「あなたの心に…」

第2部

「アスカの恋 激闘編」

 

 

Act.35 お化け屋敷に消えた愛

 

 

 お弁当の後も、順調にアトラクションをこなしていって、今はお化け屋敷の前。

 日本のお化け屋敷って入ったことないけど、

 どうせモンスターハウスとかと変わらないんでしょ。

 それに、ふふふ、私は毎日幽霊とお喋りしてるんだもんね。しかも本物よ。

 そういう意味なら、我が家こそお化け屋敷ってことになるわね。

 パパもマナにだいぶ馴染んできてるけど、

 パパにしたら毎日お化け屋敷で暮らしているみたいな気持かな?

「アスカ、何にやにやしてるの?」

「何でもないわ!さ、入りましょ!」

 

 甘かった。

 日本のお化け屋敷がこんなに怖いなんて知らなかったよ〜!

 だって、ワ〜!ギャ〜!バリバリ!ビキュン!キャッ!てな感じじゃないじゃない!

 脅かすんじゃなくて、怖がらせてるんだもん!

 こんなの反則よ!

 

 中に入って早々に、真っ暗な部屋で右も左もわかんない。

 はぐれちゃうから、自然にシンジの腕をつかんじゃった。

 ちょっと、意識的にしたかもしれないけどね。

 甘い雰囲気はそこまでよ。

 部屋がほんの少しだけ明るくなった。といっても1m先も見えないけど。

 何か気配がすると思ったら、私の隣に女の人が立っていたの。

 びくっとして、その人を見たら、私の顔を見て、にこりと笑うの。

 シンジは気付いてなかったわ。

 普通の服を着てたから、その人も入場者だと思ったんだけど…。

 で、で、で、よく見たら、手に包丁を持ってるじゃない。

 しかも血塗れの。

 その包丁をす〜と高く振りかざして…。

「ギエェェェェ〜ッ!」

 私は駆け出したわ。

 とにかく前へ!

 シンジの手だけはしっかり離してないから、シンジが引きずられるように付いてくる。

「どうしたの、アスカ?」

「ギェ、ギェ、ギギギェェ〜」

 こうなったら、もう私の冷静度は限りなくゼロに近づいていたわね。

 ま、私もパパの子供だったって証明ができたってわけよ。

 前方に矢印が浮き出たから、とにかく闇雲にそっちへ走ったわ。

「あ、危ないよ、アスカ。走っちゃ駄目だよ」

「ひぇっ、ひぇ、ひぇぇ〜」

 な、な、何よこれ!

 床が突然ふにゃふにゃになったじゃない。

 勢い余って私はつまづいてしまったの。

 ついでにシンジの手も離してしまった。

 それに気付いて私は大パニック!

「し、し、シンジ!馬鹿シンジ!どこ!どこよ!」

 そのとき、肩を叩かれた。

「あ、シンジぃ!」

 喜んで振り向いた私の目の前には、血塗れの侍の顔。

 その顔が無気味に笑った。

 私も引きつった笑いを浮かべたわ。そして…。

「ギヤアァァァァッ!」

 シンジ、どこよ。どこ?

 あ、あっちが明るいわ。

 あっちね!

 私は走り出した。

 その背後にシンジの声。え?

「アスカ、待ってよ!」

 ど、どうして、シンジが後ろに?

 そう思った瞬間、私の後ろで扉がガチャンと閉まった。

 真っ暗…。

 あわわ、ちょっと、何よ、これ?

 はん!わかってるわよ!これで何か出てくるんでしょ。

 出てくるなら、さっさと出てきなさいよ!

 ほら、早く来なさいよ!

 あれ?どうしたんだろ?全然何の気配もしない…。

 え…。どうして?これって演出?それとも、私が入るところ間違えたの?

 ちょっと、何か出てきなさいよ!ほっとかないでよ!

 う〜ん、心細いよぉ…、誰かいないの?

 あれから2〜3分以上たってるけど、何の反応もないって事は、

 ここは正規のルートじゃないって事よね。

 よし!となれば、徹底的に調べてやるわ。

 それまでずっと蹲って攻撃に備えていたけど、

 立ち上がって周りの様子を手探りしてみたの。

 三方は壁だけど、残る一方がカーテンになってたわ。

 そのカーテンをそっとめくってみると、薄暗い通路になっていた。

 やっぱり、裏方の方に出ちゃったのね。

 面白そうだから、少しだけ探検してみるかな。

 へぇ…こんな感じになってたのか…。

 あちらこちらに覗き窓があるんだ。

 あ、向こうから足音がする。このままじゃ捕まっちゃうわね。

 もうちょっとだけ見てみたいから、隠れちゃえ。この部屋に…。

 げげ!お化け置き場!

 妖怪のぬいぐるみとかが転がってる。

 うへぇ〜、これ何?猫?変な顔…。

 あ、足音が近づいてきた。え〜い、これかぶっちゃえ。

 私は猫のかぶりものを頭から被ったわ。

 そのとき、扉が開いたわ。せぇ〜ふ!

「おい、こんなとこでサボってないで、働かんか!こら、猫娘!」

 ね、猫娘?安直なネーミングね。ま、いいわ。

 私はその猫娘の被り物のまま、通路に出たわ。

 視界が狭いわね。係員の顔もはっきり見えないわ。

「こら、早く持ち場に行けよ」

 係員が通路の先を指差すから、私は「にやぁ〜」って言ってそっちに向かったの。

 背中のデイバッグには気付かなかったみたい。

 通路の先にカーテンがあって、そこをめくると…、わ!竹やぶになってる。

 えっと、あそこを歩いてくる人を脅かせばいいのね。

 そう言ってるそばから、カップルが歩いて来たわ。

 ふっふっふ、突然、前に飛び出してやるわ。

 せぇ〜の!

「にゃ〜おっ!」

 一瞬の間。そして…、私は指を指されて大爆笑されてしまった。

「猫娘だ!」「きゃ〜!変な顔!」「ははは!」

 ぐっ!何?この反応は。

 猫娘ってコメディーキャラなの?

 そのあと、何人か脅かしたけど、反応は爆笑されるだけ。

 つまんないわ。私も『トイレのマナちゃん』みたいに活躍したいのに!

 また来たわ。今度は一人ね。お化け屋敷に一人ではいるなんて、変なヤツ。

 あ、あれって、シンジじゃない。

 私は何も考えずに飛び出して、シンジの方に走っていったの。

「シンジぃ!」

 シンジはこっちを見て、あとずさったわ。

 どうして!私よ。アスカよ!

 私はシンジに突進していったの。

「来るな!」

 シンジは大声で叫んで振り返って逃げ出したわ。

 ひ、酷い!わかった。シンジを一人にしたから、怒ってるのね。

 うぅ〜、謝るからぁ、許して!

 私はシンジを追いかけたわ。

「待ってぇ!」

「いやだぁ!」

 酷いよ、シンジ!わざとやったんじゃないんだから、謝るから待ってよ!

 シンジは逆送していったけど、行き止まりになってたの。

 扉があるけど、こちら側から開かないみたい。

 散々開けようと試みていたけど、シンジはあきらめて藪の中に入っていったわ。

 そ、そんなにしてまで、私のことが…!

 これは真剣に謝らないといけないわ!

「待って!シンジ、お願い!」

 さすがに本当の竹やぶじゃないから、すぐにシンジは隅っこに追い詰められたわ。

 ここまでよ、シンジ。私の心からの謝罪を聞いてもらうわ。

 尻餅をついたシンジの顔は恐怖にゆがんでいた。

「く、来るな!お前なんか大嫌いだぁ!」

 そ、そこまで、言う?

 そっか、シンジは私のことが嫌いなんだ。

 今日も嫌々だったんだ。そうよね、レイのことが好きなんだもん。

 私なんて…、私なんて…。

 でも、私は好き!シンジが好きなの!

 聞いて…!お願い!ちゃんと謝るから!

 こうやって、頭を下げて…、あれ?頭が重いわ。

 あ、そうか!まだ被ってたんだ。猫の顔。

 よいしょっと。

「あ、アスカ…?」

 へ?シンジったら、なんて顔…。信じられないものでも見たような。

「アスカじゃないか!」

「そうよ。私よ。誰だと思ったのよ」

「猫娘」

「はい?」

「だって、今、猫娘になってたじゃないか!

 僕が猫娘を駄目なのを知ってて、わざとやったんだろ!」

「へ?アンタ、これが駄目なの?」

 私は地面に置いた猫娘の頭をつま先で蹴飛ばした。

 シンジはまだ怖れと嫌悪感のこもった眼差しで、猫娘ヘッドを睨んでる。

「わざとやったんだろ。アスカ」

「ち、違うって。そんなの知らなかったもん。偶然よ」

 シンジはまだ疑わしそうな目で見ている。

「迷ったところにたまたまそれがあったのよ。それで、ちょっと悪戯してたの」

「本当?」

「だって、これ怖がったの、馬鹿シンジだけよ。みんなに笑われたのに…」

「僕は…、僕は猫娘が怖いんだぁ!」

 

 お化け屋敷から外に出て、私たちはオープンカフェで一休みすることにしたわ。

「そうだったの?マナのせいだったの。ははは、面白〜い!」

 シンジの猫娘嫌いは、幼稚園時代のマナの仕業だったの。

 ある嵐の夜に二人でお留守番していたときに、

 夜店で買った猫娘のお面を付けたマナがシンジを追い掛け回したんだって。

 停電で部屋の中は真っ暗だったから、シンジは大パニック!

 泣き叫ぶシンジをマナは執拗に追いかけた=苛めた。

 その日から、猫娘はシンジのトラウマになったの。

「笑わないでよ。本当に怖いんだから、アレ」

「ごめん、ごめん」

「大体、アスカが突っ走るからいけないんだよ」

「だって、日本のお化け屋敷初めてだったから、

 あんなのだってわかんなかったんだもん…」

 ちょっと膨れて見せたら、シンジが笑ってくれた。

 良かった。このまま、拗ねちゃったら雰囲気悪くなるもんね。

 さてと、この後どうしょうかな?

 もちろん、観覧車は最後でしょ。

 シンジはいやがるだろうけど、メリーゴーランドもいいな…。

 あれ?

 ……。

 ちょっと、シンジ。

「シンジ?」

「なに?」

「アンタ、お猿さんは?」

「はい?」

「お猿さん、どこ?」

 シンジは一瞬首をひねって、慌てて周りを見渡した。

「ない!」

「ないじゃないわよ!どこで落としたのよ!」

「そんなの覚えてないよ!」

「なんで覚えてないのよ!」

「わかってたら、すぐに拾うじゃないか!どこだろ?」

 これは拙いわ!お猿さんにはマナが入ってるのよ。

「どこまで持ってたの?」

「えっと、お昼を食べた後は…、うん、ちゃんと胸に抱いてた。

 バイキングのあとも、間違いないよ」

「まさか…お化け屋敷?」

「え、あの時…、入るときは持ってた。あ!猫娘だ!」

 ええっ!、じゃマナはお化け屋敷?

 私は立ち上がったわ。回収に行かないと!

「行くわよ!シンジ」

 シンジの返事を待たずに、私はお化け屋敷の方へ駆け出したわ。

 マナの魂が入ったまま、あのお猿さんが無くなっちゃったら、

 マナは二度と私の前に帰ってこれないのよ!

 

 

 

 

Act.35 お化け屋敷に消えた愛(まな)  ―終―

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第35話です。『ホワイトデーとパニック』編の中編になります。
えらいすんません。お化け屋敷に消えたのはアスカの愛じゃなく、マナでした。
うへぇ〜!物を投げないでくださいよぉ!JAROに訴えてもいいですから。ぼ、暴力は…。
かなり昔、京都タワービルにあったお化け屋敷で、お化けに殴られたことがあります。
かぶりもので間合いを間違えたそうで平謝りされましたが、お化けに追いかけられたことはありません。
あ〜、そういえば、宝塚ファミリーランドで鬼太郎の地獄めぐりだっけ、
そのときには檻の中に閉じ込められたこともあったっけ。(数十年前だ!でも相手は猫娘じゃなかった)


マナ:猫娘がそこまで苦手なんて・・・。プププ。

アスカ:シンジにだって、苦手なものくらいあるわよ。アハハ。

マナ:シンジも酷い目にあったわね。

アスカ:真剣に怒ってたわ。

マナ:アスカもアスカよ。あんなもの被ったままで。

アスカ:どうして、アタシも気付かないかなぁ。

マナ:へっぽこだからよ。

アスカ:むっ!(ーー)
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