西暦2000年。 セカンドインパクトと呼ばれる未曾有の大災害が起り、南極の氷は融解し、地軸までもが捻じ曲がり、 多くの都市は水没し、その機能を停止した。 この災害はさらに世界規模の大恐慌を起こし、内戦や民族紛争に拍車をかけた。 その結果、世界人口の約半分の命を、この地上から消し去ったのだ。 そして・・・時は西暦2015年。 セカンドインパクトの影響は例外無くこの地にも現れ、水没した街が数多くある日本。 そしてここ日本では、かつての首都・東京はセカンドインパクトと、 その一週間後に落とされた新型爆弾の影響もあり、ほぼ完全に壊滅及び水没してしまい、 現在では長野に建設された第二新東京市に遷都されている。 その水没したビルの廃墟群の間を、一体の巨大な影、異形の生物が陸地に向かって進行していた。 海岸線にはその進行を阻止せんとする、UN(国連)の戦車部隊が、その砲身を並べている。 彼の者が向かいし先にあるのは、人類が誇る科学の粋を結集して生み出した要塞都市。 名を、第三新東京市と言った。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 戦場に堕とされし天使達 ーEpisode:1 魔天・襲来ー ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『本日12時30分、東海地方を中心とした関東、中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。 住民の方々は、速やかに指定のシェルターに避難して下さい。 繰り返しお伝え致します。本日12時30分・・・』 セカンドインパクトの影響で地軸がずれ、常夏の国となった日本。 風もほとんどなく、道路にはゆらゆらと陽炎が立ち昇っている。 人っ子一人見当たらない街の中に、避難を呼びかけるアナウンスだけが虚しく響き渡る。 信号が点灯していたり、車が投げ捨てられる様に放置されている所を見ると、 普段はちゃんと街として機能しているらしい。 あくまでも非情事態故の状況なのだろう。 そんな誰もいない、ゴーストタウンと貸した街中を、一台の青い車が走り抜けていく。 「アルピーヌ・ルノーA−310」一般的にはルノーの名前で呼ばれている車だ。 「よりによってこんな時に見失うだなんて・・・まいったわね」 ハンドルを握る女性が忌々しげに呟く。 助手席には、無造作に置かれている書類の束。 赤い表紙には学生服を着た少年の写真がクリップで止めてあった。 止められた写真の少年の名前は、碇シンジ。 ちょうどその頃、人影の消えた町の公衆電話で、先の写真の少年が電話をかけていた。 だが、受話器から聞こえてくるのは録音テープの女性の声のようだ。 『特別非常事態宣言発令の為、現在全ての通常回線は不通となっております』 「ちっ、駄目か・・・。」 苛立たしげな気分を隠そうともせずに電話を切る。 標識に記されている『第三新東京市まで13km』という文字に、思わずため息を漏らしてしまう。 「やっぱり感情なんかに任せて来るんじゃなかったか。待ち合わせは無理。 しかしシェルターに向かおうにも場所がわからないと来た。・・・どうするか?」 警報が鳴らされていて周囲には誰もいない。 つまり全員避難しなければならないほどに危険な状況下に置かれているだと言う事はわかる。 ともかく今は自分の身を護ることが最優先事項。 そう結論付けた少年は、傍らに置いたバッグを手にとって肩に掛けた。 そして胸ポケットから1枚の写真を取り出す。 そこには、髪の長い女性がVサインで映っている。 何故か露出度の高い服を着ていたりキスマークがついていたりしている。 胸元に、『ここに注目!』などと書き込んであるのを見た時は、呆れて何も言えなかった。 「しかし・・・何考えてるんだ?この女の感覚は大丈夫なんだろうな?」 中々に辛辣な評価を下す少年である。 この時の彼の不安は、様々な点から的中する事になるのだが、今はそれを語るべき時ではない。 写真をしまった後、何気なく顔を上げると車道の真ん中に一人の少女が立っていた。 その瞬間、鳴きながら飛び立つ鳥に気を取られて上を向く。 すぐに目を戻すが、既に少女は消えるようにいなくなっていた。 「幻覚・・・か?」 彼が不信気に辺りを見まわそうとした瞬間、突然辺りを衝撃音が支配する。 電線や閉じているシャッターが揺れるほどの衝撃波を伴った爆音。 その轟音に、反射的に両手で耳を塞ぐ。 そして音が去ったのを確認しながら、ゆっくりと耳から手を離す。 「何なんだ一体?どう考えても今のはジェットエンジン音だったが。」 何が起きているのかを確認するために、少年は音の発信源と思われる方向に目をやる。 ビルの間に見える大きいとは言えない山。 その山の稜線の向こうから、次々と重戦闘機が姿を現す。 「あれは確かUNのVTOL重戦闘機。何故あんな物がこんな街中を・・・。」 そこまで言った時、彼は気付いた。自分の足元に伝わってくる振動を。 その断続的な振動の伝わり方などから、地震であろう筈がない。 まるで何か巨大な物が歩いているかのような振動である。 その結論に達した途端、彼はVTOLが対峙しているであろう物に目を向けた。 彼が視線を向けるのと同時に、巨大な黒い影が山の稜線から姿をあらわした。 「なんだ・・・あれは?」 少年・シンジは驚きを隠す事が出来なかった。 そこに現れたのはそれ程に非常識な存在だったのである。 全身が闇のように黒く、それが闇である事を否定するかのように各所から飛び出している外骨格。 御面をかぶったような姿。胸に輝く、赤い光球。そして見上げるようなその巨体。 およそ地球上に存在し得る筈の無い姿であった。 指揮所のような場所に幾つもの声が交錯する。 そんな中、二人の男の反応だけはまるで大した事は無いと言うかのように落ち着いている。 『正体不明の移動物体は、依然本所に対し進行中』 『目標を映像で確認。主モニターにまわします』 辺りを埋め尽くさんばかりにに広がるコンピュータを操作しながら、オペレータが随時報告をする。 暫くした後、最も大きな主モニターに、『それ』の映像が映る。 それを見た白髪の紳士然とした男が、隣で腰掛けているサングラスの男に確認するように話しかける。 「・・・15年振りだね。」 「ああ、間違い無い。」 サングラスの男は机に肘をつき、組んだ両手で口許を隠しながら傍らに立つ男に答える。 眼前に広がるモニターには先ほどの黒い巨人が写っている。 「使徒だ。」 口元で手を組み表情を隠すようなポーズを取っている男。 その両手で隠された口元が、僅かに緩んだような気がした。 VTOLの部隊から無数のミサイルが放たれた。 ミサイルは確実に『使徒』と呼ばれる生物に向かって行く。 そしてそれは狙いを違える事無く、ミサイルは全弾直撃した。 それによって引き起こされた爆風や光熱により、付近の列車や建物の形が歪んでいく。 「目標に全弾命中!」 『使徒』にミサイルをお見舞いしたVTOLのパイロットは、堪らずに叫んだ。 が、その思いは次の瞬間には霧散し、彼の視界はブラックアウトした。 「うぁっ!耳痛ぇ。音の原因はこの巡航ミサイルの嵐かよ。街中で撃つか普通?」 少年の頭上を次々とミサイルが飛んでいく。 的がでかいだけにミサイルは全弾命中するが、巨人は仰け反っただけですぐに反撃の動作に移る。 無造作に上げた右腕から光る槍のような物が飛び出て、近くを飛んでいたVTOLに突き刺さる。 その一連の行動は、まるで目の前を飛び交う虫を払うかの様であった。 打ち落とされたVTOLはその制御を失い、少年の目の前のビルに激突してそのまま真下に落下する。 それに追い討ちをかけるかのように、飛び上がった巨人が墜落したVTOLを踏み潰した。 「ちょ、待てよオイ!」 踏み潰されたVTOLが爆発し、その爆風がシンジを襲う。 咄嗟に近くのビルの影に飛びこんで何とか爆風を避ける。 その直後、一台の青いスポーツカーが彼の隠れた場所のすぐ近くに横付けされる。 「ごめーん、おまたせ♪さっ、早く乗って!」 状況に合わない明るい声と共にドアを開けたのは、サングラスをかけた写真の女性だった。 その間にもVTOLの群れは次々に巨人へ攻撃をかけていく。 ミサイルの破片や割れたガラスなどが降り注ぎ、辺りにはもうもうと煙が立ち込める。 少年を乗せた車はあちこちを凹ませながらも、思いっきりバックで煙の中から飛び出ると、 スピンターンで巨人の足下から逃げ出した。 『目標は依然健在、現在も第三新東京市に向かって進行中』 『航空隊の戦力では足止めできません!』 次々と入る絶望的とも言える状況報告に、軍人とおぼしき男達が、 化石となりつつあるプライドをかけて声を荒げる。 「総力戦だ!厚木と入間も全部上げろ。」 「出し惜しみは無しだ!何としても目標を潰せ!!」 興奮のあまり、一人の男が手に持っていた鉛筆が折れた。 まるで彼等の意地とプライドの行く末を暗示しているかのように。 先ほどのミサイルなど比較にならないほどに巨大な戦闘機から放たれるが、 『使徒』は右腕一本でそれを受け止めてしまう。 勢いあまったミサイルは『使徒』の三本の爪によって切り裂かれながら進み、 爆発するがその強大な爆発力すらも意に介した様子はない。 爆炎が晴れると同時に、無傷の『使徒』が姿をあらわした。 「何故だ!直撃のはずだ!!」 「戦車大隊は壊滅。誘導兵器も砲爆撃まるで効果ナシか・・・」 「ダメだ!この程度の火力では埒があかん!」 興奮のあまり一人の軍人が立ち上がりながら、机を強く叩く。 軍人達の怒声などまるで聞こえていないかのように、先ほどの二人の男性、 白髪の男性・冬月コウゾウと、サングラスをかけた男・碇ゲンドウは落ち着いて話していた。 「やはりATフィールドか?」 「あぁ、使徒に対し通常兵器では役にたたんよ。」 だがその事を先程から騒いでいる軍人・UN軍の連中に教えるつもりは無い。 ネルフの誇る最終決戦兵器の優位性を認めさせる為にも、思う存分やらせた方が良い。 それにその事を教えた所で、UN軍は面子を守る為にも攻撃を続けるであろうし。 その時、軍人達の机にある赤い緊急電話が音を立てる。 男達の一人がカードキーをスロットに差し込んで受話器を取る。 「わかりました。予定通り発動いたします。」 電話を置いたその表情には決意と勝利への確信が秘められていた。 『使徒』を取り囲んでいたVTOLの群れが一斉に離れていった。 ここまで来れば安全であろうと路肩に車を止め、双眼鏡で様子を見ていた女性が慌てて叫ぶ。 「ちょっとまさか・・・N2地雷を使うワケぇ!?」 あまりの驚愕の事実に一瞬の静寂が辺りを包み込む。 「伏せてっ!」 助手席にいたシンジを抱え込んで女性は車の中で伏せる体勢をとる。 シンジは一瞬抵抗しようと考えたが、非常時と言う事で素直に従った。 その直後、激しい爆音と共に大爆発が起こった。 かなり離れた位置に止まっていた筈なのだが、N2地雷の前では無意味であった。 爆発によって巻き起こされた衝撃波が二人の乗るルノーを襲う。 ルノーは、そのままグルグルと有り得る筈の無い方向に回転していくのだった。 「やった!」 幹部の一人が、勝利への確信を胸に歓喜の声をあげて立ち上がる。 UN軍最終兵器N2地雷は、どうやら『使徒』に直撃したらしい。 別の幹部がニヤリと顔を歪めて後ろを振り返る。 「残念ながら君達の出番はなかったようだな。」 嫌味を言われたゲンドウと冬月だが、相変わらずの無表情でモニターを見つめ続けている。 『衝撃波、来ます。』 ゲンドウのサングラスに、ノイズが走ったモニターが反射した。 「大丈夫だった?」 「無傷って意味じゃ、大丈夫ですよ。もっとも口の中は無事じゃすんでないですが。」 「あははは、私もよ。とりあえず外に出て車起こそうか。」 横倒れになったルノーから這い出てきた二人、シンジとミサト。 N2地雷の爆風に巻き込まれたが、何とか無傷ですんだようである。 最も、二人の盾になったルノーはとても無事と言える状態ではなかったが。 「ああ、車起すんなら傍で見ててくれ。俺一人でやるから。」 そう言うとシンジは、今だ横倒れになっているルノーの下になっている部分に両手をかける。 シンジが力をこめると、苦も無くルノーはあるべき向きへと戻った。 それを見ていたミサトは自分が得ていた情報とのあまりの違いに不信感を抱くが、 それを表に出す事無く、感心した様に声をかける。 「ふぇぇ。細身の割りには力あるのね。ありがと、碇シンジ君。」 「いや、俺のほうこそ危ない所助けてもらったからな。それに細身の割りには、は余計だぜ。」 「アハハハ、ごめんごめん。ま、遅れた私が悪いんだけどね。」 「遅刻はしたが、結果的には間に合ったからいいじゃないか、葛城さん。」 シンジのその言葉に、女性はかけていたサングラスを外しながら答える。 「ミサト、でいいわよ。」 「じゃぁ俺もシンジでいいぜ。」 そう言って笑って見せた彼の影の有る表情が、ミサトには何故か印象深かった。 「その後の目標は?」 『電波障害のため、確認できません。』 「あの爆発だ。ケリはついてる。」 『センサー回復します。』 先程の爆発以降、未だに混乱を見せる指揮所。 オペレターの報告が済むと、ノイズが走っていたモニターが正常に戻り始める。 だが完全にモニターが回復する前にそれを確認した一人のオペレーターが、 驚愕の事実に声をあげた。 「爆心地にエネルギー反応!」 「なんだと!?」 思わず立ち上がって叫ぶ幹部の一人。 その表情には先ほどの歓喜は微塵も無く、信じられないという驚きがありありと出ている。 UN軍最終兵器・N2地雷が効かない物が存在することが信じられなかったのだ。 「映像回復します。」 モニターが再び『使徒』の姿を映し出したその瞬間、辺りをどよめきが征した。 そこに映るのは、無傷とまではいかないが、致命傷を受けた様子もない『使徒』。 動きを止めているのは、自己修復を行っているからであろう。 大腿部と思われる場所にある、えらのような器官が呼吸するかのように動いている。 さらにはそれまで頭部?だった個所を押し退ける様に、新たなる仮面が顔を見せていた。 この瞬間、UN軍の完全なる敗北が決定した。 幹部達は、ここに来て漸く『使徒』の強さを認めたのであった。 「わ・・・我々の切り札が・・・」 「なんてことだ・・・街一つを犠牲にしたというのに。」 「化け物めっ!!」 立ち上がっていた軍人は、力尽きたようにイスに座り込んでしまった。 それを嘲笑うかのように、画面の中の『使徒』の胸にある光球が輝いていた。 「ええ。心配ご無用。彼は最優先で保護してるわよ。 だから、カートレインを用意しといて、直通の奴。そう。 迎えに行くのは私が言い出した事ですもの。ちゃんと責任取るわよ、じゃ。」 街外れの国道をミサトの車が疾走している。 エンジンが少し怪しげな音を立てていたり、割れたバンパーをガムテープでとめてあったりと、 不安な事この上ない状態になってしまっているが。 (しっかしもう最低〜。せっかくレストアしたばっかだったのに早くもベッコベコ。 ローンが後33回プラス修理費か・・・おまけに一張羅の服も台無し・・・ せっかく気合い入れて来たのに・・・トホホ・・・) そんな状態になってしまった車を運転しながら電話をしていたミサトであったが、 内心では車や自分の服の事でかなりしょげ返っていた。 心ここに有らずと言った雰囲気である。 事実、先ほどからシンジが呼んでいるにも関わらず、一向に気付く様子が無い。 「ミサトさん・・・ミサトさん!」 「へ?あ、な、何?シンジ君。」 一向に気付かない事に業を煮やし、かなり強めに呼んだ所で漸くミサトは現実に思考を戻した。 そんなミサトの様子に半ば呆れながら、シンジは言葉を続けた。 「良いのか?こんな事しちまって。」 そう後部座席に目をやりながら言うシンジ。 その視線の先には無数のバッテリーが並べられている。 ミサトが車を走らせる為に周囲に有った車から外してきた物である。 それに対してシンジが一様の心配をしているのだが、当の本人は至って気楽なもの。 「ああ、い〜のい〜の。今は非常時だし車動かなきゃしょうがないでしょ。 それに、こー見えてアタシは国際公務員だしね。万事OKよ。」 「説得力のかける理由だな。 それに、国際公務員だからこそ民間の模範となるべきなのでは?」 「つまんないの。可愛い顔して意外と落ち着いてるのね。」 「可愛くある理由が無いし、焦った所で何がどうなる訳でもない。 何より可愛いとは男児に向かって使うべき言葉ではない。」 ミサトはその言葉と態度に、報告書との違いを見出し、ますます疑問を強くする。 しかしそれを表に出す事無く、おどけた様に話し掛ける。 「ごめんごめん。男の子だもんね。そのぐらいの方が良いか。」 「ミサトさんこそ、随分子供っぽいんだな。」 その言葉に、ミサトは演技ではなくムカッと来た。 その怒りを発散するかのように、車は凄まじい蛇行を繰り返すのだった。 無人ヘリが炎の中の巨人の周りを飛んでいる。 そこから送られてくる映像を見つめながら、ゲンドウと冬月は言葉を交わしていた。 「予想通り自己修復中か」 「そうでなければ単独兵器として役に立たんよ。」 新しく現れた顔の目の部分が光ったかと思うと、モニターの画面が一瞬にしてノイズに変わった。 「ほぉ、大したものだ。機能増幅まで可能なのか?」 「おまけに知恵もついたようだ。」 冬月の感心したような口調にゲンドウが言葉をつなげる。 この二人の会話は、どこか他人事の様にしか聞こえない、場違いな物に感じられる。 「この分では再度侵攻は時間の問題だな。」 事実をただ淡々と告げる冬月。 モニターは別アングルで再び巨人を映し出していた。 『ドアが閉まります。ご注意ください。』 ミサトとシンジは準備されていたNERV本部への直通カートレインに乗り込んだ。 漸く落ち着いた状況になったので、ミサトはシンジに説明を始める。 「特務機関NERV?」 「そう、国連直属の非公開組織。」 「父のいるところ・・・だな。」 「まね。お父さんの仕事、知ってる?」 ミサトの顔を見ながら話していたシンジは、前に向き直ると薄く笑みを浮かべながら言った。 「さあ、興味も無いな。それよりも興味があるのは、外にいたあれについてだが?」 シンジは一瞬薄く笑みを浮かべたが、すぐにそれを引き締めて違う質問をする。 その質問に、ミサトは表情を険しくしながら答えた。 「あー、あれね。あれは、私達が『使徒』と呼んでいるものよ。」 「『使徒』・・・あんなのが神の使いだと言うのか?・・・趣味の悪い神もいたものだ。」 シンジの呟きはあまりに小さく、ミサトの耳に入ることは無かった。 そしてシンジの中に『使徒』と言う言葉は何故か印象が強く残った。 ゲンドウは、UN軍幹部三人の前に立っている。 彼を見下ろす幹部らの表情には敗北感と屈辱感に溢れていた。 「碇君。これより本作戦の指揮権は君に移った。お手並みを見せてもらおう。」 「了解です。」 彼等の言うお手並みとは『使徒』を倒してみせろという事。 だがUNが敗北した今、NERVが負ければ人類に明日はない。 要するに『失敗は許されない』と脅しを掛けているのである。 彼等としては精一杯の皮肉を込めて。 しかし目の前の男には何の効果も認められなかったが。 「碇君。我々の所有兵器では目標に対し有効な手段がないことは認めよう。」 「だが、君なら勝てるのかね?」 「その為のNERVです。」 その言葉に、ゲンドウは間髪いれずに断言して見せた。 その表情に不安など微塵も見当たらない。 「期待しているよ。」 精一杯の皮肉を込めた一言を残し、幹部らはテーブルごと本部から退場した。 その間も状況報告は休む事無く続けられる。 「目標は未だ変化無し。」 「現在迎撃システム稼働率、7.5%。」 その報告を聞きながら、冬月はゲンドウに声をかけた。 「国連軍もお手上げか。どうするつもりだ?」 「初号機を起動させる。」 「初号機をか?パイロットがいないぞ。」 「問題ない。もう一人の予備が届く。」 「これから父の所に行くんだよな?」 「そうね、そうなるわ。」 その事に対し、シンジの中で一つの記憶が呼び起こされる。 誰もいない駅のホーム。 振り向くこともせずに去っていく大柄な男の後姿。 自分の横においてある大きなドラムバック。 そして、去り行く男をの後姿を涙を一筋流しながら睨み付けている自分。 そんなシンジを、ミサトの言葉が呼び戻す。 「あ、そうだ。お父さんからID貰ってない?」 ミサトの言葉に対し、シンジはかばんの中から黙って1枚の紙を渡す。 そこには殴り書きで一言だけ、『来い。ゲンドウ』とだけ書かれていた。 「ありがと。じゃ、これ読んどいてね。」 殴り書きされた言葉には目を向けず、I,Dを確認した後、ミサトはシンジに一冊の本を渡す。 シンジはそれを手にして、その表紙に書かれた機関の名前を不信げに見つめる。 表紙に書かれていたのは、『ようこそ、NERV江』という見だし。 「NERV・・・どこかで・・・?まぁいいや。それより、俺に何かやらせるつもりなのか?」 その質問に、ミサトは何も答えない。 そんなミサトに対し、元々答えを期待していなかったシンジは気にする事無く言葉を続ける。 「ま、用も無く人を呼ぶような男じゃねぇか。」 「そっか。苦手なのね、お父さんが。・・・私と同じだわ。」 シンジの言葉の意味ををどう取ったのか、ミサトはシンジに声をかけた。 そのミサトの言葉に、シンジは一瞬呆気に取られたようになっていたが、薄い笑みを浮かべた。 先程と違ったのは、その笑みから何かしらの威圧のような物が発せられていた事であろう。 そしてその黒い瞳の中に、何かしら別の光が走った事であろうか? それを感じ取った時ミサトは背筋に一瞬だが寒気が走った気がした。 「苦手?・・・少し違うな。そう・・・苦手と言う感じではない・・・な。」 その言葉の意味をミサトが聞こうとしたとき、暗かった周囲の風景が一変した。 そこに広がっていたのは、とても地下とは思えない光景。 「へぇ、噂には聞いていたがまさか本当にジオ・フロントが存在していたとはな。」 シンジの言葉に、ミサトは先程の疑問を引っ込め、どこかしら誇らしそうにシンジの言葉に答えた。 「そう、これがあたし達の秘密基地NERV本部。世界再建の要。人類の砦となる所よ。」 ミサトの言葉を聞きながら、シンジは再び薄い笑みを浮かべていた。 まるで彼女の言葉を嘲笑うかのように・・・。 To Be Continued. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き 魔:・・・なぁ、ルシフェル。さっき作者の執筆部屋の前歩いてきたんだけどな・・・ 聖:どうかしましたか? 魔:なんか・・・死んでたぞ? 聖:ああ、それはですね・・・消えたんだそうですよ。 魔:消えたって・・・何が? 聖:この話の第五話までが。綺麗さっぱりと。ウィルスで。 魔:・・・マジで? 聖:真実です。 魔:つまりまた投稿が先延ばしなのか? 聖:その通り。 魔:・・・頭いてぇ・・・ 聖:今度はバックアップ取ってるから平気だって話ですけど・・・待ってる方には申し訳ないですね。 魔:居れば・・・な。 聖:・・・そうですね。 ってわけで今回の投稿すら遅くなりました。もし待っていてくれた方が居るなら申し訳ありません。 でも今後もこんな感じかも・・・(^^;; 申し訳ないと思いつつ、気を長く持って待ってくれる事をお願いします。m(_)m P,S 感想、誤字、脱字、ここはこうした方がいいんじゃないか、と言う意見ございましたら送ってください。 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