「あなたの心に…」

第2部

「アスカの恋 激闘編」

 

 

Act.29 バレンタイン大攻防戦 〜開戦前夜・そしてその朝〜

 

 

 

 『学校の怪談』プロジェクトは大成功だったわ。

 最初は嫌々やっていたマナも、一人目の犠牲者の反応を見てからは、もうノリノリ。

 怖がって、学校を休む子まで出てきたのは、ちょっとやり過ぎちゃったわね。

 季節外れの怪談ブームまで起きちゃったの。

 これで、霧島マナの名はこの壱中が続く限り永遠になったのよ。

 『トイレのマナちゃん』だってさ。ははは、おっかしい!

 よかったね、マナ。歴史に名が刻まれたじゃない。

 あ、そうそう、噂が噂を呼んで、

 惣流アスカと綾波レイは高い霊能力を持っているから大丈夫なんだってさ。

 現実は、レイは霊に対して超鈍感。私はその幽霊と親友なんだもんね。

 ともかく事前の調査では、これで大多数の告白予定者が脱落したのよ。

 『学校の怪談』プロジェクトは大成功!

 義理とか淡い期待で、怨霊を相手にはしないでしょうよ。

 さて、問題はそれでもめげずに告白を目論む輩ね。

 その数、推定で約30。

 

 それは明日、実際に対処するとして、
 本日2月13日は、もちろんチョコ作成日で〜す。

 マナの分も作るんだよって言ったら、マナ、大泣きしちゃうの。

 これまで義理でもシンジに渡したことなかったんだって。

 よし!やるわ!惣流アスカ!

「いい、作るのは私だけど、アンタは心をこめるのよ、しっかりと」

「わかったわ、マナ、がんばる!」

 私も初めてのチョコだから気合入ったわ。

 練習は毎日バッチリしてるけど…。

 なんたって、手作りなんだから!

 たぶん、レイもそうだろうと思う。

 いくらお金持ちでも、あの娘なら自分で作るわ。

 だから、私も負けられないのよ!

 

 3時間かかって、台所は甘い香りが充満したわ。

 さすがにこれは気分悪いわね。

 換気扇を強にして、テラス窓も開けたわ。

 やっぱり寒〜い!

 テーブルの上には、特製のバレンタインチョコが2個。

 私の赤い包装紙のチョコは、表面上は義理チョコ。

 実は大本命チョコよ。

 私の燃える情熱が赤い包装紙にこめられてるのよ。

 心して受け取ってね、シンジ!

 もう1個は、銀の包装紙のチョコレート。

 匿名希望のイニシャルが『M』さんからの本命チョコ。

 これはシンジにきっちり説明して、ちゃんと食べてもらうわ。

 交際して欲しいとは思っていない子で、
 自分の思いを伝えられたらそれで満足だっていうことにしたの。

 ごめんね、マナ。

 マナからのチョコ、なんていうことを知ったら、
 シンジがどんな反応をするのか見当がつかないんだもん。

 

 マナは緊急要員として、私の下足箱で待機。

 何が起こるか予測がつかないからね。

 封鎖したシンジの下足箱をこじ開けようとする輩が出てくるかもしれないもの。

 それと、マナは最終兵器になるから。

 なんたって、『トイレのマナちゃん』なんだから。

 

 2月14日、午前6時30分。

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!

 なんか最近、早朝の奇襲が定番になっちゃってるわね。

 う〜!まだ起きないか!

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!

 あ、中で音がしたわ。

『えっと…アスカ…?』

 わ!嬉しい!寝とぼけた声だけど、声を聞かなくても私だとわかるのね!

 まあ、こんな時間にピンポン攻撃するの、私だけだけど。

「そうよ!さあ、馬鹿シンジ、学校へ行くのよ!」

『へ?』

 そりゃあ、へ?でしょうね。駄目よ。今日は考える隙を与えちゃ駄目なの。

「うっさいわね!早く出てきなさいよ!それともパジャマのまま学校へ行くの!」

『でもまだ弁当も』

「弁当ならレイが準備してるわよ!それにレイと校門で待ち合わせしてるから、
 早くしないとレイが風邪引くわよ!」

『あ、わかったよ。すぐ準備する』

 バタバタと走る音が聞こえる。

 レイの名前出したら、すぐ動くのか…、シンジは…。

 寂しいな…。

 

 2月14日、午前6時55分。

 校門はまだ閉ざされている。

 その前にたたずむ、少年一人と美少女二人。

 木枯らしが三人を直撃して吹き抜けていく。

「さ、寒いよ。アスカ」

「はん!寒けりゃ、レイでも抱きしめりゃいいでしょ」

 くぅ〜!ホントは私が抱きしめて暖めてあげたいのに!

 まあ、シンジにそんな度胸はないし、レイも恥ずかしいから駄目だもんね。

 そうじゃなかったら、私がこんな冗談、言うわけないでしょ!

「あ、あの…」

 え?レイが縋るような目つきでシンジを見つめているじゃない!

 嘘…。この娘、恥じらいを捨てたの!?

「あの…私の…はじめて…もらって…ください…」

 ち、ちょっとぉ!誤解を生むような喋り方するんじゃないの!

 まったく!チョコ渡すだけでしょうが!……。気持はわかるけどね。

 んも〜、見つめ合っちゃって…、悔しいよ〜!

 目を逸らしたいけど、それはできない。

 逃げてるみたいでイヤなのよ。

 レイは鞄の中から可愛らしくラッピングされたチョコを出した。

 やっぱり、手作りね。

 顔を赤らめて、おずおずと差し出した小箱をシンジも真っ赤になって受け取ったわ。

 はぁ…、いいなぁ…両思いって。

 あ、もう!馬鹿シンジったら、チラッと私を見るんだから!

 はいはい、すみませんでした。

 ジロジロ見てた私が悪うございました、ってんだ!

 ふん!

 あ、警備員のおじさんが校門に歩いてきた。

 やっと開門時間ね。

 私は二人に前を歩かせて、後方を確認したわ。

 アレを除いて他には生徒はいない。

 そのアレは、道の向こうの植え込みに隠れているわ。

 さっきのレイのプレゼントシーンをしっかり撮影したことでしょうね。

 あのメガネのことだから。

 まあいいわ。今日は仕事をしてもらわないといけないんだから。

 私は植え込みに向かって、仁王立ちになって頷いたの。

 シンジの下足箱の封鎖は任せたわよ!

 

 私は脱兎の如く駆け出し、二人を追い抜いて昇降口に突入したわ。

 もしかしたら前夜に下足箱に放り込んでる阿呆がいるかもしれない。

 シンジの下足箱!

 よし!不審物はなし!

 次は教室よ!

 私は廊下を突っ走ったわ!

 その時、シンジの声が聞こえたの。

「アスカ、どうしたんだろ?さっきから走り回って…」

 アンタのために走ってんの!とぼけた声出すんじゃないの!

 教室到着!

 シンジの机にも不審物はなかったわ。

 とりあえず、第1段階はクリアーね。

 

 シンジとレイが連れ立って教室へ入って来たわ。

 さて、じゃ朝食といきますか。

 お昼は仕方なしにレイに任せたけど、私サンドイッチつくってきたんだ。

 シンジ、食べよ!レイにも分けてあげ…。

「碇君、朝食べてないんでしょ。私、作ってきたから…」

 ……。

 ははは…、そうきたか…。

 レイ、アンタ、することにそつがないわ。 

「アスカの分もありますわよ」

 振り向いて邪気なく微笑みかけてくるレイに、私は静かに首を振ったわ。

「いいわ、自分の分だけ作ってきたから。
 さっすがレイよね、馬鹿シンジの分もちゃ〜んと作ってくるんだから」

 ふぇ〜、なんて憎まれ口を叩くんだろ、私は。

 見つからないようにタッパーは一つだけ出さなきゃ。

 もう一つはヒカリに頼んで、胃袋魔人の鈴原に処理してもらお。

 うぇ〜ん、哀しいよ〜!

 シンジが喜ぶと思って、前に誉めてくれた照り焼きチキンサンドを作ったのに〜。

 私はソッポを向いて、サンドイッチを口に運んだわ。

 こんなのおいしくない。

 心でボロ泣きしながら食べていると、横からすっと手が伸びてきたの。

 白くて細い指先があっという間に、照り焼きチキンサンドを2つ取り上げた。

「あ」

「2ついただきますね」

 レイはその1個をシンジに手渡した。

「ごめんなさい。碇君がじっとアスカのサンドイッチを見つめてたので…」

「い、いいわよ、別に。なんならもっと食べる?」

「はい、みんなでいただきましょう」

 余程シンジがもの欲しそうな顔をしてたのね。

 ま、このサンドはアンタの好物だけどさ。

 レイって世話女房タイプなのかしら?

 私のサンドをシンジの机に移動させて、
 それからは3人で食べながら他愛なくお喋りして時間を過ごしたわ。

 でもここで油断したら駄目よ。

 本当の勝負はここから始まるの!

 

 2月14日、午前8時20分。

 2年3組の空気は張り詰めていたわ。

 窓際に隔離しているシンジを私とレイが左右を固めている。

 私の燃える眼差しと、レイの凍りつくような視線が油断なく周囲を警戒する。

 何人かが果敢に攻撃を仕掛けてこようとしたけれど、
 この二人に睨まれて、シンジのところまで到達できるわけがない。

 そう思ったのか、この時間はジャブの応酬で終始したのよね。

 ところが予鈴が鳴った、午前8時25分。

 状況は一気に動いたの。

 予鈴を聞いて真面目なレイが一瞬隙を作っちゃったのね。

 ガードが甘くなった右サイドに走りこんできた2人の女生徒。

 ちっ!させるか!

 私がすぐにその正面に仁王立ちする。

 睨み合えば、負けないわよ!

 しまった!今度は逆サイド。

 レイのスピードじゃ無理!

 私は咄嗟の判断でヒカリを使ったわ。

「鈴原!ヒカリがチョコくれるって!しかも本命よぉ!」

 私の大声に周囲が怯んで、次の瞬間ヒカリの絶叫でみんな固まってしまったわ。

「いやぁぁぁぁっ!そんなこと言っちゃ駄目ぇぇぇぇっっ!」

 この叫びの中で動けるのは、私と鈍感二人組、シンジと鈴原くらいなものよ。

 レイでさえ、うろたえてしまってるもん。

「なんや、ワシにチョコくれるんか?それ義理ちゅうやつかいな?」

 アンタ、さっきの何聞いてたのよ。

「あ、あの…これ…」

 ヒカリが小さな可愛らしくラッピングした箱を鈴原に差し出す。

「おおきに、ホンマに」

 嬉しがってはいるものの、この胃袋魔人は大きさが不満みたいね。

 全くなんてヤツ。

「あの…これも」

 今度はいろいろ小箱が入った紙袋を渡したわ。

 ふ〜ん、こっちは量で勝負してるのね。

 質と量の両方で攻撃するとは、さすがはヒカリ。鈴原の性格を熟知してるわ。

 今度は鈴原のヤツ、喜色満面ね。

 キンコ〜ン…。

 はい、本鈴ですよ。

 固まってる皆さんは早く自分の教室へ行きましょうね〜!

 さあ、レイも急がなくちゃ。

 私はレイを促しながら、次の対抗策を考えたの。

 敵も必死よ。今のやり方じゃ、昼休みが支えきれないわ。

 ついに、最終兵器を出すしかないわね…。

 

 

 

Act.29 バレンタイン大攻防戦 〜開戦前夜・そしてその朝〜  ―終―

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第29話です。『壱中バレンタイン戦争』編の中編になります。
『トイレのマナちゃん』出現です。
このSSはアスカの一人称ですから、『トイレのマナちゃん』の活躍が描写できない!
か、書きたい。書くとしたら外伝しかないわけなのですが。
とにかく次回は、最終兵器彼女『トイレのマナちゃん』、は〜い、出ておいでぇ〜!


トイレのマナちゃん:でんでろでーん。・・・って、いやぁぁぁぁっ!!(TOT)

アスカ:何、叫んでんのよ。もっと、おどろおどろ出てこなきゃダメでしょ。

トイレのマナちゃん:なんで、『トイレの』なのよぉっ!

アスカ:学校の幽霊っていやぁ、それが定番でしょっ。

トイレのマナちゃん:音楽室とか、もっとあるでしょっ! マシなシチュエーションがぁ。

アスカ:きっと、アンタのイメージに1番ぴったりだったのよ。

トイレのマナちゃん:いやぁぁぁぁっ! はやくこのシリーズ終わってぇぇっ! わたしのイメージがぁぁっ!

アスカ:あっそうだ。男子トイレに出ちゃダメだからねっ。

トイレのマナちゃん:出るわけないでしょっ!(ーー#
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