「そして、滅びの時が訪れる。
    全ての生命が無に還り、
    世界はまた
    混沌の時代へと
    戻るのである。」

    予言書 死海文書 最終項より










新世紀エヴァンゲリオン
       〜ANOTHER STORY〜

  第一部 [終末の世界へ遣われし者]


第壱話  「彼を呼ぶ声」








白い巨人
それは原始の海の中にいた。
十字架に張り付けられながら、
それは時を待っていた。
契約の時を
そして巨人は見ていた。
一人の天使の死ぬ瞬間を
天使は生き残るために遣わされ、
そして真実を知った。
天使は悪魔に握り潰され、消えていった。










〈セントラルドグマ最下層〉
巨人は悲しげに俯いていた。その七つの眼は目の前の何かを見つめていた。

「リリス……」
巨人の目の前に人影があった。その人影が巨人に話し掛けていた。
「君に子が傷ついたね。彼は大切なものを失い、自らの手で大切なものを消してしまった。
 彼の傷は計り知れまい……」
人影は浮いていた。それは巨人の七つの目を見詰めていた。
「このまま、時が来れば、彼は孤独を望むだろう。そして、彼らは君と一つになり、痛みの無い完全な
 世界へと旅立つだろう。」
「だが、それではいけないんだよ。」
「滅びの時は来ない。何故なら『彼ら』には未来があるから。」
「そして、私はそのために遣わされたのだから。」
「彼の代わりに、彼らに未来を教えるために。」
そう言い残すと人影はふっと消えてしまった。
そしてその直後…
「第三新東京市直上に高エネルギー反応!……まさか、そんな!!」

「パターン青、使徒です!!」
という叫び声が聞こえた。





〈公園〉
その少し前、この公園のベンチに二つの影があった。
一つは少年、もう一つは大人の女性のものだった。
「僕は、本当に正しかったんでしょうか?」
少年、碇シンジはとても後悔していた。彼は一人の少年を殺したのだ。
少年の名は渚カヲル。彼は使徒だった。
シンジは彼を殺さなければならなかった。
だがシンジはそうしたくなかった。
彼は友達だった。彼は自分の話を聞いてくれた。
そして、彼は自分のことを好きだと言ってくれた。
だから殺したくなんてなかった。
しかし、彼が使徒であった事を知ったとき、自分のことを裏切った、という感情がシンジを支配した。
シンジは彼を握り締めた。だが、彼は思わぬことをシンジに言った。
「僕を殺してくれ。」
その言葉の意味がシンジには分からなかった。
そして、シンジはその言葉のまま彼を殺した。
彼を殺したあと、シンジは激しい後悔の念に襲われた。
自分のしたことは本当に正しかったのだろうか。
シンジはその疑問を一緒にいる女性、葛城ミサトに尋ねた。
「僕はあの時、カヲル君を殺さないといけないと思っていました。
 でも今考えると生き残るのはカヲル君であるべきだったと思います。」
「あの時僕らが死んで、カヲル君が生き残るべきだったんだ。
 こんな僕らが生きるより、カヲル君が生きた方が良かった。」
シンジは俯いたまま言った。その声はとても悲しそうだった。
ミサトはそんなシンジの姿に心に傷みを感じた。
自分達大人は、こんな幼い少年達をここまで苦しめている。
ただ自分達が生き残るために。
ミサトは自分がその一人という事を思い、自分に嫌悪感を抱いた。
『ほんと、汚れているわね。』
そう心の中で言いつつ、ミサトはシンジの問いに答えた。
「生きていくとはそういうものよ。自分のしたことに後悔する。その繰り返し。でもね、そ
うしないと人は生きていけないの。」
「たとえ他人を殺しても、ですか?」
「そうよ。でも、シンジ君のしたことは正しいわ。だって私はシンジ君が帰って来てくれて
 嬉しいもの。」
「どうしてですか?」
「あなたは私の家族だからよ。私のとても大切な家族。だからあなたには死なれたくないの
 よ。」ミサトはしっかりとシンジを見て、優しい表情で言った。
シンジはとても嬉しかった。自分のことを家族と言ってくれた。血は繋がっていないけど、ミサトさんは自分の家族だ、自分にもまだ居場所がある。そう思えたから。
ありがとう
そう言おうとしたが、急に辺りが明るくなって、言えなくなった。
『何だ?』
今は夕方だったので、それまで辺りは赤色に染まっていた。しかし、それが急に昼間のように光に包まれた。
「何かしら、あれ」
ミサトが呟いた。シンジはミサトの方へ振り返ると、ミサトの向いている方を見た。
シンジは少し目を瞑った。そこに、シンジが見た方向に光があったからだ。
何かに照らされたとかいうことではなかった。
文字どうり光がそこにあったのだ。丁度第三新東京市の中心、兵装ビルが立ち並ぶ場所の少し上の辺り。そこに光があった。何かが光っているわけでもない。ただ光の塊が浮いていた。
「何でしょうか?」
二人とも暫く呆然とその光を見ていたが、
ピピピピピピピピピピピピピ
ミサトの携帯が鳴った。
「はい葛城です。あっ、日向君?どうしたの?えっ、すぐ来てくれって。何かあったの?
 …………なんですって!!!分かった、すぐ行くから。」
ピッ
最初のうちは落ち着いて話していたミサトだが、電話を切る時には、その顔には驚愕の色が浮かんでいた。
「どうしたんですか?」
シンジもミサトの驚き様に、何か大変なことが起こったのではないか、と不安の入り混じった声で尋ねた。
「シンジ君。ネルフに戻るわよ!」
ミサトはシンジの手を引っ張り、公園を出ようとした。
「ちょ、ちょっとミサトさん!何があったんですか?」
ミサトに引っ張られながら、シンジは同じ質問をした。
ミサトはシンジを引っ張る力を緩めずに、冷静な顔で言った。その顔はいつもの作戦部長の顔に戻っていた。
「パターン青が検出されたわ、場所は第三新東京市直上、エリアA‐1よ。」
「えっ!?」
シンジは振り返った。光は相変わらずそこで眩しいばかりに輝いていた。





〈ネルフ本部発令所〉
本部の全員が驚きの表情を浮かべながら慌しげに持ち場についていた。
無理もない、最後の使徒が倒され、全員がこれで終わったと安著の溜息をついていたときに
事は起こったのだ。
[Danger]という画面に映し出される文字。赤い照明と警告音が鳴り響いている。
「目標は依然出現位置に停滞中。」
「A・Tフィールドの発生は確認されません。」
「中心部に高エネルギー物質の存在を確認。ですが、中心部より発生する光により光学観測では捉えられません。」
「目標による被害は?」ミサトがいない代わりに指揮を執っていたリツコが訊いた。
「現在ではゼロです。もともと住民もいない所ですから人的被害もありません。」
答えるマヤ。
発令所には緊迫した雰囲気が流れていた。

「新たな使徒か…。」
「死海文書に載っていない使徒も現れる。老人達のシナリオも完全に崩れたな。」
「我々の計画も少し延長せざるを得ないぞ。」
「ふっ、問題ない。我々には十分な切り札がある。」
「シンジ君か。碇、自分の息子を戦場に送り出し、今彼が心を壊しかけている事に罪悪感を感じないのか?」
「私はあの時からもう父親であることを捨てたのだ。そんなことを感じる義務はない。」
「全くお前という奴は…」
会話をしているのはネルフ総司令碇ゲンドウと副司令冬月。この場に似合わず二人とも冷静である。
プシュッ
とそこへ息を切らしたミサトとシンジが入ってきた。
「遅れてごめん。」
「遅いわよ、ミサト。どこにいってたの?」
「ちょっとシンジ君とね。それより現状は?」
「突然現れました。現在まで目立った行動は確認されていません。」
「敵の情報は?」
「中心部に高エネルギー反応があります。ですがそれが何なのかはまだ分かりません。」
「どうするの?」
悩むミサト。
『零号機と弐号機は使えないし、かといってあんなことがあった後のシンジ君を出撃させるのも…』

シンジはミサトをただ見ていた、自分はまた戦わなければいけないのだろうか、という不安と諦めの入り混じった気持ちだった。
そうしていた時だった。
『シンジ……』
誰かに呼ばれた気がして、周りを見回した。そこはさっきまで自分の居た発令所の中ではなかった。
「此処は……」辺り一面真っ白の、光に包まれた場所に居た。
『シンジ……』
振り返ってみると、一つの人影があった。
逆光で顔は分からないが、さっき聞こえた声やシルエットからどうやら少年のようだ。
「誰…?」
少年はシンジに手を差し出し、
『シンジ、此処へ来るんだ。』
そう言って人影は光の中へ消えていった。
「あ、ちょっと待って!」
けれどももうすでに辺りはまた発令所の中に戻っていた。
「………………来いって。」
シンジはモニターを見た。眩いばかりに輝いているものがあった。
暫く考え込んだシンジだったが、ミサトの方へ顔を向け、まだ悩んでいる様子のミサトに口を開いた。
「ミサトさん、僕が行きますよ。」
「えっ、いいの?シンジ君?あんなことがあった後で…」
『しまった。』
最後の言葉で少し表情の曇ったシンジを見てミサトは後悔した。
だがしかし、
「葛城三佐、本人が出撃すると言っているのだ。何の問題もないだろう。」
ゲンドウが口を開いた。
「赤木博士、早急に初号機の発信準備を。」
「分かりました。じゃあシンジ君行きましょう。」
リツコがシンジを連れて発令所を出て行く。ミサトを一回睨んで。
ミサトはバツの悪そうな顔でリツコに謝罪の視線を投げ掛けた。



〈更衣室前廊下〉
シンジはエントリープラグに着替えると、初号機のあるケージに向かおうとした。
と、ドアが開いた瞬間、視界に一人の少女が入ってきた。
薄い青色の髪の毛と、紅い瞳を持つ少女。
「あ、綾波…」
「行くの?」
相変わらずの無表情でレイが尋ねた。
「あ、う、うん。」
シンジはレイと視線が合わないように目を逸らして言った。
シンジはレイの瞳を見られなかった。
ターミナルドグマで「あれ」を見た時からシンジはレイを避けていた。
たくさんの綾波レイ。ダミープログラムの正体。
そして、LCLの中で崩れ落ちていった彼女たち。
「自分は三人目。」というレイの言葉の意味が分かってしまった。
それからシンジはレイを恐れるようになった。
「そう、気を付けて。」
「あ、ありがとう。」
シンジはそう言って逃げるように走って言った。
彼は気付かなかった。自分を見つめるレイの瞳に悲しみが宿っていたことを。


〈エントリープラグ内〉
『パイロット、エントリープラグ内コックピット位置に着きました。』
『了解、エントリープラグ挿入!』
……なぜ僕はまたこれに乗ったんだろう……
通信回線から聞こえる声を聞きながらシンジは思った。
『プラグ固定終了!!』
『第一次接続開始!!』
『エントリープラグ注水!!』
……もう乗りたくなんかないのに……
『主電源接続、全回路動力伝達、起動スタート!!』
『A10神経接続異状なし。』
『初期コンタクトすべて問題なし。』
『双方向回線開きます!』
……もう乗る理由もないのに……
『エヴァンゲリオン初号機、発信準備!!』
『第一ロックボルト解除!』
『解除確認、アンビリカルブリッジ移動!』
『第1、	第二拘束具除去!』
『1番から15番までの安全装置解除。』
『内部電源充電完了、外部電源コンセント異状なし!!』
『エヴァ初号機射出口へ!!』
……誰も乗れって言って無いのに……
『1番ゲートスタンバイ!』
『進路クリア、オールグリーン!』
『発進準備完了。』
『了解!!』
……どうして僕はまた乗ろうと思ったんだろう……
『エヴァンゲリオン初号機、発進!!!』
……でも、僕は行かなくちゃいけない気がする……
……誰かが僕を呼んでいる。そして僕はその人に会わないといけない……
……そんな、気がする。

そして、紫の悪魔は少年を乗せ出向く。
天使の待つ場所へ………
                    続く。






作者後書き
初めまして、I.Sです。
初めて書いたエヴァンゲリオンの小説です。
僕がこの小説を書こうと思ったのは、劇場版のエヴァンゲリオンを見たからです。
とても衝撃的なラストで、僕の思っていたのとは全く違いました。
何より、エヴァンゲリオンの謎が殆ど解明されませんでした。
アダムとリリス、使徒とは、エヴァンゲリオンとは、等の沢山の疑問が残りました。
だから、せめて自分の中でその謎の一つの答えを出したい。
そして、もう一つの物語ということで自分なりにエヴァンゲリオンを完結させたいと思いました。
それと、エヴァンゲリオンに登場した人達に幸せになって欲しいということもあります。
劇場版では彼らにとても悲しい終わりが待っていました。
特にチルドレン三人には、幸せを掴んで欲しいです。
だから、この小説はエヴァンゲリオンの謎の解明とシンジ達を幸せにするという目的で書きます。
これから、下手なりに頑張りたいと思うので、宜しくお願いします。


マナ:I.Sさん、投稿ありがとーっ!\(^O^)/

アスカ:使途は渚で終わらなかったのね。

マナ:シンジは、まだまだ闘わなければいけないのかぁ。

アスカ:それなのに、あの髭オヤジときたら。心ってものがないの?

マナ:碇司令だもん。そんなものよ。

アスカ:いつか、たたきのめさなくちゃいけないわ。

マナ:シンジ・・・可愛そうに。
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