僕は荒野を歩いていた。 少し視線をずらせば都市が見える。 かなり大きな都市だ。 確か第3新東京市と言う名前だったと思う。 しかし僕にはそんな事はどうでも良かった。 その街に寄るつもりが無かったからだ。 僕はただ前を向いて歩みつづけた。 その時、町のほうから巨大な爆音が聞こえてきた。 見れば巨大な魔獣が2体暴れている。 修行中、常闇の森で幾度か倒したやつだった。 気付いた時、僕は全力で駆け出していた。 何故だかわからない、妙な胸騒ぎを感じて・・・ 街に到着し、ふと見れば一人の少女が殺されかけている。 自分の胸騒ぎは「このためだったのか?」という疑問を感じながらも、 とりあえず、彼女を助けるために魔獣の攻撃を受け止める。 そして一撃で決めるために魔術の呪文を唱える。 魔獣を吹き飛ばした後、僕は少女に声をかけた。 少年:「大丈夫だったかい?」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 八翼の堕天使 ー第弐話 黒い疾風の舞ー ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― アスカは呆然としていた。 無理も無いだろう。 一見すると華奢にしか見えない、同じくらいの歳の目の前の少年が、 10メートルはある魔獣の一撃を片腕で受け止め、 ほとんど予備動作も無くかなり高位な雷の魔術を放ち、 どんな攻撃も受け付けなかった魔獣を一撃で吹き飛ばしてしまったのだ。 (予備動作なしで高位魔術を使用するには、かなりの魔力と精神力が必要とされる。) 周りにいた加持やリツコ、レイやヒカリ、マナもそれは同じだった。 暫くしても反応が無いので不思議に思ったのか、少年はもう一度アスカに声をかける。 少年:「あの、大丈夫・・・ですか?」 これにより、アスカはようやく自分を取り戻した。 アスカ:「え、ええ。大丈夫よ。たいしたこと無いわ。」 それを聞いて黒衣の下の少年の目がほころぶ。 少年:「よかった。声をかけても反応が無いから心配したよ。あっ!」 アスカ:「な、何よ。急に大声出して。」 どうやらアスカも普段の調子を取り戻してきたらしい。 その声を聞いて周囲の者もようやく我に戻る。 少年:「君、足にけがしてるじゃないか。痛まないの?」 言われて見て見れば、なるほど、先程の瓦礫のためかアスカの足から血が流れている。 アスカ:「ああ、こんなのたいしたこと無いわ。 それに仲間に法術師がいるからすぐ治せるわよ。」 少年:「でもその法術師ってあそこにいる人でしょ。かなり疲労しているみたいだけど。」 そういって少年は疲労しながらも、マナの回復をしようとするヒカリの方に視線を移す。 アスカ:「それどころじゃないわよ。早く向こうの手助けに行かなきゃ。」 そういわれて思い出したのか、慌てて動きだす加持とリツコとレイ。 こちらがこんなに大変だったのだ。向こうもかなり苦戦しているだろう。 三人はもう一体の魔獣の方に駆けて行く。ヒカリはマナの回復を行っている。 これ以上の過負荷にヒカリは耐えられないだろう。 それを聞くと少年は、 少年:「・・・わかった。でも君は動いちゃダメだ。替わりに僕が行く。 すぐに戻ってきてその傷を治すから、少しの間おとなしくしてて。」 そういって微笑みかけた後、少年はもう一体の魔獣、シャムシェルのほうを振り向く。 そして空間に魔法陣を描きながら呪文を唱える。 少年:【次元の闇に住まう黒破竜ムハエルよ。契約に従い、我が前に出でて力を貸せ。】 すると魔法陣より、漆黒の飛竜が現れる。 少年はその竜に飛び乗ると、巨大刀を構えてシャムシェルの方へと向かう。 それを見てアスカは呟く。 アスカ:「あいつ、一体何者なの?」 マナも呟いていた。 マナ:「あんな強力な竜を召喚できるなんて。一体どういう魔力の絶対量なの。」 この世界では、竜は七段階に分類されている。 先程の竜は極竜王クラスで、上から三番目のレベルにランクされている。 竜のランクは下から順に、幼竜、竜、竜王、極竜、極竜王、神龍、神龍皇とされる。 神龍クラスまでは七種ずついるが、神龍皇はただ一体しか存在しない。 (伝説では、元は二体いたが、互いに戦い勝利した方が現在の神龍皇であるとされる。) ちなみに、マナはせいぜい竜王クラスまでしか召喚できない。(竜を召喚できるものは稀だが) ******************************************* *ミサト側* こちらも予想通りに、かなりの苦戦を強いられていた。 ミサトを中心に、トウジ、ケンスケ、ムサシが接近戦を。 カオルの魔術とマユミの精霊魔法が後方支援を。 マヤが回復を、と言った陣形である。 しかし、シャムシェルは鞭のような物を使い、その変則的な動きで間合いに踏み込ませず、 魔法は、その装甲ではじいていた。 ミサト:「このままじゃ埒があかないわ。向こうも心配だし。」 ミサトはシャムシェルの攻撃を避けながら、サキエルの方を気にかける。 その時、サキエルのほうから凄まじい光と轟音が起こる。 驚いて眼を向けると巨大な雷光がサキエルを飲み込んでいく。 ミサト:「あれは一体!?」 (いくらリツコでもあんな雷を放てるわけ無いわよね。じゃあ、あれは一体誰が?) ミサトの見ている目の前で、サキエルは跡形も無く消し飛んでいった。 しかし、それを見たからといってこちらの攻撃がやんだわけではない。 その間もシャムシェルの攻撃は続く。 ミサト:(どうでもいいけど、終わったんなら早くこっちの加勢にきてよね。) 攻撃をかわしながら、心の中で愚痴を言うミサト。 丁度その時、強力な魔法がシャムシェルに炸裂する。 誰が放った物か気にはなったが、その隙を突いてミサトは切り付ける。 それと同時に反対側からも誰かが切りつけていた。 シャムシェルはバランスを崩して、兵装ビルに倒れこむ。 ミサトは誰が今の魔法を放ち、切り付けたのか確認する。 見ればカオルの横にリツコとレイが立っている。 どうやらレイとカオルがリツコに同調して魔法を放ったらしい。 そして自分の反対側には加持が剣を構えて立っていた。 それを見てミサトはアスカ達の事と、先程の雷光のことについて疑問をぶつける。 ミサト:「ねえ、加持君。アスカ達はどうしたの?それにあの雷光は一体?」 加持:「アスカ達は無事だ。少し怪我なんかもあるがヒカリ君が見ているから大丈夫だろう。 先程の雷については後で話す。どうやらまだ終わらんらしい。」 そう言われて振り向いたミサトの目に飛び込んできたのは、 先程の攻撃もほとんど効いた様子の無いシャムシェルの姿だった。 ミサト:「あれで倒れないなんて、あきれた打たれ強さね。」 この事態をどう乗り切ろうか必死に模索しながらも愚痴を言うミサト。 周りに焦燥感を与えないのは、この人物の特徴だろう。 そんなミサトに加持が声をかける。 加持:「葛城、どうやらさっきの質問に答える必要は無くなったようだ。」 それを聞き怪訝な顔をするミサト。 それに対して加持は、一点を見つめたまま再び声をかける。 加持:「あれを見てみなよ。」 そういう加持の目線を追いかけるミサト。 その瞳に移ったのは高速で接近してくる黒い影だった。 その影は大きくなりながらどんどん近づいてくる。 見ればその背中には一人の少年が巨大な刀を構えて乗っている。 加持:「さっきの質問の答えは彼だ。誰だか知らないが突然現れてアスカを助け、 サキエルを消し飛ばしてしまった。」 ミサト:「そ、そんな!?あんな子供が?」 信じられずにただ呆然と聞き返すミサト。 そこにリツコとレイが近寄ってくる。 リツコ:「信じられないかもしれないけど事実よ、ミサト。」 レイ:「私もこの目ではっきり見ました。凄まじいまでの破壊力でした。」 それを聞いても、まだ信じきれていない様子を見せつづけるミサト。 加持:「論より証拠。ま、見てればわかるさ。」 そういうと、加持はただ少年を見つめていた。 ******************************************* 少年側の視点 ムハエルに乗りながらシャムシェルの攻撃をかわす少年。 少年:「相変わらずあの鞭だけは異様に早いな。 と言ってもおまえのスピードなら何の問題も無いよな、ムハエル。」 その言葉に対し、竜は小さく鳴くことで答える。 少年:「しかし一応注意をそらしておくか。」 そういうと少年は魔術や召喚術とは別の呪文(通常とは別の言葉・精霊語)を唱え始める。 少年:【炎の精霊王エフリート、風の精霊王イルクよ。汝ら我が名に於いて命ずる。 我との契約に応じ、我が前に現れ、我が願いを聞き届けよ。】 その言葉と同時にシャムシェルの右側に、薄緑色の風の巨人が、 左側に紅煉に燃え盛る炎の巨人が現れる。 それを見てミサト達は目を見張る。 ミサト:「そんな!?上位精霊を呼び出した。しかも二体同時に!?」 加持:「すごいな。まさか精霊魔法まで使えるとは。」 マユミ:「あれが風と炎の上位精霊。始めてみました。」 リツコ:「ホントに興味深いわ。(あの子、すぐにでも調べたい!)」 レイ:「跨っているのはたぶん召喚獣。三種類の魔法を使えると言うの?」 シャムシェルは突然現れた精霊に攻撃を加えるが、元々実体の無い精霊にその攻撃は効かない。 徐々にだが、エフリートの炎で焼かれ、イルクの風の刃で傷ついていく。 そのうちに少年は黒竜を駆って、シャムシェルの正面から突っ込む。 シャムシェルは少年に的を絞って攻撃しだすが、余りのスピードと少年の剣さばきに、 攻撃は少しもあたらない。 少年はある程度近づくと、巨大刀を上段に構えて黒竜から飛んだ。 それと同時に黒竜は元いた次元へと戻っていく。 少年:「龍牙剣術流、九龍(クーロン)!!」 少年の叫びと共に、シャムシェルと少年は交差した。 その後、少年は刀を振り下ろした体勢で地面を足でえぐりながら着地した。 それと同時に風と炎の上位精霊も精霊界に帰っていく。 シャムシェルは膠着したまま動かない。 少年は体勢を治し、巨大刀を地面に突き刺す。 それが合図だったかのようにシャムシェルの中心にあった赤い球体にひびが入る。 それと同時に、シャムシェルの体の外側八方向から亀裂が入り、 球体は中心から砕け、シャムシェルはバラバラになって崩れていく。 少年は何事も無かったかのように、巨大刀を肩に担ぎ元来た方向に走って戻っていく。 ミサト達はただ唖然としてそれを見送った。 一番最初に立ち直ったのはミサトだった。 ミサト:「あの魔獣をいとも簡単に、しかもあの一瞬にあの巨大刀で九撃も!?」 加持:「信じられんが事実だ。彼は間違いなく刀剣術士のレベルだな。しかも史上最高の。」 リツコ:「しかもあれほど強大な魔術も使って見せた。あれには私も脱帽だわ。」 マヤ:「すごかったですね。先輩。」 レイ:「召喚術も使って見せましたよ。しかもかなり強力な。」 マユミ:「それに上位精霊も呼び出しました。」 トウジ:「あないな奴がおるなんてなあ。」 ケンスケ:「ホント。信じられないよな。」 ムサシ:「まだまだ修行が足りないな。もっと鍛えねば。」 カオル:「鍛えてどうにかなるレベルかね。まあ、彼は好意に値するね。」 いつのまにか集まって来た者たちもそれぞれ感想を述べていく。 (そういえば最後の四人は戦闘中一度も喋ってないな。マヤに至ってはこれが初。) それぞれ呆然としていたが、アスカ達のことを思い出し、かなり遅れて少年の後を追っていった。 ******************************************** アスカ達はまたも呆然としていた。 少年が行ってから暫くした後、風と炎の上位精霊が現れ、 数瞬後にはシャムシェルが崩れ落ちていくのを見ていたためである。 アスカ:「今のもやっぱりあいつがやったのかしら。」 唐突にアスカが口を開く。それに答えるヒカリ。 ヒカリ:「たぶんね。あっ、こらアスカ、動かないで。傷治せるほど力残ってないんだから。」 マナ:「どうでもいいけどヒカリも休みなよ。あたし達の回復とかでかなり疲労してるんだから。」 三人がそんな話をしていると、刀を肩に担いだ少年が戻ってきた。 少年:「ごめん。遅くなったかな?」 相変わらず少年の顔は隠れていたが、その黒衣の上からでも心配しているのがわかった。 少年:「ちょっといいかな。傷を見せてくれる?」 そう言われ、アスカは素直に傷を少年に見せる。 普段では見られない姿だ。 そこに遅れてきた面々もやって来た。 少年:「少しの間じっとしててね。」 少年はそう言うとアスカの足の傷に手をかざし、何か唱え始める。 すると彼の手は光を放ちだし、アスカの傷は見る間に消えていく。 一同は今日何度目かの驚愕をする。 ヒカリ:「そんな!?法術まで使えるの?」 アスカの足の傷が消えたのを確認すると、少年はかざしていた手を離す。 少年:「もう大丈夫だよ。」 アスカ:「あ、ありがとう。」 アスカは少年の瞳を見ながら少し頬を朱に染めて礼を言う。 アスカが素直に御礼を言うのもまた珍しい。 少年はそれを聞き、眼で微笑む。 それを見ていた加持が少年に声をかけた。 加持:「どうやら俺達は君に礼を言わなければならないな。 俺の名前は加持リョウジ。剣士をしている。よろしく頼む。」 それを聞き皆自己紹介をしていく。 ミサト:「私は葛城ミサト、侍よ。よろしくねん。」 リツコ:「赤木リツコよ。賢者と同時にレイとカオルの師匠もしているわ。よろしく。」 マヤ:「伊吹マヤです。リツコ先輩の助手で賢者をしています。」 トウジ:「鈴原トウジ、闘拳士や。よろしゅう。」 ヒカリ:「洞木ヒカリです。気付いてるだろうけど法術師です。よろしくね。」 ケンスケ:「相田ケンスケ、槍使いだ。よろしくな。」 マユミ:「山岸マユミです。弱いですけど精霊使いです。よろしくお願いします。」 ムサシ:「ムサシ・リー・ストラスバーグ。戦士をしている。よろしく。」 マナ:「霧島マナよ。召喚術師をしてるわ。よろしくね。」 カオル:「渚カオル。魔術師をしているよ。よろしく。君は好意に値するよ。」 レイ:「私は綾波レイです。渚君と同じ魔術師です。よろしく。」 アスカ:「惣流・アスカ・ラングレー、侍よ。よろしくね。」 それを聞いていた少年は事態についていけず少し唖然としていたが、 事態を理解すると黒衣を取り去り、素顔を見せて挨拶した。 皆はその素顔を見て絶句した。 その肌は白く、その中性的な顔はそこらの女性よりもはるかに美しい。 その表情は穏やかで、強い意志を纏った黒曜石を思わせる黒い瞳が印象的だった。 だが、何よりも違ったのはその全身を纏う雰囲気だった。 海の底のような静けさと、氷塊を思わせる冷徹で残酷な、 それでいて業火を連想させる底知れない怒気、闘気、殺気。 そして、それらを上回る全てを包み込むような暖かい優しげな感じを受ける。 少年:「シンジ・・・、碇シンジです。よろしく。」 そう言って微笑んだ少年を見て皆は再度絶句した。 天使を思わせるその微笑を見て。 To Be Next Story. ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き ダー―、疲れた―――!! 前回ほとんど戦闘シーンが無かったので、それぞれにある程度台詞を与えてやったら 予想外に長くなってしまいました。<たかが10KB前後でか? ホントは前作と併せて一つのはずだったんですが(^^; サキエルとシャムシェルなんかただの遣られ役だったし(汗) しかし、これでようやく少年と言う言い方から開放される。 良かった、良かった。 (わかると思いますが九龍は某作品の九頭○閃と同じです。) シ「神竜王さん。」 神「アリャ、シンジ君。なんでしょう?」 シ「次回はどうなるんです?」 神「次回は君の過去、と言ってもどんな修行をしたか、などです。プロロ−グでもやってますから。」 シ「まあ頑張ってください。ところでこれ、その・・・、LAS・・ですよね。」 神「はい。心配しなくても大丈夫です。他の人はそれぞれ相手がいますから。安心してください。」 シ「そうですか。ところでどの辺りから、あの、その…。」 神「アスカとの進展ですか?急には無理ですが、まあ徐々にしていきます。 後、ラストはハッピーエンドを目指しています。」 シ「それとこの作品の僕、いくらなんでも強すぎません?」 神「まだまだ、これからどんどん強くなります。零話の後書きにあった基本設定見たでしょう。 最終的には神に匹敵してもらいます。」 シ「いいんですか?そんなに強くて?」 神「不安ですか?しかしこれは私の作品全てに共通させることです。安心していてください。」 シ「わかりました。それではアスカに変わりたいと思います。 アスカ、よろしくね。」(天使の微笑みで)
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