運命による歴史の構築は終わったのだ。

七度目の再生は完全な滅亡を意味する。

全ては虚無と化し、概念すら存在しない無の世界が完成する。

だがそれこそが原点。

あるべき世界の姿なのだ。

我々は望む。

運命は死ぬべきである。

我々は元在る処へ帰るべきなのだ。


              「死海文書 真理の章」






    新世紀エヴァンゲリオン
   ANOTHER STORY

[天使戦争]
ANOTHER END OF EVANGELION

第壱話   「アサノセイジ」
  ANGEL’S GUN








白い巨人がいた。
薄暗く、とても広い部屋の中で、オレンジ色の海の中にそれは佇んでいた。
巨人はずっと俯いていた。
そして、微塵の動きも見せなかった。
まるで、生きているのか、死んでいるのか分からないほどに。
それはただずっと、何処かを見詰めていた。

そして、その視線の先には人がいた。
裾の長い、黒いローブのようなものを着ていた。
少年だった。透き通るような、薄い茶髪の少年だった。
少年はその髪と同じ色の瞳で、巨人を見上げていた。
何も聞こえない無音の空間に、少年と巨人は見詰め合っていた。

「私には、貴女の考えていることが全く分からないよ。リリス。」
不意に少年が口を開いた。
大して大きくもないその声は、静まり返った空間に響き渡った。
「創造者である貴女が、何故決まっている未来を拒絶し、歴史の改変を望むのか。」
巨人は黙っていた。少年は続ける。
「貴女の誕生、ファーストインパクトから現在に渡り、貴女は決してこのようなことはしなかった。
 たとえどんなに彼らが貴女にとって愛するべき存在だとしても、彼らの創り上げる歴史は貴女にとって
 必然であり、貴女はそれを見守るだけだった。
 ならば何故貴女はあの子達に救いを与えようとするのか。
 あの子達は自ら滅びの道を歩んでいる。
 だが、貴女は何度もそれを変えようとしなかった。
 なら何故………」
そこまで言って少年は口を止めた。そして、ふっと笑った。
「今更このようなことを言っても仕方がありませんね。
 結局は貴女と私の望んでいる結果は同じなのだから。
 貴女によって生み出された私には到底分からないこともまた事実だ。」
そう言って少年は踵を返し、巨人が向いている方へと歩き出した。
その部屋に、歩く音とローブが床と擦れ合う音が聞こえた。
出口のような扉に近づいた時、少年は足を止め、巨人に振り返った。
そこからは俯いているように見える巨人を見て、少年は呟くように言った。
「もし私が、再び此処に戻って来るならば、その時私は何を思っているのでしょうか……
 幸せというのが私にもあるとしたら、それに満ちていると良いのですがね。」
少年は扉へと振り向き、そして一瞬にして消えた。
部屋はまた音の無い空間へと戻った。
そしてそこには巨人がいた。

巨人は、ずっと俯いていた。






〈ネルフ 実験室前〉
実験室の前の廊下で、扉を前にしてシンジとアスカは立っていた。
二人とも、プラグスーツに着替えていた。

アスカは、あれから二週間ほどで退院した。
その驚異的な回復を可能にした精神力には感服したと、アスカの担当医は言った。
その時のアスカ曰く、
『あったりまえじゃない!アタシが元気にならないと、シンジがいつまで経っても心配するんだから!』
アスカは、身体的にも精神的にも元に戻った。
そんなアスカに、退院直後ミサトから知らせがあった。
パイロット資格を剥奪されたアスカに、もう一度チャンスを与えると言うのだ。
シンクロ指数が元の状態に戻っているならば、再び弐号機のパイロットに任命する、と。
アスカは勿論それを受けた。
実際、退院してもアスカにはネルフにいる理由も必要性も無かったため、恐らくシンジとの同居は認められず、ドイツに帰ることになるだろうからだ。
それはアスカにとって耐え難いことであった。
ただし、両名の希望で、そのテストにはシンジもアスカと共に参加することとなった。

そして、二人はいま実験室の前に来て、これからその実験を受けようとしているところである。
「じゃあアスカ、入ろうか。」
シンジは扉を開けようとした。しかし、アスカの様子がおかしいことに気付いた。
「…アスカ?」
アスカは下を向いて黙っていた。
握りこぶしをつくっている両手が少し震えていた。
「アスカ。」
「えっ?あっごめん。ちょっと考え事しちゃって。」
アスカはシンジの呼びかけに一瞬顔を上げたが、すぐ俯いてしまった。
「どうしたの?」
「………ねぇシンジ。アタシ、大丈夫かな?」
「えっ?」
「正直言うとね、とても怖いの。
 もしこのテストで元通りの数値が出せなかったら、本当にアタシは此処に必要の無いものになってしまう。シンジとはもう会えなくなってしまう。
 そうなったらどうしよう。そう考えたらどんどん不安になって、体が震えてきて…」
「………………」
アスカの震えが大きくなった。
「どうしよう……シンジがいなくなったら、アタシ……アタシ…………」
アスカの俯いている下の床に、ひとつ、またひとつと黒いシミが出来た。
「アスカ。」
眼に涙を溜めたアスカが顔を上げて、そして彼女は何かに包まれるような感じがした。
「あ…………」
シンジはアスカを抱き締めていた。
「シンジ………」
アスカは少し戸惑ったが、シンジはアスカの頭にそっと手を回し、その胸に優しく押さえつけた。
「そうだよね。怖いよね。」
シンジはアスカの耳元で静かに話し始めた。
「今まで辛い目にあってきたんだもの。
 使徒の精神汚染にあって、エヴァが動かなくなって。
 アスカにとっては、それがどんなに辛かったか。今の僕には分かるよ。
 それに、せっかく元気になったのに、いきなりテストだなんて。
 僕だったら、不安で不安でやりきれないと思う。」
「でもね………」
シンジの声が、少し力強く聞こえた。
「きっと大丈夫だよ。
 だってアスカは僕なんかよりずっと強いんだから。
 元の数値だってすぐ出せちゃうよ。
 それにね、たとえアスカが上手くいかなくても、僕はアスカから離れないよ。
 約束したじゃないか。
 アスカを守るって。ずっと傍にいてアスカを見てあげるって。
 誰が駄目だって言っても離れるもんか。
 アスカは僕にとって大切な人だから。
 だから、自分が必要なくなるなんて考えないで。
 安心して。アスカならやれるさ。きっと大丈夫だよ。」
「シンジぃ………」
アスカは涙に濡れた顔をシンジの胸に押さえつけた。
プラグスーツを通して、シンジの体温が伝わってきた。
「大丈夫………大丈夫………」
自分に抱かれて泣いている少女を、シンジは頭を撫でながら、優しく抱き締め続けた。
二人はしばらく抱き合っていた。

突然、実験室の扉が開いた。
シンジが振り向くと、そこにはミサトがいた。
ミサトは、最初抱き合っていた二人を見て驚き、目を丸くしていたが、すぐに嬉しそうな、からかうような、それでいて少し作り笑いのような微笑みを浮かべた。
「あらぁ、二人ともいつまで経っても来ないから、心配になって探そうとしたら………
 どうやら私はお邪魔だったようねん。」
「あっ、えっとこれは、アスカが不安になってて………
 励まそうと…………」
「あらそぉ。シンジ君も男らしくなっちゃって!」
ミサトは思いっきりからかった。
「み、ミサトさん………」
アスカは、いきなりのミサトの登場に、シンジから強引に離れ、ミサトに見えないように涙を拭いていた。
「バ、バカな事言わないでよミサト!アタシがこんな簡単なテストに不安を抱くわけ無いじゃない!!」
「よっく言うわぁ、そんなにおめめ真っ赤に腫らしてそんなこと言っても誰も信じないわよん。」
「んなっ!?」
アスカの顔が見る見るうちに紅潮していった。
ミサトはそれを見てもう一度にっこりと微笑んだ。
「ま、いいわ。それより二人ともテストの準備ができたからケージに向かって。」
「あ、はい。分かりました。じゃあ行こうか、アスカ。」
真っ赤なトマトのように紅くなったアスカに振り返り、シンジは歩き出した。
「あ、うん。」
少し固まってしまっていたアスカははっとして、それからミサトを睨みつけてから、シンジと共に廊下を歩き出した。
並んで歩いていく二人を見て、一度ふーっ、と溜息をついてミサトは実験室へ入っていった。



「驚きました。以前と全く変わらない数値ですよ。」
マヤが画面に表示されているデータを見て感嘆の声を漏らした。
実験室には、ミサトやリツコを始め、ゲンドウや冬月もいた。
それぞれいつものテストの時と同じ位置にいて、ゲンドウに至っては姿勢から顔色まで、変化を見つけるほうが難しかった。
彼らの眼前には分厚いガラスが張り巡らされ、その先には実験用のケージが広がり、LCLの海の中にプラグが二つ浮かんでいた。
マヤが向かうコンソールには、アスカとシンジのシンクロ指数などのデータが算出されていた。
そして、アスカの出したシンクロ指数は、彼女がここに来て初めてテストを受けた時のものと何ら変わらない高さを示していた。
「ついこの前まで殆どゼロに近い状態だったのに……信じられないわ。」
リツコもアスカの急激な回復に少なからず驚きを覚えていた。
「これもシンジ君の影響ですかね。
 全く彼の変貌には驚かされるばかりですよ。
 壱拾七使徒の事件から立ち直り、再起不能だと思われたアスカを此処まで回復させるとは。」
マコトが言った。
「司令。」
それまでケージの中とコンソールの画面を見ていたミサトがゲンドウに振り向いて尋ねた。
「ご覧の通りの結果です。
 私の一介の意見としては、惣流・アスカ・ラングレーは我々の必要とする戦闘能力を取り戻したと思われます。当初の通り、彼女に弐号機パイロットの資格を再度与えることを要望したいのですが。」
事務的な口調なミサトの報告を聞いて、ゲンドウは視線もそのままケージを見ながら、ポーズも崩さず、
抑揚の無い声で答えた。
「至って何の問題も無い。許可しよう。」
それを聞いたマヤが、笑顔でミサトを見上げた。
「良かったですね!これで駄目だったらどうしようかと思いましたよ。」
しかしミサトはぎこちない作り笑いをしてあまり嬉しそうでないような返事をした。
「そうね………」
「………この頃ずっとそんな調子ね。シンジ君やアスカが元気になっても、あなたは他のことに気をとられている。………使徒のことでしょう?」
ミサトの反応を見て、リツコが画面を見たまま質問した。
「そうよ。こうしている間にも、使徒は何か行動を起こすかもしれないわ。常に敵の攻撃の可能性がある場合、警戒を怠らないのは指揮官として当然の行動よ。」
「嘘ね。そんな戦略的かつ冷静なものとは思えないわね。
 あなたのはもっと単純な疑問よ。今までに無い使徒の行動に対しての『何故』と言う疑問、そこから来る不安でしょう?」
淡々と結論を言ったリツコを、ミサトはジロッと睨んだ。
「相変わらず嫌な性格ね。」
「心理学に精通していると言って欲しいわね。」
「はぁ……。まぁ、そうね。恐らくあなたの言った通りだろうと思うわ。
 でも、一つ違うところがあるわ。
 疑問じゃなくて、少し引っかかっていることがあるのよ。」
「引っかかっていること?」
「いろんな意味でね。……でも、一番大きなものは………
 何て言えばいいか……私はあの使徒に会ったことがある気がするの。それもずっと昔に……」
「どういうこと?」
「分からないわ。でも初めて顔を見た時、長く会っていない人に突然会えたような気がしたの。
 とても初対面の感じがしなかった。
 それだけじゃなかった。
 何かがおかしかった。本来そうあるべきものがそうでなかった感じ、全く在り得ないものを見た感じがしたの。」
ミサトは終始怪訝な顔つきで言った。
リツコはミサトが何を言っているのか全く分からなかった。



その時だった。
不意に実験室の扉が、空気の抜ける音と共に開いた。
「?」
扉の真正面の位置に座っていた職員が一人振り返った。
その瞬間、彼の目は凍りついた。
「あ………あ………」
実験室の入り口には、何者かがいた。
漆黒のローブを纏って、少年が立っていた。
妖しげな微笑みを浮かべていた。
その顔を見た職員の顔は、見る見るうちに青ざめていった。
「し………使徒…………!!」
彼がそう言って立ち上がった瞬間、他の職員達が彼の方を向き、ゲンドウや冬月、ミサトとリツコも即座に反応した。
少年は部屋の中に向かって、一歩ずつ歩き出した。
「ひ………くっ来るな………来るな!!」
彼は立ち上がるとき引出しから出した拳銃を彼の方に向けた。
それを握る手はぶるぶると震えていた。
それでも少年は歩みを止めない。
少年は少しずつ彼の方へ近づいて来る。
その妖しげな微笑みは彼に向けられていた。

「来るなあああああああああ!!」
彼は引き金を引こうとした。
その瞬間、少年の顔がいきなり目前へと迫り、消えたかと思うと、次は手が現れ顔が覆われるような感触がした。
「え………?」
そう声を上げた瞬間、妙に自分の体が不安定になったような気がした。
今まで自分の体の表面を覆っていたベールのようなものが剥ぎ取られ、中にあったものが無抵抗に流れ出ていく感じがした。
自分の意識だけがどこか別の場所に行ってしまって、身体なんて最初から無かったように思えた。
しかし、その彼の意識もぷつんと切れ、消え去った。

ミサト達は見ていた。
銃を構える職員に黒いローブを着た使徒が近づいていき、彼が叫ぶと同時に消えた。
使徒は彼の目の前に移動し、左手で拳銃を掴み、右手を彼の顔に添えた。
そして、再び消えた。
使徒が消えた刹那、どばっという変な音がして彼はまるで体中から血を吹き出すようにしながら、オレンジ色の何か良く分からないものに変わった。
それはLCLに良く似た液体のようだった。
液体になった瞬間から崩れ落ち始めていた彼の身体は、びちゃびちゃと音を立てて床に飛び散った。
マヤが何が起こったかが分からずに呆気にとられていると、自分の後頭部に何か硬いものが押し付けられる感触がしてはっとした。
そして、座っている自分のすぐ上で声がした。
「いつまでそちらを見ているんです?」

しばらく呆然と床に広がる液体を見ていたミサトは、自分の後ろから聞こえた声に我に返り、その声の方向に振り返った。
マヤのデスクの上に、黒いローブを着た少年がコンソールに腰掛ける姿勢でこちらを向いて座っていた。
彼の右手はコンソールの上に置かれ、左手は真っ直ぐに伸ばされ、その手に握られている拳銃は彼の前に座りミサト達の方を見ているマヤの後頭部に押し付けられていた。
「なっ………!」
ミサトは目を丸くした。
しかしすぐに懐から拳銃を取り出し、彼に銃口を向けて両手で構えた。
だが、マヤがいたのでミサトはすぐには撃たなかった。
相変わらず彼は妖艶な笑みを浮かべていた。
暫く辺りの空気は静まり返り、それでもぴんと張り詰めたまま時間だけが過ぎた。
「…………どういうつもり?」
状況に対しかなり遅れた反応を取り戻し、理解したミサトは銃を構え、彼を睨みつけながら尋ねた。
「『脅迫』ですよ。もう時間があまりないのでね。『説得』に力を使うだけです。」
その時マヤも、ようやく自分の置かれた状況がどんなものかを理解し、そのことによる恐怖と、目の前で人間が殺されるところを見て、体の内部から沸き起こったひどい吐き気に今ごろになって気付き、必死で耐えていた。
手や顔は青ざめ、ぶるぶると震えていた。
「説得?」
「そうです。私の要求に従って欲しいのですよ。」
彼は一度、その場にいた全員を、いまだ唖然としていて状況を飲み込めきれていないものも含め見回し、最後に怪訝な表情をしているミサトに視線を戻した。
「あなた方には、“何もしないで”頂きたい。
 あなた方にはただ傍観していて欲しいのです。
 あなた方によって歴史が進められるのだけは避けなければなりませんから。」
彼は淡々と自分の要求というものを告げた。
ミサトは彼が何を言っているのか全く分からなかった。
しかし、分かる必要は無かった。交渉など最初から考えていないからだ。
彼女が使徒に対し行うべきことはただ一つだった。
「………それがあなたの要求というのなら、承諾できないわね。」
一応相手の言葉に合った応答をしたミサトは構えていた銃の銃口を彼に向け直した。マヤがビクッと震えた。
「それにあなたがやっていることは無意味よ。脅迫なんてものは通用しない。何故なら私達は使徒と戦うことに対してはある程度の犠牲を覚悟しているから、犠牲を選べと言われたのなら間違いなくそうするわ。」
ミサトは無表情で、何の感情もこもっていない声で答えた。
一瞬だけ、辺りが再び静寂に包まれた。だが、少年はそれでも笑みを崩さなかった。
「私を撃つというのかい?彼女を見捨て、その銃で?それならそれこそ無意味だ。
 物理的な見解で私が銃で死ぬと思うのか?
 君は勘違いしているようだね。
 あのとき君が私を撃てたのは私がA・Tフィールドを張らなかったからだ。
 決して銃弾がそれを突き抜けたわけじゃない。」
彼の口調は、それまでとは違っていて、諭すようなものだった。
「やってみなければ分からないわ。」
「仮にそうだとしても、私は知っている。
 君は撃たない。いや撃てない。
 何故なら君は彼女を見捨てるなんて出来ないから。
 君は昔からそうだったからね………ミサト」
彼はそう言ってミサトに微笑んだ。まるで幼子に向けるようなものだった。
その笑顔を見て、ミサトは今まで以上に目を丸くし信じられないといった顔をした。
それを見た瞬間、頭に同じ微笑みが浮かんだのだ。
思考の中で彼女に微笑みかけている人物は、何か違和感はあったが、間違いなく目の前にいる少年だった。
ミサトは頭の中の人物が誰かすぐに分かった。
だが、その人物がいま目の前にいることは、まったくもって在り得ない事だった。
「あなた………まさか………」
拳銃を握る手を微かに震えさせながら、ミサトは震える声で尋ねた。
少年は再びにこりと微笑んだ。
「ようやく思い出してくれたようだね。
 そうさ、私だよミサト。」

その時、不意にミサトの後方から声が聞こえた。
「…………何故だ………」
少年はその声のした方向へと振り向いた。
そこにはゲンドウがいた。
椅子から立ち上がり少年を見る彼の表情は、まさにミサトと同じく信じられないといった顔だった。
「何故だ、こんなことが在るはずが無い。
 何故此処におまえがいる!?」
ゲンドウには珍しく、彼は声を荒らげていた。
「ああ、そうでした。
 お久しぶりです。碇ゲンドウ。」
少年はゲンドウに微笑んだ。それは最初彼が見せた妖しい微笑みだった。
ゲンドウは震える声で再び尋ねた。
「何故……お前が此処にいるんだ……
 ………『浅野セイジ』……」







同じ頃、実験用プラグの中。
ミサトからの通信が途絶え、シンジは動揺していた。
「どうしたんだろう?何か問題でも起こったのかな?」
それと同時に、シンジはアスカのことも気に掛けていた。
「アスカは大丈夫かな。シンクロ指数は問題なくてよかったけど、いきなり通信が途絶えて不安になってないかな?」
そんなことを考えていると、
『シンジ…………』
突然、女性の声が聞こえた。いや、聞こえたと言うよりも、頭の中に直接響いてきたようだった。
「誰!?」
シンジはいきなり声が聞こえたので驚いた。辺りを見回してみたが、誰もいない。
「誰かいるの?」
『シンジ…………』
もう一度声が聞こえてきた時、前方に微かな光が浮かんだ。
初めは白い靄のようだった光は、やがて強さを増し、照明のように明るい光線となった。
「?」
やがて光の中に影が出来て、それが徐々に人の形をなしていく。
影は次第に色が着き、人の肌の色が浮かび出てきた。
シンジの前には、一人の女性が立っていた。
白いシャツと、青く長いスカートを覇いた女性だった。
自分に向かって微笑んでいるその女性が誰かを、何時かあったことのあるその人を、シンジはほぼ直感的に理解した。

「かあ……さん?」




                                                 続劇


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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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