竜神暦2010年

多くの魔獣が跳梁し、人間を襲う。
そんな中、人間達は魔獣に立ち向かうべく、
ある物は剣を、ある物は魔法をもって抵抗する。
人はそういった者達を、
魔獣を狩る者という意味で『マリュウド』と呼んだ。

しかし、一方ではその能力を悪用し盗賊として生きる者達もいた。
力なき一般の人々は、その日一日何事もないことを願い、脅えながら生きている。

そんな時代・・・、この物語は始まる。

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八翼の堕天使
ー第零話 少年の誓ー
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この広い大陸の最北の山脈。
この辺りには、数多くの強力な魔獣や竜が棲む事で知られ、
力を持つ者達、『マリュウド』と呼ばれる者達ですら近ずくのをためらう場所である。
その山脈の南にあるうっそうと茂る森。
太陽の光も届かないほど暗いその森を、
人々は恐怖の思いからこう呼んだ。

『常闇の森』と

その『常闇の森』の中心部に、元は樹齢何千年の巨木が立っていたであろう切り株がある。
今、その切り株の上に一人の黒髪の少年が座っていた。

歳はせいぜい十歳前後だろう。
このような魔境にいるのはあまりに不自然な年齢である。
もっとも、この森に人が居ること自体不自然なことなのだが・・・。

しかし少年の周りには、この地でけっして起こり得る筈のない、
より不自然な光景が広がっていた。

マリュウド五人がかりでようやく一体倒せると言われるこの地の魔獣たちが、
万の単位でその姿を魂通わぬ骸にして、その亡骸をさらしているのである。

良く見れば少年は全身を朱に染めている。
しかしその体に傷は一つも存在しない。
全て魔獣の返り血であった。

少年の傍らには、その体に似つかわしくない巨大な剣が合った。

その大剣は少年の身長をはるかに凌駕し、
一般的な成人男性と比べても倍はゆうにあった。
刀身の刃渡りは成人男性ほどで、龍の紋様が刻んである。
子供一人半ほどの柄があり、
途中から子供一人ぶんほどの刃が両側に出ている。
大剣というよりも、
むしろ大薙刀か大青竜刀、もしくは斬馬刀と言ったほうがよいかもしれない。

その大剣も魔獣の血で赤く染まっている。
少年の腰には、バスタードソードのような剣が一本あるが、使用した様子は見当たらない。
後は両腕に不思議な腕輪をしていること以外、特に目立った所は無い。

いや、無さ過ぎると言った方が良いのかもしれない。
なぜならその少年は、私服といっても良い格好だったからだ。
鎧や兜、盾などの防具を一切持っていなかったのだ。

このような姿でこの魔獣達を切り倒したというのだろうか?
普通に考えれば到底不可能だろう。
だがこの少年はそれを実行したとしか考えられない。

しかし『全て切り倒した』というのに対しては、少々疑問が生じる。

なぜなら、周囲に散乱している骸の中には、
焼け焦げた後のような物や、巨大な力で押しつぶされたような物もあるからだ。

今一度少年に目を向けてみよう。

少年は座っている。

ただ座っているのか?

その答えは否。

少年は座るような体勢で眠っていた。
いつ魔獣に襲われるか知れないこの魔の森で。

そしてその顔は苦悶の表情をしていた。
時折呻き声のような物も聞こえてくる。

どうやら夢を見ているようだ。
一体どのような夢なのか?

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ここからは少年の回想なので、彼の一人称になります。
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 *夢の中*

・・・僕は夢を見る。
見る夢は必ず同じ夢・・・。
あの時の夢・・・。
そう、まるで・・・この事を忘れるなというように。
忘れられるはずが無いのに・・・。

聞こえてくるのは子供の泣き声。
家の焼ける音。
脅え、恐怖に彩られた声。

見えてくるのは家を焼く炎の赤。
血を流して倒れている男性。
脅えた顔をして捕まっている多くの人達。
刃を突きつけられ泣きじゃくる子供。
その刃を突きつけている500人ほどの盗賊達。
それに対峙するようにしている自分の両親。

感じるのは炎の熱さ。
母さんの魔法で動きを封じられ、姿が見えなくなっている自分。
自分の両親の性格を知っているゆえの絶望感。
そして・・・、自分に対する怒りと無力感。


 竜神暦2005年

ここは僕の故郷

『カオスの町』

小さいながらも活気にあふれている町。

世界最強と謳われた剣士であり、戦士だった父さん。
歴史上最強の戦闘術と言われた剣竜拳武術正統伝承者 碇ゲンドウ

エルフにしか使う事のできない筈の精霊魔法や、
神に使える者にしか使えない筈の法術を使い、
数多くの魔術や召喚魔術の全てを使いこなした歴史上最高の天才であり、
最強の魔術師であった、大魔導士の異名を取った母さん 碇ユイ

親しかった町のみんな

楽しい筈だった。
幸せな筈だった。
あいつらが来るまでは・・・。


その日は夕方から天気が怪しくなってきていた。
母さんの話では夜半から嵐になるらしい。
母さんの予想は外れたことがなかった。

その日は僕の5歳の誕生日。
僕は母さんの夕食の手伝いをしていた。
3歳の時から母さんの手伝いをしていた僕は、その時には家事全般がこなせるようになっていた。

丁度そんな時・・・、奴等はやって来た。

外からは子供の泣き声や、
女性の悲鳴、叫び声が聞こえてきた。

ゲンドウ:「何事だ!?」

すぐ窓によって外の事態を把握しようとする父さん。
そしてうめくように言葉を紡ぐ。

ゲンドウ:「闇の使徒…」

『闇の使徒』

それは世界最大最強の大盗賊団の名前である。
総勢500人
冷徹にして残忍。
卑劣な手段でも平然と使うといわれている。
体に黒い、逆になった十字架の刺青を入れているのが特長だった。

闇:「碇ゲンドウ!碇ユイ!出で来い!
   でないとここに居る町の住人がどうなっても知らないぞ。」

言われて見てみれば、確かに町のみんなが捕まっている。
近くには抵抗をこころみたのか、男性が血を流して倒れている。
しかしおかしい。
この町の人間は皆かなり腕利きの戦士や魔術師のはずだからだ。

ユイ:「どうやら子供達を人質にしたようね。」

ゲンドウ:「出ていかねばなるまい。狙いはおそらく『聖魔の魂』だろう。」

『聖魔の魂』

この町の住人は特有体質を持っている。
この町特有の魔力の流れの中で生まれると、
体内に不思議な宝石のような物が生じる。
その石の中には大量の魔力が蓄えられており、成長と共に大きくなる。
不思議な光沢を放つそれは、
生きているとき取り出すことは不可能。
(この魔力を抽出することも決して出来ない。ある方法を除いて・・・。)

その色彩は世界で最も美しい色だといわれているらしく、とんでもない金額で取引されているらしい。

こちらに言わせれば「冗談ではない!」なのだが。


ゲンドウ:「ユイ!この子が奴等に見つからぬよう魔法で姿を隠せ!
      それから出て来ないように動きや声も封じておけよ!」

ユイ:「わかりました・・・。良く聞きなさい。
    生きていこうと思えば、どこだって天国になる筈だから。
    だから・・・、だから強く生きなさい、私達の分も。
    希望を捨てないで・・・、絶望にくじけずに!」

それが最後の言葉だった。
二人は目元を拭うと、決意の表情で外に出て行った。
僕は・・・、ただ涙を流すだけだった。

その後、父さん達は出て行くと人質の開放を要求した。
それを聞き、相手は下卑た笑いを浮かべると手元の子供を殺した。
そして、まず人質で手の出せない父さん達を殺し、
続いて町の人達を殺し始めた。

地獄絵図、阿鼻叫喚

まさにそんな感じだった。

僕はただ見ているしかなかった・・・。
みんなが殺されていくのを。

ただ聞いているしかなかった・・・。
みんなの断末魔の叫びを。

僕は目を離せなかった。
いや・・・、離さなかった。
この光景を目に焼き付けようとして。

必ずこの手でみんなの敵を討つ。
そう決意し、みんなに誓いながら。

僕は涙を流しながら打ち震えていた。
奴等に対する憎悪と怒りに。

そして何より・・・、

この光景を前にして何も出来ない自分に!
自分の不甲斐なさに!!
自分に対する怒りに!!!


いつしか惨劇が終わり、町の住人全員の『聖魔の魂』をえぐり終えたやつらは去っていった。
何軒かの家は、最初に奴らの放った炎によって燃えていた。

やつらが去ってから、たっぷり3時間ほどしてようやく魔法の効力が消え、
僕は動けるようになった。

母さんの言っていたように、夜半から嵐になり雨が吹きすさんでいた。
僕は雨の中、みんなを埋葬し墓を作っていった。

最後に父さんと母さんの墓を作った後、
その墓の前で僕は大声を出して泣いた。
全ての涙を流し尽くそうとするように。

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  翌日

一晩を泣き明かした僕は、家に戻り荷造りをはじめた。

父さんが使っていた聖魔の魔力を秘めた剣『ルシファー』。

父さんと母さんが、
剣竜拳武術と魔法の全て、魔獣の特徴や弱点、兵法や戦略、武器や素手での戦闘法等、
その全てを記した書物。『天地魔闘の書』

父さんの使っていた、如何なる武器をも生み出し、収納できる腕輪。

そして旅に必要な物を鞄に詰める。

最後に母さんの着けていた形見のロザリオを首からかけ家を出る。

父さん達の墓の前で手を合わせて冥福を祈ったあと言葉を紡ぐ。

少年:「僕はまだ少しも強くない。だから修業の旅に出るよ。
    いずれ父さんや母さんより強くなって見せる。
    そして必ず敵を討つよ。それまで見守っていて欲しい。
    それじゃ・・・、いってきます。」

そう言って少年は旅に出た。 
その日は彼の新たなる誕生日となった。

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『常闇の森』

少年は目を覚ました。

少年:「また・・・、あの時の夢か・・・。」

少年は誰ともなく呟いていた。
少年は立ち上がり体を伸ばす。
先程の夢のためか、その黒曜石を思わせる黒い瞳から赤い血の涙を一筋流していた。

あれ以来、彼は普通の涙を流せないでいた。
彼が涙を流すのはあの夢を見た後。
そして流す涙は決まって赤い涙だった。

少年:「この森に半年間住んでみたけど、もう僕の相手になる魔獣はいないな。
    もう少し奥に行ってみようか。」

さらりと言ってのけるが、普通の人が聞いたら卒倒しそうな台詞である。

少年は魔獣の骸を蹴り退かし、その下にあった荷物を持ち上げる。
赤い涙を拭い、大剣の血糊を布で落しながら呟く。

少年:「あれから5年・・・、早いものだな。しかしまだまだ父さんや母さんのレベルは遠いな。
    父さんならもっと早く動けたろうし、
    母さんならあの程度の魔術ならもっと早く連続で繰り出せたろうな。
    僕にはまだ3連射が限度だものな。」

彼は気づいていない。
すでに父のレベルなど大きく上回っていることに。
そして母のレベルにも極限まで近づいていることに。

彼は知らない。
長い修行のみの生活のため、彼は人との接触ほとんど無い。
その為、一般のマリュウドのレベルを知らない。

確かにゲンドウの動きは早かったが、剣のみに集中していたからである。
対してこの少年は剣の他に複数の武器と魔法を使用しながらも、
ゲンドウと同レベル、あるいはそれ以上ののスピードを出していたのだ。
剣のみに集中すればゲンドウより遥かに早く動けるだろう。

魔法も確かにユイに比べればまだ低いのかもしれない。
しかし、それは比較する人物のレベルが違うのだ。
事実、彼が3連射したという魔法は、火炎系魔術の最強クラスの魔法だ。
実際、火炎系魔法の得意なマリュウドの上級者でも、
これを一発放ったら、疲労でしばらく動けなくなるほどの大呪文である。

通常で考えればすでに文句なしに最強。
総合的に考えれば、ゲンドウやユイなど問題にならない。

しかし彼は両親を美化しており、過大評価していた。
何より尊敬していた。
そして自分の力を過小評価していた。
父や母でも勝てなかった物に勝つまで、自分が超えていることに気が付かないだろう。

(この二年後、彼はこの事実に気が付く事になるのだが、
 それは別の機会に。(この時には魔法もユイを完全に凌駕している。))

少年:「さて、行くか。」

作業を終わらせた少年は森のさらに奥えと消えていく。
その黒い瞳に孤独に対する寂しさと、強い意思の光を輝かせ。
みなの敵を討つため、より強き力を求めて。

少年の名は、碇シンジと言った。

去り行く少年の首には、母の形見のロザリオが淡く輝いていた。

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時は流れる。

これから四年後、
ある街からこの物語は本当の始まりを告げる。

そう、ある少女との出会いから。

To Be Next Story.
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後書きと言う名の言い訳(というか説明)

はじめまして神竜王と申します。
私の処女作品『八翼の堕天使』いかがだったでしょうか。
これはまだプロローグです。本編は次回から。<長過ぎないか?

前からネタは在ったのですが、いざ書くと時間を食うわ疲れるわで仕方がない。
まあ、書いていて面白いですが。(苦笑)
実はまだ二つ三つネタは在ります。時間が許せばいずれ書くでしょう。<墓穴を掘る台詞を言うなって。

何故、終始少年というふうに書いたかといいますと、
最後の去り際のときに書きたかったから。<バカ?

キャラクターの設定や魔法については次回作でわかるので待ってやって下さい。
題名の由来もいずれわかります。<いつの話だ?

最後に告げられていた少女とは一体誰なのでしょうか?<ばればれだって!(^^;

私の書く作品の基本コンセプトはLASで、主人公は最強ということです。
ですが他のキャラもできるだけ厚遇します。(あくまでできるだけですが(^^;)
事実ケンスケにも彼女を作る予定です。

ところで気付いた方もいるかもしれませんが、ペンネームは某RPGのキャラの名前です。
故に、その類の物も出てきます。ご了承ください。

では、どうか次回作が出来ましたら読んでやって下さい。お願いします。

*補足*
ミカエルさんの『Tales of warriors』 に似ている、
と思った方もいるでしょうが、許可はもらってあります。


マナ:神竜王さん。投稿ありがとうっ!

アスカ:シンジ・・・なんだか可哀想な生い立ち・・・。

マナ:その苦しみがあったから、今のシンジがいるんでしょうけどね。

アスカ:でも・・・なんだか、格好いいわよねぇ。

マナ:わたしを守ってくれる為に、頑張ってるのよ。

アスカ:なに、1人で妄想してんのよ。でも・・・アタシ、どんな役で出るのかしら?

マナ:怪獣じゃない?

アスカ:ムッ!(ーー#

マナ:で、わたしがお姫様。(*^^*)

アスカ:まだ、王子様の方が似合ってそうだけどぉ?(ー。ー)

マナ:どゆ意味よっ!(ーー#
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