進行途中にある、多くの隔壁を突き破りながら、シンジは目的の場所に向って降下していく。
自分の感覚器官が、目指す場所にいる男の気配が近づいているのを教えてくれる。

シンジ:「もうすぐだ・・・。もうすぐ皆の敵が討てるよ。父さん、母さん。」

シンジは首から下げるロザリオを握り締める。

そんなシンジの元に、轟音が響いてくる。
シンジはその音に顔をしかめる。
その音から、玄武の札が発動した事を感じ取った為だ。

既に戦いは始まり、かなりの激戦になっている事が予想できる。
シンジとしては、敵たる者が殺されていないかが気になった。

シンジ:「第三眼・透視眼発動。」

シンジは第三の瞳の力の一つ、透視の能力を持って司令制御室の様子を探る。
透視を使ったシンジの視界に隔壁の向こう側の光景が映し出される。
それはミサトが加持に呼びかけている所だった。

シンジ:「?・・・何が起きてるんだ?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
八翼の堕天使
ー第弐拾話 最強の称号ー
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シンジは疑問を感じつつも、前方に注意を向けた。
最後の隔壁に近づいた為である。

シンジ:「さて・・・これが最後だな。」

シンジはルシファーを振りかぶる。

今までの隔壁は全て素手で破壊してきたが、
最後の一枚は急な状況にも対処できるようにルシファーを使う事にしたらしい。

振りかぶっていたルシファーで隔壁を切り裂こうとした時、ミサト達の方が急に慌しくなった。
シンジはすぐにそちらに注意を向けると、加持がミサトを突き飛ばし、剣を振り下ろそうとしている。

シンジ:「なんなんだよ、一体!?」

シンジは状況がつかめなかったが、取り合えず加持の行動を阻止するべきだと判断し、
振りかぶっていたルシファーをそのまま投擲する。

シンジ:「竜牙剣術一刀流・龍牙飛翔撃!」

投げられたルシファーは竜の形をした光に包まれ、隔壁を貫き、加持とミサトの間へと向う。
貫かれた瞬間、技の威力の凄まじさに耐えられず、隔壁自体が爆発する。
しかしその爆発でシンジが傷つく筈も無く、シンジは八枚の翼を広げて宙にその身をとどめる。

投げられたルシファーは狙いを外す事無く三郷と加持の間に突き刺さる。
その巨大な刀身の為、床に突き立ったルシファーの柄が丁度ミサトの前に来る形となる。
加持の剣はその柄によって受け止められていた。


爆煙が収まり、シンジは視界が開けた所で部屋の中へと舞い降りた。

シンジ:「いったい何ごとなんですか?これは。」

そう言ってメンバーの所へ近寄ってくるシンジに、加持はその目標を変えて切りかかる。

加持:「グオオオォォォオオオ!!」

その口から放たれたのはもはや言葉ではなく、まるで獣のようだった。

シンジは加持の攻撃を龍翼で受け止めると、力の矛先を変えて受け流す。
それを利用して加持とは居場所を換えて、ミサト達に素早く接近する。

シンジ:「何がどうなってこんな状態なんですか!?」

シンジは加持の動きなどに注意を凝らしながら説明を促す。

リツコ:「私達にもわからないの。何が起きたのか見ていたミサトはこんな状態だし。」

そう言ってリツコは濁った瞳で呆然と虚空を見つめるミサトを見る。
話の中心といっても良いミサト本人は完全な放心状態でシンジがここに来た事にも気付いていない。

シンジ:「ならひっぱたいてでもなんでも聞き出せ。理由がわからなければどうにもならない!」

そう叫びながらシンジは突き立ったままだったルシファーを抜いて構える。
加持が再び攻撃してきた為だ。

シンジ:「さて、どの程度の力でやればいいのかな?」

刀剣術士のシンジから見れば、加持のレベルであっても敵対できる者ではない。
しかし状況もわからずに切り倒すわけにもいかず、シンジは手加減しなければならない。
敵を目の前にしてこのような状態。
シンジは歯痒くて仕方が無かった。

一方リツコはミサトの肩を揺らして正気に戻そうとする。

リツコ:「ミサト、しっかりしなさい。何時までこんな状態でいるつもりなの。ミサト!」

しかし加持に切り掛かられたのがよほどショックなのか、ミサトは正気に戻らない。
そんな状態の時、アスカが前に出る。

アスカ:「どいてリツコ。・・・いい加減にしなさい。こんの大馬鹿が!!」

アスカは有無を言わせずミサトに張り手を浴びせる。
辺りに乾いた音が響く。
その勢いのままに床に倒れるミサト。

アスカ:「さっさと目を覚ましなさい!シンジは敵を目前にして戦っているのよ。
     もし気が昂ぶれば加持さんを切り倒す可能性もあるのよ。
     加持さんを助けたかったら正気に戻りなさい!!」

アスカは無論シンジが加持を切り倒すとは思っていない。
しかしシンジの心境としては確実に思っているだろう事は確信できる。
今の状態を歯痒く思っているだろう子とも。

何より今はミサトに精神的に呼びかけるしかない。
そう考えたゆえの行動だった。

その言葉に反応したようにミサトはゆっくりと体を起こすと、シンジと切結ぶ加持を見つめる。

切結んでいるシンジは手加減をしている為に相手に攻撃をさせるだけで、自分から攻撃はしない。
戦い方から、防御をしようとするとは思えなかったからだ。

事実加持の攻撃は全て大ぶりで、攻撃の後に致命的な隙が出来ている。
しかしシンジと切結びだしてから少しずつ、だが確実に普段の加持の動きになっていく。

今までは何とか抵抗していた部分もあったのだろう。
しかしシンジと戦う事で、少しずつ剣士としての意地に火がついたのかもしれない。
といっても、未だシンジが慌てる様子は見せない。

いや、シンジの目は加持を見ていない。

シンジの瞳は、司令席の上にある三つの陰を捕らえていた。
加持の攻撃は全て感覚で受け止めているのである。

それを見ていたミサトの瞳に光が戻り始める。

ミサト:「・・・リョウジ。」

リツコ:「ミサト、正気に戻ったのね。」

正気に戻ったミサトにリツコがその顔を覗き込む。
アスカはその様子を見て安心したのか後ろに下がり、シンジの方に目を向ける。
リツコはそのままミサトに質問する。

リツコ:「ミサト。加持君に何があったの?何が起きたのか説明して。」

その声に、ようやくいつもの雰囲気を取り戻してきたミサトが答える。

ミサト:「え、それが良くわからないのよ。確か私を庇って黒い髑髏に飲み込まれたんだけど・・・」

リツコ:「黒い髑髏?」

ミサトの言葉に、リツコは首を傾げる。
そこにヒカリとマヤが意見を言う。

ヒカリ:「もしかしたら呪いの類かもしれません。」

リツコ:「呪いといっても、暗黒神の法術師しか使えないわ。その男はあなた達が倒したじゃない。」

マヤ:「でも暗黒神の法術師には死の呪いと言う物があります。」

リツコ:「それかもしれないという事ね。」

ヒカリ:「自信はありませんが。」

その場を見ていないために、本当に自信がなさそうにいうヒカリ。
それを聞いていたアスカはそのままシンジに叫ぶ。
シンジならばそれがなんなのかわかるのではないか、という可能性に賭けたのである。
それを切結びながら聞き取るシンジ。

シンジ:「黒い髑髏・・・。なるほどね。死の呪いの中で最も性質の悪い夜叉の法か。
     となると、まず動きを止めないとな。これは結構疲れるんだけど。」

シンジはそれがなんなのか検討がついたらしく、切り結びながら魔力を高めていく。

シンジ:【万能にして全ての魔法の根源たるマナよ、その偉大なる力を持って彼の者の心を支配せよ。
     その支配されし心は肉体の自由を奪わん。無属性精神魔術・精神滅砕破。】

シンジは加持の剣撃をルシファーで受け止めると、そのまま前進する。
そおして呪文を集約した右手を伸ばし、加持の額に触れ、呪文を発動させる。

シンジ:【砕けよ心、凍れよ魂!】

それを受けた加持の肉体が一瞬眩く光る。
その光が消えた直後、加持の動きは完全に止まり、剣を持った腕がだらりと垂れ下がる。

ミサト:「リョウジ!」

それを見たミサトは弾かれたように立ち上がって加持に走り寄る。
そして先ほどのように加持に跳びかけるが、加持は何の反応も示さない。
それを見て、近づいてきたアスカが恐る恐るシンジに聞く。

アスカ:「シンジ・・・殺したの?」

それに対してシンジは首を横に振って答える。

シンジ:「まさか。殺してはいないよ。ただ声は聞こえていても反応は示さないよ。
     答えようと思う心が無いからね。」

リツコ:「どう言う事かしら。」

シンジ:「先ほど使った魔術の効果は相手の魂を打ち砕く事。
     呪いの内容は自分の親しい者を殺すという物。親しいと認識する心が無ければ攻撃はしない。
     そしてこの魔術は半永久的にその効果を発揮する。」

レイ:「解除はできるの?」

シンジ:「もちろんできる。しかし解放すれば先ほどのようにまた襲ってくる。
     加持さんを助ける方法は一つだけ。呪いを解く事だよ。」

ヒカリ:「そんな高位な奇跡は私達には出来ないわよ。」

それを聞いたヒカリとマヤは揃ってシンジに言う。
それに対してシンジは首を横に振ると、加持に縋り付いているミサトに近寄り、声をかける。

シンジ:「ミサトさん。しっかりしてください。加持さんを助けるのはあなたなんですから。」

その言葉に、ミサトは振り向いてシンジを見つめる。
その様子を見て、シンジは言葉をつなげる。

シンジ:「これから僕が呪いを解けるだけの奇跡を起こす魔力を生み出します。
     それをあなたが加持さんに送るんです。奇跡の力とは思いの強さに比例します。
     加持さんを確実に助けるにはあなたが必要なんです。」

聖王神をその身に降臨させた事のあるシンジにとって、
呪いを解くだけの奇跡を起こす事は造作も無い事である。

しかしシンジは自分の魔術を加持にかけている。
この魔術もまた一種の呪いと言って良い物である。
そしてこの魔術を解くのに一番適しているのはかけられた者の魂に呼びかける方法である。
この場合、魂に呼びかけるのは一番親しい者の方がいいのは当然である。

その為、ミサトの肉体を通して呪いを解くという方法を取るのである。

ミサト:「どうすればいいの?」

ミサトはシンジの言葉に強く頷くと、その方法を質問する。

シンジ:「特に何もしなくていいです。
     ミサトさんはただ僕の合図と共に加持さんに触れ、呼びかけてください。
     助けたいという気持ちを込めて。」

シンジはそれだけ言うと、法術を行う為に魔力を高めていく。

シンジ:【聖王神よ。偉大なる光と正義、法を司る神よ。我は汝にその力を請う。
     その偉大なる力を持って、絶望の闇の中に光の奇跡を起こしたまえ。】

魔力を高め終えたシンジは、ミサトの背中にゆっくりと触れ、魔力を送り込んでいく。

ミサト:「・・・リョウジ。助かって。お願いだから。」

ミサトは自分の体に流れ込んでくる力を実感しながら、加持に触れる。
ありったけの自分の思いを込めて。

その直後、加持の肉体は再び眩く光る。
しかしその光は先程の物とは違い、神々しく感じられる。

そしてその光が消えると、ミサトの肩にゆっくりと手が触れる。
それに驚いたミサトはその手の持ち主を辿ると、自分の前に居る人物へと続いている。
ミサトがゆっくりと視線を上げると、いつものように笑みを浮かべる加持の顔があった。

加持:「何泣いてるんだ、ミサト。」

言われて初めて気付いたが、ミサトの目からは涙が流れている。
ミサトが泣いている所を見たことがあるのは、メンバーの中でもリツコと加持くらいのものだろう。

ミサト:「・・・馬鹿。・・・大馬鹿!」

そんな加持に、ミサトは罵りながらも抱きつく。加持はそんなミサトを優しく受け止めた。

加持:「すまない。・・・ミサト。」

その様子をメンバーは優しく見つめる。
ヒカリ、マヤ、マユミの三人は涙を浮かべてさえいる。
しかしこの二人、興奮の為か人前で使っている呼び方ではなくなっている。
その事に気付いているのだろうか?


シンジ:「・・・・・・さてと。」

それを見届けた後、シンジは司令席の方へと歩き始める。
アスカはそれに気づき、シンジの背中へと視線を向ける。

自分が初めて愛した少年。
その少年が今まで生きてきた目的を果たそうとしている。
復讐という名の目的を。

その目的を果たした後、シンジはどうするつもりなのか。
アスカには見当がつかなかった。

多分シンジに聞いてもその答えが帰ってくることは無いだろう。
シンジにとって、そんな事は考えた事も無いだろうから。
アスカはシンジをただ見送る事しか出来なかった。

シンジが司令席へと近づく前に、カーディとフォルケンが下に降りてきて迎え撃つ。

フォルケン:「先程の剣捌き見事だな。地上最強の侍であるこのフォルケンが相手する。」

そのフォルケンの言葉に、シンジは怒りをあらわに反応する。

シンジ:「・・・史上最強の侍?」

そんなシンジの様子に気付かず、今度はカーディが口を出す。

カーディ:「何言ってるのさフォルケン。さっきの魔術を見たろう。
      こいつの相手は最強の魔術師であるこのアタシがするんだよ。」

シンジ:「最強の魔術師・・・だと!?」

シンジは全身から殺気を放ってその言葉に反応する。
それによって二人はようやくシンジの様子に気付く。

しかしその時にはもう手遅れ。鬼神の怒りに触れた後だった。
シンジは怒りをあらわにして叫ぶ。

シンジ:「自惚れるな!!最強の侍にして剣士は我が父・碇ゲンドウ。
     そして最強の魔術師は我が母・碇ユイのみ。
     その二人を手にかけた闇の使徒がその称号を名乗るなど、言語道断であろうが!!」

シンジがゲンドウやユイより強い事はまず間違いない。
神龍皇に勝利した時点でシンジ自信もそれを自覚している。
しかしその称号となれば話は別である。

シンジはその姿ゆえにそのように呼ばれる資格は無いと思っている。

死んだ二人は自ら名乗った訳ではなく、周囲の者達が自然そう呼び出した物、
いわば二人に対する畏敬の念の篭った称号である。

何より、シンジ自信がその称号を名乗る気にはなれなかった。
それ程に二人のことを尊敬していたから。

そんな風に考えている称号を、よりにもよって殺した者達が名乗った事に、シンジは激昂した。

シンジのその叫びに、一瞬声を出す事が出来なかった二人だが、その言葉の意味を理解する。

フォルケン:「・・・碇ゲンドウ。」

カーディ:「碇ユイの息子だって!?」

通常であれば驚き、そのまま戦意を喪失してもおかしくは無いこの事実。
しかしこの二人の思考はどこをどう間違っているのか、狂喜した。

フォルケン:「なんという幸運だ。あの碇ゲンドウの息子を殺せるなんて。」

カーディ:「つまりあんたを殺せば事実上最強の魔術師はアタシって事になるんだね。」

どうやら既にシンジに勝ったつもりで居るらしい。
断っておくがシンジは最初から八翼を展開し、第三眼を開き、ルシファーを構えている。
その異形な姿を見てもなんとも思っていないらしい。

確かにオベリスクから比べれば大した事は無いのかもしれない。
恐らくシンジの姿も魔導手術の結果だと思っているのだろう。

その様子を見て、リツコとアスカは呆れてしまった。

アスカ:「あいつら、シンジの力量を見抜けないわけ?
     それともシンジの力が強すぎて感じられないとか?」

リツコ:「ここまで無様なんて・・・。さっきまで戦っていたのが恥ずかしく感じられるわ。」

他のメンバーに至っては呆れ果てて何もいえなくなっている。
そんな事には気づかず、興奮するカーディに向ってシンジが質問する。

シンジ:「少し聞くが、その青白い炎は魔晶石が突然変異によって変化した魔獣、スペクタ―か?」

魔晶石と言うのは魔力が何らかの形で鉱物に吸収され、大量の魔力を蓄積した物質である。
この鉱物は極めて貴重な物質で高値で取引される。

とはいっても、聖魔の魂の内包している魔力には到底及ぶ事はない。
が、聖魔の魂と違って魔力を抽出できる点で魔術師達には重宝されている。

言ってしまえば聖魔の魂は観賞用。魔晶石は実用品と言った所だろう。

カーディ:「良く知ってるね。その通りだよ。これのおかげであたしは無限に魔力を使用できるんだ。」

自慢げに言い放つカーディにシンジは呆れた様子で言う。

シンジ:「それで最強の魔術師とは・・・身の程知らずにも程があるな。」

カーディ:「なんだって――!!」

そのシンジの言葉に、カーディはその顔を真っ赤に染めて魔力高める。
フォルケンはその様子を見て、後退する。

カーディ:【万能にして全ての魔法の根源たるマナよ、その偉大なる力を持って光を集約し、
      我が敵を打て!受けよ。光属性最強魔術・スペクトルフラッシュ】

カーディは先ほどリツコ達に放ったのと同じ魔術を放つ。
どうやらカーディの持つ魔術の中で最も強力なのがこれらしい。

シンジ:「複数の光の帯の集合体。拡散爆裂も可能な光属性の高位魔術。ならば・・・。」

シンジはカーディの放った魔術の性質を完全に解析し、それに対処する。

シンジ:【万能にして全ての魔法の根源たるマナよ、その力を持って闇を生み出せ。
     生まれし闇は集約し、全てを飲み込む盾とならん。闇属性魔術・暗黒大障壁。】

カーディの放った光の魔術は、シンジの生み出した闇に飲み込まれていく。
カーディは光を先ほどのように拡散させようと試みるが、
飲み込まれた時点で魔術の力が無効化しているのか、拡散させる事が出来ない。
闇は魔術を辿ってカーディの元へと迫る。

カーディ:「なんて事・・・。何なんだいあいつは・・・。」

カーディは闇が自分の直前まで近づいてきたので、自分の魔術を解き、一端後退しようとする。
しかしその直後、突然闇の中から伸びてきた腕がカーディの頭を鷲掴みにする。

シンジは自分の生み出した闇の中を進んできたのだ。

シンジ:「その程度で最強の魔術師を名乗るのか。肉体を改造してまで。」

シンジの言葉に、掴まれたままカーディは剥きになって反論する。

カーディ:「アンタにはわからないだろうさ。あたしはあいつに認められる為なら何だってやってやる。
      殺しでも、肉体改造でもね。あいつの喜びがあたしの望みなんだから。
      これがあたしなりのオシリスに対する愛しかたなんだからね!」

そこまで言い切ったカーディは荒く息をつきながら言葉を切る。
シンジはそれを確認した後、それに対して言葉を返す。

シンジ:「わからないよ。そしてわかりたくも無い。俺は復讐の為だけに生きてきた。
     愛する者も守る物も無い。俺の望みは、貴様ら闇の使徒の命だけだ。」

そこまで言うと、シンジは有無を言わせる事無く呪文を唱えていく。

シンジ:【万能にして全ての魔法の根源たるマナよ、その力を持って彼の者に思い出させよ。
     万物を形作る小さき物質、それが集まりし物、それが汝の姿なり。我はその交わりを断たん。】

カーディ:「や、やめろ。あたしはまだ、まだ死にたくは・・・。」

シンジ:【無属性魔術・始原返還・分解消去・拡散消滅波。】

シンジの呪文の完成と共に、カーディの肉体が掻き消える。
いや、正確には違う。
カーディの肉体は、人の目には捕らえられないほどの小さな粒子になってしまったのだ。

シンジ:「善も悪も無い、原始へと還るがいい。」

今まで以上のシンジの残酷な行動。
それを見たミサト達は息を呑み、何も言えなくなってしまった。

そんな中、アスカはシンジの言った台詞に一抹の寂しさを感じていた。
しかしそれで自分の気持ちに絶望したわけではない。
むしろシンジに対する気持ちは強くなっていた。

カーディを始末したシンジは今度はフォルケンを見据える。
その眼光を、フォルケンはにらみ返し、両手の双身刀を構える。

フォルケン:「手合わせ・・・願おう。」

フォルケンは完全に臨戦体勢である。
対してシンジはその眼光こそ鋭いものの、構えなど一切取っていない。
まるで攻撃して来いと言わんばかりである。

フォルケン:「そちらがその気ならば、双身二刀流奥義・四獣火炎牙斬!!」

相手の力量を測るには己の最強の技を繰り出すのが一番早い。
フォルケンの判断は正しいと言える。
しかしフォルケンはそれ以前の判断を既に誤っている。
それは目の前にいる相手がシンジだと言う事。地上、そして史上最強の鬼神だと言う点である。

シンジ:「その程度で最強の侍だと?・・・ふざけるなよ。
     我が父・碇ゲンドウは、その一撃につき、同時に六発の斬撃を繰り出した刀剣術士だ。
     四本の刃に炎を纏わせただけの突進術を最強の技とする者ごときが、
     父さんの称号を軽々しく使うな!!」

シンジはそう叫ぶと、突きを繰り出すような形でルシファーを構える。

シンジ:「竜牙剣術一刀流・八岐之大蛇。」

シンジは同時に八撃の突きを繰り出す。
その一撃一撃は竜の頭のような形となり、フォルケンに襲い掛かる。
それはまるで八匹の竜が襲い掛かるようでもあった。

フォルケン:「な、なんだと!?」

フォルケンはその光景に驚愕したが、次の瞬間にはその驚きは消えていた。
その命自体が同時に消えた為である。

シンジ:「残る敵は・・・後一人。」

そう言ってシンジは司令席に座っている紫色の瞳をした男、オシリスを見上げる。
その紫色の瞳を見たとき、シンジの放っていた殺気が爆発的に膨れ上がる。

シンジにとって、先程の二人などさしたる問題ではない。
シンジの本命はこの男なのだから。

シンジ:「・・・ようやく見つけた。俺が最も殺したい男。忘れようの無いその紫色の瞳。
     俺の父さんと母さんを直接その手にかけた男。
     貴様が闇の使徒の総統とは思わなかったがな。今こそ、復讐完遂の時。」

そう言いながら殺気を放ち続けるシンジを、オシリスは立ち上がって腰の剣を抜きながら見据える。
そして剣を完全に抜き放ってから言う。

オシリス:「いきがるなよ小僧。確かに我が闇の使徒を全滅させたその力は認めよう。
      しかし貴様は俺には勝てない。絶対にだ。」

そう言ってオシリスは後で磔になっている冬月を見る。
そして再びシンジを見据える。

その行動が意味する所を見て取ったシンジは、オシリスから目を逸らし、
何かを確認するように辺りを見回す。
そうやって辺りをゆっくりと見回した後、シンジはおもむろに左の指を鳴らした。

その直後、オシリスの背後から突然黒い影が現れ、
冬月を括り付けた十字架後と持ち上げその場を飛び降りる。

その影はそのままミサト達の元へと冬月を運んでいく。

リツコ:「バルディエル・・・何時からこの部屋の中に・・・?」

その影の主は、漆黒の肉体を持つ獣王・バルディエルだった。
しかしいくら目立たぬ漆黒の肉体とは言え、今まで誰も気付かなかったのはおかしい。
リツコの疑問は当然の事だった。

バル:「主、部屋、入った時。・・・少し、遅れたか?」

レイ:「それはおかしいわ。碇君が破壊した隔壁からも、
    扉からも誰かが入ってきた様子は無かったもの。」

レイはその時、おかしな気配を感じて扉の方に目をやったが、誰も居なかった事を覚えている。
その疑問に、バルディエルは一枚の札を取り出して殺瞑する。

バル:「この札、主、特性の札。この中、小さき精霊、スプライト、その力、入ってる。
    この精霊、姿隠す力、持ってる。」

バルディエルが言うには、シンジに言われて姿を隠して部屋に侵入し、ある作業をしていたのだと言う。

マナ:「その作業って何なの?」

その説明に間髪置かずにマナが質問する。
バルディエルはその行動に何の反応も見せずに答える。

バル:「主、本気、出す為の作業。すぐに、わかる。」

そこまで言うとバルディエルはシンジの方へと目を向ける。
ちなみにこの間、話に参加してこないトウジやムサシは冬月の縄を切っていた。

シンジ:【万能にして全ての魔法の根源たるマナよ、札に込められし力を解放し、
     この部屋の壁面を金剛とせよ。】

シンジの言葉と共に、何も無かったはずの壁に札が現れ、その力を解放していく。
バルディエルの行っていた作業とはこの札を貼る作業だったのだ。

シンジ:「この札の力によって、この部屋の壁は金剛石の如く強固になった。
     ネルフ全体と言うのは無理だが、この部屋ぐらいならば何とかなる。
     これで遠慮する事無く、本気で戦える。」

シンジはそう言って剣を構えた。
そんなシンジを、オシリスは未だに悠然とした面持ちで見据えている。

オシリス:「・・・二人を倒し、人質を取り返したぐらいでいい気になるなよ小僧。
      所詮あいつらは捨て駒なのだからな。

ミサト:「な、何ですって!」

自分の部下であった者達を平然と捨て駒と言い切ったオシリスに、ミサト達は激昂する。
しかし動く事は出来ない。
シンジから放たれる殺気が、手を出すなと告げていたからだ。

そんな事など気にもとめずにオシリスは話し続ける。

オシリス:「俺もカーディやオベリスクと同じでな。魔導手術を受けているのだ。
      俺が融合した魔獣の名は光り輝く鳥王・・・アラエル!」

言い放った直後、オシリスの背中から光の翼が現れる。
その翼は虹色の光を放ち、シンジを包み込む。
そしてその光は、シンジの精神へと侵入していった。

シンジ:「せ、精神汚染か?よせ。・・・やめろ。・・・やめろー――!!」

光に包まれた直後、シンジが叫びだす。
そして部屋全体の光景が一変する。
アラエルの力がシンジの精神を外部にまで投影しているのだ。

今、十年前の悪夢がシンジの中で呼び起こされようとしていた。

To Be Next Story.
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
どうも、今までの分を取り戻すように最近連続して投稿させていただいております。
八翼の堕天使第弐拾話、いかがでしたでしょうか?
しかしついに弐拾代に突入してしまいましたね。
しかも未だに最終話が見えてこないと言うおまけつき。
なんだか最近どんどん話が伸びてきているような気が・・・。
申し訳ないです。
ただなにぶん話が膨らんできてしまっているので、自分ももう縮小するのは諦めた状態です。
こうなったら思いついたイベントは全て書いて、そういった面で満足してもらおうと思います。
こんな駄文で満足していただけるか不安ではありますが、精一杯やりますので御容赦を。
ちなみに今回も結構書いてて恥ずかしかったです。
ただ作品を書く上で見栄や外聞、恥じは邪魔なのでこれからは無視する事にしました。
その結果、臭い台詞や、歯の浮くような台詞が出るかもしれませんがご承知の程を。

聖:ちょ、ちょとこれどうなってるんですか!?
作:ん?ルシフェル。今回はいつもと登場が違うな。いつもならいきなり悪態か・・・
聖:これが望みなんですか?(ギラリ)
作:いや!いい!剣は抜かんでいいから!で、何を慌ててんだ?
聖:そうですよ。この終わりはなんなんですか。シンジ様は無敵なのがこの作品の主旨でしょう。
  何でピンチになってんですか。
作:ああ、その事か。ん〜、やっぱりそう読むのが大半かな〜。
  自分はそれと違う意味で最後の台詞は書いたんだけど。
聖:どういうことです?
作:まあそれは次回を読めばわかると言う事で。
聖:そんな言い訳で逃げられるとでも?
作:・・・脱出!!
聖:逃がしませんよ!!

P,S
感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。
悪戯、冷やかしは御免こうむります。


マナ:早速、敵殲滅ね。

アスカ:なんか、いやーな名前が出てるわよ。(ーー;

マナ:アスカの天敵ね。(^^v

アスカ:近寄りたくないわ。

マナ:アスカが近づくことないでしょ。

アスカ:シンジが相手してくれてるみたいだから、大丈夫だろうけど・・・。

マナ:でも、いい加減敵さんも、何しても無駄だって気付けばいいのに。

アスカ:バカなのよ。

マナ:次回あたり、この戦いも決着かな?

アスカ:そろそろ、アタシもお風呂入りたいしねぇ。(^^v
作者"神竜王"様へのメール/小説の感想はこちら。
ade03540@syd.odn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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