目の前に転がる一つの死体。 十年間探し続けた、両親と故郷の人々の敵。 その敵が、今は物言わぬ骸となって目の前に転がっている。 この男を殺せば終わると思っていた。 自分の復讐の旅も。生き続ける意味も。 全てが消え去り、解放されると思っていた。 この呪わしい、自分の人生から。 休ませる事ができると思っていた。 極限まで極めたこの肉体を。 限界ぎりぎりまで張り詰めた精神を。 傷つき、疲弊しきったこの魂を。 (僕の復讐は・・・まだ・・・終わらないのか。) シンジは、誓いを新たにしていた。 オシリスの言い残した男。両親や故郷の人々を殺した張本人。 キール・ロレンツ 探し出し、必ず自分のこの手で殺すという事を。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 八翼の堕天使 ー第弐拾参話 狂気・復活ー ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― オシリスの死を最後に、ネルフを占領していた闇の使徒は一掃された。 開放されたネルフの職員たちはみな歓喜した。 しかし戦いの場にいたメンバーは素直に喜ぶ事が出来ず、皆やりきれない気持ちだった。 両親達の魂を自ら切り払い、ようやく倒す事のできたシンジの敵。 ようやく終わりを迎えたと思った復讐の人生はまだ終わりを迎えられなかった。 しかもその男はまだこの第3新東京市内のどこかに居る。 ネルフから見てもその男は危険分子以外の何者でもなかった。 すぐに捜索して捕らえるなり殺すなりをしなくてはならない。 最も、捕らえるという選択はまず間違いなく存在しないだろう。 その男をシンジがいかしておくとは思えなかった。 リツコとマヤはMAGIの復旧を終えると、すぐさまキールの探索を開始した。 先程の研究室とは違い、ここならばMAGIのシステムを最大限に利用する事ができる。 この第3新東京市全てを管理するMAGIに、探査できない場所は無いはずである。 キール発見は時間の問題だと考えられた。 しかしその考えは覆された。 どこを探してもそれらしい人物の存在は確認されなかったのだ。 オシリスの虚言だったのか? しかしあの時のオシリスの様子からはそうとも思えなかった。 第一、そのように簡単にわかるような虚言を吐く理由が無い。 そんな状況に陥っていた時、今まで気を失っていた冬月が意識を取り戻した。 ミサト:「大丈夫ですか、司令。まだ安静にしていた方が。」 冬月:「いや、大丈夫だ。・・・不甲斐ないな。この年になって恥をさらしてしまった。 しかも親子二代に助けられるとは。無様な事この上ないな。」 そう言って冬月は部屋の隅で瞑想を続ける少年に目を向ける。 オシリスを打ち倒した後、キールを探すし出すから、と言うリツコの言葉を聞き入れ、 全員の治癒や体力回復をした後はずっと瞑想を続けていた。 バルディエルはその後ろにじっと石像のように控えている。 その周囲には押さえ込む闘気の影響の為に雷が走っている。 それはまさに今すぐにでも走り出しそうな自分を押さえ込む、荒ぶる鬼神のようであった。 他のメンバーはその様子を心配そうに見つめている。 特にアスカは見ている方が悲しくなるほど、痛々しい瞳で見つめていた。 加持:「そんな事はないんじゃないですか?我々も彼には助けられましたし。 何より、彼の力量や覚悟を考えれば仕方ない事ですよ。」 冬月:「それは甘えと言う物だよ加持君。所で、赤木君は先程から何を調べているのかね?」 気が付いた時から周囲の事には目もくれずに、 MAGIを操作するリツコに違和感を感じた冬月はミサトに問い掛ける。 普段から常に冷静に仕事をするリツコがここまで剥きになっているのに対して、 違和感を感じるのも仕方が無いのかもしれない。 ミサト:「はい、何でもキール・ロレンツと言う名の男が闇の使徒を影から操っていたとの事です。 そしてその男が現在この第3新東京市内に居るとの事なので、現在捜索中な訳です。」 冬月:「何!キールだと!?」 冬月は突然声を荒げる。 その変わり様に驚きながらも、加持が聞き返す。 加持:「司令は何かご存知なのですか?」 冬月:「うむ、キールと言うのは裏社会で最も力を持っている魔法集団、ゼーレの総統だ。 ネルフに対する最大の半組織でも有り、その因縁は深い。」 ミサト:「そんな組織があったのですか。」 重々しい口調の冬月から語られた驚愕の事実に一同は言葉を失う。 それでも作業を止める事の無いリツコはさすがと言える。 冬月:「しかしその男がこの第3新東京市に何故・・・?目的はわかるかね。」 加持:「確かオシリスは破壊神の復活とか言っていましたが。」 加持の言葉に冬月は数瞬考え込んだが、何かに気付いたらしく顔を上げる。 冬月:「ならば地上にはいない。多分ここの下だろう。」 リツコ:「下?・・・まさか!?」 冬月:「そう、ここの下にある遺跡、ジオ・フロントだ。 何の為の遺跡かわかっていなかったが、その禍々しい気配から封印された場所だ。 あの男が居るとしたらそこしかない。」 冬月がそこまで言った時、今まで一言も発しなかったシンジが言葉を掛ける。 シンジ:「どうすればそこにいける?」 八翼を広げ、第三眼を開き、完全に戦闘体勢を整えている。 すぐにでも行こうとしているのがわかる。 冬月:「確か直通のエレベーターがあるはずだ。赤木君。」 リツコ:「はい、確かにあります。ネルフの中央部、第三コンテナの部分のはずよ。」 それを聞いた途端にシンジは部屋から飛び出していく。 その後を離れる事無くバルディエルが続いていく。 その勢いに一瞬呆気に取られていた一同。 しかしすぐにアスカがそれを追いかけて走り出す。 その手にはオシリスの使っていたドラゴンバスターが握られていた。 そしてその他のメンバーもアスカに吊られるように走り始める。 最後にミサトと加持が部屋を出ようとしたとき、冬月が二人を呼び止めた。 何かと思い振り返る二人。 冬月:「二人とも、子供達を頼むぞ。」 ミサト:「大丈夫ですよ。あの子達は私達が思っている以上に大人です。」 加持:「下手をすると、俺達よりも大人かもしれませんよ。」 そう言って二人は笑顔を見せて部屋を出て行く。 冬月はそれを黙って見送る。 自分の時代はそろそろ終わりが見えてきた事を感じながら。 ジオ・フロントは巨大な球形の遺跡である。 その直径は六キロメートルと言われる、巨大な空間である。 そしてそこには巨大な地底湖があり、その中心に神殿の後のような遺跡のある小島が有る。 小島と言ってもその直径は一キロ近い。 シンジ達はそこに向かっていた。 シンジ達がついたとき、そこは幻想的な光に包まれていた。 小島を中心に七色に光る巨大な壁が湖全体を包み込んでいたのだ。 トウジ:「なんなんや、ここは?」 ムサシ:「地下にこれだけの空間があるのにも十分驚かされるが・・・」 ケンスケ:「あの光の壁は一体なんなんだ?」 一同が驚愕の人身で見つめる中、カヲルとレイがその壁に近づく。 そして暫く見つめた後、カヲルがレイに話し掛ける。 カヲル:「レイ、君にはわかるだろう。この壁がなんなのか?」 レイ:「ええ、これは巨大な魔力の壁。ただ何の属性なのかまではわからないわ。」 リツコ:「幾つもの属性の結界魔術を織り交ぜているのよ。 力が拮抗しているからこそ可能なんだけどね。」 後から近づいてきたリツコが二人の疑問に答える。その表情は険しい。 それはこの結界を作り出すことの困難さをあらわしていた。 そんな時、辺りに声が響き渡る。 「やれやれ、オシリスは失敗したのか。まあ十分時間稼ぎにはなったがな。」 マヤ:「な、なんなんですか。この声?」 リツコ:「落ち着きなさいマヤ。魔術で声を空間を超えて届かせているのよ。」 ミサト:「あなたがキール・ロレンツね。何処にいるの!?姿を現しなさい。」 ミサトが声を荒げて言い放つ。しかしそれに対する返答は帰ってこない。 それに腹をたてたミサトが再び叫ぼうとした時、それを遮るようにシンジが言葉を放つ。 シンジ:「いた。この結界の向こうの神殿。その中心にある祭壇の上にいる。 その周囲に七百人ぐらいの魔術師も居るな。」 シンジはその第三眼の力でキールの居場所を見つけ出していた。 マナ:「な、七百人!?嘘でしょ。」 マユミ:「マナさん。この状況で嘘を言っても仕方ないですよ。」 ヒカリ:「マユミ、冷静に揚げ足とって居る場合でもないわよ。 お願いだからそのマイペースなとこ何とかして。」 そんな会話をしている間に再び辺りに声が響き渡る。 キール:「如何にも、私がキール・ロレンツだ。今私は忙しいのでね。黙っていてくれたまえ。」 アスカ:「あんたたち、何をするつもりなの!?」 アスカは自分達を無視しようとするその傲慢な態度に腹を立てて怒鳴る。 それをキールは不思議そうに問い返す。 キール:「オシリスから聞いていないのかね?私が行おうとしている儀式は破壊神の復活。」 アスカ:「そんな者復活させてどうするつもりよ。操るなんて馬鹿な事言わないでしょうね。」 アスカの言葉を、キールは一笑して聞き流す。 キール:「神を操ろうなどと言う事は考えておらんよ。むしろその逆だ。 この世界の全てを破壊して頂くのだ。」 ミサト:「なんですって!?何故そんなことを。」 キール:「世界を滅ぼした破壊の神は次の世界を創りだす創造の神となる。 そしてその神に使えたものは次の世界への転生を約束されるのだ。 わかったら黙って見ているが良い。それとも、ここで我がゼーレに加盟するかね。」 そう言ってキールは再び儀式へと意識を戻す。 そんなキールの言葉に疑問を持ったバルディエルはシンジに問い掛ける。 バル:「主。今の、言葉、どう、思われる?」 シンジ:「馬鹿を言うな。破壊の神が行う破壊はただの破壊ではない。完全な消滅だ。 確かに破壊と再生は一対の物。炎の精霊王が二体居るのもその為だ。 しかしそれも根本となる物があるからだ。破壊神の破壊はその根本すらも破壊する。 次の世界を生み出す力など、おそらく持っていないだろう。 それに、そんなことは僕には関係ない。」 シンジはバルディエルとの会話をそこで区切ると、結界を睨んで大音で声を放つ。 シンジ:「キール!!貴様、聖魔の魂をどうした!?」 キール:「まったく、時間をとらせる者達だ。私には時間が無いと言うのに。」 シンジ:「答えろ!!」 キール:「おまえが探しているのはこれだろう。碇ゲンドウ、碇ユイの聖魔の魂はここにある。 他のカオスの町の人間達のもな。」 そう言ってキールは祭壇の周りに配置した宝石を手に取る。 キール:「この聖魔の魂は、中の魔力を抽出できなくても、使いようがある。 陣の所定の場所に配置すると強大な魔力を生み出すのだ。 そしてその強大な魔力は墓石の封印を破壊する力となる。神を復活させるのだ。 代償として必要な事だったのだよ。栄誉ある死だ。」 その言葉に、シンジの表情は一変した。 その表情は今まで誰も、バルディエルさえも見た事の無い表情だった。 今まで、闇の使徒を相手にしている時は常に憤怒の形相だった。 しかし今のシンジの表情は悲しみに満ちていた。 その黒い瞳から赤い血の涙が一筋流れる。 そして次の瞬間、その表情は憤怒の形相となり、シンジは飛び立っていた。 シンジ:「そんな理由で俺の両親を・・・町のみんなを殺しただと・・・。ふざけるな!! 聖魔の魂!全て回収させてもらう!!」 シンジはそう叫びながら結界に突撃していく。 その右手のルシフェルは雷を、左手のサタンは炎を纏っている。 【雷炎突進術・超龍雷炎牙】 ルシフェルとサタンを交差させると、纏っていた雷と炎を巨大化させ、それを全身に纏う。 雷と炎の交じり合ったそれは、巨大な龍の姿のようであった。 その龍は結界の中を突き進んでいく。 しかしシンジは途中で異変に気付いた。 自分の周囲の雷と炎の勢いがどんどん弱まって来たのだ。 シンジ:「何だ?・・・まさかこの結界!?」 結界の力に気付いた時にはもう遅かった。 次の瞬間にはシンジを覆っていた雷と炎が掻き消され、七つの属性全ての攻撃を受け、 結界の外に弾き飛ばされていた。 シンジ:「クッ!グウゥゥゥ・・・」 結界の外に弾き出されたシンジはそのまま回りの壁面にめり込むほどの勢いで叩きつけられる。 その拍子にルシフェルとサタンがシンジの手から離れて別々の場所に突き立つ。 しかしシンジだからこそその程度で済んだのである。 他の人間であれば間違いなく結界からはじき出される前に死んでいる。 アスカ:「シンジ、大丈夫?」 シンジ:「ん、大丈夫だよ。心配いらない。」 弾き出されたシンジに駆け寄ったアスカが問い掛ける。 そのアスカの後方にはバルディエルが控えている。 アスカに場所を譲ったように見えるのは気のせいだろうか? シンジはそんなアスカに笑顔を見せて岩盤にめり込んだ体を起こす。 それと同時にキールの声が再び響き渡る。 キール:「言っておくがこの結界は何者にも破れはしない。 この結界はそれぞれの属性につき百人、修練に修練を積んだ魔術師が張り巡らしているのだ。 如何なる攻撃も、必ずどれかの属性に属している。 その攻撃と同属性の魔力がその効力を弱め、反属性の魔力が粉砕する。 今その少年は半分ほど超えたが、それだけでも驚愕に値する。 ましてや生きているのだからな。大した物だ。その生命力も魔力もな。 しかしおまえ達の中で最強の者ですら破れんのだ。無駄な努力よ。」 それは無駄を悟り、邪魔をするなと言う意味だった。 しかし彼が次に言った言葉が自らの首を絞める失態となった。 キール:「これを破る事ができるのは無属性。しかも神龍皇クラスの魔力が無くては無理だろうな。」 その言葉を聞いたとき、シンジの瞳の色が変わる。 そしてその変化に気付いたバルディエルは嫌な予感に襲われる。 バル:「主。何、する気だ?」 シンジ:「アスカ。バルディエル。少し離れていてくれ。」 バルディエルは不安そうに問い掛けるが、シンジはそれに答える事無く二人に離れるように告げる。 そして立ち上がったシンジは再び結界に近づく。 しかしその手には何も持っていなかった。 シンジ:「神龍皇クラスの強大な魔力ね。良いだろう。見せてやる。 神龍皇の力を真に引き出した最強の姿!真の竜騎士の力を!!」 そう言うとシンジは纏っていた黒衣を脱ぎ去る。 そして瞑目すると、何かに語りかけるように言葉を紡ぐ。 シンジ:「神龍皇よ。気高く、誇り高い龍族をすべる王よ。わが身の内に住まう最強の者よ。 その強大な力を解放し、我が力となせ。 全てを弾くその装甲を我が肉体とし、その強大なる魔力を我が力とせよ。 気高き最強の竜王よ。」 そう、シンジはその神龍皇に勝利し、その力をその体内に秘めているのである。 そして今その力を完全に引き出そうとしているのである。 その言葉と共に、シンジの体から強大な魔力が噴き出す。 そして噴き出した魔力はシンジを覆うように停滞すると、巨大な龍の姿となって上昇する。 一端上昇した魔力は再び降下し、シンジへとぶつかる。 その瞬間辺りに眩い閃光が走る。 次に一同が目を開いた時、そこには灰色の無骨な鎧を纏ったシンジがいた。 頭には七本の角と七つの瞳のような宝石が埋め込まれた兜。 肘や膝には角のような突起物。 手や足の部分にも、まるで龍のような爪が生え、胸部には七色に光る瞳のような神龍石。 肩の鎧は細身のシンジには似合わないほどに張り出している。 その肩からは筒状の物体が左肩に付属されている。 そしてその背中には硬質的な翼が一対と、光り輝く皮膜の翼が三対生えている。 鎧から露出しているのはシンジの顔の部分だけで、他に露出している場所は無い。 それはまさに、神龍皇をそのまま鎧とした姿だった。 シンジ:「神龍皇の竜騎士・完全形態。」 シンジにとっては今までの八枚の翼を広げた姿が主体である。 言わば、今までの姿はシンジは力の抑制を行う事のできる状態であった。 それに対してこの姿は一歩間違えれば力の暴走を起こしかねない姿だった。 なぜならこの姿をとるほどの事がなかったからである。 今までの姿であれほどに強大な力を有している居るのである。 それも仕方が無かったのかもしれない。 言ってしまえばこの姿はシンジにとっての真の最強戦闘形態である。 シンジは硬質的な翼にゆっくりと手を掛けると、おもむろにそれを抜き取った。 握られた翼は鎧から離れた途端に青龍等に似た巨大な刀に姿を変える。 通常、竜騎士は竜の力によって手持ちの武器を強力な武具に変える。 しかし神龍皇の竜騎士は武器を必要とせず、最初からその鎧に搭載されているのだ。 シンジ:「この姿になったからは一切の手加減は不可能。 貴様の言った神龍皇の力を知るが良い。」 シンジは再び結界に向って飛翔する。 先程と違うのは何の魔術も纏っていない事である。 しかしシンジはそのまま結界を手に持った刀、神龍皇剣で切り裂いてに突入する。 結界内を突き進むシンジに、先程と同様に七つの属性の魔力が襲い掛かる。 しかし神龍皇の鎧はその全てを受けても傷一つ突く事無く、飛翔の妨げとしない。 その装甲もさる事ながら、最強の無の属性、しかも膨大なの魔力の力によって守られている為である。 つまり魔法系の攻撃を無の魔力が、物理的な攻撃をその堅固な装甲が無効化するのである。 まさに完全無欠の鎧である。 シンジは結界をある程度突き進むと、その場で進むのを止める。 小島から大体50メートルほど離れた地点である。 シンジ:「ゼーレに与したのがおまえ達の不幸。己の判断の過ち、死出の旅路で悔やむが良い。」 シンジがそう言うと、無骨にせり出した両肩の鎧の一部が動き始める。 そしてその部分が下から上へと開く。 するとそこは神龍皇の胸部と同じように、そこは蜂の巣状になっていた。 シンジ:「神龍皇の誇った無属性広範囲魔術・神龍弾。受けるが良い。」 シンジの言葉と共に、両肩部分に魔力が集中すると、そこから無数の魔力の弾丸が発射される。 その一発一発が通常魔術の最上級クラスを凌駕する破壊力を秘めていた。 結界を維持していた七百人の魔術師達はなすすべなくその攻撃を受ける。 キール:「馬鹿な・・・。あの結界を打ち破るなど・・・。このままではこちらの作業に支障が。 おまえ達!魔力を一点に集中し、ここの祭壇だけでも守るのだ。」 キールの言葉に、魔術師達は吹き飛ばされる仲間の事も気にせずに結界を生み出す。 この者達にとって、破壊神はいわば信仰の対象である。 そして信仰は時に人を盲目にする。 目的の為、ましてやその信仰の対象の復活となれば、犠牲など厭わないのだ。 魔術師達は祭壇の周囲により強力な結界を残して死に絶えた。 結界が消えたことで、ようやくミサト達にもそこで起きた現状を知る事ができるようになった。 しかしその場の光景は、余りにも凄惨なものとなっていた。 既に人であることを放棄しつつあるシンジは、魔術師達の死すらも気に止めていない。 その姿は目的の為に激進する、龍そのものであった。 しかし七百人の魔術師の魔力の集合体である祭壇の結界は、シンジの神龍弾ですら耐え切って見せた。 その堅固さは驚嘆に値する。 キールは結界がシンジの攻撃をしのげる物だとわかると、儀式を続行する。 その場にある聖魔の魂にはひびが入り始めている。 破壊神の復活と言う膨大な魔力の力が聖魔の魂の耐久力を上回り出しているのだ。 キール:「フッフッフッフ・・・もうすぐだ。もうすぐ復活する。 そして私は次の世界で再び生きるのだ。」 キールの体は延命の為に各所を機械に交換している。 目の部分にバイザーを付けているのは、視神経に直結させて見えなくなった目の代わりにしている為だ。 破壊神の復活は自分の天寿にすら逆らって延命し、それでも尚生に執着したがゆえの行動なのだ。 そう、来世と言う名の生に。 まさかその考えを破壊神に利用されているとは気付かずに。 狂ったように破壊神の復活の儀式を続けるキールを、シンジは冷めた瞳で見つめていた。 そしてゆっくりと地面に降り立つ。 シンジは神龍剣を再び鎧に戻すと左腕を天に向けて掲げる。 すると、左肩に付属していた筒状の物体がシンジの左腕を飲み込むように覆う。 左手が完全に覆われると、それはまるで大砲のような形となった。 おそらくシンジの左腕と完全に融合し、直接魔力を抽出する為の物なのだろう。 シンジ:「古より曰く神龍皇の魔力は全てを消滅させ、無に帰さん。 即ち神龍皇の魔力を持って貫けぬ物などは無い。覚悟せよ。」 そう言うと、シンジは左腕に全魔力を集中する。 集められた膨大な魔力はシンジの左腕で収束され、より強大な物となっていく。 アスカ達は声を放つ事も出来ずに、ただその光景を見つめるだけだった。 シンジ:「父さん。母さん。そして町のみんな。聖魔の魂を取り戻せない事、許してくれ。 無属性極大魔術・神龍砲!!。」 シンジは神龍皇の誇る最強の魔術までも放つ事ができるようになっていた。 シンジの左腕からは凄まじいまでの魔力の奔流がキールに向って放たれる。 その凄まじく強大な魔力の力は結界などものともせずに貫き、祭壇全てを飲み込む。 そんな中、キールは高笑いを上げて叫んだ。 キール:「もう遅い。遅かったのだ。聖魔の魂は砕け、神の復活の儀式は終わった。 破壊の神よ、我が魂をあなたに捧げます。長き封印からお目覚め下さい。」 それだけ言い残すと、キールは狂ったように笑いながら魔力の奔流の中に消え去った。 いや、事実狂気にかられていたのだろう。 その狂気の為に、一体どれほどの人間が犠牲になったのかは想像も出来なかった。 シンジはそれを見届けると竜騎士の姿から元の状態へと戻った。 竜騎士の姿から戻った途端、シンジは片膝をついた。 息は肩でするほどに荒くなっていた。 シンジがこれほどに消耗すると言う事実は、竜騎士の姿に掛かる負担の大きさが窺い知れた。 疲労したシンジにバルディエルがシンジより渡されていた治癒の札を使う。 そのおかげでシンジは息を整え、再び立ち上がることができた。 その光景を遠目に見ていたアスカ達は安堵とともに胸を撫で下ろす。 中でもアスカはシンジを心配する余り気を張り詰め過ぎた為、 シンジが立ち上がったのを見た途端に座り込んでしまった。 シンジは千里眼を使って聖魔の魂の欠片でも残っていないか探したが、そこには何も残っていなかった。 シンジは落胆の溜息を一つ吐くと、アスカ達の方を振り返って歩き始める。 復讐の対象となった者はこれで完全に殲滅し尽くした。 シンジにとっては今まで生きて来た目的全てを果たしたのだ。 しかしそれとは裏腹にシンジの心は晴れなかった。 復讐を果たした今、シンジは今後どうすれば良いのかがわからなかったからだ。 また復讐と言う行為を果たしたにも関わらず、満足感はえられず、シンジは逆に虚しさを感じていた。 シンジ:「結局、死に場所にはなりえなかったな。僕はこれからどうすれば良いんだろう。」 シンジは憂いを含んだ声で寂しげに呟いた。 後を共に歩んでいたバルディエルはそれを聞いて、シンジの後姿を悲しげに見つめた。 長年シンジに付き添って来たバルディエルであったが、 シンジの背中がこれほど小さく見えたのは初めてだった。 が、次の瞬間、ジオ・フロント全体に異変が起きた。 前述したがジオ・フロントは巨大な遺跡である。 そのジオ・フロンと全体が揺るぎ出したのである マナ:「な、何が起きたの!?」 ヒカリ:「地震にしてはゆれ方がおかしいわ。」 ミサト:「一体何がどうなっているのよ!?」 揺れは収まるどころか大きくなっていく。 その揺れによって中心部の神殿が崩れ去る。 神殿が崩れ去ると共にその中心部から爆発が起きる。 その影響で爆煙が立ち込め、何が起きているのかより一層に困難となった。 マヤ:「火山の噴火か何かでしょうか?」 リツコ:「いいえ、ここにはマグマが吹き出るような地質ではなかったはずよ。 これは何か違う物だわ。」 加持:「キールの最後に言い残した神の復活と言う事か!?」 いきなりの事に動転していた一同だが、キールの最後の言葉を思い出すや、 その言葉に秘められていた恐怖をようやく現実のもとして感じていた。 破壊神の復活、それは世界の破滅を意味しているからである。 彼らがそう感じた時、再び辺りに爆音が響き渡る。 より一層に濛々と立ち込める爆煙。 しかし先程とは違う事があった。 真っ黒に染まった煙の中に、時に煌く物が見えたのだ。 それに疑問を持ったメンバーは何事かと今まで以上に気を張り詰め、警戒する。 その直後、煙の中で何かが煌いたかと思うと、それは一筋の光となって放たれた。 そしてその光は・・・ある一人の人物の胸を貫いた。 ヒカリ:「キャアアアァァァァアアア―――――――!!」 レイ:「アスカ!!」 その言葉に振り向いたシンジが見たものは、鮮血を迸らせながら、仰向けに倒れ行くアスカの姿だった。 シンジは何も考える事が出来ず、ただ猛然とアスカの元に駆け寄ると、あすかを抱き起こす。 シンジが抱き起こしてみた物は、止まる事無く流れる鮮血と、 今にもその命を散らしそうになっている蒼白となったアスカの顔だった。 シンジ:「アスカ!しっかりしろ。今直す。死なせたりはしない。」 シンジは疲労している事など気にもせずに治癒の法術をアスカにかける。 ヒカリとマヤも共にかけているが、急所を貫かれたアスカはそれでも尚危険な状況だった。 そしてそんな中、煙の中から金色に光を放つ、二対四枚の翼が現れる。 その翼は立ち込めていた煙を吹き払い、その翼の主の姿を露わにする。 そこから現れたのは、翼同様に金色の光を放つ、巨人であった。 光の巨人は全てを揺るがすが如き声を放つ。 破壊:「我が名は破壊神・アダム。長き封印から解き放たれた今、我が進行を阻止する力は無い。 全てに破壊と殺戮を。我、全てを滅さん。」」 破壊神は復活と、世界の破滅を宣告した。 世界を闇が覆い尽くす。 破壊と言う名の漆黒の闇が。 時は竜神暦2015年、6月5日。 破壊の神は、創造主によって受けた長き封印より、今解き放たれた。 そして、想像と破壊の運命の歯車は再び回り始めた。 To Be Next Story. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き ようやく本編に戻ってまいりました。 神竜王、大暴走モードで一気に最終話まで駆け抜けさせていただきます。 前回までの外伝で、大凡の伏線などは張り終わり、これからの話の鍵となる部分も解説が終わった為、 これからは自分の意志の赴くままに書いてまいります。 外伝を書き出してから約二ヶ月、本編を早く書きたいと言う思いがようやく果たせました。 いよいよ大詰めである破壊神の復活。 今度こそ最終話が目前に近づいてまいりました。 今度こそ後五話と掛からないと思われます。 どうかお見捨てなきよう、宜しくお願いします。 魔:久しぶりにこちらに来たら、妙に元気だな。この作者は。 聖:大した事はありませんよ。どうせただの空元気なんですから。 魔:あ?何でまた? 聖:最近感想がこないんですって。 作:いえ、感想は来ているんですよ。有り難い事に。ただね、最近外伝しか書いてなかったでしょ。 そうすると必然的にアスカやシンジの登場シーンが減りますよね。 あれはもうほとんどEVAと関係ないですからね。 魔:まあ、感想は書きにくいんだろうな。出演していた者としては複雑だが。 聖:でもそれぐらい覚悟していたのではないんですか? 作:もちろんです。しかしあの外電の参と四は結構自信があっただけに・・・ねぇ。 徐々に感想くださる片も減ってますし。 聖:所詮その程度の作品だったと言う事でしょう。 魔:書き出したときにそれぐらい覚悟の上だろう。話はしっかり完結させろよ。 作:はい、それはもう。必ずや完結させて見せます。 聖:まあ頑張ってしっかりとやってください。 P,S 感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。 悪戯、冷やかしは御免こうむります。
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