「君は、セカンドインパクトのことをどの位知っているかな?」
「南極で、最初の使徒が発見されて、それを研究している時に爆発が起きたって……。」
「そう。君達はそれを真実と捉えているね。」
「でも、真実とはいつも自らの知識の範疇を超えるものなんだ。」
「あの日が、全ての始まりだったのさ。世界の終末へと導く階段の一段が、あの日踏み出されたんだ。」




新世紀エヴァンゲリオン
     ANOTHER STORY
第参話 「真実」


シンジのいた空間が歪んだかと思うと、急に視界が変わった。
どこかの研究所のようだ。ネルフのものと良く似ていた。
シンジは不意に上を見上げた。そこには、セントラルドグマの最下層で見たあの白い巨人がいた。
あの時と同じく、十字架に張り付けられた状態で。
「これは……」
「そう、これはリリス。全ての母なる存在、全ての始まりとなった存在だ。」
「リリス……」
「そして此処は十五年前の南極。彼らは此処でリリスを見つけた。
 リリスは彼らにとって偶然拾った神様だったんだよ。」
「彼らはリリスが何者かを調べようとした。それが、全ての引き金となったことだったのさ。」
「君は使徒がこのリリスと接触するとサードインパクトが起きると知っているね。」
「うん。」
「一つの生命がリリスの元へと還った時、リリスによって保たれていた生命の均衡が壊れ、他の全ての生命は死に絶える。それがサードインパクトだ。」
「そしてこの時もそれが起きようとした。」
「アダム。リリスより生まれし最初の生命。アダムはこの時リリスと融合しようとした。」
また空間が歪み、今度視界に現れたのは、光り輝く巨人だった。
「これが、アダム……」
アダムは、周囲の研究施設を破壊し尽くしながら、ある一つの建物へと向かっていた。
「アダムは力も持っていた。彼は一つの生命として大きすぎたんだ。アダムとリリスの融合は、星そのも
のをも壊す程のものになった筈だ。しかし、アダムはリリスの元へは還れなかった。」
アダムが建物の天井を剥がし、中へと入っていった。
だが、そこにリリスの姿は無く、あったのは小さなカプセルだけだった。
アダムはカプセルへと近付いた。
途端に辺りは閃光に包まれていった。
また視界が歪む。そして今度シンジは海の上に立っていた。
遥か向こうの、アダムがいたであろう場所が光に包まれ、そこから光り輝く二対の羽根が生えてきた。
羽根は天へと伸び続けていった。
「小さくなったリリスとは、アダムは一つになれなかった。」
シンジは、ずっと隣にいた少年を見た。少年は輝く羽根を見詰めていたが、声はシンジに向けて話し掛けていた。
「アダムは行き場の無くなった力の放出とともに幾多の欠片に砕けていった。それが、セカンドインパクトだ。」
「そして、アダムの欠片は新たな生命となった。幾つかは人によって形あるものへと造られていった。」
「人間の手で造られし生命。人はそれを『エヴァンゲリオン』と名付けた。」
「それが、エヴァ……」
「他のアダムの欠片は自ら意思を持ち、新たな生命となった。しかし、その意思はアダムの意思を反映したものだったんだ。そして欠片は『使徒』となった。アダムの意思、リリスとの融合を果たすことのために生きる存在。それが使徒と呼ばれる者達だ。」
「使徒の行動はそれに宿るアダムの潜在意識を表すものだ。全ての使徒は彼らの中にいるアダムで繋がっている。使徒の行動はアダムの行動と言っていい。」
「初め、アダムは人の手によって造られた自分の欠片から生まれた者に興味を持った。だから最初使徒はヒトに造られし己の片割れを探したんだよ。」
「その後、アダムはリリスを発見する。最初はリリスが幼体であったためにあまり手荒なことはしなかった。しかし、リリスが完全な姿を取り戻すにつれ、力を使いただ一瞬だけのリリスとの接触を行おうとした。」
「そして、ある時アダムは気付いたんだ。ある新しい生命の存在を。それはリリスの生み出した存在。リリスがアダムが欠片となって分散したことに対して、アダムの欠片から、ヒトの中にヒトとして生み出した存在。」
「シンジ、君は『なぜ自分がエヴァに乗れるのか』を考えたことはあるかい?」
「えっ?!」
それまでずっと彼を見詰めて話を聞いていたシンジはいきなり質問されたので少し驚いた。
「なぜ、自分達十四才の人間だけが適格者に選ばれるのか?不思議に思ったことはあるかい?」
「そんなことは無かったと思う。だってそんなこと考えたって分かるわけ無いし、『何で乗るのか』ってことしか考えたこと無かったから………でも、まさか……それって……」
シンジは不安な視線で彼を見詰めた。答えが返ってくるのが怖かった。
「そうだ。リリスが子であるリリン…ヒトに与えた新たな命。それが『チルドレン』だよ。」
「!!!!!」
シンジは動揺を隠し切れなかった。
しかし彼は話を続ける。
「アダムはその存在に気付いた。自らの欠片より生まれしリリスの子。アダムはそれに興味を持った。
 だから、チルドレンの心を知ろうとしたのさ。」
「そしてアダムは「やめて!!」
シンジは叫んだ。彼は話を止め、シンジの方を向いた。シンジは耳を塞いで俯いている。
「聞きたくないよ……僕らがそんな存在なんて。」
「だが全ては真実だ。君はそれを知る義務がある。」
「そんな真実なら、知りたくないよ。知らなくていい……」
「人は真実を知った時新たな一歩を踏み出すんだ。君もその一歩を踏み出さなければいけないんだよ。」
「怖いんだ……もしかしたら僕は人間じゃないかもしれないことを知ってしまうかもしれないから。」
シンジの目が潤んできた。
「君達は人間だよ。」
彼が優しく言った。シンジは顔を上げた。
「ただ君達はリリスによって少し力を貰っただけだ。君達は紛れも無い人間だよ。」
「だが、君達に与えられたのは力だけではなかったんだ。」
「えっ?」
シンジが彼を見て言った。彼はシンジに微笑むと、話を続けた。
「それに気付いたのはアダムだ。アダムはその時知っていた。世界はやがて滅びの時を迎え、全ての生命
 が無に還り、世界がまた新しく始まることを。だからアダムはリリスと一つになろうとしたんだけどね。
 ともかく、アダムは気付いたのさ。君達に世界の終末と反するものが与えられていることを。」
「それは、何?」
「それは『未来』さ。」
「未来?」
シンジはきょとんとしていた。彼はシンジに微笑んだ。
「そう、未来。滅びの時を免れて、世界を新たに創っていく存在。それが君達だ。」
「アダムはそれに気付いたのさ。だがね、アダムは他にも気付いた。
 君達が未来を捨て去ろうとしていることを。」
彼の口調が少し厳しいものになった。
「君達は心を閉じ、前へ進むことを止めようとしている。それが、アダムには悲しく感じられた。
 自分と違い、先へ進むことを許された存在なのに、それを放棄しようとしている。」
「だからアダムは君達に未来を教えようとした。君達を生かそうとした。
 たとえそれによってアダムが滅んでも、ね。」
シンジの脳裏にカヲルの顔が浮かぶ。
死ぬ間際に彼が言った言葉、その意味がやっと分かった。
「そしてそのアダムの意思が具現化されたもの、それが私なのさ。」
シンジは再び彼に視線を移す。
周りはもう海ではなく、もとの白い空間に戻っていた。
「これが真実。そして君は真実を知った。」
少年は微笑んでいた。
とても優しい、穏やかな微笑み。シンジは心が暖かく感じた。
「シンジ、君は未来を望むかい?それとも、これまでどうり、心を閉ざし留まるかい?」
シンジは少し考え込んだが、彼を見ていった。
「僕は、真実を知るのも怖いし、未来へと進むのも恐ろしい。
 でも、今のこの時をずっと生きるなんてもっと嫌だ。
 だから、僕は前に進んでいきたい。」
「そうか。」
「でも、でも僕にはできないと思う。だってそんなことしたことも無いし、未来なんて考えたことも無かった。だから……」
「それは君がまだ知らないからさ。」
彼はシンジの言葉を遮った。
「生きる理由。大切なものとは何か。幸せとは何か。それらを知らないからさ。」
「幸せ?」
「そう、人は真実を知り一歩を踏み出し、幸せを得ることによって未来を夢見る。
 君は幸せを知らないから、生きる理由を知らない。
 君は大切なものに気付いていないから、希望を抱いていない。ただそれだけのことさ。」
「でも大丈夫。君はきっと知ることができる。
 私はそのためにいるから。」
そう言うと彼の体が薄れてきた。
「ど、何処に行くの?!」
「又会おう、シンジ。」
「待って!!」
しかし、彼の姿は光の中に消えてしまった。
その瞬間、シンジははっとした。
周りは今までいた空間ではなく、初号機のエントリープラグだった。
見ると、目の前にあった光は無く、コンクリートのビルだけしか残っていなかった。
「何だったんだ……」
シンジが暫くぼーっとしていると、通信回線が開き、ミサトの顔が現れた。
『シンジ君大丈夫!!』
「あ、ミサトさん。」
シンジははっと我に返った。目の前にミサトの心配そうな顔がある。
『大丈夫?!何かあった?!』
シンジはどう言えばいいか分からなかったので、とりあえず自分の無事を伝えた。
「大丈夫ですよ。ミサトさん。」
ミサトもそのシンジの声を聞いて安心した。
『そう、良かった。こっちで現状を把握するから、少し待っててね。』
「分かりました。」
通信回線が閉じられて、エントリープラグにまた静寂が戻る。
シンジは今さっきあったことを思い出そうとした。

〈発令所〉
発令所はまた忙しくなった。現状の把握とMAGIへの支障を調べることに追われていた。
「何だったのかしら?あの使徒。」
コンソールを叩きながらリツコが呟いた。
「そうね。今までの使徒とは明らかに行動が違うわ。」
シンジの無事を確認し、発令所の指揮を執っていたミサトが答えた。
「MAGIにも何の支障も起きてないわ。占領されていた間ずっと沈黙させられていたみたい。」
「『邪魔はさせない』って言っていたけど、結局シンジ君にも何の影響も出ていないし、他の被害も
 全くない。気になるわね。」
「今の時点では私達が考えても何も分からないわ。分かるといえば使徒の名前だけね。」
「ファヌエル……希望を齎す天使、か………」
「私達にとっての希望かしらね。」
「さあね。いずれにしてももう少し様子を見なきゃね。」
二人の会話が交わされている時、司令席でも二人の人物が話していた。
「碇、これからどうするつもりだ?」
「使徒は殲滅されたわけではない。又現れる可能性も否定できん。計画を少し延長せざるを得まい。」
「そうだな。で、ゼーレの老人達にはどう言い分けするつもりだ?」
「死海文書に載っていない使徒が現れた。これだけでも老人達を黙らせるには十分だ。」
「そうだといいが……」
「なに、全ての切り札は我々の手の内にある。問題は無い。」



シンジは考えていた。
『アダムとリリス、使徒、そして僕達……僕達に与えられた未来って何だろう。
 僕は、何のために生きているんだろう……』
『生きる理由、大切なもの。そんなもの僕にはなかった。
 幸せなんて、考えたこと無かった。
 僕には…………無いよ。』
                 
                 続く。


マナ:使徒は、真実だけを告げていなくなっちゃったけど。

アスカ:どんな未来をシンジに与えるのかしら?

マナ:使徒がシンジに何をしようとしてるのか、知りたいところね。

アスカ:この使徒の出現によって、シンジの未来が変わるのかな。

マナ:きっと、その未来にはマナちゃんも一緒に・・・

アスカ:いるわけないでしょっ!
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