破壊の神を滅ぼさんと、闘いの化身となりし者が取った最後の手段。 それは究極の破壊魔法。 それは即ち、最強の自爆技を指していた。 それぞれの属性や、法術にも自爆的な技は存在する。 それらは自らの命を代償とする為、それぞれの属性魔術の中で最強の呪文とされており、 必ず覚える物とされている。 使ってはならない物として。 或いは命を賭してでも守りたき物があった時の為に。 そして今シンジが放ったのは、八つの属性全ての混合魔術。 それは決して有り得るべき筈の無い、シンジという特殊な存在にしか使う事の出来ない呪文。 ありとあらゆる物、全てを滅砕する呪文。 それが例え神の肉体だったとしても。 呪文を放ち、その衝撃によって破壊神と離れる際、シンジは破壊神にある問い掛けをしていた。 “神を越えた者は、なんと呼ばれるのか?”と。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 八翼の堕天使 ー最終話 龍の咆哮響く時ー ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 凄まじい衝撃が大地を吹き抜けていく。 アスカ達はその衝撃が近づいた時、無意識の内に顔を腕で守ろうとした。 しかし何時までたっても衝撃波は一向に襲ってはこなかった。 不思議に思ったメンバーは、ゆっくりと腕のガードを解いていく。 彼等の目の前には、シンジによって張られた、全ての衝撃を完全に防いでいる紅の障壁の存在だった。 しかしそれ以上にアスカ達に衝撃を与えたのは、天にまで届く聳え立つ光の柱だった。 その柱はシンジと破壊神が最後に衝突した場所に聳えていた。 辺りを見回してもシンジ達の存在を認める事は出来ない。 そこから導き出される結論は一つしかない。 シンジと破壊神は、聳え立つ光の柱の中にいるのだ。 アスカ:「シンジ・・・シンジ――――!!」 アスカの叫び声だけが、シンジの無事を祈る声だけが、辺りに響き渡っていた。 光の柱の向こうで、ゆっくりと日が上る。 恐怖と絶望に満たされた闇夜は終わり、6月6日が訪れたのだ。 破壊:「俺の肉体が・・・崩れて行く・・・だと!?」 激しく輝く閃光の中、破壊神は崩れ行く自分の肉体を信じられない面持ちで見つめていた。 シンジの肉体から放たれた膨大な量の魔力の衝撃は、破壊神の視界全てを真っ白に染め上げている。 いや、真っ白と言うのも少し語弊がある。 色が無い、と言うのが一番近い表現なのかもしれない。 全てを滅砕する魔力によって、破壊神の周囲は完全な虚無の状態になっているのだ。 破壊:「ふざけるな・・・。この俺が、破壊の神であるこの俺が、こんな所で消えるというのか!?」 破壊神は猛り狂っていた。 この世界を、創造主の生み出したもの全てを破砕・消滅させる事。 それが破壊神にとっての生まれてきた意味、存在理由だったから。 数千年前と同じ様に、今また事が成就する前に、今度はこの世から消滅させられようとしている。 封印されるだけならばまだ良かった。 何時とは知れないが復活する事は可能だったから。 例えそれが何千年何万年後の事であろうとも。 しかし今鬼神となった人間にかけられた攻撃は、自分をこの世から完全に消滅させる魔術。 破壊を司る自分ですらも、扱いこなす事の出来ないレベルの破壊の力。 まさしく命を懸けるからこそ行使する事が出来る技なのだ。 破壊:「このまま・・・このまま終われるものか! ここで終わっては、何の為にこの世に生じたのかわからんではないか!?」 破壊神はそう叫ぶと、残った前生命力を魂と体から切り取った十五個の肉片に込める。 そして更に既に大半の崩れきった体の中で最も崩壊の進んでいない場所を、 かつて自分が封じ込められていた地の、更に地下へと転移させる。 切り取った十五個の肉片は、今度は自分の力を最も色濃く受け継いだ純血種の魔獣達の中から、 更に厳選した物の体内へと送る。 肉片と融合した魔獣は異次元にて長き眠りにつくだろう。 いずれ機が熟した時、自分を開放する使徒として。 更に生命力をを込めた魂は、崩壊の渦の中から必死になって脱出する。 その途中で残っていた肉体は全て崩壊し、消滅してしまった。 しかしその代償を払う事により、何とか脱出をする事は出来た。 だが、破壊神は忘れていた。 自分の体を縫い止めていた筈の、ある神器の存在を。 そして、その神器にも意思があるのだと言う事を。 破壊神は魂だけの存在となった自分を、何かが追ってくる気配を感じた。 その気配は追え恐ろしいまでの速度で自分を追尾してくる。 破壊神は恐怖に駆られて逃げ出した。 その進路は、なぜか南へと向かっていた。 しかし破壊神の魂はその気配を振り切る事が出来ずに、遂に追いつかれてしまった。 その気配はそのまま破壊神の魂を貫き、眼下に広がる氷の海へと降下していく。 破壊:「おのれ・・・ロンギヌスめ。・・・俺を、封じ込めるつもりか!? だがなロンギヌスよ。俺は消滅は先祖。いつか必ず復活してみせる。 例え何億年経とうとも、次元を超えたとしても・・・必ずだ!! 見ているが良い創造主!見ているが良い人間!!俺は全てを、滅する者也!!」 破壊神の魂はロンギヌスの槍と共にそのまま遥か海底へと沈んでいく。 そこは後に、大地のの変動と共に南極の到達不能極と呼ばれるようになる場所であった。 光の柱の中から何とか脱出した破壊神の魂とは逆に、 シンジは身動きを取る事も侭ならない状態になっていた。 自分の身体自体を魔術の媒介にしたとは言え、呪文が発動した後は動こうと思えば動く事は出来た。 魔力の力場を体外に移し出せばよかったからだ。 しかしシンジは魔術の発動時にその全魔力と、残っていた生命力の殆どを注ぎこんでしまった。 その為に、今では指一本動かす事も侭ならないほどに消耗し、疲れ切っていた。 最も、それも動かすべき指があれば、の話ではあったが。 そんな状況下で、シンジは自分の身体が崩壊していくのを自覚しながらも、 不思議なほどに落ち着いていた。 体は身じろぐする事すらも出来ない。 しかし意識だけは妙なぐらいにはっきりとしていて、自分の身に起こっている事を正確に把握していた。 シンジ:「自分の身体が崩れ散っていくのを感じ取ると言うのは、正直妙な気分だな。 しかしルシファーや神龍皇には悪い事をした。巻き込んでしまったからな。」 竜騎士の鎧は既になく、鬼神となったシンジの肉体も、既に前腕部などは消滅しきってしまっている。 その事を理解しつつも、シンジはそれに抗う事無く成すがままにしている。 シンジにとって、呪文の発動によって自分の身体がどうなるかはわかっていた。 崩れだした肉体を維持することが不可能である事も。 それを承知の上でこの呪文を発動させたのだ。 今更抵抗し様などという発想は浮かばなかった。 それ以上に、復讐と言う目的を果たし、そのまま感情に任せて破壊神と戦ったが、 今まで生きて来た目的を失ったシンジは、虚脱感に苛まれていた。 これ以上自分の命を永らえる気力も、その理由も思い浮かばなかったのだ。 ただルシファーと神龍皇には感謝の念を抱いていた。 こうなることがわかっていたにもかかわらず、共にいてくれたのだから。 改めて、自分は一人ではなかったのだと、シンジは今更ながらに思っていた。 破壊神の魂が脱出したのは感じ取っていた。 ロンギヌスの槍がそれを追いかけていったのも。 しかしあそこまで崩壊し、消耗しきっていては当分何もする事は出来ないだろう。 少なくとも、後数千年の間は。 アスカが生きている間に破壊神がこの世界に干渉する事はもう有り得ない。 シンジの落ち着いた雰囲気はその為なのかもしれない。 そう考えた時、シンジの脳裏にアスカの泣き顔が浮かび上がった。 つい先程までこの命に未練など無いと思っていた。 しかしふと思えば、最後にアスカの笑顔を見ておきたかったとも思える。 最後に見たのが自分の為に涙を流している姿だったからかもしれない。 シンジ:「僕が消えたら・・・アスカはまた泣くのかな・・・?」 その考えに、ほんの少しの嬉しさと、多大な罪悪感を覚えずにはいられない。 そう考えた時、何かがシンジの中に流れ込んできた。 それはアスカの願い。アスカのシンジに対する想い。シンジに無事に戻ってきて欲しい。 好きだといってくれなくても良い。もう一度笑って欲しい。その笑顔を見せて欲しい。 そんなアスカの、切ないまでの願い、そして想いだった。 それは感じたことも無いほどに暖かく、心地良いものだった。 シンジはそれを素直受け入れ、もっと触れたいと願った。 それが引き金だった。 シンジの中に、アスカに対する多くの思いが生じ始めた。 もっと早くに出会いたかった。 復讐に縛られる事無く、アスカと同じ時間を過ごしたかった。 アスカと同じ想い、同じ事を感じていたかった。 アスカの温もりを感じ取っていたかった。 アスカの笑顔を見ていたかった。 胸に小さな火が灯る。 それはシンジの中に生まれた初めての未練。 アスカのもとに戻りたいと思う心。 アスカと共にいたいと言う気持ち。 アスカの笑顔を見ていたいと思う欲望にも似た感情。 それは最初は小さなものだった。 しかし想いは徐々に強くなる。 灯火はやがて炎に。 炎は燃え盛る焔に。 そしてそれは、強き想いへと変わって行く。 もう一度アスカに会いたい。 そして彼女に言いたい。 自分もアスカが好きなのだと。 いや、愛しているのだと。 愛という言葉の意味を、シンジは正直理解していなかった。 しかし今シンジの中にある想いは、好きと言う言葉だけでは言い表す事の出来るものではなかった。 体の組織が既に形を失い始めた時、シンジは強く願った。 初めて願ったのだといっても良い。 その願いは限りなく純粋なものだった。 そしてその思いは、シンジの中の虚脱感を消し、虚無の思いを埋め、シンジに再び生きる意思を与えた。 シンジ:「もしこの願いがかなうなら・・・僕はアスカと共に生きたい・・・。」 その願いを最後に、シンジは意識を失った。 全てが掻き消えようとした時、シンジのものとは別の力が辺りに広がった。 それはかつて、全ての生命を創造した力。 この世界が生まれる前、全ては混沌の虚無の中にあった。 いわば今シンジがいたこの空間はその時と同じ物。 ならばこの空間からでも、何かが生じることが出来るのは当然の事。 そして虚無より物体を生じさせるのは創造の力。 それを司っていたのは、言うまでも無く今は亡き創造主。 神々の大戦により、創造主はこの世から消滅した。 しかしその力は、聖王神と暗黒神に二分され、縮小されながらも確かに存在していた。 その力をルシファーが吸収し、更に鬼神と融合したことで強大化した。 それはまさに偶然だったのかもしれない。 偶然は重なり、やがて一つの奇跡を生んだ。 シンジの中に、創造の力を一時的にだが齎したのだ。 その創造の力は、シンジの強き想いを受けて、その偉大なる力を行使し始めたのだった。 アスカ達は、シンジの張った地の結界の中で光の柱を前に、ただ呆然としていた。 ミサトは加持に寄り掛かったような態勢で光に魅入られたように呆然とし、 加持はそんなミサトを支え続けた。 リツコとマヤは中の様子を探ろうと必死になって光を解明しようと努力した。 例えそれが無駄だろうとわかっていたとしても、何かせずにはいられなかったのだ。 トウジ・ケンスケ・ムサシ・カヲルの四人は、何もすることの出来ない不甲斐無さを噛み締め、 同じ年であるはずのシンジに、様々な面で圧倒され、尊敬の念を抱きつつも、 その生き方に反発を感じていた。 その為か、握り締めた拳からは今にも血が流れ出しそうになっている。 いや、トウジとムサシは実際に流している。 ケンスケとカヲルは手からは流していなくとも、強く噛み締めすぎたのか、口元から血が流れていた。 ヒカリは無駄かもしれないと思いつつも、シンジの無事を聖王神に祈る。 例えシンジの力と精神力が聖王神を超えている事がわかっていても、祈らずにはいられなかった。 マナとマユミは手を取り合い、固唾を飲んで光の柱をそしてそれに目を向けるアスカを見つめる。 今起きている事を理解し、そのあまりの衝撃に気を失いそうになった為だ。 だが一番衝撃を受けているはずのアスカが気を失う事も無く、 何時になくしっかりとした目を光の柱に向けている姿を見て、 倒れる訳には行かないと、二人で支えあっていたのだ。 レイはアスカの横に立ち、そっとアスカの肩を支えていた。 何時に無く強い意思を秘めながらも、今にも倒れてしまいそうなぐらい不安定になっているアスカを、 せめて支えてあげたかったのだ。 それが気休めにもならないとしても、アスカの為に何かをしてあげたかった。 今までアスカには何度と無く助けてもらってきたのだから。 レイの思いはアスカに届いていた。 だからこそ今にも崩れそうになる意思を保ち、シンジの無事を願い続けることが出来たのだ。 アスカ一人であったら、光の柱が生じた時点で諦めていたかもしれなかった。 衝撃波が巻き起こった時、アスカはルシファーに言われた通り、ただひたすらに願い、祈った。 ヒカリのように神にではない。 誰よりも強く、誰よりも儚く、そして誰よりも優しかった少年を、シンジをひたすらに信じた。 そう、アスカが祈ったのはシンジ自身であった。 アスカにとってもし願い、祈る存在がいるなら、それはシンジしか考えられなかったからだ。 その場にいた者達全員の思い。 それはシンジが無事に生還する事。それだけだった。 メンバーの願いが届いたのか、光の柱は徐々にその輝きを失い始めた。 そして光が完全に消えたとき、巨大なクレーターが生まれていた。 クレーターの内側は巻き起こった土煙で見通す事が出来ない。 そんな土煙の中に、薄っすらと光を放つ翼が一瞬だけ認める事が出来た。 ミサト:「まさか・・・破壊神じゃ・・・無いわよね。」 ミサトの言葉に、その場の全員の動きが止まる。 しかしアスカだけは別の行動を取った。 結界の中から出て、クレーターに向かって走り出したのだ。 レイ:「待って、アスカ。」 そんなアスカを、レイは慌てて追いかけた。 一瞬開けに取られたミサト達だったが、数瞬後には二人を追って駆け出していた。 もしあそこにいるのが破壊神だったとしても、もう打つ手が無いのは同じだと判断したからだ。 しかしその思いは杞憂だった。 吹き荒んだ風によって晴れた土煙の中から現れたのは、竜騎士の鎧を纏った鬼神形態のシンジだった。 アスカ:「シンジ――――!!」 その姿を確認した時、アスカは思わずシンジの名を叫んでいた。 しかしシンジはその声に反応する事も無く、ただ呆然と仁王立ちしたままだった。 そんな事など気にする事無く、アスカは走ってきた勢いそのままにクレーターの中に飛び込む。 かなりの高低差があった為に、着地の際にバランスを崩して二・三回転がってしまったが、 すぐに起き上がって走り始める。 かなりの距離を走ったので意気は上がっているが、それでもそのスピードは緩めない。 一刻も早くシンジの元へと行きたかったから。 後100mほどの距離まで来た時、シンジはゆっくりと仰向けに倒れ始めた。 倒れ行く最中に、竜騎士の鎧が消え去り、シンジの体全体が淡く光を放つ。 シンジが倒れこんだ直後、天空に向かって強大な紫色の雷が駆け登っていった。 遅ればせながらもやってきたミサト達は、それに注意を引かれて一時的にその足を止める。 しかしアスカはそれに気を止める事無く、シンジが倒れこんだ場所へと駆け抜ける。 たどり着いたアスカの目に飛び込んで来たのは、再び人の姿へと戻り、 仰向けに倒れて身動き一つしないシンジの姿だった。 アスカは急いでシンジに駆け寄ると、シンジの息がある事を確かめる。 そしてゆっくりと上半身を抱き上げると、安堵のあまり涙が込み上げてくる。 それは先程までの悲しみや不安に苛まれていた時のものと違い、暖かく感じられた。 漸くたどり着いたミサト達は、一瞬アスカの涙を誤解したが、アスカの顔に拡がる笑みを見て、安堵する。 するとその直後、シンジの中から二つの光がはじき出される。 片方は巨大な龍族の王・神龍皇であり、もう片方は十二枚の翼を持つ天使・ルシファーだった。 二人は意識を取り戻すと、ゆっくりと体を起こし、現状を把握しようとする。 神龍皇:「何が・・・どうなったのだ?・・・宿主は!?」 聖魔:「シンジ様!?」 二人は現状を把握した途端にアスカに抱かれたシンジに視線を送る。 しかしシンジは未だに小さく息をするだけで、意識を取り戻してはいなかった。 それでも、シンジが生きている事を理解した二人は安堵の溜息を吐く。 その直後、アスカの涙が頬を伝ってシンジの顔に落ちる。 それを受け、シンジは小さく身動ぎすると、ゆっくりと目を開ける。 目を開けたシンジは、朝日を受けたアスカの存在を認め、眩しそうに黒曜石のように黒い瞳を細める。 その様子に気付いたアスカが、涙を滂沱の如く溢れさせながらも、気遣わしげに声をかける。 アスカ:「シンジ・・・大丈夫?」 アスカの言葉に、シンジはようやく自分の状態をぼんやりとだが理解し始める。 そして小さく言葉を呟いた。 シンジ:「僕は・・・生きて・・・いるのか・・・?」 アスカ:「そうだよ・・・。生きてる。シンジは生きて帰って来てくれたの・・・。 やっぱりシンジは・・・嘘吐きなんかじゃないよ。 あたしは・・・そんなシンジが・・・好き。」 シンジの呟きに、アスカは説いて聞かせるように話すと、シンジの頭を抱え込むように、強く抱きしめる。 そうなると必然的にシンジの顔にアスカの胸があたる。 普段のシンジであれば恥ずかしさのあまりに抗議ぐらいはするであろうが、 今はアスカの温もりを素直に感じていたかった。 復讐を誓し時から十年間・・・一度として感じる事の無かった温もり。 それは周囲の時流に流される事もなく生きた時でもあった。 だからなのだろうか?今は周囲の流れに身を任せていたかった。 暫くした後、シンジはゆっくりと腕を伸ばし、涙を流すアスカの頬に触れる。 シンジの手の温もりを感じ取ったアスカは抱きしめていた力を緩め、頬を触れるシンジの手を握る。 アスカの手の温もりを感じながら、シンジは自分の想いを告げる。 シンジ:「アスカ・・・僕は既に人間じゃないのかもしれない。あの光の中で、僕は死んだ筈だった。 でも、創造主の奇跡の力が僕を再びこの世界に生み出してくれた。 消え行く間際に、僕の中で明確になった想いがあるんだ。 君の笑顔を見ていたい。君を守りたい。君の温もりを感じていたい。君と共にいたい。 この想いは僕の中に初めて生まれた物だから、邪念か欲望かわからない。 ただいまは、この想いに正直に生きてみたい。」 そこまで言うと、シンジは言葉を気ってゆっくりと深呼吸をする。 アスカはその様子をきたしと不安がない交ぜになったような表情を浮かべて見つめ、 シンジの次の言葉を待つ。 シンジ:「この想いが人を好きになると言うならば・・・アスカ。僕は君が好きだ。 ううん、僕の中にある想いはそんな言葉では言い表せないよ。 君を、愛してる。こんな僕を、君は愛してくれますか?」 シンジの言葉に、喜びのあまりに涙を溢れさせてしまったアスカは、 咽んでしまって声を出す出来なかった。 しかしシンジが誤解をしたりしないように、強く、何度も頷いてみせる。 それを見て、シンジが浮かべた満面の笑みを、アスカは涙で霞ませてしまって見る事が出来なかった。 だからその代わりに、再びシンジを強く抱きしめる。 今度はシンジもアスカの背中にゆっくりと手を回し、髪を梳かした。 ミサト達はルシファーは、そんな二人に温かい目で見つめていた。 ある者は自分の想い人と肩を寄せ合い、ある者は親しき者と手を取り合って、我が事のように喜んだ。 竜神暦2015年6月6日。 その日はシンジにとって、三回目となる誕生の日となった。 一度目は親と故郷の人々全ての愛を受けて。 二度目は愛をくれた人々の復讐を誓って。 そして今、愛し愛される者をえて、再び温もりに触れて。 神龍皇は、喜びと祝福の咆哮を高らかに上げる。 その咆哮は、シンジとアスカの抱擁が解かれるまで、長く響き渡っていた。 ********************************************* 三年後・・・竜神暦2018年6月6日。 ネルフ本部近くの広場にある教会で、今また新たなる新郎新婦が式を挙げた。 新郎は2メートル近い長身に中性的な感を残した、万人が認めるであろう容姿の青年。 普通の人と違うのはその背中に純白の六対十二枚の翼が生えている事。 新婦は平均よりも少し高めの身長と、美と言う言葉をそのまま具現化したような容姿を持つ絶世の美女。 白いウェディングドレスの為か、まるで女神のように感じられた。 二人が並んで立つ姿は、女神とそれを守る天空の騎士を思わせる。 そしてお互いが、初々しく頬を染めながらも、 今自分以上に幸せな者など居ないと言わんばかりの満面の笑みを浮かべている。 教団の前に立ち、二人に祝福の言葉をかけるのは、 新婦の親友であるこの教会の最高位の司祭の黒髪にお下げの女性。 司祭の話が終わり、二人は永遠の愛を誓い合う。 二人はそれぞれの左の薬指に指輪を填め合う。 そして交わされる誓の口付け。 誓の儀式を終えた二人がゆっくりと歩き、外へ向かう。 そんな二人が腕を組んで歩く姿に、参列者達は声も無く見惚れてしまう。 参列者の目には、まるで二人が光を放っているようにも感じられた。 参列者達は外に先に出て、扉を開いて出てくる新郎新婦を待つ。 そして扉が開くのにあわせて、二人にライスシャワーを浴びせる。 それを受け、新婦は手に持っていたブーケを高らかに投げ上げる。 投げられたブーケは、蒼い髪の女性の手へと吸い込まれるように納まる。 それを受けた女性の横で、銀髪の男性が気恥ずかしそうに頭を掻いた。 二人とも、新郎新婦の掛け替えの無い友人である。 新郎新婦の周りに、共に戦った友人達が集まる。 同い年の者達は未だ誰も結婚はしていないが、数年の内に皆ここで同じ様に式を挙げるのだろう。 それぞれの隣に立つ想い人と共に。 そして既に式を挙げ、幸せを享受している者と、未だに式を挙げずにいる二人の女性が話し掛けてくる。 四人とも今ではそれぞれの仕事の最高責任者や、その助手になっている。 そしてそれは先程の友人達も同じ。 新婦は昨日までその仕事に参加していたが、今日からは引退である。 新郎はその職場の切り札として、その信頼は厚い。 未だに超えるものがいない事と、最強の称号を好まない事、そして背に生える白き翼から、 畏敬の念を込めて、人々から『守護闘神』の異称で呼ばれている。 以前であれば隠したであろう翼は、新婦の言葉によって隠す事無く広げられている。 曰く、『あなたの純真な魂の翼を隠す必要がどこにあるの?』という事らしい。 その言葉に衝撃を受け、新婦は翼を邪魔だと思った時意外は広げたままにしていた。 周囲の人間も初めこそ驚いたが、今ではあるのが当たり前の事と納得してしまっている。 参列者達から少し離れ、二人は雲一つ無く晴れ渡った空を見つめながら過去を振り返る。 出会うまでのそれぞれの過去。 出会ってからの激流のような数日間。 そして想いを告げあってからの日常。 その全てが、今では掛け替えの無い思い出であった。 新婦は新郎の首にかけられているロザリオにそっと目をやる。 ロザリオの中心には過去には無かった紅い宝珠が埋め込まれている。 それはかつて、新郎の唯一の友だった魔獣が、その重いと願い込めて残したもの。 それを見る度に、新郎の脳裏に漆黒の体をした魔獣の勇姿が浮かび上がった。 「あっ。」 新婦の声に、新郎は何事かと再び視線を空に向ける。 すると自分達の周囲に、白と黒の羽根が無数に舞い散っていた。 それは新郎と共に戦った、不器用な天使の祝福の手向けだったのだろう。 二人の顔には自然と笑みが拡がっていた。 「後悔してない?」 「する訳無いじゃない。もししてるとしたら、そんな事を聞くあなたを好きになった事くらいよ。」 「そっか。」 「覚えておいて。あたしはあなたと一緒にいるだけで幸せなの。あなたじゃなくちゃ駄目なの。 ましてや結婚できたのよ?後悔したりする訳無いし、不幸な訳も無いの。」 「うん、覚えておくよ。・・・ありがとう。そしてこれからもよろしくね、アスカ。」 「こちらこそよろしくね、シンジ。あ、違うわね。よろしくね、あなた♪」 新郎・碇シンジ。 新婦・旧姓、惣流・アスカ・ラングレー。 本日を持って、碇・アスカ・ラングレーへと名前が変わった。 二人はこれから同じ人生を共に歩んでいく。 同じ時を行き、同じ時を感じ、同じ想いを抱いて。 道の先は見えない。 途中に障害があるかもしれない。 でもどんな障害でも、二人であれば乗り越えていける。 支えあっていけば、どんな事があっても進んでいける。 強く、前を向いて共に歩いていこう。 いつか生まれてくる新しい命に、自分達はこうやって生きてきたのだと、 胸をはって誇らしく話してやれるように。 二人は今、同じ思いを、強い決意と共に感じていた。 そんな二人を祝福するように、遥か天空から祝福の咆哮が二人の元に届いた。 永遠の時を生きる竜王からの、ささやかな祝福。 二人の未来に、幸多からん事を。 エヴァンゲリオン三部作・第一楽章・八翼の堕天使・完 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き 八翼の堕天使、今作品で完結となりましたが、いかがでしたでしょうか。 この話の締めくくりは、二人の結婚で終わらせたいと当初から考えていました。 何故?と理由を聞かれると困ります。 ただなんとなく、シンジに新しい、 そして愛しい家族を作ってやりたかったと言う思いがあった所為でしょう。 この作品では、ミサトを初めとした多くのキャラが脇役になってしまいました。 ただ今更台詞を無理にしゃべらす事も無いだろうと思い、そのままにしてしまいました。 その点について不満を持った方々には謝らせて頂きます。 申し訳ありませんでした。 この話はアフターストーリー的な外伝をを一つ考えているので、それを書いてこの話は完全に完結です。 それ以外の話は余程の事が無い限りは書きません。 それを投稿しましたら暫く投稿作業はお休みです。 最後に書いたように、次の連載を書き始めようと思いますので。 数点出来上がりましたら再び投稿を始めようと思います。 長きに渡って応援してくださった方々、そして拝読してくださった方々。 本当に有難う御座いました。 外伝やら次の連載ですぐにまたここに顔を出すと思いますが、その時は宜しく御願いします。 では、失礼致します。 *今回はキャラ込めは無しです。楽しみにしていた方が居りましたら、申し訳ありませんでした。* P,S 感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。 悪戯、冷やかしは御免こうむります。
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