(作者から一言)

そういえば、こんなお話だったんですよね。最初の内は・・・(汗)  ※今回のタイトルは某映画とは関係ありません。

 

シンジ「あ・・あの・・・・こんな人を見かけませんでしたか?」

    ・・・・・・・・・・・・・

シンジ(父さん、ここにもいないのか・・・)

    ・・・・・・・・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 綾波司令   第16話「aiのくらし」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

月曜日の朝。

トウジ「碇のヤツ、今日学校休みかいナ・・・。」

ケンスケ「綾波と惣流は来てるのに・・・珍しいな。」

 

ヒカリ「アスカ、碇君は?」

アスカ「・・・・・・。」

ヒカリ「・・・アスカ?」

アスカ「・・・行方不明なのよ。」

 

トウジ・ケンスケ「「何ィ〜〜!」」

素っ頓狂な叫びが始業前の教室に響き渡り、窓際からはそっと流し目が送られた。

 

アスカ「一昨日の朝、家を出てったきり、帰ってこないのよ。」

ヒカリ「じゃあ、もう2日も・・・!」

ざわめく周囲の反応をよそに深刻な会話は続く。

アスカ「ミサトも、心配してあっちこっち調べ回ってるけど・・・分からないみたい。・・・ほんっとにバカシンジ

    なんだから! 帰ってきたら、ブン殴ってやるわ!」

ヒカリ(アスカをこんなに心配させて・・・碇君、どこにいるの?)

 

一方こちらは、思わず顔を見合わせている二人。

ケンスケ「一昨日っていったら・・・」

トウジ「・・あぁ。親父さん探しに行くのに、一緒に行ったろいうワシらの申し出を珍しく断った日や。」

 

アスカ「!」

ヒカリ「鈴原、それ本当?」

ピクリッと顔を上げた二人の少女が、驚いた目をトウジ達に向ける。

 

トウジ「間違いないで。『たまには一人で探したい』、言いおってな・・・ホンマ、水クサイやっちゃで」

バッ――! 頭突きを食らわす勢いで駆け寄ってきたのは、もちろん、赤いインターフェイス。

アスカ「(グイッ!!)それで、ドコへ行くって言ってたのよっ!?」

トウジの胸倉を掴んで、噛みつくようにアスカが問い質す。

トウジ「う・・・それが分からんさかい、ワシ等もこうして悩んどるんやないか!」

ヒカリ「止めなさいよ! アスカ!」

アスカ「あ・・・・ごめん。」

ジャージから、ハッとしたように手が離れ、赤茶色の髪が下を向く。

トウジ「・・・そやけど、一つだけハッキリしとるコトがある!」

―――ここで放っておけないのが、男・鈴原の良いトコロである。

アスカ・ヒカリ「「何!?(ググッ!)」」

案の定、期待に瞳を輝かせて身を乗り出すアスカ、そしてヒカリ。

ケンスケ「ん?」

はてな? ・・・と、こちらは首をかしげるケンスケ。

トウジ「今頃・・・」

アスカ・ヒカリ・ケンスケ「「「『今頃』?」」」

三人の声は見事にユニゾンした。

トウジ「アイツは、猛烈に腹を減らして泣いとる!――いうことやっ!」

アスカ・ヒカリ・ケンスケ「「「・・・・・・・」」」

三人の顔から目と鼻が消え、縦線が5、6本、サーッと描かれた。

トウジ「ん? どないしたんや?」

ヒカリ「ス〜ズ〜ハ〜ラ〜!!」

―――これが、男・鈴原のお約束である。

 

スッ――スタスタスタ――ガララッ――スタスタスタ・・・

レイ「・・・先生、早退します。」

 

――レイのマンション――

レイ「ただいま。」

カチャ――

「・・・あ、おかえりなさい。」 

リビングにいた人物が、扉を開けたレイに向かって微笑んだ。

レイ「お腹空いた? スグ用意するから・・・待っていて、碇君。」

シンジ「うん。」

 

二人の同棲は、実は“2日前”から始まってたりする!

土曜の朝、例によって「ゲンドウ(←本物)探し」に出発したシンジは、捜索範囲を箱根以遠へ拡大、

一人湯河原まで行ったのは良かったものの、乱暴に交差点を曲がってきた車を避けた拍子に舗道に

転倒。所持していたセキュリティーカードからネルフ関係者と判明し、ネルフ中央病院へ。その情報は

諜報2課から綾波司令の元へ真っ先に報告され、駆けつけた彼女は医師からの説明を聞くと、直ちに

中央病院及び諜報部へデータの隠匿を指示。そして、シンジを自分のマンションへと運び込んだのだ。

 

レイ「おいしい、碇君?」

シンジ「うん!」

献立は、最近とみに腕を上げた“おかゆ”である。

額と左腕に巻かれた包帯は、今日ぐらいに取れそうだ。

それより、問題は―――

シンジ「おかあさん!! おかわり!」

レイ「・・・・・・。」

 

レイ「・・・記憶喪失。」

医師「事故のショックによる、一時的なものです。現在、彼の意識は3、4歳の頃に戻っていて、それ以降の

    記憶がすっかり抜け落ちている状態なのです。」

レイ「治るの?」

医師「心配ありません。あくまで一時的なものですから。ただ、記憶が回復するまでの間――そう長い期間で

    はないと思われますが――彼に付き添って、その世話をする人物が必要です。」

レイ「・・・分かったわ。」

 

シンジ「ねぇ、お話して? お話!」

お昼ご飯を食べ終えた“シンジ君”は、今タオルケットを掛けてもらって応接セットの長椅子の上。

レイ「・・・・昔々、ある所に『白雪姫』という名前のそれはそれは乱暴な魔法使いが住んでたの・・・。」

瞳を輝かせるシンジの枕元に椅子を寄せて、レイはぼそぼそと最近読んだ物語を語って聞かせる。

シンジ「・・・・・Z・・・ZZ」

レイ「・・・可哀相な小人達は、泣く泣く白雪姫の後を付いて・・・・・・? 寝たの・・・?」

―――ふわっ

そっとタオルケットを掛け直してあげた彼女は、いつにもまして無防備な寝顔にじ〜っと見入ってたりする。

 

――赤木博士の研究室――

リツコ「シンジ君が家出? またなの?(カタ・・)」

ミサト「ここのところずっと落ちついていたから安心してたんだけど・・・・・友達の家にも行ってないのよね。」

端末機を操作する赤木博士の後ろで、珍しくカップにも手をつけずにいるのは葛城三佐。

リツコ「諜報2課から連絡は?(カタカタ・・)」

ミサト「全然無いのよ・・・アイツら、仕事してんのかしら?」

苛立たしげな顔を横に向けて、少々八つ当たり気味の発言をかますミサト。

濡れ衣を掛けられた恰好の彼らにしてみれば、『仕事をしている』から沈黙を守っているだけである。

リツコ「コトは重大よ、ミサト。(カタカタカタ・・)」

と、リツコおねーさまはモニターを見ながら、アッサリ一言―――醒めてる分、余計にコワイ。

リツコ「分かってるわ。レイと副司令には昨日報告しといたから・・・。」

すっかりヘコんだ保護者兼作戦課長は、冷めたカップの前で両肘を付き、顎を載せて呟くのだった。

 

――レイのマンション――

シンジ「ス〜〜、ス〜〜・・」

かきかき。

レイ『碇君、本部へ行ってきます。17:30(「ひとななさんまる」)に帰るわ。』

じ〜〜〜―――― くしゃくしゃ ・・・・・かきかき。

レイ『碇君、良い子にしていなければダメ。』

フルフル―――― くしゃ ・・・・・かきかき。

レイ『私のこと、好き?』

・・・・・・(ぽっ)――― くしゃくしゃくしゃ

レイ「・・・・・・・」

かきかき。

レイ『すぐにかえるわ。』

スッ―――プシュン・・

 

――ネルフ本部 長官公務室――

冬月「心配だな、レイ君。」

レイ「・・・・・・・。」

冬月「心当たりはないのかね?」

レイ「・・・・・・・分からない。」

自分の椅子から立ち上がった冬月は、大机を回ってジオフロントを眺めた。後ろ手を組んだ高い背中が問う。

冬月「彼が碇を探しているという噂は、本当かね?」

レイ「・・・ええ。」

振り向いた冬月は、『困ったもんだ』という顔で、ジッと動かないレイの水色の髪を眺めるのだった。

冬月「・・・そうか。」

・・・・・・・・・

伊吹「あら、司令もうお帰りですか?」

中学の制服に着替えたレイが、通路を行くマヤの横を足早に通り過ぎた。

居合わせた青葉も、『おや?』という表情を浮かべて歩み去るその後ろ姿を見送る。

青葉「珍しいな・・・いつもはヒマそうなのに。」

伊吹「ねぇ・・・。」

綾波司令の情報操作は、とりあえず成功しているみたいである。

 

――レイのマンション――

プシュンッ

レイ「ただい・・」

「わ――ん、わ――ん!」

レイ「!」

タタタ・・・!

レイ「碇君!」

部屋の中では、お昼寝から目覚めた“シンジ君”が泣きながらレイを探しているのだった。

シンジ「わ――ん・・・・あっ、おかあさーん!」

だきっ!! シンジ(もちろん、中学生サイズですが・・・)がレイに抱きついた。

レイ「!・・・・・。」

分かっていても顔が赤くなってしまうのは仕方がない。

シンジ「おかあさーん! おかあさーん! どこに行ってたのー!?」

制服姿のレイの胸に、泣きながら顔をうずめてイヤイヤをする碇少年。書いててちょっと面白くない。

しかし、そこは綾波司令。そっと泣き虫君の頭を撫でると、耳元で優しくささやくのだった。

レイ「・・・ごめんなさい。もうどこへも行かないわ。」

シンジ「本当?(グスッ)」

半信半疑で顔を上げたシンジ君に、今度はオデコとオデコがくっつく位に顔を近づける。

レイ「晩御飯の用意をするから、待っていて。」

お母さんそのものの優しい笑顔に、ピタリと泣き止むシンジ君。ニッコリ笑って、

シンジ「うん!」

・・・・・・・・

晩御飯を食べたら、当然次は“お風呂”である。

擦り傷程度の怪我だったので、もう入れても良かろうとレイは判断した。

シンジ、2日ぶりの御入浴。

レイ「お風呂が沸いたから、入ってくるのよ。」

ところがシンジ君は、じーっと彼女を見ているではないか。

レイ「・・・何?」

シンジ「一緒に入る。」

レイ「・・・・・・。」

シンジ「お母さんと一緒に入る! 僕、一人で洗えないもん!」

――― くどいようだが、一応、碇シンジの名誉のために断っておく。彼の心は、いま幼児期に戻っているのだ。

レイ「そうね。」

チャポ〜ン♪

・・・・・・・・

レイ「どう、気持ち良かった?」

シンジ「うん!」

レイ「そう。」

シンジ「ねえ、おかあさん。」

レイ「なに?」

シンジ「どうしておっぱいが小さくなったの?」

レイ「・・・・・・。」

シンジ「ねぇ、どうして?」

レイ「・・・・大きいのがイイの?

シンジ「え?」

レイ「大きいのがイイの? イカリクン??

シンジ「ひくっ! こ、こわいよーっ!!」

―――幼児化してるとはいえ、シンジが悪い。

 

一方、そのころ葛城家では・・・

 

――ミサトのマンション――

イライライライラ!

アスカ「ほんとに、あのバカッ、どこに行っちゃったのよっ!?」

ガチャガチャ! と、アスカが乱暴に2人と1羽分の食器を洗ってたりする。

世帯主はテーブルで黙々とビールを啜り、温泉ペンギンはリビングでTVを鑑賞中。

ブツブツ怒りながら洗い物をする彼女だが、どーしても目はラップを掛けた食器に行ってしまう。

アスカ「ネルフは、大事なパイロット一人保護できないの!!??」

けれど、シンジの上司であり保護者でもある人物は黙ってビールをアオリ続ける。

アスカ「ミサトもリツコも副司令も、何やってるのよ!?」

さらに一口分軽くなったビール缶が、ゆっくりとテーブルの上に置かれた。

ミサト「・・・やめなさい。」

アスカ「なによ! スグそーやって大人ぶって! ホントは何にもできないくせにっ!!」

洗い物を終えた手が、ピンク色のフリル付きエプロンを椅子の上に脱ぎ捨てた。

ミサト「アスカ! やめなさい!!」

―――(ペンペン談)『いや、驚きましたよ。どーせいつもの口喧嘩だろ、と思って振り向いたんですがね・・・

             あのアスカの両目に、こ――んな大粒の涙が今にもこぼれそうになってるじゃありませ

             んか! これには、ミサトさんもびっくりしたみたいですな・・・。』

アスカ「・・・ぶつならぶてばいいじゃない?! 大キライよ・・・ ミサトなんかっっ!!」

ダダ・・・ピシャンッ!

アスカが叩き付けるように閉めていった襖は、勢い余ってハネ返ってしまった。

ペンペンが目をパチクリさせる。

―― タンッ!

御丁寧にも閉め直された襖に向かって、ミサトはひとり呟くのだった。

ミサト「泣きたいのは、こっちの方よ・・・。」

ここ、葛城家だけは、ちょっぴりシリアス展開みたいである。

 

――レイのマンション――

レイ「もう遅いから、寝ましょ。」

シンジ「ハ――イ。」

リビングの真ん中に敷いた夏布団に、レイのTシャツを着たシンジがもぐり込む。

枕元には、キチンと正座をして、手に団扇を持った少女の姿。

薄い布団の中から彼女を見上げるきらきらの瞳。

シンジ「・・・おかあさん。」

ドキッ・・

レイ「・・・何。」

シンジ「大好きっ!」

ぼっ―――

レイ「・・・・・・。」

シンジ「あかあさん?」

レイ「・・・な、なんでもないわ。・・・さぁ、もう寝るのよ。」

シンジ「はーい・・・」

意外にあっさり、スヤスヤと寝入るシンジ君。

レイ「・・・・・。(パタパタパタ・・)」

―――で、それから彼女がどうしたかというと

スッ・・・ハラリ、ハラリ・・・そ〜〜〜

レイ「おやすみなさい、碇君・・・。」

ぴとっ

―――綾波司令、少々暴走気味である。

 

そんなこんなで、2日が経過。

この間、レイは連日学校とネルフをこっそり早退し、シンジに代わって家事をする羽目になったアスカは

日々イライラを募らせ、ミサトはリツコから保護者失格のレッテルを二重三重に貼られていくのであった。

そして迎えた、水曜日。

 

――レイのマンション――

シンジ「おかあさん、おとうさんは?」

朝食のパンケーキを美味しそうに食べていたシンジが顔を上げて言った。

ピクッとレイのフォークが止まる。

シンジ「おとうさん・・・またお仕事なの?」

レイ「・・・・・・・。」

シンジ「・・・さびしいなぁ。」

レイ「・・・そう。」

シンジ「早く帰って来ないかな〜。」

レイ「・・・・・・お父さんのこと・・・好きなの?」

シンジ「うん! おとうさん優しいもんっ!」

レイ「・・・そう。あなたの知っているお父さんは優しいのね・・・。」

・・・・・・・・

レイ「じゃ、行ってくるわ。すぐに帰るから良い子にしているのよ。」

シンジ「僕も一緒に行くーっ。」

レイ「それはできないわ。」

シンジ「一緒に行く! 一緒に行くーう!(ドタバタ!)」

フローリングの床の上に寝転がって、一生懸命ダダをこねる碇少年。冷静に見れば全然可愛くない。

レイ「・・・・・・・・・・おみやげ。」

シンジ「エッ?」

レイ「おみやげを買ってくるわ。」

シンジ「本当!?」

レイ「だから、良い子にしているのよ。」

シンジ「うん! ・・・わーい、おみやげ! おみやげ!」

一転して、ピョンピョンと踊り上がって喜ぶシンジ。

あの単純さは、すでにこの頃から芽生えていたようである。

プシュンッ・・・

―――と、ここまでは、これまでと大して変わりなく過ぎたのだが・・・

お昼前。

レイ「ただいま。」

シ――ン・・・ここ数日聞きなれた返事がない。

レイ「碇君・・・?」

不審に思いながらもリビングへ入る――――シンジの姿は消えてしまっていた。

レイは、珍しくパニックに陥った。

レイ(どこ?・・・・・・!!)

慌てて室内を見回した瞳に、薄く開いた“自分の部屋”のドアが飛び込んできた。

ハッとして駆け寄ったレイの手が、4日振りにその扉を開ける―――

―――シンジが、呆然と部屋の真ん中に突っ立っていた。入口の気配に、ビクッと肩を震わせて後ろを振り返る。

シンジ「・・・・綾、波・・・?」

レイは目を見開いた。

レイ「碇君・・・」

シンジ「綾波、レイ・・・だよね?」

レイ「記憶が・・・戻ったの?」

シンジの口から次々と記憶の断片が迸った。

シンジ「どうして僕はここにいるんだろう・・・? 父さんやミサトさんは・・・リツコさん、マヤさん・・・ネルフの

    みんな・・・・トウジ! ケンスケ! 洞木さん! ・・・・それに、アスカ!! ・・・・うくっ!」

頭を抱えてシンジがうずくまる。レイは、我知らず走り寄っていた。

レイ「記憶が一度に回復したのね。・・・大丈夫、もう心配無いわ。」

そっとシンジを抱きしめる。

目が眩むような意識の明滅に一瞬気が遠くなったシンジを懐かしい匂いと温もりが包み込んでいた。

安心したようにシンジが顔を上げる。

シンジ「え?・・・母さん?」

目をパチクリするシンジの前で、赤い瞳に微笑みが浮かんでいた。

シンジ「・・・じゃなくて・・綾波・・・・ゴメン、ヘンなこと言って。」

レイ「いいの、気にしてないわ。」

しばらくじっとしていた二人は、やがて静かに離れた。

シンジ「ありがとう。綾波が世話をしてくれていたんだね。」

レイ「あなたは・・・お父さんを探しに行く途中で事故に遭ったのよ。」

シンジ「あ・・・そうだ、そうだったんだ! あの時僕は車を避けようとして・・・? でも、どうして綾波の部屋に

    いるの? ミサトさんやアスカは?」

レイ「・・・・・・。」

シンジ「ねえ、綾・・・」

彼を無言で見返すその人物は、すでに母の代わりではなく、シンジが知っている、いつものレイだった。

レイ「私は、私のことを知っているわ。」

シンジの目を真っ直ぐに見据えて、レイは言う。

シンジ「え・・・どういうこと?」

胸の奥で、何故かドキリッとするものをシンジは感じた。

レイ「あなたは、あなた自身の事を知っているの?」

シンジ「僕・・・自身?」

コクリ―――

シンジ「・・・・・・。」

レイの手がおもむろに携帯電話を取り出した。白く細い指がボタンを押す。

レイ「(Pi・・)・・・ええ。サードチルドレンが記憶を回復したわ・・・・お願い(・・Pi)。」

シンジ「どこに電話したの?」

Pinphoonn―――プシュンッ

「「失礼します。」」

ものの1分も経たない内に、黒服2人がリビングへ入ってきた。

シンジ「え・・・」

レイ「彼を葛城三佐の家へ帰してあげて。」

黒服A「はっ。」

黒服B「来るんだ。」

大きい方の男が、シンジの腕を取ろうと手を伸ばす。

シンジ「い、いいよ・・・自分で帰れるから。」

細身のリーダー格らしい男が、レイを振り返った。

黒服A「どうします?」

レイ「送ってあげて。」

シンジには冷たく聞こえる声が黒服に命令した。

黒服A「はっ!」

黒服B「行こうか。司令がああ仰ってるんだ。」

シンジ「・・・・・・。」

プシュンッ―――

レイ「(Pi・・)中央病院の――先生を。・・・・・・・・そう。再検査は・・・・・・ええ・・・ありがとう。」 

 

――ミサトのマンション――

ピンポーン!

シンジ「ただいま。」

 

アスカ&ミサト&ペンペン「「「 !!! 」」」

 

ドタドタドタッ・・・!

アスカ「シンジ!!」

ミサト「シンジ君!!」

ペンペン「アギャッ!」

 

シンジ「ゴ、ゴメン・・・遅くなっちゃって・・」

先頭を切って飛び出してきたアスカは、シンジの前で慌てて腕組みをすると、赤くなり始めた顔を大急ぎで

横へ逸らせて口を開いた。

アスカ「い、いいのよっ! そ、それより、一体ドコに行ってたワケ!? アンタがいない間、アタシが家事

    やらされて大変だったんだからっ!」

シンジ「う・・・うん。それが・・」

突っ立ったまま弁解を始めるシンジ。こういう素直じゃない歓迎も今は不思議と心地良い。

ミサト「シンジ君・・・おかえりなさい。」

以前、プラットフォームの彼に向かって掛けられたのと同じ声がシンジを包み込んだ。

シンジ「ミサトさん・・・ごめんなさい。心配掛けちゃって・・・ほんとに、その・・」

―――が、その声は、突然ガラリと調子を変えた。

ミサト「・・・って、言うと思ったら、大間違いよっ!! いったいドコほっつき歩いてたの!? 4日よ、4日っ!!!」

シンジ「あっ・・・い、いや、そ、その・・・・わっ!」

しかし、そんな怒声とは裏腹に、シドロモドロになったシンジの頭を、むき出しの腕と木綿の布地に覆われた胸が

ぎゅっと挟み込んだ。大人の女性の感触が、混乱中の彼の顔を一気に赤面させる。

当〜〜然、その隣では、うら若き乙女がギョッとしてムーーッとしてたりするわけで・・・

アスカ「ちょっと、ミサトォ!! 言葉と身体がバラバラじゃないのっ!」

ミサト「タマにはイイじゃな〜い♪ これがオヤゴコロってもんよぉ〜〜♪」

ギュ〜〜。

アスカ「ミサトがやると、ヤラシイのよーー!!」

ヤイノ! ヤイノ!

身動きに窮したシンジが、チラリと足下を見ると、ペンペンが彼らの周りを勢い良く走り回っているのだった。

ペンペン「ギャッ! ギャッ!」

シンジ「ありがとう、ペンペン。」

・・・・・・・・・

アスカ「・・・で、真相は何なのよ?」

ミサト「(グビグビグビ・・)」

ペンペン「・・・・・。」

帰宅騒ぎが一段落ついた後、家の中へ入ったシンジは着替えすら許されずに、アスカの詰問を受けていた。

シンジ「それが・・・その・・・どう、言ったらいいか・・」

アスカ「なに口ごもってんのよっ! ハッキリ説明しなさいよっ!!」

シンジ「う・・・うん。」

短パン、タンクトップ姿の少女が、両手をリビングのテーブルについて身を乗り出している。

その向こう側には、ポロシャツ姿で正座しながら仰け反っている、本編では主人公だった少年。

ギャラリー二人(=一人と一羽)は、テーブルの左右に座って耳を澄ませていた。

シンジ(ど、どうしよう? なんだか言ってはいけない気がする・・・)

そりゃそーだろう。

アスカ「いったいドコで、何やってたっていうのよ!!??」

バンッ!

シンジ「そ、それは・・・」

アスカ「ん?」

ミサト「(グビ・・)」 (←耳ダ○ボ)

ペンペン「・・・クワ〜。」 (←『何だか知らんが、黙っといた方がイイんじゃないか?』と言ってる)

シンジ「その・・・」

アスカ「じれったいわね! さっさと言いなさいよっ!!」

バンッ!バンッ!

シンジ「だ、だから・・・」

アスカ「んん!?」

ミサト「(ピタッ・・)」 (←耳スーパーダ○ボ)

ペンペン「・・・・(冷汗)。」 (←『おい、止めとけって!』と思ってる)

―――5分後

シンジ「・・・ど、どうして一言も言ってないのに、あ、綾波の家にいたことが、わ、判ったん・・・だろう?」

ガクッ!

ペンペン「ギャワワッ!? (だ、大丈夫か!?)」

―――車を避け損なうより、よっぽど重傷を負ったみたいである。

 

――レイのマンション前――

ズンズンズンッ!

アスカ「ここよ! ミサト!」

ミサト「よ――し。今日という今日は、オネーサンがた〜ぷり叱ってあげなきゃね・・・」

それっ! 2人はエレベーターに飛び込んだ。

アスカ「あそこ!」

ミサト「ん〜〜? ドア・・・開いてるみたいね?」

アスカが指差す部屋を手をかざして眺めるミサト。

アスカ・ミサト((さては逃げたか?))  

抜き足、差し足、そ〜〜〜っと・・・

アスカ(むっ?)

ミサト(レイ・・・)

リビングの広い床の真ん中に、ネルフ司令長官兼少女がぺったりと座っていた。横には口を開けた通学鞄。

彼女が見つめる床の上には・・・・3、4歳位の男の子が喜びそうな“おもちゃの自動車”が置かれていた。

入口の2人に気が付かないのか、レイはその買ったばかりの小さな自動車をぼんやり眺めているのだった。

レイ「・・・もう・・・いらないのね・・・」 

アスカ(な、なにが『・・・もう・・・いらないのね・・・』よっ。こっちがどれだけ・・・)

―――ツンツン

ミサト(行きましょ・・・アスカ)

アスカ(で、でもぉーー!)

ミサト(いいから、いいから!)

アスカ(うぅ〜〜〜っっ!!)

ガタンッ!

ミサト(うっ!)

引き返そうと方向を変えたミサトの足が、やはり開け放しになっていたリビングのドアを蹴ってしまった。

サッと顔を上げる綾波司令。

レイ「・・・・・碇君?」

立ち上がって壁面のコントロールパネルへ手を伸ばす。

Pi―――プシュンッ

とりあえず脱出を試みる二人の目の前で、玄関のドアが自動的に閉まっていった。

アスカ・ミサト「「ゲッ!」」

アスカ・ミサト((なんなのよ〜、この家は・・・))

スタスタスタ!

レイ「!・・・・葛城三佐に、『アンタ、バカ』・・・。」

ミサト「コ、コンチワ〜〜・・・ハハ」

アスカ「ちゃんと名前で呼びなさいよっ!!」

 

――リビング(ただし、20畳敷き)――

レイ「・・・で、何をしに来たの?」

長椅子に座って、静かに紅茶を口元へ運ぶレイ。白いレースのカーテンが風に揺れている。

向かい合う椅子には、バツの悪そうなミサトとむくれた顔のアスカ。

二人の前にも、やはり紅茶が出されていた―――などという情景描写はとりあえず置いといて・・・

アスカ「なんで、シンジがファーストの部屋にいたのよっ!」

レイ「(スゥー)」 (←紅茶飲んでます)

アスカ「アタシ達が、どれだけシンジのこと心配してたか判ってんのっっ!?」

レイ「・・・・(カチャリ)。言いたいコトはそれだけ?」 

アスカ「な・・・なんですってぇえーーーーっ!」

ミサト「ま、まあまあ! 落ちついて、アスカ。それに、レイもそんなにツンツンしないで、ね?」

アスカ「『落ちつけ』っていう方がムリよっ!」

レイ「私は、別にツンツンなんてしていないわ。」

ミサト「まあまあ・・・」

――――なんだか話が長くなりそうなので、中略――――

レイ「彼に必要なのは、母性と安心だわ。」

アスカ「違うわっ! アイツに必要なのは、根性と忍耐よ!!」

ミサト「いいえ、綺麗で素敵なオネーサンよんっ!」

――――論点がズレてってるので、やっぱり中略――――

レイ「とりあえず、私は司令。今回の処置は、彼の失われた記憶の回復を図るための行動としては、ベストだわ。」

アスカ「勝手に自分で決めるんじゃないわよっ!」

ミサト(トホホ・・・。困ったもんだわ、コリャ・・・)

―――ちなみに、事故に関するデータ隠匿の事実をまだ知らないアスカとミサトなのであった。

 

――翌日 第壱中学屋上―― 

シンジ「綾波、昨日、あれから・・・アスカと大喧嘩したんだって?」

レイ「・・・・・・・。」

シンジ「でも・・・僕が綾波の家にいること、どうしてアスカ達に教えなかったの? そりゃあ、アスカが怒るのも・・・」

レイ「アスカの気持ちが判るわ・・・。」

シンジ「え・・・?」

レイ「・・・なんでもない。」

すたすた・・・

シンジ「あ、綾波。」

レイ「何?」

シンジ「綾波は・・・・・・本当は知ってるんじゃないの? 父さんがどうなったのか。」

レイ「・・・・・・・。」

シンジ「・・・・・・。」

レイ「碇君・・・・あなたがいないと思えば、あなたのお父さんは本当にいなくなってしまうわ。」

シンジ「えっ?・・・・・・・。そう・・・そういうものかもしれないね。」

レイ「そうよ。」

 

――同日放課後 ネルフ本部 長官公務室――

冬月「レイ君・・・いくらなんでも誘拐はイカンぞ。誘拐は。」

レイ「・・・・・・何のコト。」

冬月「だから、ネルフ総司令たるものが個人的感情に流されてだな・・」

レイ「そんな記録はドコにもないわ。」

冬月「な!」

レイ「副司令、あなた何か勘違いをしているわズゴゴゴゴゴゴゴッ・・・!!

冬月「(うっ!)・・・・そ、そうかもしれんな。」

レイ「判ったら、次回までにその老人ボケを治しておいて。」

スタスタ・・

冬月(・・・・これも定めなのか?)

どんな話であれ、結局最後に涙するのは、副司令・冬月コウゾウのお約束なのであった。

 

 

『綾波司令』 第16話「aiのくらし」 終

 

 

次回予告

「ねぇ、最近どう? ・・・あっちの方は?」

「ご想像にお任せするわ。 ・・・それより、アナタの方こそどうなの?」

「それがもー、ここんトコ言い寄ってくるヤツが多くて! これがホントの、ヨリドリミドリ、フカミドリってか!?」

「・・・声が上ズっているわよ、ミサト。」

次回、『綾波司令』 第17話 「恋人?、誕生」

お楽しみにねンッ!


マナ:あーん、わたしもシンジのお世話してみたーい。

アスカ:よくもファーストの奴っ! 隠してたわねっ!(ーー#

マナ:そりゃ、このシンジ見たらご本読んであげたくなるわ。

アスカ:だからって、拉致してたのは許せないっ!

マナ:拉致って・・・綾波さん、治療したただけじゃない。

アスカ:治療とは思えない行動をいくつか取ってるわっ!(ーー#

マナ:それは言えるかも。(^^;

アスカ:あわよくば、このままシンジを奪い去ろうとしてたに違いないっ!(ーー#

マナ:そこまで疑っちゃ綾波さんが可愛そうよ。

アスカ:いーえ。あの女ならやりかねないわっ。

マナ:でも、シンジは幼児化してたのよ? アスカのことはわかんないんじゃない? 綾波さんもお母さんだと思ってたし。

アスカ:だからいいのよっ!

マナ:なんで? アスカのことまだ知らないのよ?

アスカ:シンジの潜在意識に、”アタシの言うことは絶対”って叩き込むのよっ!

マナ:・・・・・・綾波さんに拾われて良かったかも。(汗)
作者"k100"様へのメール/小説の感想はこちら。
k100@poem.ocn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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