「あなたの心に…」

第3部


「アスカの恋 怒涛編」


Act.41 自分のお墓に墓参り

 

「いいわよね、幽霊は濡れないから」

「いいわね、生きてると濡れることが出来て」

「マナ、アンタ最近皮肉が上手になったんじゃない?」

「うん、アスカとの付き合いのおかげね」

「う〜ん、私暴言は吐くけど、皮肉って言う?」

「言わないよ。暴言吐くから、皮肉を言われるんじゃない」

「あ、なるほど。はん!マナに教えられるなんて、いよいよ私も…」

「あなたたち、待ってても雨は上がらないわよ。早く行ってらっしゃい」

「はいはい。じゃ、濡れない幽霊さん、お猿さんにどうぞ」

「は〜い!」

「もう!傘も荷物も全部、私なのよ!」

 私はブツブツ言いながらも、デイバッグを背負い玄関へ向かったわ。

 今日は碇家と霧島家のお墓参り。

 お隣にお仏壇はあるけど、マナはお参りできないもんね。

 ゆっくりとお参りさせてあげるわ。

 幽霊がお参りってのも、冷静に考えると凄く変だけどね。

 

 雨が降ってるから、墓石は洗えないわね。

 お線香も駄目だし、最初にイメージしてたお墓参りとはちょっと違っちゃった。

 まず、シンジの家のお墓。

 町から少し離れた丘陵地の古くからの墓苑にあるの。

 へぇ…何か、こう…由緒正しいって感じよね。

 ありきたりの墓石じゃなくて、屋根みたいなのついてるし…。

 石造りの囲いもされてるけど、シンジの家って名家だったの?

 私は用意の花をお供えして、手を合わせた。

 ここにシンジのご両親が眠ってる。

「息子さんのことはご安心ください。

 この惣流・アスカ・ラングレーがそばにいる限り、二度と悲しい思いはさせません。

 きっと、幸福な生涯をおくる事が出来ます。

 大船に乗ったつもりで安らかにお休みください」

「なんか変よ、アスカ。その言い方」

「うっさいわね!内容に間違いはないでしょうが」

「そりゃ、そうだけど…。

 おじさん、おばさん。お久しぶりです。

 どうしてかわからないんだけど、マナはこっちに残ってます。

 シンジはこのアスカって娘がいるから、大丈夫よ。

 いつそっちに行けるかわからないけど…、

 そっちに行っても会えるかどうかわからないけど…、

 ごめんね、一人で残っちゃって。

 でも、安心して。

 私が見守ってるから…、このアスカがいるから…、

 シンジを絶対に幸せにするからね」

 マナ…、アンタ決めるときにはちゃんと決めるね。

 なかなかいい台詞だったよ…。

 昨日の夜、散々練習したもんね。

 

 

 

「もう!同じところにお墓作んなさいよ!どうして、街の南北の端なのよ」

「昨日はいい運動になるって言ってたじゃない!」

「だって雨降るなんて思ってなかったもん。

 傘持って、お花持って、デイバッグ背負って、この階段上ってみなさいよ!

 ところで後どれくらい?」

「へへへ、我が家のお墓はぁ、一番上なの」

「えぇ〜!」

 私は遥か上まで続く階段を恨めしげに見上げたわ。

 エスカレーターかケーブルカーくらい、設置しなさいよ!

「日本は国土が狭いから、お墓は山の上になっちゃうの。わかる?アスカ」

「それ、ママの受け売り」

「へへへ」

「アンタ、えらく浮かれてるわね」

「うん、こっちはシンジのとこと違って、お仲間があまりいないから」

「あ、そう…。ええぇっ〜!お仲間ってアンタの同類のことぉ?!」

「うん、そうだよ。

 シンジんとこは江戸時代から続いてるから、もうそこ等中にうようよしてた」

「うようよって…、うようよ?」

「うん、お侍とか軍服着てる人もいたし、赤ちゃん抱いてるお母さんとか。

 そうそう一番凄かったのは…」

「ストップ!さっき、あまりって言ってたよね。じゃ、ここにもいるの?」

「いるよ。今もアスカの横に…」

「マナ!行くわよ!」

 私はスピードアップして階段を上ったわ。

 そういや、パパってお墓参りはいつも嫌がってたっけ。

 見えすぎる人って、可哀相ね。良かった。私はほどほどで。

 

 はぁはぁ…。

 ばてた…。

 10kmマラソンの方がまだましよ。

 明日一日、足がパンパンに張ってそう…。

「うん。意外に早く着いたわね。アスカって脚力あるんだ」

「はぁはぁ…アンタ、ねぇ…、はぁ…、

 私が足止めるたびに、近くにいるアンタのお友達の説明をしてくれたよね。

 はぁ…もう!雨降ってるから、座って休むわけにいかないんだから…、

 ふへぇ…、もう駄目…」

「持ってあげようかって親切に言ってあげたのに」

「アンタ、墓石倒して帰るよ」

「そんなことしたら、お父さんが化けて出てきても知らないから。

 私はか弱いけど、お父さんはマッチョだよ。

 血みどろホラーバイオレンス映画みたいになっちゃうかも」

「はいはい、わかりました。で、どこ…?」

「奥から三つ目…」

 マナの家の墓石は、ごくありきたりのものだったわ。

 中に入っているのはご両親とマナの3人。

 つまり霧島家の全員がここにいるってわけ。

 日本では、こういった場合は無縁仏ってのになっちゃうみたい。

 誰も手入れをしないと墓所が荒れるから、適当な時期を置いて墓所を撤去するんだって。

 ドイツじゃ考えられないようなことをするのね、日本は。

 管理人雇って、きちんと掃除したらいいじゃない。

 国土が狭いからというより、多分宗教の違いなんでしょうね。

 でも、マナのところは大丈夫。

 シンジが永代供養料ってのを支払ったらしいから、無縁仏にはならないの。

 お金で解決ってのが癪に障るけど、仕方がないか…。

 私がこんなことを考えてるのは、マナが無口になっちゃったから。

 私、わかってるよ。

 アンタが浮かれてたのは、幽霊の数が原因じゃないんでしょ。

 もしかしたら、パパやママに会えるかもしれないから。

 そんな期待をしてしまうから、変にはしゃいでたのね。

 私は霧島家の墓前に立ってる。

 ビニール袋に包んだおはぎをお供えして、お花を手向け、手を合わせた。

 そして、瞑目していた私の耳に、マナのすすり泣きが聞こえてきたの。

 目を開けるとマナが寂しげに立っていたわ。

「いなかったの?」

 マナは頷いた。

「パパも…ママも…どこにもいない。たぶん成仏してるんだよ」

「マナ…」

「きっと、私が残ってるなんて考えてもいなかったんだと思う。

 パパは向こうでママや…私に会えるはずだと…。

 それなのに…私がいないから、驚いたでしょうね。

 それとも、笑ってるかな。どじな娘だって…」

「マナ、アンタお猿さんに入りなさいよ」

 私はポケットからお猿さんを出して、掌に載せたわ。

「え…?」

「ぎゅって抱きしめてあげるから。ね」

「うん」

 マナは泣き笑いの顔で私を見た。

「ありがと、アスカ」

 そして、マナは姿を消した。

 私はお猿さんに頬擦りをして、胸の真中に抱きしめたわ。

 この場所がマナの最後の希望だったのよね。

 記憶にないママに会えるかもしれないって。パパにも会えるかもって。

 でも、駄目だった。

「あのね、マナ」

 私は胸のお猿さんに呼びかけたの。

「きっとアンタのママは、アンタにはパパが付いているからって安心してたのよ。

 ね。寂しいんなら、私のところにずっといればいいじゃない。

 そうだ。いいことがあるわ。

 アンタ、生まれ変わりなさいよ!

 私の娘になったらいいわ!

 私と…アンタの大好きなシンジの間に生まれる子供よ。

 ……て、照れるわね。

 それなら、アンタに文句はないでしょうが。

 もし、成仏しちゃったら、そうするんだよ。

 私、アンタを可愛がってあげるから。ね?マナ、そうしなよ。

 ま、そのためには、シンジと、け、け、けっこ…」

「僕がどうしたの?アスカ」

「ふへっ!」

 背後からの声に、私はびっくりして振り返った。

 そこに傘を差して立っていたのは、今話題沸騰中のシンジ!

「あわわわ、ど、ど、どうして、馬鹿シンジがいるのよ!

 アンタ、ちゃんと足ある?幽霊じゃないでしょうね!

 いつの間にか後ろに立ってるなんて、悪趣味極まりないわ!」

「ご、ごめん。でも、僕だってびっくりしたよ。

 まさかアスカがここにいるなんて。

 あれ?どうしてここがわかったの?

 僕以外に、知ってる人なんかいないはずだよ」

 や、やばい!

 マナに教えてもらったなんて言える訳ないし。

 困ったわ!灰色の脳細胞を駆使して、言い訳を考えるのよ!

 うぅ〜!脳細胞高速回転!あ、あったわ!これなら大丈夫!

「昨日、お坊さんに聞いたのよ。どこの霊園かって」

「あ、そうか。でも大変だっただろ。お墓の場所探すの。こんなに広いんだから」

 もう!ああ言えば、こう言う!馬鹿シンジの癖にしつこいわよ!

「はん!探し物の鉄則じゃない!上から順番にってのは。

 たまたま一番上の列にあったのは、もって生まれた私の運の良さの証明よ!」

「へぇ…アスカって凄いんだ」

 はぁ…、信じてくれたよ。シンジが単純でよかった。

 あ、でも今日は一人なんだ。レイがいない。

「あ、アンタ一人なの?れ、レイは?」

「え?ああ、今日は一人にしてもらったんだ。一人でお参りしたかったから」

 なるほど、ね。そういうことか…。

「じゃ、私も行くね。お邪魔さま」

 皮肉じゃなく、本心から言った言葉だったの。

「あ、いや、アスカなら…、アスカさえよければ、ここにいてよ」

「え、いいの?私がいても」

「うん、遊園地で約束しただろ。マナのことは…」

 あ…。嬉しいな。覚えててくれたんだ。マナのことは私に話すって。

 げ!シンジの手にぶら下がってんのって、私と同じおはぎの包み。

 お花もマナの注文と同じ、チューリップ!

 ど、どうしよう!これはお坊さんが知ってるわけないし。

 あわわわわ。困ったわ。アスカ、絶体絶命よ!

 ええ〜い!もう一度、脳細胞高速回転!

 さらにエンジン全開!

「あれ?どうしたの、アスカ。顔真っ赤にして、何、力入れてるの?」

「な、何でもないわよ!」

 集中してんだから、声掛けないでよ!

 タララタッタタ〜ン!

 へっへっへ、よし!OKよ。

 昨日の法事のときに、霧島家の方のお仏壇に両方とも供えてあったじゃない!

 これで大丈夫よ!さあ、どんどん来なさいよ。

「あれ?今度はニヤニヤしちゃって…あ!そうだ!」

 はい、聞いてもいいわよ。答えは準備済みよ。

「アスカ、午前中に家のお墓にお参りしてくれただろ?」

「もっちろ…って、あ、そ、そ、そうよ、私よ。もちろん、私」

 シンジ、見事なフェイント攻撃だったわ。

「あ、そうか、僕の方もお坊さんに聞いたんだね」

「そうよ」

「ありがとう。わざわざお墓にまで…」

「はん!日本のお墓に興味があっただけよ!」

 あ〜!滅茶苦茶な答え。

 どうしていつもシンジが相手になった途端に、こんなのになっちゃうんだろ?

 やっぱり舞い上がっちゃってるのかな?

「あ…!」

「何?今度は何?」

「雨、上がりそう…」

 私はシンジの視線を追ったわ。

 西の空が明るくなってきた。

 そういえば、傘に当たる雨の音もかなり小さくなったみたい。

 雨上がりって、私、好きよ。

 そうね、雨上がったら、マナのお墓を綺麗にしましょ。

 シンジも手伝ってくれるよね。

 

 こんな展開、思いもしてなかった。

 マナのお墓でシンジと出くわすなんて…。

 うん!これこそ、運命の導き、ってヤツよ!

 私とシンジは運命の二人なんだから!

 



 

Act.41 自分のお墓に墓参り  ―終―

 

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第41話です。
『アスカのお墓参り』編の中編になります。レイがいないこの状態を生かすことができるか?まあ、そんなに簡単にできるようじゃ、この作品の主役は勤められませんが。ね、アスカさん?


アスカ:いいわ! いい展開よねっ!

マナ:お墓参りはポイント高いんじゃない?

アスカ:そうそう。大切なお墓参りでシンジと会えたのは、いい感じよぉ。

マナ:綾波さんが一緒に来てなかったのも、いいシチュエーションだったみたいだし。

アスカ:この調子でいっきにシンジのハートをゲットよぉぉっ!!!

マナ:そう、うまくいくかしら。(^^;
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