この作品は「新薬」「認知」「告白」の後日談です。

まずは、「新薬」「認知」「告白」をお読み下さい。

 今回は少しシリアスが入ってます。

  

  

  

平行世界〜あの日、あの時に〜

Act.6  その後のこと

 故碇司令の葬儀は、ネルフの奥まった一室で簡素に行われたの。  参列者は、シンジと私、『最後だけは…』と副司令とレイも。リツコはやっぱり出たくないと伝えてきた。司令は無神教だったから、シンジの意向で仏式で葬儀を執り行ったの。それが一番ひっそりとできるからだって言ってた。 死亡を確認させるために遺体は政府に送付したからと、副司令が骨箱にあの眼鏡と遺髪だけを入れたわ。これがシンジの言っていた、大人の世界なのね。どうせDNA鑑定をして、灰の状態で返してくるんでしょうよ。  式はすぐ終わったわ。シンジですら涙を見せない、寂しい葬儀。  大丈夫、あとで私の胸の中で好きなだけ泣かせてあげるから、今はアンタのいう『狂信者の末路』を演出してなさいよ。この情景がみんなの結束を生むんだったら、私やレイもちゃんと役割を果たすわ。  私たちの考えは副司令とリツコだけは理解していたみたい。きっと、リツコは参列したかったのよ、本心では。結局司令には利用されただけの関係だったけど、彼女はあんな男だけど愛していた様子だったわ。でも子供たちが懸命に司令の悪を強調しているのに、彼女にそれを邪魔することなんてできない。たぶん今頃、研究室で…。  ミサトはこっちの期待通りアジテーターの役割を充分に果たしていたわ。人類補完計画のこと。碇司令がその計画に従っていたこと。ネルフがこの後ゼーレと対決すること。予想以上に見事なくらい、みんなは彼女に乗せられたわ。司令のことだけは脚色していたけどね。シンジとリツコのために。二人が後ろ指を指されないように…。  むしろみんなは肉親を裏切って人類の平和を望んだシンジを褒めそやしたの。それがシンジをどんなに苦しめる結果になるか。だから、私とレイ、それにミサトとリツコは、シンジを追いつめないようにしようとスクラムを組んだの。シンジを一人にしないように、常に誰かがそばにいるようにしたわ。  もちろん、私が夜間の担当ね。いやらし〜いミサトは信用しなかったけど、リツコがこの二人はしないと言えばしないと断言してくれたの。リツコってあんな風に見えるけど、ミサトよりもよっぽど現実家なのよね。私とシンジの性格をよく見切ってるわ。そう…、結婚するまでは、イヤなの。でもシンジが18才になったら、すぐに結婚するけどね。  それから、生活形態を決定したのも実はリツコなの。私たちの両方の隣室を借りて、リツコとレイ、ミサトと加持さん(二人の婚姻は私たちによって強制的に執行されたの)がそれぞれ住むことになったの。リツコとレイって取り合わせにはびっくりしたけど、これはレイから言いだしたのよ。  実は私にだけ、レイが教えてくれたの。リツコのお母さん、赤木博士が自殺したのは、一人目のレイに原因があったそうよ。レイを利用して、司令が赤木博士を厄介払いしたのだと。確かにこれはトップシークレットってヤツね。私も墓までこの秘密は持っていくことにするわ。死んだ人を悪く言うのはいけないと思うけど、やっぱりあの男は鬼畜以下ね。ましてそれに子供を利用したっていうのが許せないわ。 だからレイは罪滅ぼしの意味もあるから、とリツコと同居したの。きっとリツコが誰かの愛を欲しがっているはずだから、と。そうよね、アブノーマルは駄目よ、マヤ。レイは赤木レイになってもいいって言ってるのよ。近くで見てると、この二人結構いい感じなの。リツコに失礼だけど、姉妹と言うより、母子って印象がぴったりくるのよね。    この後?  さあ?  この4年後に、私とシンジが呑気に話をしてるんだから、巧い具合に話は進んだんじゃないの?  あと1ヶ月ほどで、シンジの誕生日だし…。 ふふふ…、もうすぐ私は、碇アスカ、ね。  確かなことは、今から4年前。  私が第15使徒と戦っているときに、シンジとレイが助けてくれたってこと。  そこからゼーレの計画と碇司令の計画の両方が破綻していったこと。  もし…。  もし、か…。 パラレルワールド。平行世界。  もし、あの時、私が精神汚染に負けていたら…。  そんなこと考えたくもないわ!  もしかしたら、人類補完計画やサードインパクトが発動してたかもしれないじゃない!  そんなのヤよ!  私はこの世界が好き!  愛するシンジがいて。  可愛いレイがいて。  ヒカリや、リツコや、ミサト夫婦とそのJr.や、みんながいる!  こんな幸せな世界を壊したくない! 「じゃあ、あの第15使徒の時にこの世界の未来が決まったのかなぁ」 「ブッブゥッ!」 「え!はずれ?何でだよ。今のアスカの話じゃ、あの時にすべてが動き出したんじゃないか!」 「それが、違うんだなぁ…」 「わかんないよ、アスカ。またこじつけてるじゃないの」 「失礼ね!誰が、何時、こじつけなんかしたのよ!」 「アスカが、しょっちゅう。僕、被害者です」 「ア、アンタねえ!いいわ。じゃ、こじつけかどうか、この問題で決着付けましょ」 「いいよ。で、問題は?」 「この世界の未来が決まったときは?」 「だから…、第15使徒じゃないんでしょ。ヒント!」 「いいわよ…。第1ヒントは『傘』よ!」 「へ?傘ぁ?何だよ、それ」 「あ〜、覚えてないんだ。傷つくぅ〜」 「ごめん。もうひとつヒントちょうだい、ね、アスカ」 「仕方ないわねぇ。じゃ第2ヒント!それは『煮込ハンバーグ4個』よ」 「はい?」 「もぉ〜、信じらんない!この鈍感大王!いいわ、こうなったら正解するまでヒントの連発よ!」 「ご、ごめん」 「第3ヒント!『泥だらけの靴』!」 「え?ごめん、わかんない」 「第4ヒント!『部屋の前のトレイ』!」 「トレイってトレイだよね。え〜と…、ごめん」 「第5ヒントは『足を怪我した彼氏』!」 「彼氏って僕のこと?あ、ごめん。違うみたいだね、あわわわ、怒らないで、アスカ!」 「あ〜!もう!アンタ、本当に私のこと、ちゃんと見てたの?」 「うん、ずっとアスカを見ていたよ」 「じゃどうして正解しないのよ。だんだん腹が立ってきたわ。じゃ第6ヒントよ」 「アスカ怖いよ。目が据わってるよ」 「うっさいわね。第6ヒント、いるの、いらないの?」 「いります!下さい!お願いします!」 「第6ヒントは『1年生のカップル』よ。何か、もう疲れてきたわ」 「え〜と、えっと」 「はいはい、シンジ君。鈍感大魔王君。まだヒントいるの?」 「イヤ、ちょっと待って。1年生のカップルで、たぶんその彼氏が足を怪我してて…、傘?泥靴でしょ。トレイにハンバーグ…。え?それって…」 「ふふふ」 「え〜っ、 どうしてアレが未来を決めたのさ!」 「思い出した?」 「うん、あれだろ。僕が傘を1年生のカップルに貸して、びしょぬれで帰宅して、お風呂でアスカの泥靴洗ってたら、急にアスカが怒りだして、部屋に閉じこもったから、晩御飯をトレイで置いて…、て、あの日のことだろ」 「大せいか〜い!」 「だから、なんでアレが未来を決めたんだよ!」 「あれぇ〜、わからないの?」 「わかんないよ!やっぱりこじつけなんだ」 「違うわよ」 「うっ…。そんな目で見ないでよ。どうしてさ」 「じゃ、碇シンジ君に質問します」 「うへ…、ど、どうぞ」 「私が第15使徒に襲われていたとき、命令に逆らって助けに来てくれたのは、何故?」 「アスカが大変だったからじゃないか」 「どうして私が大変だから助けに行ったの?」 「それは…」 「仲間だから?」 「違うよ!アスカを大好きだったからだよ!好きな人を守りたかったからだよ。あの時にも、そう言ったじゃないか」 「じゃ襲われてるのが、ただの仲間だったら?命令に逆らってまで出撃した?」 「う…」 「ごめんなさい、シンジ。責めているんじゃないの。ただ、あの時、二人が恋人になってなかったら?」 「そんなの…わかんないよ…」 「恋人同士になってなければ…、きっと私はレイに優しくしてなかったと思う」 「……」 「シンジもあんなに早くエヴァから帰ってこなかったと思う」 「……」 「つまり、私たちが恋人同士になっていたから、すべては始まったのよ」 「じ、じゃ、それは告白の夜になるんじゃないの?」 「違いま〜す!」 「え、どうして?」 「シンジは告白されたから、私を好きになったの?」 「え?」 「違うでしょ。いつから、シンジは私を好きになったの?」 「え…、えぇ〜と、いつだったけ、はは、いつの間にか、じゃ駄目かな…?」 「はぁ…。まあ、そんなことだと思ってたけど、現実にそうだと知らされたら、力が抜けるわねぇ…」 「ごめん…」 「いいわよ、アンタらしくて、それもいいじゃん」 「はは」 「でもね、私は…、私にはシンジを好きだって、ちゃんと認められた日があったの」 「……」 「そう、それが、『あの日』だったのよ!」 「そうだったんだ…」 「そうよ。あの日、シンジと一緒にいるときどんなに嬉しいか、一緒にお喋りしてたらどんなに心が安まるのかを知ったの。でもそれが恋だと認めることが、その時の私にはどうしてもできなかったわ。今にして思えば、くだらないプライドだったけど…。そんなプライドを簡単に打ち砕いてくれたのが、アンタが傘を貸したカップルだったの」 「……」 「女の子が私をシンジの彼女だと誤解してて、私とシンジが彼女の憧れのカップルなんだと告げられたの。その時、私、突っ張ってた肩が急に軽くなっちゃたのよね。自分が認めてなくても周りが認めている。それにそのことが嬉しい。そのことに気付いて、アンタのこと好きだって認めた瞬間に、そうね…、人生がバラ色になったていうか…。認めたときから、アンタをどんどん好きになってって止まんなくなっちゃったのよね」 「誤解、だったの?」 「そう、大いなる誤解。でもね、その誤解が、何と人類を救ったのよ!」 「そ、そっか。あの時の…、あの娘が…、僕が傘を貸したから…」 「そうよ、アンタが傘を貸さなかったら、あの娘の彼氏が足を怪我してなかったら、私がイライラして水たまりでバシャバシャしなかったら…、人類はみんなLCL化してたかもしれないし、もしかしたら、私とアンタも憎みあったり、殺し合ったりしてたかもしんない…」 「アスカと、僕が…!想像できないよ」 「私も、よ。でもあり得ない話じゃない。それが多元世界。そんな別の世界なんか考えたくもないから…。今のこの世界がたまらなく好きだから…」 「僕も、だよ。アスカ…」 「うん…」 「はは」 「どうしたの、シンジ?突然」 「そうやって考えると、そのカップル、人類を救ったんだよね。全くの誤解でさ。そんなこと、その二人は知らないよね。今頃何処でどうしているか。そう思ったら、何か可笑しくて」 「松代の高校にいるわよ。二人とも」 「なんだ、知ってたの?」 「それから卒業後には、ネルフの松代に就職予定。今もネルフでこっそりとアルバイト中」 「へ?ネルフで?」 「そ。汎用エヴァの開発テスト…」 「へぇ〜、そうなんだ。ホント、びっくりしたよ」 「因みにもっと凄いこと教えてあげましょうか?私も後で知ったんだけどさあ、あの二人、実はスパイだったのよね」 「ス、スパイぃ!?」 「そ、スパイ。戦自のね。あの後、戦自と協力体制に入ってから、正体が分かったんだけどね。すべて終わった後も、あの娘たちのおかげでこうなったと思うと、何か放っておけなくて、あんな物騒なとこ辞めさせて、うちにスカウトしたのよ」 「知らなかった…」 「ふふふ、アンタの知らないことって結構あるのよね…。まあ、私のことなら何でも教えてあげるけどね」 「そっかぁ…。じゃ、今度僕も二人に会わせてよ。会って、お礼っていうか、話をしたいなぁ」 「いいわよ、正式に紹介してあげるわ。あの娘、美人になったわよ。彼氏もかっこいいし。 あのね、あの娘の名前は…」


マナ:もし、アスカが告白する前に、わたしが告白してたらどうなってただろうね。

アスカ:玉砕してただけよ。

マナ:なんでよっ!

アスカ:この、包容力と、優しさと、美しさと、気品を持ち合わせたアタシだから、受け入れられたのよっ!

マナ:(ジロジロ)(一一)

アスカ:何、見てんのよ。

マナ:シンジ・・・趣味が悪かったのね。

アスカ:ガルルルルルルルル。
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