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 綾波司令   第12話「復活、そして・・・」

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ズガカァ――ンッ!!!・・・・・・・・・グォンッ!グォンッ!グォンッ!

 

・・・バガヵ――ンッ!!・・・・・・キィ―ンッ!・・・ドムッ!ドムッ!

 

日向「ダメです!やはり、我々の通常兵器では“G”にダメージを与えられません!!」

ミサト「クッ!・・・・」

 

ミサト(分かっていたことだわ・・・・・だけど)

 

グアァァンッ!!

 

日向「ワッ!」

ミサト「・・・ぐっ!」

 

青葉『使徒G、前方500mまで接近!退避して下さい!!』

 

ミサト「・・・・後退よっ、日向君!」

 

爆煙の中、ミサトと日向を載せた指揮車が全速で後退する。

砲弾とミサイルによって抉られ、なぎ倒された大地と森を越えて、巨大化した“ゲンドウが”姿を現した。

戦自の攻撃用VTOL中隊、MBT大隊は共に弾薬を使い果たし、破損した機体や車両を残して後退している。

最後の綱ともいうべきネルフの迎撃システムも、

『復旧率・・・・0.22%』

という、“使徒G”発生以来、何の回復も示さない数字の前には、意味を持たなかった。

 

シンジ「くそっ!ダメだ!」

アスカ「何で動かないのよっ!一大事だっていうのに!!」

 

神経系統に依然異常が続いている初号機と弐号機は、二人の懸命の努力にも関わらず、シンクロ率が

起動指数にわずかに届かないため、目下稼動不能。

 

   ミサト「あたしが前線で指揮を執るわ!日向君、ありったけの使用可能な武器を

       強羅絶対防衛線へ移動させて!」

 

日向と共に自ら指揮車に乗り込んだ葛城ミサトは、可能な限りの通常兵器による集中攻撃を実施したが、

使徒を上回るATフィールドを発生させる“ゲンドウ”には、たとえそれが最先端の科学技術を誇るネルフ

の兵器であったとしても、やはり無力だった。

 

日向「発射!」

 

最後の有線誘導ミサイルが2本、ゲンドウへ向けて飛翔する。

 

ズバゥッ・・・! ズバゥッ・・・!

 

前と後ろ、ニ方向から同時に目標へ突入したエンピツ状の弾体は、ともにゲンドウの肉体に触れることなく、

空中で爆発、飛散した。

 

日向「・・・葛城さん!」

ミサト「もはや・・・・これまで、ね。」

 

リツコ『なにバカなことを言ってるの?!早く本部まで帰還しなさい、ミサト!』

 

傾いた車体の中で、全ての操作を終えた日向と、脱落しかかったサイドパネルを片肘で支えていたミサトが

悲壮な状況分析をしている所へ、リツコの通信が割り込んできた。

 

ミサト「この地点で、N2兵器は使用不能・・・。敵を侮って、懐まで呼び込んでしまったあたしの判断ミスよ。

    こんな役立たずの作戦課長の心配をするヒマがあったら、シンジ君たちの方をお願いするわ。」

 

マイクに向かうミサトの声は、話の内容に反して、いつも通り毅然としていた。

 

リツコ『ミサト!・・・』

伊吹『葛城さん!?』

 

パチンッ・・・ ミサトの指が送信スイッチをOFFにする。

 

ミサト「ゴメンね、日向君。こんなことになっちゃって・・・」

日向「構いませんよ・・・葛城さん。」

 

ズズ〜ン ・・・ ズズ〜ン! ・・・・ ズズ〜ン!!

 

ミサト・日向「「・・・来た!」」

 

ズォォオオ・・・・  ゲンドウの巨大な足が、大破した指揮車に照りつける日光を束の間遮った。

 

ミサト・日向((やられるっ!!))

 

バギャァ――ンッ!!

 

ミサト・日向「「 !!! 」」

 

甲高い炸裂音と共に―――――ゲンドウが、後方に吹き飛んだ。

 

シンジ『(ザザッ)・・・ミサトさん、大丈夫ですか!?』

 

ミサト「シンジ君?!」

 

横倒しになった指揮車の窓から上体を乗り出したミサトの目に、第3新東京市の兵装ビルに寄かかって

ライフルを構えている初号機の姿が小さく映った。

 

ミサト「動・・・けるの?」

 

急いで取り出した双眼鏡を紫の機体へ向ける。

しかし、焦点の合わさった視界の中で――――ゲンドウへ向けているハズの銃口が不規則に揺れていた・・・

 

伊吹「初号機、シンクロ率低下!!絶対境界線を割り込みます!」

リツコ「・・・・やはり、無理か。」

 

ガウゥゥ・・・ン

 

青葉「初号機、活動を停止しました!」

 

ズ・・・ズオオォォ  肩口からうっすらと煙を上げて、ゲンドウが立ち上がった。

 

日向「やはり、あの距離からの攻撃じゃ致命傷を与えられないんだ・・・」

ミサトに続いて指揮車から脱出した日向が、ひびの入ったレンズを持ち上げながら呟く。

 

ゲンドウは、もはや足下の二人には目もくれず、兵装ビルに寄かかったまま活動を停止している初号機へ

向かって進み始めた。一歩、また一歩、ゲンドウが足を踏み出すたびに、初号機との距離が縮まっていく。

ゲンドウが、初号機へあと数百メートルまで近づいたその時・・・

 

バシュッ――ガコンッ!!

 

ゲンドウの目前に、エヴァ弐号機が射出された!

 

アスカ「行かせないわよっ!!!」

 

リフト・オフした赤い機体が、身を屈めてゲンドウにタックルを敢行する。

両足を取り、肩で相手の腰を押す――――ゲンドウの巨体が、仰向けに、ビルの谷間へと倒れ込んだ。

 

ズズゥゥ〜〜ンンッッ!!

 

アスカ「もらったぁ!」

 

シャコンッ!

 

弐号機が、ゲンドウの“コア”―サングラス―目掛けてプログナイフを振り上げ・・・・・・

 

ガキュゥゥ・・・ン

 

アスカ「うそっ!?」

 

青葉「弐号機も活動を停止しました!!」

伊吹「アスカのシンクロ率が・・・!」

リツコ「アスカ!脱出してっ!!」

 

アスカ「ちょっと待って!もう少しなんだから・・・・もう一度シンクロを・・キャアァァ!!」

 

ゲンドウのパンチが停止した弐号機の顔面を直撃した。兵装ビルよりも高く飛ばされた真紅の機体が、

一棟のビルを崩しながらめり込むようにして腰を落とす。

 

リツコ「アスカ!応答しなさい!・・・アスカ!!」

 

ズルッ・・・・・ズルッ・・・・・ズルッ

 

弐号機の首をワシづかみしたゲンドウが、メインストリート上を、悠然と次の目標へ向けて歩を進める。

 

シンジ「くそっ!・・・くそぉ!!」

 

ガキン・・・―――ガキン・・・

 

弐号機をひきずり、真正面から自分に向けて接近する“父”を見据え、シンジが歯軋りする。

が、初号機―――――反応なし。

 

シンジ「あうっ!」

 

もう一方の腕で、ゲンドウが初号機の首をつかみ宙へ持ち上げた。

 

シンジ「ぐ・・・・・くっ、アスカ!返事をしてよ!アスカ!!」

アスカ「(・・・・・・・・・)」

 

ミサト「シンジ君!!」

リツコ「アスカ!!」

 

期せずして、離れた場所にいる二人が紫と真紅の機体を見上げ、悲痛な叫びを上げる。

 

 

コッ、コッ、コッ―――

 

「・・・赤木博士。」

 

不意に背後から掛けられた声に驚いて振り向いたリツコは、声の主の姿を見て、さらに驚いた。

 

リツコ「レイ!!・・・・その恰好は!」

 

長官服の代わりに、純白のプラグスーツがファーストチルドレンの身体を浮き上がらせている。

 

レイ「私が出るわ。零号機は、完成しているもの。」

リツコ「待って!!起動試験も済んではいないのよ!」

 

二人の言葉は、それぞれに正しかった。

そう。零号機は、確かに完成していたのだ――――――カタチの上だけ、ならば・・・

 

レイ「・・・他に手段はないわ。」

 

決意を秘めた紅い瞳に、正面大スクリーンの映像が映る。

 

  ―――“ゲンドウ”に持ち上げられたニ体のエヴァンゲリオン

  ―――気を失ったままのアスカ

  ―――必死で起動を試み続けるシンジ

 

リツコは歯痒かった。

たしかに、レイの言う通り、もはや零号機を使用するより他に方法はないだろう。

しかし、「ぶっつけ本番」で実戦へ投入するには、エヴァは余りにデリケートな“兵器”であり過ぎた・・・

 

リツコ「レイ・・・」

赤木博士の目に浮かぶ逡巡は、彼女の良心の表れだった。

レイは、赤木博士を無視することで、大切なものを守ろうとした。

レイ「副司令、後をお願い。」

 

冬月「う・・・む。」

 

コッ、コッ、コッ ―――― プシュッ

 

リツコ「副司令!」

冬月「止めてもムダだ・・・赤木博士。それに、今は、レイ君の零号機に賭けるしかあるまい。」

リツコ「しかし!・・・・・」

冬月は、両手を後ろで組み、祈るような目を正面スクリーンへと向けた。

冬月(ユイ君・・・・彼女を見守ってやってくれ)

 

 

伊吹「LCL注水!」

 

足下から放出されるオレンジ色の液体が、エントリープラグとレイの肺を満たしていく。

 

レイ「綾波レイ、零号機とのシンクロを開始します。」

 

バシンッ・・・・・・・・キュァァァ・・・ンンン・・・・・・・・ヴゥゥゥン

 

伊吹「ハーモニクス、全て正常!絶対境界線を突破しますっ!」

 

リツコ「・・・いけるっ!」

 

伊吹「零号機、発進位置に固定!」

 

ガシンッ―――!

 

レイ「エヴァ零号機、発進。」

 

バシュッ―――・・・!!

 

 

シンジ「・・・・・・・ダメだ、動かないっ!!!」

 

左右に高々と差し上げたゲンドウの両腕の先から、初号機と弐号機が吊り下がっていた。

 

ミサト「シンジ君!アスカ!」

 

息を切らして状況を見渡せるビルの屋上へ上ったミサトの目の前で、ゲンドウが二機のエヴァを、

今まさに再起不能のスクラップへ変えようとしていた。

 

ミサト「!!」

 

声にならぬ叫びをミサトが発しようとしたその瞬間、ミサトの視線を、青い影が遮った。

 

ミサト「え!!・・・これは」

シンジ「ゼ・・・零号、機?・・・・・綾波!?」

 

兵装ビルの間に立つ、“あの日”以来、決して忘れたことの無いシルエット。

それは、かつての零号機がそうであったように、深い青と透明な白に彩られたシングル・アイの機体だった。

今、日光の洗礼を受け、特殊メタリックのボディが静かに輝いている。

 

レイ「・・・行くわ。」

 

ダゥンッ――――!!

 

蒼い風となって目標へ向かって突き進んだ零号機は、にやりと薄ら笑いを浮かべたゲンドウの、その表情が

余裕から驚愕へ変わるより早く、両手が塞がった相手のサングラスへ――――決定的な一撃を放っていた。

 

ビキキッッ・・・・グワワァァァンッ!!!

 

やがて、ビル群を覆い尽くす黒煙の影から、二機のエヴァに片方ずつ肩を貸して深青色の機体が現れた。

 

冬月「・・・どうやら、思い過ごしだったようだな。」

リツコ「・・・・・(ホッ)」

正面スクリーンを見上げ、安堵の溜息を漏らす発令所の人々。

 

ミサト「ゲホッ、ゲホッ!!・・・・なんだか、レイ、スゴかったわね。」

日向「イツツ・・・!と、とりあえず、ピンチは脱しましたね。」

爆風のアオリを受けて、むせ返りながらも表情を緩める屋上の二人。

 

シンジ「う・・・・・・はっ!あやな」

爆発の衝撃から立ち直ったシンジの前で、モニターがレイの顔を映し出す。

レイ『碇君、大丈夫?』

シンジ「う、うん。綾波がやっつけたんだね?・・・零号機、間に合ったんだ。」

レイ『ええ。怪我はないの?』

シンジ「・・・うん、ちょっとぶつけたみたいだケド、たいしたことないよ。綾波のおかげだね。」

レイ『・・・・そ、そう?』

そこへ加わるもう一つの顔。

アスカ『オホンッ!アタシもいるんだケドぉ〜』

シンジ「アスカ!無事だったの?」

レイ『負傷してない?』

アスカ『えっ?・・・ま、まあね。バカシンジとは違うわよっ。・・・それよか、え・・と・・・ファ、ファースト』

レイ『何?』

アスカ『い、一応、助けてもらったお礼を言っておくわ。・・・・・ア、アリガト。』

シンジ「アスカ・・・?」

レイ『・・・・・・(クスッ)』

アスカ『チョット!どーしてそこで笑うのよっ!?優等生!!アタシはねぇ・・!』

レイ『・・・笑ってないわ(キリッ)』

シンジ(綾波、なんだか今日はよくしゃべるな。やっぱり、零号機に乗れてうれしいのか・・・)

シンジ「綾波・・・・・・なっ!!」

 

―――ゴゴゴゴッ!!!

 

レイ「 !! 」

アスカ「ファースト!後ろ!!」

 

青葉「“G”爆発地点にエネルギー反応!!」

冬月「なに!」

 

日向「葛城さん!あれを!!」

ミサト「ゲゲッ!!」

 

さながら不死身の怪物のごとく瓦礫の底から立ち上がったゲンドウは・・・・・片方のレンズが残ったサングラス

のズレを直すと、ゆっくりと三機のエヴァに迫ってきた。

 

シンジ「綾波、僕達のことはいいから!」

アスカ「そうよ!早くアイツにとどめをさすのよ!!」

 

こくりっと肯いたレイは、シンジとアスカの機体をそっと後ろに横たえると、迫りくるゲンドウと対峙した。

静かに身構える零号機―――

無造作に、しかし、一分の隙もなく接近するゲンドウ―――

緊張が臨界点に達しようとした、その一瞬、レイの機体がスッっと間合いに入り込んだ・・・

 

ミサト「いける!」

 

ガキュゥゥン・・・

 

日向「どうしたんだ!?」

 

レイ「 ! 」

 

青葉「ゼ、零号機!活動停止ーっ!!」

伊吹「ハーモニクスに異常発生!・・・トレースできません!!」

青葉「パイロットとの交信途絶!モニター停止!!」

冬月「なんだと!」

リツコ「!」

 

“ゲンドウ”を目前にして、彫像のように停止した零号機・・・

そこへ、遠慮を知らぬ相手の腕がゆっくりと伸びた。

 

ダダ――ン・・・

 

第3新東京市のアスファルトに巨大な亀裂を作って、蒼色の機体が転倒した。

 

シンジ「綾波ィ!!」

アスカ「ファーストーっ!」

 

目前で繰り広げられようとしている殺戮を、止める術を人々は持たなかった。

 

発令所大スクリーンを前に、白衣のE計画責任者は、拳を握り締め、唇を血が滲むまで噛み締めながら、

己の無力さに身を震わせていた。

 

グワッ・・・・・

 

仰向けに倒れた零号機の上で、馬乗りになった“ゲンドウ”が高々と片腕を振り上げた。

 

ミサト「レ――――イッ!!」

 

葛城三佐の叫び声が、沈黙の迎撃都市にこだました・・・・

 

(つづく)

 

『綾波司令』 第12話「復活、そして・・・」 終

 

 

次回予告

突如活動を停止した零号機に、容赦なく“ゲンドウ”が襲いかかる。

打ちのめされ、破壊されてゆくプロトタイプ・エヴァ・・・

それは、つかの間の復活だったのか。

第3新東京市に黄昏が迫る―――

次回、『綾波司令』 第13話 「レクイエム」 

ヨロシクねン!


アスカ:なによっ! ファーストがやたらいい役じゃないっ!

レイ:主役だもの。

アスカ:折角、アタシ格好良く登場したのに、すぐ動かなくなるしぃ。

レイ:主役じゃないもの。

アスカ:キーーっ! そういうアンタだって、動かなくなったじゃない。

レイ:大丈夫。

アスカ:なんで、そんなことわかんのよっ!

レイ:主役だもの。

アスカ:ムカーっ! アタシの格好いいシーンっ! 次回絶対あるわよっ!

マヤ:それより・・・前回のわたしのフォローは・・・ないの?
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