「あなたの心に…」

第3部


「アスカの恋 怒涛編」


Act.49 いざ、京都へ!

 

 

 

 修学旅行。

 関西方面に2泊3日。

 いまどき関西に修学旅行なんて何て学校だろう。

 私と鈴原は二人で文句をつけていたけど、どうしようもなかった。

 そりゃそうよね。学校行事だもん。

 で、どうして鈴原と二人という取り合わせになるのかって言えば、

 私とあのジャージマンにとっては関西なんて別に珍しい場所じゃないから。

 鈴原は関西出身だし、私の方はグランマが神戸だからね。

 あ、グランマってパパのママね。

 神戸でパン屋さんをしてたの。

 今は引退してお弟子さんにお店を任してるんだけど、私たちと同居してくれないのよね。

 関西人は関西離れたら生きていかれへんねん、だってさ。

 鈴原も真っ青のバリバリの関西弁…というより神戸弁でまくしたてる元気なおばあちゃんなの。

 でもまぁ、まだ60歳にもなってないんだし、健康そのもの。

 グランマのところには3日目の自由行動のときに行ってみようと思ってるの。

 大阪で解散集合だから往復2時間あれば充分会ってこられるわ。

 パパとママは震災の時に日本に駆けつけたんだけど、私はドイツでお留守番をさせられてたのよ。

 だから、グランマと顔を合わすのは10年ぶりになっちゃう。

 大きくなって美人になったところを見てもらおうっと。

 まあ、最後に関西に行ったのは4歳の時だったから、土地勘があるわけじゃないけどね。

 どうせなら全然知らないところへ行く方がいいわけよ。例えば、沖縄とか…。

 まあ、旅費なしでグランマに会えるんだから、ラッキーといえばラッキーかな?

 で、その大阪の自由行動のときにヒカリと鈴原を一緒に行動させようと画策してるの。

 なかなか大義名分が見つからなくて困っちゃった。

 ということでやっとのことで思いついたのが、お土産選び。

 私が神戸の方にいっちゃうからヒカリが独りぼっちになるので、鈴原に道案内をさせようってこと。

 ま、二人ともお互いのことが好きなのになかなか告白しないんだもん。

 両思いなんだからさっさとくっついちゃえ。

 私なんか…。

 ああああっ!思い出したら鬱モードに入っちゃう。

 よし!この旅行中はシンジのことを忘れて、目一杯楽しんじゃう!

 

 はずだった…。

 新幹線、早く京都に着かないかしら…。

 予測はしていたけど、実際にあの光景を見ると胃が痛くなる。

 シンジと二人で並んで座っているのはもちろん綾波レイ。

 それはもう甘い甘いムードが漂ってきている。

 いいわよねぇ。ずぅっとお喋りできてさ。

「アスカ?ビュッフェかどこかに行きましょうか?」

「いい。逃げるみたいで嫌だ」

「やせ我慢は身体に悪いわよ」

「いいもん。目を離したら何しでかすかわかんないでしょ。

 仮にも公共の交通機関なのよ。

 他のお客様のご迷惑になりますから過度のベタベタは委員長として見過ごせないでしょうが」

「アスカ?文章が凄く変よ。せめて、座る場所変えたら?」

「やだ。ここで監視してるの」

「もう…」

 私が座っているのは、シンジとレイが並んでいるシートから5つ扉方向の通路側。

 3人席は方向を逆転できないから、私はわざわざヒカリの前の席に移動して、

 座席に膝をつき背もたれを抱きしめた格好になってるの。

 そう、電車の座席で子供が靴を脱いで窓から外を眺めているあの格好。

 はっきり言って私一人だけ浮いてる。

 けど、構わないわ。しっかり監視してやるんだから。

 不純異性交遊は絶対に許さないわ!

 5mの距離で睨みを利かしている私の視線にもレイは動じる気配も見せない。

 時折私に微笑を送るくらいの余裕を見せている。

 くぅぅっ!ま、負けないわよっ!って、もう負けてるんだっけ。

 そのレイに比べてシンジはといえば、何だかしょぼんとしているみたい。

 まさか私が見ているから?

 じゃ、私が監視しているのは逆効果でかえって嫌われちゃうとか?

 君子を自負している私は、目の前…じゃない、眼下であきれているヒカリに相談したわ。

「ねぇ、これって私の好感度が減っちゃう?」

「当たり前でしょ。碇君が心よく思うわけないじゃない」

「げっ!」

 囁き声の作戦会議はあっさり終了。

 これ以上好感度が減ったらまずいわよ!

 てことで、私はヒカリの隣の席に戻ったわ。

 その時ちらりと見えた、レイの勝ち誇った顔といったら!

 その上、悠然とお弁当の準備を始めてるの。

 今日も手作りお弁当ね。

 紙のお弁当箱って指定だからお重箱はさすがのレイでも出てこないでしょ。

 で、そういう時間だから私の自分のお弁当を出したわけ。

「さ、食べますか」

「う、うん…」

 ヒカリの声が変。

 私の勘にピピンと来たわ!

 そしてまたもや囁き声の作戦会議の始まり。

「ねぇ、またジャージにお弁当作ってきたの?」

「う、うん…」

 ヒカリはバッグを少し開いて見せた。

 小さいのと大きなのと二つのお弁当包み。

「じゃ、さっさと渡したら?」

「だ、ダメよ。恥ずかしいから…」

 まったく、この娘ときたら!

 その時、私の優秀な頭脳はある作戦を思いついたわ。

 思いついたら即実行あるのみよっ!

 私はつかつかとシンジのひとつ前…の座席でメガネと座っている鈴原に歩み寄ったわ。

 シンジとの距離は近づいたけど、隣にレイがいるからじろじろ見るわけにはいかないわよねぇ。

 ずっと見ていたいんだけどさ。

「ちょっと、ジャージ男!」

「何や?」

「アンタ、お昼は?」

「ん?パン買うとるで」

「パン?」

「駅弁買おうとしたら、青葉のヤツに頭どつかれたわい」

 あ、青葉っていうのは2年の理科教師。

 軽音楽部の顧問でギターをジャンジャン弾いてる割には硬派なロン毛の先生。

「アンタ馬鹿ぁ?そんなの最初から禁止されてたじゃない」

「アホ。禁止されとるからやらんとあかんねやないか。それが男のロマンや」

「ずいぶんくだらないロマンよね」

「ふん!ほっとけ!で、何や。パンが欲しいんか?」

「馬鹿らしい!アンタ、そのパンはメガネにでもやれば?」

 鈴原と同様に駅弁購入に失敗したらしく、メガネもパンの袋を手にしていたの。

「アホか。そんなんしたらわしの食べるもんがあらへんやないか」

「No Problem!ちゃんと美味しいお弁当があるわ。ヒカリお手製のね」

「ほ、ほんまか!」

 ああ、いいわねぇ。顔赤らめちゃってさ。

「その代わりお願いがあるの」

「このパンか?こんなんやったら全部やるで」

「だから、アンタ馬鹿ぁ?それはメガネにでもやればって言ったでしょ」

「お、おう。ほな、ケンスケ、食べてくれや。遠慮すなや、うまいでこれ。こ、これでええんか?」

「違うわよ。アンタ、大阪の自由行動はどうするの?」

「ん?あの日か?適当にそこらぶらぶらしよかと思とるけど?」

「ふ〜ん、じゃそのぶらぶらにヒカリを同行させなさいよ」

「い、い、いいんちょをか?」

 くくく、声が裏返ってんの。

「そうよ。お土産選びでも手伝ってあげてよ」

「そ、そ、惣流はどないするんや」

 くわっ!鈴原もやるわよね。

 私がお目付けでついてくるのかどうか確認ってわけ?

「はん!私は神戸のグランマのとこに行くの」

「ぐらんまん?元町の中華街で売っとるんか?ぶたまんやろ、それ」

 こんな馬鹿のどこがいいのよ、ヒカリって子は。

 説明する気も起こらずヒカリを呼びに行く時、ちらりとシンジと目が合った。

 美味しそうに玉子焼きを食べてた。

 彼女お手製の玉子焼きはどうせすっごく美味しいんでしょ!

 私と目が合った瞬間に慌てて視線を逸らすんだから…。

 

 ヒカリったらそれからずっとどぎまぎしてんの。

 純情可憐というか…そんなにあの鈴原のことが好きなんだ。

 でも、今の私にはヒカリの気持ちがよくわかるわ。

 私だってシンジのことを考えたらそうなっちゃうもん。

 そして、京都到着。

 わぁ、こんな駅になってるんだ。

 古都ってイメージじゃないけど、ガラスだらけで凄い…。

 って、一昨日にマナに予習だってDVDを見せられたっけ。

 『ガ○ラ3』で滅茶苦茶に壊される京都駅を。

 ホントにあの娘はアニメや特撮が好きなんだから。

 ま、まあ、私も楽しんで観てたけどさ。

 でも、ホントに怪獣が暴れることができそうなくらい広い空間。

 マナも実物を一緒に見に来ればよかったのに。

 ぬいぐるみに憑依して一緒に修学旅行に行こうって誘ったんだけど、

 京都は怖いから嫌なんだってさ。

 下手したら徳の高い坊さんに捕まって無理矢理成仏させられそうだからって。

 まあ本人…、違った、本霊がそう言うなら仕方ないわよね。

 まずは用意されたバスに乗って清水寺に移動。

 この団体行動っていうのは未だに慣れないわよね。

 ずるずると長い列で動き回るだなんて、非効率的且つみっともないわ。

 一人でうろうろ歩き回りたいなぁ。

 嘘…。

 シンジとがいい。

 シンジと二人で京都をデートしたいな。

 あ、デートっていえば、これからシンジはレイとデートなのか…。

 清水寺に着いたら、そこで2時間の自由行動なの。

 それからの時間に、あれほど走りまわされるとは思わなかったわ。

 

 解散の声とともにばらばらっと分かれていく生徒たち。

 大概は数人のグループになっている。

 でもって、清水寺の方か三年坂の方角に向かっているわね。

「ねぇ、アスカ。どこに行く?」

「ん?どこでもいいわ。社寺仏閣に興味はないから。

 私が興味があるのは…」

「碇君でしょ」

「……」

 はいはい、その通りです。

 ふとその時、シンジはどうしているかが気になったの。

 どこにデートに向かうのか。

 それを知ってもどうにもならないんだけどね。

 あ、やっぱりというか当然というか、シンジの隣にレイが立っている。

 わわっ!シンジと目が合っちゃった。

 てもうっ!どうして目を逸らしちゃうんだろう、私は!

 こっちから見ているとシンジが目を逸らすし…。

 シンジがたまたま私の方を見てたら、どきどきしちゃって目を合わせられないし。

 まあ、京都に来てまで二人の後を追いかける気はなかったの。

 本当よ。この時までは…ね。

 だって、二人がみんなに背を向けて全然違う方向に歩き出したんだもん。

 こんなの気になるに決まってんじゃない!

「行くわよ、ヒカリ」

「え、どこに?」

「わかんないわよ、そんなの。アイツらに聞いてよね」

 私の視線を追っかけてヒカリがすべてを了解してくれたようだ。

 流石は私の親友。

「ちょっと、アスカ。止めましょうよ、後をつけるだなんてよくないわ」

「誰が後をつけるって言ったのよ。私の行きたい方角にアイツらが向かってるだけじゃない」

 ヒカリは悟ってくれた。

 何を言っても無駄だってことを。

 流石は私の親友。

 強引に止めることができなかったのは、大阪でのデートをセッティングしてあげたせいかも。

 何しろヒカリは我らの真面目な委員長なんだもんね。

 ぐずぐず言いながらもヒカリは私に着いて来てくれている。

 くぅう、二人は賑わっている清水寺のお土産物屋さんが並んでいる通りから外れていくじゃない。

 これは完全にデートだわ。デートっ!

 旅行で羽目を外そうっていうの?

 はん!そんなのこの私が許さないわよ!

「もう!アスカったらぁ」

「ふふふ、もう遅いわよ。ここまで来たらもう一人で帰れないでしょ」

「アスカは…わかるの?」

「私?もちろん、全然わかんないわよ!」

 私は断言したわ。

 だってあの二人路地から路地へと移動するんだもん。

 まあ、何とかなるでしょう。

 私は今来た道を振り返るよりも、二人を見失わないように、そして見つからないようにすることで手一杯なわけ。

 がんばらなきゃ!

 

 …って、どうして墓地に入っていくの?あの二人は。

 

 

 

Act.49 いざ、京都へ!  ―終―

 

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第49話です。
『どたばた修学旅行』編前編になります。
どうやら読者の皆さんはレイではなく、シンジを嫌われてるご様子。
ごめんよ、シンちゃん。この内容じゃアンタ優柔不断の帝王だよね。
彼の本当に気持ちは…ってまだこの段階では書けないから、
可哀相だけどもうしばらく皆さんに憎まれてくださいな。
今の行動も同情の余地があるんだから、一応。
さて、次回は『修学旅行』編中編です。京都での自由行動に彼らは…?


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