闇の使徒のメンバーは死んだ。 その場に居る者達に驚愕の事実を残して。 そして男達を殺した少年に新たなる目的地と、他の者達の間に険悪なる雰囲気を残して。 少年の瞳には仇を見つけることの出来た狂喜とも取れる喜びを称える一方、 この姿を晒した事で一時的とわかってはいても触れることの出来た、 安らぎや温もりと別れを告げる事に対する失望とも取れる光があった。 しかし、このまま近くに居れば自分は再び傷つくことになる。今までと同じように。 シンジは今までの経験から確信に近い思いを持っていた。 人は都合の良い生き物である。 その恩恵にあやかっているうちはそれを優遇するが、 一度それが危険な物、理解出来ない物だと判断すると、容赦なくそれに対して攻撃する。 そして、シンジはその迫害を幾度と無く受けてきた。 その力、その姿ゆえに。 修行の最中、幾度となく魔獣から人を、街を、命を守ってきた。 しかし助かった人々はシンジの事を指をさして叫んだ。 化け物・・・怪物・・・魔獣・・・悪魔・・・と。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 八翼の堕天使 ー第壱拾話 二人の心ー ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― シンジ:「・・・さてと。」 シンジはバラルの体から突き刺さったままの髪の毛を抜き取ると、 氷牙を使って生み出した水の塊を頭から被り、全身の返り血を洗い流す。 その後赤翼で全身を乾かすと、髪の毛を元の長さに戻し、翼を体内に収納する。 そして腕輪から代わりの上着を出して羽織る。黒衣は纏っていただけなのでそのままである。 最後に第三眼を閉じると、ミサト達の方に振り返り、歩み寄る。 その様子をから見ると、既に普段の状態に戻っているようだ。 シンジが振り向き歩き出した時、一同はそれぞれに反応を示した。 ミサト、加持、リツコは自然構え、マヤはその後に隠れるように一歩下がる。 レイとカヲルも同様にかまえた。 トウジ、ケンスケ、ムサシはそれぞれヒカリ、マユミ、マナをかばうように一歩前に出る。 ただアスカだけが反応せずに、ただシンジの瞳を見つめていた。 寂しげな、孤独の光を宿した瞳を。 シンジはミサト達の反応を見て、一瞬寂しそうに笑うと、地に突き立てていた巨大刀を抜く。 そしてそれを肩に担ぐような体勢をとると、唐突に話し始める。 その言葉は感情を一切感じさせなかった。 シンジ:「僕はこれから第3新東京市に向います。ついて来るならどうぞ、お好きなように。」 シンジはそう言うとそのまま歩き始める。 それに対して、ミサト達は再びモーゼの十戒のように道をあける。 そう、先程の鬼気迫る表情のシンジに言葉を失い道をあけた時のように。 そんな中、アスカだけは道をあける事無く、シンジの正面から動かなかった。 それにあわせて自然シンジの足も止まる。 「「・・・・・・・・」」 そのまま無言で対峙する二人。 それを見て、レイとヒカリがアスカに声を掛けようとした時、アスカが思わぬ行動に出た。 アスカ:「ありがとう。」 そう、アスカが礼を述べながら頭を下げたのだ。 その行動にシンジを含めた全員が驚嘆する。 ミサト達が驚くのも無理は無い。 アスカが頭を下げ、しかも素直に礼を言ったことなど今まで無かった事なのだから。 確かにアスカは人に頭を下げたことなど無い。 それは彼女の生い立ちによるものである。 そもそもアスカがマリュウドになったのは自分を虐めた連中を見返すためだった。 そのため、アスカは全てに徹底し、完璧を目指した。 ミサトに弟子入りしたのも、ミサトが大陸有数の侍だったからである。 しかし、ミサトによる指導の時でもアスカは頭を下げたことは無い。 それはミサトの私生活に起因していた。 ミサトはその正確の為か、かなりずぼらな生活をしている。 それが完璧主義とも言えるアスカには耐えられなかった。 しかし他にも理由はある。 男性不信に陥る前、アスカは一時的にだが同姓にも不信感を抱いた時期がある。 それはヒカリの、そしてレイの存在によって今では面影すらないが。 しかし確かにそういった期間があったことは事実である。 そしてそれが彼女の人に対する接し方に大きく影響していた。 ヒカリやレイはそのことに気付いていないが。 アスカは例え自分より目上だろうと、尊敬に値しない限り敬語は使わない。 現在の所、アスカが敬語を使うのはネルフ司令の冬月だけである。 しかしそれも尊敬をしていると言うより、使わざるおえない人物だからである。 事実、アスカは冬月に頭を下げたことは無い。 そうすると加持が例外のように見えるが事実はそうではない。 加持に対しての行動は馴れ馴れしくしたくないと言う考えからであって尊敬している訳ではない。 アスカはどこかで自分は一人で生きていける選ばれた者なのだと考えていた。 いや、そう考えることで自分を支えてきたのだ。 ヒカリやレイには心を開いているが尊敬をするほどではない。 ましてや同年代である。敬語を使うという事自体アスカの頭には無かった。 レイに対して臆面も無く接しられたのは、自分自身を重ね見た所為かもしれない。 そんなアスカの前に、自分など問題にならないくらい修羅場をくぐり、 心に傷を負い、強く生き、畏敬の念を払う人物が現れた。 それがシンジである。 アスカは自分が素直でないのは自覚している。 しかしシンジの前だと不思議と自分に素直になれる。 普段張り詰めている気持ちが余裕を持ち、楽になれる事に気がついた。 そして今回のことではっきりしたアスカ自身の気持ち。 アスカはシンジになら有りのままの自分で接しられると感じていた。 だから自然に頭を下げ、礼の言葉を述べることが出来た。 そんな経緯を知らないメンバーが驚くのは無理もないが、何故シンジまで驚いているのか? シンジ:「え、あの、その・・・」 シンジの場合は単純に礼をいわれたこと、つまり行動に驚いていた。いや、むしろ困惑していた。 なぜならシンジは『あの日』以来人に感謝されたことなど無かったから。 彼は常に忌み嫌われてきたから・・・。 シンジはこれまでに多くの街を魔獣や盗賊から救ってきた。 例えその行動が仇を探す際の副作用的なものだったにしても。 それでもシンジによって救われた者たちは決して少なくは無かった。 しかし助けられたものたちは皆シンジを恐れた。 その圧倒的な力と、その異形に。 神龍皇に勝った当初のシンジは、まだ力を使いこなせず、翼を開放して戦うことが多かった。 そして、その翼を見た者達は、皆彼を恐怖の眼差しで見た。 だがそれなら神龍皇に勝った後だけで、それ以前は平気だった筈だが、実際はそうではない。 シンジは天賦に恵まれすぎた。 そのため人を救う時も、その外見の年齢と見合わないほどの攻撃を繰り出していた。 それに対して、周囲の人間は彼を危険視した。 そう、シンジの驚異的な才能を妬み、恐れたのだ。 そしてシンジはさまざまな迫害を受けた。 自分の助けた者達によって。 だがシンジはそれでも人を救い続けた。 彼の優しさが、危険な眼にあっている人達を放って置けなかったのだ。 しかし人々の反応は酷くなることは有っても変わることはなかった。 だからシンジは修行の為に人との交流を断ち、接触を避けるようになった。 自分がこれ以上傷つくのを恐れた為、何より他の人々を傷つけたくなくて。 彼は、優しすぎたのだ。 そうやって疲れきった精神は、ネルフで出会ったミサト達の対応に喜びを覚えていた。 自分の圧倒的な力を見ても自然に対応してくれたことに。 しかし、さすがにこの異形を見たのであればこの反応も仕方が無い。 そう諦めていた所で、初めて頭を下げられ、しかも礼まで言われたのである。 シンジの驚きや戸惑いは必然の物だった。 そんなシンジの心境などお構い無く、アスカはそのまま言葉を紡ぐ。 自分の気持ちに、自分の心に、正直に。 アスカ:「二度も助けてくれてありがとう。守ってくれて本当にありがとう。」 シンジ:「い、いや、あれは・・・」 シンジはそのときに起きた心の葛藤を思い出し、礼を言われる理由など無いと言おうとする。 が、アスカはシンジの言葉を遮り言葉を続ける。 アスカ:「理由や経緯なんてどうでも良い。結果的にあなたは私を救ってくれた。 それで十分のはずよ。」 シンジはその言葉に衝撃を受けていた。そして嬉しかった。 自分に対してそんな言葉を言ってくれる人がいるとは思わなかったから。 この思いをシンジはどう告げて良いかわからなかった。 だからシンジは行動で表した。 アスカに向って、深く頭を下げたのである。 「!?」 一瞬アスカは戸惑いの表情を見せたがすぐに冷静になり、シンジに対して優しく微笑んだ。 シンジの思いを察したらしい。 そして口調を普段の状態に戻す。 アスカ:「そんな事より、あんた第三に戻るんでしょ。さっさと行きましょ!」 アスカの言葉にシンジは弾かれたように顔を上げる。 自分と共に戻ると言うとは予想もしていなかったから。 そんなシンジにさも当然のようにアスカは声をかける。 アスカ:「何驚いてんのよ。あそこは私の育った街よ。その街のピンチに戻るのは当然でしょ! それに、あんたのその強さが有ればすぐに追い払えるもの。一緒に行く方が早いし。 その強さはむしろ理想ともいえるわ。自信持ちなさいよ。」 普段のアスカの調子が戻り始め、呆気に取られていたメンバーも冷静になり始めた。 そしてシンジも、自分のことをそこまで行ってくれるアスカに驚くと共に感謝した。 そしてアスカの言葉に答えた。 シンジ:「僕は好きなようにすれば良いと言った。 だから君がついて来ることに異議を唱えるつもりは無いよ。」 シンジは軽く微笑むとまた歩き始めた。 その顔にはかげりは無くなりつつあった。 アスカ:「言われなくてもそのつもりよ。ミサトなんかはどうすんのよ?」 アスカはシンジの背中にそう言い放つと、ミサト達に向かって問いかける。 ミサト:「どうするって聞かれても・・・」 リツコ:「そんな急には。」 加持:「彼のことを考えればなぁ・・・」 そんな反応を示したメンバーにアスカは反論する。 アスカ:「そんなことは問題じゃないでしょ! 第一シンジの力がすごいのは重々承知の上でしょうが!! それとも姿なんかが違うのがそんなに重要なわけ? シンジは理由はどうであれ、私達の街を救いに行くのよ。 それを黙って見てるっての?ふざけんじゃないわよ!!」 そんなアスカの様子を見て、レイは疑問をぶつける。 レイ:「アスカは碇君が怖くないの?」 アスカ:「何でシンジのことが怖いのよ?むしろ頼もしいじゃない? 何より、あんた自分の受けたこと思い出してみなさいよ。」 アスカの言葉にレイは愕然とする。 そう、今自分のしている行為はかつて自分が受けた行為と同じである。 そしてアスカはそんな態度を自分にしなかった。 少し考えればすぐにわかった事の筈である。 レイはそのまま何も言えなくなり俯いてしまう。 アスカはそんなレイを見て自分の意志を告げる。 アスカ:「そんなに自分を責めなくてもいいよ、レイ。 シンジじゃないけど、ミサト達は好きなようにすれば良いわ。 アタシはシンジと一緒に行く。」 そんなアスカの言葉に、レイは顔を上げて意思を伝える。 レイ:「私も行くわ。あの街は私の故郷なのだから・・・」 レイの言葉は自分を迎えてくれた街を守りたいという意志から放たれた言葉だった。 アスカはそれにただ頷くだけだった。 そしてレイの言葉に同調するように他のメンバーも立ち上がった。 その瞳に迷いの光はもう無かった。 それに対しアスカは少しだけ不満だった。自分たちの意志で行動するのは良い。 しかしその行動はアスカやレイの意志に便乗しただけにも取れる。 そう、まだシンジに対する不安を拭い去れていないのだ。 しかし今はそんな事を言っているときではない。 アスカは不満を残しながらも、シンジの後を追って走り始めた。 シンジに追いついたとき、アスカはシンジに声をかけた。 その声に反応して振り返ったシンジは他のメンバーも着ていたことに驚きを見せていた。 が、その表情はすぐに寂しそうな笑顔に変わった。 シンジも気付いたのだ。彼らはアスカを信じてきたのであって、自分にはまだ警戒しているのだと。 しかしそれを当然の事だと思ったシンジは何も言わずに、再び歩き始めた。 数時間後、メンバーの姿は再び黄金竜の背にあった。 しかしそこにシンジの姿は無い。シンジは黄金竜の頭の上で遥か前方に眼を向けていた。 アスカは暫くそんなシンジの背中を見ていたが、 何を思ったのか立ち上がるとシンジの方に向って歩いていった。 走行中の黄金竜の背中の上である。 それなりに振動はあるのだが、そんな事を感じさせずにアスカは警戒に歩き黄金竜の首を登って行く。 ヒカリ:「アスカ!」 それを見たヒカリが止める為に声をかけようとしたが、肩に置かれたレイの手によって遮られた。 ヒカリ:「レイ!?何故止めるの?」 レイを振り返って抗議の声を上げるヒカリ。 振り返ったヒカリにレイは首を横に振った後答える。 レイ:「ヒカリは何故アスカを止めようとするの?」 その言葉に対して、ヒカリは信じられないとばかりに抗議する。 ヒカリ:「決まってるじゃない。危険だからよ!」 レイ:「何が危険なの?このくらいに振動は私達にとってないのと同じの筈よ。」 ヒカリ:「振動じゃないわよ、碇君よ!!」 レイ:「何故碇君が危険だと思うの?」 ヒカリ:「決まってるわ。あの翼を見たでしょ。彼は人間じゃないのよ!?」 レイ:「外見で決めるの?」 ヒカリ:「そうよ!」 何を当然のことを、とばかりに反論するヒカリ。 しかし次の瞬間には彼女は色を失っていた。 レイ:「じゃあ、私も人間じゃないわ。」 その言葉と共に、今まで無言だったカヲルも同調する。 カヲル:「僕もそうだね。」 二人の言葉に、メンバーは声を失う。 ヒカリに至っては泣き出しそうである。 そんな中、レイが沈黙を破る。 レイ:「私も最初はそう思ったわ。でもアスカの言葉で気付いたの。 確かに彼は人間離れしているかもしれない。でもそれは彼の決意の現れ。 今ならわかるわ。碇君は私と同じ様に生きてきた。 いえ私なんて比べ物にならないくらい人の影の部分を見てきたと思う。 それでもあれほどに強く生きていられる。尊敬こそしても恐れる理由は無いわ。」 そんなレイの言葉に続いてカヲルも意見を述べる。 カヲル:「どんなに傷ついても、彼は僕たちに怒りをぶつけなかった。彼はやさしすぎるんだね。 彼の心はガラスのように繊細なんだ。でもそれを表には出さない。 まったく、好意に値するよ。惣流さんはそんな彼の心の傷に気付いたんだね。」 レイ:「ここにいるのは確かに最初はアスカに触発されたからかもしれない。 でも今は違うわ。今は自分の意志でここにいる。」 二人の言葉と共に、メンバーは自分の中にあるわだかまりが解けていくのを感じていた。 そのころ、アスカはシンジの隣に腰を降ろしていた。 シンジはそれに対して何の反応も示さない。 アスカは前から聞きたかったことをシンジに問い掛けた。 アスカ:「シンジ。シンジは何故、ううん。何を求めて戦うの?やっぱり仇討ち?」 シンジは一瞬その問い掛けに戸惑ったが、自分の胸の内を素直にさらけ出した。 誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。 シンジ:「・・・死に場所。」 アスカは予想もしていなかった言葉に目を見開く。 そんなアスカの反応に気付かず、シンジは言葉を続ける。 シンジ:「そう。僕は死に場所を、意味のある死に場所を捜し求めている。 父さんや母さんが死んだあの日から、僕の時間は錆付き止まっている。 僕はあの時何も出来なかった。そんな自分が許せなかった。 本当はあの時死ぬべきだったのではないかとよく考える。 でもただ死ぬのでは駄目だ。だから敵を討ちたい。せめて皆の無念を晴らしたい。 そう思って僕は罪悪感から逃げているんだ。 だから敵を探し、倒そうとしながら、僕は死ぬ時を待っているのかもしれない。」 シンジの言葉にアスカは何もいうことが出来ず、そのまま黙ってしまった。 そして無言の時が流れる。 黄金竜は第3新東京に向って走りつづける。 それぞれの心に、さまざまな思いを馳せた者達を乗せて。 To Be Next Story. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き だーーーーー!!第壱拾話ようやく書きあがりました!! でも・・・書きあがったのは良いんですが、 自分でもなにを書きたいのか正直わからなくなってしまいました。 二人の心の傷、二人の似ている部分と違う部分、そういった物を書きたくて書いた作品です。<の筈 それが少しでも伝わったなら幸いです。 しかし・・・今回は自分の未熟さを思い知らされた感じです。反省点ばかりですね。 前回は自分の好きなように書けて満足していた分ダメージが大きいです。 しかし、そんな作品を投稿して良いんだろうか? でも最後のレイとカヲルの台詞にだけは満足してます。 これが無かったら救い様が無かったかも。 気に食わない、ここの辺りが良くわからないなど、叱咤の感想。 有りましたらいくらでもどうぞ。以後に役立てたいと思います。 宜しくご指導ください。 ト「おら作者!!ワイの出番が少ないやんけ!!」 作「頭を痛めて反省している時によりにもよってこんなのが・・・ああ、頭痛が。」 ト「そんなことよりワイをもっと活躍させえ!!」 作「その事は重々反省してますが、自分にはこれ以上無理です。現状維持で精一杯。」 ト「なんやとこら!!」 作「ああもぉ、うるさいですね!元々LASで目立とうって方が無理なんですよ!!」 ト「な、何逆切れしてんねん・・・」<引き 作「やかましい!次の作品にこれから取り掛かるんだから黙ってろ!!」<ぶち切れ ト「そ、そうか。まあ頑張れや。(ごっつ怖いで)」 P,S 感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。 悪戯、冷やかしは御免こうむります。
感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構 ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。 |