「あなたの心に…」

第2部

「アスカの恋 激闘編」

 

 

Act.37 レイ、豹変す

 

 

 3年生になった。

 クラス替えがとっても不安だったんだけど、3年もシンジと一緒。

 やった!

 その上、レイも一緒のクラスになったし、ヒカリや鈴原、ついでにメガネも同じ。

 ちょっと、出来すぎじゃないの?って感じ。

 ただし、席はシンジの隣じゃないのよね。

 シンジの隣はレイ。私は少し離れた真中の後ろの方。

 ま、隣にヒカリがいるから、寂しさもまぎれるけどね。

 でも、本当によかった。この1年間、シンジと同じクラスで。

 お昼休みの光景も2年のときと一緒。

 シンジはレイのお弁当で仲良く二人で食べている。

 私の隣では、鈴原がヒカリの特製弁当を美味しそうに食べている。

 ヒカリったら、この時間が一番輝いて見えるわね。

 私はそのお熱い二人の隣で、静かに自分で作ったお弁当を食べてるの。

 3年になってから、自分で作るって決めたのよね。

 ついでに、メガネはいつも外で食べている。こんな光景見たくもないんだって。

 気持はわかるわよ。

 私だって、シンジとレイの仲のいいとこなんか、ホントは見たくない。

 時々、ヒカリが同情の目で微笑んでくれるけど、これってつらいよぉ…。

 

 お弁当が終わると、私は大抵一人でどこかに出て行く。

 屋上、図書室、中庭、ペンギンの飼育場、……。

 ヒカリを鈴原と一緒にしておきたいし、

 なによりお弁当後にお喋りするシンジとレイを見たくないから。

 だから、お昼はお散歩タイム。

 寂しいけど、仕方ないわ。

 いつかこの寂しさをバネにして、シンジと幸福になるんだから!

 はぁ…。いくら力んでも何の親展もしないよね…。

 でも、今の状況。どうしたらいいの?

 私は中庭のベンチに座って、あの日のことを何となく思い出してたの。

 

 春休みの間も、私は孤独だったわ。

 シンジは毎日のように出かけていたの。レイとデートなのよね。

 仕方がないじゃない。二人は恋人同士なんだもん。

 私はマナとお出かけして(もちろんマナはぬいぐるみに憑依してたんだけど)、

 その夜にお喋りするっていう単調な毎日を続けていたわ。

 あの日もそうだった。

 パパがお休みだったから、二重に気を利かせて早めにお出かけすることにしたの。

 愛しのママと二人っきりにしてあげるのと、苦手な幽霊を家から連れ出すことの二つ。

 気の利くいい娘でしょって、軍資金をたんまりせしめちゃった。

 何か服でも買おっかな…。

 まずはマナが見たがっていた映画。

 アニメだから一人で入るのって、ちょっと躊躇ったわ。

 女の子一人ってパターンあんまりないんだもん。

 でも、けっこう面白かった。へへへ。

 ただ、マナにスクリーンが見えるようにぬいぐるみを配置するのが難しいのよね。

 場内ががらがらだったら、ぬいぐるみから抜け出して、

 霊が見えない人には私の荷物を置いてあるようにして、

 見える人にはマナが座席に座ってる振りをすることも出来るんだけどね。

 肩のところにぬいぐるみを置いている金髪女子中学生って変かな?

 映画の後はファーストフードで昼食。

 いいもの食べるとあとでマナがブ〜ブ〜五月蝿いから、ハンバーガーで充分だわ。

 そのあとは春モノの服でいいのがあれば買おうかなって、

 ブラブラとショッピングモールを歩いていたのよね。

 あ〜あ、私に似合うハイセンスな服は凄く高いし、安っぽいのはいやだし…。

 結局、自分で買わずに、いつもママが買ってくるのを着ちゃうのよね。

 何も買わずに、小さなブティックが並んでる2Fの通りを歩いてたら、

 一軒の男性向けの店先に、薄手のブルゾンが飾ってあるのが目に入ったの。

 あ…、これって、シンジに似合いそう。

 シンジって、あまり派手な服が似合わないのよね。

 どっちかというと、シックな方が似合うわ。

 これ、着せてみたいな…。

 でも、駄目よね。

 プレゼントする必然性が全然ないし…。

 だって、シンジの誕生日6月だもん。

 まさか進級祝いにお隣さんからプレゼントってわけにはいかないでしょ。

 う〜ん、それにプレゼントできない最大の理由は、値段が高いのよぉ!

 ここの並びのブティックは高級品ばかりだから、目の保養にしかならないの。

 パパにもらった軍資金と小遣いの残りを全部つぎ込んでも、足りやしない。

 来月の小遣いも足したら、何とかなるかな…?

 うぅ〜。6月の誕生日プレゼントにブルゾンはおかしいし、仕方がないわね。

 あきらめた!

 じゃ、あっちのカッターシャツだったらどうかな?

 あれならそんなに高くないよね。

 シンジの色って…、青系統かな?

 あまり明るすぎるのよりも…、あ、これくらいのはどうだろ?

 って、何やってんだろ、私。

 こんな男性服専門店で女の子一人で物色してるなんて…。

 凄くわびしいよね。

 普通、デートのときにあ〜だこ〜だ言い合いながら見るんだよね、こんなのは。

 はぁ…。シンジとしたいな…デート。

 げ!

 私は慌てて入り口の方に背を向けたわ。

 私の今日の運勢は何だったっけ?え〜と、『素敵な出会いが待ってる』だったわよね。

 シンジが私のいるお店に入ってきたのよ!

 但し、その右腕にはレイがぶら下がってる…。

 勘弁してよ…。

 こんな狭いお店の中じゃ隠れようも逃げようもないじゃない!

 私は透明人間になりたかった。

「あ、このブルゾン、よくお似合いですわ」

「そ、そうかな」

「はい。とってもお似合いだと思います」

 そうよ、絶対にお似合いだと思いますわ。私がそう思ってたんだもん。

「ほら、丈もピッタリです。あの…こちらをプレゼントさせてください」

「え、でも、これ高いんじゃ…わ、だ、駄目だよ、こんなに高いもの」

「大丈夫です。ね?お願いします」

「そんな、やっぱりもらえないよ」

「だ、駄目なんですか…」

「あわわわ。泣かないでよ、綾波さん。ごめん、僕の言い方が悪かったよ。

 あの…つまり…えっと…」

「碇君…お願い…」

 私は背中でしっかり情景を確認できていたわ。

 レイがいつもの涙目でシンジを見上げているのよね。

 ふっ。シンジは15秒も持たないわ、きっと。

 カウントダウンしてみようかな…。

「じゃ、そ、そのかわりっておかしいけど、今日の映画とか全部僕が奢るよ。

 それでいい?」

「はい!」

 シンジ撃沈。

 お嬢様は凄いわね。私が散々悩んで諦めたものを簡単に買っちゃうんだもん。

 さすがは、綾波財閥の跡取娘。

「ではこちらをいただきます」

「あ、あの…僕、表にいるから」

「はい」

 はぁ…、早く出て行ってよね。

 こっちは呼吸も止めてるんだから。ちょっとオーバーか…。

「アスカさん。こんにちは」

 耳元でレイの声がした。

「ひえっ!」

 慌てて振り返ると、至近距離にレイの顔。

 にっこりと微笑んでいる。

「まあ、そんなに驚かなくても…。碇君の服をご覧になってるんですか?」

「ま、まさか、パ、パパの服よ」

「あら、そうでしたの。アスカさんのお父様、大層若作りですのね」

 アスカ…さん?さんって、そういや、さっきもそう言ったような…。

「あのブルゾン、碇君によく似合いますわ」

「え?そんなのあった?」

 とぼける私に、レイが笑顔を絶やさずに言葉を継いだ。

「あら?先程、ずっとご覧になられていたブルゾンです。

 碇君にって見立てていらっしゃたんでしょ?」

「ち、違うわよ。馬鹿シンジに服なんて」

「素直じゃありませんのね、アスカさんは」

 また、さん付けだ。ずっと、アスカって呼んでたのに。

『お待たせしました!』

 店員のお姉さんの声に、レイは急に真顔になって私を見た。

「では失礼します。

 これから映画ですので、そちらの方にはお出でにならない方がよいかと…」

 私は何も言葉を返せなかった。

 どうしたの?レイ。アンタ、ちょっと怖いよ…。

 綺麗に包装されたブルゾンの入った紙袋を大事そうに抱きながら、

 レイは表に出て行った。あれから私の方を二度と見ないで。

「何よ。あれ!」

「ひぇ!」

 いつの間にかマナが横に立って憤慨している。

「あの言い方、何?そちらの方にはお出でになら、なら…、えぇ〜い、巧くいえないよ!

 頭来ちゃう。何なのよ、あの娘。前と態度違うじゃない!」

「ま、マナ。そんな大声で騒がないでよ」

 私は店員さんを見た。

 よかった…。この人は、声も聞こえないんだ。でも、誰かに見られたら大変よね。

「こら、早くぬいぐるみに戻りなさいよ。

 またここにも、マナちゃん伝説をつくるつもり?」

「だぁって!」

「早く!」

 不承不承って感じでマナは消えたわ。

 

 私はそそくさと表に出て、映画館と逆方向に足を進めたの。

 何だったんだろう?今のレイの様子。いつもと全然違ってた。

 デートしてて楽しいところに私がいて、興を醒ましちゃったのかも。

 うん、きっとそうよ。

 

 私は単純にそう思ってたの。

 でもその日以来、レイからの電話はなくなった。

 私からかけても、用件だけで話を切ってしまう。

 もともと、饒舌な娘じゃないから、話が弾んでいたわけじゃなかったけど、

 やっぱりおかしいわ。

 

 そんなに私がいたことが腹立たしかったのかな…。

 その時、昼休み終了を告げる予鈴が鳴ったの。

 私はベンチから立ち上がって、教室へ向かった。

 理由がそんなに単純じゃなかったことを知ったのは、その日の放課後だったわ。

 

 

 

 

Act.37 レイ、豹変す  ―終―

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第37話です。第2部最終編『レイ、アスカ親交断絶』編の前編になります。
前のあとがきにも書きましたが、このエピソードで急遽第2部完結!
あと2エピソード挟む予定だったんです。
ところが執筆した作品が、冗漫で愚作でした。で、第2部完結編が繰り上がっちゃいました。
まるで、てこ入れに失敗したアニメ番組みたいです。


マナ:綾波さん、鋭いなぁ。

アスカ:ばれてる? アタシの行動?

マナ:アスカは隠し事ができないタイプだし。

アスカ:純粋なのよ。

マナ:単純なだけでしょ。

アスカ:むっ! 違うもん!(ーー#

マナ:じゃ、単細胞ね。

アスカ:コロスわよっ!(ーー#
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