どこまでも広がる漆黒の闇。
その空間には上下の感覚も、時間の感覚さえも存在しない。
あるのはどこまでも続く静寂に包まれた闇の空間だけ。

その暗き闇の中で、この世界にはそぐわない意識をもった何かが動いた。
それはまるで何かを求めるように、この世界に抗うように蠢く。
しかしその願いは叶う事無く、その者の意識は再び闇の中に埋もれようとする。

闇はこの世界に意思ある者が存在する事を許さず、それを飲み込もうとする。
その意思は飲み込まれまいと、必死になってもがき、抵抗する。

そしてその意思は、全体から見ればほんの僅かなものでしかない意思を、
その闇の中から脱出させる事に成功した。
そんな僅かな意思をこの空間から脱出させる為に、数千年の間蓄積した力の大半を失った。

力をなくした巨大な意思は、抵抗を止めて再び闇に飲み込まれていく。
本体である自分がこの世界から解き放たれ、世界を破滅に導く時を夢見て。
そしてその夢は、もう数百年以内に叶うであろう事を確信して。

先程逃れた意志が、自分を復活させる手筈を整えるからである。
脱出させた先の世界に住む、人間達の欲望を利用して。

その確信を秘めて、それはその意識を閉じた。
再び力を蓄え、来る時に備える為に。

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戦場に堕とされし天使達
ー闇のプロローグ 裏死海文書ー
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1956年・争乱の尽きる事無き聖地・エルサレム

闇を抜け出した意思は、自分を受け入れる事ができ、
後の世界に何かを残せそうな者をこの地で探していた。

今の世界の現状で、自分が封印から解き放たれる事は不可能だと判断した為である。
復活をする為には多くの人間を利用しなければならない。
その為には、後の世に出来るだけ影響を及ぼせる“何か”を見つけ出さねばならなかった。

そしてそれを残した後にもやるべき事があった。
今度はそれに何かを感じ取り、それを実行し得る事の出来る権力を持った者が必要不可欠であった。
しかしそれは、それだけの技術力を持つようになるまでは探す必要も無い。
今は復活の為の計画の立案をする必要があった。

この空間で自分が消滅する確立は殆ど無い。
しかし以前の復活の時のように、何時どんなイレギュラーが生じるかもしれない。
出来るだけ早くに、目的に見合う人間を探し出す必要があった。

そうやって空中を彷徨っている内に、意識体はある波動を感じ取った。
いや、感じ取ったと言うのは少々語弊があるのかもしれない。
どちらかと言うと、その波動が自分を惹き付けた感覚なのである。

それは執念と憎悪に満ちた波動。
意識体にはその波動に覚えがあった。
記憶にあるものとは異なってはいるが、かなり酷似していたのである。
それはかつて、自分を復活させる為にあらゆる犠牲を払った集団に、援助を受けていた人間の物。
記憶が確かであれば、オシリスと言う名前だったはずである。
この波動を放つ者であれば、自分の目的に見合う人間である可能性が高い。

「確認・・・しておくか。」

意識体はその波動を辿って行く。
行き着いた先は路地裏の寂れた家。
石造りの家が多いこの廃墟とも言える町では珍しく木造であるが、
かなり老朽化しており、今にも崩れてしまいそうな雰囲気である。

しかし意識体から見れば、家の造りなどどうでも良い事。
問題はこの奥にいる人間なのである。

意識体はそのまま壁をすり抜けて波動を放っている人間がいるであろう場所へと向かう。
何気なく上を見上げると星が見えるほどに崩れた天井。
こんな場所に人間が本当にいるのかと不安を覚えすらしたが、確かにこの中から波動を感じる。

波動を辿った先で、意識体は漸く納得した。
地下室にいたのだ、ここの住人は。

部屋の主であるこの男は、何かの研究者なのであろう。
両脇の壁が書物によって埋もれている。

男は一心不乱に何かを書き記している。
その表情には鬼気迫るものがあり、まるで命を削っているかのようであった。
いや、実際に命を削っているのだ。

「悪性の腫瘍・・・だな。それも末期の状態だ。もう一週間も持つまい。」

意識体はそれを確認するとその場を去ろうとした。
今にも燃え尽きかねない人間が、後の世に何かを残せるほどの事が出来るとは思えなかったからだ。
しかし外に出ようとした瞬間、男の放った言葉がその行動を止めさせた。

「見てろよ・・・私を認めなかった愚か者どもが。
 今まで誰も編集・解析しようとしなかったこの死海文書を私が解読してやる。
 そしてこれが、未来への預言書となり得る物であるという私の学説を否定した馬鹿共に、
 叩きつけてやるのだ。」

死海文書とは、1947年に死海周辺の洞穴群から発見された、
製作されたのは紀元前であろうと言われる、約800点に及ぶ膨大な書物の事である。

彼は各地に散らばっていた死海文書のありとあらゆるデータを回収し、
それを調査して行く内に、それが預言書になり得るのではないかと言う予測を立てたのだ。

しかしその学説は頭ごなしに否定され、学会からは狂人のレッテルを貼られて追放されたのだ。
そして今、彼はその学説を証明すると言う執念で研究を続けているのである。

意識体の動きを止めたのは、男の放った「預言書」と言う言葉であった。
この男を利用して、自分の復活の為の予言を書き記させる事を思い立ったのだ。

もしその予言の途中が確実に未来を言い当てているならば、その預言書に対する信憑性があがる。
そしてそれを防ぐなり、利用しようとする者は必ず現れるだろう。
その預言書を持つべき人間は後で決めれば良いのだ。

未来をあてるというのは過去の事例を利用すれば良い。
今は過去でも、記された時から見れば未来なのだから。
そして多少の事ならば予見する事も不可能ではない。

しかしそのまま世界が滅亡に繋がるなどと言う風に書く訳には行かない。
ならば人間、特に栄華を極めた者が欲しがる物を得る事が出来る内容にすれば良い。
それを行う事で、神へと進化し、永遠の命を手にする事が出来ると言う内容に。

それに書き記す事全てが嘘な訳ではない。
少なくとも今のこの世界では。

何故ならセフィロトの樹は確かにそれを記したと今の世界では認識されているからだ。
最も、それを取り戻した所で本当に神になれる筈など無い。
そもそも、自分はこの世界の神々の伝説など知った事ではないのだから。

ただその為には、自分を復活させる為に眠りについている魔獣達が犠牲になる可能性がある。
だがそれも些細な事として、気にしないことにした。
自分が復活する為の布石である事にはかわりは無い。

考え方を変えれば、自分が完全復活する為の生贄だとも発想できる。
彼奴等が死に逝く時に放つエネルギーを吸収し、再生に費やせば良い。

無論、魔獣が直接接触した方が簡単に肉体を得て本体を開放できるのだから、それに越した事は無い。
どちらにせよ、自分が復活すれば世界と共に消滅する事には変わりは無いのだ。

もう一つ問題があった。
この方法だと自分が直接世界を破滅させる事は出来ないので、
人間の絶望に打ちひしがれた心を利用しなくてはならない。

絶望に打ち砕かれた者の魂を利用する事で、他の全ての生命を一つとし、全てを破壊する。
自分の望む破壊とは違う物となる可能性が多大にあった。

いわば、魔獣との融合・復活は直接的な破壊。
それが成らなかった時の人間を利用する形は間接的な破壊を意味している。

だがそれでも良かった。
目的の為ならば手段を選ばないのが人間と言う生き物。
そして自分は世界が破滅さえすれば満足なのだから。

生命体がいなくなるということは全ての流れが止まると言う事。
止まりしものは腐り、やがて朽ちていくしかない。

そう、例えそれがどんな世界であろうとも、終焉を齎す事さえ出来れば良いのだ。
世界を破滅させることこそが、自分の存在意義であり、存在理由なのだから。

「ともかく、この男を利用してやるとしよう。これを持つに丁度良い者が必ず現れるであろうからな。
 題名は・・・裏死海文書とでもするとしよう。」

意識体は呪詛の如く悪態を呟きつづける男の中に入っていく。
そして男の体と意識を完全に乗っ取ると、死海文書と目的の品である裏死海文書を作り始める。
その内容は既にもとの死海文書の内容などとは似ても似つかぬ物。
題名はあくまでも、自分が復活する為の計画のシナリオを記した書物のコードネームだからである。

三日後、男は完成した死海文書の表紙に右手を置いて血を吐いて死んでいた。
その左手には血に濡れた黒い冊子の本を持ったまま。

この数年後、死海文書は学会で貴重な資料として保管されたが、裏死海文書の行方はようとして知れず、
その内容が誰にも知られぬまま、時代の闇の中へとその存在を消した。


そして・・・1960年
不思議なバイザーを着けた老齢の人物が男の死んだ地、エルサレムに立っていた。

男の名前はキール・ロレンツ。
数年前、歴史の闇の中で世界を裏から操っていた組織、ゼーレの筆頭の就任した人物である。
そして・・・かつての世界より転生した魂を持つ者。

キールの手には、黒き冊子の一冊の書物が握られていた。
その書物の名前は裏死海文書。
前世の記憶はなくとも、その魂の波動は裏死海文書に確かに反応していたのだ。

破滅の力に呪われた書物は今、最も渡ってはいけない人物、渡ってはいけない組織に握られた。
その事実を、長き年月待ち続けた意識体は狂喜に彩られた瞳でキール見つめていた。
意識体の名前はアダム・・・破壊神・アダム。
後に、第一使徒・アダムと呼ばれし者。


時代は今、破滅に向けて進み始めた。
裏死海文書に書かれているのは、遥か南の大地の奥深くに神の魂が眠っていると言う事。
そしてその封印を解き、卵の形へと還元せよとの言葉。

これを知ったゼーレのメンバーはある計画を立ち上げる。
その計画の名は「人類補完計画」。
神の魂の力を利用し、死の束縛から離れ、自分達が神となるための糧とする計画。
それにより、自分達が糧となる事を知る由も無く・・・。


そして・・・2000年9月13日、キールは行動を起こした。
多くの人間が命を失う事を知っていながらも、南極の永久氷壁の中に眠りつづけ、
人の目に触れる事も無く、数千年の間大地に突き刺さっていた紅き槍を引き抜いたのだ。

破壊の神の封印は解かれた。
解き放たれた神が行ったのは、蓄積された怒りを開放する事。

『長き眠りを強いられし深き闇より、我は今ここに復活せり!
 傲慢なる人間達よ、例えよう無き我が怒りを受けるが良い!!』

数億年と言う長い年月抑え付けられていた怒りは、世界中に被害を齎す衝撃を与えた。
世に言う、セカンド・インパクトである。


しかし、第1使徒・アダムが復活した時、その場にいて唯一生き残った少女も、
復活したと言う事実に歓喜するアダムも気付かなかった。

破壊神が翼を広げるその遥か深海で、破壊神を上回る巨大な何かが、長き眠りから目覚めた事に。
その何かは、深層海流の中をゆっくりと進み始めた。
己の宿主となり得る魂を持つ者を求めて。
その巨大な何かには、光届かぬ深海でもなお強く光り輝く八つの虹色の瞳が確認できた。


この数年後、卵の形に自分を還元した破壊神の知らぬ所で、誤算となるものが建造される。
破壊神はもう暫しの間、意識体を飛ばしておくべきだった。
人間達が創り出した物の中に、かつて自分を滅ぼした紫電の鬼神が建造された事を知る為に。

単なる偶然か、それとも必然なのかは誰にもわからない。
しかしそれは次元を超えて、確かにこの世に再び姿を現したのだ。
紫電を司りし、荒ぶる戦いの神たる鬼神が。
今度は己の魂を持たぬ器として。
そして彼は、己が主の来る時を待つ。

しかし・・・それはもう数年後の話。


時は流れて、2001年6月6日。
その日、日本のある一組の夫婦の間に一人の男児が誕生した。

産まれし子供の名は・・・碇シンジ。
龍と鬼神と天使の加護を受けながらも、
過酷で何よりも孤独な戦いに彩られた運命を強いられる事になる、
悲しき運命の十字架を背負いし少年の誕生である。
誰も気づかぬ中・・・少年の背中は薄っすらと光を放っていた。

「セカンドインパクトの後に生きていくのか。この子は・・・この地獄に。」

「あら、生きていこうと思えば、どこだって天国になるわよ。」

果たしてどちらの言葉が真実なのか?
少年にとってのこの世界は天国なのか?はたまた地獄か?
それは誰にもわからない。

そして少年の誕生から半年後の12月4日。
少年と同じ様に、悲しみに満ちた運命を辿る事になる、ある少女が生まれた。
少女の名前は惣流・アスカ・ツェペリン。

残酷な運命は二人を出会わせる。
その出会いは果たして、双方にとって福音となるのか。
それとも絶望へと歩ませていくのか。

世界の破滅か存続か?
全ては、この二人の子供達に掛かっている。

今ここに、時を動かす歯車の準備は成された。
その先に待つのは世界の破滅か?
それとも・・・?

To Be Continued.
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後書き

聖:どうも、御無沙汰をしておりました。最後に投稿したのが去年の十二月ですから、1年近いですね。

魔:御久しぶりです・・・ってこれは普通作者が言うもんじゃねえのか!?
  何でいきなり俺達がやってんだよ?

聖:それはですねサタン。作者なりの配慮なんですよ。

魔:あん?どういうことだよ、ルシフェル。

聖:早い話、この作品では私達の登場シーンは全くと言って良いほど無いんです。
  しかしこの作品が前作品の八翼の堕天使の連鎖作品である事は間違いありません。
  そこで忘れられない為にこうやって後書きでキャラコメをする事になったんです。

魔:なんだよ。俺達出番無しかよ。ん?なら神龍皇はどうなんだ?

聖:神龍皇はたまに影ぐらいは登場するんだそうですよ。今回みたいに。<ばらし
  それに私達も完全に無いとは言い切れなくて、場合によっては出られるそうです。
  全てはその時の作者の発案次第って事ですね。だからここにも来る場合があります。

魔:出番があることを願うしかねえか。で、今回の話なんだが。

聖:今回は本編と八翼の堕天使を繋げる為の話ですね。裏死海文書製作秘話ってとこでしょうか?
  言うまでも有りませんけど、作者の適当な設定ですけどね。

魔:破壊神の野郎の暗躍か。
  作者も馬鹿だから、これの時代とかタイミング考えるのも苦労したんだろうな。

聖:ええ、さっき覗いたら死にかけてましたよ。こんな短いのに、今まで以上に疲れたとか言って。
  このためにEVAの用語集も買い揃えてましたしね。だから死海文書の説明は概ね事実です。

魔:本気で馬鹿だな。地盤が出来てねえと作品書けねえ男だし。で、次回はシンジ様の登場か?

聖:はい、そうです。でもまだ本編じゃないらしいですよ。
  シンジ様の性格とか変えたりで、その根幹を書くために、もう一作書くんですって。

魔:御苦労なこった。でもアスカ登場まで時間が掛かるんだろ。苦情来るんじゃねえか?

聖:有り得ませんね。だって次回出るんですから。

魔:何!?例の話本気だったのか!?俺はてっきり冗談だとばっかり・・・。

聖:と、言うわけで次回作品お楽しみにしてくださると有り難く思います。

魔:宜しく御願い申し上げる。

P,S
感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。
悪戯、冷やかしは御免こうむります。


マナ:シンジが生まれたわよー。(^^v

アスカ:アタシも生まれたわのよっ!(^^v

マナ:それはほっといて・・・なんか背中が光ってるとか?

アスカ:ほっとくんじゃないっ!(ーー#

マナ:八翼の堕天使のシンジの魂が受け継がれているのかしら。

アスカ:とすると? また、アタシとシンジはラブラブにっ?

マナ:ざーんねん。あなたは悲しみに満ちた運命なのよっ!

アスカ:そんなのいやーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
作者"神竜王"様へのメール/小説の感想はこちら。
ade03540@syd.odn.ne.jp

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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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