「私は、特務機関ネルフ最高司令長官綾波レイ。みんな、私のことをただのボケボケ司令だと思

  ってるみたいだけど、本当は、私、あの碇元司令も真っ青な独裁者なのよ。今日は、そのことを

  みんなに教えてアゲル・・・」

 

 「葛城三佐。」

 「ハイッ。」

 「葛城三佐・・・アナタ、毎日自宅でビールばかり飲んで、家事一切を碇君に押し付けているそうね?

  保護者失格・・・。サードチルドレンはアナタの家政夫じゃないのよ。」

 「そ、それをどうして・・・」

 「私はネルフ総司令綾波レイ。私の知らないことは何もないわ。神妙にしなさい。」

 「うぅ!・・・恐れ入りました(ガクッ)」

 「・・・というわけで、碇君の保護者は、今日から私。行きましょ、碇君。」

 「本当?・・・ありがとう!綾波!!・・・わ――い、今日から綾波と一緒だぁ〜!」

 「思いっきり甘えていいのよ・・・」

 「しょ、しょんなぁ〜〜〜!お願い!!週に一度はシンちゃんを返して!ネッ、ネッ??」

 

 「弐号機パイロット。」

 「何よっ?」

 「これ、なあーんだ?」

 「そっ!それは、アタシの日記じゃないのっ!!ちょっと・・・返しなさいよっ!!」

 「○月○日。今日、シンジの部屋に忍び込んで、アイツの隠していたお菓子を全部食べてやった。

  ・・・・・・あなた、何をしているの」

 「うっさいわねぇ!シンジのものはアタシのものなのよっ!それより、早く返しなさいよ!」

 「ダメ。――それから、お腹が一杯になった私は、シンジのベッドにもぐり込んでお昼寝を・・・」

 「へん!どう?うらやましい?・・・・(ん、待てよ?)はっ!ファ、ファースト!ちょっと、もういい・・」

 「――すると、フトンの中からシンジの匂いが。なんだかこうしているとシンジに抱きしめられて・・・」

 「ギャ―――ッ!!よ、読むなぁああ!!・・・ヤメテ!ファースト、もうヤメテヨ―――ッッ!!(カックン)」

 (排除、完了。でも、なんだか面白くない)

 

 「赤木博士・・・」

 「何かしら、レイ?・・・ハッ!!一体、何をする気?そのスイッチは!・・・(ドカ――ン!!)・・ア〜〜レ〜〜」

 

 「冬月副司令・・・」

 「どうして、ワシにまで八つ当たりを?・・・・・う――わ―――」

 

 「「「ガチガチガチガチ・・・・」」」

 「安心して。雑魚には用は無いわ。」

 

 「クスクス・・・」

 

 「しょんな〜・・・」

 「わ――い・・・」

 「もうヤメテヨ――・・・」

 「ア〜レ〜・・・」

 「う―わ―・・・」

 「「「ガチガチガチ・・・」」」

 

 「クスクスクスクス・・・」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 綾波司令   第9話「レイ日和」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

レイ「・・・・・・・ハッ。」

チュンチュンチュン・・・

レイ「なんだか、とても気持ちのイイ朝・・・」

 

レイの1日は、パイプフレームのベッドの上で始まる。

カーテンの隙間から射し込む朝の光が、スマートな白い身体をノックしている。

ちょっと寝乱れた水色の髪とパジャマ代わりのワイシャツ。

ムクリッと起き上がると、首を回して“自分の部屋”の中を確認。

 

  コンクリートの壁・・・

  白黒千鳥模様の床・・・

  毎日水を入れ替えているビーカー・・・

  袋からはみ出す錠剤・・・

  ベッドの彼女を見つめるキャスター椅子・・・

 

いつも通りの光景に、心が落ち着く。

そして、壁際のゴミ袋からのぞくインスタント麺のカップに、少しだけ心がときめく。

レイ(おいしかった、アレ)

 

レイの通学の準備は、バスルームから始まる。

シャーーーーーーーーーーーー・・・・・

少し熱めのシャワーを浴び続けるコト、約10分。

それは、低血圧気味の身体が目覚めるのに必要な時間。

透き通るように白い肌が、うっすらとした桜色になるまでの時間。

レイ(おフロ、好き)

 

20畳敷(!)のリビングルーム・・・壁一面分のアルミサッシ・・・光溢れる空間。

手にしたのは白い下着、それに黒のソックス。ハンガーからは第壱中学の制服。

スタンドアローンの化粧鏡の前で、襟元のリボンを結び、指先で髪を・・・サッサッ!

・・・・・・チョイッ

レイ(これが私・・・碇君の目に映っている私の姿)

・・・・・ブラシ、ブラシ・・

 

レイ(今日の朝ご飯は・・・)

カチャリ――

彼女が開けたのは、この間シンジとアスカが座っていた椅子の背後にある壁面の『隠し扉』。

手を入れて取り出したのは、『ザッハトルテ 玉露風味』。

ファンクラブからの贈り物。ちょっぴりキワモノ。

キッチンで淹れた紅茶は、ダージリン。

これも、ファンクラブからの贈り物。こっちは本物。

毎朝違う高級菓子。とても食べ切れない。そこで―――

レイ(残った分は、副司令へお土産)

 

それから、トイレへ・・・・・

レイ「どうしてついてくるの?」

 

<ここから文体が変わります。綾波レイも『綾波司令』へと華麗に変身!・・・のハズですが?>

 

そろそろ、学校へ行く時間・・・・

レイ「!!」

どうしたのでしょう? 綾波司令の顔色が変わりました。

レイ「・・・・・・・・」

いえ、すぐに落ち着きを取り戻しました。何か考えているようです。

あっ、制服のポケットから携帯電話を取り出しました。

Pi・・・

レイ「・・・・私・・・・ええ・・・・そう。」

自分からほとんど喋らない所が、いかにも『司令』です。カッコイ〜〜イ!

・・・ガラッ

あれっ?そっちは玄関ではありませんよ?そこは、ベランダ・・・

通学鞄と靴を持ってベランダに出た綾波司令が、お空を眺めています。

何が来るんでしょう?

Baffuunn!

VTOLがベランダへ横付けにされました!

綾波司令が通学鞄を片手に、エッチラオッチラ、タラップを登っていきます。

Baffuunn!

ネルフ司令長官専用のVTOLは、瞬く内に、点になりました。

 

キーン、コーン、カーン、コーン

レイ「・・・そこでいいわ。」

Baffuunn!

とんでもない騒音と共に、VTOLは学校の屋上めがけて急降下します。

「なんだ、なんだ?」

生徒たちが教室の窓から顔を出して、周りを見回しています。

「わ――っ!」

みんな、自分達の頭上に向かって急速接近する巨大な飛行物体に気がついたようです。

一斉に生徒たちの首が教室の中へ引っ込められました。

Baffuunn!

屋上ぎりぎりでホバリングする専用機から、ストンッと降り立った綾波司令は、タッ、タッ、タッ・・・と

軽やかに階段を駆け下ります。―――― 2−Aの教室が見えてきました。

ガラッ!

レイ「セーフ。」

教師「綾波、靴を履き替えてきなさい。」

レイ「・・・・・・・」

教室の中では、弐号機パイロットが『バ〜〜カッ』と口を動かしながら、“アッカンベー”をしています。

その隣では、碇君が複雑な表情を浮かべながら『ヤ、ヤア・・』と小さく片手を振っています。綾波司

令は、なんだかちょっぴり悲しくなりました。『綾波も思い切ったコトするもんやナァ〜』という関西弁の

声を背中にしながら廊下へ出ると、もう誰〜もいません。

レイ(なぜ気がつかなかったの・・・)

トボトボトボ

と、そこへ・・・

シンジ「綾波・・・」

レイ「!・・・・碇君?」

碇君が、いつのまにか綾波司令の隣に並んで歩いていました。

シンジ「宿題・・・忘れちゃってさ。ハハ・・・、廊下に立つついでに歩いて来ちゃった。」

ちょっとバツが悪そうに、頭をかいています。

『本当かしら?』と、綾波司令は思いました。でも、恥ずかしそうに笑っている碇君の顔を見ていると、

さっきまでの悲しい気持ちがウソのようになくなっていきます。もう、碇君が本当に宿題を忘れたのか

なんて、どっちでも構いません。ベタな展開も全然まったく気になりません。

レイ「私・・・・」

シンジ「えっ?」

レイ「私してあるから・・・」

シンジ「・・・・・・・」

レイ「後で・・・見せてあげるわ。」

その途端、真っ白な頬が勝手にピンク色に染まってしまいました。

レイ(血圧上昇。脈拍毎秒2.3・・・・私、どうしてしまったの?)

彼女には、どう処置をしたら良いのか分かりません。

綾波司令は、廊下を見つめたまま、ひたすら歩き続けるのでした。

シンジ(こ・・・こうなったら、本当に写させてもらうしかないな・・・)

すでに宿題を済ませてある自分のディスクをトウジのディスクと取り替える算段を碇君が始めましたが、

それは、彼女には分かりません。

レイ(血圧・・・さらに上昇。脈拍、毎秒3.0・・・)

 

キーン、コーン、カーン、コーン

学校が終わりました。これから綾波司令は、碇君、弐号機パイロットと一緒に、本部へ出勤です。

なんだか、今朝の一件で、弐号機パイロットが碇君をイジメているようです。

アスカ「シンジ!アンタ、ファーストの前だからってカッコつけすぎなのよっ!」

シンジ「べつにカッコなんかつけていないよ!」

アスカ「じゃ、なんでやってある宿題を『やってない』なんてウソついたのよ?!」

シンジ「ほ、本当に忘れたんだよっ!」

碇君が、チラッと綾波司令の方を見ています。

一瞬、二人の目が合いました。

アスカ「アタシ、知ってんのよ!アンタ、昨夜遅くまで起きて宿題してたじゃない?」

シンジ「えっ!・・・アスカ、起きてたの?」

アスカ「あーだ、こーだブツブツ言いながら起きてられたんじゃ、寝られないわよ!

    ・・・・・少しは、自分の身体を大事にしなさいよね。」

シンジ「アスカ・・・心配してくれてるの?」

アスカ「バ、バカ言わないでよっ!!なんでアタシが、バカシンジのことを心配しなくちゃいけないのよ!」

弐号機パイロットが顔を赤らめてソッポを向きました。

気のせいか碇君が優しい眼差しで弐号機パイロットを見ています。

レイ(なぜ、そんな目で彼女を見つめるの?・・・宿題を忘れたフリは、私のためじゃなかったの?)

―――すると、

弐号機パイロットが、クルリッと綾波司令の方を向きました。碇君に見て欲しいのに・・・超能力者でしょうか?

アスカ「ファーストも、バッカじゃないの!?」

レイ「何が。」

綾波司令は戦闘態勢を整えました。

アスカ「どこの世界に、学校へVTOLで通学する中学生がいるのよ!」

レイ「うらやましいの?」

弐号機パイロットが、口をパクパクさせて綾波司令を見つめています。

綾波司令は、ちょっと彼女をからかってみたくなりました。

アスカ「ア、ア、アンタには、『常識』ってもんがないの??」

レイ「アレは、司令長官専用機。何の問題も無いわ。」

アスカ「だから、そういう問題じゃなくてぇ!」

レイ「・・・・・・(平〜気な顔)」

弐号機パイロットが頭をかきむしっています。

そろそろ許してあげましょうか。

アスカ「と、とにかく!これから学校へVTOLなんかで来ちゃダメよっ!!イイ!?」

レイ「・・・・・・・」

弐号機パイロットの目つきは真剣です。面白がっていた胸がチクリと痛みました。

それに、碇君もさっきから少し困ったような顔でこっちを見ています。

レイ「・・・分かったわ。」

弐号機パイロットが、あからさまに『疲れたっっ』というポーズを取っています。

ゴメンナサイ・・・心配してくれてるのね。

綾波司令は心の中で彼女に謝りました。

碇君は、ホッとした表情を浮かべてニッコリと笑っています。

レイ(でも・・・・・譲れないわ)

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 Commander Rei Episode:09 “BE A COMMANDER”

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここから、後編が始まります。

 

本部へ着くと、二人は待機室へ。零号機がまだ完成していない綾波司令は、長官室へ行って、学校の時間

代わりに仕事をしてくれている冬月副司令と交替です。

冬月「おぉ、レイ君か。学校はどうだったかね?」

先日無理やり退院させられた副司令は、彼女に突つかれて爆睡していた顔を上げました。

レイ「問題無かったわ。・・・・(ゴソゴソ)・・・ハイ、お土産。」

冬月「いつもスマンな・・・。ほぉ、『チョコレートケーキ』か。みんなも喜ぶだろう。」

そうです。綾波司令が『お土産』に持ってくる食べ残しは、巡り巡って、副司令から発令所の皆さんに配られて

いるのでした。葛城三佐も、赤木博士も、オペレーターの皆さんも、みんなニコニコして『お茶の時間』を満喫

しています。今日は、随分気温が高かったようですが・・・・そんなことを気にしていては、ネルフの仕事は務ま

りませんよね。

 

冬月副司令が第1発令所へ引き上げると、綾波司令は第壱中学の制服から長官服へ着替えです。

ダブダブの黒い服を着ると、いつものコトながら少し自分がエラくなったような気分・・・

そうです。この服を着てみたいがために、彼女は碇司令を追い出してネルフ司令長官に就任したのでした。

カッ・・・コッ

シネマスクリーンのような窓際に立つ彼女の足下には、広大なジオフロントが広がっています。

レイ「クス・・・快感。」

 

プシュッ・・・

誰かが長官室に入ってきたみたいです。

振り返ると、書類を抱えた名も無い職員が立っています。

レイ「何。」

職員「あの・・・今になってアガってきた書類があるものですから、決済のハンコをいただきたいのですが?」

レイ「?」

2015年になっても、管理職の必須アイテム、ハンコは残存―――というより、この後の展開に必要なよう

です・・・先が読めてますが、お許し下さい―――んで、いつもは綾波司令の通学中に冬月副司令が押して

くれているソレを、彼女は今まで使うことが無かったのでした。

『レイ君め、雑務はみんなワシに押しつけおって』

これは、通勤電車の中で副司令が赤木博士にこぼしたグチだそうです。

職員「あの・・・ハンコを。」

レイ「ハンコ?」

そうです。書類一切を副司令にお任せしていた彼女は、『ハンコ』というものの存在さえ知らなかったのです。

職員「ハンコがなければ、拇印でも・・・」

レイ「ボイン・・・」

綾波司令が自分の胸に目を落して、悲しそうな顔をしました。

職員「いや、そうじゃなくて、あの・・・」

もはや職員の声は綾波司令には届きません。彼女は絶望的な顔を職員に向けました。

職員「し、失礼します!!」

風のように、名も無い気の毒な職員は長官室を飛び出していきました。

・・・・・・・・・・・・

プシュッ

ミサト「レイ、入るわよ?・・・・・・・・なにしてるのぉ!!??」

長官室に入ってきた葛城三佐が、大きな声を上げて、ズサッと一歩引きました。

レイ「胸・・・揉むと大きくなるモノ。」

どこでそんな知識を仕入れたのでしょう?・・・いや、それより、こんなシーンが許されるのでしょうか?

ミサト「早くしまいなさい!」

なぜか部下の葛城三佐に、コンコンとお説教された綾波司令です。

 

 

長官室で一人でいるのにアキた綾波司令は、発令所へ移動します。

発令所では、職員の皆さんが忙しそうに働いていま・・・・・・せんねぇ。今日はヒマなのでしょうか?

綾波司令が長官席から眺めていると、みんな好き勝手なことをやっています。

 レイ(あれは、日向ニ尉。・・・モニターを使ってTVゲームをしている)

 レイ(あれは、青葉ニ尉。・・・楽器を演奏するフリをしている)

 レイ(あれは、伊吹ニ尉。・・・お菓子作りの本を読んでいる)

冬月副司令は、彼女の後ろで将棋のお勉強。葛城三佐と赤木博士の姿が見えないのは、赤木博士の

部屋で、ダベっているからに違いありません。碇君と弐号機パイロットは、先に帰ってしまったようです。

 レイ(何も起こらない・・・・・・退屈)

“ゲンドウ”でもやってくれば、司令としての見せ場があるのですが・・・

 レイ(・・・・・・・・)

おやっ?彼女のカワイイ目がちょっと細くなりました。これは、何か良くないことを思いついたサインです。

運悪く、葛城三佐と赤木博士も戻ってきました。

 レイ「葛城三佐・・・オシリの所が破れているわ。」

滅多な発言をする綾波司令ではありません。葛城三佐は飛び上がりました。

 ミサト「えっ!ヤダッ!!ちょっと、日向君、見ないでよ!」

スカートのオシリを押さえ、無実の罪を他人に着せながら、葛城三佐は慌てて発令所から出て行きました。

 レイ(おもしろい・・・)

レイちゃん、しっかり!イタズラは、さっきコリたのではなかったのですか?

それに、あなたはネルフの司令長官なんですよ!

 レイ「日向ニ尉・・・さっき本部の前にアナタのファンだという女の人が来ていたわ。」

・・・・聞いていませんね。

 日向「うそっ?!そ・・・そんな、こ、困るなぁ〜〜〜。」

言葉とは裏腹に、ニヤついた顔の日向ニ尉はそわそわと出て行きました。

葛城三佐一筋ではなかったのですか?

 レイ「青葉ニ尉・・・楽器店の人が請求書を持って待ってたわ。」

 青葉「ほっ、本当っスかぁー!?」

青葉ニ尉が頭を抱えながら出て行きます。

 レイ「赤木博士・・・猫が書き置きを残して家出したそうよ。」

 リツコ「大変!おばあちゃんは何をしていたのかしら?!」

血相を変えて赤木博士が駆け出して行きます。

 レイ「伊吹二尉・・・食堂のデザートのメニューが変わったみたい。」

 伊吹「本当ですか!ちょっと見てこよう〜♪」

ルンルンッと胸の前で腕を振りながら、伊吹ニ尉がスキップをして出て行きます。

いいのですか、綾波司令?後が怖いですよ。

 レイ(いい・・・おもしろいから)

それを言うなら、『仕事だから』でしょ?

 レイ「作者の代わりは、いつでもいるもの。」

・・・・いえ、なんでもありません。

―――やがて、ドヤドヤと一行が戻ってきました。

 ミサト「チョッット、レイ!」 リツコ「レイは居る!?」

 日向「司令ぇ〜!」 青葉「司令ー!」 伊吹「司令!」

―――しかし、

 一同「「「「「・・・・・・あっ・・・・・・」」」」」

すでに長官席はカラッポになっていたのでした。

 冬月(ヤレヤレ・・・)

 

発令所を無事脱出した綾波司令は、エレベーターに乗ってドグマを降りて行きます。

チン・・・・

意外と明るいそこは、まるで巨大な工場のよう。

ガコーン・・・ガコーン・・・

零号機の建造がフルピッチで進められています。

金属製の足場から、真近かに青い機体を眺める綾波司令の目は輝いています。

作業員の皆さんが、視察に訪れた綾波司令を見上げて手を振り、何か叫んでいます。

レイ(そう・・・みんな、私をみつめているのね)

にこっ・・・

綾波司令は、現場の皆さんに笑顔の大サービスを―――

ごんっ

「大変だぁー、司令の上にコアが落ちたぞ!」 

「誰だ、あんな所に足場を残しといたヤツは!?」 

「フツー、上らんだろ?」

ATフィールドがなければ、死ぬトコロでした。だけど、今日めいっぱいイタズラを楽しんだ彼女は、

気の緩みから、一瞬展開が遅れてしまったのでした。

レイ(どうして、私の回りをヒヨコが飛んでいるの?)

その後、運び込まれた病室で、綾波司令は、葛城三佐以下駆けつけた皆さんから延々とお小言を

頂戴したのでした。

 

<綾波司令のマンション> ・・・・そして、『綾波司令』は綾波レイに戻ります。

レイ「今日は、疲れたわ・・・」

ドサリッと、“自分の部屋”のベッドに腰を下ろす―20:30―。

レイ「お腹スイた・・・」

いそいそと冷蔵庫に掛けたスーパーの袋から『新ニンニクラーメン生味噌仕立て』のカップを取り出す。

チンチン湧いたやかんからトポトポ・・とお湯を注ぐと、小さな部屋の中にささやかな幸せの香りが広がった。

ズズ・・・ ズズズ・・・

レイ「おいしい、コレ。」

カップ一杯、こんなに喜んでもらえるなら、製麺会社の人も本望だろう。

最後の汁までチュッと飲み干すと、今日の晩ご飯はおしまい。

お風呂から出て、半分開けた窓から夜空を眺める。

当然、満月・・・あれ?

レイ(お約束はどうなったの)

彼女が睨むと、ポンッと月が丸くなった。

レイ(私は、主役)

 

レイ「おやすみ・・・碇君

葛城三佐の家に泊まった夜に、本当は言いたかった言葉。

それから、毎晩ささやいている言葉。

目元まで引き上げたシーツの下で、自分でもびっくりするくらい頬が熱くなっている。

それじゃ、もう一度。

レイ「おやすみ、碇君・・・・・・ス〜、ス〜」

                

     「私は、特務機関ネルフ最高司令長官綾波レイ。今日はみんなにとてもイイものをアゲル・・・」

     「葛城三佐・・・・はい。」

     「こ、これは!ヱビちゅの商品券!(き、期限切れてるケド・・・)・・・あ、ありがと、レイ。」

     「どういたしまして。・・・・赤木博士。」

     「まぁ!『○か○かレイちゃん』育成ゲーム!やってみたかったのよ〜(本当はホンモノで)」

     「もう、してるでしょ。・・・副司令。」

     「おおっ!」

     「伊吹二尉、日向ニ尉、青葉ニ尉。」

     「「「ラッキー!」」」

     「そして・・・碇君。」

     「えっ、僕にもくれるの?」

     「ええ。じっとしていて・・・(Kiss)」 

     「綾波・・・(Kiss)」

     「チョット待ったぁ――っ!!」

     「どうして夢の中にまで入ってきて邪魔をするの?」

     「これが放っておけますかってのっ!離れなさいよっ!!(ギュ〜)そ・れ・に、アタシへのプレゼントは

      ド・コ・に・あ・る・の・よぉ〜っ?!」

     「イ、イタイ・・・プレゼントなら、そこに・・・」

     「ん?この箱ネ・・・(かぱっ)――ハッピ・バ〜スデ〜・トゥ・ユ〜♪ハッピ・バ〜スデ〜・トゥ・ユ〜♪――

      ファ、ファースト・・・って、誕生日なんかとうに過ぎてんじゃん・・・・・あ、コラッ!(ムンズッ)」

     「(・・Kiss)イタイ!イタイ!・・・お願いだから手を離して!」

     「綾波・・・・まだ?」

         ・・・

レイ「う〜〜〜ん・・・う〜〜〜ん。」

           

翌朝・・・。

シンジ「どうしたの、綾波?頭にバンソウコウなんか貼って?それに、なんだか寝不足みたいだね・・・大丈夫?」

アスカ「ど――せ、また長官服のズボン踏んづけてコロんだんでしょっ。ホント、ドジなんだから。」

レイ 「・・・・・・(スタスタスタ)」

レイ (私だって、反省するもの・・・)

 

 

『綾波司令』 第9話「レイ日和」 終

 

 

次回予告

新駿河湾から上陸したゲンドウにより、初号機と弐号機が撃破された!

迫り来る危機を前に、綾波司令とミサトは起死回生の秘策を考案する。

再び特訓が始まり、そして、戦いのゴングが鳴った!

新ユニゾンはゲンドウのコアを貫けるのか!?

次回、『綾波司令』 第10話 「瞬間、ワザを重ねて」

ヨロシクねン!


マナ:シンジ、優しいわね。

アスカ:ったく。ファーストのことなんかほっときゃいいのに。

マナ:そんなこと言いながら、心配してあげてるじゃない。

アスカ:してないわよっ。

マナ:ま、VTOLはちょっとやり過ぎかもねぇ。

アスカ:ファーストはもうちょっと教育が必要ねっ。

マナ:せめて、拇印くらいはわかるようにしなくちゃねぇ。

アスカ:あの職員も、変なことファーストに言ってるから、名前も貰えないのよっ。

マナ:変なこと?

アスカ:ハンコが無かったら、なんでボインになるのよっ。えっちねぇっ。

マナ:・・・あなた、まさか。

アスカ:アンタも気つけなさいよっ。

マナ:・・・・・・。先にあなたから教育した方がいいわね。(ーー;
作者"k100"様へのメール/小説の感想はこちら。
k100@poem.ocn.ne.jp

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