多くの水が流れ行く川。 その川のほとりに一人の少女が佇んでいた。 少女は水面に映った自分の姿を見つめて問う。 これは・・・誰? これは私。 私は誰? 私は何? 私はレイ。・・・綾波レイ。 私はいらない子供。 誰にも必要とされない者。 忌み嫌われる存在。 私はレイ。・・・綾波レイ。 呪われた子供。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 八翼の堕天使 ー外伝の壱 赤き瞳・蒼き髪ー ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 竜神暦2000年 大陸の端の、森に囲まれた小さな村があった。 その村の周囲の森には特殊な魔力があるらしく、魔獣はこの森には住み着かない。 結果、その村の住人達は豊かとは言えないまでも、平和で穏やかな生活を送っていた。 そんな村の、ある家で一人の女の赤ん坊が生まれた。 その赤ん坊が無事に生まれた瞬間は、その家族は喜びに満ち溢れていた。 しかしその喜びは長くは続かなかった。 その赤ん坊を抱いて現れた助産婦を見た時、家族の顔から笑顔が消えた。 いや、正確にはその赤ん坊をの容姿を見た時にである。 その赤ん坊の髪の毛は、蒼銀だったのだ。 そして薄く開いた目から見えるのは、赤い瞳だった。 父親の家系にも母親の家系にも、そんな髪の人間はいない。 赤い瞳の人間などもちろんの事だ。 父形の祖母は、妻である女性が他の男と通じ合ったのではなどと言ったが、 そんな事があるわけも無く、すぐに否定された。 実際にはこの子には色素が足りないだけの、いわゆるアルビノと言う症状なだけなのだが、 主要都市等から離れたこの村では、まだそんな事は知られていなかった。 両方の祖父母はその子を見て話し合い、呪い子ではないかと言い始めた。 父親である男性も、自分の娘にも関わらず気味悪がり、 妻に殺してしまってはどうかと意見を持ちかけた。 それを聞いた時、妻である女性は激昂して反対した。 『自分がお腹を痛めてまで産んだ我が子を殺すなど、それが父親の言うべき言葉ですか!?』と。 その言葉を聞き、男性も、二人の両親も何も言い返せなかった。 それからと言うもの、母親は娘の事を大切にしながら、 周囲の他の人々は一線を引きながら、その赤ん坊を育てていった。 少女の名前は、綾波レイと言った。 ********************************************* 竜神暦2005年 一人の女性が村の周囲の森の中で座り込んで休んでいた。 ?:「ふぅ。まったく、司令も人使いが荒いんだから。」 その女性は短く切りそろえた黒髪をかきあげ、額に流れている汗を拭き取る。 姿からして旅の魔術師のようだ。 年の頃は、三十前後といった所だろうか? 最も、面を向かって指摘したらどんな反応が帰ってくるかわからないが。 暫くの休憩の後、女性は立ち上がると、自分に言い聞かせるようにこう言った。 ?:「さてと。今日中にこの地図の村までいかないとね。また野宿じゃ話にならないし。」 その女性は荷物を持ち直すと、再び森の中を歩み始めた。 その耳には川のせせらぎが聞こえていた。 村のすぐ隣を流れる川原で、一人の少女が水を汲み上げていた。 レイ:「よいしょっと。」 少女はその細腕で水を組んだ桶を持ち上げると、危なっかしい足取りで村に向って歩き始める。 その少女の名前は綾波レイ。 少々病弱な点を除けば、健やかに育っているようだ。 ただその蒼い髪、赤い瞳、そして白すぎるのではと疑いたくなるようなその肌は相変わらずである。 体質なのだから当然と言えば当然なのだが。 レイはその小さい体で必死になって桶を運んでいた。 母親もまた、レイと同じように体が弱く、最近は起き上がる事もままならない。 父親は昼は狩や畑の仕事があるため、母親の看病は必然的にレイが行っていた。 レイは母親が好きだった。 村の住人は表面には出さないが、自分を避けている感があったからだ。 それは父親や、祖父母にしても同じこと。 唯一母だけがレイに優しく接してくれていた。 だからそんな母を看病する事は、レイにとっては苦にならなかった。 ただ自分の体が弱い為、無理をしては母に心配をかけてしまう事があった。 それがレイには心苦しかった。 看病しているつもりが、心労をかけてしまうことになるから。 だからレイは無理をしない。 自分が今の状態でできる限りの事をして看病する。 それがレイの考え方だった。 その為か、その行動には一切無駄が無い。 この年齢の子供とは思えない行動である。 そんなレイが、桶を運んでいる最中、森の中から何かが近づいてくるのを感じた。 レイは思わず硬直した。 村の大人達には嫌われているし、子供からは虐められる事が多いからだ。 レイは森の茂みをじっと見つめる。 ?:「無事に着けたわね。はぁ、よかった。」 そんなレイの様子に気付かずに、茂みから出てきた人物は安堵の声を放つ。 その様子を見ていたレイは、呆気にとられて目を丸くしていた。 そんなレイに気がついたのか、その女性は笑顔を湛えて近づいてくる。 ?:「ねえ、お嬢ちゃん。この村の村長さんの家って何処かしら?」 呆然としていて、聞かれた事の内容が一瞬理解出来なかったが、 その内容を理解した途端にレイは慌てて答えた。 レイ:「え、ハイ。村の・・・中央の・・・お家・・・です。」 緊張しているのか、それとも生来の人見知りする性格の為か、それとも虐められている反動か、 レイはつっかえながら村長の家を教える。 質問をした女性はそんなレイの様子を優しく微笑みながら聞いていた。 そしてレイが持っていた、水の入った桶にちらりと視線を送った後、礼を述べた。 ?:「ありがとう、お嬢ちゃん。所でそれ、大変そうね?あたしが持つわよ。」 そう言って、その女性は桶に手を伸ばす。 その行動に、レイは慌てた。 レイ:「あ、いいです。そんな御迷惑を・・・。」 ?:「いいわよ。この桶持つの、あなたじゃ大変そうだし。 もしそれで納得できないなら、教えてもらったお礼ぐらいに考えて。」 そう言って女性は微笑む。 それを見たレイは、何も言う事が出来なくなってしまった。 初めてだった。 母親以外で自分にこんな風に気軽に接してくる人物は。 初めてだった。 自分の外見など意にも介さずに、心配してくれる人物は。 だからレイは、今だけでもこの気分を味わい続けたかった。 レイ:「じゃあ、あの、お願い・・・します。」 レイの素直な反応に、その女性は優しく微笑んだ。 そして二人は村に向ってゆっくりと歩き始める。 その時、女性は何かに気付いたようにレイに話し掛ける。 ナオコ:「そう言えばお互いに名乗ってなかったわね。私は赤木ナオコ。 見てわかると思うけど、魔術師よ。一応ね。」 レイ:「綾波・・・レイです。」 赤木ナオコと名乗った女性は軽く笑いながらいった。 それに対して、レイは俯き気味に名乗る。 その頬が少し赤くなっているのは気恥ずかしさの為だろうか? それからは歩きながら話す。 実際はナオコが一方的に話し、レイがそれに相槌を打つといった感じである。 といっても、ナオコも物静かな方なので、そんなに頻繁に話すわけではない。 その途中、初めてレイが自分から話し掛けた。 レイ:「あの・・・ナオコ・・・さん。聞いても・・・良い・・・ですか?」 今まで人から避けられつづけた所為で、自分からはなすことが極端に少なかった。 その為か自分から話し掛ける事、ましてや質問する事には、多少なりとも抵抗があった。 ナオコはその事に何となく気付いた。 しかしそれを表に出す事無く、レイに聞き返す。 ナオコ:「ン?何かしら?答えられることなら答えるけど?」 レイ:「あの、さっきの一応魔術師ってどういう意味ですか?」 レイは先ほどのナオコのいい方が気になって仕方なかったようだ。 確かに魔術師ならば魔術師とはっきりと名乗ればいい。 しかし先ほどのナオコの言い方はまるで違うような言い方だった。 その質問に、ナオコは笑って答えた。 ナオコ:「ああその事?もうすぐ魔術師を引退するつもりだから。」 レイ:「引退?」 レイはナオコの言葉に更に疑問を深める。 魔術師を引退するという言葉の意味がわからない。 その様子を見ていたナオコはおかしそうに笑いながら続ける。 ナオコ:「正確にはタイプを変えるのよ。研究を専門に行う為に、賢者に変えるの。」 その言葉を聞いて、やっとレイは納得いったのか、頷きながら歩いていた。 暫くすると、レイがその歩みを止めた。 止まった事に一瞬気が付かなかったナオコは、数歩進んでから止まり、レイに振り向いて聞く。 ナオコ:「どうしたの?」 レイ:「あ、ここ、私の家です。」 そう言うとレイはナオコから桶を受け取り、家の奥の方に置きに行く。 そしてすぐに駆け足で戻ってくる。 レイ:「じゃあ、あの、村長さんの家に案内します。」 そう言ってナオコの隣に歩み寄る。 ナオコはその好意を笑顔で受けた。 ナオコ:「ええ、お願いね。」 そう言って二人は村長の家までの短い距離を笑顔で歩いた。 それはレイが母親以外で始めて人に向けた笑顔だった。 その夜、レイは病床の母親に笑顔でその事を話した。 母親もまた、そんなレイの様子を笑顔で見つめながら頷いていた。 一方、村長の家に泊めさせて貰ったナオコは納得がいかないという表情でベットに横になっていた。 自分が司令に頼まれた内容自体は快く受け入れてもらえた。 それはこの村に周囲の森の魔力の観測、及び研究用の施設を作る事の許しを得るものだった。 村長は役に立つのならばと、快く受け入れてくれたのだ。 彼女が気に入らないというのは、村長が忠告として言ってきた言葉だった。 それはレイに対する事だった。 『あの子は呪い子です。あの家で母親が病床に臥しているのもその影響なのです。 悪い事は言いません。近寄らない方が良いですよ。』 そう言われた時、ナオコは皮肉をもってこう答えていた。 『御安心下さい。私の研究テーマには呪いもありますから。』 ナオコはそう言い切ると、割り当てられたこの部屋に戻ってきたのだ。 先ほどの村長の言葉で、この村でのレイに対する扱いはおおよそ想像がついた。 そして昼間のレイの反応も。 その夜、ナオコは一つの決意をした後、その瞼を閉じた。 翌朝、いつものように朝早く起きたレイは家を出て再び水を汲みに行こうと家を出た。 するとその視線の先に一人の人物が立っていた。 レイ:「ナオコさん。」 自分の名を呼んでくれたことが嬉しいのか、ナオコは笑顔を見せる。 そんなナオコに、レイは水桶を持ったまま近づく。 レイ:「こんなに朝早く、どうかしたんですか?」 どうやら昨日の間にすっかり慣れたのか、レイはナオコと普通に会話できるようになっていた。 レイの質問に、ナオコは笑顔で答えた。 ナオコ:「レイちゃんを待ってたのよ。朝が早いって聞いてたからね。」 レイ:「私を・・・ですか?」 話すのには慣れたが、まさかちゃん付けで呼ばれるとは思っていなかったらしく、 レイの頬は少し赤くなった。 その反応を見て、ナオコは優しく笑った。 ナオコは子供が好きだった。 特に子供が無邪気に笑っている姿を見ているのが好きだった。 自分の娘であるリツコが、独立の道を歩み始めてからはその思いは強くなっていた。 日夜研究をしているのも、子供達が無邪気に笑っていられる世の中にしたいからだ。 そんな思いを持っているナオコには、素直に微笑む事の出来ないレイが、気になって仕方が無かった。 レイみたいな子供がいなくなるようにしたかった。 だが、現実はそうではない。 今自分の目の前に立つ少女は、その外見の為に迫害を受けているのだ。 村人の考え方を打ち消す事は、すぐに出切る事ではない。 確かに時間をかければ納得してもらえるだろう。 しかし余所者である自分の話を聴いてもらうだけでも多大な時間が掛かる。 その間もこの少女は迫害を受け続けるだろう。 ならば相手に手を出させなければいい。 それにはどちらが強いのかはっきりさせればいいのだ。 間違っている方法である事は否定できない。 しかし、少なくともこの少女の自信には繋がる。 その後、その力をどうするかはこの少女の判断である。 だが、この少女ならば平気であろう。 ナオコは一晩中考えた末にこの結論に出た。 力を得る機会だけでも与えようと。 ナオコ:「ねえ、レイちゃん。今日時間あるかしら?」 ナオコの突然の質問にレイは一瞬反応できなかったが、 その言葉の意味を理解すると、自分の今後の予定を思い出した後に答えた。 レイ:「午前中は洗濯とか掃除があるので、午後からでよいのでしたら。」 ナオコ:「そう。じゃあ午後から私に少しつきあってくれないかしら?」 レイ:「ええ、わかりました。」 レイの返事とその笑顔を見て、ナオコは満足げに頷くと、レイを促す。 ナオコ:「水汲みに行くんでしょ?私も川原に用事があるから、そこまで一緒に行きましょ。」 午後になり、昼食を取り終えたレイは、ナオコのいる川原へと向っていた。 朝、川原で分かれた後、ナオコはずっとそこで何かをしているらしい。 (何をしてるんだろう?) レイはナオコの行動に疑問を感じながら、川原へと向った。 レイが川原につくと、ナオコが笑顔で迎えてくれた。 レイは周囲を見回すが、特に変わった所は見受けられなかった。 レイ:「ナオコさん。何をしていたんですか?」 ナオコ:「それはすぐにわかるわ。それよりもレイちゃん。あなたに聞きたい事があるの。」 ナオコがそういったときの顔は、真剣そのものだった。 レイはその表情を見たとき、思わず息を飲み込んだ。 しかしナオコが次にした言葉は、レイにそれ以上の衝撃を与えた。 ナオコ:「あなた、魔術師になるつもりは無い?」 レイ:「私が・・・魔術師・・・ですか?」 ナオコ:「ええ、そうよ。初めて会った時から、あなたには素質があると思っていたの。 あなたの中には強大な魔力が眠っているわ。 訓練すればあたし以上の魔術師にもなれると思うの。どうかしら? 今してたのも、魔術の力が周囲に影響しない為の結界を作っていた所だったの。」 熱心に勧めてくるナオコに、レイは何か違和感のような物を感じた。 レイ:「何か・・・隠してません?」 その言葉を聞いたとき、ナオコは一瞬対応できなかった。 が、一回深く息を吐き出すと、ナオコはレイに笑顔を向けて話し始めた。 ナオコ:「隠している訳じゃないんだけどね。あなたが自分を守る為の力にしてほしかったの。 あなた、その外見の所為で虐められてるでしょ。」 それは質問ではなく、確認だった。 その言葉を聞いた時、レイは無意識の内に一歩足を引いていた。 それを見たナオコは慌てて言葉を続けた。 ナオコ:「誤解をしないでね。私はあなたを避けたりしないわ。 あなたのその外見も、体質的な物だというのは医学的な面から見ても明らかだからね。 それに、あなたに素質を見出したのは嘘ではなくホントよ。 村の人たちを見返すとかじゃなくて、あなた自身の意志でやってみない?」 それをどう使うかはあなた自身なんだから。」 その言葉を聞いて、レイは暫く悩んだ後、決意を持って頷いた。 それを見たナオコは、嬉しそうに微笑んだ。 それから、ナオコはレイに魔術を教え始めた。 レイの魔術の才能に、ナオコはただ驚くしかなかった。 レイはまるで真綿が水を吸い込むように魔術に関する知識を覚えていったのだ。 ナオコ:「葛城博士の娘さんが、最近引き取ったあの赤い髪の女の子といい、このレイちゃんといい、 天才っていうのは本当にいるものなのね。」 ナオコは娘のリツコに製作担当を任せた、第三新東京にいる、 恩師の娘にして娘の親友であるミサトが最近剣術を教え始めた少女の事を思いだしていた。 その少女もまた、半年ほどの間に凄まじいほどの上達を見せ、ミサトに迫る勢いだという。 それに危機感を持ったミサトが、急に稽古を真剣にやり始めたと、 リツコが笑いながら語っていたのを思い出したためだ。 半年ほど経って、ナオコは第三新東京に帰らねばならない時期になった。 そのときには礼はかなり魔術師として強くなっていた。 後は魔力の向上等だが、それは時間をかけるしかないことなので、ナオコに教える事は殆んど無かった。 ナオコは、涙が溢れそうになっていた。 見送りに来ていたレイもまた、涙を流していた。 レイとナオコは随分親密になっていた。 ナオコの事を楽しそうに話すレイの様子を喜んでいた母親に、 ナオコは何度御礼を言われたかわからなかった。 ナオコ:「じゃあね、レイ。もし機会があったら、第3新東京にも来てね。歓迎するわよ。」 レイ:「はい、ナオコさん。」 そうってナオコは第三新東京に帰っていった。 レイはナオコの姿が確認できなくなった後も、暫くその場から離れなかった。 それから半年後、天候の不順の為、村に伝染病が広まった。 その病気の薬が村にはあった為、死者は殆んどでなかったが、 体が弱く、病床に臥せっていたレイの母親が高熱の為になくなってしまった。 その後三日ほどの間、レイは泣き続けた。 その間に、村にはある噂が流れ始めた。 その内容は天候の不順も伝染病も、皆呪い子であるレイの所為だというのものだった。 言い出したのはレイの母方の祖母だった。 娘を失った悲しみを、あろうことか孫であるレイにぶつけたのだ。 それから数日後、レイは村から追放される事になった。 父親は庇おうとすらしなかった。 村から追放されたレイは、ある場所を目指した。 第3新東京。 そこには自分が母の次に慕っていた人物、赤木ナオコがいる筈だった。 旅の間、レイは幾度と無く魔獣に襲われた。 しかし出会った魔獣が弱かった事もあり、レイは傷を負う事も無く撃退する事が出来た。 レイを苦しめたのはむしろ人間だった。 立ち寄った町の住人がレイの事を奇異の目で見たのだ。 そのせいで満足に宿に泊まることも出来なかった。 ただ、どんな場所にも自分を理解してくれる人がいる事も知った。 止まる場所が無く、路上に座り込んでいたレイを、自分の家に招いてくれた人も中にはいたのだ。 それがレイには嬉しかった。 体が弱いレイは、一年をかけてようやく第3新東京に着く事ができた。 しかしそこでレイが聞いたのは、実験中の事故によって、 ナオコが亡くなっていたと言う悲しい知らせだった。 途方にくれていたレイを、ナオコの娘であるリツコが暖かく迎えた。 リツコは、ナオコが楽しそうにレイの事を話し、心配していた事を語った。 そして自分の家で暮らすように進めてくれた。 レイは涙を流して礼を言うと、そのままリツコに抱きついて大声で泣いた。 そんなレイを、リツコは優しく抱きしめた。 リツコの家で暮らすようになってからも、レイには不安が残っていた。 この地の人間が、自分にどんな態度で接してくるのか? それが不安で仕方なかった。 町を歩いていて、やはり自分に視線が集まっているのをレイは感じていた。 しかしレイはそれが今までのものとは微妙に異なっているのに気付いていた。 今までのように恐れや恐怖を持った物ではなく、あくまでも興味だけの物だったからだ。 だからと言って、それが気分の良い物である筈がない。 その視線に耐えかねて、その場から走り出そうとした時、突然の怒声があたりに響いた。 「変な目で見てんじゃないわよ!!」 その声に驚いたレイは思わず辺りを見回し、周囲の人々は一歩下がった。 辺りをきょろきょろと見回すレイに、軽快に近寄ってくる一人の少女がいた。 ?:「あなたがリツコの行ってた、綾波レイさん?」 突然名前を呼ばれたレイは、思わず頷いていた。 ?:「やっぱりそうか。リツコが言っていた外見通りだったからすぐにわかったわ。」 自分に笑いかけて来た少女の言葉を聞いているうちに落ち着きを取り戻したレイは、質問する。 レイ:「あの・・・あなたは?」 アスカ:「あ、ごめん。まだ自己紹介もしてなかったわね。私は惣流・アスカ・ラングレー。 私の剣術の師匠がリツコの親友でね。あなたの事を聞いてきたの。 いろいろと話も聞いてみたかったから。」 レイは驚きを禁じえなかった。 自分と同じ年の子とこんな風に話す事は今まで無かったのだから。 アスカ:「ねえ、少しは無しでもしない?」 アスカの勢いに幾分呑まれたレイは頷く事しか出来なかった。 公園のベンチに座って話している最中に、レイは疑問に思っている事を口にした。 何故自分にそんな風に親しくしてくれるのかと。 それを聞いたアスカは、自分の髪や瞳を指差して語った。 自分も昔虐められていた事を。 だから町で見かけたとき、何となく放って置けなかったのだと。 アスカ:「迷惑だった?」 そう言ってきたアスカに、レイは慌てて首を振って答えた。 レイ:「迷惑だなんて・・・。むしろ、嬉しかったわ。」 そう言って笑うレイを、アスカは満足げに見ていた。 アスカ:「これからはあなたの事、レイって呼ぶから、あたしの事はアスカって呼んで。」 レイ:「わかったわ、アスカ。」 アスカ:「ん、宜しい。それと、あなたを虐めるような奴がいたらあたしに言いなさい。 絶対にあなたに謝らせてやるからね。」 そう言って笑いって接してくれるアスカを、レイは眩しそうに見つめ、涙を流しながら頷いた。 ********************************************* それから七年後、竜神暦2014年。 レイ:「アスカ、有り難う。」 向かい合ってお茶を飲んでいたアスカに、レイが突然御礼を言った。 それを聞いたアスカは礼を言われる理由に心当たりが無く、疑問を持った。 アスカ:「何よ突然。あたしレイになんかしたっけ?」 レイ:「約束を守ってくれてる事。」 アスカ:「約束?・・・なんの?」 レイ:「フフフ、秘密。」 アスカ:「気持ち悪いわね〜。正直に言いなさいよ。」 そんなアスカの反応に、レイはただ微笑み返すだけだった。 (あの時から、あなたはずっと私を支えてくれてる。何時か私があなたを支えれる時が来るのかしら?) レイはそう思いながら、空を流れていく雲を見つめた。 それは、レイの思いが叶う、そして少年の到来する丁度一年前の、ある晴れた休日の一幕であった。 後書き 初めて外伝を書きましたが・・・難しい。 シンジを出さないだけでこんなにもハードになるとは思いもしなかった。 普段だとシンジが勝手に動いてくれるんですが。 しかも終わり方がなんだか中途半端な気がする。 でもこれ以上は思いつかないし。 やっぱり文章能力がないな〜。自分。 本編に戻れば早いんだろうけど、そうもいかないし。 魔:反省よりも、早く次に着手しやがれ。 聖:こんなに間を開けてどうするんですか。 作:だ〜、外伝にまで出て来るなよ。 魔:時間をかけてるおまえが悪い。 作:しょうがないだろ。 上手くまとまらないわ、途中で読んだ別の作品でダメージ受けるわで大変だったんだから。 聖:そう言えば、レイの相手であるカヲルはなぜ出さないんです? 作:ああ、それは一様考えたんですが、なにぶん収拾がつかなくなるのでやめたんです。 魔:実際はあまり好きじゃないから出したくなかっただけだろ。 作:・・・その通りです。面目ない。 聖:面目ないと思うなら、早く次を書いてくださいね。 作:後三作ぐらいは外伝のつもりだから、多分無理ですよ。 魔:無理でも書けー―!! P,S 感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。 悪戯、冷やかしは御免こうむります。
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