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 綾波司令  第19話「決戦! ジオフロント」

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リツコ「みんな、いる?」

学校が終わってチルドレン達が集まっていた待機室へ、荷物を抱えた赤木博士が入ってきた。

半透明のビニール袋が三つ・・・・白衣に覆われた胸と、肘まで袖をめくり上げた両腕に

窮屈そうに挟まれている。

リツコ「今日から新しいプラグスーツに替えてもらうわ。」

シンジ「え? 今までのじゃダメなんですか?」

アスカ「カッコイイのでなきゃ、イヤよっ。」

レイ「・・・・・・。」

少し不思議そうな顔は戦闘員兼ネルフ司令。

『そんな話は聞いていないわ』と赤い瞳が問い掛ける。

三者三様の反応を返す子供達を見て、レンズを掛けた目が笑いをこらえる様にちょっと俯く。

リツコ「残念ながら、今までと同じものよ。そろそろ古くなってイタんできたから替え時なの。」

シンジ「そうですか。」

アスカ「え〜〜〜! ツマンないのォ。」

レイ「・・・そうなの。」

淡白そのもののシンジといつも通り賑やかなアスカはさておき、レイがかすかに見せた落胆の素振りは

リツコの心に軽い感動を呼び起こしていた。

リツコ「まあ、そう言わないで。その代わり、といってはなんだけど、新しい分だけ着心地は良いハズよ。」

アスカ「そりゃま〜〜、そーだろうけどぉ〜」

唇を尖らせたアスカが、同意を求めるように振り向いたその先には―――

そう。良かったわね・・・レイ。

ごく短い時間、無言で立ち尽くした赤木博士は、気を取り直すとビニール袋に目を落とした。

リツコ「ええっと・・・上から順番に・・」

 

ガウン・・・

 

突然、待機室の照明が落ちた。

本部内に、第一種戦闘配置への移行を告げる警報が鳴り響く。

リツコ「どうしたの?!」

明かりの消えた天井を振り仰いでリツコが叫んだ。

 

伊吹『ジオフロント直上に使徒G出現! Gの発するエネルギー弾により、第22番装甲まで貫通されました!!

   エヴァの発進を急いでください!』

 

リツコ「一撃で全ての装甲板が・・・!」

シンジ「リツコさん!!」

三人のチルドレンが、ひったくるように彼女の手から手探りでビニール袋を取り上げた。

レイ「赤木博士・・・」

その声の意味する所は、リツコにも良く分かっていた。

暗闇の向こうの相手に向かって頷き掛ける。

リツコ「零号機の凍結は一時解除します。380秒後には発進可能・・・でも、無理は禁物よ。」

コクリ。

リツコ「私は発令所へ戻るわ!」

壁に手を沿えながら、赤木博士が待機室を出て行った。

 

レイ「ここで着替えましょ。」

アスカ「え――! 三人一緒にィ!?」

シンジ「そんな・・・!」

レイの提案にアスカとシンジが悲鳴を上げた。

レイ「時間が惜しいわ。非常事態・・・。」

アスカ「・・・そうね。シンジ! 見たらコロスわよ!!」

暗がりの中で、ニ人の少女が次々に衣服を脱いでゆく。

照明が落ちているため、その姿はまったくといっていいほど見えないが、

衣擦れの音だけは、否応なくシンジの耳に入っていた。

シンジ(振り向いちゃダメだ、振り向いちゃダメだ、振り向いちゃダメだ―――)

レイは早くも裸になったようだ。なんとなく気配でそれが分かる。

アスカ「・・・よっと。」

何の掛け声だろう? 迂闊にも振り返ってしまったシンジの顔面に暖かい布切れが命中した。

アスカ「こっち見てるでしょっ!? 判るんだから!」

どうやら、ブラジャーを投げたらしい。

シンジ「ウプッ!・・・ち、違うよっ!」

偶然、鼻先をくすぐったアスカの匂いにドギマギしながらも、必死で反論するシンジ。

アスカ「へ――んだ。見たいなら見たいって、ハッキリ言ったらどうなの? スケベシンジ!」

シンジ「だ、誰がアスカなんか!」

アスカ「じゃ、誰のなら見たいのよっ!?」

シンジ「そ、それは・・・」

アスカ「あ〜〜ぁ、ココにいるのがバカシンジじゃなくてカジさんだったら全部見せてあげるのになぁ〜。」

シンジ「い、いくら加持さんだって、め、迷惑だよっ。」

アスカ「まっ、どういう意味よっ!?」

不毛(?)の争いに、レイがクギを刺した。

レイ「二人とも、早く・・・」

シンジ「う、うん!」

アスカ「フンッ。」

半分着替えていたアスカに続いて、我に返ったシンジも慌てて着替えを完了する。

プシュッ!・・・プシュッ!・・・・・・・プシュッ!

 

パッ!

 

ちょうど着替えが終了したところで、電源が復旧した。

 

レイ「・・・・?」

アスカ「アッ!」

シンジ「ワッ!!」

 

三人の目が、仲間と自分のスーツを見比べる。

 

レイが着ていたのは――――真っ赤なアスカのプラグスーツ。

アスカが着ていたのは―――レイの純白のプラグスーツ。

シンジが着ていたのは―――やっぱり真っ赤なプラグスーツ。

 

レイが、『?』といった顔で自分の恰好を眺めている。

アスカ「キツ〜イ!」

スーツを引っ張りながら悲鳴を上げるアスカの横で、レイがポツリと呟いた。

レイ「・・・ウエストが緩いわ。」

アスカ「違うわ、バストがキツイのっ・・・ん?・・・『ウエスト』ってどういう意味よ!?」

レイ「アナタこそ『バスト』がどうしたというの?」

シンジ「なんでリツコさん、アスカの分を二つも持って来るんだよ?!」

またもやアスカのスーツを着てしまったシンジは、不毛の争い―その2―を始めたニ人のパイロットに挟まれ、

やはり両手を股の間に挟んで“もじもじポーズ”なのである。

アスカ「取り替えましょうよ!」

レイ「ダメ。時間が無いわ。」

レイが耳をそばだてた。

 

ズズ〜〜ン

 

伊吹『使徒G、ジオフロント内部に侵入! エヴァの発進、急いで!!』

 

アスカ「!!」

レイ「急ぎましょ。」

シンジ(は、恥ずかしいなぁ・・・綾波にまで見られてしまった)

 

 

ミサト「三人共、用意はいい?!」

 

レイ 『ハイ。』

シンジ『ハイ。』

アスカ『ハイ。』

 

スクリーンに並んで映ったチルドレン達が口々に応える。

 

ミサト「・・・へ?」

伊吹「あっ!」

冬月「うん?」

日向&青葉(シンジ君・・・そういう趣味だったのか)

リツコ「あら? 私が間違えたのかしら。」

反省の色が全くない赤木博士の声に、発令所の全員がズッコケた。

 

アスカ『笑わないでよ! こっちだって恥ずかしいんだから! (カジさんが出張中でよかったぁ・・・)』

シンジ『(穴があったら、入りたい・・・)』

レイ『葛城三佐、発進命令を。』 (←真顔です)

 

ミサト「ゴメン、ゴメン!・・・(キッ)それじゃ、3人とも頼んだわよ!!」

 

レイ『エヴァ零号機、発進。』

バシュッ!!

シンジ『エヴァ初号機、発進します!』

バシュッ!!

アスカ『エヴァ弐号機、発進っ!!』

バシュッ!!

 

 

ズォォォォ・・・・・・・

 

ジオフロントの地表から十数メートル。そこに、“ゲンドウ”が浮かんでいた。

両手を腰に当て、毛むくじゃらの胸を反り返らせた姿勢で、首だけを右へ、左へと巡らせている。

その頭が静止する度に、サングラスが光り、“ゲンドウ”が睨んだ大地が裂け、閃光が立ち上がった。

 

シンジ「この状況って・・・!?」

アスカ「ま、まさか!!」

レイ「・・・覚悟が必要みたいね。」

 

かつて、ネルフ本部とエヴァが最大の危機を迎えた戦いの再来―――第14使徒ゼルエルの複製。

3人の心に、一気に緊張が走った。

 

“ゲンドウ”の顔が、何気なく・・・ゆっくりと弐号機に向けられた。

 

シンジ「アスカ!! 危ない!!」

アスカ「ハッ!」

 

ビガッ!!・・・ズガ――ン!!

 

ジャンプ一番! アスカが空中に身をかわす。

アスカ「こんな不意打ちなんか・・・・アッッ!!!」

 

バグォンッ!

 

地面に降り立つ直前、真紅の装甲板が白色の光に包まれた。

アスカ「キャアアッ!」

胸部装甲を失った機体が、ジオフロントの木々をなぎ倒して、仰向けに倒れ込む。

シンジ「ア、アスカ? ・・・アスカーッ!!」

 

 

青葉「弐号機、沈黙!」

スクリーンには、大破した弐号機と気を失ったアスカの姿が映し出されていた。

ミサト「アスカの上を行った・・・!?」

葛城三佐の右手が日向の背もたれをきつく握り締める。

 

 

間髪入れず、レイの零号機が突進した。

“ゲンドウ”のATフィールドを中和しつつ、相手が向き直るよりも早く、横合いから飛びつく蒼色のエヴァ。

レイ「碇君! 私ごと撃って!」

最大限まで力を振り絞った機体が、小刻みに震えながら初号機を振り返る。

シンジ「そんな・・・・そんなことできないよ! 綾波!!」

レイ「何をしているの。早く・・・・・アッ!!」

零号機が弾き飛ばされた。

初号機のはるか頭上を飛び越えて、地面に激しく叩き付けられる。

シンジ「綾波!!??」

 

 

リツコ「片手で零号機を投げ捨てた?!」

ミサト「なんてヤツなのっ!」

 

スクリーンに映し出された零号機は、半ば地面に埋もれる形で完全に停止していた。

 

青葉「零号機も・・・活動を停止しました。」

ミサトが、スクリーンに向かって身を乗り出した。

ミサト「シンジ君! 敵を倒すことだけに意識を集中して!! 残っているのはあなただけなのよ!!!」

 

 

シンジ(どうする・・・?)

圧倒的に強力な“ゲンドウ”を前に、シンジは必死で考えていた。

シンジ(アスカの弐号機や綾波の零号機と違って、初号機はS2機関を取り込んでいるから

    行動に制約は無い・・・。問題は、どうやって・・どんな方法で父さんを倒すかだ・・・!!)

 

ビガッ!!・・・ズガ――ン!!

 

一瞬動きの止まった初号機に向けて、“ゲンドウ”のサングラスが光る―――

辛くも身をかわしたシンジの隣で、ジオフロントの大地が閃光を突き上げた。

シンジ(・・・・・そうだ! 水中だ!! 水の中なら、この“力”も威力を無くすかもしれない!)

 

ダウンッ、ダウッダウッダウッ―――!!

 

日向「初号機、出ます!」

青葉「ATフィールド出力最大!」

 

ガキッ・・・ギギギ・・! 左右に身を振りながら接近した初号機が、身体を屈めて“ゲンドウ”に組みついた。

 

伊吹「シ、シンクロ率・・・・上昇っ!」

リツコ「危険だわ・・・!」

ミサト「シンジ君・・・!」

 

GUUOOO・・・

 

紫のエヴァが、両腕で高々と“ゲンドウ”を差し上げていた。

 

ミサト「シンジ君! 何を・・・?」

 

シンジ(地底湖はダメだ。もしもの時、本部にも被害が及んでしまう・・・)

チラリッと初号機が、停止した弐号機と零号機を見やる。

シンジ(・・・・・よし!)

シンジ「うおおおっ!」

 

ぶんっ!!!

 

ものすごい初号機のパワーだった。

使徒Gの巨体が、天井都市の破口からジオフロントの外へと吸い込まれるように消えていった。

 

シンジ「ミサトさん! 行きますっ!!」

 

“ゲンドウ”の後を追って、初号機が自らを発進口にセットする。

 

シンジ(そこか!)

最短ルートで射出された初号機は、再び“ゲンドウ”を捕えると、第3新東京市を突っ切り―――芦ノ湖へと飛び込んだ!

 

ザザァ〜〜!!

 

伊吹「あっ・・・・!」

発令所の人々が、声にならない悲鳴を上げる。

リツコ「B型装備のままで水中に・・・」

 

ゴボゴボゴボ・・・

 

水中での動きが制約される初号機は、羽交い締めにした両腕で相手を締め上げた。

シンジ(どうだ! どうだ・・・!)

 

しかし――――

 

YUWAAN!!

 

“ゲンドウ”の腕の一捻りで、初号機が吹き飛ばされた。

 

シンジ(しまった!)

 

アスカ「・・・・アッ! シンジ!!」

レイ「う・・・・! 碇君!!」

ほぼ同時に、意識を回復した2人が慌てて初号機との回線を開く―――ディスプレイが、

危機に陥った少年の表情を映し出していた。

 「「逃げるのよっ!/逃げて!」」

 

 

少女達の叫びを押し潰して、“ゲンドウ”のサングラスに容赦ない破壊の光が宿る・・・

 

ビガッ!!!・・バガァァ――ンン!!!

 

シンジ(!!!・・・・・・えっ?)

水中で発射されたエネルギー弾は、初号機に到達するはるか前、“ゲンドウ”の眼前で炸裂したのだった。

 

ズズズズ・・・・ンン・・・・・

 

芦ノ湖の湖面に壮大な水柱が立ち上がった。

 

日向「やったか!?」

ミサト「・・・・・(グッ)」

 

ムオン・・・

 

仰け反ったまま、ゆらめくように停止していた使徒Gがゆっくりと頭部を持ち上げた。

一面にひび割れ、あちらこちら欠けたサングラスが初号機を――シンジを――睨みつける。

 

シンジ「くっ!」

 

いまや戦いの主導権は、完全に“ゲンドウ”へと移っていた。

陸戦装備の機体は、動く事すらままならない。

 

シンジ(くそぅ! どうすれば・・・一体どうすればいいんだっ!?)

 

初号機の全周モニターは、混濁した湖水の中、スローモーションのように歩を進めて迫り来る

使徒Gの姿を鮮明に映し出していた。

 

シンジ(・・・・・・そうだ!)

 

歪んだ光が踊る視界の中から、“ゲンドウ”の腕が突き出された。

 

シンジ「だあぁぁぁっ!」

 

ゴボァ――ッ!!

 

強引に眠りを覚まされたカルデラ湖の湖底を蹴って、紫のエヴァが跳び上がった。

目前で消えた相手を追って、顔を上げたGのレンズに、湖面を遠ざかりゆく初号機の姿が小さく映る。

 

ゲンドウ『  』

 

ビガッ!!・・バグォ――ッ・・!!

 

咄嗟に発射された巨大エネルギーは、水面直下で炸裂し、Gのサングラスを今度こそ完全に破壊するとともに、 

湖面を突き破って初号機の頭部装甲板を掠め、中空へと消えた・・・

 

レイ「・・・空中から水中へ入った光は、直進しない。」

アスカ「そうか・・・光の屈折現象! やるじゃない、シンジ!!」

 

ミサト「・・・・・ホッ! 今回ばかりは、ダメかと思ったわ。」

したたる汗を片手で拭いながら、ミサトがリツコを振り返った。

リツコ「シンジ君の機転がなければ、本部ごとやられていたわね・・・」

 

―――――――――――――――――

 

シンジ「た・・・・ただいま戻りました。」

レイ「碇君!」

アスカ「シンジ!!」

相変わらず“もじもじ”しながら発令所へ現れたシンジに、プラグスーツのニ人が駆け寄る。

 

満足そうに腕組みをしたミサトが声を掛けた。

ミサト「明日から一週間休暇よ!」

シンジ「え! 本当ですか、ミサトさん!?」

アスカ「ミサト、それ本当!?」

瞳を輝かせるシンジとアスカ。

レイ「・・・・!」

クルリと振り返るレイ。

ミサト「ええ。今回は本当に御苦労様だったわ。いつかの罪滅ぼしも兼ねて、作戦課長命令で

    一週間の特別休暇をあげるから、存分に羽を伸ばしてきなさい!・・・いいでしょ、レイ?」

レイ「・・・私は司令だから休めないのね?」

いじらしく自分の足元を見つめながら、チラリとニ人の仲間に視線を送る綾波司令。

作戦課長の隣から赤木博士が声を掛けた。

リツコ「そんなことはないわ。私やミサトで良ければ代わりをやってあげるから、レイもシンジ君達と

    一緒に休暇を楽しんできたら?」

 

レイ「・・・・・(にこ〜)」

シンジ「よかったね! 綾波。」

アスカ「ファーストも一緒なのぉ〜。」

 

 

『綾波司令』 第19話「決戦! ジオフロント」 終

 

 

次回予告

ついに念願の休暇を勝ち取ったレイ・シンジ・アスカの3人組は、一大旅行を計画する!

海へ、山へ、外国へ・・・チルドレン達の夢は膨らむ。

旅行に出発した彼等を待ち受けるものは、恋か? 友情か? フラダンスか?

はたまたゲンドウか?

次回、『綾波司令』 第20話 「恋のビキニサイト」

お楽しみにねン!

 

伊吹「あの〜、子供達の休暇旅行は番外編でやっちゃってるんですケド。」

リツコ「・・・・・・。」

ミサト「・・・・・・。」

冬月 「・・・おぉ。」


アスカ:あーんな胸のきついプラグスーツ、着させられちゃたまんないわっ。なによ?(ーー) 何か言いたそうね。

レイ:ぶかぶか。

アスカ:うっさいわねーっ! 何処がブカブカなのよっ!

レイ:ぶかぶかレイちゃん・・・。

アスカ:ウエストが、ちょーっとアタシより細いだけでしょっ!

レイ:お尻もぶかぶか。

アスカ:ヒップはちょっとくらいおっきくってもいいのっ!

レイ:ぶかぶかレイちゃん・・・。

アスカ:なによっ!

レイ:たるんだプラグスーツ・・・。初めて着たの。

アスカ:なにが言いたいわけっ!!!?

レイ:ラーメンいっぱい食べてもゆとりのあるプラグスーツ。新しいプラグスーツ。

アスカ:アンタの場合、胸にもゆとりがあるでしょうがっ!

レイ:そう・・・。垂れるの。(・;)

アスカ:変な言い方するんじゃないっ!!!!(ーー#
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