何も無い 
何も見えない
光さえない闇
空っぽになったアタシの心
もう何もかも失ってしまった
アタシが生きる価値は無い
誰もアタシを見てくれない
もう何もしたくない
早く楽になりたい

ハヤクシンデシマイタイ

『そんなことはないよ。』

誰?

『君には聞こえないのかな?』

何が?

『君を呼ぶ声が』

アタシを呼ぶ声?

『……カ……スカ………アスカ……』

アタシの名……

『アスカ……目を覚まして……』

アタシを呼ぶのは誰?

『お願いだ……目を覚まして……』

泣いてるのは、誰?

『アスカ……目を覚まして!』

誰?






そして、少女は目を覚ました。

   新世紀エヴァンゲリオン
        ANOTHER STORY
   第伍話 「好きだから」



〈病室303号室〉
[惣流・アスカ・ラングレー]というプレートの前にシンジはいた。
暫し考え込んでいたが、意を決して扉を叩く。
「アスカ?入るよ?」
応答はなかった。
シンジは扉を開けた。
シンジの視界に入ってきたのは何とも痛々しい光景だった。
しんとした部屋に響く機会音。
様々な医療用機器が一定のリズムで電子音を出していた。
ベットが一台あり、その上に一人の少女がいた。
その少女にはかつての明るさや活発さは感じられなかった。
痩せこけた蒼白い手がベットの横に投げ出され、
その手と同じくらいに蒼白く、頬がこけた顔にはもうかつての彼女は見られなかった。
まるで人形のように眠る少女。
彼女に繋がれた管を流れる栄養剤が彼女の命を支えていた。
「アスカ……」
シンジな心がずきんと痛んだ。
シンジはベットの隣の椅子に腰掛け、アスカの顔を覗き込んだ。
静かに眠るアスカの顔には、彼女を支えていた自信やプライドはなかった。
「アスカ、今日は君に僕の話を聞いてもらいたいと思ってきたんだ。」
シンジは努めて明るく話し出す。
「僕の話なんかアスカは聞きたくないだろうけどさ、僕アスカにちゃんと話したいんだ。
 だから、目を覚ましてよアスカ。」
少女からは何の反応もなかった。
それでもシンジは続ける。
「ねえアスカ、目を覚ましてよ。
 目を開けて、僕の話を聞いてよ。
 ねえ、アスカ。」
しかしアスカからはなんの応答もない。
シンジはアスカの投げ出された手を握った。
驚くほど小さく、冷たい手だった。
シンジの眼には何時の間にか涙が溜まっていた。
「やっと、やっと分かったんだ。僕の気持ちに。
 君に伝えたいのに……
 アスカ、お願いだよ。目を覚ましてよ。
 僕の声を聞いてよ、僕を見てよ。
 お願い……目を覚ましてよ!」
シンジの目から涙が零れ、アスカの痩せこけた頬に落ちた。
「うっ、うっ、目を覚ましてよ……アスカ……。」
シンジは目を閉じて泣き出してしまった。
「…………………だ……れ……?」
シンジははっとして目を開けた。
見るとアスカが目を開けている。
「アスカ!!」
シンジがアスカの顔を覗き込んだ。
しかしアスカは、目の前に現れた顔を見て憎らしさを抱いた。
「………何でアンタが此処にいるのよ………」
「えっ……」
「アンタの顔なんか見たくもないわ。出て行って……」
「アスカ………」
「アタシはもう死ぬの。一人にして……」
「アスカ、話を聞いてよ。」
「ウルサイウルサイ!!アンタの話なんて聞きたくもないわよ!
 アンタはアタシの話なんて聞かなかったくせに!!
 アタシが苦しんでるのに見捨てたくせに!!
 アンタなんかキライ!!大嫌い!!
 みんなそうよ!
 誰もアタシを見てくれない!!
 エヴァに乗れなくなったアタシなんて誰も見てくれない!!
 アタシなんか要らないのよ!!
 アタシなんか生きてる価値ないのよ!!
 もう放っておいて!!
 アタシを死なせてよ!!」
「アスカ!!!」
シンジが突然大声を出したのでアスカは驚いた。
シンジは珍しく真剣な眼つきでアスカを見ている。
「………確かに僕はアスカの言う通りだ。
 アスカが苦しんでいるのに逃げてばかりで、何もしなかった。
 僕はとても卑怯で臆病だ。
 でも、今は違う。」
シンジには珍しいとても真剣な雰囲気に、アスカはただシンジを見ることしか出来なかった。
「アスカがいなくなった時、とても心が痛かったんだ。
 でも僕はそれが何故だか分からなかった。
 いや、気付かなかったんだ。
 僕は自分のことしか考えていなかったんだ。
 自分だけが辛いんだって思い込んでたんだ。
 でもそれは違った。
 アスカだって辛かったんだよね。
 僕はただ自分の殻に閉じ篭っていただけだったんだ。
 それじゃいけないって気付いた。
 アスカがいなくなって僕が辛かった理由。
 それはアスカが僕のとても大切な人だったからなんだ。
 大切な人を失いかけたから、僕はとても辛かったんだ。
 でも、もう決めた。
 アスカを失わないって。
 だから、僕の本当の気持ちを伝えたいんだ。
 アスカ、僕が君を大切だと想う理由。
 それは、僕が君のことが好きだからだよ。
 エヴァに乗れるとか乗れないとかは関係ない。
 僕はアスカをアスカとして大好きなんだ。
 僕はアスカを守る。
 アスカが好きだから。
 アスカに傍にいて欲しいから。
 アスカと一緒にいたいから。」
アスカは呆然として聞いていたが、シンジの一つ一つの言葉が心に染み込んでいた。
「だからアスカ、自分が誰にも見られていないとか、誰にも必要とされてないとか思わないで。
 僕が見てるから。僕がアスカを必要としているから。
 だから……もう死にたいなんて言わないで。
 アスカが死んだら、悲しいよ……」
アスカの頬にまた熱い雫が落ちた。
アスカの瞳には、涙を流して泣いているシンジの姿が映っていた。
しかし、そのシンジの姿も次第にぼやけてきた。
それと同時に、アスカの目から暖かい何かが頬を伝わってきた。
『アタシ、泣いてるの?』
暖かいのは涙。久しぶりに感じる自分の涙。
幼い時より決して流さないと決めた涙。
だが今自分が流している涙は違った。
とても暖かく、流す度に心が洗い流されていく感じがする。
アスカの心にも何か暖かいものがこみ上げて来た。
さっきまであった憎しみなどはなかった。
自分のことを見てくれている人がいる。
エヴァに乗れない自分なのに、見てくれている。
自分の為に泣いてくれる。
自分を必要としてくれている。
自分のことが好きだと言ってくれる。
自分を守りたいと言ってくれる。
自分を自分として見てくれている。
自分が求めていた人が目の前にいる。
アスカはとても嬉しかった。
「シンジ………」
シンジは涙の溜まった目を開けた。
アスカが泣いていた。
「アスカ、泣いてるの?」
「嬉しいの。とっても嬉しいの。」
その時アスカは自分の手が握られているのに気付いた。
シンジの体温が伝わってくる。
とても心地のいい暖かさだった。
「シンジの手、暖かい……。」
シンジはアスカをそっと起こすと、その小さな体を優しく両腕で包んであげた。
「シンジぃ、嬉しいよぉ。」
アスカはシンジの胸に凭れ掛かると顔を沈めて泣いた。
「アスカ、もう無理しなくていいよ。僕がアスカを守るから。」
「嘘じゃないよね?アタシを守ってくれるよね?アタシを……好きだよね?」
「そうだよ。もう僕は逃げない。アスカを守るよ。大切なアスカを、大好きなアスカを。」
「うっ、うっ、シンジぃ。うう……」
「ごめんねアスカ。アスカがこんなになるまで気付かないで。」
それからはシンジはただ黙ってアスカを抱き締めていた。
アスカはシンジの服を濡らしながらずっと泣いていた。
やがてアスカが泣き疲れて寝たので、シンジはアスカをそっとベットに寝かせた。
アスカの安心した寝顔をはじめて見た気がした。
その寝顔を見ながら、シンジは再び決意するのだった。
愛しい少女を守っていこうと。
少女の安心した寝顔を、少年は優しく見詰めていた。

                続く。


アスカ:ほーーらっ! ほーーらっ! 見てっ! 見てっ!!!

マナ:はいはい。

アスカ:見てごらんなさいっ! アタシはシンジにとって、大切なのよっ!(^^V

マナ:はいはい。

アスカ:もうこれで、恐いものなんてないわっ!

マナ:綾波さんも、シンジを待ってるわよ。

アスカ:ファーストは排除する必要があるわね。

マナ:ったく、まだそんなこと言ってる・・・。
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