「あなたの心に…」

第2部

「アスカの恋 激闘編」

 

 

Act.28 バレンタイン大攻防戦 〜序章・暗躍〜

 

 

 

 まったく、聖バレンタインもいい迷惑よね。

 日本でお菓子メーカーの売上拡大のために名前を利用されてるんだから。

 もう!私も大迷惑よ。

 シンジに告白が殺到するなんて!

 レイの情報じゃ100人以上の告白予定者だって。とんでもない話だわ!

 何とか全員の告白を阻止するのよ。

 

 レイの情報を疑うわけじゃないけど、私も独自に調査したわ。

 情報収集は戦略の基本だもの。

 情報源はヒカリとメガネよ。

 結果は驚いたわ。

 100件なんて軽く越えちゃいそうなの。

 義理だってあるんだもん。

 私のシンジサルベージ計画が完璧に成功しちゃったから、
 暗い、情けない、ガリ勉が、
 笑顔の素敵な、優しい、優等生として、好感度が急激に上がったのよ。

 同級生だけじゃなく、優しそうな先輩とか、
 母性本能を刺激させる可愛い後輩とかのパターンまで急増しちゃったの。

 ひょっとしたら告白を受け入れてくれるんじゃないかと期待を抱かせるわけね。

 これは拙いことになったわ。

 並大抵の作戦じゃ、そんな大量の敵を阻止できない。

 綿密、かつ完璧な作戦が要求されるわね。

 ふふふ、やってやろうじゃないの!

 

 第1回作戦会議前夜。

「マナ、明日この家に綾波レイを呼ぶわよ。覚悟はいい?」

「了解」

「まず、試さないといけないのは、レイがマナのことをどれだけ察知できるかよ。
 パターンは3つ考えられるわ。
 その一。私やママみたいに、マナを見えるし、話も出来る。
 この場合はちょっとまずいわね。マナは別の場所にいないといけないもの。
 その二は、気配を察する、声が聞こえる、てな感じ。
 三つ目は、超鈍感。全く気配も何も感じない。ヒカリみたいなパターンね。
 これなら一番良いんだけど、こればっかりは実際に試してみないとわからないわね。
 やり方は任せるから、実験して、大丈夫だったら堂々とこの部屋でレイを観察してね。
 あと、計画もしっかり聞いておく事。あとで説明するの面倒だから」

「わかった」

 う〜ん、レイが超鈍感ならいいんだけど…。

 

 試験結果。

 レイはウルトラ超鈍感だった。

 マナが調子に乗って、膝の上に乗っかっても全然反応しないの。

 こっちが笑いを堪えるのが必死なくらい。

 ま、とにかくこれで話はしやすくなったわ。

 

 今回の作戦名は『チョコ三つ大作戦』略して『チョミッツ』よ。

 私とアスカだけだから2個じゃないのかと、レイから反論があったけど、
 ママの義理チョコは認めてよと押し切ったの。

 ホントは、マナのなんだけどね。レイには説明できないし。

 

 作戦第1号。

 シンジの評判を落として、告白者の数を減らす。

 女遊びが激しくて、一人暮らしをいいことに夜遊びを繰り返してる、
 優等生の仮面を被った狼って設定で噂を校内に流す。

 そんなことできるわけないじゃない!

 シンジがそれを聞いたら、また落ち込んじゃう。

 一応提案してみただけよ。選択肢としてはあるのは事実だから。

 レイの冷たい視線と、マナの喚き声(レイには聞こえない)で却下よ。

 私もする気はなかったって。信じてよ。

 

 作戦第2号。

 明日からレイをべったりシンジに張り付かせる。

 事前の告白を避けさせ、またアツアツ振りをアピールして、
 告白しても無駄だと、告白参戦の意思を鈍らせる。

 個人的には絶対に採用したくない作戦だけど…。

 レイの役が私だったら、何の問題もないんだけど…、それは出来ないもん。

 でもこの作戦が効果的なのは確実だから、

 顔で笑って心で泣いて、作戦は可決したわ。くぅ〜…。

 

 作戦第3号。

 告白のパターンは3種類と読んだわ。

 まず直接会って告白する。

 これに対しては、当日に私とレイがシンジを一人にしないようにガードする。

 授業中は私しかいないけど、登校から休み時間、下校にいたるまで、
 ずっと二人でシンジに引っ付いておくの。

 それに下校後は家に押しかけてって可能性もあるから、夜まで私の家に監禁するの。

 監禁ってのは名ばかりで、レイを遊びに来させてパーティーするわけね。

 その間、エントランスと玄関のポストは使用不可能のように詰め物をしておくの。

 郵便屋さん、新聞屋さん、DM宅配のアルバイトさん、ごめんなさい。

 次に、学校での机や下足箱への投げ込みよね。

 机の方は登校の時間を早くして、開門と同時に机に張り付いちゃうの。

 当日は体育も音楽もないし、休み時間にシンジがトイレに行くときは、
 私がトイレの前(前よ前!中じゃないわ!)まで付いていき、レイが机に残るの。

 こうすれば、机への投げ込みを防げるわ。

 問題は下足箱だったのよ。

 これもポストと同様に封鎖しかないけど、
 登校後に誰が封鎖するかっていう、問題が発生するのよ。

 マナは実体がないから使えないし、やっぱり外注するしかないの。

 ということで白羽の矢を立てたのは、メガネよ。

 アイツなら条件次第で何でもするわ。

 

 実はもう交渉済み。

 メガネのヤツ、最初は代償をチョコでいいなんて大ボケかましてくれるもんだから、
 数分間あっちの世界に行ってもらったわ。

 それでこっちの出した条件をアイツは喜んで受けたの。

 その条件は…。

「そんな…嫌です。私、そんな写真を撮られて、しかも売られるなんて」

「レイ。水着とかヌードじゃないんだから」

「それは最初から論外です。普通の写真でも、恥ずかしいです」

「でも、これで今回の作戦が成功するんだから」

「え、でも…」

「私だってホントはイヤなの。でもね、馬鹿シンジのためだもん」

「で、でも…」

 レイはシンジのためにって一言で押し切られたわ。

 明日、メガネに二人で並んで微笑んでる写真を撮らせれば、商談成立よ。

 メガネは男どもに生写真を販売するアルバイトをしているの。

 私とレイはTOPクラスの売上だから、隠し撮りじゃなくて、
 きちんとポーズをとってレンズに向かって笑ってるんだから、
 その手の写真としては文句のつけようのない商品になるわね。

 メガネが取引を受けたのも当然ね。

 これで、当日シンジが靴を替えた直後に、下足箱は完全封鎖よ。

 さあ、投げ込み対策は完璧になったわ。

 とりあえず、今考えられることは決めちゃったから、
 レイはお迎えの車で帰っていったわ。

 

 さて、実は本格的な対策会議はここからなの。

 レイの代わりに、ママが登場したのよ。

 何てったってラスボスだから、その悪謀にかけては私も一目置くわ。

 これまで決めたことを説明したら、ママが考え込んだの。

「う〜ん、ちょっとありきたりよね。インパクトに欠けるわ」

「インパクトって、ママ、演芸じゃないんだから」

 ママは鼻先で人差し指を立てて左右に振りながら、舌をチッチと鳴らしたわ。

 何かの真似らしいわ。だってマナが笑い転げてるもの。

 どうせ昼間に二人で見てる、映画かテレビね。

「甘いわよ、アスカ。策謀ってのはね、水面下でしていても意味がないの。
 自分たちだけで動いていても、大きな効果はないわ。やっぱり、噂を活用しないと」

「それは考えたわよ。でもシンジの悪い噂じゃ、シンジが落ち込んじゃうから」

「噂の内容次第よ」

「内容?どんな?」

「この年頃の女の子に有効なのは『恐怖』よ」

「恐怖?」

 私とマナは声を揃えたわ。また、わけのわからないことをママが言い出した。

「そう、恐怖よ。シンジくんと付き合おうとすると、恐ろしい事が起きる。
 そういう噂をばら撒くのよ」

 う〜ん、なんとなくママの考えてることがわかってきたような気がする。

 ほら、横で一視聴者として楽しんでるアンタ、アンタだよ、きっと。

「恐ろしいことって?」

「事故死した幼馴染の祟り」

 やっぱり、ね。

「ええぇっ!」

 マナが飛び跳ねた。

「わかったわ、ママ。
 まずマナが見える人間でシンジを狙ってる女の子を数人見つけて、
 マナに脅かしてもらうのね。
 マナだから、うらめしや〜なんてできないし、
 じっと恨めしそうな目つきで見ているって感じよね」

「そうそう。鏡に映ってるとか、教室の隅に立ってるとか」

「私、アレがいいと思う。
 マナの得意な顔だけ出すやつ。手洗い台とか、下足箱の中とか」

「アスカは相変わらず悪趣味ね。それはやり過ぎよ」

「やり過ぎくらいな方が効果あるって」

「ちょっと、お二人さん?」

「家まで追っかけるのはかえって拙いわね」

「そうね、ママ。話は学校内にとどめておいた方がいいと思う」

「あの…、するの私なんだけど…」

「実体がないからメイクが出来ないのが残念ね。ママ、腕を揮えたのに」

「そうね、マナって、生きてる人間より健康的な幽霊だから」

「そうそう、今日から特訓しましょう。恨めしげな表情作り」

「よし、決定!わかった?マナ」

 マナはすっかり脱力していたわ。

「惣流親子には勝てないわ…。私、がんばってみる」

 

 こうして、本作戦最大の目玉、『学校の怪談』プロジェクトが発動されたの。

 何だか凄く楽しくなってきちゃった。

 

 

 

Act.28 バレンタイン大攻防戦 〜序章・暗躍〜  ―終―

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第28話です。『壱中バレンタイン戦争』編の前編になります。
アスカママはマナまで引っ張り出しちゃいました。
前にも書きましたが、私のSSのアスカママはアスカの成長した姿のような感じです。
あ、パパは忘れているわけじゃないです。タイミングを計ってるって事で。
シンジそっちのけでプロジェクトに夢中になってしまうアスカは、やっぱり戦い好きなのかな?


マナ:わたしをお化けにしてくれたわね。(ーー;

アスカ:シンジを守るためだもん。仕方ないでしょ。

マナ:プリティな幽霊のはずだったのにぃ。

アスカ:よーし。計画は完璧よっ!

マナ:ほんと。勝負事が好きなんだから。

アスカ:アタシの辞書に『敗北』の2文字はないのよーっ!

マナ:『自滅』の2文字はあるけどね。

アスカ:うっ・・・。(TOT)
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