宴会・酒宴 酒や食べ物をそろえ、普段気付かぬうちにもある隔たりをなくし、親交を深める交流の場。 これが宴会や酒宴に対する一般的な認識だろう。 しかし、ここネルフでは多少認識が違う。 ネルフで言う酒宴は次のような式で成り立つ。 酒宴(サバト)=大量の酒=酒徒ミサト=大暴れ=全滅 以上である。 すなわち、結論から言えば酒宴とは、葛城ミサトの独壇場だということである。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 八翼の堕天使 ー第伍話 酒宴・精霊の舞ー ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ミサト:「スッゴ〜イ!?これマジでシンちゃんが作ったの?」 ここはネルフ本部の最上階にある展望食堂。 このネルフでかなりの権限を持つ女性、 葛城ミサトがこの場にやってきて、放った第一声が先程の台詞である。 その場にある机の上には所狭しと趣向を凝らした料理が並んでいる。 その上料理の種類や調理法もさまざまだ。 しかし彼女驚いたのはその数にではない。 この場に並んでいる全ての料理をたった一人の人物が作っていることである。 そう、調理場で働いているのは一人の少年。 昼間、驚異的な強さで魔獣を葬り、ミサト達の誘いを受けネルフに入ることになった黒髪の少年、 碇シンジだった。 今日の宴会の二つある口実のうちの一つは彼の歓迎会である。 それにもう一つの口実の祝勝会も、彼がいなくては出来なかったかもしれない事だ。 それなのになぜ彼が料理を作っているのか? 少し時間を遡ってみよう。 *********************************** 三時間前 ここはネルフ本部の司令室。 シンジは今ミサト、加持、リツコと共にここを訪れていた。 指令:「君がシンジ君だね。葛城君から話は聞いているよ。今回はうちの人間を助けてもらった上に、 魔獣を倒し、更にネルフに入ってくれるそうだね。ありがとう、歓迎するよ。 自己紹介が遅れたね。私はネルフ指令の冬月だ。よろしく。」 冬月コウゾウ ネルフが設立されてから五人目の総司令であり、全責任者である。 マリュウドとしての腕では平均的だが、組織を動かすという面ではかなりの辣腕である。 シンジ:「始めまして。碇シンジです。これからよろしくお願いします。」 シンジは笑顔で頭を下げる。その顔を見て冬月は懐かしむように話す。 冬月:「なるほど、ユイ君に似ているな。」 シンジ:「母さんを知っているんですか?」 冬月:「二人とも知っているよ。私は昔、危ないところを二人に助けられたからね。 ネルフは全面的に君に協力することを約束し、闇の使徒の事は情報が入り次第報告しよう。」 シンジ:「ありがとうございます。」 冬月:「葛城君。君はシンジ君を案内してあげたまえ。他の子も一緒につれてな。 すまないが加持君と赤木君は残ってくれ。」 ミサト:「わかりました。シンジ君、いきましょう。」 シンジ:「はい、ミサトさん。」 リツコ:「ミサト。迷っちゃダメよ。」 ミサト:「わぁかってるわよ、リツコ。んじゃ、後でね。」 そう言うと二人は司令室を後にした。 冬月:「ふう、さて加持君。率直な意見を聞きたい。彼についてどう思うかね。」 真面目な顔をして冬月は加持に問い掛ける。 加持もまた普段と違い真剣な顔つきだ。 加持:「はっきり言えば、恐ろしいですよ。その才能がね。でも彼なら警戒する必要も無いでしょう。」 リツコ:「私もそう思います。彼は自分の事をしっかりと把握していますから。信頼できます。」 冬月:「ふむ、君達がそう言うのなら大丈夫だろう。彼のことはよろしく頼んだよ。」 加持・リツコ:「「わかりました。」」 そういった後、二人も退出していった。 通路 ミサト:「さてと、お祝いの準備をしなくっちゃね〜♪。」 シンジ:「アッ、いいですよ。そんなに気にしなくて。」 ミサト:「何言ってるの。そんな遠慮しないで。せっかくなんだからさ。」 妙にやる気のあるミサトをシンジは不思議そうに眺めていた。 そこにその疑問を解決する言葉がかけられる。 アスカ:「いいのよシンジ。ミサトにとってはただの口実なんだから。」 レイ:「そう。元々今日はやる予定だったんだし。ミサトさんはお酒が飲めれば満足なんだから。」 シンジ:「そういうモンなの?」 アスカ:「そんなモンなのよ。」 ミサト:「何ごちゃごちゃと言ってんの。さてと、まず料理を準備しなくちゃね。」 その言葉にシンジは反応を示した。 暫くの逡巡の後、彼はミサトに意見を述べる。 シンジ:「あの、料理は僕に作らせてもらえませんか?」 シンジの言葉に三人は目を見張る。 ミサト:「シンジ君。料理できるの?」 シンジ:「はい。昔、母さんに手ほどきを受けました。四歳ぐらいからはいつも僕が作ってましたし。 皆さんのお口にあうかわかりませんけど。」 そう言うと、シンジは照れたように頭を書いた。 ミサト:「ふ〜ん、じゃあお願いしようかな。」 アスカ:「言っとくけど、まずかったら承知しないわよ。」 レイ:「頑張ってね、碇君。」 シンジ:「うん。精一杯やらせてもらうよ。」 ミサト:「じゃあ二人とも。シンジ君を食堂の方に案内してあげて。」 アスカ:「わかったわミサト。こっちよシンジ。」 こうして現在にいたるわけである。 *********************************** まずかったら承知しない、と言っていたアスカも感心していた。 それほどまでにシンジの料理は見事だったのである。 それが証拠に、先程からヒカリはシンジに質問しっぱなしである。 しばらくして準備が整い、全員がそろったところで酒宴が始まる。 音頭をとるのは主賓のシンジ、では無くてなぜかミサトである。 ミサト:「それじゃあ、新しく仲間になったシンジ君に歓迎の意をもって、乾杯!」 一同:「乾杯!!」 こうして酒宴が始まった。 そしてこの時、シンジとミサと以外の全員が二日酔いを覚悟した。 (この世界では10歳から飲酒が許可されています。念のため) ミサト:「シンちゃ〜ん。ちゃあんと飲んでる〜?」 すでに出来上がり始めたミサトは、まず主賓のシンジに狙いを定めたらしい。 加持はそれを見てどこかほっとしていた。普段なら一番最初に潰されるのが彼だからだ。 酒徒ミサトの本領発揮である。 加持:『すまないシンジ君。俺はここで、見ていることしかできない。だが、君ならできる、 君にしかできないことがある。後悔のないようにな・・・』 リツコ:『シンジ君、もうお別れなのね。もっと色々話しておけばよかったわね。でももうだめなのね。』 マヤ:『シンジ君。希望を捨てないで下さいね。』 トウジ:『シンジ、お別れなんやな。安心せい。この料理はわしが全部平らげてやるで。』 ヒカリ:『碇君、もっと料理の事聞いておけばよかったわね。もう遅いのね。』 ケンスケ:『シンジ、おまえのことは忘れないよ。』 マユミ:『あの、ごめんなさい、碇君。私には何も出来ないの。』 ムサシ:『シンジ、おまえの尊い犠牲は無駄にはしない。』 マナ:『さよなら、碇君。』 カオル:『シンジ君、出来ることなら変わってあげたいよ。でもね、体が動かないんだ。』 レイ:『これは・・・なに?私、寂しいの?そう・・・そうなのね。これが寂しいってことなのね。 碇君・・・さよなら』 アスカ:『シンジ、ミサトなんかに負けるんじゃないわよ!』 ・・・なんだかアスカ以外かなりひどいことを言っているが、これもミサトに対する認識のためだろう。 そして彼らの思いは共通していた。シンジはミサトに確実に潰されるということを。(アスカも含む) しかし彼らのそんな予想は、驚愕と共に打ち壊されることを、まだ、誰も知らない。 そう、当事者達でさえも・・・。 数時間後 アスカ達は驚愕していた。ミサトとシンジはまだ飲んでいた。 しかもミサトは今にも潰れそうなのに対して、シンジは平然としている。 そしてついにその時は来た!! ミサト:「もう・・・駄目。」 そういったかと思うとミサトは前のめりに机に突っ伏した。 酒徒・葛城ミサト初の轟沈だった。 浮沈酒徒・葛城ミサト、撃沈!? このニュースが、翌日ネルフ全体を揺るがしたのは言うまでも無い。 ミサトが完全に沈黙したのを確認したアスカはシンジを問い詰める。 アスカ:「ちょっとシンジ、あんたなんでそんなにお酒にまで強いのよ。」 シンジ:「いや、そんなこと言われても・・・。」 凄まじいまでの見幕で詰め寄ってくるアスカに、押されぎみなシンジ。 アスカ:「そんなことじゃないわよ!ミサトは今まで飲み比べで人に負けたことはないのよ。 なのにあんた、何で余裕で勝ってんのよ!」 シンジ:「そんな事言われてもわからないよ。修行してた時は一滴も飲まなかったし。 でも昔は弱かったよ。母さんに無理やり飲まされて1杯で気を失ったことがあるから。」 アスカ:「じゃあなんでこんなに強いのよ!」 シンジ:「だからわからないって。」 二人がいつまでも言い争いをしていた時、リツコは何か考えこんでいた。そして、 リツコ:「なるほどね。そういうことか。」 アスカ・シンジ:「「何がよ(ですか)。リツコ(さん)。」」 リツコの言葉にユニゾンで返す二人。 リツコ:「シンジ君がお酒に強い理由よ。」 アスカ・シンジ:「「どういうこと(ですか)?」」 またもユニゾンで返す二人。どうやらこの二人、一度ユニゾンすると簡単には抜けられないらしい。 相性抜群なことがこんな所で証明されている。 そんな二人に、リツコは苦笑いしながら自分の考えを述べる。 リツコ:「あくまでも推論だけどね。シンジ君は神龍皇の力を手に入れたでしょ。 太古から竜はお酒を好むと言われているわ。そのせいじゃないかしら?」 加持:「そういえば、昔から大酒を飲む人間のことをウワバミと言うな。」 マヤ:「あれ?先輩、ウワバミって大蛇のことじゃないんですか。」 リツコ:「その通りよ、マヤ。でも元は大蛇じゃなくて竜だったと言う人もいるのよ。」 アスカ:「つまりシンジは神龍皇の力のせいでお酒に強くなったと言うわけ?」 リツコ:「たぶんね。」 リツコの説明に納得した様子のアスカ。それに対して、複雑な心境のシンジ。 何はともあれ、とりあえず納得した二人は食事を再開した。 さて、ここでこの話に参加してこなかった連中はどうしたのだろうか。 この連中は話が少し難しそうだと判断したとたんに介入を止めている。 少しそちらに目を向けてみよう。 トウジはひたすら料理を口に詰め込んでいる。どうやら本気で全部食い尽くすつもりらしい。 一体どこに入っているのやら。 そのトウジの隣ではヒカリが幸せそうにトウジを見つめている。 何だかんだで結構幸せそうである。 マナは笑い上戸らしく、笑いながらムサシにひたすら話し掛けている。 ムサシは戸惑いながらもそれに応対しているがその表情はどこか嬉しそうである。 ムサシもマナには形無しのようだ。惚れた弱みとも言うが。 ケンスケとマユミはマイペースに料理を食べながら談笑している。 周りの事はどうでもいいらしい。本当にマイペースな二人だ。 レイとカオルは元々そんなに酒には強くないらしく、一時間ほど前から寝てしまっている。 壁際で二人でもたれあいながら寝ているのは、二人が寝た後ヒカリと共にアスカが仕向けたのである。 まあ、二人ともどこか幸せそうな寝顔だからいいだろう。 波乱の元であるミサトが潰れてしまったので、穏やかにそれぞれの時間は流れていく。 *********************************** 深夜、アスカはふと目覚めた。 時間は2時ぐらいだろうか。いつのまにか寝てしまっていたらしい。 周りを見渡すと全員眠ってしまっている。 が、アスカはふと気付いた。シンジだけいないのである。 不思議に思っていると、どこからか曲が聞こえてくる。 アスカ:「なんだろう、この曲。」 アスカはその音をたどって歩き出した。 どうやら曲は屋上から聞こえてくるらしい。 アスカは屋上の入り口へと向かった。 アスカはそこからそっと外をのぞいてみる。 そして、そこには信じられないような光景が広がっていた。 満月の光の下、シンジはこちらに背を向けてチェロを構え、ゆっくりと曲を紡いでいた。 そしてその曲にあわせるように、風の精霊・シルフ、森の精霊・ドライアード、水の精霊・ウンディーネ、 光の精霊・ウィル・オー・ウィプス、闇の精霊・シェードがシンジの周りを飛び回り、 風の精霊王・イルク、森の精霊王・エント、炎の精霊王・エフリートが空中で胡座をかく姿勢で座り、 炎の精霊・サラマンダ―、大地の精霊王・魔獣ベヒモス、氷の精霊王・魔狼フェンリル、 そして、余り知られていないもう一体の炎の精霊王・フェニックス。 これらの精霊達は空中や地上で、伏せるような姿勢で眼を閉じて曲に聞きいっている。 その光景は通常では考えられない物だった。 これほどの精霊が一度に呼び出されることなどありえないからだ。 それは余りに神秘的で、どこか現実感の無い光景だった。 曲もそうだった。確かに素晴らしい音色と曲なのだが、どこか寂しげではかなかった。 アスカがそんなことを感じているうちに、曲が終わった。 そこでアスカはシンジに声をかけた。そうでないとシンジがこのまま消えてしまうように感じたから。 アスカ:「・・・シンジ?」 その声に、シンジはアスカの方を振り返った。 シンジ:「アスカ?ごめん、起こしちゃったかな?」 その言葉にアスカは首を横に振って答えるとシンジに問い掛けた。 アスカ:「何してたの?」 その問い掛けに、シンジは優しく微笑んで答える。 シンジ:「精霊たちにチェロを聞かせていたんだ。」 アスカ:「どうして?」 シンジ:「契約するときに弾いたんだけど、どうも気に入られたらしくてね。 たまには聞かせてくれって頼まれたんだ。」 アスカ:「へぇー変わってるわね。でも確かにうまかったわよ。」 シンジ:「ありがとう。人に聞かせたのは十年ぶりだよ。」 アスカは気がついた。その言葉は、暗に両親以外に聞かせた事はないという意味だったことに。 だから出来るだけ明るく接した。 アスカ:「そうなんだ・・・。ねえ、もう一回、今度は違う曲を聞かせてよ。」 シンジ:「うん、かまわないよ。」 シンジは笑顔でそう答えた後、再び目を閉じ曲を紡ぎ始める。 今度のその曲には寂しさなどが無いことをアスカは感じていた。 アスカはシンジの隣に邪魔にならないように腰掛け、目を閉じた。 そして精霊たちと同じように、静かに曲を聞いていた。 月の光で伸びた先で、二人の影は一つになっていた。 まるで二人の未来を暗示するように・・・。 To Be Next Story. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き 八翼の堕天使ー第伍話 酒宴・精霊の舞ーいかがでしたでしょうか? 今回は少しギャグっぽかったかな? 元々この作品はシリアスギャグにするつもりだったんですが、 かいてるうちにどんどんシリアスになってきちゃって、結局諦めたんです。 でも最近はシリアスでよかったと思います。だってギャグかけないから<爆 最後の方は少しはLASッぽくなりましたかね? 結構これは良く出来たと思うんですけど・・・。 神龍皇:「最強無属性魔術・神龍砲、発射―――!!」 ドッカー―ン!!! ぎゃ――― 神龍皇:「作者!!我の出番は前回で終わりか。答えろ!答えによっては・・・」 作者:「ちょッ、ちょっと待った。落ち着け。出番はある。あるから落ち着け。」 神龍皇:「いつだ?」 作者:「最終回です。それまではシンジを通して間接的な登場です。」 神龍皇:「・・・内容を教えろ。」 作者:「しょうがないですね。プロットならありますからどうぞ。」 神龍皇:「・・・・・ふむ、まあこんな物だろう。どうでもいいがなぜシンジが酒に強いのだ?」 作者:「ああ、これですか。このことについてはいろいろと意見があるんですよ。 ミサトより強いとか、たった一杯でダウンとか。で、強い方が少ないし、 ミサトの暴走をかくのが大変だし、シンジの弱点はアスカだけで十分だろう、 と言うことなどからこうなりました。」 神龍皇:「アスカが弱点?なぜだ?」 作者:「少しずつでも惹かれている女性が人質になったりするのは王道でしょうが。」 神龍皇:「そうか?ただの偏見だと思うが・・・。そういえば、 そのアスカからもっと自分をかっこよく書けという苦情が届いているが。」 作者:「それも大丈夫です。次回はアスカ主体のサブキャラも多少出番ありの形になるはずです。 といっても後半はシンジですけどね、やっぱり。 かっこよくシンジに助けられると言うことで勘弁してください。」 神龍皇:「まあ、何はともあれさっさと次もかけよ!」 作者:「できるだけ頑張らせていただきます。では次回、第陸話でお会いしましょう。 ではアスカさん、後はよろしくお願いします。」 P,S 感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。 悪戯、冷やかしは御免こうむります。
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