葛城ミサトが、加持ミサトになって、コンフォート17マンションは、二人の愛の巣になるため、

 同居人は引っ越すことになった。

 といっても、あの後、シンジはアメリカに留学中。

 同居人は、元セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー、ただ一人である。

 

タームさん引越祝SS by.ジュン

 

アスカの転居通知

 

 

 まったく、ミサトも人がいいわね。

 馬鹿シンジが帰国するまで、荷物をそのまま預かるなんて。

 あ〜あ、私とシンジって、結局なんだったんだろ?

 すべてが終わって、二人は彼氏彼女にはならなかったのよね。

 正直言うと、そんな気持になりかけたのは確かよ。

 多分、シンジもそれは同じ。

 でも、その後の時間は何となく過ぎていき、中学卒業。

 揃って高校に入学した途端に、シンジのアメリカ留学が決定したの。

 政府の決定とかで、別に反対する理由もなかったから、アイツはあっさり行っちゃった。

 寂しいわよ、そりゃあね。

 毎日、顔つき合わせてて、ちょっとは好意を持ってた男の子がいなくなったんだもの。

 私が高校で勉強する必要は何もないんだけどね、

 ただ日本で暮らす以上、中卒じゃまずいわけよ。

 ちゃんと大学を卒業してるんだけどね、私は。

 でも、かといってネルフで働く気もしないし、軍関係だってもうごめんよ。

 戦うのはもうイヤ。普通に生きたい。

 だから、高校に通ってるの。

 ヒカリや、義足になっちゃった鈴原たちも一緒だから、退屈はしてない。

 はぁ…、でも何か、毎日の生活が面白くない。

 シンジとは毎日のようにメールをやり取りして、ネット電話でもよく喋る。

 そのときは楽しい。馬鹿話をして、からかったり、からかわれたり…。

 ただ、電話を切った後…、PCのパワーをオフにした後…。

 たまらなく、せつなくなる。

 これって、アイツが好きだってことだよね。

 正直、モニターを通して見えるアイツは、だんだんかっこよく見えてくる。

 あ〜あ、私も留学しとけばよかった。

 でも、今さらそんなこと言い出したらややこしいことになっちゃうし。

 ひょっとしたら、シンジと入れ違いになっちゃうかもしれないもんね。

 シンジは2年間の留学予定だから、あと1年と2ヶ月と17日。

 我慢して待つことにしたわ。ああ、私ってなんて健気なんだろう。

 もし…、アイツ、向こうでブロンド美人とできちゃってたら、本気で殺してやる。

 

 引越し先は、少し離れた住宅街の小さなマンション。もちろん、賃貸ね。

 手続きは全部自分でした。人に頼るのってイヤになってきたのよね、最近。

 引越し業者の手配。価格交渉。箱詰や学校の事務手続き。エトセトラ、エトセトラ。

 面倒ったらありゃしない。

 全部終わったかと思って、新居の片づけをしてたのよね。

 すると、ネルフから電話で新しい住民票を出せって。

 はは、ネルフもすっかり役所みたいになっちゃったわね。

 あ、忘れてたわ。住民票を変更しなきゃ。

 ネット時代だっていうのに、わざわざ役所まで行かなきゃいけないの。

 それを変更したら、ぜ〜んぶお仕舞い。

 アスカの引越しは終了。

 住民票か…。

 ん?もしかして…これって可能なのかな?

 

 アスカは、市役所の住民課に電話をして確認を取ると、唇を歪めてニタァ〜と笑った。

 そして、ゴミ箱に処分した引越し業者の名刺を探し出し、

 業者に電話した後に、コンフォート17に向かって、

 愛車のマウンテンバイク<弐号機>を走らせた。

 その顔を目撃したものは、人間の顔があんなに笑顔で緩むものかと驚いたらしい。

 

 数日後。

 ここはシンジのアパート。もちろん、アメリカである。

「あ、珍しいな…。アスカからエアメールだ。

 用があったんなら、昨日のネット電話のときに話せばいいのに…」

 などと言いながらも、ニコニコしながら丁寧に封を開いているその様子は、

 やっぱりシンジ君もアスカ嬢の事をまんざらではない模様。

「え、何?はがき一枚入れてあるだけ?それならはがきで出せばいいのに。

 相変わらず、アスカのやることって理解できないや…。

 なんだ…転居通知じゃないか。

 以下の住所に変わりました。お近くにお出での際は…って、ここはアメリカだよ。

 変なアスカ。あ、そんなに離れてないんだ。新住所。

 はい?何。これ?え、えぇっ!そんな滅茶苦茶な」

 シンジは大慌てで、通常の電話機の受話器を取り上げた。

 はがきに書いてある新しい番号にコールすること、28回。

 ようやく出てきた物憂げな女性の声。

「はい、惣流…」

「アスカ!」

「ああ…シンジ…はぁ…転居通知が着いたのね…」

「ど、どういうことだよ!」

「読んでの通り。…文字以上の意味はないわ…」

「な、な、何言ってんだよ!」

「ちょっと、大きな声出さないでよ。え〜と…。

 えぇっ!まだ4時じゃない!信じらんない!

 おやすみ!シンジ!」

「ち、ちょっと待ってよ」

「あ、書き忘れてたことがあったわ。

 大好きよ、馬鹿シンジ」

「え!アスカ!アス…」

 受話器の向こうは、two・two・two。

 力の抜けたシンジの手から、転居通知がひらひらと床に落ちた。

 その一番下に直筆で書かれた文章は…。

 

 追伸

 馬鹿シンジへ。

 上記の住所に、アンタの住民票も移しておいてあげたから、感謝しなさい。

 ついでに、アンタの荷物も上記の住所で保管してあげてます。

 従って、日本へ戻ってきた際は、上記の住所に帰ってくるように。

 追伸の追伸

 印刷した転居通知を関係各方面各部署各友人知人へ、連名にて送付しています。

                                       あなたのアスカより

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
タームさんのお引越しの連絡を受けて、執筆しました。
う〜ん、引越祝になってないかもしれません。
今回の場合は、同居人の結婚による転出ですから、
戸籍には全く関係ありませんので、アスカの(嬉しい?)悪巧みは法律上問題ないはずです。
アスカのことですから、ミサトにシンジの住民票が加持家にあることの面倒を
あることないこと色々と吹き込んで、委任状をでっち上げたに相違ありません。

ともかく、タームさん、お引越しご苦労様でした。


アスカ:ふふふ。シンジがいない間に、どんどん既成事実作ってしまうのよっ!!

マナ:鬼よ。あなたは鬼だわっ!

アスカ:これは、お祝いの作品なんだから、変なこと言わないでよ。

マナ:あぁ、どこかのタームとか言う人の引越しを祝ってくださる作品らしいわね。

アスカ:バカ言ってんじゃないわよっ! ア・タ・シの引越し祝い作品に決まってるでしょっ!

マナ:余計にお祝いなんて、勿体ないわね。

アスカ:さぁ、次はどうやって、婚姻届を捏造するかよぉぉっ!!!

マナ:やっぱり、鬼だわ・・・。(ーー;
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