「フ〜〜ン、フン、フン、フフ〜ン♪」  (ガサガサッ・・・バリリッ!ベリッ!ベリッ!ビリッ!)

「ランラ・ラ・ラ〜〜ラ・ラ〜ラ・ラ〜〜♪」  (チャポン、ポチャン、ドボドボドボッ!・・・・グッチャ、グッチャ)

「ええっと、これは・・・? ま、いっか!」  (パパパパパッ!・・・ヘ、ヘクションッ! ポチャンッ!・・・ありゃ?)

「そんでもって、コレは・・・ん〜〜? イイんじゃないの?」  (ギュ〜〜〜ッ)

「で、ラストは、やっぱ女の勘がモノを言うのよネェ〜。」  (ザラザラザラ〜ン♪)

「アトは火にかけて、『愛情』を入れるだけっと・・・チュッ!」  (ガチ・・・ボッ!)

 

―――― Car雑誌を読み耽り、約1時間経過 ――――

 

ミサト「すこ〜しイメージとは違うケド、ま、こんなもんでしょっ・・・シンちゃん、アスカ、お待たせ〜!

    晩ご飯出来たわよー!」

シンジ&アスカ「「は――い。」」

ピッ・・ シンジがTVのリモコンのスイッチをOFFにした。真っ暗になった画面の前で、腕組みをしたままのアスカ。

完璧なユニゾンを誇る二人に、互いの気持ちを確かめ合うための“言葉”なんぞ、一切不要なのである。

シンジ(覚悟は良いね、アスカ?)   アスカ(アンタこそね・・・)

シンジ&アスカ((・・・よし!))

 

今日は、週に一度のミサトの食事当番(晩ご飯)の日。

もともとあってないような日だったのだが、何を思ったのか、一日の訓練が終わって帰る二人に、

ミサト「そういえば、今夜の食事当番、あたしだったわよねぇ? ちょっち遅くなるケド、腕にヨリをかけて

    作るから、楽しみに待っててねンっ!」

と上司兼保護者が、満面の笑みを浮かべて『バシッ!』とウインクなされたのだった。

 

意を決してテーブルに着いた二人の前には・・・・鍋<なべ>。

神秘的なまでに真っ黒な液体をたたえた大鍋が、不気味な音を立てて・・・煮えたぎっているのだった。

ミサト「本日のメニューは、葛城ミサト特製“闇鍋すぺしゃる”よ!!」

シンジ&アスカ「「・・・や、闇鍋すぺしゃる??」」

 

ブク・・・・・・ボコッ・・・ボコボコボコッッ!(どんどろり〜〜ん)

ミサト「あたしの開発した新メニューよ! ホントは『闇鍋』なんだから、明かりを消して食べた方が“らしい”

    んだケドネ・・・」

シンジ「そ・・・そう、ですね。」

アスカ(だったら、明かり消してよぉ!)

 

ミサト「後から薬味を一切足さなくてイイ!のが自慢。 それでは召し上がれ!!・・・いっただっきまーすっ!」

暗黒の小宇宙へムンズッと突入したミサトの箸は、何やら黒っぽく四角い物体を引き上げた。

巨大な空洞と化したミサトの口が、パクリとそれを呑み込む。

ミサト「はぐっ、はぐっ! やっぱ、ビールには(プシュー!!)お鍋よねぇ! ング、ング・・・プッハァ――ッ!!」

 

  アスカ「シ、シンジ・・・今、ミサト何食べたの?」

  シンジ「た、たぶん・・・ハンペン? じゃないかな・・・」

 

次にミサトが自家製ディラックの海から引き上げたのは、やはり黒味がかった丸い物体だった。

ミサト「やっぱ、『おでん』といえばコレよね!(パクッ!)」

 

  アスカ「モ、モトモト『おでん』を作るツモリだったのが失敗しただけじゃないの?」

  シンジ「たぶん、タ・・・タマゴだよね、アレ。」

 

ミサト「どうしたの? シンちゃん、アスカ? 早く食べないと、無くなっちゃうわよ(モグモグ)。」

シンジ&アスカ「「・・・・・・・・」」

 

  アスカ「(ヒソヒソ)ど、どうする、シンジ?」

  シンジ「(ヒソヒソ)お、思い切って、食べるしかないと思うよ。」

 

アスカ(ママ・・・)

アスカの箸が、鍋の中から黄色いチューブ状の物体をサルベージした。

シンジ(きっと大丈夫さ・・・きっと・・・)

次にシンジの箸が、鍋の底からラベルの剥がれかけた筒型の物体をサルベージした。

シンジ&アスカ「「い、いただきます(ニコッ)・・・・って、ミサトさん!!/ミサトォ!!」」

 

ペンペン「ZZZZ・・・」

 

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 綾波司令   第14話「おカユの価値は」

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リツコ「あら? ミサト、シンジ君とアスカは?」

ミサト「(ギクッ!)そ、それが・・・ちょっちお腹コワしちゃって・・・・・・今日は、お休み。」

バツの悪そうな親友の顔を見たリツコは、瞬時に事態を理解した。

リツコ(ミサトの手料理を食べたのね)

眉をひそめて作戦課長に宣告する。

リツコ「困るわね。いつまた次の“ゲンドウ”が現れるかもしれないというのに。」

ミサト「ヘヘヘ・・・。面目ない。」

舌を出して、頭を掻くミサト。

そんな二人のやりとりは、当然後ろの長官席へも筒抜けになっていたのである。

レイ「・・・・・・」

パネルの上に両肘を突き、細い指先を組み合わせてポーズを取っている綾波司令。

ポーカーフェイスのその裏側は・・・実は、トンデモなかったりする。

レイ(これは・・・チャンス)

 

アスカ「シンジィ〜〜、生きてるぅ〜?」

シンジ「アスカこそ・・・大丈夫・・・?」

リビングに二つ並べて敷かれた布団の一方から、セカンドチルドレンの情けない声が上がる。

天井を見上げたまま返事をするサードチルドレンの声もはっきりと弱々しい。

アスカ「力出ないよぉ〜〜」

シンジ「僕もだよ・・・・」

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

プシュッ・・・

・・・・・・

何時の間にか眠ってしまっていたシンジの耳に、玄関の開く音が微かに聞こえた。

(ミサトさん、帰ってきたんだな・・・。もう何時頃だろ?)

そっと横を見ると、静かに眠っているアスカの横顔。

そのまま時計を探して視線を頭の方へ巡らせる・・・

(綾波!)

第壱中学の制服を着たレイが、枕元に立ってシンジを見下ろしていた。

シンジの瞼が二度、三度と自動的にまばたきをする。

再びシンジが目を開けた時、レイの姿は消えていた。

(・・・夢?)

 

ぼんやりと考え込んでいる額に、そっと冷たいものが載せられた。

「具合は、どう?」

額の上のものが落ちないように注意しながら首を回すと、床に置いた洗面器の上でレイがタオルを絞っていた。

アスカの額にもタオルを載せると、彼女の枕元に正座したまま、こちらに顔を向ける。

そして、そのまま黙ってシンジを見つめている。

(綾波・・・・・こんな風にしてると、やっぱりお母さんみたいだ)

そんなシンジを見つめるレイの顔に、ふっと寂しそうな微笑が浮かんだ。

「・・・綾波、来てくれたんだね。」

無言で見返すその瞳は静かに向きを変えると、今度は膝元で眠るアスカの顔を眺めだす・・・

そうして、いつまでもアスカを眺めているレイに、シンジは話しかけた。

「あの、綾波・・」

すると、その声が聞こえなかったのか、レイはスッと立ち上がった。

そのままリビングから出て行く・・・

(もう帰っちゃうのかな・・・)

 

再びうつらうつらし始めたシンジの耳に、

「碇君、食べられる?」

そっと抑制された声が響いた。

小さなナベと茶碗、それに箸をのせた盆を両手に捧げてレイが立っている。

「え? あ、綾波が作ったの?」

床の上に起き直ったシンジは、自分の枕元に置かれた盆とその向こうに座っている人物を見比べた。

フタを取ると、ナベの中から白い湯気とおかゆの匂いが立ち昇る。

「うわぁ、おいしそうだね! お腹減っていたんだ・・・・ありがとう。」

そう言ったシンジ゙が手を伸ばすよりも早く、タマと茶碗を白い腕が取り上げていた。

「最初は、これくらいのほうがイイわ。」

半分程盛りつけたそれをシンジに差し出す。

「う・・・うん。いただきます。」

シンジは、その真っ白なおかゆを一口、口に入れた。

「おいしい・・おいしいよ、綾波!」

夢中で食べながら顔を上げるシンジの目が、うれしそうに微笑んで見つめているレイの目とぶつかった。

びっくりしたような表情を浮かべたその顔は、目元を出発点にして急速に桜色へと染め抜かれていく。

「お、お茶をイレてくるわ。」

とたとたと、レイがキッチンへ姿を消した。

茶碗と箸を持ったシンジは、レイが今見せた表情を呆然と思い浮かべていた。

(綾波も、あんな顔するんだ・・・)

一人キッチンで気を落ち着けたレイが、新たにお茶と湯呑を載せた盆を持って入っていくと、

おかゆを食べ終わったシンジが床の上に座っていた。

そのまま見上げてニッコリと笑う。

「ごちそうさま、綾波。・・・すごく、おいしかったよ。」

「・・・・そう。」

目を逸らせるようにして注がれたお茶が、シンジの前へそっと置かれた。

「もう、いいの。」

どことなくぎごちない声が床に向かって発せられる。

「うん。また、後でいただくよ。」

「そう。」

「・・・・・・・」

「・・・何?」

俯いていた顔が、ふと持ち上がる。

「綾波も、あんな顔するんだね?」

再び血流が増加したことを正直に物語る頬の色。

「・・・・・・・」

「なんか、そんな綾波って・・・・・その・・・」

「・・・」

「・・・か、可愛いなって」

「な・・・何を、言うのよ。」

レイが慌てて立ち上がった。

「それじゃ碇君、私帰るから・・」

「え! あっ、綾波?!」

バタンッとリビングのドアが閉じられ、続いて遠くでプシュッと自動ドアの開く音が聞こえてくる。

シンジは急いで玄関へ向かって呼びかけた。

「綾波! ありがとう! うれしかったよ!!」

マンションの通路―――静かに目を伏せたレイは、閉じたドアにそっと背中を預けていた。

 

アスカ「何よ〜〜? うるさいわね〜!」

シンジ「あっ、アスカ。起きたの?」

アスカ「せっかく気持ち良く寝てたのに、耳元で大声出さないでよ!」

シンジ「ゴメン・・・」

アスカ「いったい、何で病人が大声なんか・・・・ンッ? これ、シンジがしてくれたの?」

アスカが、オデコのタオルに気がついた。

シンジ「あぁ、それは綾波が・・・」

アスカ「ファーストがぁ?」

ガバッと跳ね起きる赤い髪。

急いで見回したアスカの目に、おかゆの入ったナベだとか、食べ終わった後の茶碗だとか、湯呑だとか、

シンジが載せていたとおぼしきタオルだとか、それを絞ったらしい洗面器だとかが次々に飛び込んできた。

アスカ「シンジ! ファーストに何かされなかった?」

シンジ「な、何かって・・・?」

アスカ「だから・・・・・なコトや、・・・・・なコトや、・・・・・なコト・・・って、とにかく、ム・カ・ツ・クゥ〜〜ッ!!

シンジ(ア、アスカ・・・元気だね?)

 

レイ(碇君・・・・)

―――ドタドタ

  「世界を破滅から守るチルドレンが、二人そろーて食アタリとは・・・シマラん話やなぁ〜。」

  「ミサトさんに頼まれたから来てみたケド、案外二人とも元気かもよ。」

レイ(!)

ケンスケ「あっ、綾波・・・」

トウジ「おっ?」

 

クルッ! スタタタタタ―ッ・・ぺしゃん!・・あたふた!・・トタッ、ツルッ!ゴロゴロゴローッ!!

水色の髪が非常階段を物凄い勢いでころがり落ちていった。

 

ケンスケ「・・・見えた。」

トウジ「白、やな。」

――(ハッ!) いや、そーじゃなくて

ケンスケ「ホ・・・ホントに、綾波だったのかな・・・?」

トウジ「さ、さぁ〜なァ〜??」

 

  『なんで起こしてくれなかったのよ――っ!!』

  『自分が勝手に寝てたんじゃないか?!』

 

トウジ「ほんで、こっちはこっちで、夫婦喧嘩かいな・・・」

ケンスケ「どうする?・・・帰る?」

 

 

プシュン―――スタスタスタ

冬月「どうだったね、レイ君。私直伝のおカユの味は?」

ストン――

レイ「・・・・美味しかった・・・て、言ってた。

冬月(ふむ・・・私の手料理もまだ捨てたものではないわい)

冬月「よければ、今回のとは違うおカユの作り方をいろいろ教えてあげようか?」

レイ「(ハッ)・・・教えてくれるの。」

冬月「もちろんだとも・・・メモを用意したまえ。」

 

 

んで、2日後。

シンジ「綾波、プリントを持ってきたよ。」

アスカ「まーたく! ファーストでもおなかコワすなんてコトがあんのねっ。」

レイ「・・・・・ありがとう。」

 

学校と本部を2日間無断欠席したレイを、今度はすっかり回復した二人がお見舞いに訪れていた。

なぜかアスカの方が積極的に言い出しての訪問だったりする。

超豪華マンションの中の“レイの部屋”で、ベッドの彼女を囲み、珍しく“平和に”雑談する事、約10分。

そして、アスカが作戦行動を起こした。

アスカ「さて、と・・・シンジはもう帰ってイイわよ。」

シンジ「えっ。」

レイ「・・・?」

アスカ「この後のファーストの世話は、アタシがするって言ってんのっ。」

シンジ「え・・・でも」

アスカ「それともシンジ・・・アンタ、ファーストの洗濯モノに興味でもあるワケ?」

シンジ「そ、そんなっ!・・・そんなコト、ないよ!!」

レイ「・・・

アスカ「じゃ、決まりね! さー、『紳士』がいつまでも女の子の部屋にいるもんじゃないわよっ。帰った、帰った!」

両手で背中をグイグイと押して、シンジを“レイの部屋”からリビング、さらに玄関へとずんずん押し出していく。

シンジ「あ・・・それじゃ、綾波! おだいじにねーっ!」

アスカ「ハイ、ハイ! (グイーッ!!)」

プシュン・・

一瞬の静寂―――やがて、玄関のドアを向いたまま、アスカの両肩が小刻みに震え始めた。

アスカ「・・・フ、フフフ・・・・・チャ〜ンス!」

 

レイ(私・・・・どうなるの?)

トントントン・・・

隣のキッチンでアスカが包丁を使う音が不気味に響いている。

トントントン・・・

レイ(碇君、助けて・・・)

トントントン・・・

――― 30分後 ―――

アスカ「どうっ? ファースト! アンタの作ったオカユとどっちが美味しいの?!」

レイ「・・・よく分からない。」

アスカ「・・・・・。じゃ、もう一回作ろっと。アンタも食べんのよっ!」

レイ「・・・・・・」

私はオカユの食べ過ぎで寝ているのに・・・・なぜかそう言い出せない綾波司令なのであった。

レイ(お見舞いされるのって、うれしいけど、苦しいのね・・・)

 

 

『綾波司令』 第14話「おカユの価値は」 終

 

 

次回予告

自業自得とはいえ、せっかく復活した零号機を

赤木博士に取り上げられてしまった綾波司令。

やむなく彼女は、新たな“ひまつぶし”に邁進するのだった。

次回、『綾波司令』 第15話 「屋上、お楽しみの座」

ヨロシクねン!


マナ:葛城さんの料理、炸裂したわね。(ーー;

アスカ:あんなおでん、食べて平気なわけないでしょ・・・。はぁ。

マナ:でもさ、綾波さんもいいとこあるわねぇ。おかゆ作れたなんて、意外だったわ。

アスカ:なに言ってんのよ。みんな副司令のおかげじゃない。

マナ:アスカもさぁ、副司令におかゆの作り方習ったら?

アスカ:アタシは、おかゆくらい作れるわよっ!

マナ:病人に毒盛るようなことにならないようにね。

アスカ:バカ言ってんじゃないわよっ! アタシのおかゆは、とっても美味しいって評判なのよっ!

マナ:誰が評判してるの?

アスカ:シンジだって、ヒカリだって、美味しいって食べてくれたんだからっ!

マナ:そ、そうなの? 洞木さんが言うなら・・・ふーん、ちょっとびっくり。ねぇ、そのおかゆって、どうやって作るの?

アスカ:レンジでチンすりゃいいのよ。

マナ:レ・・・レトルト・・・。(ーー;
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