued.


あとがきなるもの

レイ「・・・あなた、バカ?」
イブ「うぐっ・・・い、いきなりなんなのだ!綾波レイっ!」
レイ「LASとか宣言したくせに、いまだにAのアスカが登場したのは一度ぽっきりよ?
   しかも電話。おまけに肝心のSの碇君までいないし。これじゃLMKじゃない」
イブ「ち、ちがう!!これはお話上仕方のないことで・・・」
レイ「言い訳は見苦しいわよ?堕ちた分際で」
イブ「げふぁっ・・・!!」
レイ「しかも最後は何?ミサトさんの心の心境かと思えば、突然誰か簡単に想像がつく
   心の声は何?伏線のつもり?あなた、やっぱりバカでしょ?いえ、アホね。
   犬畜生にも劣る、バクテリオファージ以下の思考しかできないのね?
   どうせできもしない中途半端なことやるんだったらいっそのことやめたらどう?
   見苦しいし、無様なだけだから」
イブ「・・・えぅ・・・レイちゃんがいぢめる・・・」
レイ「やめてくれないかしら?あなたに名前をちゃんづけで呼ばれると、背中にゴキブリが
   這うように気持ちが悪いの」
イブ「ひ・・・ひどい・・・アスカ様の毒舌が見事に移植されている・・・」
レイ「そうしたのは貴方よ。宇宙の塵にも劣る『アレ』の分際で。
   とりあえず、『アレ』がもう予告できそうもないので私が代わりにするわね。
   碇君が学校に通い始めて三日が経った。
   まだなれない環境に戸惑いながらも、それなりに平和ともとれない生活を送っている。
   ネルフでの訓練。
   学校での生活。
   しかし、突然の来訪者が碇君を訪ねる。
   彼女は一体?
   そして、鈴原君たちとの友情は?
   碇君の心は、なにを映し出すのか。
   次回、新世紀エヴァンゲリオン〜不測の主人公は、新たな語りを紡ぐ〜第参話Aパート
   『突然の、来訪者』
   今、碇君の親友が現れる」
イブ「ああ・・!私の台詞が・・・!」
レイ「自業自爆よ」

 (※注 この予告はあくまで予告です。実際の内容は変わってしまう事がありますのでご容赦ください)


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