「あなたの心に…」

 

 

 

Act.17 勝っても負けても

 

 

 2学期の期末テスト。

 2日目も3日目も、私はパワー全開だったわ。

 数学、英語、理科2分野、音楽は満点確実ね。

 保健体育で1箇所だけケアレスミスしちゃって、
 社会の歴史で2箇所間違えちゃった。

 2日間で10点のマイナスね。

 自己採点では、トータル25点マイナスか。やっぱり国語の8点減点がきついわね。

 あとは実技の点数が読めないけど、900点満点の860点は最低いってるはず。

 事前調査では前回アイツの取った点数が、865点。

 どうなんだろ…。

 まあ、やるだけのことはやったわ。

 はん!3学期は国語と社会も満点とってあげるから、見てなさいよ!

 えっと、発表は週末、金曜日の放課後か。

 楽しみだわ。ワクワクしちゃう。

 

「アスカ、試験が終わってから凄くご機嫌ね」

 木曜日のお昼休み、お弁当を食べながらヒカリとお喋りの時間。

「そう?特に何もないんだけど」

「そっかな…。何かを凄く楽しみにしてるって感じ」

「楽しみ…ね。あ、あれよ、あれ。成績発表よ、明日の」

「あ、あれ、か。発表を楽しみにしてるの、アスカくらいじゃない?」

「え?そうなの。う〜ん、今回は賭けもしてるから、ワクワクするのよ」

「賭け?え〜!お金賭けてるの?」

「まさか。映画よ、映画」

「なぁんだ、映画か」

「そ、負けた方が奢るの」

「え!お母さんが?どうして?」

 ヒカリが目を丸くしたわ。

「違うわよ。アイツよ、アイツ」

 私は空席になってるアイツの机に首を向けたの。

 もう外は寒いから、どっか校舎の中で食べてんでしょうね、アイツ。

「碇君…。え〜!」

 急に大声出さないでよ、ヒカリったら。

「どうしてそんなに驚くのよ」

「だって、だって、それじゃ、勝っても負けても映画に行くんでしょ」

「あ、そうなるわね」

 ヒカリは何故か口をパクパクさせているわ。酸欠の魚みたい。

「デート」

 やっと出てきた一言はそれだったの。

「は?」

「デートよ。それって、デートじゃない!」

「あはは、違うわよ。これは正当な勝負の結果なの。デートなんておかしいわ」

「おかしいのはアスカじゃない。それを世間一般ではデートっていうの」

 私は首をひねったわ。ヒカリって国語の点数悪いのかも。

「あのね、デートっていうのは、好きな者同士が遊びに行くんでしょう?
 私とアイツは好きあってないじゃない。ただの友達よ。
 でも、そんな目で見られるんだったらヤだな。止めよかな」

「あ、違うよ。冗談、冗談だって。ごめんね、アスカ」

「うん、気にしてないよ。でもホント楽しみ、早く明日にならないかな?」

 あれ?ヒカリが大きな溜息を吐いたわ。

 そっか、よっぽどテストの出来が悪かったのね。

 また次に頑張ればいいのよ、ね、ヒカリ!

 

 そして、いよいよ発表の瞬間。

 私は嫌がるヒカリを引きずって、最前列に就いたわ。

 掲示板にベスト100の順位表が貼られていく。

 丸まって見えなかったTOP10の場所が広げられて…。

「よぉしっ!」

 私は得意のポーズをバシッと決めてやったわ。

 1位よ。1位。867点。

 うわ!やっぱり、アイツが2位で864点じゃない。

 3点差よ。たったの3点。

 危なかったぁ〜。

 でも3点とはいえ、私は勝ったの。アイツに勝ったの。

 あれ?3位って、綾波レイ。862点。

 やるじゃない、あの娘。

 4位が834点だから、この3人がダントツって事ね。

 ますます、いいんじゃない。綾波レイは。

 成績がこんなにいいんだったら、ホントにアイツにピッタリよ。

「あ、やっぱり負けちゃったね」

 私の背後からのんびりした声がした。

 すかさず私は振り返って、胸を張ったわ。

「どう?前学年TOPさん、私の勝ちね」

「うん、負けました。で、勝者様は何の映画にしますか?」

「何でもいいわ。アンタの奢りなんだから。任せる」

 あ、アイツの背中の…向こうに、綾波レイが立っている。

 掲示板を見ているわ。

 う〜ん、悔しいのかどうだかわかんないわね。表情に出ないから。

 でも知ってるんだ。

 こんな娘ほど、笑うと凄く可愛いのよ。

 あ〜、早く見てみたいな。アイツとこの娘が並んで立っているところ。

 

「え〜!本当にシンジに勝っちゃったの?シンジ可哀相」

「あ、マナ酷い。アンタが負けても大丈夫だなんていうから、安心して戦ったのに」

「ああ、そっちの方は大丈夫だよ。
 シンジはアスカに負けたんなら絶対に傷つかないよ」

「あら、どうして?」

「だって、馬鹿シンジはアスカの事が好きだからよ」

「そうね、友達同士だから」

「あ〜、アスカ、本当に私より年上なの?」

「はい?」

「もういいわ。で、明日は何を見に行くの?」

「さあ、別に見たい映画、今やってないから。アイツ任せ」

「ふ〜ん、シンジどんなの選ぶかな〜。楽しみ」

「アイツ、どんなジャンルが好きなの?」

「そうね、やっぱりアクションものかな。
 はは、案外ベタベタの恋愛映画選んだりして」

「別に構わないけど。私は面白ければ」

「へぇ…、そうなの。シンジが隣にいて気にならない?」

「だって、アイツと恋人なんかじゃないもん。そんな気持になるわけないでしょ」

「そんなもんですか?」

「そうよ。さ、お風呂入ってくるね」

「いってらっしゃい」

 私はお風呂場へ向かいながら、マナの質問で明日の映画が少し気になっていたわ。

 どんなの見せてくれるのかな?アイツは。

 面白ければいいけど。

 ここんとこ、試験で生活が不規則だったから疲れがたまっちゃってるもん。

 

 翌日。

 アイツが選んだ映画館では…、

 北欧の巨匠が10年の歳月をかけて撮影した、6時間の超大作が上映されていたわ。

 アイツが発券機で購入している間、私はポスターやロビーカードを眺めて待っていたの。

 ポスターには年老いた男が眉間にしわを寄せて涙を流している。

 スタッフもキャストも全然知らないよ…。

 ロビーカードも暗い感じの場面ばかり…。

 こんなの見せられるの…私。

 

 ガンを告知された大学教授がそれまでの自分の人生を振り返るという、文芸映画。

 純文学よ!しかもラブロマンスのかけらもなく、もちろんアクションのアの字もない。

 出てくるのは人生に疲れた老人ばかり。看護婦ですらおばちゃん。

 回想も若い俳優を使わずに、老人の語りと風景描写を延々と続ける。

 わ、悪くはないわ。は、ははは…、ま、私のような才媛には、ぴ、ピッタリな…。

 トホホ…。

 これがあと5時間以上も続くの…!

 アイツの趣味って、暗いってゆうか、尋常じゃないわ。

 お客もほとんど…って、私たち以外いないじゃない!

 今日は土曜日なのよ!

 ま、まあ、他にお客がいないってのも、普通じゃなくていいわね。

 まるで私たちへの貸切みたいじゃない…。

 私たち、か…。

 あ〜あ、これで隣にいるのが彼氏だったらなぁ…。

 こ〜んな、小難しい映画放っておいて、
 彼氏の方に頭を預けて、手なんか握っちゃってさ…。

 うん、それだったら、こんな映画は大歓迎よね。

 凄く贅沢で有意義な時間になるわ。

 そんな日って、私にやって来るんだろうか…?

 隣にいるのが、私の愛する恋人…。

 ぼふっ!

 ヤだ!想像したら顔が赤くなっちゃった。

 よ、予行演習してみよっかな。

 アイツの肩に頭をそっと…。

 あ〜駄目駄目。想像しただけでも顔が赤くなっちゃう。

 まだ、私には早いのね。

 それに予行演習するんなら、いつだってアイツでOKじゃない。

 アイツだったらそんな実験台に格好な相手だもん。

 別に好きなんじゃないし、これから先も好きになるわけないもん。

 ほら、アイツといても心ときめく、なんて絶対にないし。

 そうね…ま、たとえるなら、家族って感じかな。

 一緒にいて、違和感がなくて、
 ときめくとか、心騒ぐとか、そんな感情じゃなくてさ…。

 え〜と、そうね、安らぐとか、癒されるっていうか…、
 きっと、今パパがいないから、アイツを家族として見てるのかも…。

 親じゃないし、もちろん子供じゃないし、兄弟…てのは、むしろマナよね。

 じゃ何なのかな?家族なんだから…。それ以外の家族って…。

 う〜ん、親、子、兄弟、親戚、……。

 そっか!わかった!

 爺さんだわ、爺さん。ふふふ、変なヤツ。

 ホント、アイツの事考えてたら、飽きないわ。

 暇つぶしには最適な相手ね。

 失礼だから今まで隣を見なかったけど、
 アイツの様子を見たくなっちゃった。

 いったいどんな顔して、こんな映画を見てるんだろう?

 私はそっと右手の方を覗き見たわ。

 アイツは…。

 ……。

 とても安らかな顔で眠っていたわ。

 微かな鼻息が聴こえる。

 ……。

 ……。

 ……。

 何なのよ!コイツ!

 こんな映画に私を連れこんで!

 しかも自分の趣味爆裂の辛気臭い映画よ!

 その当の本人がご就寝っ!

 もう、あったま来た!

 ……。

 最後まで見てやる。

 最後まで見て、感想を6時間以上話してやるから!

 ふん!楽しみだわ!

 

 

 

 

 

Act.17 勝っても負けても  ―終―

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第17話です。『学年TOPをねらえ!』編の中編になります。
え〜、現状を申し上げますと、
アスカがシンジのことをLOVEだということに、アスカとシンジ以外の全員が気付いてます。
はい。未だに台詞ゼロの綾波嬢でさえ、気付いています。
あ、映画に特別なモデルはありません。60年代のスウェーデン映画の雰囲気で。それでも6時間はないぞ!


マナ:み、みてごらんなさいよっ! デートになってるじゃないっ!

アスカ:フフフ。いい雰囲気になってきたわ。(*^^*)

マナ:手を握るとか、凭れかかるとか、何考えてるのよっ。

アスカ:ってよりさ、シンジ寝てるじゃん。

マナ:あまり面白くなかったのよ。

アスカ:そんな映画に誘うぅ? 普通?

マナ:アスカと一緒にいるのが。(ボソ)

アスカ:(ーー# ぶっ殺す! (ゲシっ! グシャッ! ドカーーーーーン!)

マナ:いやーーーーーっ! ほんとのこと言っただけなのにぃぃっ!
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