綾波司令ファンクラブ

ファーストチルドレン、綾波レイの長官服姿に魅せられた人々が結成した追っかけ団体。

メンバーは、主として旧零号機整備員、サブオペレーター、諜報・保安両部員。

性別、未婚・既婚の別には、あまり関係がない。

して、その活動内容は・・・ (←今回のお話の最後で分かります)

 

 

 

アスカ「ねえ、シンジ。」

シンジ「何、アスカ?」

アスカ「ファーストって、まだあのボロッちいマンションに一人で住んでんの?」

シンジ「知ってたの?」

アスカ「前にミサトから、聞いたのよ。」

シンジ「ふーん。・・・今度、引っ越すみたいだよ。」

アスカ「げっ!まさか、ミサトの家へ来るんじゃないでしょうね?!」

シンジ「違うみたいだけど・・・」

アスカ「ホッ!・・・ソレはなによりだわ。で、どこへ行くの?」

シンジ「なんでも、最近できた新しいマンションだそうだよ。」

アスカ「エ〜〜〜ッ!ファーストのくせにナマイキよ!!」

シンジ「司令なんだから、当然だよ・・・」

アスカ「じゃ、もしかして、こ―――んな大っきい、超豪華なマンションに一人住まいとか?」

シンジ「やっぱり、司令なんだし・・・」

アスカ「もしかして、毎日、毎日、こ―――んな贅沢な御馳走を食べ放題とか?」

シンジ「綾波は、そこまでしないと思うよ・・・(それはアスカの願望じゃ?)」

アスカ「キィ――!悔しい!!パーフェクト美少女のこのアタシが、酔っ払いの三十女と、ダッサダサの

    マザコン坊やに囲まれて、つつましく生きているっていうのにィ!!」

シンジ(誰が『つつましく』だよ・・・)

アスカ「シンジ!!」

シンジ「えっ?」

アスカ「偵察に行くわよ!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 綾波司令   第6話「乾いた部屋」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アスカ「ここね!」

 

それは、ミサトのマンションの、優に2倍はありそうな高層マンションであった。

音もなく、スッと上がる高速エレベーター。

広い通路はひっそりと静まり返って、隣との距離が十分過ぎるほどに設けられたドアとドアとの間隔は、

中の広さだけではなく、防音・防災設備の完璧さを雄弁に物語っていた。

しばし呆気にとられる二人・・・。

だが、いちはやく気を取り直したアスカが、思い切って『綾波』とプレートの掛かった部屋のインターホン

を押した。

 

Pinpohoon!(お願い!――なんとなく高級そうな『ピンポ〜ン!』を想像してください)・・・・・・・・・・・

シンジ「留守・・・かな。」

 

Pinpohoon!・・・・・・・Pinpo!Pinpo!Pinpo!Pinpo!Pinpo!Pinpo!Pinpo!Pinpohoon!!

アスカ「留守・・・みたいね。」

 

 

レイ「何・・・してるの。」

 

 

シンジ・アスカ「「わあっ!」」

 

飛び上がった二人のスグ後ろに、部屋の主が立っていた。

買い物の帰りらしく、片手にスーパーのビニール袋を提げている。

気がつけば、シンジとアスカの腕は、相手の背中へと回されていた。

 

アスカ「(ハッ!)な、なにするのよ!スケベシンジ!!」

シンジ「(ハッ!)ア、アスカこそ!」

レイ(じ〜〜〜〜)

 

スッと、二人の間を抜けてレイがドアの前へ進んだ。  

 

ピッ――プシュン・・・

 

レイ「そんなトコにいないで、中に入ったら?」

 

レイが肩越しに二人を振り返った。

 

シンジ「う、うん。・・・おじゃまします。」

アスカ「アンタ、バカァ?ファーストの家に入るのに、『おじゃまします』はないでしょ?」

シンジ「(ムッ・・・)じゃあ、どう言うのさ?」

アスカ「こういう時はね、『アラ、そ。アタシも忙しいんだケド、そこまで言われちゃ仕方ないわネ。

    じゃ、ちょっとだけ上がってあげようカシラ?』って言うのよ!」

シンジ「そんなコト言うの、アスカだけだよ・・・」

アスカ「何よ!文句あんの?」

 

レイ「・・・早く入ったら?」

 

ドアの向こうからレイが首を覗かせていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

アスカ「へ、へぇ〜〜〜・・・ま、まぁまぁの部屋じゃないの。」

シンジ(うわぁ〜・・・広い!)

 

二人が驚くのも無理はなかった。軽く二十畳はあろうかというリビングの床は、一面の明るいフローリン

グで、中央には真っ白いふかふかの絨毯が敷かれていた。その上に置かれた、シンプルだがセンスの

良い応接セット。広いベランダへと続く出窓は、普通の倍ほどもある大きなアルミサッシが嵌め込まれ、

半分開けたそこから吹く風に、これまた真っ白いレースのカーテンがフワリンと揺れていた。

 

レイ「食べる?」

 

リビングの椅子に並んで腰掛けた二人の前に、レイが小皿に切り分けた高級そうなチーズケーキを置

いた。そして、真新しい陶磁器のティーカップに鮮やかな色の紅茶をポットから注ぐと、テーブルを挟ん

だ向いの椅子に腰を下ろし、自分のカップとトレイを持ち上げて、二人を眺めた。

 

アスカ(な、何?この余裕は?)

シンジ(こんな、大人っぽい綾波は、初めてだ・・・)

 

呆然と、レイを見つめる二人。

 

レイ「・・・いらないの。」  

 

ハッ・・・

 

シンジ・アスカ「「い、いただきます。」」

アスカ「(パクッ)お、美味しい〜!」

シンジ「(パクッ)本当だ。」

アスカ「(パクパクパク!)」

シンジ「(モグモグモグ!)」

アスカ「(パクパク・・・ゴクン!・・・フー、フー、ズズッ・・)」

シンジ「(モグモグ・・・ゴクン!・・・ゴク、ゴク、ゴク・・)」

 

レイ「まだあるわよ。」

 

アスカ「ラッキー!(パクパクパク!)」

シンジ「え、いいの?(モグモグモグ!)」

 

レイ「紅茶のおかわり、いる?」

 

アスカ「(パクパク・・・コクコク)」

シンジ「(モグ・・)あひがと、あひゃなみ(モグモグ・・)。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

アスカ「ハァ〜〜・・」

シンジ「ふう〜〜・・」

 

しばしの満腹感にひたる二人。

ミサトのマンションでは決して味わえない贅沢な空気が、そこには漂っていた。

 

アスカ「あー、美味しかった。ファースト、アンタ、いつもこんなもの食べてるの?」

レイ「・・・ええ。」

 

アスカを逃れたレイの視線は、じっとテーブルの上に向けられていた。

 

アスカ「さっすがは、司令よねぇ!アタシ達一般戦闘要員とは大違いだわ!」

レイ「・・・そう。」

 

応える声が、小さくなっていく。

 

シンジ「アスカ・・・」

口を挟みかけたシンジは、しかし、すぐに自分の勘違いに気がついた。

 

アスカ「・・・でもね。アンタ、こんなダダっ広い部屋によく一人で住んでられるわね?!」

 

シンジ(アスカ・・・本当は綾波のこと気になるんだ)

フッと、シンジが表情を緩める。

 

レイ「平気。」

いつもの調子に戻ったレイが、ケロリと答える。

 

アスカ(ガクッ!・・・や、やっぱり、よく分からないヤツね)

1人ズッコケたのは、アスカである。

 

 

シンジ(そうだろうなぁ・・・)

かつてレイの部屋を訪れたことのあるシンジには、彼女の反応は一応当然と思われた。

 

アスカ「いったい、アンタ、普段この部屋で何してるの?」

気を取り直したアスカが詰問する。

 

レイ「別に、何もしてはいないわ。」

表情一つ変えない彼女の顔は、明らかに『なんでそんなことを聞くのかしら?』と言っていた。

 

アスカ「アンタね!テレビもラジオもゲームもないこの部屋で、どーやったら一人で過ごせるってのよ?」

 

シンジ(そういえば、自分の部屋で、綾波が一人っきりで何をしているのか、僕は知らない。アスカの言う

     通りだ・・・綾波は、どうやって、自分の時間を過ごしているんだろう?)

 

アスカ「ファーストの部屋にあるものといったら・・・」

 

腰に両手を当ててグルリとまわりを見回すアスカ。シンジもつられて、レイの部屋の中を見渡した。

 

アスカ「家具と食器と学校の道具だけじゃなーい!」

 

シンジ(確かに・・・)

 

さして大きくもない衣装ダンス。壁に吊るされたハンガー。隣のキッチンからのぞくささやかな食器類・・・。

一人暮らしの女の子の部屋にしては、驚くほど物が少なかった。壁に立てかけられた通学鞄の中には、

いつも読んでいる本が仕舞われているハズ。なぜなら、本棚らしきものが、見当たらない。唯一、彩りを

添えていると言えなくもないのは、最近買ったらしいスタンド・アローンの化粧鏡くらいなものか・・・。

 

シンジ(綾波が毎日自分の部屋で何してるかなんて、考えたこともなかったけど・・・綾波は、本当に平気

     なのかな?)

 

チラリと向けたシンジの目を、相手の目が見返していた。

その瞳は、『寂しい』とは言っていなかった。

けれど、

『楽しい』とも、決して言ってはいなかった。

 

シンジ(綾波は、『楽しい』ということを知っているんだろうか?)

 

ふと、そんな疑問がシンジの心に浮かんだ。

 

シンジ(僕は、ミサトさんやアスカと一緒にいると楽しい。トウジやケンスケ達と一緒にいる時も・・・。でも、

     綾波は、僕やアスカと一緒にいて『楽しい』んだろうか?僕が、アスカやミサトさんに感じるくらい

     『楽しい』んだろうか?)

 

シンジ「綾波・・・」

レイ「何?」

シンジ「綾波は、僕と一緒にいて・・・」

 

アスカ「チョット!ファースト!!」

 

部屋の中を歩き回っていたアスカが、突然大声を上げた。

 

アスカ「ねぇ、ファースト!この隣の部屋は何なの?」

 

アスカが、隣室へと続くドアを指差していた。

 

アスカ「開けていいでしょ?!」

レイ「ダメ・・・。」

アスカ「え――!何でよ?」

レイ「開けては、ダメ。」

 

アスカ「そー言われると、ますます開けたくなるのよねぇ・・・そーれ!」

 

ガチャッ!!

 

アスカ「ひっ!」

 

ドアの取っ手を握ったままの姿で、アスカが固まった。

 

シンジ「どうしたの?アスカ・・・」

アスカ「あわわわわ・・・・・」

 

シンジは、アスカの横に立って部屋の中を覗き込んだ。

すると、見なれた光景がシンジの目に入ってきた。

 

シンジ(そうだったのか・・・)

 

レイが一人暮しを始めたマンションの部屋が、そこに再現されていた。

 

閉め切ったカーテンの隙間からかすかに射し込む光・・・リノリウムの床に据えられた簡素なベッド・・

・・・キャスター付きのデスクチェア・・・小さな冷蔵庫の上に置かれた水の入ったビーカー・・・簡単な

衣装ダンスとその上の眼鏡ケース・・・

 

シンジ(だから、綾波は、こんな広い部屋にいても平気なんだ。・・・やっぱり、ここは、綾波の部屋)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ウンウンうなされているアスカを背中にのせて、シンジはレイの部屋を後にした。

開け放したドアの前で、レイが二人を見送った。

 

シンジ「今日は急に押しかけてゴメンね。それじゃ、帰るね。」

レイ「・・・そう。」

 

シンジ「綾波、さっきのことだけど・・・」

レイ「ええ。」

 

  ―――その時、綾波の紅い瞳は、なんだか少し寂しそうだった。

       そのことを僕が訊ねても、きっと、綾波は否定しただろうけど―――

 

シンジ「・・・なんでもないよ。また、遊びに来るから!綾波!!今度は、トウジやケンスケ達も連れて

     ・・・もちろん、アスカも一緒にね!」

レイ「うん。」

 

レイの口元が、小さく微笑んだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

アスカ「・・・降ろしてよ。」

シンジ「あ、気がついたの。」

アスカ「ちょっと前からね。」

シンジ「『ちょっと前』って・・・」

アスカ「アンタとファーストが仲良くお話してるアタリからよ。」

シンジ「うっ・・・(相変わらず性格悪いやつ)」

アスカ「・・・・・(じっ・・・)」

シンジ「・・・・(タラタラ)」

アスカ「・・・・・やっぱり降りない。」

シンジ「え?」

アスカ「まだ気分が悪いの。もう少し乗せてって。」

シンジ「う、うん・・・」

 

そろそろ夕方。

ミサトのマンションへ向かって歩く一つの影は、第3新東京市のアスファルトの上に、長く長――く伸びて

いたのでありました。

 

そして翌日。

綾波司令ファンクラブからレイへの高級菓子の差し入れは、ついに100個目を超えたのであります。

レイ「せっかく引越ししたのに・・・また一杯になってしまうわ。」

 

 

『綾波司令』 第6話「乾いた部屋」 終

 

 

次回予告 

花の独身生活を謳歌する我らが葛城ミサトと赤木リツコ。

しかし、世間の男共が彼女達に向ける視線はことのほか厳しかった。

女の誇りとネルフの名誉を賭けて、二人は立ち上がる!

次回、『綾波司令』 第7話 「女の価値は」

ヨロシクねン!


アスカ:ムキーっ! なんでファーストがあんないい部屋にぃっ!

レイ:あなたは歩兵。私は司令だもの。

アスカ:誰が歩兵よっ!

レイ:碇君。私の家の方が住みやすいわ。(クス)

アスカ:がーっ! シンジだけは渡さないわよっ!

レイ:碇君に、あの家は似合わないわ。

アスカ:アタシがいるから、シンジは小さな家でもいいのよっ!

レイ:司令より諜報部員に緊急司令。アスカをあの貧乏な家に・・・外から鍵を。

アスカ:キャーーーーーっ! ちょとっ! 前回に続いてっ! ちょとっ! いやぁぁぁぁぁぁ!!!

レイ:碇君もこの家なら満足。(クス)

アスカ:ちっくしょーーーーーーーーーーーっ!!!! 次回こそリベンジしてやるぅぅぅっ!!!!!(ズルズルズル)

レイ:あなたの家に碇君は勿体無いもの。
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