「冬月。」

「久しぶりの登場だな、碇。」

「なぜレイの零号機が停止してしまったのだ。シンジと弐号機パイロットは何をしている?」

「無理を言ってはイカン。シンジ君の初号機とアスカ君の弐号機は、一時的なシンクロ率の低下によって、

 現在活動を停止しているのだからな。」

「赤木博士が付いていながらか?」

「リツコ君の責任ではない。EVA二機のトラブルは第10話での作戦が原因だし、復活した零号機は起動

 試験すら済んではおらんのだ。」

「それなら、何故レイを出す?シンジと弐号機パイロットで十分ではないか。」

「だから、出撃した初号機と弐号機は活動停止中だと・・」

「そんなことは問題ではない。」

「無茶苦茶だぞ、碇。」

「レイ・・・」

「碇?」

「シンジや弐号機パイロットの事など、どうでもいい。問題は、レイだ。」  ( 以上、碇ゲンドウ氏の解説でした。)

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 綾波司令   第13話「レイとして」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ガウンッ!!

 

レイ「・・・アウッ!」

 

ガガンッッ!!――― ズシッ!!!

 

レイ「くっ!・・・・・アァッ!!」

 

ミサト「レイ!!」

 

青葉「頭部および胸部装甲板に亀裂発生!このままじゃ・・・」

冬月「通信はまだ回復せんのかっ!」

リツコ「・・・・・・・・・」

伊吹(先輩・・・!)

 

なす術を知らぬ人々の目の前で・・・復活を遂げたばかりの青い機体が、かつてその専属パイロットに

執着した男の姿を持つモノによって、現ネルフ長官もろとも失われようとしていた。

“ゲンドウ”の拳が唸り、叩き付けられるたびに、特殊装甲に覆われた巨体が、大地にめり込み、軋み、

悲鳴を上げた。

 

ズガウンッ!

 

レイ「・・・ううっ!」

 

青葉「依然、零号機活動停止!パイロット、応答ありません!」

伊吹「全回路、機体側からカットされています!・・・一体、どういうコト!?これじゃ、まるで・・・」

 

リツコ「・・・まるで、零号機がレイを閉じ込めているみたい、ね。」

 

リツコが漏らした一言に、発令所の空気が凍りついた。

 

青葉「それじゃ・・・」

伊吹「零号機は自分の意志で・・・・!」

リツコ「レイと心中するつもりかもしれないわ。」

 

シンジ「綾波ィィ!!・・・やめろっ!止めてくれ!父さんっっ!!」

シンジ(くそう・・・・動けっ!動けっっ!!)

 

アスカ「ファーストッ!!」

アスカ(なんでこんな時に・・・・お願いだから応えて!!でないと、ファーストが・・・)

 

光を宿したかと思うとすぐに消える二つと四つの目・・・ピクリとすら動かない巨大な指先―――

二人のチルドレンを乗せた紫と真紅の巨人は、破壊された兵装ビルの傍らで空しく沈黙を続けていた。

 

ガキャアア―――ンッ!!

 

遂に、零号機のシングル・アイが音を立てて砕け散った――――

 

レイ「アッ!!・・・・・ウグッ!」

 

これまでにない巨大な震動がエントリープラグの中のレイを襲う。四肢を突っ張り、全身の骨をバラバラに

砕くかのような激震に耐え続けるレイだったが、肉体の限界はすぐそこまで近づきつつあった。

 

レイ(もう・・・・・もたない)

 

バキャヤヤッ――ツ!

 

レイ「あうっ!!」

 

 

――――― あなた、誰 ―――――

 

 

ダアァァ――ンッ!!

 

レイ「・・・・・うっ!!!」

 

 

――――― あなた、誰なの? ―――――

 

 

レイ「え?・・・・・・(グワンッ!!)つっ!・・・・私?を呼んだ・・・?」

 

 

――――― どうして私に話しかけるの? ―――――

 

 

レイ「・・・・・・・(バキャンッ!)!!・・・・・・・」

 

 

――――― 私は・・・・・・・・・・・・レイ ―――――

 

 

ズガウッッン!!!

 

レイ「!!」

 

 

――――― 私は、レイ・・・・・あなた、誰? ―――――

 

 

レイ「・・・・綾波レイは、私。あなたではないわ・・・」

 

 

――――― いいえ・・・レイは・・・私 ―――――

 

 

レイ「・・・・誰、あなた?」

 

 

――――― 私は、レイ・・・そう教えてもらったもの ―――――

 

 

レイ「・・・・私も、そう教えられたわ。」

 

 

――――― あなたがレイ・・・なら、私は誰?・・・・私がレイなら、あなた・・・・誰?? ―――――

 

 

レイ「・・・・!」

 

 

GYUIIIIIIINN―――!!

 

青葉「零号機!さ、再起動っ!!」

伊吹「そんな・・・これは、暴走!?先輩っ!!」

リツコ「・・・・・!」

 

止めを刺さんと、掌を組み合わせて振り上げた“ゲンドウ”の両手を、下から伸びた零号機の両腕が掴んだ。

そのまま、徐々に上体を起こしてゆく深青色の巨人・・・・・半ば叩き潰された機体から、砕けたレンズがこぼれ、

特殊金属の破片が乾いた音を立てた。

 

日向「ハア、ハアッ!・・・・葛城さん!あれを!!」

ミサト「・・・・!!零号機が、再起動している!・・・・日向君、急いで本部へ戻るわよっ!」

日向「了解!」

 

“ゲンドウ”を押し戻した―レイ―は、片膝を突いて立ち上がり、捉えた相手の両腕を右へ、ついで左へ

大きく振ったかと思うと、その反動を利用して、立ち並ぶ兵装ビル群へ“ゲンドウ”の巨体を投げつけた!

 

ズガガガガッ――――!!!

 

次々と、己の大きさに匹敵する建造物を突き破り、なぎ倒しながら使徒Gの身体が宙を舞う。

 

シンジ(まさか、零号機が・・・綾波!)

アスカ「ホントに・・・・・ファーストが操縦してるの?」

思わず口を衝いて出た呟きは、アスカの気持ちそのまま、かすかな震えを帯びていた。

 

ズズン・・・・・・グググッ

 

横倒しになったビルの下で、なおも活動を続けようと“ゲンドウ”が動き出す。

その眼前に、砂煙を衝いて、蒼いエヴァが現れた。

 

零号機&レイ「「―――あなた、誰・・・・―――」」 

 

“ゲンドウ”『・・・・・・!』

 

“ゲンドウ”の残されたサングラスのレンズが、白く光を放ち始めた――――

 

ミサト「リツコ!!状況は・・・・・・・・!!!」

 

日向と共に発令所へ駆け込んで来たミサトの目前で、正面スクリーンの中、使徒Gが轟音と共に自爆した。

 

GUVOOOOHHHH・・・!!

 

シンジ「綾波っ!!」

アスカ「・・・・!!」

 

閃光が、レイの機体を呑み込んだ。次いで、猛烈な爆風が周辺の兵装ビル群を震わせる。

 

――――やがて・・・・・崩れ落ちたように倒れている零号機の姿を発令所のスクリーンが映し出した。

      アンビリカルケーブルを失い、大破した機体が沈黙している。

 

伊吹「接続回復しましたっ!零号機・・・完全に停止しています。」

青葉「パイロットの生存を確認!意識を失っているだけのようです。」

冬月「回収を急げっ!」

 

 

―― 18:30 発令所 ――

ミサト「・・・・それにしても、どうしてレイの零号機が暴走したの?」

リツコ「たぶん・・・レイがレイを拒否するから。」

ミサト「どういうこと?」

リツコ「コギトエルゴスム・・・我思う、故に我在り・・・レイという存在は一人でいいのよ。」

ミサト「・・・・それじゃ、零号機は!」

リツコ「・・・そう。もう一人の、綾波レイ。」

 

 

――‐同時刻 ネルフ本部施設内 第11番ケージ――

 

バシュゥゥゥ――・・・

 

機体に刻まれた破壊の痕を覆い隠すように、大量の真水が零号機に吹きつけられていた。

 

シンジ「綾波・・・」

壊れた機体を見上げていた水色の髪が振り返った。

 

アスカ「アンタの零号機、なんだか大変なコトになっちゃったわねぇ。」

腰に手を当てたアスカが、横を向いて大破した機体を仰ぎ見た。

 

レイ「零号機は、本日18:00をもって無期限凍結。・・・赤木博士が言ってた。」

 

シンジ「・・・・・・・・」

アスカ「・・・・・・・・」

 

レイ「・・・気にしないで。これは、当然の処置。司令としての私の判断でもあるわ。」

 

そう言うと、長官服姿のレイは、二人に横顔を向けて再び青い機体を眺めやった。

 

シンジ(・・・・無期限、凍結)

アスカ「短い復活だった、というわけね・・・」

 

シンジとアスカの目には、細かな霧状の飛沫がレイと零号機を包み込んでいるように見えていた。

 

 

――――さて、ここからは後日談です。

 

ある日、発令所で、ミサトがリツコに訊ねました。

 

ミサト「ところでさぁ、今回は、『綾波司令』初の2話連続だったし、話の展開も早かったし、あたしは日向君

    と一緒に走りまわってばっかだったし・・・で、気がつかなかったんだケド〜ォ、迎撃システムの復旧

    率が、たったの『0.22%』って、どういうこと?リツコ。」

 

・・・今頃気がついたの、ミサト?

赤木博士は、これまでみんなに隠していた秘密を暴露することにしました。

 

リツコ「それはね・・・・・レイの零号機の建造のために人件費を含むあらゆる予算が最大限投入された

    から、なの。もちろん、その中には迎撃システムの整備費も含まれていたわ。・・・・・というより、

    ほとんどそこから賄ったわね。それと、アナタたちに直接関係するところからも、少々・・・

 

それはそれは、オソロシイ発言でした。

 

真っ先に反応したのは、青葉ニ尉でした。

青葉「じゃ、食堂のタクワンが一切れに減ったのは・・・!」

リツコ「そう。」

 

日向ニ尉が続きます。

日向「じゃ・・・じゃあ、本部で頻繁に『節電』のタメだとか言って停電騒ぎが起きたのも・・・!」

リツコ「そうね。」

 

最後に、葛城三佐が叫びました。

ミサト「あ、あたしの、命よりも大切なアルミ缶―『ビール』―が値上がりしたのも・・・!!」

リツコ「そうそう。」

 

伊吹二尉が、まあっ、と手を口に当てています。

 

リツコ「みんな、綾波司令(と副司令)の命令よ。」

 

あーあ、全部言っちゃった・・・

 

ミサト「そ、そ、それじゃ、今回の大大大大大ピ――ンチッ!!の原因は・・・・」

 

リツコ「それは、勿論、第10話でミサトが立てた無茶な作戦のセイもあるけど、ここまで好き勝手に攻め込ま

    れて、あまつさえ初号機・弐号機のシンクロ機能の回復が遅れたのは、零号機の建造を最優先して、

    自分は毎日楽しく学校へ通っている・・・(チラリ)」

 

レイ(・・・コソッ)

 

ミサト・青葉・日向・伊吹「「「「レイ?!」」」」

 

レイ(スタスタスタスタ・・)

 

冬月(あっ・・・レイ君、私を置いて行かないでくれ!)

 

ミサト・青葉・日向・伊吹「「「「(ぎろっ!!)」」」」

 

冬月「ど、どうしたのかね?・・・みんな」

 

冬月副司令、大大大大大大大・・・ピ――――ンチッ!!!

 

 

『綾波司令』 第13話「レイとして」 終

 

 

次回予告

苦闘の末“ゲンドウ”の撃退に成功したチルドレン達。

しかし、真の恐怖は、まだ始まったばかりだった・・・

シンジとアスカをミサトの新メニューが襲う!

次回、『綾波司令』 第14話 「死に至る料理、それは」

ヨロシクねン!


アスカ:全ての悪の元凶はアンタかーーーーっ!

レイ:・・・・・・こんなオチだったのね。(; ;)

アスカ:アタシ達が苦労した責任、どうしてくれんのよっ!

レイ:苦労。人を成長させるもの。

アスカ:ごまかすなーーっ!

レイ:わからない。たぶん私は・・・

アスカ:じゃかましっ! それでいつも逃げれると思ってんのかぁぁっ!(ドゲシっ!)

レイ:痛い。(・ ;)

アスカ:責任取って。次回、アンタ1人で「死に至る料理」を食べなさいっ!

レイ:うっ・・・。もう私駄目なのね。(TOT)
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