「ミサトさん、前回の予告と少し違うみたいですけど・・・?」

「あ〜、アレ? 『ボツ』だそうよっ。」

「そ、そんな大事なこと、あっさり変えちゃっていいんですか?」

「イイの、イイの! だ〜れも覚えちゃいないんだからっ!」

「信用、無くしますよ。」

「あたしじゃなくて、作者がネンッ♪」

 

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 綾波司令   第15話「遠足は、お楽しみ!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ミサト「へーぇ。『校外学習』、ね。」

シンジとアスカが学校から持ち帰った保護者用の連絡プリントを、ヱビちゅ片手にミサトが眺めていた。

ミサト「『校外学習』って、遠足の事でしょ?・・・で、で! どこ行くの?」

シンジ&アスカ「「ニ子山です/よっ。」」

ミサト「ブッ!」

350ml缶の中味がミサトの顔面を直撃する。

ミサト「・・・冗談でしょ? (ウヒャ〜、ボトボト・・・)」

シンジ「・・・本当なんです。」

嘘ではない証拠に、プリントの中程には『行き先・・・お玉ヶ池〜ニ子山』と書いてある。

   (注)実際のニ子山は「登山禁止」だそうです。

アスカ「あーあ、せっかくの遠足がスグソコの小山だなんて、ツマンナーイッ!」

ミサト「すぐそこ・・・ってゆーか、アスカとシンジ君にはいまさら珍しくもナントモないかもねぇ〜。・・・・・・ん?

    ・・・・ナニナニ?」

タオルで口元を拭うミサトの目が、プリント後半の『遠足の注意』欄へ吸い寄せられた。

シンジ「どうしたんですか?」

ミサト「アラ! 良かったじゃない? ココんトコ見てごらんなさいよ!・・・『服装は私服可』って書いてある

    じゃない! コッチの方で楽しめばイイのよ♪」

アスカ「そりゃーまーそーだケド〜ォ。」

それでもまだまだ不満なアスカは、椅子に凭れて、『ブゥー』と唇を尖らせる。

シンジ「それは、そうですね。・・・何着て行こうかな?」

シンジは、切り替えが早いというか、単純というか、すっかりその気になっていた。

アスカ「・・・おめでたいヤツ。オフロ入ってこよーっと!」

呆れ顔でシンジを眺め、腰を上げたアスカはバスルームへと姿を消した。

ヤレヤレ、とミサトが新しい缶ビールのプルトップを開ける。

自室でウォークマンを聞くためにテーブルを立ったシンジは、ふとあることに気がついて足を止めた。

シンジ(そういえば・・・綾波は、『私服』持ってるのかな?)

ミサト「?・・・どったの、シンちゃん?」

 

翌日の学校。

レイ「校外学習?・・・行かない。」

シンジ「どうして?」

レイ「私、そういうの好きじゃないの。」

シンジ「あ・・・でもさっ、みんなと一緒に山道を歩いたり、外でお弁当を食べたりって、きっと楽しいと思うよ!」

レイ「いいの。かまわないで、碇君。」

シンジ「でも、せっかく毎日学校へ来るようになったんだからさ・・・」

レイ「・・・いいの。それに、私本部で仕事があるから。」

シンジ「・・・・・・」

「・・・とかなんとか言っちゃって! ホントは、着て行く服が無いだけじゃないのっ?」

レイが声のする方をチラリと見た。

アスカ「正直に言ったらどーなのよ? 私は遠足に着て行く服がありませんって!」

腕組みをして仁王立ちに立つ少女の横では、委員長がハラハラと二人の顔を見比べていた。

レイ「・・・・・・」

アスカ「どうなのよっ、優等生!?」

シンジ「アスカ、やめろよ! そんな言い方するの!」

思わず割って入ったシンジの顔を、『してやったり』とアスカが眺め返す。

アスカ「何勘違いしてんのよ?・・・ファースト! 放課後、一緒に買い物に行くわよっ!」

レイ「?」

アスカ「アンタまで何勘違いしてんのよ? このアタシが遠足に着て行くファーストの服を見立ててやるって

    言ってんのよっ!」

ヒカリ「アスカ・・・!」

嬉しそうに友を見るヒカリ。

シンジ「・・・うん! そうだね! 行っておいでよ、綾波!」

にっこり微笑むシンジ。

レイ「・・・・・」

何も答えていないのに、いつのまにやら買い物に出ることになってしまった綾波司令だった。

――仕事はどうする?

   レイ「(Pi・・)伊吹二尉・・・ええ・・・いつもの通り副司令に・・・かまわないわ・・」

 

<新湯本のブティック前>

アスカ「ココが良いわっ!」

両手を腰に当てて店の入口を上から下へ何度か見返した後で、アスカが振り返った。

レイ「・・・・・・」

ヒカリ「そうね。」

シンジ「・・・もう、疲れたよ。」

――なぜ、男のシンジがココにいるのか?

    アスカ「せっかく足を伸ばして買い物に行くんだから、ファーストの分だけ買うんじゃもったいないわ!

        当然アタシも・・・ヒカリも買うでしょ?」

    ヒカリ「そうね・・・わたしも、買おうかな?」

    アスカ「じゃ、決まりねっ!・・・シンジ、アンタも行くのよ!!」

    シンジ「えっ、ボクも?」

    アスカ「・・・・・理由が聞きたい?」

    シンジ「・・・・・分ったよ。行けばいいんだろ? 行けば・・・(ブチブチ)」

    アスカ「そうそう、それでこそ『全校女子生徒のアイドル、碇シンジ』よ! さっ、出発ーっ!」

というわけで、荷物運搬係は遥々新湯本までの買い出し遠征に付き合わされた挙句、4軒目のブティックを

回った段階で失神寸前なのだった。そんなシンジにはお構いなく、元気満々のアスカは5軒目の店を前に

やっと満足げな顔を皆に向けたのだ。

アスカ「じゃ、入るわよ!」

・・・・・・・・

アスカ「ええっと・・・コレと、コレ。ん? コレなんかもいいわね?」

アスカが忙しそうに棚の上を物色している。キョロキョロと後ろの棚を見渡しているのはヒカリ。少し離れて――

レイ「・・・・・」

白い服を手にとり、じっと見ている綾波司令。

アスカ「どう、ファースト? 何か欲しい服見つかった?」

両手を動かしながら、アスカがレイを振り返る。

レイ「・・・これでいい。」

レイが手にしているのは、ノースリーブのワンピース。ふーんといった顔をするアスカだが――

アスカ「ダメよ、そんなの。普段着には良いけど、ハイキングには向かないわ。」

レイ「・・・そうね。」

レイの腕がゆっくり品物を棚に戻そうとする。すると、その様子を目の隅で見ていたアスカが言った。

アスカ「・・・・でも、アンタ制服以外な〜んにも持ってないんだから、買っておくべきかもねぇー。」

レイ「そうね。」

戻しかけた服を再びレイが持ち上げる。その声と表情に、アスカの顔が、おやっ?と変わった。

アスカ(へー。コイツ、変わったじゃん・・・)

と、そこへ――

シンジ「ねえ、アスカ。綾波が制服以外の服を持っていないってコト、どうして知ってたの?」

手持ち無沙汰に店の中を見回しては、時折顔を赤らめていたシンジが口を出した。

蒼い瞳が、『今ごろ、何言ってんのよっ』とシンジを見る。

アスカ「アンタ、バカァ? この間ファーストの部屋に行って世話をしたのはアタシよっ! 知ってて当然じゃない?

    それに、シンジ。アタシ達、今までにファーストの私服姿見たことあった?」

(ちなみに、レイが本部で着ている長官服はあくまで長官服であって、決して彼女の「私服」ではないことをお断り

 しておきます・・・念のため)

シンジ「あ・・・そういえば、そうだったね。」

呑気そうに肯くシンジに、今度は、ジロリッと、冷やかし半分(+探り半分)の視線が向けられる。

アスカ「まっ、どこかで誰かサンとこっそりデートでもしてなければ・・・だけどネェ〜。」

シンジ「な、なんだよ! ・・・それ!?」

アスカ「フ、フ〜〜ン♪ だっ。」

シロ・・・ね。

当惑するシンジを前に、上機嫌になったアスカは、ふと先日の出来事を思い出していた。  

アスカ(それにしても、アレはちょっとした恐怖体験だったわね・・・)         ←(注)第14話の裏話です

            アスカ『ファースト、アンタの着替えはドコ?』

            レイ 『・・・あっちの部屋のタンスの中。』

            アスカ『ふーん・・・(すたすたすたすたすたすたすたすたすたすたすたすた)・・・どれどれ?』

            スーッ(1段目)

            アスカ『・・・・』

            スーッ(2段目)

            アスカ『・・・・』

            スーッ(3段目)

            アスカ『・・・・』

            スーッ(4段目)

            スーッ(5段目)

              ・・・・・・

            アスカ(ぜ、全部下着と靴下と制服ばかりだわ・・・)

            アスカ『(すたすたすたすたすたすたすたすたすたすたすたすた)・・・なんで制服がこんなに

                一杯あるのよっ?!』

            レイ 『洗濯・・・面倒くさいもの。』

シンジ「どうしたの、アスカ?」

アスカ「(ハッ)なんでもないわよっ。・・・ヒカリ、もう決めたぁ?」

ヒカリ「ええっと・・・迷っちゃうな。」

・・・・・・・・   

二時間後。

意気揚揚とアスカが店を出る。その隣には満足げなヒカリ、少し遅れてレイが無言で続き・・・・最後に、『全校女子

生徒のアイドル』が、三人分の紙包みを抱えてよろめきながら外へ出て来た。

レイ「碇君、大丈夫?」

アスカ「放っときゃイイのよ。こーゆーときのために男―シンジ―は存在するんだからっ!」

レイ「そう。」

ヒカリ(綾波さん、アスカ、それはちょっと・・・ちがうんじゃ?)

一応ツッコミは入れながらも、荷物はちゃっかりシンジに預けてある委員長。さすが、と言うべきか・・・

アスカ「さ――て、明後日の遠足が楽しみだわっ!」

 

遠足当日。

なんとなくレイの様子が気になる二人は、早めに出て彼女のマンションへ寄ることにした。

アスカ「ファースト、結局どの服を着て行くのかしら?」

Pinphoonn!

アスカ「ファースト、用意できてるー?!」

シンジ「綾波、おはよう!」

レイ「おはよう・・・」

眠そうな目をこすりながら出てきたレイの姿を見て、二人はぶったまげた。

アスカ「アンタ、なに考えてんの?! こんな恰好で行ったら、飢えた男共がわらわら寄って来て大変よ!」

レイ「・・・そうなの、碇君?」

シンジ「そ、そうだね・・・ちょ、ちょっと、か、替えたほうがイイ、かな?」

リュックサックの代わりにテニスラケットでも持った方が似合いそうなレイがそこにいた。

レイ「動きやすいのに・・・」

アスカ「これだからネルフ育ちってのは・・・常識疑うわね! 入るわよ!」

レイの手を引き、ズンズンとリビングへ入っていと、部屋の中は、一昨日買った服が所狭しと散乱していた。

レイ「・・・じゃ、コレ。」

Gパンにポロシャツ姿のシンジを横目に見ながら、レイが手を伸ばしたのは青いスリムジーンズだった。

アスカ「ダメよっ! ファーストには似合わないわ!」

ちなみにアスカは水兵ルックのTシャツ(青い横縞のアレです)に、膝までのスリムジーンズである。

アスカ「アンタは、コレとコレ!」

淡い水色のキュロットパンツと白いノースリーブ・シャツが突き出された。

レイ「私は・・・」

アスカ「なに? アタシの見立てに文句あんの?

――今、レイは『碇君の気持ちが少しだけ分かったわ』と思うのだった。

・・・・・・・

レイ「・・・・・・」

シンジ「綾波、元気出して?・・・その服良く似合ってると思うよ。」

アスカ「準備完了! 行くわよっ!!」

 

――10:24 発令所――

日向「通信班からの報告です。厚木を飛び立った戦自の輸送機が一機、丹沢山中に墜落したそうです。」

ミサト「ふーん・・・被害報告とか入ってるの?」

日向「いえ、今のところは何も。しかし、随分慌ててるみたいですね・・・」

ミサト「・・・そう。」

冬月「こちらに何も言って来んウチは、手を出すわけにもいかん。葛城三佐、我々は現状を維持だ。ただし、

   通信には注意を払ってくれたまえ。」

ミサト「ハイ。」

 

午後1時45分、ニ子山。

シンジ「え? ジュース?」

アスカ「まさか、持ってこなかったんじゃ〜ないでしょうね?」

シンジ「うん。だって、お茶で良いと思ったから。」

アスカ「アタシはジュースが飲みたいの! アンタ長年一緒に住んでてそんなコトも判らないの?!」

シンジ「そ、そんな〜! それに、『長年一緒』だなんて・・・まだ一年も経ってないじゃないか?」

トウジ「みんなの前でなに大声出してイチャついとんのや? 揃いのズボンまで履いて、オシドリ夫婦はアツアツで

    カナンな〜ぁ!」

生徒達「アハハハッ!」

これには、さすがのアスカも真っ赤になって俯くしかなかったり・・・する、ったらする。

そこへ――

レイ「碇君・・・コレ。」

シンジ「・・・え? 綾波のじゃないの?」

レイ「いいの。・・・多めに買っておいたから。」

シンジ「あ、ありがとう。」

アスカ「ちょっと、ファースト! 余計なコトしないでっ!!」

即座に復活する弐号機。まだ、ちょっと顔が赤い。

レイ「アナタの分もあるわよ。・・・はい。」

アスカ「え?・・・・あ、ありがと。」

へ――、いいトコあるじゃない♪

レイ「お揃いね、碇君。」

シンジ「そ・・そうだね。」

ん? いつのまにか、オレンジジュースのパックを手にした二人が妙な雰囲気で見つめ合っている。

一方アスカの手には――アップルジュースが渡されていた。

アスカ(くっ、ファースト・・・やってくれるわね!)

・・・・・・・・・

不意にヒカリの足下を小さな茶色のものが横切った。

ヒカリ「エッ?」

親にはぐれたらしい野ウサギの子供が、走っては立ち止まり、走っては立ち止まりしながら、キョロキョロと

首を巡らせている。その小動物は、過去の戦闘で斜面が崩壊したため通行止めになっているハイキング道

へと向かっていった。

ヒカリ「あ・・・そっち行っちゃダメよ。」

ヒカリは、その後を追いかけた。

女生徒「ヒカリ、先に行くわよ?」 

ヒカリ「ウ、ウンッ! スグに追いつくから、先に行ってて・・・」

 

――同時刻 発令所――

青葉「駒ケ岳の観測レーダーが正体不明の移動物体を捉えました!」

日向「分析パターン、オレンジ! 識別不能!」

ミサト「“G”ではないの?」

日向「判りません。MAGIは回答を保留しています。」

青葉「謎の移動物体は、南足柄一帯を通過。現在明神ヶ岳の南方を迂回して、旧熱海方面へ向け移動中!」

伊吹「明神ヶ岳の南というと、浅間山からニ子山にかけて通過するワケですね・・・」

ミサト「いけないっ!」

リツコ「どうしたの、ミサト?」

ミサト「シンジ君達が、今日学校の遠足でニ子山へ行ってるのよ!」

リツコ「!・・・それじゃ、レイやアスカも!?」

ミサト「・・・ええっ。三人のチルドレンを含む第壱中学校の2年生全員がニ子山に集合しているわ!」

 

PiPiPi――!

レイのリュックサックの中で不意に携帯が鳴った。

レイ「・・・ハイ。」

ミサト『レイ? よく聞いて! 今正体不明の移動物体がアナタ達のいるニ子山方面へ向かって接近しているの!

    リニアレールで初号機と弐号機を搬送するから、アナタ達は第29番発進口の周辺へ生徒達を集合させて!

    初号機、弐号機の出撃と生徒達の救助を同時に行うわ。救助機も準備が出来次第発進させるからっ!

    移動物体の到達予想時刻は・・・」

レイ「・・・了解、それでいきましょ。」

レイの様子から異変を感じとった二人が駆け寄る。

レイ「識別不能の移動物体があと10分でココへやって来るわ。7分後に初号機と弐号機が到着するから、二人は

   新設の第29番発進口で待機していて。救助機もそこへ来るわ。」

シンジ「分った!・・・急ごう、アスカ!」

アスカ「OK! ファースト、みんなを頼んだわよっ!」

肩を並べて駆け出して行くシンジとアスカ。

何事かとこちらを見ている老教師にレイが近づいた。

レイ「先生・・・」

 

アスカ「まだなの!」

シンジ「早く!」

二子山中腹に新たに設けられた発進口でエヴァの到着を二人が待ちうける。

そこから離れること、わずか数km。旧箱根町付近では、すでに数条の黒煙が立ち昇っていた。

 

ケンスケ「碇! 大変な事になったんだって?」

シンジ「みんな!」

Bafuuunn! Bafuuunn!

シンジとアスカを取り囲むようにして集まってきた生徒達の上空に、2機の救助用大型VTOLが飛来した。

シンジ「早く乗って!」

救助機から降りてきた隊員に誘導され、次々に乗り込んでいく第壱中学校の生徒達。

と、イライラとその様子を眺めていたアスカの顔色が突然変わった。

アスカ(ヒカリがいない!)

反射的に左手首に巻いてきた腕時計に目を落とす。エヴァ到着まであと3分半・・・

アスカ「ヒカリは?!・・・鈴原っ! ヒカリはドコなのよ!?」

トウジ「エッ、そういや委員長の姿が見えんな・・・」

ケンスケ「アレ? さっきスグに追いつくとかなんとか言ってたみたいだケド・・・」

アスカ(ヒカリ!)

もう一度時計を見る。

アスカ(・・・・・どうする!? アスカ!)

アスカ「シンジ! スグ戻るから!!」

シンジ「エッ!? あ、アスカ!」

登山道を、アスカが全速力で引き返して行った。

・・・・・・・・

臨時に木の板を横に渡した急斜面を、洞木ヒカリは戻ろうとした。結局、子ウサギは何処かに消えてしまった。

ヒカリ(あのコ、お母さんに会えると良いな・・・)

アスカ「ヒカリ――ィ!」

ヒカリ「え?・・・アスカ!?」

みんながいるはずの森の中から飛び出してきたアスカが、血相を変えて細い木の橋を渡ってこっちへやって来た。

アスカ「ヒカリ!! 急いで!」

ハァハァと息を切らせながら、戸惑うヒカリの片手を取る。

ヒカリ「どうしたの、アス・・」

ドガンッ――!!

アスカ「!」

ヒカリ「キャッ!」

山肌を震わす震動と共に、山上から大量の土砂が崩れ落ち、足下の木の板をさらっていった――

 

ヒカリ「ア、アスカ・・・大丈夫?」

左手を板を支えていた杭に回し、もう一方の手で、アスカがヒカリの腕を掴んでいる。

少しでもアスカの負担を減らそうと足を掛けるそばから、もろい斜面が崩れ落ちた。

ヒカリ「ごめんね・・・アスカ。」

アスカ「何言ってんのよ! アタシ達、親友でしょ。」

チラリと杭に回した腕の時計を見る・・・エヴァ到着予定時刻。

アスカ(アタシはダメ・・・頼んだわよ、シンジ!)

 

強化コンクリート製のトンネルの入口がスライドし、リニアトレインが停止した。

油圧ジャッキが初号機と弐号機の上体を押し上げていく。

シンジ「アスカ・・・どこに行ったんだよ!」

レイ「碇君、今は彼女の事より・・・」

シンジ「・・・そうだね。じゃ、みんなを頼んだよ、綾波!」

コクリ。

バシュンッ――!

シンジ(行くぞっ!)

リニアの車台から脚を降ろし、リフト・オフする紫色の巨人。

その頭上を、1機目のVTOLが上昇していく。

 

初号機の出撃を見送ったレイは、クルリと振り向くと反対側へ駆け出した。

トウジ「おい、綾波どこ行くんや!」

いつもの彼女からは想像も出来ないスピードで走り去っていく。

ケンスケ「トウジ! もしかしたら綾波は惣流や委員長を探しに行ったんじゃ・・・?」

トウジ「!! こうしてはおれん! ワシとしたことが・・・いくで、ケンスケ!!」

ケンスケ「そうこなくっちゃっ!」

レイが消えた方向へ、慌てて駆け出す二人。

隊員「オーイ! 君達!!」

静止の声も何のその、かまわず走り続ける。

ケンスケ「ヤバイよ、トウジ! あの方向は・・・」

ドガンッ――

ケンスケが注意を促しかけたその時、何かが山肌に激突したような音が前方から響いてきた。そして――

トウジ&ケンスケ「「ゲッ!」」

レイが向かったらしい森の向こうから、肉食昆虫と人間が融合したような姿をした人型兵器が立ち上がった。

トウジ「綾波ーっ!・・・くそ、シンジは何しとんねん?!」

その声に応えるように、謎の兵器の背後に初号機が姿を現した。紫の機体が奇怪な外見の機体めがけてタッ

クルを敢行する。ジェットを噴射して飛び上がりかけた相手の両足を初号機が捉え、鋼鉄の機体が山腹に激し

く叩き付けられる。戦闘は、いきなり取っ組み合いの様相を呈していた。

 

――同時刻 発令所――

ミサト「なんなの、あの機体は・・・?」

スクリーンに映し出された機体を見つめて、ミサトが驚き混じりの声を上げていた。

日向「・・・そういえば、うわさで聞いた事があります。戦自で第二次○○計画が進行中だって・・・」

椅子越しに後ろを向いた日向が、眉をひそめて報告する。

リツコ「つまり、アレは」

軽蔑したようなリツコの目が光る。

ミサト「連中―戦自―の、第二の人型ロボット・・・というわけね。」

胸の奥で疼き始めた感情も顕わに、ミサトが上目遣いにスクリーンを睨みつけた。

 

同時刻、レイ。

アスカ「誰かいないのーっ!!」

ヒカリ「アスカ・・・」

レイ(・・・・今の声は!)

木々の隙間を通して、一緒に買った白と水色の服がチラッと小さく見えた。

レイ(あそこ!)

山肌に沿うハイキング道へ駆け出して行ったレイの視界が急に開ける。そこへ――

ズガガガッガ――!!

戦自のロボットともつれ合って初号機が落ちてきた。

レイ「!!――碇君!」

一瞬、動きを止めた初号機がレイを振り返る。

シンジ「綾波! どうしてここへ?・・・まさか」

頭を反対側へ巡らしたシンジの目に、杭に釣り下がったまま引きつった顔で初号機を見つめているアスカと

ヒカリの姿が飛び込んできた。

シンジ「アスカ!! それに委員長!・・・あっ!」

アスカ達の方へ向けて動き出した戦自ロボットの腕を初号機が引き戻す。

シンジ「やめろぉぉ!!」

掴まえた機体と共に、更に斜面を滑り落ちていくシンジのエヴァ――

・・・そして、レイの前の視界が再び開けた。が、アスカ達の所へ続く道も、それどころか伝って行けそうな山肌も、

今の戦闘によって完全に切り崩されてしまっていた。

レイ(比較的無事な尾根まで迂回して・・・ダメ、私じゃ間に合わない)

視線を巡らせる彼女の前には、木の葉のように吊り下がっている二人。一緒に買った服が揺れている。

レイ(どうしたら・・・・!!)

打たれた様に、レイが後ろを振り返った。

レイ(・・・そう、やってみるしかない)

ひとり肯くと、レイはリニアトレインめがけて走って行った。

 

トウジ「ありゃ? 綾波はどっちの道行ったんや?」

ケンスケ「とりあえずコッチへ行ってみようよ、トウジ!」

森の中の分かれ道を右へ進む二人。

 

彼らが選んだ反対側の道をレイが飛び出してきた。

レイ「救助機はすぐに発進を! この場からできるだけ離れて!」

隊員「ハッ!」

最後のVTOLが飛び立ってゆく。

レイは私服のまま、弐号機のエントリープラグへ飛び込んだ。

――弐号機エントリープラグ――

レイ(初めての弐号機。私に動かせるの・・・・いえ、動かさなくてはダメ)

両手がインダクションレバーを握る。

レイ「思考言語を日本語を基準に切り替え。・・・シンクロ、開始。」

バシンッ・・・・ギュワァァン・・・・グゥゥ

レイ「ダメ。・・・・もう一度。」

バシンッ・・・・ギュワァァン・・・・キュゥゥ・・・グゥゥ

レイ「もう少しなのに・・・。今動かさないと、二人が・・・」

三度目のシンクロを試みる彼女の前には、オレンジ色に輝くLCLの小さな海と――

レイ(お願い・・・二人を救いたいの・・・・・・・・私を信じて・・・・・)

何故だろう――そのとき、不意にレイが思い出したのは、プラグスーツを着たアスカの姿だった。

    アスカ『・・・アタシはネ、エヴァを“気合”で動かすのよ、気合で!』

いつだったか・・・待機室で時間を持て余しているときに、アスカは得意気にそう言っていた。

レイ(気合・・・闘志を集中へと変えるモノ・・・弐号機パイロットは気合・・・)

目を瞑り、LCLの中で大きく深呼吸する。

レイ(・・・弐号機パイロット・・・・彼女の・・・・アスカの気合の“コトバ”・・・)

少しずつレイと弐号機のハーモニクスが重なっていった・・・

 

――同時刻 発令所――

伊吹「そ、そんなっ!」

リツコ「どうしたの? マヤ!」

伊吹「弐号機が・・・・起動しています!」

 

トウジ「なんや、エライ高いトコに出てしもたで・・・」

ケンスケ「トウジ! あそこだ!!」

ケンスケが斜面のはるか下を指差した。小さく見えるその姿は――

トウジ「委員長! 惣流!・・・こうしちゃおれん、行くで! ケンスケ!!」

ケンスケ「よし!・・・・・て、こ、ここを?」

トウジ「そうやっ! どわぁぁあ――っ!!」

ケンスケ「アッ! トウジ!!・・・父上様、先立つ不幸をお許し下さい。相田ニ曹、行くでありま――すっ!!」

ズザザザ――――!!

 

――同時刻 発令所――

青葉「判明しました! あれは、戦自が現在開発中の汎用戦術ロボットのプロトタイプ機です。墜落の衝撃により

   オートモードへ移行、暴走を開始した模様です!」

ミサト「パイロットは!? またパイロットが乗っているの!?」

青葉「・・・無人機です!! アレは、データ採取用の実験機ですから! 開発コードXB0013!」

ミサト「シンジ君! 聞いてのとおりよ! 戦自の兵器だからって気にすること無いわっ! あんなモノをいまだに

    使おうとしているヤツらのアタマを叩き直してやるのよっ! 思いっきりやっつけちゃって!!」

シンジ『・・・・・ハイッ!!(どうして・・・どうしてこんなモノを作り続けるんだよ!!・・・あの時だって!)』

 

トウジ「委員長ーっ!」 

ヒカリ「す・・・鈴原!」 

アスカ「えっ、熱血バカ・・・」 

ケンスケ「今行くからなーッ!」 

アスカ「あ、相田まで・・・」

トウジ&ケンスケ「「・・わぁぁぁあ――!!」」

ドドドドドドド―――ッ!

アスカ「 !!  や、やっぱり来ないで――ぇ!」

・・・・・・・・

ブルブル・・・ブル

アスカ(う・・・・・もう、ダ・・メ・・)

―――ゴメンね、ヒカリ・・・

アスカ「あっ!!」

トウジ達の到着を待たず、限界を超えたアスカの腕が杭を離れた。

悲鳴も上げず、遥か下の道路めがけて滑り落ちて行く二人・・・

トウジ「委員長ーっ!!」

ケンスケ「惣流ーっ!!」

ズザザザ―――っ!

そこへ巨大な掌が差し伸ばされた。

 

・・・不意に落下が止まった。固く瞑っていた目を、アスカが恐る恐る開ける。すると――

アスカ「・・・エヴァ弐号機?」

緑色に輝く四つの目がアスカを見つめていた。

アスカの隣でヒカリも不思議そうに目を開ける。

アスカ「でも誰が・・・シンジ、なワケないわよねぇ?」

レイ『・・・大丈夫?』

アスカ「ファースト!?」

アスカの声に、やっと事態を理解したヒカリも呟いた。

ヒカリ「綾波さん・・・?」

いち早く気を取り直したアスカが、ハッと顔を上げてレイに訊く。

アスカ「そうだ! 敵は?」

レイ『碇君が倒したわ。』

弐号機の背後から初号機が姿を覗かせた。傷ついた装甲板が戦いの激しさを物語っている。

満足気な顔で二機のエヴァを眺めるアスカ・・・そして、彼女は、ふと大事なコトを思い出した。

アスカ「ファースト、それにしてもよく弐号機を動かせたわね?」

レイ『・・・コツを掴んだの。』

アスカ「コツ??」

 

翌日――第壱中学校、屋上。

レイ「・・・アンタ、バカ。」

アスカ「Nein、Nein、Nein! 違うわ、こうよ!」

チッチッチと顔の前に立てた人差し指を左右に振ると、左手を腰に右手を真っ直ぐ前に向けて決めポーズを

取るアスカ。ぐっと開いた両足に力を入れて――

アスカ「アンタ、バカァ!?・・・・・どう、分かった?」

コクリと肯いたレイは、スーっと右手の人差し指を持ち上げて――

レイ「アンタ・・・バカァ。」

これじゃ、幽霊である。

アスカ「ダメダメ! こうよ、こう!」

手取り足取り、ポーズの取り方をもう一度教える。

やっとレイのポーズが決まったところで、横に並ぶと二人揃ってビシッと屋上の入口のドアを指差し――

 

ケンスケ「・・・そうか。久し振りにあのコのこと思い出しちゃったんだな・・・」

シンジ「・・・・うん。」

トウジ「ホンマ、いつまでもウジウジしくさって・・・。ワシが屋上で話聞いたろやないか!」

 

ガチャッ――

 

アスカ&レイ「「アンタ、バカァ!!??」」

トウジ&シンジ&ケンスケ「「「わ――っ!!」」」 

ズデデデデ――ッ!

哀れ――のけぞって階段から足を踏み外した三人は、屋上の特訓の様子を見に来たヒカリの足下へ頭から

転げ落ちて・・・見事に失神したのであった。

 

―― P.S.――

ヒカリ「・・・大丈夫? みんな。」

トウジ&ケンスケ「「アタタタ・・・」」

シンジ「う〜〜ん・・・(あれ? なんで屋上に行ったんだっけ??)」

アスカ「シンジっ!」

レイ「碇君!」

シンジ「あ・・・アスカ、綾波。ゴメン・・・もう大丈夫だよ。」

 

 

『綾波司令』 第15話「遠足は、お楽しみ!」 終

 

 

次回予告

こんな筈ではなかった・・・なんなのよ、コレェ!?

匂うだけ匂わせて、名前すら出てこなかった

少女の叫びが、舞台裏にコダマする!

次回、『綾波司令』 第16話 「マナと呼ばないで」

ヨロシクねン!

 

(↑本当の第16話は、こーではありませんです)


マナ:なんだかんだ言いながら、綾波さんと仲いいじゃない。

アスカ:っていうか、なんであそこで「アンタバカぁ」が出てくるわけぇ?

マナ:そりゃぁ、アスカの気合って言ったら・・・。

アスカ:じゃぁなーに? アタシは、重い物持ち上げる時、「アンタバカぁ!」 リレーで走る前に「アンタバカぁ!」って叫んでるっていうのっ!

マナ:とても恥かしくて、わたしには真似できないわ。

アスカ:アタシだって、んなことしてないわよっ!

マナ:アスカは、ボクサーになったら駄目ね。

アスカ:なんでよっ!

マナ:ジャブ打つ度に、「アンタバカ!」「アンタバカ!」「アンタバカ!」「アンタバカ!」「アンタバカ!」

アスカ:なわけあるかぁぁっ!

マナ:アッパーカットは、「アンタバカーーーーーーーーーーーーーっ!」

アスカ:アンタねぇ。いい加減にしなさいよ。それじゃ、アタシがバカみたいじゃないの。

マナ:やっとわかったの? おもいっきりバカじゃない。あははははははははっ!(^O^v

アスカ:アンタバカぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!?
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