「あなたの心に…」

 

 

 

Act.15 HAPPY BIRTHDAY TO ASUKA

 

 

 

 お〜い、早く開けなさいよ。博愛の精神でケーキ、持ってきてあげたんだから。

 ずいぶん、時間かかってるわね。

 まさか、また倒れたとか。ま、学校で元気だったから、それはないか。

 ガス漏れ…は警報が鳴るよね。

 じゃ…、留守か。コンビニかどっかかな。

 仕方がない、このケーキはマナに見せびらかしながら、私が戴きますか。

『は〜い』

 やっとアイツの声がした。インターホン使いなさいよ。

『どちらさ』

「私、早く開けて」

『あ、ごめん』

 ようやく開きました。廊下寒いんだから早くしてよね、って、
 あ、お風呂だったんだ。髪びしょ濡れ。

「ごめん、シャワー浴びてたから」

 慌てて服を着た形跡がいっぱい。びしょ濡れの髪はもちろん、
 パジャマのボタンが2箇所も外れてるし、廊下に濡れた足跡ついてるよ。

「これ渡すだけだから。はい」

 私はケーキのお皿を差し出したわ。

「僕に?」

「そ、唐揚げのお礼…。ありがとね、おいしかったわ」

 アイツったら、私のお礼に戸惑ってんの。

 こら、濡れた頭掻いたら、雫が飛び散るでしょうが。

「ありがとう。いただきます」

「うん、最後の一個だから、フルーツのっかてなくて悪かったね」

「いいよ。ホント、ありがとう」

 赤くなって、照れてんの。よほど、人の優しさに飢えてたのね。

 よ〜し、いい娘紹介してやるからね!楽しみにしてなさいよ。

「じゃ、ね。おやすみ」

 私が閉めようとしたら、アイツが慌てて言ったの。

「ち、ちょっと待って!ごめん!」

 そう言い残して、お皿を掲げながらドタバタとリビングの方へ走っていったわ。

 変なヤツ。

 しばらくして、アイツは決まり悪そうな顔をしながら歩いてきた。

「あの、これ…」

 そう言って、後ろ手にしていた右手で小さな包みを私に差し出したの。

 水色の包装紙に赤いリボン。

「私に?」

「うん」

「プレゼント?」

「うん」

「ありがと!もう、早く渡してくれたらよかったのに!」

「うん…何か渡しにくくて」

「気にしないでいいのに!アンタ、お隣さんで友達でしょ!」

「そ、そうだね。と、友達、だもん、ね」

「そうよ!とにかく嬉しいわ。ありがとね、じゃ、おやすみなさい!」

「うん、おやすみ…」

 扉を静かに閉めると、私はプレゼントの包みを掌においてしげしげと眺めた。

 よ〜し!プレゼントもう1個ゲット!予定外だったわね。

 アイツもなかなかやるじゃん。

 アイツの誕生日は6月、だったよね。ちょっと先よね。

 ま、いいか。そのうち、可愛い彼女をプレゼントしたげるから。

 お返しよ!

 私は少しウキウキして、自分の家に戻ったわ。

 

「へぇ〜、シンジがねぇ〜、馬鹿シンジもやるわね」

「開けてみよっか?」

「え?いいの?私、消えようか?」

「どうして?はは、何、気を使ってんのよ。彼氏からのプレゼントじゃあるまいし」

「う〜ん、いいんだろうか?」

「何くだらないことで悩んでるのよ。さ、開けるわよ」

 私はさっさと赤いリボンを解いていったわ。

 そして、包装紙を綺麗にはずしていく。さすがにビリッとはできないよね。

 中には高さ15cmくらいの白い箱。

 箱を開けると…、陶器でできた天使像だった。

「あ、可愛い…」

「本当…」

「アイツ結構いい趣味してるじゃない。あ、これオルゴールになってる」

 私はハンドルを回した。

 流れ出す、オルゴールの音色。

「これ…この曲。聞いたことあるわ。曲名知らないけど」

「へぇ、私は知らないけど。でも、いい曲ね」

 本体にも箱にも曲名が記されていなかった。

「そうだ!ママなら知ってるかも。聞いてくる!」

 私は部屋から飛び出していったわ。

 

「あ、これ、『Fly me to the moon』じゃない。
 ママ歌えるわよ。聴きたい?」

「結構です。ふ〜ん、歌もあるんだ。私を月に連れてって、か」

「でもこれ…。これ、碇君から?」

「そうよ。アイツもじもじしちゃって、はははって感じ」

「アスカ、そんなこと言っちゃ駄目」

 あ、ママが真剣モードになっちゃった。どうして?

「これ…、アスカ大事にしなさいよ。簡単に買えるものじゃないわ」

「え?どういうこと?それって」

「このオルゴール、名前なんだっけ、そうスイスの有名な会社よ。
 ほら裏に小さく書いてあるでしょ」

「ほんと、スイス製なんだ」

「しかもそこは大量生産しないから、二三千円の価格じゃないわよ」

「何百万!」

「馬鹿ね…。そこまではしないけど、う〜ん、5万円前後じゃないかしら」

 ママの目は確か。これまでの実績がものを言うわ。

「そ、そんなのもらえないわ。返して…なんかしたら、アイツ傷つくよね」

「当り前でしょ。
 碇君にとっては、このプレゼントにそれだけの価値があるって事よ」

「う〜ん、私、アイツにそこまでの見返りが…あ、そうか!」

 ママが身を乗り出したわ。はん!私の見事な推理を聞きなさい!

「これはこの前、私がベランダを命懸けで飛んだお返しなのよ!」

 私は得意のポーズで大見得を切ったわ。

 あれ?ママが脱力してる。どうして?大当たりじゃない!

「はぁ…、アスカってば、もう…。大事にしなさいよ」

「当然!私の尊い行為の証ってヤツだもん。ほこりをかぶらないようにするわ」

 私は得意満面で自分の部屋に戻っていった。

 

 部屋にはマナはいなかった。

 ちょっと、ママと長話しちゃったかな?

 すねちゃったんだろうか?

 あ、ひょっとしたら、あのプレゼントで機嫌悪くなっちゃったかな?

 自分の大好きな男が、何とも思ってない女性に、可愛いプレゼントしたんだもんね。

 う〜ん、いくら命を助けてもらったお返しだって言っても、
 アイツもちょっと考えたらいいのに。

 友達にあんな可愛いプレゼントはないよね。

 やっぱり、アイツは変なヤツ。

 あ〜。でも、ど〜しよ。

 マナ、落ち込んじゃったんじゃない?

 謝るってのも、かえって逆効果になりそうだし…う〜ん…。

 

「アスカ!スパイしてきたよ!」

 あわわ!

 元気いっぱいに、マナが壁から飛び出してきたわ。

 何この娘、落ち込んでたんじゃなかったの?

「どうしたの?変な顔して」

「深読みしすぎただけよ。もう!」

「深読み?何それ?あ、それよりもね、シンジよ、馬鹿シンジ」

「アンタ、見に行ったの?」

「うん。こっそり」

「あんなに見に行くの嫌がってたくせに」

「だって、プレゼント渡した後の顔って、興味あるもん」

「ふ〜ん、そんなものなの?」

「うん!それでね、シンジったらニッコニコしてね。
 おいしそうにケーキ食べてるの」

「へぇ…アイツ、ケーキが好物なんだ」

「アスカ…やっぱり変…」

「へ?だからケーキ食べて嬉しそうなんでしょ。
 う〜ん、だったらクリスマスケーキもお裾分けしてあげるか」

「アスカ、アナタ感覚ズレてるよ」

「そんなことないって!そうそう、あのオルゴール、凄く高いんだって!」

「え、そうなの?」

「うん、ママが5万円くらいって言ってた」

「凄い!」

「私もびっくりしちゃった」

「ね、もう一回聞かせて」

「うん」

 ハンドルを回すと、心に染みとおるような音楽が奏でられた。

 目を瞑ると、夜空に浮かぶ満月がイメージされたわ。

 そのまんまだけどね、でも天使に誘われて遊覧飛行って感じかな。

 そうだ。明日CDショップでこの曲探してみよっと。

 ママが歌、って言ってたから、歌付きなのがいいかも。

 ネットで調べたら誰のがベストかわかるけど…、

 やっぱり自分で探そう。そのほうが面白いし。

「いい曲だね」

「そうね」

「私、シンジの家でこの曲、聴いたことあった…いつだったけ…?」

「……」

「あ、シンジのママが…ベランダで口ずさんでたんだ…
 小学校の3年、うん、運動会の夜だった。夜中に起きたら、
 お月様がきれいだったからベランダに出たの。
 そしたら、お隣のベランダにシンジのママがいて、この曲を歌ってた。
 小さな声だったけど、私にはよく聞こえたの。
 綺麗だった…お月様もシンジのママも」

「きっと、アイツのママが大好きな曲だったのね。だからこの曲を選んだのよ。
 アイツも好きなのかも」

「うん、さっき見に行ったとき、鼻歌で歌ってたよ」

「そっか、じゃ明日アイツに聞いてみよっかな。どのバージョンがいいのか」

「あれ?さっきは自分で探すって言ってなかったっけ」

「ネットじゃ無責任でしょ。アイツならきちんと答えてくれるもん」

「ね、そうでしょ、馬鹿シンジは信頼できるでしょ」

「はいはい。またパターンに入っちゃったわね。
 わかってます、わかってます。
 マナの大好きなアイツは、優しくて、頭がよくて、え〜と、何だっけ?
 まあいいわ。
 そういう、いいヤツだから、この私がいい娘を紹介するから」

「アスカぁ、私は、アナタがいいんだけどな」

「しつこいって。アンタは」

「あ、さっきアスカ、シンジのことをいいヤツ、って言ったよ」

「え?そうだっけ」

「言った!」

「ん〜。まあ、いいヤツだってことだけは認めてあげるわ。
 でもだからって、私、アイツはごめんだよ」

 うん、今日は凄い誕生日プレゼントもらったから、誉めといてあげる。

 でも…何故かオルゴールよりも…鳥の唐揚げの方が嬉しかった。

 どうしてだろ?

 こんなことマナに言えないわね。

 アスカが食い意地張ってる証拠だ、なんて言うに決まってるから。

 

 12月5日、午前0時。

 惣流・アスカ・ラングレー、14才と1日。

 いつの間にか、雨は上がっていたわ。

 

 

 

 

Act.15 HAPPY BIRTHDAY TO ASUKA  ―終―

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第15話です。『アスカ、14才のバースデイ』編の後編になります。
シンジくん、奮発してオルゴールをプレゼント。
でも極端に素直なアスカには本心が通じてません。
どうやら、隣のアスカに恋愛感情を抱いた模様。
何しろアスカの一人称なんで、そこのところが直線的に描写できません。
ですから、現代国語の読解みたいになっちゃいます。
今回は「そ、そうだね。と、友達、だもん、ね」という台詞です。
う〜ん、文章力がもっとあれば、巧く表現できるんですが。ごめんなさい!
次回からは『学年TOPをねらえ!』編です。


レイ:駄目。(−−)

アスカ:いきなり、なんなのよ?

レイ:Fly me to the moon.は、私の歌。私が歌うの・・・。

アスカ:いいじゃん。ママが歌ったって。

レイ:♪ Fly me to the moon And let me play among the stars・・・♪ (−O−)

アスカ:ほっときましょ・・・。無視。無視。

レイ:私は、いつ碇君と恋人になれるの?

アスカ:なられてたまるかっ!!(ーー#

レイ:♪ Fly me to the moon And let me play among the stars・・・♪ (−O−)

アスカ:・・・・・・。この女めっ!(ーー#

レイ:聞いてる?

アスカ:なんだか、疲れてきたわ。(ーー)
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