冬月:「ふむ、ではこの間の魔獣の件で調査に行きたい。そう言うのかね。」

ミサト:「はい。シンジ君の話では、あの魔獣は常闇の森にしか生息していない筈です。
     それがこんな所にいるのは明らかに変です。念のため調査をしておくべきです。」

これはネルフ本部の司令室で行われた会話である。
なぜこのような話になったのか?
少し時間を遡ってみよう。

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八翼の堕天使
ー第陸話 少女の心ー
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ことの始まりは宴会翌日、頭をおさえながら起き上がったミサトが、
すでに起きていたシンジに魔獣の事で質問したところから始まる。

シンジ持つ『天地魔闘の書』には、あらゆる知識が記されている。
最も、これを解読できるのは現在のところシンジだけなのだが。

そしてこの書物には魔獣に関することも書かれている。
その中には、魔獣の生息地域に関することも書かれていた。

そこでシンジは、天地魔闘の書にかかれていたデータと、自分の経験から、
あの魔獣は確かに常闇の森にしか生息していない、と話たのである。

シンジは、ミサトに忠告のつもりでその事を話したのだが、
行動派のミサトは原因究明のため、冒頭にあったような意見を司令に直訴しに言ったのである。

 司令室

冬月:「あの魔獣がどの辺りから来たのか見当はついているのかね?」

ミサト:「はい。すでに赤木・伊吹両名に場所の特定を依頼し、判明しております。」

冬月:「そこまで準備が出来ているのなら止める理由は無い。ただ十分に気をつけなさい。」

ミサト:「わかりました。では失礼いたします。」

敬礼をした後、部屋を出て行くミサトの姿を、冬月は感慨深げに見つめていた。
そして自分にとって恩師であり、彼女の父であった、今は亡き人物に思いをはせる。

冬月:「彼女は強く育っている。葛城先生も満足しておられるだろう。」

彼の言葉は誰にも届くことなく、暗い部屋の中に吸い込まれていった。


 食堂

日の光を受け、アスカは目を覚ました。
眠そうな目で周りを見渡し、自分の状況を確認する。
そしてまだ鈍くしか働かない思考能力を動かして、昨日のことを思い出す。

アスカ:(えっと、昨日はシンジの歓迎会で、シンジがミサトを潰したから平穏無事に終わって、
    ここでいつのまにか寝ちゃってて、ふと夜中に目がさめて、シンジを探し出して、
    シンジの弾いたチェロの曲を聞いてて・・・、その後どうしたっけ?)

どうやらその後のことを覚えていないらしい。
シンジに聞けばわかると思い、取り合えずシンジを探す。

まず机の周りを見回してみる。

机の所では、トウジが鳥の脚を右手に掴んだまま机に突っ伏して爆睡し、
それにもたれ掛かるようにヒカリが穏やかな寝息を立てている。

その向かいではケンスケとマユミが椅子の背もたれに寄り掛かるように同じ態勢で眠っている。

そしてその横ではムサシが腕を組んだ態勢で眠り、
マナは昨日のミサトのように机に前のめりに倒れた形で眠ってる。

カオルとレイは昨日のまま、二人で一つの毛布に包まっている。
余談だが、この二人を起き抜けに目撃したミサトは、二人の起きた時の反応を楽しみにしていた。

ミサト、リツコ、マヤ、加持はもう起きたのか見当たらない。
そして肝心のシンジもこの部屋にはいなかった。

アスカはシンジを探しに行こうとして立ち上がろうとした。
それと同時に、自分の上にかけてあったものが床に滑り落ちた。

なんだろう?と、疑問に思い手にとって見ると、
それは昨日シンジの纏っていた黒衣であることがわかった。

アスカ:(あいつがかけてくれたんだ。優しいんだな・・・)

アスカは黒衣を丁寧にたたむとそれを持って探しに行こうとした。
が、ふとあることに気がつく。

アスカ:(ん、ちょっと待ちなさいよ!ッてことはあいつに寝顔を見られたってこと!?
    ・・・ッキャー―――!!恥ずかしい!恥ずかしいよォ!!)

アスカは顔を真っ赤に染めていた。
そこに話題の人物が声をかけてきた。

シンジ:「あっ、アスカ。起きたんだ。おはよう。)

爽やかな笑顔で挨拶してくるシンジに、一瞬見惚れてしまうアスカ。
が、何とか現実に復帰すると、昨夜のことを聞き出す。

アスカ:「おはよう、シンジ。ねえ、昨夜あたしどうしたの?」

シンジ:「ん?ああ、あの後?僕が2曲目を弾き終った後、急に寄り掛かってきたから、
     何かと思って見て見たら、アスカ寝ちゃっててさ。
     そのままじゃ風邪引くと思ったからここに運んできて僕の黒衣を掻けておいたんだ。」

アスカはシンジの言葉を聞いて赤面する。一つは寝顔を見られたせいだが、それだけではないらしい。

アスカ:「ゴメン、あたしがリクエストしたのに先に寝ちゃうなんて。」

シンジ:「いいよ、そんなこと。あんな戦いの後だったんだし。気にしてないよ。」

シンジはそう言ってアスカに優しく微笑みかける。
その微笑からは、昨日見せた修羅や鬼神を思わせた雰囲気は欠片も無く、ただ優しさのみが感じられた。
しかしアスカは、そんな中にも寂しさを漂わせている事を感じ取っていた。

アスカ:(彼の心からの笑顔はどんななんだろう?)

そんな事を考えていたとき、アスカはシンジの黒衣を抱えたままだったことに気付いた。

あすか:「これ、ありがとう。」

シンジ:「ん?ああ、どういたしまして。ところでお腹空いてない?朝食の準備できてるけど。」

言われて気付いたが、シンジの後ろから食欲をそそるいい香りがする。
アスカは軽い空腹感を感じた。

アスカ:「ええ、頂くわ。」

二人が朝食をとりながら談笑していると、ミサトがやってきた。

ミサト:「お!さっすがシンジ君。美味しそうじゃない。」

シンジ:「あ、ミサトさん。一緒にどうですか。」

ミサト:「ん〜、残念ながらもう済ませちゃったのよね〜。また次の機会にねん♪」

ミサトはそう言いながら奥に行くと、まだ眠っている六人を叩き起こした。
レイ、ヒカリ、トウジが自分たちの状況に赤面し、ミサトを大いに喜ばせたのは言うまでも無い。
ただ唯一カオルだけは変化がなかったので、ミサトは少しだけがっかりしていた。

そのころ、アスカは朝食をとり終え、シンジは"もう慣れた"と言わんばかりに六人分の朝食を整え、
ケンスケとマユミはいつもの事だと無視し、シンジに礼を述べた後朝食をとり始めた。
ムサシも同様だったが、マナはミサトと一緒に三人のからかいに向かい、
その後ムサシにこってりとしぼられた。

メンバーは食事が終わるとネルフ本部のマリュウド控え室に招集された。
そして今回の調査について説明を受ける。

ミサト:「不自然な点が多すぎる今回の事件。このまま放って置く訳にもいかないので、
     これより私たちは調査に向かいます。2時間後、装備を整えて街の東に集合して下さい。」

レイ:「質問してもいいですか?」

ミサト:「いいわよ。何かしら?」

レイ:「目的地はどこなんですか?それがわからないと準備のしようがありません。」

ミサト:「おっと、そうそう忘れてたわ。リツコ、お願い。」

言われてリツコは呆れながら一歩前に出て説明を始める。

リツコ:「場所はここから南東に五百キロ。俗に蛇神の森と呼ばれる密林よ。
     ここにはそんなに大した魔獣はいない筈だったんだけど、
     この間の魔獣は確実にここから現れているわ。」

アスカ:「ちょっと待ちなさいよ!五百キロ!?一体何日かけていくつもりよ。」

リツコ:「そうね、行程に約五日。調査に三日てところかしら。」

トウジ:「本気かいな。」

ケンスケ:「時間懸け過ぎじゃないのか?」

ムサシ:「その間にここに魔獣が攻めて来たらどうするんだ?」

ミサト:「その辺は心配いらないわ。司令に頼んであるから。」

加持:「まあ議論してても変わるまい。とりあえず準備をして集合だ。」

加持のその一言でとりあえず皆準備をするため部屋を出て行く。
ただシンジだけは準備する必要が無いので、一人残って部屋の壁に何かを描き始めた。


  二時間後

ミサト:「さてみんな、準備はいいわね。出発!」

勢いよく出発を宣言するミサト。
それをアスカの怒声が遮る。

アスカ:「ちょっとミサト。マジで歩いていくつもり?
     レイやヒカリはあんたみたいな体力馬鹿じゃないのよ。なんか別に方法は無いの?」

アスカの怒声も最もである。元来、魔法使いの系統は体力的に見ると侍や剣士に比べて遥かに低い。
実のところ、この行軍はリツコやマヤにとっても、かなりつらい物がある。
ましてや成長しきっていないレイやヒカリにはかなりの負荷が掛かるだろう。
ミサトもそれは考えなかった訳ではないのだが、

ミサト:「そんな事言ったって無茶よアスカ。
     第一こんな大人数が乗れる物なんてまだ開発されていないのよ。」

アスカ:「そこをなんとかしようと考えるのがあんたの仕事でしょうが!」

二人の言い合いは、果てしなく続くかに見えたが、シンジの始めた行動に二人の口は止まる。
シンジが何かを召喚し始めたのである。

シンジ:【次元の彼方、果てしなき荒野に住まう物よ。その雄々しく、力強い豪脚を持って大地を駆けよ。     汝、契約に従い我に力を貸せ。汝が名は黄金竜なり。】

その言葉と共に、大地に描かれた魔法陣より、強大な四肢と、
その体の両脇に巨大な広角を持った竜が現れる。その外見は犀や闘牛のような印象を受ける。
光の加減でその外骨格が黄金色に輝いて見える。

神龍クラス・土属性最強竜・黄金竜である。

ミサト:「シ、シンジ君。どうしちゃったの、急に。」

ミサトの問いかけを無視して、シンジは黄金竜を見つめる。
すると黄金竜はその首をシンジに向け問い掛けてきた。

「我らが新たなる王、新たなる主人よ。何用か。我に出来得る事であれば協力しよう。」

その言葉にシンジは笑顔で答えた。

シンジ:「そんなに大そうな事ではないよ。ただ一つ頼みがあるんだけど。」

「何だ。」

シンジ:「ここにいる人達を乗せて蛇神の森まで走ってほしいんだ。頼めるかな。」

「その程度のことか。お安い御用だ。乗られるが良い。」

そう言うと、黄金竜はその見をかがめ、首を下ろした。
それを見たシンジは満足げに頷くと、一同の方を振り向いた。

シンジ:「さあどうぞ、乗ってください。」

シンジは呆気に取られている一同に笑顔で話し掛ける。

加持:「昨日話を聞いていたが、実際に目の前でそれを実証されると。なあ、ミサト。」

ミサト:「神龍クラスは初めて見たわ。」

リツコ:「纏っている雰囲気からして違うわね。何と言うか…、神々しいと言えばいいのかしら。」

アスカ:「ところでシンジ、マジで乗ってもいいの?」

シンジ:「もちろん。その為に召喚したんだから。心配しなくても平気だよ。
    黄金竜は元々おとなしい気性で、人間にも協力的な部分があるから。」

マナ:「それは知らなかったわ。貴重な情報ね。」

マユミ:「マナさん。例えそうだとしても契約は無理だと思いますよ。負担は同じですから。」

レイ:「とりあえず碇君の言う通り乗せてもらいましょう。」

レイの言葉に乗ろうとする一同だが、あいにく黄金竜は巨大だ。乗るのにも一苦労である。

アスカ:「シンジ。何とかならないの?」

アスカの言葉にシンジは暫く考えるが、何を思ったのかアスカの近くによってきた。

シンジ:「アスカ、失礼するよ。」

そういったかと思うと、シンジはおもむろにアスカを抱き上げ、高く跳躍し、黄金竜の背に飛び乗った。
アスカは一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、理解すると赤面して声を荒げた。

アスカ:「あ、あんたいきなり何てことすんのよ。(は、恥ずかしすぎるよぉ!)」

シンジ:「ん?何か変な事した?」

シンジはなぜアスカが赤くなっているのかわかっていないらしい。
元々が鈍感だったのもあるだろうが、異性を意識する年齢になる前に人との交流を絶ち、
修行に明け暮れていたためか、異性に対しての意識や恥じらいが極端に少ないからだ。

アスカ:「(もしかして全員この方法で上げるつもり?なんかむかつくわね。)
    魔法でも使ってさっさと他のも上げなさいよ。」 

シンジ:「ハイハイ、わかってるよ。」

アスカ:「ハイは一回で十分よ!」

シンジは、風邪の精霊王・イルクを召喚し、他のメンバーも乗せるように命じていた。
その光景を見て、アスカはどこかほっとしていた。
それが何故かはまだわかっていないらしいが。

アスカ:(何なんだろう、この感じ。こんなの初めてだな。)

今でこそ多くの男性に言い寄られているアスカだが、昔はその容姿の為いじめを受けていた。
その連中を見返してやろうと思ってマリュウドになったぐらいだ。
しかし月日が経ち、その容姿から滲み出る美しさが強調されるようになると、
いじめていた連中は手のひらを返したように機嫌をとり、アスカに言い寄っていった。
それを見て、アスカは軽い人間不信に陥り、異性に対して嫌悪感を覚えるようになった。

ここにいるメンバーの異性にはそれを感じないが、
完全に心を許している訳ではない。(加持も含む)
しかし、合って間もないシンジにはそれを感じなかった。
それどころか、いつのまにか心を許し始めている自分がいた。
アスカはその感情が何なのかわからず、もてあましていた。
その為、先程の考えが軽い嫉妬から来る物だとは気付けないでいた。

ミサトが見たら呆れながらも喜びそうな感じである。

「主よ、用意は宜しいかな?」

全員が乗ったことを感じた黄金竜はシンジに確認をした。

シンジ:「うん、もういいよ。出発しよう。」

「では、参りますぞ。」

そう言うと、黄金竜は大地を駆け始めた。
そのスピードは恐ろしく速く、周りの光景が一瞬で後方に流れていった。
にもかかわらず、呼吸は正常に行うことが出来た。
黄金竜の張り巡らせた結界のためである。

程なくして、黄金竜は目的地に到着した。
一般の人の足では十日、マリュウドの足でも五日の距離を、黄金竜はわずか半日で走破してしまった。
大地を駆ける速度であれば、竜族一と呼ばれているのも頷ける物がある。

今、シンジ達の目の前には蛇神の森が広がっていた。
そしてこれが、より大きな事件の始まりとなるとは、まだ誰も予想できずにいた。

To Be Next Story.
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後書き

まずは謝らせて頂きます。
前回の後書きで書いたような戦闘シーンまで行くことが出来ませんでした。
申し訳ありません。

今回作品は、アスカについてを中心に書いていたら、あれよあれよという間に伸びてしまいまして、
ここで区切るようなことになった次第であります。
(アスカの恥らうシーン、自然に書いたけど読み返すと恥ずい。そんな事言ってたら書けないけど(^^;)

しかし、今回の物語はこれからのシンジとアスカの関係を書く上で重要な部分もあったので、
この際仕方なかったなと思っております。

ですから、お叱りのメールは勘弁してくださいね。お願いします。m(_ _)m

作:「では今回のゲストは、洞木ヒカリさんです。」
ヒカリ:「よろしくお願いします。」
作:「はいどうも、そういえば初めてゲスト紹介したな。」
ヒカリ:「どうでもいいですけど、アスカ。碇君には妙にしおらしいですね。」
作:「そうなんですよ。今回は私は意図してなくて、書き終わったらこんな感じになっちゃって。
   アスカがもう私の手を離れていますね。」
ヒカリ:「それに私、鈴原に名前で呼んでもらって、もう付き合ってる。(ポッ)」(妄想神・降臨)
作:「大丈夫か?この人。そんな事いってる間にあっちに行っちゃったよ。
   そろそろアスカさん呼ばないとやばいかな。
   まあ何はともあれ、読んでいただきありがとうございました。
   次回もよろしくお願いします。」
ヒカリ:「一緒に寝てるなんて、不潔よ〜!」(クネクネ)(妄想神・降臨継続中)
作:「駄目だ・・・。完全に壊れてる。」


アスカ:いよいよ冒険が始まったわね。

マナ:わたしも1つ龍が欲しいなぁ。

アスカ:アタシはサラマンダがいいかな。

マナ:シンジ、貸しておいてくれないかしら。

アスカ:無理なんじゃない?

マナ:シンジが龍に、わたしの言うことを聞くようにって言っても?

アスカ:そりゃ無理だって。

マナ:どうしてよぉ。

アスカ:龍は、アタシみたいな可愛い娘の言うことしかきかないのよ。

マナ:わたしだって可愛いわよっ!(ーー#

アスカ:ところで、この世界にサラマンダっているのかしら?

マナ:アスカには、どっちかっていうと蛇が似合ってるわよっ。
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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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