シンジの脳裏にあの時の光景が蘇る。 例え何年経っていようともあの時の光景は決して色褪せない。 シンジにとって、あの日は昨日のような物。 なぜならあれ以来、彼の中の時間は止まっているのだから。 焼け落ちる家、泣き叫ぶ子供、絶望する大人達。 そして、鮮血を流しながら崩れ落ちる両親。 それを見て嘲笑う男達。 多くの命を笑いながら殺した男達。 ・・・許さない・・・許せるものか・・・やつらの首、必ず『俺』が取る。 そう誓って生きて来た少年の瞳に映るのは黒い逆十字の刺青。 それを持つ男が五人、今彼の目の前にいる。 シンジの中に黒い憎悪という名の炎が燃え上がる。 その炎は少しづつ、だが確実に大きくなっていく。 それを燃え上がらせるシンジ自身を焼き尽くさんとするように。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 八翼の堕天使 ー第八話 魔曲・展開・開眼ー ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― アスカ:「シンジ?どうしたの、大丈夫?」 アスカはシンジの変化に気付き声をかける。 シンジはまだその身の内にほとばしる怒りを表に出してはいない。 でなければアスカは声を掛ける事が出来なかっただろう。 しかしアスカはわかっていた。シンジの中の怒りに。 闇の使徒に対する彼の気持ちは聞いていた時から痛いほどに理解できたから。 アスカは昔の経緯を経て、相手の気持ちや考えをかなり正確に感じる取る事ができた。 同時に感受性もかなり鋭くなっていた。 以前に聞いたシンジの過去に深く入り込んでしまったらしい。 アスカの中にはシンジに対して憐れみや同情ではない、言い知れぬ気持ちが溢れていた。 シンジはアスカの言葉に反応を示し、彼女の方を振り向く。 そして軽く微笑んだ後再び目の前の男たちを見据える。 その瞳にはもう優しさは見受けられない。 シンジはそのまま前に歩を進める。 その気配に気付いたミサトと加持は振り向きシンジの瞳を見たとき言葉を失った。 その瞳は普段の黒曜石を思わせる澄んだ瞳ではなく、くすんだ闇のように光無き黒。 その中で殺意と憎悪、怒りのみがギラギラと輝いていた。 加持とミサトは歩を進めるシンジにまるでモーゼの十戒の様に道を開けた。 二人の間を通り抜けるとき、シンジは二人に言葉を掛ける。 シンジ:「ミサトさん、加持さん。全員で一箇所に集まっていてください。巻き添えを喰いますよ。」 その言葉には普段の優しさはなく、何かに耐えているような押し殺した声だった。 ミサト:「え、ええ分かったわ。」 ミサトはそんなシンジに気圧されながらもなんとか言葉を搾り出す。 それに対してシンジはもう一言だけ付け加えさらに歩を進める。 シンジ:「それと・・・手出しは無用に願います。」 二人はそれにただ頷くことしかできなかった。 シンジは手に持っていた巨大刀をその場に突き立ててさらに前進する。 そう、まるで神龍皇に挑んだときのように。 直径二キロほどの円周状の草原。 ミサト達は南側に、男達は北側の外周部付近にそれぞれ集まっている。 そしてその場を押し包むように十万を超える魔獣たちが囲んでいる。 シンジはその草原の丁度中心部まで進み歩みを止める。 そして男達の方を睨み、言葉を投げかける。 シンジ:「貴様ら闇の使徒に尋ねる。カオスの町と言うのを覚えているか?」 シンジはその溢れ出る怒りを押さえつけて闇の使徒に言葉を紡ぐ。 この男達がその後どんな感情を持っていたかを知る為である。 溢れ出る怒りゆえに何時しか生まれた自分の中の凶暴な性格。 それが少しづつだが表に現れだしている。 バラル:「カオスの町?さ〜て、カイン知ってるか?」 そんな事は感じもせずバラルは後ろにいる剣士風の男に尋ねる。 カイン:「いや記憶に無いが、ゲイルはどうだ?」 今度は神官風の男が聞かれるが首を横に振る。 別の戦士風の男と魔術師風の男にも視線を向けるが無言で首を横に振るのみだった。 カイン:「と、言うことだがそれがどうかしたのか?」 シンジ:「その町は十年前貴様らによって滅ぼされた町の名前だ。聖魔の魂といえば思い出すか。」 その言葉に魔術師とゲイルと呼ばれた男が反応を示す。 ゲイル:「ああそう言えばあったな、そんな町が。なあガイス。」 ガイス:「ああ、俺達から見れば日常茶飯事な事だったからすっかり忘れていたぜ。」 そう言って男達は笑い出す。それが目の前の少年の怒りをさらに強大な物にしている事に気付かずに。 シンジはその笑い声にかまわず言葉を続ける。 シンジ:「では碇ゲンドウ、碇ユイという人物を覚えているか?」 バラル:「ああ、その二人なら覚えているぜ。馬鹿な奴らだよな。 人質なんて気にしなければ死ななかったものを。」 そう言って再び笑い出す男達。いや、戦士風の男だけは終始笑っていなかったが。 その笑い声はシンジの中の最後の理性を破壊した。 尊敬している両親を冒涜された怒りが追加された為だ。 シンジ:「魔剣サタン・・・聖剣ルシフェル・・・開放。」 男達の笑い声をかき消すように剣の封印がとかれる音があたりに響き渡る。 この二本の剣はその余りの強力さの為、シンジが本気で戦うとき以外は封印されている。 封印をかけなければならないほどの剣でないと、本気を出したシンジの力には耐えられないのだ。 シンジはゆっくりとした動作で剣を抜き構える。 それに対して男達はその顔に笑みをたたえたまま声を掛ける。はっきり言って馬鹿以下である。 バラル:「結局誰かの復讐か?おまえみたいなガキがよ。誰のだ?言ってみな。」 そう言って再び笑い始める男達。戦士だけがただ静かに臨戦体勢に入る。 それに対してシンジは静かに、だが今度はその溢れる殺気を込めて話す。 シンジ:「俺はカオスの町最後の生き残り。父は碇ゲンドウ、母は碇ユイ。 皆の敵を討つことを誓い今日まで生きてきた。貴様らの首、この碇シンジが取る。」 シンジはそういった直後、上段に構えた二本の剣を振り下ろす。 シンジ:「竜牙剣術二刀流・双連斬滅剣!」 気合の一閃と共に強力な二つの衝撃波が剣から放たれる。 衝撃波はそのまま大地を切り裂きながら闇の使徒へと向かっていく。 「「「「う、うわあ!!」」」」 間一髪の所で衝撃波を避ける闇の使徒のメンバー。 シンジもまだこのくらいで殺すつもりは無く、手加減をしている。 ゲイル:「お、おいバラル魔獣を使って何とかしろ。」 既に男達に先ほどまでの余裕は無い。が、まだ自分達の勝利は疑っていない。 魔獣がいるからと言う思いがあるためらしい。 バラル:「ああ、分かっている。やれ魔獣たちよ!!」 その声に呼応するように動き始める魔獣たち。 外周部にいたミサト達は攻撃に備えて構えを取る。 ミサト:「さってと、どこまで持つかしらね。」 加持:「さあな、微妙な所だろうな。」 リツコ:「率直に言ってしまえばかなり危ないわ。」 そうこうしているうちに魔獣との距離は詰まっていく。 アスカは一瞬だけシンジを振り返るとそのまま魔獣に対してかまえる。 (・・・シンジ) ミサト達に魔獣が襲いかかろうとした瞬間、シンジの呪文を唱える声が響き渡る。 【万能にして全ての魔法の根源たるマナよ、我が右手に風を巻き起こし、全てを切り裂き吹き飛ばせ】 ミサト達は反射的に地に伏せる。 【風属性魔術・疾風風刃波!!】 ミサト達の頭上を強力な突風が吹きぬけていく。 それを受けた魔獣は次々と切り刻まれ、崩れ落ちていく。 マナ:「なんだか、もう遠慮なしって感じね。」 ムサシ:「事実そうなんだろうがな。凄まじい殺気だぞ。」 トウジ:「なあケンスケ、シンジが勝つか魔獣が勝つか賭けんか?」 ヒカリ:「す〜ず〜は〜ら〜!何こんなときにいってんの!!」 ケンスケ:「やめておくよ、どうせ賭けにならないからな。」 マユミ:「その通りですね。賭けるだけ無駄です。」 カオル:「みんなシンジ君に賭けてしまうだろうからね。」 レイ:「そんなことより、早く魔獣に対しての行動を取らなくちゃ。」 アスカ:「レイの言う通りよ。さっさと構えなさい!!(シンジ・・・頑張ってね。)」 アスカの言葉に全員すぐに戦闘態勢を整える。 が、それはどうやら必要無くなりそうである。 シンジ:「魔獣の数が多すぎるな。一体何体いるんだ?。十万はくだらない様子だが。 キリが無い。あいつらに任せるか。」 精神的に高ぶっている所為か、凶暴性のある性格が表に出てきた所為か、 既に口調が完全に変わっている。 シンジは剣を持ったまま両手を左右に広げると眼を閉じ呪文を唱える。 それと同時に夥しい数の魔法陣が空間に現れる。 【この世に住まう全ての竜族よ、我は汝らに告げる。我が呼びかけに答えよ。 我、汝らの新たなる主、新たなる王なり。神龍皇より受け継ぎし力を持って汝らに命ずる。 我が前に集い来たりて我が敵を打つ力となれ】 その呪文の終了と同時にシンジの瞳が開く。 そして魔法陣がより強い光を放ち始める。 その中から現れる夥しい数の竜族。 神龍クラス 炎属性・赤眼竜 風属性・碧緑竜 闇属性・暗黒竜 雷属性・紫電竜 水属性・蒼海竜 土属性・黄金竜 光属性・白銀竜 この七体を筆頭として、極竜王クラス、極竜クラス、竜王クラス、竜クラスの全ての竜族が集まっていた。 下位のクラスには一つの属性に何種もの竜が存在する為、その数は百体を上回っている。 これほどの数の竜族が集まることなど決してありえない。その光景はまさに壮観である。 しかしシンジは更なる召喚を始める。 今度は召喚獣を呼び出すつもりらしい。 【我と契約せし他の次元に住まう異形なる者達よ。契約に元ずきて我が召喚に応じよ。 その姿を我が前に現し、我が命を聞き、我が意思に従い、我が力となれ】 呪文が終わると同時に、今度は数多の召喚獣が現れる。 ディアボロス・オーディン・イフリート・ケツァクアトル・シヴァ・タイタン・セイレーン・ガルーダ アレクサンダー・ケルベロス・ハーデス・ラムゥ・ユニコーン・ペガサス・キマイラ・グリフォン、 と上げればキリが無い。その数もまた百体を少し下回った程度だろう。 それぞれの代表格とも言える者、赤眼竜とオーディンがシンジの近くへと寄って来る。 まず赤眼竜がシンジに問い掛ける。 「我らが主よ、我らは何をなせばよい?我らに目的を与えよ。」 次にオーディンが問い掛ける。 「我らが契約主よ、契約に従い力を貸そう。さあ我らに命を下せ。」 それに対してシンジは事務的に命令を下す。普段のシンジの面影は完全に影を潜めている。 シンジ:「竜族は右舷の、召喚獣達は左舷の魔獣たちを薙ぎ払え。 言って置くがくれぐれも前面にいる男達に手を出すなよ。 あいつらは俺の獲物だからな。」 その言葉を聞いた赤眼竜とオーディンは、他の者達に内容を告げ、その命令を直ちに実行し始めた。 魔獣達にとってはまさに地獄以外の何者でもないだろう。 シンジはそれを見届けると、今度は両手の剣を地面に突き刺し、腕輪からチェロを取り出す。 それを見てミサトを始めとしたメンバーは首をかしげる。 その中で唯一アスカだけが何を始めようとしているのかが、何となくだが分かった。 (シンジは今度は何を?まさか精霊まで呼び出すつもり!?) そのまさかである。 シンジはチェロを静かに弾き始める。それと同時に精霊の召喚を始める。 【炎の精霊王エフリート、風の精霊王イルク、水の精霊王クラ―ケン、大地の精霊王ベヒモス、 氷の精霊王フェンリルよ。汝ら我が名に於いて命ずる。 我との盟約に応じ、我が前に現れ、我が願いを聞き届けよ】 呪文の終わりと共に五体の精霊王が現れる。 精霊王達は無言でシンジを見据え、その視線で問い掛ける。 シンジ:「精霊王達は後方の魔獣の討滅を頼む。竜族が何体か手を貸すはずだ。 それでも無理なのはわかっている。だからこそこれを準備してあるのだから。」 そう言ってシンジはチェロを精霊王達に示す。 それを見た精霊王達は納得したかのようにアスカ達の方へと進んでくる。 いや、正確にはアスカ達の方面にいる魔獣を滅ぼす為に。 それと同時にシンジのチェロのから重厚な音が響き渡る。 不思議なことにその曲は低音のわりにかなりの広範囲にわたって響いている。 それと共に精霊王達に変化が現れる。 それぞれの属性の力が柱のように精霊王達を覆っていく。 シンジ:「魔曲・精霊神の降臨」 どうやらシンジの奏でていた曲には魔力が込められていたらしい。 曲の終焉と共に、精霊王達を包んでいた力が霧散する。 その中から巨人や獣の姿から鎧を纏った戦士のような姿に変化した精霊王達が現れる。 『風の精霊王・イルク、クラスチェンジ、風の精霊神・ワールウィンド』 『炎の精霊王・エフリート、クラスチェンジ、炎の精霊神・フレイムバースト』 『大地の精霊王・魔獣ベヒモス、クラスチェンジ、大地の精霊神・ガイア』 『水の精霊王・クラ―ケン、クラスチェンジ、水の精霊神・ゴッドポセイドン』 『氷の精霊王・魔狼フェンリル、クラスチェンジ、氷の精霊神・アイスファング』 新たなる姿、精霊神となった彼らは、シンジの命令を実行し始めた。 アスカは先程まで曲に耳を傾けていたが、その曲を聞いて安堵した。 その曲の中に、今は影を潜めてしまったシンジの優しさを感じ取る事ができたからだ。 (やっぱりシンジはシンジなんだ。) 最もアスカ以外はそれに気付くことは無かったが。 とりあえず、前方以外の方面の魔獣に対する態勢が出来上がった。 シンジはそれを確認するとチェロを再び腕輪に収納し、地に突き立てた剣を抜き、男達を睨みつける。 シンジ:「さて、これで後方の憂いは無くなった。覚悟は出来ているだろうな。」 そう、シンジにとって今までの行動はあくまで邪魔を少なくする為。 彼の本気はここからなのである。 その言葉と、シンジから放たれる殺気に気圧される男達。 既に魔獣がいるからと言う余裕は半減している。 しかし、それでも自分達の方面にはまだ三万を超える魔獣がいる。 それがこいつらの普段の傲慢な性格を後押しする。 ゲイル:「お、おいバラル。早く魔獣を使って殺しちまえよ。」 バラル:「わ、わかっている!ラミエル、あいつを殺せ!!」 その声に応じ、魔獣が彼らの後ろから現れ、シンジの方に向かう。 シンジから百メートルほどの距離で停止した正八面体の形をした魔獣、ラミエルの周りに雷光が走る。 雷は収束し、シンジの方へと放たれる。それはシンジがサキエルに留めをさした天雷を思わせた。 それを見た男達は勝利を確信する。 それに対し、シンジは聖剣を側頭部から後方に、魔剣を右脇の下を通してやはり後方へ送る。 そのままの構えで膝を折り、しゃがんだと思うとそのままその雷光に向かって跳躍する。 雷光に飲み込まれるシンジ。 それを見た男達はシンジの行動を嘲笑う。 バラル:「馬鹿じゃないのか?自分から死にやがったぜ。」 ゲイル:「まあそもそも俺達に挑むこと自体おかしいんだよ。」 男達が優越感に浸っている間、戦士風の男だけが視線そむけず睨みつづける。 カイン:「どうしたゴウラ?怪訝そうな眼をしやがって。」 その言葉にゴウラと呼ばれた男は無言のまま顎で前を見るように促す。 他の男達もそれに気付き前方に視線を向ける。 「竜牙剣術二刀流・龍牙十字斬」 それと同時にラミエルの体に十字の光が走る。 そして光が通ったのと同じ場所から鮮血が噴出し、崩れ落ちるラミエル。 崩れ落ちたラミエルの先には傷一つついていないシンジの姿があった。 バラル:「ば、馬鹿な!?確かに光に飲み込まれたのに?」 その言葉に対し、シンジは冷たく言い放つ。 シンジ:「ただ雷光の中を闘気を纏って突き進んだだけだ。この程度では俺は傷一つ着かん。」 男達は暫く呆然とする。が、すぐに次の魔獣を差し向ける。 バラル:「サキエル、シャムシェル、ゼルエル!奴を殺せ!!」 今度は三体の魔獣を差し向けてくる。 三体はシンジに近づくとサキエルは両腕から光る槍を、シャムシェルは両腕の鞭を、 ゼルエルは板状の刃となる腕を使って攻撃してきた。 シンジは槍を避けた勢いそのままに鞭の攻撃の間を走り抜ける。 そしてゼルエルの刃を体をひねってかわしながら、そのまま体を回転させ螺旋状に突っ込む。 「竜牙剣術二刀流・回螺旋刃斬」 シンジは剣を自分の進行方向に突き出し、ゼルエルの体を螺旋状に貫く。 そして地面に着地した瞬間、そのまま魔剣を逆手に持ち替え両腕を広げ、回転する。 「竜牙剣術二刀流・回旋衝波斬」 シンジの回転と共に円形に刃が無数の刃が放たれる。 放たれた刃はシャムシェルとサキエルを幾重にも切り刻む。 それを見た男達は戦慄を覚え、恐怖する。 ガイス:「バ、バラル!どうするんだ!?」 バラル:「こうなったら仕方がねえ!魔獣共!!一斉に掛かれ〜!!」 その声と共に後にいた三万を超える魔獣がシンジに襲い掛からんと走り始める。 それに対して、シンジは冷笑を浮かべる。その顔には普段の温かみは一切無い。 シンジ:「笑止な。数に頼めば俺に勝てると思ったのか?愚かしいにも程があるな。 まあいい。すぐにその眼を覚ましてやる。」 シンジはそう言うとそのまま剣を構え、魔獣の群れに向って走り始める。 シンジ:「神龍皇と戦った後、この二本の剣と神竜王の力を使いこなす為に更なる修行を積み、 新たに生み出した最強の技を見せてやる。光栄に思うが言い!!」 そういったシンジの体は凄まじいまでの闘気に覆われる。 「竜牙剣術二刀流・最大最強究極奥義・龍牙無限斬!!」 次の瞬間、シンジの姿は掻き消える。 次にシンジが姿を現したのは魔獣の群れを突っ切った、六百メートルほど先だった。 シンジが通ったあとは光が一筋走ったようにしかミサト達には見えなかった。 シンジがミサト達の視界から掻き消えてから現れるまでに掛かった時間はほんの一瞬、瞬きほどの間。 魔獣達はそのままの体勢で動かず膠着している。 剣を振り下ろした体勢でひざをついていたシンジが立ち上がり、剣を振り上げ、体の側面に振り下ろす。 それと同時に全ての魔獣が鮮血を噴き出し、体をバラバラにして崩れ落ちていく。 どの魔獣も最低でも三つ以上の斬撃を受けていた。 シンジはそのまま振り返りもせずに男達を冷たく見据える。 シンジ:「さて、もうネタは尽きたのかな?ならば次は貴様らの番だ。」 その言葉に男達は目に見えてうろたえる。今だかってこれほどの恐怖を味わったことは無かった。 カイン:「お、おいバラル、なんとかしろ」 ゲイル:「そうだ、もう魔獣はいないのか。」 男達の頭の中には自分達が戦うと言う選択肢は無いらしい。無様である。 バラル:「こうなればこの手を使うしかないな。ロック!!」 その言葉に対し、男達の後ろから巨大な鳥が現れる。 鳥はそのまま翼をはためかせシンジの頭上を飛び去る。 シンジ:「?・・・何のつもりだ?」 「キャー―――!!」 シンジが奴らのとった手段に頭を悩ませていると、後方から悲鳴が聞こえてくる。 シンジ「!?アスカ!!」 悲鳴に振り返ったシンジが見た者は、ロックの足に捕らえられ空高く運ばれるアスカの姿だった。 どうやら精霊神の攻撃の間隙を縫って向かってきた魔獣に気を取られている隙につかまったらしい。 他のメンバーもただ呆気に取られ何も出来ない。 バラル:「どうだ!これで形勢逆転だ。弱い召喚獣では細かい指示を実行できるほどの知識は無いし、 それを実行できる竜や召喚獣、精霊では強力すぎる。あの女に危険が及ぶからな。 魔術や剣術でもそれは同じ事。もはや手は出せまい。 素直に俺たちに殺されるか、それとも女を見殺しにするか、二つに一つだ。」 バラルは勝利を確信し、その顔を醜く歪める。 シンジがアスカを見捨てるとは露ほども考えていない。 かっての碇ゲンドウや碇ユイと同じように素直に殺されるだろう。 もし見殺しにしては他の者達が黙っていない。 どちらにしてもこちらに有利のことが運ぶ。 バラルはそう考えていた。 しかし、次にシンジが放った台詞はその予想を超えていた。 シンジ:「それ以外に選択肢はあるさ。」 バラル:「なんだと?」 優越感に浸っていたバラルは怪訝な顔をする。 シンジ:「彼女を助けて貴様らを殺す。」 そう言ったかと思うとシンジはロックの飛び去った方向に向かって駆け出す。 ロックは東に向って飛んでいく。シンジは召喚獣と魔獣の間を駆け抜けて追いかける。 その間、シンジは自分の取った行動に疑問を抱いていた。 『なぜこんな行動を取った?敵が眼も前にいたのだ。アスカなど放って置けば良いではないか? なのになぜ俺は彼女を助けようとしている?もし助けるのであればなぜ早くあの力を使わない?』 それに対して普段のシンジが答えてくる。 『彼女が目の前から消えるのを恐れているんだよ。昔両親が殺されたとき、僕は何も出来なかった。 僕はあの時を重ねてみているんだ。そしてなぜだか知らないが彼女を助けたいと思う自分がいる。』 凶暴性のあるシンジが反論する。 『ならばなぜあの力を使わない。』 『あの姿を彼女に見られるのを恐れている自分がどこかに居るんだ。』 『恐れているだと?ならば助けなければ良い!彼女が目の前から消えるのを選ぶか、 嫌悪されるのを覚悟で助けるか、二つに一つだ。』 『彼女を助けると最初に言い切ったんだ。それが答えだよ。』 シンジの瞳から迷いが消え、覚悟の光が燈る。 シンジ:「龍翼・・・展開。」 シンジの言葉と共に彼の背中が盛り上がり、上着が破られ何かが飛び出す。 シンジはそのまま空中へと飛び上がる。 黒い影が高速で中を駆けて行く。 その影の額には、輝く何かが捕らえられた。 影は前方を飛ぶ巨鳥へと向っていく。 アスカ:「この、離しなさいってば!って・・・今離されても死んじゃうか。」 アスカは下に目を落とす。高度は地上約五十メートル。ここから落ちたらまず助からないだろう。 刀は手元に無い。ロックの足に掴まれた時、衝撃で取り落としてしまっていた。 アスカは自分がこれからどうなるかを考える。 自分で何とかできるような状態ではない。 自分の油断でこうなってしまったのだから仕方が無いとはいえ、諦めきれないのも事実。 アスカ:「やだな、結局私もここまでか。頑張ったのにな・・・」 アスカは静かに覚悟を決める。自分が助かる手段が無いのは明晰な自分の頭脳が教えてくれる。 いつもは自分のこの頭脳に感謝することが多いが、今回は少しだけ恨めしく思えた。 そんな事を考えていたとき、ロックが突然甲高く泣き叫ぶ。 アスカは何事かとロックを見上げる。 アスカは宙に放り出され、浮遊感を感じる。 このまま落下して自分は死ぬのだとどこか冷静に判断するアスカ。 しかし次の瞬間、アスカは何かにしっかりと抱きかかえられる。 アスカの目の前を、羽を散らしてロックが落下していく。 落下するロックを見届けた後、アスカは自分を抱きかかえているものを確認する。 アスカを後からしっかりと抱きかかえているのは人間の左腕。 しかし、下を見れば先程とほとんど高度は変わっていない。 つまり自分は宙に浮いていることになる。 アスカは首を曲げて、自分を抱きかかえているのが誰なのか確認する。 何となくだが予想がついていた。 (こんなことをできるのは多分・・・) 振り向いたアスカの目に入ったのは予想通りシンジだった。 しかし、シンジだと確認した次の瞬間アスカは眼を見張る。 そのシンジの姿が彼女の予想範疇を軽く超えていたためである。 シンジは右手にロックの血に染まった、柄で繋がり双身刀の状態になったルシフェルとサタンを持ち、 その背中には黒い龍の翼を生やしていた。 そしてその額は縦になった三つ目の瞳を輝いていた。 アスカはそのシンジの姿に、声を放つことが出来なかった。 To Be Next Story. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き ・・・・・書ききれなかった・・・。 蛇神の森偏は今回で書き終わらせて、次回新展開にするつもりだったのに。 シンジが暴走を始めたら勝手に暴れること暴れること。 おかげで収拾がつかず話が伸びる伸びる。 予定していた所まで書くと60KB超えてしまったので、削除して編集し直してもまだ長い。 結局ここで切る事にしました。<(T_T) 一様前回の予告で書いた部分までは書き上げましたので、御容赦を。 作:「さて今回のゲストは、皆さんお待ちかね?新世紀トップバッターは私だと豪語して引かなかった、 アスカです!!」 ア:「ちょっと作者!EVA系列の中で一番の人気を誇り、 ヒロインであるはずのアタシを呼ぶのにいつまでかかってんのよ!!」 作:「いや、そう言われましても一回目はマナが招待状盗んでくるし、年末はシンジと忙しいって。」 ア:「あ、あんた馬鹿〜!!」 ドカ!バキ!!グシャ!!!<スペシャルコンボ発動中 作:「グハ!!こ、殺される・・・」 ア:「ふう、まあこんな所で許してやるわ。それより最後のシンジはどうなってるのよ。」 作:「それは次回作で書きますので暫くお待ちください。」<もう復活してる奴 ア:「それと、この作品のラストはどうなってるのよ。」 作:「あ、それはもう決まってます。 何しろこの作品はラストシーンが決まってから書き始めましたから。」 ア:「教えなさいよ。」 作:「まだ未完成品でよければ。まだ途中が決まってないですけど。」 ア:「読み読み読み・・・。ボン!!」(真っ赤) 作:「まずこのシーンが覆ることはありませんよ。」 ア:「(ボ〜〜〜〜。)ハッ!!今すぐにこのシーンを書きなさい!!!」 作:「いや、だからまだ途中が・・・」 ア:「問答無用よ!!!」 作:「そんな無茶苦茶な。」 P,S 感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。 悪戯、冷やかしは御免こうむります。
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