この世に、これ以上の恐怖があるのだろうか?

黒き髪と瞳を持つ鬼神と、漆黒の獣王。
二つの黒い疾風が男達に恐怖と死を運んでいく。

「ヒィィィ―――!!これ以上戦えるか!」

「馬鹿!敵前逃亡は裏切りと同じだぞ。総統に殺されてもいいのか!?」

「今戦っても同じだ!逃げる分だけ生きられるならそっちの方が良い!!」

一人の男はその恐怖に押されて逃げ始める。
それを別の男は叱咤するが、その程度でこの恐怖に打ち勝てはしない。
男はそのまま無我夢中で走り始める。

「お、俺も逃げよ。」

それが切っ掛けだった。
一人が逃げ出した事により、その行動が全員に伝わり始めたのだ。
男達の中から一人、また一人と逃げ始める者が現れる。

しかし、その行動を許さぬ者がいた。
その者は逃げようとする男達を決して許すつもりは無い。
憎悪と狂気、そして復讐の炎に彩られた黒き瞳を輝かせ、黒い鬼神は駆け抜ける。

シンジ:「一人たりとて・・・逃がしはしない。貴様らの罪・・・死して償え。」

逃げんとする者達はその鬼神の攻撃を避けるすべなく、背後からの一撃で絶命する。

そこで二つの黒い影に初めて違いが現れた。

黒い魔獣は抵抗する者だけを。
黒い鬼神は逃げる者、抵抗する者関係なく容赦せずに切り倒す。

その違いはただ一つ。
その者達を憎んでいるか否か。

男達は死出の旅路で後悔するのだろう。
史上最強の鬼神の怒りに触れた事に。

数十分後、鬼神はその手に持つ剣と背に生えし翼から。
獣王はその牙と爪から血を滴らせていた。

二つの影は、その場に動く者がいない事を確認すると再び歩み始める。
そして黒い嵐の通り抜けた後には小型の魔獣の死体が百体ほど。
黒き逆十字の刺青をした死体が、二百体近く横たわっていた。

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八翼の堕天使
ー第壱拾陸話 総統と五神衆ー
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ミサト達は目的の場所、司令制御室の入り口近くまで来ていた。

カヲル:「ミサトさん。前から走ってくるのってリツコさん達じゃないですか?」

カヲルの言葉に、ミサトは前方に注意を向ける。
確かに前方に金色の髪を持つ、自分の親友が確認できた。
他にも自分の婚約者である剣士や、親友の愛弟子。
そして自分にとって教え子でもあり、共に戦う戦友たる者達もいた。

ミサト:「リツコ。無事だったみたいね。」

リツコ:「当たり前でしょ。そっちこそ無事みたいで何よりだわ。」

加持:「ああ、まったくだ。全員無事にまた集まれたんだからな。」

マヤ:「ええ。その通りですね。」

そういって四人は笑みを交わす。
他のメンバーもそれぞれの無事を確認しあう。

トウジ:「ムサシ。そっちの様子はどうやった?」

ケンスケ:「俺達四人の中でおまえだけ一人だったから心配したぞ。」

ムサシ:「何、加持さんとリツコさんが一緒だったから平気だったぜ。色々と凄い物も見れたしな。」

カヲル:「それはなんなんだい?ムサシ君。」

ムサシ:「その内わかるさ。それよりカヲルはあっちの姫さんの所に行かなくて良いのか?」

ムサシはそう言ってレイの方を親指で指す。
それに対してカヲルは平然とした表情で答える。

カヲル:「向こうは向こうで話しているから、今は良いよ。無事なら問題は無いしね。」

そう言ってカヲルはレイ達のほうに優しげな視線を送る。
何だかんだ言ってもやはり心配だったのか、今の表情には安堵の色が見て取れた。

トウジ:「今は・・・、のぉ。」

ケンスケ:「意味深だな。」

カヲルの言葉に妙な反応を示す二人。
それに対して、ムサシは呆れたように言う。

ムサシ:「おまえら、人の事言えるのか?」

これは二人がまだヒカリやマユミとつきあう前のことを指している。

ムサシはマナと幼馴染が発展してなった恋人だから経験は無いが、
二人は付き合うまでに結構苦労している。
お互いの気持ちは周囲から見ればバレバレであったが。

その事を思い出し、何も言えずに顔を赤くして俯いた二人を、
意識をこちらに戻したカヲルとムサシが呆れ果てて眺めた。

さて、もう一方の集団は・・・?

マナ:「ヒカリ、マユミ。大丈夫だった?」

ヒカリ:「ええ、見ての通り無事よ。」

マユミ:「マナさん達の方こそ大丈夫でしたか?」

マナ:「え!?も、もちろん大丈夫よ。ねえ、レイ。」

レイ:「ええ。私もアスカも無傷。何の支障も無いわ。」

レイはともかく、マナの反応は何かあったと言っているような物である。
ヒカリもマユミも当然の如くマナの反応に不信を抱く。
そこにアスカが明るく話をかけてくる。

アスカ:「二人共無事みたいね。マユミは迷惑かけてなかった?」

マユミ:「アスカさん。それは無いですよ。」

ヒカリ:「大丈夫よ。しっかりと戦ってくれたから。」

そう言って五人は笑顔を見せる。
レイとマナはアスカの様子を見て気持ちが軽くなったのを感じた。

アスカにしてみれば別に気を使ってもらう必要を感じていないのだが、
周囲からはそうは見えないらしい。

適度に緊張が解けたとき、加持は真剣な面持ちで皆に声を駆ける。

加持:「さあ、まだ終わった訳じゃない。緩んだ気持ちを引き締めるんだ。」

加持の言葉に反応して、その場の空気が一転して緊張した物になる。

メンバーは司令制御室の入り口の前で突入の陣形をとる。
扉は蹴破る事にしたため、正面にミサトと加持。
そのすぐ後ろにはいつでも魔術を放てるようにリツコが。
その左右にレイとカヲルが備える。

蹴破った直後に魔術が飛来する事を想定し、扉のすぐ横にトウジとムサシが備える。
魔術が来た場合にミサトと加持を扉から引き離す為だ。

ヒカリとマヤは回復に専念する為、少し離れたところにいる。
マユミはトウジの隣ですぐに内部の状況を知る為に控えている。
そしてケンスケはマユミを守る為にマユミの隣にいる。
マナは援護の為にムサシのすぐ隣にいる。

そしてアスカは、リツコが魔術を相殺した直後に切り込めるようにリツコから更に後方に控える。
魔術が相殺しきれなかった場合、それを避ける事も考えてのことだ。

ミサト:「じゃ、行くわよ。」

ミサトは加持の目を見て静かに突入の合図をする。
加持はそれに黙って頷く。
他のメンバーもその様子を固唾を飲んで見つめる。

ミサト:「3・2・1・ゴー!!」

ミサトと共に加持が同時に壁を蹴破る。
鉄でできた扉が鈍い音を上げて倒れる。

瞬間的に加持とミサトは扉から横に離れて壁に背をつける。
リツコやカヲル、レイは魔術がこない事を確認して構えを解く。
マユミはすぐに風の精霊・シルフを放って中の様子を調べる。

ケンスケ:「中の様子はどう?マユミちゃん。」

目を閉じて集中しているマユミに、ケンスケは遠慮がちに尋ねる。
それに対して、マユミは集中を解き、ゆっくりと目を開ける。

マユミ:「中には誰もいません。・・・気になる事はありますけど。」

マナ:「気になること?」

マユミ:「司令の席が無いんです。たぶん司令室の方に行ってるんだと思いますけど。」

リツコ:「確かに。あれは司令室とを直結で移動する事ができるわ。
     と言う事は司令はそちらにいると言う事ね。」

加持:「ミサト。これからどうする?この場で命令する立場にいるのはおまえだ。」

その言葉にミサトは少しの間考え込むが、すぐに答える。

ミサト:「とりあえずここを確保しましょう。ここさえ押えて置けばネルフ内部の事は大抵わかるわ。
     それは司令室も例外ではない筈よ。」

加持:「じゃあ決定だ。とりあえず乗り込むぞ!」

加持の言葉に全員が雪崩れ込む。
誰も居ないと聞いていても決して警戒を怠っていない。

部屋に入り込むと同時に示し合わせたかのようにそこから散開する。
纏まっている所を攻撃されないようにする為である。

全員散開して自分の周囲に注意を向けるが、マユミの言っていたようにその部屋には誰もいない。

トウジ:「なんや、張り合いの悪い。ほんまに誰もおらんやないか。」

ヒカリ:「トウジ!!あなたなんてこと言うの!危険が無いに越した事は無いでしょうが!!」

トウジ:「か、堪忍してや。ヒカリ。」

そんな夫婦漫才をはじめる二人を無視して、他のメンバーはそれぞれに行動を開始する。
と言ってもこの場はリツコとマヤの独壇場。
二人は手近の装置の前に座ると鮮やかな手捌きでネルフの内部の情報を集める。

ミサト:「どう?何かわかった事ある?」

リツコ:「今の所はなんとも言えないわ。ただあなた達が解放した人質は全員無事みたいね。」

その言葉を聞いてミサトは内心ホッとした。
彼らを解放した後、他の闇の使徒に教われていないかと内心不安だったのだ。

しかしそれは杞憂に過ぎない。
なぜなら闇の使徒はそれ所ではなくなってしまったのだから。
一人の少年の突入によって。
無論の事だがこのメンバーがその事実を知るわけも無いが。

リツコとマヤが作業をしている間に、
他のメンバーはここに来るまでに負った傷などの治療等をして待機していた。

そんな最中に、マヤが突然声を上げる。

マヤ:「先輩!司令室から直結移動席がこちらに向かってきます。」

リツコ:「乗っている人間の特定は!?」

マヤ:「駄目です。妨害されていてわかりません。」

ミサト:「全員戦闘準備。散開して様子を見るわよ。」

ミサトの言葉に、メンバーはその場を離れ、気配を消して物陰に身を潜める。

それから幾らも時間の経たない内に、天井部のゲートが開き、直結移動席が降下してきた。
その上には一人の男が椅子に座り、その後には十字架に縛り付けられ気絶している冬月がいる。
そしてそれを囲むようにフードを被った幹部と思われる者達が五人立っていた。

移動席が所定の場所に降り立ち、その動きを止めた後、数瞬の沈黙が辺りを支配する。
その沈黙の中で、席に座っていた男がおもむろに立ち上がり、声を放つ。

「そこにいるのだろう?隠れていないで出てきたらどうだ?」

その言葉を聞き、ミサト達は一様の反応を示す。
しかしそれでもメンバーは身動き一つせずに気配を消しつづける。

その様子を見て、男は小さく溜息をつくと、再び声を放つ。
今度はその声に多少の殺気を込めて。

オシリス:「こちらがおまえらの存在に気づいていないと思っているのか!?
      出てこないとこの男の首を撥ねるぞ!!」

男の言葉に応じるように、周りを囲んでいた男の一人が刀を抜いて冬月の首元に当てる。
その行動に、ミサト、加持、リツコは軽く目をあわせると物陰から姿を見せた。
その行動にあわせてアスカ達も物陰から出てくる。

それを見届けると、男は満足そうな笑みを浮かべて再び話し始める。

オシリス:「自己紹介しておこう。俺の名はオシリス。闇の使徒の総統だ。」

オシリスと名乗った男が不敵な笑みを浮かべると、男の持つ紫色の瞳が不気味に輝いて見せる。
この紫色の瞳・・・。これがこの男の命運を分ける事を、まだ誰も知る由も無い。

ミサト:「あなたが闇の使徒の・・・。ネルフを占拠してどうするつもり!?」

ミサトの問いに、オシリスは鼻で笑って答える。

オシリス:「何を聞くかと思えばそんな事か?聞くまでも無かろう。
      ここを制圧すれば俺達の情報を集めようとする行動もできなくなる。
      今よりも仕事がしやすくなると言う事だ。最も、それだけでこんな事はしないがね。」

リツコ:「どう言う事?」

オシリス:「貴様等が知る必要は無い。何より、これから死に行く者には無意味だろう。」

オシリスの言い方に疑問を持ったリツコが聞き返すが、オシリスは取り合おうともしない。
質問を軽く跳ね除けるとそのまま右手を上に挙げる。
それにあわせて冬月に刃を向けていた男を含めた五人が席を飛び降り、
ミサト達の前に降り立つ。

オシリス:「その者達は我が闇の使徒の中でも抜きん出た存在。闇の使徒の幹部である五神衆。
      ここで一つ賭けをしよう。もしその男達に勝てたならこの男を離してやる。」

オシリスはそう言って十字架に縛られた冬月を指差す。
それに対してミサト達は忌々しげに言い返す。

ミサト:「選択の余地が無いじゃない。」

リツコ:「どちらにしてもこの男達を倒さないと駄目みたいね。」

加持:「しかし、こちらは十三人。対してそちらは五人。随分甘く見てくれた物だ。」

加持の言葉にはミサト、リツコ、そして自分の三人が、
大陸有数のマリュウドだと人に呼ばせるだけの実力を持っていることが起因している。
そして自分達と共に戦ってきて決して遅れを取る事の無かった、
子供達の実力の事も考慮しての台詞である。
その実績のある自分達の実力を甘く見られたと言う思いが強く現れていた。

しかしオシリスはその言葉を聞いて苦笑いを浮かべながら言い放つ。

オシリス:「別に甘く見てなどいない。むしろ逆で過大評価している。
      実際おまえ達の行動は見事だった。だからこそ五人を同時に貴様らに差し向けるのだ。
      本当であれば二人もいれば十分なのだがな。」

そこまで言うと、オシリスは高笑いをあげる。
それは自分達の敗北を少しも疑わない、絶対の自信故の物だった。

その高笑いの響く中、五人の中の一人が猛スピードでミサトに突っ込んで行く。
そしてミサトの寸前で居合抜きの形でミサトに向って切りつける。

反射的にミサトもまた居合抜きの形でそれを迎え撃ち、受け止める。

金属のぶつかり合う音が室内に響き渡った後、男は刀を引きながら後方に飛び下がる。
その時、男を覆っていた外套が取れ、男の姿があらわになる。
不思議な事に、男はその腰に四本の刀を指していた。

フォルケン:「葛城ミサト、加持リョウジ。ご高名は承っている。前から一度戦ってみたかった。
       我が名はフォルケン。いざ参る。」

フォルケンと名乗った侍はもう一本の刀を抜くと、ミサトと加持に同時に切りつける。
それを避けるように、加持とミサトは後方に飛び退き、集団から離れる。
これでミサトと加持の対戦相手は決まった。

メンバーの注意が一瞬ミサトや加持の方に向いた時、その間隙を縫って攻撃の呪文が飛来した。
それにいち早く反応したのはリツコである。

リツコは反射的に魔力を解放して防御結界を作り出して攻撃を受け止める。
相手の放った攻撃はかなりの高位呪文である。
その呪文を何の予備動作も無い防御呪文で受け止めている辺り、リツコの魔力の強さを窺わせている。

しかし徐々にであるがリツコは押されだしている。
結界にはひびが入り、少しずつその範囲が広がっている。

相手の魔術師はその顔を歪めて笑みを作り、自分の勝利を確信している様子だった。
しかし当のリツコは普段のその表情を崩す事はない。
いや、むしろ相手の魔術師を嘲笑っているようにも見える。
絶望的とも言えるこの状況下でである。

そして今にも結界が壊れんとした時、呪文同士の拮抗している部分に下から巨大な氷壁が現れ、
双方の呪文を掻き消す。
更に結界が崩れた瞬間にリツコの後方から雷が放たれ相手に向っていく。

雷は相手の残りの男達の密集している中心に向っていく。
しかし男達は慌てる事もなく、冷静にその呪文の特製を見分けて攻撃範囲外に飛び退く。
今までの雑魚とは明らかに違うレベルの行動である。

リツコ:「二人ともいいタイミングよ。贅沢を言えばもう少し早い方が良かったかしら。」

レイ:「すいませんリツコさん。両方の呪文を掻き消す威力の呪文を作るのに手間取ってしまって。
    私の所為です。」

カヲル:「そんなに気にする事は無いよ、レイ。リツコさんも贅沢を言えばと言っていただろう。
     タイミング的には問題が無かったと言う事なんだから。」

そう言ってレイをフォローするカヲルに対して、リツコは優しく微笑む。
それを見てレイも安心したのか胸をなでおろした。

先程のリツコの余裕はこのためである。
リツコは弟子であるこの二人に絶対の信頼を持っている。
二人の潜在能力は自分よりも強い事、そして信頼にたる状況判断能力を持っているためである。
そしてリツコの信頼が間違っていない事は先程の攻防でも明らかである。

リツコ:「二人とも、気を引き締めなさい。相手もかなりの魔術師よ。」

リツコは自分に向って魔術を放ってきた相手に対して注意を向ける。
それに反応してレイとカヲルも緊張した雰囲気を帯びる。

この時点でアスカ達や相手の残りの男達もこの対立の場から離れている。
魔術師同士の戦いは剣士や侍のように動き回る事こそ無いが、
扱う物によっては周囲が吹き飛びかねない為である。

相手の魔術師は外套を取り払いその姿を見せる。
その姿を見たとき、レイとカヲルは思わず絶句する。

レイ:「!?」

カヲル:「・・・女性?」

相手は驚く事に女だったのだ。
闇の使徒の幹部クラスが女だとは二人とも思っていなかったらしい。
しかしリツコは別段驚いた様子を見せない。
そんな三人の様子を見て女は薄笑いを浮かべながら離す。

カーディ:「何を驚く事があるの?本来女性の方が魔力が強いのは当然のこと。
      だからこそ女性の魔術師が多いのではなくて?私の名はカーディ。
      最強の魔術しだなんていい気にならないでね?私は裏世界最強の魔術師よ!!」

どうやら女がリツコを攻撃したのは自分の力の誇示の為、
そして最強の魔術師と呼ばれだしている、リツコに対する醜い嫉妬の為のようである。

それに対して、リツコは冷徹な笑みを浮かべて言い放つ。

リツコ:「あなたは力比べのつもりみたいだけど、私はそんなつもりは無いわ。
     あなたを倒す事が目的なのだから確実に倒せる方法を取らせてもらう。」

そう言ってリツコはレイとカヲルに合図をする。
三人がかりで倒すつもりなのである。
通常で考えれば卑怯と言う事になるが、本来魔術師は結果を全てとする考え方をする。
賢者もかねているリツコは尚更である。

カーディ:「三人で来るのかい?構わないよ。殺れるものなら殺ってみな!
      魔力ならアタシが最強なんだからね!!」

その言葉を聞いたとき、リツコはカーディの考え方に呆れて心の中で呟く。

(最強の魔力を持った者ならあなた達を殺しにここに向ってくるのに・・・。無様ね・・・。)

確かに史上最強の魔術師と呼ばれた碇ユイを超えた者がこのネルフ内部を突き進んでいる。
復讐の炎に彩られた瞳で、その身を返り血で染め、屍の山を築きながら。
極悪非道で知られた闇の使徒に同情の念を抱きたくなるほどの相手が。

リツコ達がカーディと対峙し始めた時、アスカ達の方も相手と対峙する形になっていた。
その理由はリツコ達から離れた時の状況の為である。

リツコ達の場から飛び退くと言う方法で離れた為、それぞれの跳躍力によってその距離が変わった。

結果的に、マヤとヒカリの(元)法術士タイプの二人。
ムサシ・トウジ・ケンスケの三人。
そしてマナとマユミ、そしてアスカの三人。
この三つの集団になったのである。
といっても、アスカは他の二人に比べて遥かに長く跳躍したのだが、
飛んだ方向が同じだったのでこの二人に加勢する事にしたらしい。

相手の人数も三人。一つの集団に一人という形である。
闇の使徒の三人はそれぞれに自分の相手を見つけてその集団に向う。
正確には先に二人が決めたので三人目は自然に残った集団の元に向った、という感じだったが。

ヒカリとマヤの下に来たのは二人と同じ法衣を纏った男であった。
しかしその法衣の色は二人の物とは違い、闇のような黒だった。
それは暗黒神を信仰している法術師であることを示している。

ファラリス:「私はファラリス。見ての通り、暗黒真に仕える法術師です。
       知っての通り、我が神は聖王神と対立の立場にあります。
       よって、その聖王神に仕えるあなた方には死んでもらいます。」

ヒカリ:「良いでしょう。私の信仰の強さ、あなたに示して見せます。」

マヤ:「聖王神よ、我ら二人にあなたの加護を。」

普通に考えれば滅茶苦茶とも取れる言い分だが、神に使える者達には当然の言い分らしい。
ヒカリとマヤも当然のように受けて立つ。
マヤの場合、法術師であることは過去の事とも言えるのだが、
簡単な物とは言え未だに法術が仕える辺り、まだ信仰は続けているらしい。

ヒカリ達がある意味異様な雰囲気を漂わせていた時、既に戦闘の始まっている集団があった。
トウジ達である。

普段であれば短気なトウジが先に仕掛けた物と思われるが、今回は相手の方が先に仕掛けていた。
相手の男は異様な武器を持って向ってきた。

一瞬見ただけでは巨大なハルバードのようにも見えたが、実際はまったく違う物だった。
斧の刃の部分は両方につき、ダブルアックスのような形になっている。
そしてその先端には槍が、もう一方には棘の着いた鉄槌がついていた。
刃の部分、鉄槌の部分、共にかなり巨大で、その全体重量はかなりの物であろう。
しかし男はそれを片腕で振り回している。
この時点で男が戦士タイプである事は疑う余地も無い。

しかし何よりも異様なのは男の姿であった。身長は二メートルを由に超えている。
その両肩には牛頭の形の肩当がつき、その背中には巨大な一つの目があったのだ。
しかもその肩当の牛の瞳には生気があり、その視線は男の攻撃を避けるトウジ達を追っていた。

トウジ:「なんなんや、こいつは!?気味が悪い。」

ケンスケ:「力も人間の物とは思えないほど強いな。」

ムサシ:「ああ、まるでミノタウロスを相手にしている気分だぜ。」

ムサシの言葉を聞き、男は攻撃を止めその顔を醜く歪める。
そしてムサシに向って言い放つ。

オベリスク:「おまえの言った事は間違いではない。この肩当はミノタウロスの頭なのだからな。」

男は自慢気に話すが、そのことが何を指し示しているのかトウジ達には上手く理解できない。
それに気付いた男は更に得意になって話す。

オベリスク:「俺は魔導手術を受け、ミノタウロス二体、サイクロプス一体と融合しているのだ。
       そのため以前は風の属性だったが、今では土の属性も持っていることになる。
       そしてこの強靭な力と生命力を得たのだ。この俺、オベリスクは人を超えたのだ。」

この言葉に三人は絶句した。確かにそれは人を超えたと言う事かもしれない。
しかし逆に言えば人を捨てた事になる。しかもそれを自慢してさえいる。

三人は一人の少年を思い浮かべる。復讐の為に異形の姿を手に入れた少年を。
しかしその少年は人として生きている。その姿の事を否定も肯定もしていない。
自慢などもっての他の事である。
三人は思う。この男には決して負けたくないと。その少年の事を侮辱された気がして。

そしてふと思う。彼の事に対して男に怒りを覚えている理由に。
何時の間にかあの少年に畏敬の念さえ払い、仲間として認めている事を。
その答えに行き着いた時、三人は顔をあわせて苦笑いをした。
そして次の瞬間、三人は男に攻撃を仕掛けていた。

アスカ、マナ、マユミは最後の一人と対峙していた。
その男はアスカ達が今まで見た事のない装備をしていた。
軽装の胸当てや篭手などしている辺りはまだ良い。闘士などにこういった装備があるからだ。
しかしその下に着ている服は袖や裾の丈が長く、魔術師のようにも見える。
そしてその手には巨大な鎌を持っている。その姿はまるで死神のようである。

アスカ達は相手の手の内が読めず、攻めあぐねていた。
それを見ていた男は深く溜息をついて喋りだす。

ルブルム:「まったく、状況が状況ゆえに仕方が無いが、
      何故このルブルムがこんな女どもの相手をせねばならないのか。
      まあ命令だから仕方あるまい。さっさとかたをつけるとしよう。」

そこまで言い切ると、ルブルムはその大鎌を円形に大きく回しながら、呪文を唱える。
その呪文は魔術に近いものがあったがどことなく違う物だった。

そうしている間に大鎌を回しながら男は白い固形物を自分の周りに放り投げる。
そして男の呪文が終わったと同時に固形物が震え、煙を噴き出す。
その煙の中から多くの骸骨兵が現れた。

ルブルム:「俺のタイプは死霊術師(ネクロマンサー)。不死生物を操る者だ。
      我が下僕達よ、その者達をおまえらの仲間にするが良い。」

その言葉に応じるように、骸骨兵達はその手に持った曲刀を掲げてアスカ達の方に向っていく。

アスカ:「骸骨兵ぐらいでアタシ達に勝てると思ってるの!?」

マナ:【次元に住まう誇り高きナイトの龍を象りし鎧よ。汝、我にその力を示せ。
    デュラハンが眷属、ベスビオス・召喚。】

マユミ:【風の乙女シルフよ。私の願いを聞き届けよ。
     その力を持って風の刃と無し、彼の者を切り刻め。】

アスカは腰の日本刀を抜き放ち、マナの呼び出した召喚獣と共に斬りかかる。
マユミは精霊魔法で二人を援護する。

しかし切り掛かったアスカは自分の考えが甘かった事を知る。
雑魚だと思っていた骸骨兵は、アスカの斬撃を左手の盾で防ぐと、間髪いれずに曲刀を振るう。
アスカはその攻撃をかわすが、骸骨兵の動きは歴戦のマリュウドを思わせた。

ルブルム:「言うまでもないがこいつらはただの骸骨兵ではない。
      魔獣の牙に魔力を注いで生み出した獣牙兵。不死生物の上級種だ。
      並みのマリュウドよりも遥かに強いぞ。」

そんな獣牙兵が二十体。アスカ達は苦戦を覚悟した。
そして、その思いは現実となったのである。

そして、復習の炎を纏った者は、新たなる闇の使徒を切り払い、確実にこの場へ近づいていた。

To Be Next Story.
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後書き

フッフッフッフッフ・・・・・・・。長かった。長かったですよ。
自分の作品を待っていてくださった殊勝な方々。<いるのかな?
お待たせいたしました。
神竜王ふっっっか―――――――つ!!!!
と言うわけで滅茶苦茶久しぶりな更新です。
八翼の堕天使第壱拾六話、いかがでしたでしょうか。
前作品以上に狂気に駆られたシンジと、脇役になりつつある方々の活躍を主体に書いてみました。
しかし、今までの作品で一番長くなってしまいましたね。
まあ復活祝いと言う事で良いでしょう。

魔「俺も久しぶりに登場だぜ。ったく、いくら引っ越したからって時間掛かり過ぎだっての。」
聖「まったくですね。しかもこれまた予想外に執筆も進まなかったらしいですし。」
作「ええい、貴様ら二名は久しぶりにもかかわらず毒舌しか言えんのか!!」
聖「事実でしょう。」
魔「しかもまた作品が伸びたそうじゃねえか。」
作「作品がまた伸びた事は認めましょう。でも仕方ないでしょう。
  戦闘になると熱入っちゃうんだから。」
聖「で、結局この作品は後幾つ位で終わるんですか?」
作「それはわかりません。」
魔「は!?だっておまえ。この間まで後五話位って。」
作「投稿が止まっている間に中身が膨らんでしまったので、
  後何話で終わるかわからなくなったんです。」
魔「やれやれ。ま、それで俺達の登場シーンが増えればいいんだがな。」
聖「こんな作者ですが、これからもよろしくお願いします。」
魔「おら、さっさと次の作品を書け!!」

P,S
感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。
悪戯、冷やかしは御免こうむります。


マナ:前回に引き続いて、シンジが強いわね。

アスカ:敵なんていてもいなくても一緒って感じだもん。

マナ:シンジはいいけど、わたし達の前に敵が出てきたんだけど・・・。

アスカ:こっちが問題よ。強そうだし。

マナ:シンジに助けを呼べないのかしら?

アスカ:ちょーと離れてるみたいだから、シンジも気付いてくれそーにないしねぇ。

マナ:シンジが来てくれるまで、我慢するしかないのね。

アスカ:アンタがみんなの盾になるとか・・・。(^^v

マナ:な、なんてこと言うのよっ!

アスカ:盾にもならないか。
作者"神竜王"様へのメール/小説の感想はこちら。
ade03540@syd.odn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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