この作品は「新薬」「認知」の続編です。まずは、「新薬」「認知」をお試し下さい。 第2次攻撃計画。名付けて「僕のこと嫌いなの」大作戦は、残念ながら失敗。 でも、私には第3次攻撃計画があるわ。名付けて「僕はアスカと一緒にいていいの」大作戦。シンジが自分の居場所を確保したがる性質を利用した、プ、プロポーズも兼ねた、深遠、且つ壮大な長期戦略大作戦よ! 告白〜決戦!コンフォート17〜Act.3 第3次攻撃計画
「ねえ、シンジ。ベランダでお喋りしない?」 ベランダで告白!ロマンティックじゃない!トイレとは大違いよ! 「雨、降ってるよ」 きっ!誰よ!雨なんか降らせたのは! 仕方ないわね…。舞台設定変更よ、って言っても、雨だから外は駄目、となるとこの部屋の中しかないか…。 私の部屋……、駄目よぉ、女の子の部屋に誘うなんて、そんなことできないわ! シンジの部屋……、やっぱり駄目ね、押し掛け女房みたいだもの。 ミサトの部屋……、論外。どんなにシンジが好きでも、心中する気はないわ。 トイレ……、もういい! バスルーム……、ぼふっ!!早いわ!まだ早いの!ぼふっ!!ぼふっ!! 玄関……、駄目よね、ミサトが帰ってきたらどうするのよ。 キッチン……、二人で料理しながら…、いいシチュエーションなんだけど、もう紅茶まで煎れてあるから、必然性がないわね。 はあ…、やっぱりリビングしかないか……。 「アスカ、深刻な顔して、どうしたの?」 「うん、告白の場所を考えてたの」 ふへっ!不意打ちよ!不意打ち! 言っちゃったよぉ!『告白』って、言っちゃったよぉ! どうしよう?どうしよう? 「へえ、何の告白なの?」 き、来たぁっ!!!!! やったぁっ!やったよ!ママ! ついに、この時が来たのよ! 「そんなの、アンタに関係ないでしょ」 へ? 「そ、そうなんだ…、ごめん…」 え、え〜っ! どうして?どうして? シンジがちゃんと聞いてくれたのに!『何の告白?』って聞いてくれたのに! どうして、私あんな素っ気ない言葉で……! まさか、薬の効果が、切、れ、た……? 嘘……。 「ちょっとシンジ」 「?」 「アンタ、私に質問しなさいよ」 「へ?」 呆気にとられているシンジ。 そりゃそうだろう。いきなり何の脈絡もない命令なんだから。 「いいから、さっさと質問しなさいよ!」 「え、え〜と…、じゃ、あなたの名前は?」 「アンタ馬鹿ァ!何、その質問は!もう、信じらんない!」 「ア、 アスカが何でも良いって言ったんじゃないか!」 「それでも『あなたの名前は?』なんて、聞く人間いないわよ!」 今日初めての私の憎まれ口に、シンジは怒った。 これまでが結構いい雰囲気だっただけに、余計に頭に来たんだろう。 飲みかけの紅茶をそのままに、シンジは黙って自分の部屋に入った。 「はあ…、気が抜けたわ…」 「……」 「……」 私は突然立ち上がった。 このままじゃすまさないわ! 今日がXデーなの!私が決めたんだから、これは動かせない決定事項なのよ! 「……」(スーパーコンピュータASUKA・計算中) 「まずは…、リツコ、ね」 プルルルル…。 早く出なさいよ!中途半端なもの作って!クライアントが迷惑するでしょうが! 『はい…』 「リツコ?」 『アスカね、どう?成功した』 「成功も何も…。効果切れたわよ」 『え?いつ?何時何分に切れたの?』 「ついさっき…。て、あんたデータ収集が目的?」 『そうよ』 「マッド…。いいわ、薬の追加、寄こしなさいよ」 『ここには無いわ』 「え〜!ど〜して!何でないのよ!」 『そんなの研究室に置いてあるのに決まってるでしょ。此処は自宅よ』 「……」 『それともミサトに研究室に取りに行かせて、そっちに持って行かせようかしら。今、酔いつぶれてるけど、事情を話せばすっ飛んで行くわよ』 「遠慮しとく…」 『その方が賢明ね』 「……」 『アスカ、薬に頼ることないんじゃないの?』 「無理よ…」 『アナタなら自分で告白する気にさえなれば、できるはずよ』 「できないの…」 『……』 「もし、シンジに拒否されたら…。自分で告白して、シンジに拒否されたら…。私、生きていけない…」 『言葉にしないと始まらないものは多いのよ』 「アンタが言うんじゃないでしょ。言うのは、この私なのよ!」 『私が言うのなら、さっさと言ってしまってるけど?何なら私がシンジ君に言ってあげましょうか?』 「ば、馬鹿にしないでよ!」 『じゃ自分で言う事ね。それに今晩告白しなきゃ、明日酷い目に遭うわよ』 「どういうことよ」 『簡単なこと。アスカがシンジ君を好きだということを私がネルフ中に言いふらすだけ』 「……、リツコ、アンタ」 『シンジ君がそういう噂を聞いたら、傷つくのは間違いないわね。アスカが自分をからかってると思いこんで、どんどん落ち込んでいくのが目に浮かぶわ』 「アンタ、許さない!シンジにそんな想いさせらんない!」 『じゃ、自分から告白する事ね。悪いけど、飲み過ぎちゃって眠いのよ。切るわね』 「あ、ちょ」 私の耳にツーツーという音だけが残った。 「あの金髪黒眉毛のマッドサイエンティストめ!」 私はソファーに携帯電話を投げつけた。クッションに当たって、床に落ちる。 はあ…。私は溜息を吐いて、ゆっくりと目を閉じた。 リツコのヤツ、私を逃げられないように追い込んだのね。宣言通りにする女だから、甘く見てらんない。リツコの言うとおり、今日中に告白しないと私たち二人とも駄目になっちゃう。 方法は許せないけど、感謝してあげるわ。 逃げないわよ、もう! シンジだって逃がさない! いざとなったら無理心中よ!どうせシンジに拒否されたら、私生きていけないもの。 ふふ…、本当に生きるか死ぬかになっちゃったわね。 行くわよ!アスカ! 私はシンジの部屋の前に立った。 「出てきなさいよ、シンジ」 「何?」 出てこない気? 「いいから、出てきなさいよ」 「わ、わかったよ…」 シンジは少し膨れっ面をしている。 「何だよ、いったい」 「いいこと、シンジ!アンタに拒否権はないわ!」 「はい?」 シンジが呆然としている。 ああ、なんでこんなマヌケ面を好きなんだろう、私は! 「だから!私が何を言っても、アンタは拒否できないの!」 「……」 「いい?」 「うん、わかった。何か知らないけど、アスカの言うとおりにするよ、僕」 「へ?」 「はい、言ってよ。何言われても拒否しないから」 「いいの?」 「うん」 頷くシンジ。 何よ、コイツ。何でこんなに透き通った瞳で私を見つめるのよ。 「本当にいいの?」 「うん、いいよ。でも誰かを殺せ、とか傷つけろ、てのはなしだよ。そんなこと、アスカが言うわけないけど…」 「わ、わかんないわよ。私なんて性悪なんだから、アンタに死ねって命令するかも…」 うわぁっ!何言ってるのよ、もう少し考えて喋べんなさいよ、私。 「アスカがそういうなら…、そうするよ…」 げ!何言い出すのよ!アンタ、自分で言ってること、わかってんの? 「だって、死ねってことは、アスカが僕の存在を許さないってことだから…。そ、そんな、アスカが…、アスカと一緒にいられないなら、僕は死んだ方が」 バシッ! 私は反射的にシンジの頬を平手打ちしていた。勝手に身体が動いていた。 「ば、馬鹿ぁ…、何てこというのよ!私がそんなこと…、そんなこと、私が許さないわ!」 「アスカ…」 「いい?シンジ。アンタは死んじゃ駄目。使徒が何体襲ってこようが死んじゃ駄目なの。絶対に死んじゃ駄目!死んじゃ駄目!死んじゃ駄目!」 涙が溢れてきた。のどが詰まる。苦しい。 「絶対に死なないでぇ……」 もう駄目、足に力が入らない。 私はその場に泣き崩れた。 いやだ、いやだよ…。シンジがママみたいに死ぬなんて。そんなのいやぁ…。 ペタンと座り込んで、まるで幼児のように泣きじゃくる私。 そうだ…。ママが死ぬ前は、よく我が侭言って泣いてたっけ。そんなこと、忘れてた。 そんな私の肩を包むように、シンジがぎこちなく抱きしめた。 ぐっ…、ぐすっ…、嗚咽が止まらない。 「ごめん、アスカ。変なこと言って。本当にごめん」 耳元で謝るシンジに、私はありったけの力を込めて言葉を紡ぐ。 「な、何言って、んのよ。わ、私が先に変な、こと、言っちゃ、たん、じゃないの」 私は勇気を振り絞って、顔を上げ、シンジを見つめた。 私を気遣っている、シンジの想いがその表情に満ち溢れている。 「あ、あ、…、うっ…、はぁっ…、わ、私…」 こ、声にならない! 駄目よ!アスカ!負けちゃ駄目! お腹に力を入れて! 我が人生最高の瞬間にするのよ! 「シ、シンジが好き!」 お願い、シンジ。私を受け入れて…!拒否しないで…! 「……」 「ありがとう、アスカ…」 「……」 「拒否しちゃ駄目って約束だよね」 あの大好きな笑顔で、私を見つめるシンジ。 「ごめんね…」 え…? 「僕から告白しないといけなかったんだよね」 シンジ…。 「アスカ、僕の方こそ、君が好きだ。好きだ。大好きなんだ!」 ほ、ホント…? 「アスカ、僕みたいな情けない男でいいの?」 「ば、馬鹿ぁ!アンタがいいの!アンタじゃなきゃ駄目なの!アンタ以外考えられないの!」 ぼふっ!! シンジが真っ赤になった。 ち、ちょっと、気張りすぎたかしら?ううん。でも本心だもの、恥ずかしくないわ。 あれ?変ね。 こんなこと言うどころか考えただけで、私の顔が弐号機よりも真っ赤になっちゃうはずなのに。 まあ、いいわ。そんなことどうでもいい。 もう、私にはシンジがいる!シンジがいるんだ! 嬉しい!嬉しいよぉ! その夜、私はやっとの思いで掴んだシンジの腕を放さなかった。 幸せの余り、私はキスすることすら忘れてた。 そんなこと、いつだってできるもん。 だって、二人はもう恋人同士なのよ。 それよりも、今日は、今日だけは、シンジのこの手をずっと握っていたい。 ソファーで寄り添って眠る二人は幸せだった。 その後、二人はどうなったって? それは、今は教えてあげない。 今? 私たち、とっても幸せよ! まあ、ひとつだけ特別に教えてあげるわ。 シンジに告白して、恋人同士になったとたんに、シンジに甘えることが平気になったみたい。 前なら想像しただけで『ぼふっ!!』状態だったのに、今は周囲の者を『ぼふっ!!』とさせている。 どうしてこの程度のことで、みんな顔を赤くするんだろう? 周りの眼? 平気よ。 私にはシンジさえいてくれたらいいんだもん。 他には何もいらないし、誰が何を言っても気にしない。 悪いかしら? だって、私にはわかってしまったのよ。 私のこれまでの生涯は、シンジと出会うために存在したってことをね。 あの身が張り裂けるような悲しみや、血の滲むような努力や鍛錬は、もう懐かしい想い出よ。それがなければ、シンジに会えなかったんだもん。 ああ…、好き、好き、好き、だぁ〜い好き!! 大好きなシンジをこの手にしたんだから、 この、惣流・アスカ・ラングレー様は無敵なのよ! 使徒でも何でも、かかってきなさい!
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